博士学位論文内容の要旨
氏 名 工藤
ク ド ウ 伸一
シンイチ
所 属
学 位 の 種 類 博士(放射線学)
学 位 記 番 号 健博 第
169
号 学位授与の日付 平成
31
年
3
月
25
日 課程・論文の別 学位規則第4条第2項該当
学 位 論 文 題 名 放射線疫学調査における交絡因子調整の重要性 論 文 審 査 委 員 主査 教 授 福士 政広
委員 准教授 井上 一雅
委員 名誉教授 佐々木 康人(東京大学)
【論文の内容の要旨】
現在の放射線防護基準は、国際放射線防護委員会(International Commission on
Radiological Protection、ICRP)の勧告に基づいている。また、この基準は主に短時間に
高線量を被ばくした原爆被爆者を対象とした健康影響調査結果を元に定められている。し かしながら低線量・低線量率の放射線による健康影響については多くの調査が実施された にもかかわらず、不確定な部分が多い。この理由の一つとして、放射線リスクの適切な評 価を阻害する交絡因子の調整が不十分であることが挙げられる。
放射線影響協会では国の委託による放射線疫学調査を1990年より実施している。調査対 象者は1999年3月末までに放射線業務に従事した日本人であり、このうちの一部の対象者に ついて生活習慣等のアンケート調査を実施した。アンケート調査の結果、被ばく線量の増 加と共に喫煙率が増加する傾向、即ち喫煙による交絡が見られた。
放射線によるリスク(ここでは死亡)を、被ばくしていない者の死亡率(バックグラウ ンド死亡率)と比べた、1Sv当たりの死亡率増加分の比率として過剰相対リスク(Excess
Relative Risk、以下ERR/Sv)として表した場合、このERR/Svを喫煙調整の前後で比較す
ると、ほとんどの死因において喫煙調整がERR/Svを下げる、即ち見かけの放射線リスクが 下がるという結果が得られた。交絡因子は喫煙等の生活習慣だけではなく、教育年数等の 社会経済状態(個人の社会階層や経済状態)も交絡因子となり得る。喫煙に加えて、さら に教育年数も調整した場合、死因によってはERR/Svがほとんどゼロとなった。
被ばく線量の高い集団ほど喫煙率が高いという交絡がもたらされた要因の一つは、職種
と喫煙率の関連である。解析集団を職種別に分類して喫煙率を算出した場合、被ばく線量
が高い保守・補修において高い喫煙率が見られ、被ばく線量が低い事務、設計・研究にお
いて低い喫煙率が見られた。さらに各々の職種群の中で被ばく線量と喫煙率を算出したと