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日本語教育の動向 : 視聴覚教材の果たす役割

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日本語教育の動向 : 視聴覚教材の果たす役割

著者 佐々木 倫子

雑誌名 静岡大学教養部研究報告. 人文・社会科学篇

巻 21

号 2

ページ 306‑286

発行年 1986‑03‑15

出版者 静岡大学教養部

URL http://doi.org/10.14945/00008509

(2)

一視聴覚教材の果たす役割一

佐々木 倫 子

1.日本語教育の現状

 外国人に対する日本語教育は,21世紀に向けて急激な広がりを見せてい るが,現状では次のような批判を受けることも多い。

  各機関,各教師が自己の指導法を最善のものと信じて,細々とそのや   り方に固執しており全体を見通す力に欠ける。理論的基盤が弱い。

この批判は一面では当たっている。しかし,20世紀の日本語教育の流れを 見ると,次の3つに大きくまとめられることも確かである。

1.文法・翻訳法(Grammar−Translation Method)

   体系としての言語を書かれたものによって学ぶことを言語習得と考    える。

2.直接法(Direct Method)

   雷語は日常経験の中で身に付く。言語習得を運用に習熟することと    考える。

3。聴覚・言語法(Audio−Lingual Method)

   対象言語の音組織と文法が,自動的に出てくるまで体に覚え込ませ    ることを,言語習得と考える。

 三者の強調点をまとめれば次表のようになる。

教授法 立   齋 焉@ 岬 語 い 文   法 母国語使用

文法・翻訳法 強調せず 膨大な単 齦¥を暗

L

抽象的に詳しく分析 E解説

常に翻訳

ナ使用 直 接 法 強調 実用的な

烽フを文 ャの中で

般階的に配列せず,

A納的に知る

禁止

聴覚・言語法 強調し, 限定(助 母語と日本語の科学 必要な場

(3)

正確さに 詞,活用 的記述を対照,段階 合説明に 厳しい 語尾等は 的に配列。学習者は 使用。翻

重視) ドリルの中で学ぶ 訳は排除 又,授業の流れも当然異なっている。

教授法 聞き方 話し方 読み方 書き方

文法・翻訳法 少ない 少ない 初期から強 イ・古典文

w等

初期から強

イ・翻訳

直  接  法 最初から強

最初から強

強調せず 強調せず

聴覚・欝語法 初期に強調 文法練習の

?ナ強調

遅らせる,

V聞など現 繧フもの

最後に教え

 この中でも,現在の日本語教育に最も強い影響を与えたのは聴覚・言語 法であり,今,多くの日本語教育機関で次のような指導法がなされている。

  △入れ換え形式や問答形式の口頭練習を徹底的に行ない,文型・文法    の理解・定着をはかる。

  △会話の暗唱等で発音の正確さをチェックする。

  △日常生活語いから始めて初級で1,500程度の語いを入れ,徐々に専    門語いに進む。

  △読解教材・ビデオ教材も徐々に入れるが,時代に即していて,かつ    学習者の専門に合ったものを取り上げる。

  △頻度数の高い,基礎的な漢字を中心に学習者の必要に応じて書き方    も入れていく。

 ここには時代の流れに合わせてきた教師の姿勢が読みとれる。リヴァー ズに指摘されている米国の外国語教師同様,日本語教師も「読むことより 話すことに力を入れて欲しい」学生のために口頭練習中心の授業を行い,

「先生が一一一.−F方的にしゃべっているのをただ黙って聞いているような授業は いやな」学生のために授業時間の始めから終りまで学生の誰もが積極的に       ほラ

授業に参加できるようにした。更に「文学には興味がない」学生のために

新聞の経済面や政治面,時には社会面をあさり,テレビ好きの学生のため

に教育番組やニュースを録画してきた。こういった指導のもと,著しい進

(4)

歩を遂げた学生は少なくない。

 一方,この指導に対して強い不満を持ち,日本語習得を断念した者が多 くいたのも事実である。

 △毎日毎日,わかりきったようなことを,教室や語学ラボで繰り返し言   わされて,思考力も想像力もなくなってしまう。

 △授業・宿題・試験に明け暮れる単調な作業の繰り返しに耐えられない。

 △文法や漢字は十分勉強したが,道で普通の人が話しているのを聞いて   も全然わからない。

 △文法も単語も知っているはずなのに,いざ自分の考えを話そうとして   も,思っていることの半分も言えない。

 △先生の日本語は理解できるが,教室の外で話しかけられるとさっぱり   わからない。

そして,極め付けは,

 △教科書の日本語ではない,みんなが使っている日本語を教えて下さい,

というものだろう。

 これまでの日本語教師はこういった不平を正面からは取り上げなかった。

教師は言語理論に基づいた最善の教授法を知っており,学生はそれに従っ ていればいいと信じていたからである。

  △普通の人が話していることなどは,半年も日本で暮らせば自然に分    かるようになる。要はしっかりした文法と語いと表記の基礎力を付    けることだ。

  △小手先の会話力を付けて滅茶苦茶な日本語で話す癖を付けたら却っ    て良くない。

  △最初から4技能をきちんと学習する習慣を付けなければある程度以    上には伸びていかない。

  △もともと勉強というのは努力すること,無理に勉めることだ。苦し    くてもやっていれば漢字学習の面白さも分かってくる。

これらが学生に対して使われた説得の理由であった。

 しかし,これらの理由 は本当に吟味された根拠のあるものなのだろ うか。日本語教師は自身の学習体験によって形成された言語教育観を疑い もせず,次の段階一一ある目標に沿って決定された教え込むべき教材の量

       ゆ   り  め  り

や順序や細かい項目の効果的導入法といったもの一一に頭を悩ませてきた。

そのために,教師が初級クラスで「基礎文型と1,500の語いと400の漢字

(5)

を入れた」のに,実際は全然入っていない,運用できない学習者が居ても,

 ゆ   や   ゆ

それは学習者の怠慢か需語適性の無さで片付けられてきた。

 そして,1980年代に入り,日本語教育は大きく変わろうとしている。

特に国内では,学習者の確実な増加とそれに伴う質の多様化が起こりつっ ある。世界各国の教育観にも変化が見られ,「権威ある教師」の影が薄くな りつつある。従来の雷語構造中心の徹底的教授法に満足し,ついてくる学 習・者は少数派となってきた。

 ここで日本語教師は何をすべきだろうか。まず第一一・・ j一にしなければいけな

いのは,(特に国内における日本語教育の場合)「言語は教塞作業で学ばれ る」という考えを捨てることではないだろうか。それは日常生活での運用 を利用して言語の基礎的構造力を積み上げていく態度である。宿題によっ て学習者の教室外行動まで擬似教室内作業に変えるといった従来の方法と は違い,学習者の自然な言語生活を積極的に取り込み,高めていく態度で ある。学習者は各々母国語を持っており,(少なくともひとつの)言語の習 得能力を持っていることは明らかであるし,授業で教えられることは実際 の言語運用から見れば一部分に過ぎない。教師に出来ることは「日本語を 教える」ことではなく,「学習者が日本語能力を身に付けていく過程を手 助けする」ことであるe,Krashenは雷語獲得と学習の2つの過程を分けて

   {2エ

いるが,教師は常に次の2点を心すべきであろう。

  (1)学習者の日本語に対する心理的抵抗を無くし,日本語獲得能力を活    性化して,実際のコミュニケーション活動に臆することなく入って    いかれるように助けること。

  ②学習者の興味・意欲を引き出し,自主学習を習慣付げて,正確さが    達成出来るようにはかること。

以下,この小論ではこれからの日本語教育を,特に視聴覚教材との関連に おいて考えてみたい。

il.社会言語学からのアプローチ 1.コミュ:ケーション能力

 外国人が日本語を学:ぶ理由は種々あるが,昨今圧倒的に多く挙げられる

のが,日本人とコミュニケーションが出来るようになりたい,特に,話せる

ようになりたい,というものである。従って,日本語教師は口頭練習を重

視し,それによって日本語の音声・文法・語いの定着をはかってきた。

(6)

 ところが,日本語の基礎構造を身に付けても,学習者は満足なコミュニ ケーションを行うことができない。文法的に正しい文を明瞭に発音する能 力があっても,ある場面で,誰に,どんなことを,いつ,どういう風に伝 達するのが適当であるかを知らなければ,十分なコミュ=ケーションは成 り立たないのである。そのために,実際のコミュニケーションの場で,多

くの学習者が失敗を重ね,傷つき,日本語はマスターできないという思い を抱いてきた。

 しかし,現代の社会言語学はコミュニケーションに必要な種々のルー一ル

        く3ラ

を解明しつつある。書語の基礎構造以外に知っているべき情報,すなわち 言語の適切さのルー一ルが分析されてきている。この情報の系統立った解説 は今後の課題であるが,この様に考えた時,身振りや状況をはじめとする 多くの情報が伝えられるVTR教材の,印刷教材・録音教材に対する優位 性は明らかであろう。

2.話し言葉の分析

 社会雷語学の大きな功績はひとつの言語の多種多様二性(地域的,職業的,

社会階層的等)を明らかにしたことである。より厳密な手法によって日本 語の運用を観察すると,改めて話し言葉と書き言葉の違いの大きさに気付

く。

 従来の日本語教育では,初級において生の話し言葉に近い形を提示する ということはなかった。会話と呼ばれる部分も音変化や縮約形・繰り返し は無視されるのが普通であった。一方,実際の言語使用場面では,土岐の 分析にもあるように,公的な場面ですら「さもなけりゃあ」式の発音がよ

     {4}

〈現われる。これを説明なしにrさもなければ」と結び付けることは不可 能である。従って学習者は,いくら勉強しても教室以外の日本語は分から ないといったあせりを持つ。

 そもそも,川又の調査でも明らかなように,一日のうちでよく使われる 言葉を調べてみると,感動詞・指示語・接続詞・副詞が上位を占め.具体        く5〉 的なものを表わす名詞はほとんど上位にないのが現実である。これは初級 日本語教科書と正反対だと言ってもよい。感動詞・接続詞等を聴解教材に 入れ,周囲の日本人の会話が最初から一部でも理解できる形にするのは,

学習意欲の点からみて極めて合理的なやり方ではないだろうか。ここで注

意すべきことは,「エー」「あのう」「〜しちゃった」といった語を連発す

るような癖が付かないように,指≡導を受容レベルにとどめておくこと,使

(7)

用制限規則を説明することであり,けっして話し言葉の特徴を無視してい いことにはならない。

3.教室場面からの解放

 畠は「教室場面は,自然なコミュニケーションをすれば語学教育ではな くなり,語学教育をすれば自然なコミュニケーションではなくなるという       ぐ62 大きな問題をかかえている」と指摘する。そして教室場面を自然なコミュ

ニケーシ9ンの場面に近づけるために登場人物を増やすことを提案する。

しかし,教室にゲストを招く方法は周倒な準備と打ち合わせを経ても成功 するとは限らない。外国人に囲まれた日本人が不自然な日本語運用をした

り,自分の得意な(あるいは不得意な)外国語に頼ったりする例は多い。

 例えば,中年のビジネスマンを教室に招いたことがある。「学生達の質 問に簡潔に答える形で話してほしい」というこちらの要望も無視され 日 本人の心 についての独話が長々と続いた。話の中のrそういう中に日本 の心が綿々と続いているんですよ」の発雷にわからない顔をする学生を見 て,「Japanのね, hear七がね,めんめんとcontinueね,これ分かる?」と

      ゆ  e  も  ゆ  b

いう解説がついたりする。日本にあっても語学センスのいい人々に来ても らう事はむずかしい。

 畠はさらに教師の自宅とか,領事館とか,日本の会社に学生を行かせる ことをすすめる。学習者のN本語場面における自立が最終目標である以上,

これは確かに有効な方法である。しかし,この場合は偲人個人で体験が異 なってきて集団指導がむずかしくなる。しかも現状では小型の録音器は簡 単に扱えても,VTRカメラは無理で,記録は音声だけにとどまってしま

う。教師の指導も音声に現われた部分の訂正中心に限定されがちである。

やはり,系統的に,大量に,しかも非言語行動も含めた情報を扱うという ことになると,VTR教材による擬似解放が能率的と言えよう。使用され るVTR教材が,学習者の実態をとらえ,ニーズを分析し,かつ言語行動 のあるべき姿を考えたものであれば効果は大きいと思われる。

皿.心理言語学からのアブcr・一チ 1.日本語の体験化

 外国人学習者に日本語のインプットを与え,直ちに日本語でのアウトプッ

トを要求する機械的練習が,コミュニケーションの面からはあまり意味が

ないことは衆目の一致するところである。真の書語運用にはインプットと

(8)

アウトプットの間に,理解や記憶といった過程がある。しかもこの過程は 現実的・具体的経験であるべきで,教科書の語い表の丸暗記では現実の運 用にはなかなか結び付かない。

 この点からカリキュラム編成にあたっては,次のような点に注意しなけ ればならない。まず,学習者の目標達成に必要で,かっ,興味・関心をひ き,想像力を刺激し,創造力につながるようなシラバスを用意すること,

そして,現実感を伴った教室活動を行うことである。一看で言えばr言語 の体験化」であるが,そのためには教師は何をすべきであろうか。高度な 言語活動が行える上級学習者は別として,通常はインプットの日本語を体 験化するために,教師は以下のような状況設定の方法を使い分けられなけ ればならない。

種      類 具体例・使用例

雷  葉 言葉による説明 定義,描写等。

動 作 歩く,ドアをあける等。

動  作 ジェスチャー 物の大小・形,人物描写等。

聴覚教材

音声テープ 激Rード 宴Wオ

語学,音楽,詩,物語,アナウン X,効果音,コマーシヤル,ニユ [ス,ドラマ等。

実物又は模型 新聞,時計等の晶物。学生等人物。

黒 板

pHP

説明文,略画,グラフ等。

絵画,イラスト。

視覚教材 写真・スライド 風景,風俗,人物等17}

掛 図 地図,図表等。

フラッシュ・カード 字,数,略画等。

コンピュータ ゲーム,データ・バンク等。

映 画

@        

日本語教育用,文化紹介用,一般

?齬p。

視聴覚

@ 教材

テレビ 教育番組,ニュース,教養番組,

hラマ,スポーツ,娯楽番組等。

夢籔材 VTR テレビ番組,市販日本語教育用,

ゥ主制作。

ビデオ・ディスク シミュレーション作業等。

(9)

 それぞれ長所と短所があるが,VTR教材を考えてみると,次の長所に

気付く。

  (1働き・変化がとらえられる。

  (2)聴覚・視覚の両方に訴える点で,現実の言語運用場面に近い。

  (3撒室という枠組を超えることが出来る。

枠組を超えるといっても,あくまでも画面を通しての二次的体験ではある が,その広がりは魅力がある。授業に多様性・新奇性をもたらし,背景理 解を容易にし,興味を深めることが出来る。ただ,映像は視聴者の想像力 を殺してしまう面も持つので慎重な映像選びは必要である。

2.教室作業のストレス軽減

 教師の刺激に対し,直ちに口頭で反搭することを要求される問答法や口 頭入れ換え練習は,学習者に大変なストレスをもたらす。子供が母国語を

どんどん獲得していく背景に,理解が体の動きを通じて行われることと,

聞く力の優先,特に学習者の心の準備が熟すまで話すことが強制されない 事実があることはAsherの指摘するところである。成人を対象とする日本 語授業でも,この点は考慮すべきであると思われる。精神的ストレスは,

適度な緊張感とは違い,言語獲得の妨げ以外の何ものでもない。そこでま ず元来娯楽的なイメージを持つVTRによって心の緊張をほぐし,自然に

インプットに集申する形で授業をすすめることは効果的であろう。

 ここで教師に要求されることは,ただ漫然と受身のVTR視聴を続ける のではなく,学習者の心の熟成度に常に注意していることである。意欲が 出てくるに従い,話すことや書くことも当然導入していく。二義的聴解体 験をそのままで終わらせない工夫をすれば,最終到達点が低いとか,最終 到達点までの時間がかかりすぎるといった事は起きないと言えよう。

3.学習習慣

 学習を視覚に頼って行う視覚型人闘ならば,教科書とノートによる学習

は効果的であるし,聴覚型人間ならば目をつぶって音声テープを繰り返す

ことで日本語が進歩するだろう。しかし,一一一一ma的には,同時に多くの手掛

りを与えるほど学習は進むとされる。理解しやすいし,記憶しやすいので

ある。そして今,学習者の多くはテレビ世代に属する。小さい時からテレ

ビが生活の一部であり,テレビによって多くを吸収してきた世代なのであ

る。彼等はVTRによる学習を好み,ごく自然に受け止める。

(10)

IV.日本語教育VTR教材に望むもの

 VTR教材が現代の日本語教育にとって,極めて有用なものであること を見てきたが,効果を上げるには,当然研究も準備も必要となる。生のテ

レビ番組では意欲をくじかれてしまう初級・中級の学習者には,どのよう なVTR教材を用意し,どのように使いこなすべきであろうか。そこで,

まず,VTR教材に盛り込まれ得る情報を整理し,チェックリストを作成 してみた。そして,コミュニケーション能力開発用,特に「聞き・話す」

能力の關発を考えたVTR教材のあり方を考えてみた。

1.コミュニケーション能力開発用日本語教育VTRチェックリスト

ほ}言語の基礎的構造

 (1)音声

 ②語い  ③文法

(皿)話し言葉の特徴

 (1)音変化(含・縮約形)

 ②助詞の省略e終助詞の頻発  ③主語。述語等の省略

 (4)語順の変化・倒置

 15)文の短さ・修飾語の少なさ  ㈲繰り返し・補充

 (7}ためらい。言いさし

 ⑧感動詞等のあまり意味のない   言葉

 (9陽面にたよる語・指示語

 (1①待遇表萎見  

 ⑳男女差

 112膜語・文語・翻訳的要素

(皿)コミュesケーション情報  (1)非言語行動

明瞭・簡素化 日常的

初級

 少 簡素化  少 適度

明瞭・簡素化

   現実的 特殊・専門的     上級

    様 多多多多多多多多  雑 多複多少

複雑・微妙

(11)

②話題

(3磯能

(4)表現意図(形式と真意)

⑤会話のストラテジー

㈲話し手のスピード・間・声の  大小

(7)人間関係・親疎

(8)人物数・同時発言

(9麿禦音

lW)社会・文化情報

 (1)人物背景・状況知識

 ②日本人の心理・思考・感情

日常的・表面的   本音・多様 あいさっ・客観的叙述   多様 完全一致        不一致 限定      多様 一定      多様

平均的 限定 限定

日常的 簡素化

 多様  多様 現実的

様雑 多複

 以下に各項目の簡単な解説を加える。

(1)言語の基礎的構造

 従来の日本語教科書と音声テープで中心的に扱われている点である。

(II)話し言葉の特徴

 中・上級の話し言葉の教育にテレビドラマを使用する事は多い。ドラマ のせりふに話し醤葉の特徴が現れているからだが,台本と実際に放映され た音声とを比較すると,特徴は一一層はっきりする。いくつかの例を挙げな がら,各項目を見ていきたい。

(1)音変化

 lllの2で述べたように,音変化はほとんどすべての任意の発話に見られ る。例えば,初級の男子学生の例であるが,若い日本人のグルー一プと話し ていた時,この外国人学生の発言に対し,日本人女子学生達が「ヤーダj

と言って笑ったという。「『ヤーダ』は何ですか」と問うと,さらにrヤー ダ」と笑われるだけだったと言う。この学生も「いや」という形容動詞は 既に習っていたが,「ヤーダ」とは結び付かず,辞書も「ヤ」の項を引い ていた。これは卑近な例であるが,音変化教育の無視が意欲の低下に結び 付き得る一例である。

(2)助詞の省略・終助詞の頻発

 (例)彼女,弁i当,作ってきてくれたんですよ。

(12)

学習者達は臼頃厳しく教えられる「は」「が」「を」rに」がしばしば省略 され,ほとんど教えられない「ね」「さj「よ」の頻発に戸惑う事が多い。

(3)主語・述語,等の省略

  (例)私は,もう,そういうことは………

最後まではっきり言わない方が感じが良いなどという事は,説明されなけ ればわからない可能性が強い。

(4)語順の変化e倒置

 (例1)お康も聞いてんだろ,もうひとりのいとこの語。

 (例2)分かったって,何が。

語順の変化は英語,中国語を始めとして諸言藷に見られ,何もめずらしい ことではないが,やはり聞きづらく,慣れが必要である。

㈲ 文の短さe修飾語の少なさ

 文が短いことは,一見やさしいことにつながるように思われる。ところ がそれは一文の中の余剃性が低いということで,背景を知らない場合には 理解がむずかしくなる。若い人などが単語をポッポッ言うだけで説明して

くれないのを苦手とする学習者もいる。

㈲ くり返し・補充

 (例1)あっ,居た居た,姉ちゃん,居たよ。

  (台本では「居た,姉ちゃん,居たよ。」〉

 (例2)後は高崎が,いや,その新聞記者やってる友だちだけど・・…・…

これも例に接し慣れておく必要がある。

{7}ためらい。書いさし  (例1)う一ん

 (例2)まっ,なんていうか  (例3)そうねえ………

日本語の会話を耳にした時,まっさきに入ってくるのがこれらの言葉であ るにもかかわらず,最後まで授業で触れられないのもこれらである。

⑧ 感動詞等のあまり意味のない言葉

 (例1)いやいやこちらこそ,いやっ,さすが女優さんですな。

  (台本では「こちらこそ,やあ,さすが女優さんですな。j)

 (例2)兄弟喧嘩はやめなさいっっうの,ちょっと。

  (台本ではr兄弟喧嘩はやめろ。」)

話の進展にかかわる意味を担わないために無視されがちであるが,細かい

ニュアンス,特に話し手の感情をつかむためには理解不可欠な要素である。

(13)

(9)場面にたよる語・指示語  (例1)そう,それぞれm

 (例2)母さん,これ何だよ,これ。

この外にも「そうじゃなくてこう」といった発話はよく現れる。

⑩ 待遇表現

 (例)ところがな,今夜の夜行でお帰りになるとおっしゃってるんだ。

  (台本では「それがな,飯島さん,今夜の夜行で帰るとおっしゃってるんだ。」)

待遇表現はどの言語にも多かれ少なかれ存在する。ただ日本語の場合はこ れを避けては通れないところに特徴がある。尊敬語はもとより,小さな子 供に「あなたも行きますか」と言って笑われるといった例も多く,徒らに

レベルの違いを恐れず,慣れる態度が必要である。

(11)男女差

 (例1)(男)どうしたんだ  (例2)(女)どうしたの

男女差がなくなってきたとも書われ,イントネーションの違いで両方に自 然な形も多いが,「女々しい男」とか「乱暴な女」といった,本人が意図し ない印象を持たせないだけの注意が必要である。

⑫ 漢語・文語・翻訳的要素  (例1)オーケー!

 (例2)サンキューe

 (例3)うちでゴmゴロしてるわけか.

英語の出来ない中国系学習者にとっては,非・漢語の頻発は悩みの種であ る。又,英語話者にとっても,音変化・意味変化・品詞変化を覚えねばな

らず,けっしてやさしくはない。

(皿}コミュニケーション情報

 印刷教材や聴覚教材ではうまく提出できないのがこの領域である。

① 非言語行動

 「日本人が色々なふうに手や体を動かすけれど意味がわからない」と いった身ぶりの問題,「すごく重大な時ににやっと笑うのはどうしてか」

といった表情の問題「日本人に『じっと見られると話しにくい5と言わ

れた」などという視線の問題,「『慣れ慣れしく触わりすぎる』と陰口を言

われた」という距離の問題,「女の子がそんな座り方をして」という動作

の問題等,非言語行動が異なるために招く誤解は多い。「目は口ほどに」ど

(14)

ころか,非書語行動だけでコミュニケーションが成立することも多く,十 分な学習が心がけられるべきである。

② 話題

 「お決まりの『日本はどうですか』の後,どんな話をしたらいいのか分 からない。」「どうしてすぐ年齢を聞かれるのか」ド新しい物を持っていた

ら値段を聞かれて戸惑った」ギ私はプロ野球には何の興味もないのに」と いった話題の食い違いによってコミュニケーションがうまく行かないこと は多い。自分の興味を殺す必要はないが,一般的に適当・不適当と考えら れる話題についての基礎知識は必要であろう。特に何を書わないかは教え

られるべきである。

(3}機能

 「『東京は日本の首都です』は雷えるけれど,怒ったり,断ったり,冗談 を書ったり,皮肉を言ったりすることは出来ない」という学生の不満の中 に,客観的な叙述文に片寄ってきた日本語教材の姿が見える。不平・口 論・慰め・お世辞といった学生が必要とすることの多い諸機能に目を向け

るべきであろう。

㈲ 表現意図

 (例)(女)私が払うの?

   (男)しょうがない,俺が出しといてやるよ。

 女はf払うか,払わないか」を聞いているのではなく,男にr払って下 さい」と言っているのである。こういった形式と真意の不一致は日本語の 専売特許というわけではなく,英語でも「暑いね」が「窓をあけて下さい」

を意味することがある。ただ,英語では「窓をあけて下さい」と言っても 何の異和感もないが,日本語では直接的すぎて悪い印象を持たれがちな点 が異なる。「ちょっと……」などと直言を避ける態度がザ日本人は口で 言っていることと反対のことを考えているんだから」という不満にもつな がる。「11。3%が何らかの段階で文型上あるいは形式上の表現意図とは別 の表現意図を持っている」という国立国語研究所の調査もあり,多くの事          く9〉

例の紹介が望ましい。

(5>会話のストラテジー(項目1も含む)

 田中望は会話のストラテジーとして,場面知識,聞き直し,確認,確認 求め,コミュニケーシNン開始,お礼,手帳・辞書・通訳求め,のストラ       ae  テジーをあげているが,これをもう少し談話構成力に絞って考えたい。

 (例)(男1)ぼくもそう思ってるんですけど。

(15)

    (男2)ですけど,何?

のように,日本語の会話は特に話し手と聞き手が協力して作り上げていく 形が多い。従って話し手としては,話の始め方,つなげ方,同意の求め方,

交代のし方,終わり方,等を,聞き手としては,反応のし方(同意・保留・

発展・拒否・転換等),確認のし方,聞き直し方,沈黙の守り方等を身に 付ける必要がある。

㈲ 話し手のスピード・間・声の大小

 人によってゆっくり話したり速く話したりと,自分に合うスピードとい うものは千差万別であり,又,同一人物でも状況によって速さは変わるも のであるのに,語学テープのスピードは一貫して同じ位のものが多い。間 や声の大きさも統一されたものが多すぎ,実生活との差がありすぎると雷

えよう。

(7)人間関係・親疎

 この情報を適確につかんでいなければ,満足にコミュニケーションをス タートさせることもできない。ある場面における各々の役割を知ってこそ 働きかけも出来るわけである。非常に親しくなった時の話し方,距離を保っ ておきたい時の話し方などを,映像で人物を確認しながら学んでいくこと は重要である。

⑧ 人物数・同時発言

 「一対一で話しかけられればわかるが,色々な人から一度に話しかけら れると気が動転してしまって何も答えられなくなる」と,学生がこぼすこ

とがある。同時発言は上級クラスで生のTVドラマなどを見せるようになっ てもまず出てこない場面である。たくさんの日本人に囲まれたりする可能 性のある在日外国人の場合は考慮すべき点であろう。

⑨背景音

 背景音には理解を助ける効果音と理解を妨げる雑音がある。語学テープ の場合は,背景音ゼロが,TVドラマの場合には効果音だけが入っている

ことが多いが,現実の場面では雑音も多い。授業の初日から走っている地 下鉄の中で制作した会話を聞かせる必要はないが,現実とのギャップをう める工夫は必要である。

αV}社会・文化情報

 長年一緒に暮らしている夫婦の間では,口に出して言わなくてもコミュ

ニケーションが成立してしまうことも多い。相手について持っている知識

(16)

と状況に対する知識だけで十分なのだ。これは逆に,社会・文化情報を持 たない場合のコミュニケーションの困難さを証明するものである。

(1)人物背景・状況知識

 日本人の場合,服装を見て職業や社会的地位を判断する事はもとより,

何を言おうとするのかすら分かってしまうことがある。それに対して「学 生服を着ている人を皆お巡りさんだと思った」などという知識しかない場 合は,言語が不当に重い役割を擾うことになる。「道を尋ねる」という簡 単な行為でも,不特定多数の中から誰を選んでいいかが分からない場合は 大変な困難を伴うものである。

② 日本人の心理・思考・感情

 (1)と同様に知識があればあるだけコミュニケーションは容易になる。か なり日本語の達者な者でも「やっぱり外人だ」と言われる例は多い。むし ろ上級になりコミュニケーションの場が広がるだけ衝突が深刻になるケー スも多い。例えば日本人と中国人が何かでぶつかり,日本人にしてみれば

「一言rすまない』と言ってくれれば,こちらも落度があることだからす べて水に流す」つもりが,中国人にしてみれば「『すまない』という言葉は 本当に自分が悪い時に使う。私はそんな悪い事はしていない」と拒み,関 係の修復が出来なくなるといったケースがある。一口に日本人,あるいは 中国人と言っても千差万別ではあるが,各国の国民性とE]本のそれとが顕 著に異なる点がある場合には,それを早い段階から知っている事はコミュ

ニケーションを助けるだろう。

2、日本語教育用VTR教材

 チェックリストをもとに,コミュニケーション能力開発用,特に「聞き・

話す」能力の開発を主目的とするVTR教材のあり方を考えてみた。まず,

3種類の目的別教材の制作が望ましい。

(1}文型別VTR教材

 文型を中心に編成されたVTR教材で,初級レベルに役立っ。従来の日 本語教科書・音声テープ同様,チェックリストの(Dに細心の注意が払われ ている。無論,他項田情報も含まれる点がVTRの強味である。既に2つ のシリーズが制作されている。

① 日本語教育映画・基礎篇(VTR版)

   全30巻国立国語研究所制作

(17)

   1974〜1983

 チェックリストの{1)の全項園を始めとしてほとんどすべての項目が左寄 りになっており,コミュ=ケーションが簡素化・規範化されていることが わかる。ということは初級レベルの学習者に対して,受容レベルだけでな く,表出レベルの教育にまで用いることができるということである。又,

事実,そのように用いている教育機関も多いと思われる。授業で,少なく とも3回は視聴し,音声テープを渡して穴うめなどの宿題を出し,さらに 練習問題等をするうちには,・一・・一…言一句が定着する。ドラマなどに発展させ る使い方もよい。項目⑳,㈹に関する情報も少しずつ得られ,自然な形で 基礎力がつく格好の教材と言えよう。

② テレビ日本語講座 初級1 スキット   「ヤンさんと日本の人々J

   全13話 国際交流基金

   1983

       (11)

 このシリーズ制作の基本方針や内容は教師用指導書に詳しいが,その主 なねらいは以下の二つである。

A.日本語を知らない外国人に,日本語を学習するきっかけを与える。

B.日本をよく知らない外国人に,日本をより深く理解する糸口を与える。

 基本的には入門・初級前期の学習者用に文型中心の形で作られているが,

自然で面白く,現代日本の姿がわかるようにといった配慮から,従来の初 級の範囲を越えている。チェックリストの(1)に関しても,必要以上に厳し

くしない方針から,項目(1)②は特に中央寄りであり,(ll)に関しては,かな りの項目が右寄りになっている。(皿1),(IV}にも配慮が見られるが,特に薩V)は

制作のねらいのひとつであり,中央より右寄りと言えよう。

 利用方法も教師用指導書に様々な形が解説されているが,教師は学習者 のレベル・目的とVTRの各場面を組み合わせて利用法を採択していく必 要がある。幅が広いだけ性格があいまいになったと言えよう。ともあれ,

文句なしに生き生きとした教材である。

(2}聴解用VTR教材

 初級のフランス人が新宿の雑踏で道に迷い,たどたどしいH本語で道を 尋ねたとする。相手が若いH本人だった場合,英語で答が返ってくること

も多い。初級の日本語学習者の聴解のむずかしさのひとつはこれにある。

日本人は外国人と見ると,その母国語を問わず日本語なまりの英語で話し

(18)

かける傾向がある。そのため非英語国民などは二重苦・三重苦を強いられ るのである。加えて,都会の生活環境では騒音のひどい所も多く,学習者 の聴解は次の4段階を経ることになる。

①さまざまな音の中から言語音を聞き分ける。

②場合によっては,言語音の中から日本語音を聞き分ける。

③日本語音の中から語句・構造などを認知して話の進展に関係のない冗漫  なものを捨てる。

④認知した発話の中から自分にとって必要な情報を選び取る。

      {12)

 ③と④はRiversのそれぞれr認知レベル」と「選別レベル」であるが,

今までの視聴覚教材は認知レベルのかなりの部分までを既に鋼作者側で進 めてしまったものが多い。ところがチェックリストの(mにあるように,話 し言葉の特徴は,認知レベルで切り捨てられるところにあると言っても良 い。これを入れなくては,いわば無菌室の病人を突然交差点の真ん中に放

り出すようなものである。VTR制作の際に徐々に認知レベルをさげてい き,学習者を書語運用の実態に近づける配慮が欲しいところである。

 こうした観点から作られるVTR教材は,入門期からチェックリストの

(1)の(2),(3}は左寄りだが,(1)の(1)及び(E>は右寄りになる。(皿}の{1),(5},(6>,

(7},(8),(9}とGl V)なども嗣様である。学習者は教室で認知レベルの体験をし,

必要なストラテジーを学ぶ。これで臆することなく日本人の会話の輪の中 に入り,コミ=ニケーションを始めるのではないだろうか。使用の際は表 出レベルにまで用いることはせず,キーワー一ドだけの把握や,内容正誤テ ストといった形式で終わらせることは無論である。

(3)表現意図別VTR教材

 コミュニケーションは話し手が何らかの意図を持って行動を起こした時 に始まる。つまり,コミュエケーシsン能力の開発を考えた場合,出発点 となるのが表現意図であろう。日本語教育には表現意図を重んじる伝統も あり,国立国語研究所の研究もある93>

 それでは,表現意図中心のVTR教材とはどんなものになるだろうか。

例えば学習者が何かを依頼したいと思ったとする。現実の依頼が「お願い します」の一言ですむことは,まず考えられない。複数の文の積み重ねの 中で行われるのが普通であるし,相手との関係,依頼内容,謡し手の感情,

場面によって,現われる文もさまざまであるaそもそもの話し手である学

習者すら,若い大学入学希望者もいれば,年取ったビジネスマンもいる。

(19)

男女の別もあれば,日本語のレベルの違いもある。これらの要因をどう組 み合わせるかであるが,まず学習者のグループ分けがなされるべきであろ

う。留学生,技術研修生,ビジネスマン,主婦等に分けて,徹底的な欝語 行動調査を行うことが望ましい。そこから各グループ毎に最もコミュニケ

ーションの必要な,相手,内容,場面が出てくる。例えば主婦に必要な私 的場面での「依頼」が,ビジネスマンの場合は二義的になろうし,外交官 に必要な公的パーティーでの「あいさつ」は留学生には必要ないかもしれ ない。こうしてひとつの表現意図のもとに,グループ毎に最も一般的な相 手(年長・同年・年少),場面(公的・中間・私的),内容を選ぶ。そして 少なくとも談話の流れが肯定的なものと否定的なものの2種類(例えば,

依頼の成功・不成功)を用意する。さらに,少なくとも,初級・中級の2 段階が欲しい。

 もうひとつ,このVTR教材で注意したいことがある。これまでのVT R教材では学習者,つまり視聴者は,あくまでも視聴者としてとどまり,

登場人物達のコミュニケーションを傍観者としてながめてきた。時に画面 を見ながら文を書う場面があっても,文型練習場面であり,コミュニケー

ション場面ではなかった。そこで,ここでは視聴者をコミ。ニケーション に巻き込む形,主役と視聴者が一体化出来る角度から作られたものが望ま しい。画面の下の方に主役の行動の簡単な説明を出した直後に実際の言語 行動が出され,主役の圏の位置から周囲の状況・相手が映されるという形 はどうであろうか。

 ただ,ここで注意しなければならないのは,日本人の言語行動をそっく り真似ることが外国人の適切な言語行動とは見なされないという事実であ る。外国人の中に自分達のそっくりさんを見出すことを日本人は好まない。

例えば,顔さえ見せなければけっして外国人とは見破られない位日本語力 のある外国人教授の話であるが,ある時,その教授の大学の主催によるレ セプションが開かれた。一般日本人も十数人招かれていたが,外国人教授 が日本人と変わらぬ発音でr何もございませんがどうぞ召し上がって下さ い」とあいさつされた時,一般日本人はワッと笑ったのである。「あら,

あの外人さん,ずい分日本語がお上手なのね」という声も聞かれた。日本 人教授のあいさつであったら誰も笑わなかったであろう。

 もう一例挙げれば,中年のアメリカ人男性の場合である。友人の日本人

男性を評して,「彼は職場では男女を問わず部下に好かれ,家庭でも良き

夫で良き父であり,教養のある,やさしくて申し分のない男なんだが,料

(20)

理屋での女中さんに対する横柄な態度と物言いに異和感を持ってしまう」

と欝う。しかし,友人である日本人男性から見ると,このアメリカ人の女 中さんに対する態度は,ていねい過ぎ,気を使い過ぎていて異和感を覚え るという。ところが女中さんの立場から見ると,日本人男性の横柄な物腰 は抵抗なく受け入れても,外国人男性の場合には不愉快になると雷うので

ある。

 外国人場面とは複雑なものである。異文化間コミュニケーションのより 厳密な観察・分析が望まれる。

 さらに,表現意図別の教材において今後望まれることは,これをビデオ ディスクの形に作成することであろう。コンビ=一タと組み合わせて,学 習者が表現意図・談話の流れ・レベルを選んで自習出来るようにもしてお けば,その利用価値は非常に高まる。

 以上,コミュユケーション能力開発用として,3種類の日本語教育用V TR教材を考えた。表記及び専門情報を考察の対象から外したが,これら を加えれば更に多様な形が考えられる。VTR機器が普及した今,伝えら れる情報を細かい項目のひとつひとつに至るまで計算した上での,より洗 練された教材作りが望まれ,ストーリーや登場人物の決定以前に考慮すべ

き項目は多い。

 同時に,既に開発されている教材の,より効果的な利鰐法の研究もされ ねばならない。現在,B本語教育用として,「日本語教育映画・基礎篇」

rヤンさんと日本の人々」のほかに文化庁企画の日本語教育映画(VTR 版)6篇(うち1篇は英語のナレーシilン入り)がある。中・上級向けに は,生のテレビドラマ・ニュース・インタビューに台本や単語表等を付け た国際交流基金企画の日本語教育ビデオシリーズがある。又,日本人の小・

中学生向けの学習VTR教材,日本人成人向けの話し方講座VTR版,外 国人向けの英語ナレーション入りの日本紹介VTR等もある。これらの再 編集利用も有効ぞあろう。

 教材制作は一機関,一一個人の手には負えないことが多い。ビデオディス クともなればなおさらである。制作面は国立国語研究所,国際交流基金等 の開発を待ち,各教師は既製教材の利用法の研究に力を注ぐべきかもしれ

ない。

 さらに,テレビの有効利用も研究されるべきである。生のテレビ番組を

録画して授業に用いることは中・上級レベルでは広く行われているが,初

(21)

級から積極的に取り入れていく方法もあろう。新聞には手を出さない初級 者もテレビはよく見ている場合がある。スポーツ番組などは「見る」だけ で,かなりの情報がつかめるからである。天気予報なども,見方を説明し ておけば初級から十分な情報がつかめ,これが又,新たな意欲を引き出す ことにもなる。録画VTRを教室内で爾いるだけでなく,教室外のテレビ 視聴の荷効利用もすべきであるが,これらについては又の機会に譲りたい。

V.おわりに

 臼本語教育は1980年代に入り,急速に変わってきた。増大し多様化す る学習者に変わらされてきたと欝うべきかもしれない。今後は次の3分野 の成果をふまえた上で,独自の分野を確立すべく,更に大きな展開を見せ るのではないだろうか。

1.社会言語学の発達

   学習者のニーズ分析に基づくコースデザイン

   (言語別・文化別)コミュニケーション能力の解明とその開発 2.心理言語学の発達

  学習心理を考慮した学習者中心の指導    言語習得過程の解明と応用

3.教育工学の発達

   VTR,コンピュータ等の積極的利用

 (註)

(1}リヴァーズ,ウィルガ M.(村井泰彦,ほか訳)1982 r外国語教  育とコミュニケーション』松柏社

(2) Krashen, Stephen D。1982 .Prineiρlesαηld IPrαご翻cεin Second  Lαnguα8e Acguisition Pefgamon Press

(3)ネウストプニー,J.V.1982『外国人とのコミュニケーション』岩  波新書 に詳しい

(4}土岐 哲 1975 「教育番組に現われた縮約形」r日本語教育』28号

⑤ 川又瑠璃子 1975 r一日の言語生活」r薪・日本語講座5日本人の  雷語生活』汐文社

{6}畠 弘巴 1982 fコミュxケーションのための日本語教育」『言語』

 VoL 11漁13大修館

(7}現在,日本語教育用スライド教材として,文化庁企画r生活の中の文

(22)

 字r駅で』」,国際交流基金企画「日本語教育用スライドバンクr場所シ  リーズ』,『生活シリー一ズ』,『十一:か月シリーズ』,『留学生シリーズ』」

 がある。

(8} Asher, James J.1982 Leαmin,g Another Lαnguαge t hro ugh  /4ctions Sky Oaks Productions, Inc.

(9}野元菊雄 1980 r表現意図および文の長さ」『日本人の知識階層に  おける話しことばの実態』国立国語研究所

(10)田中 望 1984 r外国人に日本語を教える本』明日香出版社

(11)阪田雪子ほか 1984 『ヤンさんと日本の人々教師用指導書』国際  交流基金

(12)Rivers, Wilga M.1966 Teαching Foreign Lαnguage Sleills  Univ. of Chicago Press

⑬ 野元菊雄 前掲書

参照

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