︿論説﹀
母 子 家 庭 の 現 状 と 課 題
高 橋 保
母 子家 庭 の現 状 と課 題 185
目次
はしがき
第一母子家庭の概念
第二母子家庭の現状
第三母子福祉法制
一︑母子福祉法制の歴史
二︑母子福祉法制の体系
三︑母子及び寡婦福祉法
第四母子福祉行政‑東京都の場合‑
第五母子家庭の問題と課題
一︑母子福祉行政の充実の必要性
二︑母子及び寡婦福祉法の整備
三︑母子家庭問題の女性問題への位置づけ
おわりに
はしがき
本稿は︑平成四年二月一八日に︑東京特別区職員研修所で行なった講演︑﹁母子福祉の理念と現代の母子家庭問題﹂
を基調として︑現代の母子家庭問題全般にわたって考察したものである︒
これまで︑母子家庭全般にわたって研究した論稿は︑きわめて少ない︒また︑これに関する文献・資料も少なく︑
そのうえ︑あっても散在している状況である︒そのことは︑母子家庭が︑現代社会において軽視されていることを示
すものである︒
母子家庭は︑現代社会において潜在的に存在し︑あまり救済の手がさしのべられず︑それのみか︑世間の差別と偏
見の目にさらされている︒他方︑母子家庭の母と子は︑そのような状況の下で︑ひたすら生きていくことに喘いでい
るのである︒このような母子家庭を︑放置しておくことは︑母子家庭の母と子の人間尊厳を踏みにじり︑許されるこ
とではない︒
母子家庭は︑父子家庭と並んで︑現代社会の生んだ家族形態の一つである︒そのような母子家庭の出現の由来は︑
形式上は︑個人的事情から出発しているやに見えるが︑その実質は︑現代社会の生んだ弊害ともいうべき結果である︒
その意味で︑母子家庭問題は︑すぐれて社会的な問題であり︑したがって社会的保護が必要とされているのである︒
本稿は︑母子家庭の母と子の人間尊厳に立脚して︑母子家庭の社会的保護はいかにあるべきかについて考察したも
のである︒
本稿の執筆にあたって︑資料収集にご協力をいただいた︑特別区研修所教務課主査︑佐藤哲章氏に厚くお礼申し上
げます︒
第一母子家庭の概念
母 子家 庭 の 現 状 と課 題 187
一︑母子家庭とは︑何か︒ここでは︑便宜上︑﹁配偶者のない女子が︑満二〇歳に満たない児童を扶養している家庭﹂
と定義しておく︒
法律上︑母子家庭とは何かについて定義したものはない︒﹁母子家庭﹂という呼称自体も︑かならずしも一定して
いるとはいいがたい︒母子家庭に対して︑﹁母子世帯﹂といわれる場合もある︒なお︑母子家庭に対応する呼称とし
て︑﹁父子家庭﹂ないしは﹁父子所帯﹂という場合もある︒
母子家庭の基本法である﹁母子及び寡婦福祉法﹂は︑﹁母子家庭﹂という呼称を用いている(一条)︒これに対して︑
国勢調査や厚生省の調査報告では︑﹁母子世帯﹂という呼称を用いている︒しかし︑母子及び寡婦福祉法は︑母子家
庭としているものの︑これについての定義を規定していない︒これに対して︑国勢調査や厚生省の調査報告では︑一
応母子世帯についての定義を規定している︒
たとえば︑一九八〇年の国勢調査は︑母子世帯とは︑﹁核家族世帯のなかの母親と子供から成る世帯のうち︑一八
ハ ソ歳未満の親族のいる世帯﹂としている︒これに対して︑一九八八年の厚生省の調査では︑母子世帯とは︑﹁父のいな
い児童(満二〇歳未満の子どもであって︑未婚のもの︑以下同じ︒)がその母によって養育されている世帯等﹂と定
ね義している︒
き 母子家庭の定義について︑比較的詳細に規定しているものに一九七八年の厚生省の調査報告がある︒これによると︑
﹁母子世帯とは︑現に︑児童(調査日現在﹁二〇歳未満の者をいう﹂以下同じ﹂を扶養していて︑次のいずれかに該
当する女子と児童からなる世帯(その世帯にその女子の配偶者および児童の父﹁カの配偶者を除く﹂以外の者がいる
世帯をふくむ)として︑
ア︑配偶者と死別した女子であって現に婚姻していない女子.︑
イ︑離別した女子であって現に婚姻していない女子︒
ウ︑配偶者の生死が明らかでない女子︒
エ︑配偶者から遺棄されている女子︒
オ︑配偶者が海外にあるため︑その扶養をうけることができない女子︒
カ︑配偶者が精神または身体の障害により長期にわたって労働能力を失っている女子︒
キ︑配偶者が長期にわたって拘束されているためその扶養をうけることができない女子︒
ク︑婚姻によらないで母になった女子であって現に婚姻していない女子﹂
となっている.)
すでに述べたように︑母子及び寡婦福祉法は︑母子家庭について定義を規定していない︒しかし︑母子家庭の﹁母﹂
と﹁子﹂について定義している(五条一項・二項)..まず︑母については︑﹁配偶者のない女子﹂であるとして︑以下
のように定めている︒
﹁この法律で︑﹃配偶者のない女子﹄とは︑配偶者(婚姻の届出をしていないが︑事実上婚姻関係と同様の事情に
ある者を含む︒以下同じ︒)と死別した女子であって︑現に婚姻(婚姻の届出をしていないが︑事実上婚姻関係と同
様の事情にある場合を含む︒以下同じ︒)をしていないもの及びこれに準ずる次に掲げる女子をいう︒
一︑離婚した女子であって現に婚姻していないもの
二︑配偶者の生死が明らかでない女子
三︑配偶者から遺棄されている女子
母 子 家庭 の現 状 と課題 189
四︑配偶者が海外にあるためその扶養を受けることができない女子
五︑配偶者が精神又は身体の障害により長期にわたって労働能力を失っている女子
六︑前各号に掲げる者に準ずる女子であって政令で定めるもの﹂
右の﹁政令で定めるもの﹂とは︑①配偶者が法令により長期にわたって拘禁されているためその扶養を受けること
ができない女子︑②婚姻によらないで母となった女子であって︑現に婚姻をしていないもの︑である(母子福祉法施
行令一条)︒
母子家庭における子については︑これを﹁児童﹂とし︑﹁この法律において︑﹃児童﹄とは︑満二〇歳に満たないも
のをいう﹂と規定している︒
以上の定義から︑母子家庭とは︑﹁配偶者のない女子が︑満二〇歳に満たない児童を扶養している家庭﹂というこ
とができる︒なお︑ここで﹁配偶者のない女子﹂とは︑死別︑離別︑遺棄︑生死不明︑未婚の母︑その他ということ
になる︒
二︑母子家庭は︑母ひとりの家庭である︒したがって︑母子家庭は︑父子家庭と同様︑﹁ひとり親家庭﹂あるいは
﹁単親家庭﹂ともいわれる︒
ところで・この﹁単親家庭﹂という言葉の由来については︑次のようないきさつがあったとされている︒一九六〇
年代後半から一九七〇年代にかけて︑イギリスでは︑﹁欠損家族(耳○冨コ審言ζ)あるいは﹁欠損家庭﹂(σ﹃○ズ①︒
げ08①)という概念が用いられた︒これは︑父あるいは母︑ないしは両親のいない家庭を意味した︒しかし︑父ある
ノ ズドユいは母・ないし両親のいない家庭を︑耳o冨コととらえることに疑問が提示されるようになった︒そこで︑その中立
的な概念として︑ワンペアレント・ファミリィ(o器IB冨暮ずヨ身)なる言葉が用いられるようになったとされて
いる︒
なお︑一九八一年になって︑東京都の児童福祉審議会の﹁単親家庭の福祉に関する提言﹂は︑ワンペアレント・ファ
ミリイを︑はじめて公式に﹁単親家庭﹂と訳して用いたとされている︒
今日︑単親家庭は︑ワンペアレント.ファミリィあるいはシングル・ペアレント・ファミリィ(︒︒冒σq一Φb彗Φ暮
ず∋ξ)として︑欧米などで広く使われている概念である︒これは︑両親家庭(葺o壱讐①暮︒︒3邑一図)の対概念と
して︑親の数に着目して判断されたものである︒
しかし︑近時︑母子家庭は︑離婚︑別居︑遺棄︑未婚の母などの家庭が急増し︑それにともなってさまざまな階層
の母子家庭が形成されてきている︒このような状況のなかで︑親の数だけに着目した単親家庭を母子家庭概念として
把握することには︑異論がある︒
三︑母子家庭は︑母と子の家庭である︒それは︑たとえひとりの母と子の家庭であっても︑現代の﹁家庭﹂の一形態
であることを再認識する必要がある︒
ところが︑母子家庭というのみで︑社会的に差別と偏見の目でみられ︑社会的︑経済的に不利な条件のもとにおか
れている︒したがって︑母子家庭を︑一般の家庭と同様に位置づけて考えていくことが必要である︒そのことは母子
福祉行政の基本的な視点として重要である︒
第二母子家庭の現状
母子家庭の現状は︑どうか︒母子家庭の現状を示すもっとも新しい資料は︑厚生省児童家庭局の﹁昭和六三年度全
国母子世帯等調査結果の概要﹂(昭和六三年一}月一日現在)である︒以下︑主として︑この資料に基づいて母子家
庭の現状を分析することにする︒
母 子 家庭 の現 状 と課 題 191
母 子 世 帯 に な った理 由別 母 子世 帯 数及 び構 成 割合 の推 移 表1
1死
1 別 離 別
̲̲̲̲̲̲̲̲A噌
調査年次 総 数 そ の 他 の 遺 棄
総 数 病 死 総 数 離 婚 未婚の母 そ の 他
死 別 生 死 不 明
推 計 数(世 帯)
昭 和27年 3ユ
694,700590,900 1,150,000,896,000
299,gaa547,000291,100, ,
348,000
103,700 254,000
52,400
・:111
15,300 40,000
11,200 22,000
24,800 24,aoo 36 1,029,000 X93,aoo 578,000 215,000 236,000 173,000 3s,aoo 20,00a 5,000 42 515,300 351,100 295,200 55,900 164,20a 122,100 19,aoo 9,400 13,800 48 626,200 387,300 301,100 $6,300 238,900 165,100 30,500 ユ5,300 28,000 53 633,700 316,100 241,900 74,200 317,500 240,100 24,300 30,300 22,800 58 718,100 259,300 201,600 57,700]458,700 352,500 40,600 38,300 27,300 63 849,200 252,300 196,800 55,500596,900 529,100 21,100 30,400 !6,2aa
構 成 割 合(%)
昭和27年 loo.a 85.1 43.2 41.9j14.9 7.5 2.2 1.6 3.6
31 100.0 77.9 47.6 30.3 22.1 14.6 3.5 1.9 2.1
36 100.0 77.1 56.2 20.9 22.9 ・ 3.7 1.9 0.5
42 100.0 ft 57.3 is 31.9 23.7 3.7 1.8 2.7
48 xoo.o 61.9 48.1 13.8 38.2 26.4 4.9 2.4 4.5
53 100.0 49.9 38.2 11.7 50.1 37.9 3.8 4.$ 3.6
58 zoo.o 36.1 28.1 8.0 63.9 49.1 5.7 5.3 3.8
63 ユ111 29.7 23.2 6.5
i
70.3 62.3 2.5
【
3.6 1.9
資料 、厚生省児童家庭局 「昭和63年 度全 国母子世帯等 調査結 果の概 要」
一︑母子世帯数
厚生省が行った調査によると︑昭和六三年一
一月一日現在で︑母子世帯数は八四万九︑二〇
〇世帯と推計されている(表1)︒
まず︑表1から︑母子世帯数に関して︑次の
二点を指摘しておきたい︒
①母子世帯数は︑昭和五八年から急激に増
加してきていることである︒これは昭和五三年
から︑離婚が急激に増加してきていることが主
な原因である︒すなわち︑母子世帯になった理
由として︑離別のうち離婚が圧倒的におおく︑
この離婚は︑昭和五三年二四万一〇〇︑五八年
に三五万二︑五〇〇︑六三年に五二万九︑一〇〇
というように急激に増加してきている︒この離
婚の増加は︑そのまま母子世帯数の増加に反映
している︒
②六三年の母子世帯数︑八四万九︑二〇〇
世帯という数字は︑前回調査の昭和五八年度と
比較してみると=二万一︑○○○世帯の増加と