【研究ノート】
地域における中間労働市場の役割
小 沢 康 英 金 泰 賢
はじめに
高齢者単身世帯や引きこもり,ニート,虐待など社会的孤立をもたらす要因が多く存在する.親族 や社会との交流やつながりが乏しいため,健康に問題があったり,生活が困窮しているにもかかわら ず,適切な支援が受けられないこともある.日本の場合,社会的に孤立し問題を抱えた人々は,地域 のなかで点在していて個別対応がなされているが,欧米などでは社会的に孤立・排除された人々がイ ンナーシティといった特定の地域に集まって生活していることがみられ,地域政策として対応が図ら れている.ただ日本でも,少子高齢化・グローバル化が伸展するなかで,日本創成会議による消滅可 能性都市の推計にみられるように,人口減少に伴い社会的に孤立した人々の割合が相対的に高い地域 が増していくことも懸念されている.このため社会的孤立の増大を防いでいく取組みは,個人を対象 とする方策と共に,今後は地域の活力維持という視点からの方策も重要になっていくものと考える.
地域が抱える課題に対して地方自治体が大きな役割を果たしてきたが,財政状況の悪化などもあり,
課題解決の役割を十分に担うことが難しくなっている.このため地域の活力や生活の豊かさを保つに は,地域住民の主体的な活動がより重要となる.もっとも地域住民の数自体が減少してきており,地 域の課題解決を担う人材も不足している.地域で暮らす人口を一定量確保するには,生活費や生き甲 斐をもたらす労働の機会の存在が必要となる.そこで本稿では,労働市場の視点から地域の活力や豊 かさの維持,社会的孤立に対する地域全体での取り組みなどに関して考察を進めていきたい.
1. 地域中間労働市場を活かした地域活力の改善
⑴ 地域における所得機会創出の役割
日本や韓国の田園地帯における限界集落や都市部に存在するニュータウン・古い密集居住地などで は,若年層の流出に伴い高齢化率が一段と高まり,社会的孤立にある人々の割合が相対的に高い地域 が増している.田園地帯では人口の減少がより早い時期から顕在化しており,高齢化のテンポが速い 地区では,戸数の減少も伴い,自治会やお祭りなど地域活動の維持が難しくなっている.他方,都市 圏のニュータウンなどでは,子供が独立し他地域で暮らすようになり,地域活動を担う人材が高齢化,
固定化し,地域内の団体活動が減り,住民間のつながりも維持しにくくなっている.
地域が活力や暮らしの豊かさを維持していくには,地域社会が有する福祉,教育,環境保全,まち づくりなどの課題に対応していくことが必要となる.日本では地域の課題対応を行政が受け持つ割合
が増していたが,税収の伸びが鈍り,財政状況が悪化すると共に,行政が地域社会を支える力は減少 してきている.行政主導の時期においても地域住民が課題対応の重要な担い手であったものの,受動 的な状態が続くなか共同体的な地域住民が主体となり互いを支え合う仕組みは機能が低下してきたた め,行政の力が低下したからといって,急に,地域社会が主体性を取り戻すことは難しい状態にある.
それどころか,人口減少が進むなか,地域の戸数も減り,持ち回りで特定の役割を担うといった仕組 みは一段と運営が難しくなり,空洞化してきている.このため今後,行政が地域を支える力が更に低 下することが見込まれるなか,行政支援・給付に頼らず,地域の課題を解決し,地域の暮らしの豊か さを支える役割を担う,新しい人材を確保する必要性が高まっている.
地域を支える人材を確保していくには,現状地域で暮らしている若い世代の流出を緩和させると共 に,U ターンや I ターンなども含め外部から人材を引き付けることが重要となる.その際,若い世代 の住民等が地域で暮らし続けることができる所得機会や新たな活動を可能とする環境の提供が欠かせ ない.特に田園地域では有意な人材を引き付ける内容の所得機会・活動機会を確保することが,地域 の課題解決に関わる活動を担う人材の確保に寄与する.
交通網や IT 網などが充実している現在,人びとは車で買い物に出かけ,WEB 機能で買い物をす るため,日常の生活圏内で買い物をする機会が減ってきているし,需要が存在しても,その規模はか なり小さくなっている.こうしたなか地域で所得機会や新たな活動機会を確保していくには,外部に 流失している需要を域内に取り戻す,或いは域内に残った需要を切り捨てずにうまくすくい上げ,あ る程度の規模にまとめていく必要がある.域内に需要を取り戻す工夫は,生活費や生き甲斐をもたら す新たな労働の機会を生み出す.取り掛かりとなる新たな活動が定着し,域内に需要を取り戻す流れ ができてくれば,取り戻した需要を基に新たな需要が生み出されるようになる.域内での需要の広が りが,更なる労働の機会の確保につながる.行政による地域を支える力が低下するなか地域の課題解 決に寄与する人材を確保するため,地域に存在する需要に基づく労働の機会創出も大切な方策にあげ られる.
⑵ 地域中間労働市場形成の必要性
地域における労働を通じた活力や豊かさの維持に関しては,日本では厚生労働省により,特定地域 の所得機会の創出を目指した様々な支援策が実施されている.例えば,所得機会の不足している地域 が地域の産業構造や地理的要因といった特性を踏まえ,対策を事業化し所得機会を生み出す取組みを 支援する「実践型地域雇用創造事業」などがある.ただ,こうした支援策は期間限定的なことが多く,
基本的には失業者に雇用の場の提供を目指すものである.就業状態の内訳をみると,「就業者」と「完 全失業者」とからなる労働力人口,及び「非労働力人口」の,大きくは3つの状態に分けられるが,
伝統的な失業対策は「就業者」と「失業者」との間のフローを対象とした政策である.
他方,社会的孤立・排除の増大を防いでいく取組みとしては,「非労働力」状態から,働く意思を 有する「就業者」と「失業者」との間のフローへの参加を促す対策も重要となる.社会的孤立・排除 の増大防止も含めた特定地域の所得機会創出の方策として,加藤(2015)は,社会的企業や NPO(非
営利活動組織),コミュニティビジネスといった新たな社会調整の仕組みを骨格とする「地域中間労 働市場」を示している.中間労働市場とは,英国において長期失業者が paidwork を含めた職業訓練 などを受けるなかで通常の労働市場への復帰を促す仕組みとして発達してきたものである.「地域中 間労働市場」は,英国の中間労働市場のように,通常の労働市場に対して,もうひとつの(alternative)
「働き方」を組み込んだ社会的経済領域における労働市場である.もちろん当該地域の活力維持に向 けた需要拡大のための地域産業政策と連携することが必要となる.労働により収入を得るだけでなく,
社会への参加を通じ,生き甲斐や満足を感じることも可能である.その意味で,「地域中間労働市場」
への参加は,もうひとつの経路を通じて社会との交流やつながりを確保する手がかりとなる.
「地域中間労働市場」への参加により得られる所得は,都心の企業等に勤めて得られる所得より低 いことも多い.一世帯が生活できる所得を1.0と考えた場合に,実際には0.2や0.3の量にとどまること もある.人が暮らすには,生活の基になる所得機会が欠かせないことから,観念的には,1.0の量の 所得機会の創出を目指すこととなろうが,地域の人口が少なく,需要の総量が限られているなかで,1.0 分の所得を確保できる個別の事業の存続は難しい.車で,広いエリアを商圏とした大型店舗に買い物 に行ってしまう.そこで,一つの仕事で1.0分の所得を確保するのではなく,0.2や0.3といった量の複 数の仕事を組み合わせて,合計で1.0分を確保していく考え方も重要となる(藤山,2015).地元にベー スとなる仕事を持っている人もいるし,主に家族の所得により生活している人もいる.U ターン,I ターンによる人々もすぐに,一つの仕事で1.0分の所得を確保しようとするのではなく,試行錯誤の なかで,複数の仕事を組み合わせていくことで,定着しやすくなる .0.2や0.3の量であっても魅力ある 内容であれば,住民の誇りにもなるし,U ターン,I ターンによる人々を引き付けることにもなる.
U ターン,I ターンによる人々が地域に定着していくためには生活費を賄える所得が必要であるが,
都心で得られるような高い所得を求めて移転してきたわけではなく,移転地域における自然にかこま れた安心で美しい暮らしを求めてきた面もあるので,地域の人が望み喜んでもらえるような仕事を「地 域中間労働市場」への参加のなかで得られるならば,一定の所得と共に地元住民とのコミュニケーショ ンを楽しみながらの生活が可能となろう.既存の地域住民が,「地域中間労働市場」への参加を通じ て生き甲斐や満足を感じることがあれば,地域への誇りが高まり,域外への流出することを抑えるこ とにもなる.
2.EU における CED 政策からみた中間労働市場の機能
EU では社会との交流やつながりが乏しい状態を社会的排除と表し,社会的排除の状態にある人々 や集団の数を減らしていく取組みがなされている.その際,福祉給付よりも雇用を通じた社会参加・
包含を基礎とする政策が採られている.その流れのなかで,社会的に孤立・排除された人々が集まる 特定地域の問題解決に関してはコミュニティベースの経済開発(CommunityEconomicDevelopment [CED],以下同様)という地域政策が展開されてきた.
CED は,異なるタイプの多様な政策の組み合わせで定義づけが難しいが,以下のような特徴があ る(H.アームストロング他,2005).
この CED 政策は,上述の地域中間労働市場に求められる機能と重なるところが多く,所得機会創 出の観点からみた,地域活力の維持,地域住民間のつながり再形成への取り組みに参考となる.
⑴ CED 政策の特徴
CED 政策における特徴の第1として,活動範囲が狭く,小規模なコミュニティをベースとしてい ることがある.活動の企画から実施までコミュニティの人材・資源の活用が重視されている.活動は 参加している地元住民により民主的な運営がなされ,活動の評価についても地元の住民が参加する ケースが増えている.
特徴の第2は,社会的価値のある製品やサービスの提供である.従来の地域政策においては,期間 が限定的なこともあり雇用創出の内容が,低技術で対応できる賃金が安いうえ,確保された仕事も事 業期間が終われば無くなってしまうことも多かった.社会的に価値のある製品やサービスの提供は,
地域が抱える課題を克服するような事業であり,地元には根強い需要が存在しているともいえる.社 会的価値のある製品やサービスを提供していくことが,雇用の確保と共に社会的排除の緩和につなが る.
第3の特徴は,雇用機会の確保を長期的な視野で行っていることである.キャパシティビルディン グと呼ばれている,社会関係資本がより広範囲で配分される状況の構築が目指されている.適切な社 会関係資本の構築が自主的な地元住民の参加・運営を円滑化させることにつながる.
第4の特徴は,活動の継続性に寄与する組織・施設の形成である.社会的に価値のある製品やサー ビスの提供は,地域が抱える課題を克服するような事業であり,地元住民が設立した組織にて運営が なされている.なかには,建物など必要な資産を,コミュニティが所有し管理することもある.安定 した組織あれば,社会的価値のある製品やサービスを長期的に提供していくことに寄与する.また,
安定した組織・器が存在することで,その器に,ヒトやカネ,情報が集まりやすくなり,新たな課題 解決の活動へと活動領域が広がっていく.
⑵ CED 政策を参考とした「地域中間労働市場」の機能
社会的企業や NPO などが活動する社会的経済の領域の労働市場である地域中間労働市場では,そ の互恵性から既往の労働市場とは異なる雇用機会を提供することが可能となる.地域が抱える課題を 克服するような社会的に価値のある製品やサービスを提供する事業を,地域の人材・資源を活用する なかで展開していく仕組みは,EU の地域政策にみるコミュニティベースの経済開発(CED)への取 組みが参考となる.CED 政策を参考として,地域中間労働市場に求められる機能には以下の項目が あげられる.
① 地域資源の活用
地域活力の維持向上に寄与する新たな創業には,ハイテク系の企業や新規業態の商業・サービス業,
社会福祉関連の企業などがある.加えて,NPO やコミュニティビジネスなど事業性を有した地域密
着型の活動も,地域活力の維持向上に一役を担うこととなる.地域の生活や活力を安定・向上させて いくには,地元企業や地方自治体の行動に限らず,地域の住民自身も含め地域に存在する多様な主体 との行き来を深め,地域の資産を有効活用できる仕組みを整えていくことが重要となる.少子高齢化 への対応,環境保全,安全性の確保,教育・文化の充実など地域が抱える課題の解決に向けては,地 域に存在するモノ・ヒトのつながりを背景とした社会的企業や NPO,コミュニティビジネスなど社 会的経済の領域に関わる事業の活動が広がっている.
地域の課題解決や活力・豊かさの維持に向けて,域外の企業や団体を誘致・招聘して取り組むこと も大切である.ただ,地域の実情を考慮せずに事業を進めると,十分な効果が得られないこともある.
観光事業などでも,地元資源とは関わりない施設の整備がされた場合,地域の人々との連携がうまく 築くことができないこともある.他方,従来からある地元の観光資源を活用し,地元の人,地域外の 専門の知識やノウハウを有した人,更には利用者・訪問客が時間をかけ連携を深めていくことで,地 域社会の自律性を保つ形で交流の活発化に取り組んでいる地域もみられる.
② 需要の存在する(地元で求められる)商品・サービスの提供
地域の生活の場からは,高齢者向けなど福祉に関するもの,リサイクルや自然食品など環境保全に 関するもの,歴史・文化資産をいかした観光・交流の活発化など,様々な需要が生じる.こうした需 要に対する小規模なビジネス,或いは営利獲得そのものを目的としない地域活動が,地域が抱える課 題の克服に寄与するとともに,地域に所得機会をもたらす.
こうした地域で生じる需要は,多様であるものの地域の市場規模がさほど大きくない場合も多い.
自然は多様な種類の生物で構成され,安定性を生み出している.地域の暮らしも多様な活動で成り立っ ている.こうした多様な存在に関して藤山(2015)は,自然も暮らしも,本来「ロングテール」な営 みであり,循環型社会においては,ロングテール=多様性をうまく結びつけることが重要としている.
域内では需要が限られ,そのため供給も少量に止まっているものの,多様な商品を少量ずつ集め,外 部に流通できるロットにまとめることができれば,地域の個性を高めることができる.また,多様な モノやサービスが域内に存在し続けることで,域内の循環性を向上させることにも寄与する.
③ キャパシティビルディング
田園地帯では,地縁を基礎とした地域住民間の絆が存在していた.また,都市部でも自治会などを ベースとした地元住民間の交流が図られていた.ただ,田園地帯では核家族化が進む中で従来からの 共同体的な要素が弱まり,自動車の普及に伴い日常生活圏が拡大したことにより,地域内で消費を賄 う割合も減少してきた.都市部でも,ニュータウンでは,子供世代が独立し,域外に転出するなかで,
人びとのつながりが一層希薄なものとなっている.
こうしたなか,地域が抱える課題の解決に向けては,社会的企業や NPO など社会的経済の領域に 関わる事業の役割が増してきている.社会的企業等の活動は,地域に存在するモノ・ヒトのつながり を背景としており,薄まりかけた地域住民間の絆を再構築することに寄与している.こうした新しい
活動は,地元の資源を活用することが欠かせないが,必ずしも地域資源を有するなど関連の人々の協 力を得られるとは限らない.新しい活動が定着していくには,従来から暮らしている人々からの理解,
協力を得ることが重要となる.社会的企業など地域密着型の活動を主体とする地域中間労働市場の形 成のベースには,キャパシティビルディングが欠かせない.
例えば,カナダ・バンクーバーでは,生活環境が十分でないインナーシティの改善に向けて,雇用 を紹介したり,起業を支援したりする CED 関連の組織が活動している.バンクーバーでは,利潤目 的の企業も含め,小規模な起業が活発であり,CED に関する活動も,社会的経済の領域における起 業に伴うコンサルティング業務が主体となっている.ただ,停滞した地区の改善に向けた活動の実効 性をより高めていくため,起業資金を貸し出す金融機関や,BIA といった街づくり関連の団体,人 材育成を図る大学など,様々な主体とのネットワーク形成・活用が図られている.
④ 核となる組織の確保
NPO の必要性への認識が高まると共に,全国的に中間支援組織の設置が相次いだ.NPO センター,
NPO サポートセンターという名称で,NPO の創業や運営に関わる支援を主目的としている団体が多 い.地域の課題解決に向けて行政,地域住民,企業など地域の多様な主体が協働できるよう,地域の 住民同士,地域住民と行政,行政と企業などの間に立って,その仲介役として中立的な立場で,それ ぞれの活動を支援している.
NPO の活動を支える中間支援組織は,地域中間労働市場の形成に大きな役割を果たす.ただ,中 間支援組織は,都市部の活動が多く,どの地域にも NPO センター,NPO サポートセンターといっ た支援組織が存在するとは限らない.地域のなかで社会的企業など地域密着型の活動が生じる中で,
先導的な役割を果たす組織に成長していくことも多い.野中ら(2015)は,知を価値にかえる,実践 知をベースとした知創コミュニティがソーシャル・イノベーションをもたらすとしている.また,森 重(2014)は,観光振興に関して地域外の人も参加しやすい組織としてオープン・プラットホームの 存在が必要としている.プラットホームは,地域資源と関連の人びとを結び付けて価値を創造し,地 域に還元するしくみであるが,地域外の人も参加しやすいオープンな仕組みとすることで,効果がよ り高まるとしている.こうした核となる組織の存在が地域中間労働市場の活性化に寄与する.
社会的企業等の活動を支え,新たな組織・活動を生み出すような,核となる組織の確保は,ソフト の存在であるが,活動の拠点となる施設の整備がなされれば,活動の安定化が一層進む.活動の拠点 となる施設は,核となる組織のオフィス機能と共に,地元産のモノ・サービスを提供する店舗の機能,
新たな事業を始めるための一時的なスペース,或いは地元の人々が集まる憩いの場所などの機能が加 われば,地域活動を支えることに一層貢献する.郵便局や公的なサービス機能などが加われば,地域 の拠点としての機能が高まる.イギリスの田園地帯では,“onestopshop”といった複合的な機能を 備えた地域の拠点となる施設の整備がみられる.
3.地域の所得機会確保への取組み事例
所得機会の不足している地域が地域の産業構造や地理的要因といった特性を踏まえ,事業化し雇用 を生み出す試みは各地で広がっている.こうした地域で所得機会を生み出す活動について,日本や韓 国の事例に関して地域中間労働市場の機能の観点からみていきたい.
⑴ 京都府和束町の事例
① 地域資源の活用
和束町は,地域の地形が「茶」の生産に適していることから伝統的に,茶産業が根付いてきた.和 束町で生産された茶は,宇治茶として販売されてきた.ただ近年では地域資源の有効活用に向け,厚 生労働省の地域雇用創造関連の事業を通じて,地域で生産されたお茶を,『和束茶』として地域ブラ ンド化し直接販売に取り組むと共に,お茶を活用した菓子・ケーキや佃煮など新たな商品開発,茶畑 の景観の見学といった観光産業など,茶産業を中心とした産業の振興,雇用機会の創出に努めてきた.
② 需要の存在する(地元で求められる)商品・サービスの提供
茶産業は和束町の重要な産業であるものの,従事者の高齢化,後継者不足の問題が懸念されており,
担い手がいなくなった荒廃茶園も出てきている.このため,和束茶として地域ブランド化し直接販売 を拡大していくことは,地域の茶産業の人材を確保・育成に寄与する.また,お茶を活用した菓子・ケー キや佃煮など新たな商品開発は,観光産業の振興のなかで,訪問客に提供する地元の食材として重要 な要素となる.和束町では,お茶摘みなどを訪問客向けに体験イベント化することで,域外の方に茶 産業に接してもらい,関心を持った人材が地域にI ターンする効果も出てきている.
③ キャパシティビルディング
厚生労働省の地域雇用創造関連の事業を展開する際,推進役を応募したところ地元で育ち域外に就 職していた人材が U ターンしてきた.元々地元の方なので,同年輩との人的ネットワークを生かせ るし,異なる年代層とも信頼関係を得やすく,新たな取り組みも円滑に進めることが可能であった.
U ターンしてきた人材は,域外では商社に勤務していたことから海外とのネットワーク網も有してお り,海外からの訪問客の誘致にも力を入れている.海外からの訪問客が地元で滞在する際は,地元住 民の協力を得て,ホームステイの形で受け入れている.海外から600名程度の大きな団体を受け入れ たこともある.
④ 核となる組織の確保
域外からの訪問客に対し,和束茶やお茶を活用した食料品の販売,また,実際に煎茶の点前で茶を 楽しめる休憩所が,新たな事業展開の核となる施設して機能している.更に,上述の U ターンによ り地域雇用創造関連事業の推進役を担ってきた人材が,新たに会社を立上げ,これまで培ってきた活 動を引き継ぐと共に,行政の枠にとられない新たな活動も展開している.地域雇用創造関連事業に関
わる支援は期限が限られているが,事業の成果を引き継ぐ企業が活動することで,行政による支援期 限が終了しても,地元の活力維持・向上への取り組みの継続性が確保されることとなる.
⑵ 兵庫県養父市の事例
① 地域資源の活用
養父市では,コメ作など農業が盛んであり,八鹿豚,朝倉山椒,蛇紋岩米といった地域ブランドが ある.更に,ネギや大豆など新たな特産品も出てきている.こうした地域の特産品を活用し,農業の 振興,雇用機会の確保を図っている.また,観光分野に関してもハチ高原や産業遺産(有延鉱山)な ど様々な資源が存在している.ハチ高原は兵庫県北部の山岳地域の国定公園内にあり,関西有数のゲ レンデとして冬場はスキー・スノーボードを楽しむ観光客が多数訪れるが,夏場も小中学校の自然学 校や高校・大学のクラブ・サークルなどの合宿で賑わっている.年間を通じて教育関連分野の集客で は日本のなかでトップクラスにある.
② 需要の存在する(地元で求められる)商品・サービスの提供
農産品や観光は,地元住民からの需要もあるが,基本的に域外からの需要への対応である.域外か らの需要への対応を通じて,雇用面において地域の活力維持に貢献している.特に農業分野において は,後継者不足により休耕地が増えてきているため,事業の新たな展開は,地域の人材確保に貢献し ている.
③ キャパシティビルディング
地域の高齢化・人口減少が進む中,活力の維持・向上に向けて,地域の食材を活かした商品づくり,
体験型観光商品開発など,新たな取り組みが始まっている.こうした動きを促進すべき,農業分野の 国家戦略特区(農業特区)の指定を受けるなど,行政の施策も変化が出てきている.新たな取り組み は行政主導の動きではあるが,休耕していた田畑や果樹園に新たな生産者が出てくるなど,活動の広 がりが出てきており,地域住民間,或いは従来から暮らしている人々と新たに活動を始めた人々との 間のキャパシティビルディングが徐々に形成されつつある.
④ 核となる組織の確保
地域活力の維持・向上に向けた取り組みが行政主導である為,農業振興における新たな活動の推進 を担う核組織も行政色の強い性格を有している.ただ,農業と観光を基軸とした取り組みを通じて雇 用拡大を目指す「養父市地域雇用創造協議会」には,行政の他,商工会や観光協会,農業協同組合,
地元の金融機関などが構成メンバーに加わっており,地域全体の動きとして活動の深まりがみられる.
更に,ハチ高原では,地元の若手経営者が集まり(組織名:マウントエイト)地域観光の振興に独自 に取り組むなど,地域からの動き,組織化も出てきている.
⑶ 沖縄県うるま市の事例
① 地域資源の活用
元小学校があった地区において,校舎や運動場などをIT関連企業のオフィス等として活用してい る.指定管理者制度を活用し,NPO が指定業者として,一括運営を行っている.入居企業の出入り があり,新規入居会社の募集,誘致が必要となるが,一括運営を委託していることから,契約内容な ども柔軟に検討することが可能となっている.
また,教室の建物のオフィス利用だけでなく,同一域内の建物を活用し,保育所やレストラン,
FM 放送局などの運営を行っている.体育館などは,入居している企業以外に地元の一般の顧客にも,
有料で貸出しを行っている.IT 関連の企業の従業員と地域の住民が両方利用できる共用ゾーンと,
IT 関連の企業の従業員のみが行き来できるオフィスゾーンとを厳密に区別しており,セキュリティ 管理を確実に行っている.
② 需要の存在する(地元で求められる)商品・サービスの提供
指定管理業者としての NPO が得意とする IT 関連の企業を誘致,起業支援を行うことで,地元の 雇用機会の提供を行っている.IT 関連の講習会などを実施することで地元住民のスキル向上にも寄 与している.講習会の受講生が,施設内の IT 企業で働くことも多い.また,同一域内の建物を活用 した体育館や保育所,レストランなどは,入居している企業の従業員と共に,地域の住民が利用でき る仕組みになっている.行政ではなく,NPO が運営することで,様々な分野の商品・サービスを一 つの敷地内・建物内で提供することを実現している.
③ キャパシティビルディング
地域への雇用機会の創出の他,体育館や保育所,レストランなどを地元住民も利用できるようにす ることで,NPO が請け負っている運営地区が地元と遊離することなく,地域住民との交流を保って いる.また,地元自治体や近隣企業,起業支援を行い成長した企業などとの関連性も大切にしている.
共有スペースの建物には,ハローワークも入居しており,地域の雇用拡大に向けた拠点としても機能 している.
④ 核となる組織の確保
元小学校の建物等の運営を指定管理業者として運営する組織として,NPO が存在している.元小 学校があった地域の運営ということで,活動拠点として核となる場所・建物の存在も活動の継続性に 寄与している.また,活動内容は複数の分野にまたがり,それぞれ行政の担当との折衝が必要となる.
行政の担当者が数年で異動するなかで,異動毎に新たな担当者が活動内容を理解する必要があるもの の,NPO の同一人物が担当することで,運営の継続性を保つことが可能となっている.
⑷ 韓国釜山市の事例
① 地域資源の活用
釜山市の西南部に位置している山麓密集市街地である甘川2洞は,社会的弱者や低所得者が多く,
人口の減少と空き家の増加によってまちの空洞化が激しく進んでいた.
これらの問題を解決していくために,このまちでは2009年からアートを活用した「文化まちづくり」
がまちの優れた景観に着目したある芸術家によって始まり,まち中の路地の壁や空き家を活用した「夢 見る釜山のマチュピチュ」(2009年),「美路迷路プロジェクト」(2010年)など様々な芸術プロジェク トが実施された.その結果,まちの環境改善とともにまち全体が美術館のような観光地となり,まち を見学に来る観光客も増え,観光収入による住居環境の改善や低所得者に対する経済的な支援を実現 できるようになった.
② 需要の存在する(地元で求められる)商品・サービスの提供
2010年の「美路迷路プロジェクト」の主体であった甘川洞文化まち運営協議会は,プロジェクトを 通じ収益を創出して,住民への経済的な利益の確保とともに,まちの環境を改善するための資金を確 保するために,「観光」をまちづくりプロジェクトの重要なテーマとして取り入れた.協議会は食堂,
カフェ,アートショップ,案内所などを運営して,その仕事に住民22人を雇用した.また2013年後半 からは観光収入を活用して老巧化している住宅を選別して屋根や窓を修理する「住宅修理事業」を実 施して,住居環境の改善を実現させた.その際には住民が運営する店で材料を購入したり,大工の仕 事も地元の住民を雇用して行うなど,地域内で収益と雇用を創出することで地元の経済活性化も実現 させている.
③ キャパシティビルディング
高齢化と貧困を抱えていた甘川2洞の住民は,芸術家たちのプロジェクトに対する理解が十分では なかったことや経済的に役に立つのかという疑問を抱き,「文化まちづくり」の初めのころはさほど 興味を示さなかった.ところが,芸術家だけではなく住民の意見が作品に反映されたり,住民自ら作 品を制作するなど,住民参加型プログラムが企画,実施され,2010年からは住民がプロジェクトを主 導的に進めていくことになった.また観光客の増加によって収益や雇用などの経済的効果が地元で生 まれることを実際に体験することで住民のまちに対する意識も変わり,まちの生活環境の改善のため に行政に積極的に支援を求めるなど住民主導のまちづくりが進められている.
④ 核となる組織の確保
甘川2洞の「文化まちづくり」は,2009年韓国政府の文化体育観光部による「まち美術プロジェクト」
という公募事業に,ある芸術家が「夢見る釜山のマチュピチュ」といタイトルで応募したプロジェク トが採択されたことから始まった.その後,2010年の文化体育観光部主催のコンテンツ融合型観光協 力事業,2011年の釜山市主催の「山腹道路ルネサンス」,2010年の続きとして2012年の文化体育観光
部主催の「まち美術プロジェクト」などを通じて今現在も新しいプロジェクトが続いている.このよ うな甘川2洞の「文化まちづくり」プロジェクトは,最初の旗揚げは芸術家グループによるものだっ たが,まち全体を対象としたプロジェクトの特徴を生かすためには住民の協力が必要であった.その ために2010年2月に住民代表5人,芸術家5人,公務員2人からなる「マチュピチュ文化まち運営協 議会」が構成された.その後組織変更を経て,2013年1月には運営委員22人の社団法人「住民協議会」
を設立,2014年からは役人9人,運営委員9人の体制でまちづくりプロジェクトを進めている.
⑸ 地域における所得機会創出への取り組みの特徴
地域の所得機会創出に向けては,地元の資源の有効活用が重要となるが,地元の資源は多様であり,
和束町の茶産業といった伝統的な資源ばかりでなく,養父市のリゾート産業や釜山市のアートに着目 した観光産業,うるま市の IT 関連産業などもある.地形がもたらす利点や産業資産,古い住宅など も地元資産として活用が可能となる.
次に,需要の存在する商品・サービスの提供するなかで,雇用の機会創出することが重要となるが,
地元の資源活用と同様に,需要の活用も多様である.観光,6次産業化など外部の需要を取り込む中で,
地域の供給側の活動を結び付けたり,主となる活動を支える事業が,保育など地元のニーズ・需要を 把握し対応していくこともある.地元のニーズを把握していく際は,起業や観光など従来とは異なる 視点からの取り組みも多い.
雇用機会の創出に向けた,新たな活動では,地元の資源を利用し様々な需要に応えていくことから,
様々な分野の人々の協力が必要であり,地元住民の理解を得てキャパシティビルディングを図ってい くことは欠かせない.新たな活動は,活動範囲が限定的なところから始まるため,活動範囲を広げる なかで,地元住民の認識を得て,信頼関係を築く人々の範囲を少しずつ広げていくこととなる.新た な活動の核となる人材が外部からの場合でも,U ターンなど地域との関連があれば地元住民とのキャ パシティビルディングがしやすくなる.
地元住民の理解を得て地域資源を活用した活動の活動期間が長くなってくると,活動組織の運営が 安定してくる.活動の安定に伴い,指定管理業者の制度を活用するなど,活動拠点の確保することが 可能となってくる.
行政による支援は,期間限定的な場合が多いが,雇用創出に関わる新たな活動の活動期間が長くな ることで,持続性を確保することとなる.持続性を実現していくには,キャパシティビルディングや 活動拠点の確保など時間を要する条件項目も多い.事業の定着には,ある程度の時間を要することか ら,行政による期間限定的な支援策に関して,単独の支援のみで終わらせることなく,複数の支援策 を用いてある程度の活動期間を確保できる形で提供していくことも大切となる.その際,事業が定着 するまでの長期の間,核となる人材が継続的に活動することも必要である.核となる人材の継続的な 活動が,分野や時期が異なる行政による限定的な支援の効果をうまくつないでいくこととなる.
地域に存在する小さな需要を認識し,掘り起こす,また地域の需要を見直す中で新たな事業が出て くる.地元で多くの仲間を持ち,キャパシティビルディングの範囲を広げていく,また小さな需要間
の壁を崩し紡いでいくことで,事業が広がり,内部循環も増していく.活動期間が長くなるなかで,
継続性が出てくる.こうした新たな活動が,独り立ちできるまでの時間・期間を確保できるような工 夫が重要となる.
4.地域中間労働市場の形成に向けた課題
社会的企業や NPO などが活動する社会的経済の領域の労働市場である「地域中間労働市場」が地 域への寄与度を増していくには,核となる組織や人材の継続的な活動を通じて,地域の人々の理解や 参加を得て活動領域を一段と広げていくことが重要となる.核となる組織等の活動が活動領域を広げ ていくうえでの課題として,地元の様々な分野とのネットワークを保ち,分野横断的な活動を展開し たり,資金循環の仕組みを工夫していくことや,地元住民が参加する学習機会を継続的に設けていく ことなどがあげられる.
⑴ 分野横断の複合性の確保
地域中間労働市場が機能を高めていくには,核となる組織等が,地域の課題解決に向けた NPO な どの事業を支援したり,新たな活動が始まる契機を生み出していくことが大切となる.そのためには 核となる組織が,地域の様々な分野とのネットワーク網を整えるなかで,分野横断的な複合性を確保 することが重要である.地域に存在する小さな需要に対応し,0.2や0.3といった量の所得機会を創出 し,組み合わせていくには,色々な分野を横断的に把握し,調整ができる,要となる組織が必要とな る.核となる組織は,頭は分かれていても胴体はつながっている出雲神話に出てくる「ヤマタノオロ チ」にたとえられることもある.核となる組織が,地域の拠点性となる施設にオフィスを設けていれ ば,色々な分野の人々の行き来や交流の機会も得やすくなる.
NPO センター,NPO サポートセンターといった中間支援組織が地域に存在する場合は,様々な分 野に亘る活動がなされている場合が多い.他方,観光や福祉など特定の分野の組織が成長して核とな る組織の役割を担うようになった場合においても,組織が当初関わった分野にこだわりすぎることな く,活動分野を広げていくことも必要となろう.
また,分野横断の複合性の確保は,地域住民のなかで活動する組織・団体と共に,地域の活動や課 題解決に深い関わりを持つ,行政の組織体系に関しても大切となる.行政では分野毎の活動が基本で あるが,複数の分野に関わる地域の課題も多い.「地域中間労働市場」で取り扱われる活動は,地域 の課題解決につながるので,行政側も分野横断の視野のなかで協働していくことが,活動の効果を高 めていくことにつながる.
⑵ 地域住民等による継続的な学習機会の確保
地域の課題解決に向けた活動を展開する際,地域の現状を把握し改善策を生み出していくことが必 要となる.その際,地域住民の参加を促すなかで改善策を検討することで,地域により適した方策が 出てくる.地域内外の多様な人びとが集まり,ワークショップなどの形式で議論が行わることを,集
団的学習や組織学習などとも呼んでいる.集団的学習は,基本的には暗黙知を形式知へ変換すること を目指しており,①価値観の共有,②異なる知識を持つ人々が意見を出し合う,③新しいアイデアが 出てくる,④出てきたアイデアを生産に応用する,といったプロセスが想定されている.地域住民が 集団的学習に加わることで,地域資源に備わっている情報やコンテクスト(地域に存在する暗黙知)
が理解され,より効果のある方策が生み出されることとなるし,方策の実行においても地域住民の協 力を得やすくなる.野中ら(2014)は,地域社会のイノベーションにおいて暗黙知を形式知へ変換す る原動力を実践知リーダーシップの存在に求め,知の生態性を基本とした人々の関係性を知創コミュ ニティとあらわしている.更に,実践知リーダーは特定の人物に限定するのでなく,集団的学習を通 じて,次々と現れてくるものであるとしている.
地域中間労働市場が活性化していくには,地域における集団的学習を通じて,新たな発想や事業が 生み出されることが大切である.特定分野の課題解決の方策を検討していくうえで,その特定分野に 関心があったり,関連する地域内外の人々が集まって議論を行うこととなる.ただ,地域には集団的 学習に参加していない住民も多く存在し,地域外には更に多様な人材が活動している.このため,「地 域中間労働市場」を機能させる核となる組織が,分野横断の複合性を確保し,活動範囲を広げていく なかでは,当初の活動範囲とは異なる分野に関する人々の参加を募り,新たな集団的学習を行ってい くことも必要となってくる.核となる組織が,地域住民等による学習機会を継続的に確保することは,
地域に新たな刺激をもたらすと共に,新たな人材の育成にも寄与する.
地域住民等による継続的な学習機会の確保に向けては,核となる組織の活動が主体となるが,行政 からのアプローチも可能である.例えば兵庫県では,行政が今後の方向性を考える一環として,各地 域の「豊かさ」を測る指標を作成した際,地域の人々が参加し,議論する機会があった.地域毎に感 じる「豊かさ」はそれぞれ異なるため,地域の住民自身が感じる・考える「豊かさ」について指標を 検討するなかで,地域毎の採用指標も地域の独自性が出てくることとなる.地域の課題解決に関わる 活動を実践するグループの活動成果の評価を「豊かさ」を測る指標の要素に加えた地域もある.住民 も参加した指標づくり自体が,具体的で楽しめる手法で,豊かな地域をつくっていくためには何が必 要かなど地元への理解を深め,地域づくりへの納得感を増す契機にもなった.行政が施策の為に「豊 かさ」指標を活用するように,地域の住民が集団的学習等に参加していく際に,地域づくりの取り組 みの基準や活動のフォローアップ指標としても利用できる.
⑶ 資金の地域内循環の確保
地域中間労働市場を通じて生み出された雇用機会のなかで所得が家計に生じる.或いは事業主体側 にも利潤が生じる.こうした地元で生じた所得や利潤を,地元での需要に還元していく割合を高めて いくことが重要である.また,こうした所得や利潤は地元の金融機関に集められることから,集まっ た資金を外部に流出させることなく,地元の事業に活用されるような工夫も大切となる.
社会的経済の領域の労働市場である地域中間労働市場において活動する社会的企業等においても,
営利主体の企業の創業や運営と同様に,事業を軌道に乗せていくには,安定した需要の確保と共に,
事業開始時における準備資金や円滑な運営を支える運転資金などの資金調達も重要な要素となる.例 えば活動のなかで,事務所の家賃や水道光熱費,スタッフの給料・アルバイト代,会報誌の制作・印 刷費および郵送費,文具などの消耗品代など,運営に関わる様々な資金が必要となってくる.こうし た資金が団体の代表など特定の個人の持ち出しで賄われる状態では,継続性が難しくなる場合もある し,特定の資金の出し手の意向が強くなりすぎ組織としての活動が難しくなる懸念もある.組織が継 続的に自立した活動を確保していくには,団体としての資金調達が重要となる.
社会的経済の領域で活動を行う法人や団体が活動の資金を確保していく方法には,会費,寄付金,
補助金,委託収入,物品販売やサービス提供に伴う自主事業収入,借入などがあり,企業の資金調達 に比べ多様性がみられる.こうした資金調達においては,地元の家計や企業,金融機関のなかで対流,
蓄積された資金を活用していくことが大切であり,ハイテク企業の創業・運営を支援するビジネス・
エンジェルのような,地域の幅広い層から資金調達が可能となるような仕組みが必要であろう.例え ば,地元の家計や企業からの寄付の形態による資金の提供は,社会的企業等の財務基盤強化を通じ活 動期間の長期化や活動範囲の拡大などをもたらし,事業の安定性,発展の継続性が一層増すこととな る.更に,安定した活動を継続的に行う社会的企業等に対しては,これまで NPO やコミュニティビ ジネス等との取引になじみの薄かった地域金融機関においても融資という形式で資金提供がしやすく なる.地域金融機関からの借入が増していけば,地元資金の還流量がより豊かになる.
地域が抱える課題解決を目指す社会的企業等の新たな取り組みの発展に必要となる,複数の分野を 横断することで活動領域を広げたり,地域住民の活動への理解・参加を促す学習機会を増やしたり,
地域内での資金循環を高めることなどを通じて,地域内の相互作用の効用を高めることは,地域の活 力・豊かさの向上をもたらすと同時に,豊かな地域中間労働市場の形成にも寄与する.地域の資源や 地域内外の人材が地域で有効活用されるなかで,多彩な活動が地域内で展開され,それぞれの活動が 新たな所得機会を増やし,地域の暮らしの豊かさを支える人材確保につながることが期待される.
参考文献
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福士正博『市民と新しい経済学―環境・コミュニティ』日本経済評論社,2001.
藤山浩『田園回帰1%戦略―地元に人と仕事を取り戻す』農山漁村文化協会,2015.
森重昌之『観光による地域社会の再生―オープン・プラットフォームの形成に向けて』阪南大学叢書101,2014.