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植物の抗重力反応解明

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Academic year: 2021

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植物の抗重力反応解明

   

       

大阪市大・院・理  保尊隆享

      

富山大・院・理工  神阪盛一郎

 

       

東北大・院・生命  高橋秀幸

      

宇宙航空研究開発機構  山下雅道

 

       

大阪府大・院・生命環境  北宅善昭

     

東京学芸大・教育  飯田秀利

 

       

横浜市大・木原生研  村中俊哉

     

奈良先端大・院・バイオ  橋本  隆

 

       

兵庫県大・院・生命理学  園部誠司

     

名古屋市大・院・自然科学  谷本英一

 

       

東北大・院・生命  西谷和彦

      

愛媛大・院・理工  井上雅裕

 

       

富山大・院・理工  唐原一郎

      

埼玉大・院・理工  小竹敬久

 

       

大阪市大・院・理  若林和幸、曽我康一

 

 

Understanding the Mechanism of Gravity Resistance in Plants

 

 

        Takayuki Hoson*, Seiichiro Kamisaka, Hideyuki Takahashi, Masamichi Yamashita,          Yoshiaki Kitaya, Hidetoshi Iida, Toshiya Muranaka, Takashi Hashimoto, Seiji Sonobe,     Eiichi Tanimoto, Kazuhiko Nishitani, Masahiro Inouhe, Ichirou Karahara, Toshihisa     Kotake, Kazuyuki Wakabayashi, Kouichi Soga  

        *, Graduate School of Science, Osaka City University, Sumiyoshi-ku, Osaka 558-8585 

        E-Mail: [email protected] 

 

Abstract: Resistance to the gravitational force is a principal graviresponse in plants, comparable to gravitropism. However, only limited information has been obtained for this graviresponse. To clarify the nature and mechanisms of gravity resistance, we have organized a working group, consisting 16 members. By ground-based experiments using tubulin mutants, we confirmed the essential role of reorientation of cortical microtubules in gravity resistance. We have also shown that calli and cultured cells respond to the gravity signal by the mechanism similar to that used by seedlings. These data as well as active discussions and exchange of information among members will be utilized for establishment of a strategy for understanding gravity resistance in plants.  

Key words; Gravity resistance, Microgravity, Plant, Space. 

 

1.植物の抗重力反応

 

  植物は、数億年前、他の生物に先駆けて海から陸 に上がり、以後、陸上植物として飛躍的な進化、繁 栄を遂げた。それを可能にしたのが、陸上での様々 なストレスに対する抵抗、適応能力の獲得である。

中でも、

1 g

の重力に抵抗することは必須の過程で あり、植物は強固な体を構築することによってこの 困難な問題を乗り越えてきた(

Hoson 2003, 2006

)。

このように、重力に対する抵抗は、植物の進化を支 える重要な過程である。しかし、今までの重力植物 学や宇宙植物学の研究は、重力屈性に代表される重 力形態形成に関するものがほとんどであり、この反 応の理解は大きく立ち後れていた。そこで我々は、

これを「抗重力反応(gravity resistance)」と名づけ、そ の実態や機構の解明をめざして研究を進めてきた (Hoson and Soga 2003, Hoson et al. 2005, 保尊

2005, 2007,

保尊ら

2008

)。

 

  抗重力反応過程は、他の環境シグナルに対する反 応と同様に、シグナルの受容、受容したシグナルの 変換・伝達、そしてシグナルに対する応答、の3つ に分けられる

重力シグナルの受容過程に関しては、

阻害剤を用いた解析により、原形質膜上に存在する メカノレセプター(機械的刺激受容イオンチャンネ ル ) が 関 与 す る こ と を 明 ら か に し た (Soga et al.

2004)。また、抗重力反応は平衡細胞を除去した植

物やアミロプラストを欠損した突然変異系統でも

正常に起こるので、シグナル受容機構は重力屈性と

抗重力反応とで独立であり、抗重力反応では平衡細

胞ばかりでなく、植物体を構成する多くの細胞で受

容されることも明らかになった。植物におけるメカ

ノレセプターとしては、

MCA1

が単離され、その遺

伝子の発現を改変した変異系統を用いて機能が解

析されている(Nakagawa et al. 2007)。今後、抗重力

反応におけるこのタンパク質の役割を解明するこ

(19)

 

 

とが重要である。

 

  抗重力反応におけるシグナルの変換・伝達過程を 解明するために遺伝子発現解析を行ったところ、過 重力環境下では、原形質膜の構築と機能に関与する 遺伝子群のうち、ステロール合成経路を律速する

HMGR

遺伝子の発現のみが促進された。その結果、

膜成分のうちステロールレベルが特異的に増加し た(

Yoshioka et al. 2003

)。一方、α-及びβ-チューブ リン遺伝子ファミリーの多くのメンバーの発現レ ベ ル が 重 力 刺 激 に 応 じ て 速 や か に 増 加 し (Matsumoto et al. 2007)、それらによって構築される 表層微小管の配向が細胞長軸と直角から平行へと 変化した(

Soga et al. 2006

)。過重力環境における表 層微小管の配向変化の機構は、最近提唱された枝分 かれモデルとよく適合していた。シグナル変換・伝 達機構をさらに理解するため、原形質膜及び微小管 の構築と機能に関わる遺伝子を改変した突然変異 体を単離し、重力シグナルに対する応答性の変化を 解析した。単離した多くの変異体のうち、

HMGR

ノ ックアウト系統と数種のチューブリン及び微小管 結合タンパク質変異体が特徴的な性質を示した。こ れらの変異体は、野生型では過重力環境下でのみ見 られる矮化やねじれなどの形質変異を既に

1 g

下で 示し、過重力はそれ以上の変化をもたらさなかった。

すなわち、これらの変異体では重力に抵抗する能力 が損なわれており、膜ステロールと表層微小管が抗 重力反応において不可欠な機能を果たしているこ とが明らかになった。さらに、膜ステロールと表層 微小管はともにメカノレセプターからの情報伝達 の下流で機能するが、お互いに独立したシグナル変 換・伝達経路を担うことが示された。

 

  抗重力反応における最終的な応答過程を司るの は、植物体を構成する成分の中で最も力学的強度に 優れた細胞壁である。遠心過重力を用いた地上実験 により、過重力環境下では、細胞壁の力学的強度が 著しく増加すること、また、この増加は主に

2

種の 抗重力細胞壁多糖(キシログルカン及び

1,3,1,4-

β

-

グルカン)の代謝の変化に起因することが明らかに なった。そして、キシログルカンに関しては、継続 的な合成の維持と細胞壁内での分解活性の低下が、

一方、1,3,1,4-β-グルカンについては、合成活性の 増加と分解活性の低下が関与することがわかった (

Soga et al. 2007, Kimpara et al. 2008

)。さらに、細胞 壁環境の変化、特に細胞壁

pH

の上昇が細胞壁内で の分解活性の低下に貢献することも示された。この ように、植物は、重力シグナルに応じて特定の細胞 壁多糖の代謝と細胞壁環境を変えて細胞壁物性を

制御し、重力に抵抗することが明らかになった。こ の仮説の一部は、スペースシャトル

STS-95

におけ る宇宙実験(BRIC-RC)によって確認された(Hoson 

and

 

Soga 2003, Hoson et al. 2005

)。

 

 

2.本年度のWG活動

 

  抗重力反応の機構と実態の全容を明らかにする ため、

16

名からなる宇宙環境利用科学委員会研究班

WG

「植物の抗重力反応解明」を設立し、宇宙の微 小重力環境を有効に利用して植物の抗重力反応を 解明するための研究戦略の策定をめざして、活動を 行っている。本年度は、引き続き、植物の抗重力反 応を解明するための宇宙実験の概要、手法や機器、

意義と課題等についてさらに詳細な検討を加えた。

まず、研究戦略策定のため、

2008

12

2

日に、「高 等植物の生活環」WG(代表者:神阪盛一郎)、「フ ロンティア生物の戦略」WG(代表者:高橋秀幸)、

及び「宇宙環境に対する植物反応解明のための実験 系構築」WG (代表者:北宅善昭)と合同で

WG

会合 を開催した。そこで提起された問題点については、

さらに

E-メール等を通して議論を重ねた。また、研

究戦略の策定に必要となる抗重力反応機構の詳細 に関するデータを得るために、抗重力反応における 表層微小管の配向変化の役割を検証するとともに、

カルスや遊離培養細胞における抗重力反応の実態 を明らかにした。

 

 

3.抗重力反応機構の解明

 

  チューブリンの構造に変異を生じたシロイヌナ ズナ突然変異体は

1 g

環境下でも表皮細胞列のね じれを生じ、伸長成長の抑制や肥大成長の促進を示 した。抗重力反応における表層微小管の役割を明ら かにするため、この変異体における表層微小管の配 向と表皮細胞列のねじれの関係を詳細に解析した。

チューブリン変異体

tua3

D205N

)と

tua4

S178∆

の胚軸の表層微小管は、1

g

環境下でも既に右肩上

がりに配向しており、その平均角度は過重力処理に

より

3

倍程度に増加した。また、これらの変異体の

表皮細胞列は、1

g

環境下でも左巻きのねじれを示

し、ねじれの角度は過重力処理により約

2

倍になっ

た。一方、tua6(A281T)変異体の胚軸の表層微小

管は、

1 g

環境下でも明らかに左肩上がりに配向し

ており、その平均角度は過重力処理により約

2

倍に

増加した。また、

tua6

変異体の表皮細胞列は、

1 g

境下でも右巻きのねじれを示し、ねじれの角度は過

重力処理により約

2

倍になった。そして、胚軸の表

(20)

 

 

皮細胞列のねじれ角度と表層微小管の配向角度と の間には高い相関が認められた(

R = 0.97

)。すなわ ち、通常の細胞では、重力刺激に応じて表層微小管 の配向が細胞長軸と直角から平行へと変化し、肥大 成長が誘導されて重力に抵抗するのに対して、チュ ーブリン変異体では、表層微小管が右肩上がりある いは左肩上がりに配向するため、それと直角方向へ の細胞のねじれが生じて、重力に対して正常に抵抗 できないことが明らかになった。以上の結果は、植 物が重力に応答して細胞成長の方向を調節し抗重 力反応を行う際に、表層微小管が重要な働きをする ことを示している。

 

 

4.抗重力反応の実態の解明

 

  抗重力反応における普遍性と階層性を明らかに するため、芽ばえばかりでなく、カルス及び遊離培 養細胞の成長、細胞形態、代謝、細胞壁動態、並び に表層微小管の構造変化に対する過重力の影響を 解析している。タバコ

BY-2

細胞においては、1

g

下では細胞長軸と直角であった表層微小管の配向 が、過重力処理によりすみやかにランダムな方向へ と変化した。この変化は、過重力処理後、

1

時間以 内に起こり、連続過重力環境下でも

3

時間以降は回 復に向かった。また、表層微小管の配向変化は、ガ ラス等に貼り付けた場合に明瞭で、パーコール溶液 中に浮遊させると起こらないこと、過重力刺激の方 向とは無関係であることが明らかになった。さらに、

過重力による配向変化は、メカノレセプター阻害剤 の存在下では誘導されないことが示された。一方、

過重力によってカルスの成長が抑制される際には、

細胞壁合成活性が低下するとともに、可溶性糖レベ ルの増加が起きていることがわかった。このように、

抗重力反応は、重力屈性とは独立に、個々の細胞レ ベルで起こることが明らかになった。さらに、抗重 力反応のメカニズムも基本的に、芽ばえとカルスや 遊離培養細胞との間で共通であることが示された。

 

 

5.まとめと展望

 

  本

WG

活動や地上公募研究で進めている地上実 験では、主に遠心過重力に対する抗重力反応を解析 している。しかし、過重力はあくまで人工的な刺激 であり、本来の目標である地球上の

1 g

の重力に対 する抗重力反応の機構を解明するためには、宇宙実 験が必要不可欠である。本

WG

のメンバーにより既 に数題の宇宙実験が計画されているが、植物の抗重 力反応の全容を理解するためには、本

WG

活動によ

って得られた新たな成果を検証する次の宇宙実験 の実施が必要であり、「きぼう」第2期後期利用実 験などへの応募を想定した活動を推進して行きた い。

 

 

6.文献

 

1) Hoson, T., Biol. Sci. Space, 17, 54-56 (2003). 

2) Hoson, T., J. Gravit. Physiol., 13, 97-100 (2006). 

3) Hoson, T. et al., Adv. Space Res., 36, 1196-1202 (2005). 

4) Hoson, T. and Soga, K., Int. Rev. Cytol., 229, 209-244 (2003). 

5)

保尊隆享

,

生物工学

, 83, 565-567 (2005). 

6)

保尊隆享

,

宇宙環境利用の展望, JAROS, p. 59-77

(2007). 

7) 

保尊隆享 他,  宇宙利用シンポジウム(第 24 回), 

p.

390-393 (2008). 

8) Kimpara, T. et al., Ann. Bot., 102, 221-226 (2008) .  9) Matsumoto, S. et al., Adv. Space Res., 39, 1176-1181 (2007). 

10) Nakagawa, Y. et al., Proc. Natl. Acad. Sci.USA, 104, 3639-3644 (2007).  

11) Soga, K. et al., Planta, 218, 1054-1061 (2004). 

12) Soga, K. et al., Planta, 224, 1485-1494 (2006). 

13) Soga, K. et al., Adv. Space Res., 39, 1204-1209 (2007). 

14) Yoshioka, R. et al., Adv. Space Res., 31, 2187-2193 (2003). 

 

(21)

植物の重力受容の分子機構

辰巳仁史1, 豊田正嗣1,2, 古市卓也1,3, 曽我部正博1,4,5.

1名大院・医・細胞生物物理 2奈良先端大・バイオ 3Friedrich-Alexander-Universität

Erlangen-Nürnberg, Molecular Plant Physiology 4細胞力覚/SORST, JST, 5生理研・分子生理

The molecular mechanism of the gravi-response in Arabidopsis seedlings

Hitoshi Tatsumi 1, Masatsugu Toyota 1,2, Takuya Furuichi 1,3 and, Masahiro Sokabe 1,4,5.

1Department of Physiology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Japan; 2Graduate School of Biological Sciences, Nara Institute of Science and Technology; 3Molecular Plant Physiology,

Friedrich-Alexander-Universität Erlangen-N

ü

rnberg, Germany;

4ICORP/SORST, Cell Mechanosensing Project, Japan Science and Technology Agency, Japan;

5Department of Molecular Physiology, National Institute for Physiological Sciences, Japan

Plants respond to a large variety of environmental signals, including changes in the gravity vector (gravistimulation). Previous studies have demonstrated that gravistimulation induces increases in cytoplasmic pH in root columella cells (Massa et al., 2003) and InsP3 level in inflorescence stems (Perera et al., 2001) of Arabidopsis thaliana. Recently, gravistimulation is also known to increase the cytoplasmic free calcium concentration ([Ca2+]c) in Arabidopsis seedlings (Plieth and Trewavas, 2002). However, organs responsible for the [Ca2+]c increase and the underlying cellular/molecular mechanisms remain to be solved. Previously using Arabidopsis seedlings expressing apoaequorin, a Ca2+-sensitive luminescent protein in combination with an ultrasensitive photon counting camera, we clarified the organs where [Ca2+]c increases in response to gravistimulation and characterized the physiological and pharmacological properties of the [Ca2+]c increase (Toyota et al., 2008). When the seedlings were gravistimulated by turning 180o, they showed a transient biphasic [Ca2+]c

increase in their hypocotyls and petioles. The second peak of the [Ca2+]c increase depended on the angle but not the speed of rotation, whereas the initial peak showed diametrically opposite characters. This suggests that the second [Ca2+]c

increase is specific for changes in the gravity vector. Here, we made a control experiment; the gravi-stimulation in 1g ground condition and the same gravi-stimulation in 1g-flight experiments before making parabolic flight experiments to examine the properties of the second [Ca2+]c increase. We could record the [Ca2+]c increase in 1g-flight experiments but the amplitude of the [Ca2+]c increase was diminished ca. 30% presumably due to the vibration during the flight, but was large enough to analyze.

植物の重力受容はこれまで根の屈地性や芽 生えの負の屈地性などを指標として研究が行 われてきた。これらの反応は時間的にはゆっく りした反応であって、数日を要して重力に対す る受容反応が観察される。

2002

年に細胞内の カルシウムイオン濃度の変化をエクオリン導

入植物で観察する実験系を用いて重力変化に

対する細胞内カルシウムイオン濃度の上昇が

観察可能であることをイギリスのグループが

報告した(Plieth and Trewavas, 2002)。その反

応は数十秒で見られる重力応答であるため、重

力受容の初期反応を観察している可能性が高

(22)

い。われわれは簡便かつ高精度の重力応答計測 装置を開発し,重力反応を調べた(図

1)。この

装置では光量子計数法による超高感度化が図 られているために、植物のどの部位がより敏感 に重力に応答するのかも調べることが可能に なった(Toyota et al., 2008)。さらに重要なこと は、植物の重力反応がリアルタイムで測定でき、

また時間分解能が高い(0.5 s)ことで応答速度 の速い重力受容に関わるチャネル分子の探査 が可能になったことである。重力受容反応がカ ルシウムイオンの細胞内への流入による細胞 内カルシウムイオン濃度の上昇によると推定 されることからもわかるように、イオンチャネ ルが重力受容において中心的な役割を持つ可 能性が高い。図1の装置を用いて、地上

1g

環 境において植物に

180

度の回転による重力刺 激を与えると、細胞内カルシウムイオン濃度の 上昇が観察された(図

2)

しかし、この刺激では重力の方向の変化に加 えて、回転しつつさまざまな回転角度の重力刺 激も同時に植物に与えている。それらの複合し た反応を計測していることになる。この問題を 解決するために、パラボリックフライトによる マイクロ

g

の条件で植物体を回転し、その後の 重力回復時の

1.5g

の重力刺激を与えることで 回転刺激と重力刺激を分けて植物に与えるこ とを計画した(この実験の成果は投稿準備中で ある) 。

この計画を達成するには植物を飛行機に搭 載する必要がある。植物の重力受容は常に働い ているので、装置の飛行機への搬入や離陸時の 振動などすべて植物にとって重力刺激となり うる。事実、植物に重力刺激を複数回数与える と刺激に対するカルシウム反応が小さくなっ てしまう

(Plieth and Trewavas, 2002)

。よっ てこれらの刺激はパラボリックフライト実験 に影響すると考えられる。これらの影響を最小 限にして、重力刺激反応が地上実験と同様のレ ベルで計測できるようにする必要がある。この ことを検討した基礎研究について報告する。

<装置および測定方法>

飛行時の横方向への振動による影響を低 減する為、植物試料及び発光計測装置を入れる 測定暗箱は航空機特有の周波数に対応した振 動を減衰する耐震ゲル上に搭載した回転刺激 装置に設置した。パラボリックフライトによる 微小重力実験では一度のフライトにおける試 行回数が

10

回程度と制限される為、3 対の発 光計測装置を回転刺激装置に設置し、

3

連の同 時計測を可能とした。微小重力環境下での安定

した旋回を行うため、回転刺激装置はサーボモ ータにより制御した。また、試料に対する重力 変化は回転体に取付けた

g

センサーにより同 時記録出来る様にした。

エクオリン遺伝子を導入したシロイヌナズ ナサンプル

40

株は

6 cm

のシャーレの中に隔離 した。シロイヌナズナは

26

度以上の気温を好 まないため、空調を用いて機体内の温度を生育 に適した

23

度程度に保持した。測定試料に対 する振動の影響を最小限とする為、緩衝用のク ッションで固定した後、暗箱の中に入れて航空 機内に搬入、設置した。飛行機が水平飛行に移 行した後、シャーレを図

1

の発光計測装置の下 に設置した。

<航空機内にお ける重力応答>

本 研 究 に お い て 開 発 し た 計 測 装 置 を 用 い て 計 測 さ れ た 飛 行 中 の重力応答。飛行 中 の 重 力 変 化 に よ る

[Ca2+]c

応 答 を 地 上 で の 計 測 結 果 と 比 較 し た 例を図

2

に示す。

飛行中の計測で は地上での計測 と比較して発光 強 度 の 変 化 は

30%

程 度 に 低 く なっていたが、明確に観測され、コントロール実 験が達成されたことを示していた。

Fig.2 The gravi-response in 1g ground condition and the same gravi-response in 1g-flight condition.

(a)

(b) (c) (a)

(b) (c)

Fig.1 Our experimental setup for gravi-stimulation.

a) a PMT, b) seedlings, c) a motor for rotation.

(23)

エチレン非感受性シロイヌナズナ突然変異体の花茎におけるリグニン生合成 関連遺伝子の発現に対する過重力刺激の影響

富山大・理・生物  小林麻衣

富山大・院・理工  玉置大介、唐原一郎、神阪盛一郎

Effect of hypergravity stimulus on gene expression related to lignin formation in inflorescence stems of ethylene-insensitive Arabidopsis mutant ein3-1.

Mai Kobayashi1, Daisuke Tamaoki2, Ichirou Karahara2, Seiichiro Kamisaka2

1Department of Biology, Faculty of Science, University of Toyama, Gofuku, Toyama,   930-8555 Japan

2Graduate School of Science and Engineering, University of Toyama, Gofuku, Toyama,   930-8555 Japan

E-Mail: [email protected]

Abstract: Our previous studies have shown that hypergravity stimulus inhibits growth, and promotes lignin formation in inflorescence stems of Arabidopsis by the up-regulation of genes related to lignin biosynthesis. In the present study, we examined whether ethylene is involved in these responses using ethylene-insensitive Arabidopsis mutant ein3-1. Our results revealed that hypergravity significantly inhibited growth of inflorescence stems, and promoted gene expression related to lignin formation in inflorescence stems of wild type. Growth inhibition of inflorescence stems was also observed in ein3-1. However, the effect of hypergravity on the gene expression was not observed in ein3-1, suggesting that ethylene signaling is involved in the up-regulation of the expression of lignin-related genes by hypergravity in Arabidopsis inflorescence stems.

Key words; Ethylene, ein3-1, Lignin, Hypergravity, Arabidopsis          

  1、序論

  陸上植物は1 gの環境下で、重力に抗して生長す る。そのために植物は細胞壁を発達させ、進化の過 程において重力環境に適した体の強度を獲得してき たと考えられている。このように重力に抗して体作 りを行うことは植物の抗重力反応と呼ばれる。細胞 壁は一次壁と二次壁からなり、一次壁は細胞が分裂 するとともに形成されて、二次壁は分化に伴って形 成される。共にセルロースを主成分としているが、

二次壁は特徴的な成分であるリグニンを含み、支持 構造において特に重要な役割を果たしている。

  植物が重力に応じて細胞壁の形成を調節すること は一次壁においてまず明らかにされた。過重力環境 下においては、細胞壁に含まれるキシログルカンが 高分子化し、細胞壁の伸展性が低下することで茎の 伸長成長が抑制される(Soga et al. 1999, 2001)。一方、

微小重力環境下においてはキシログルカンを含む細 胞壁多糖類の分子量が減少して、細胞壁の伸展性が 増加する(Hoson et al. 2002)。

  二次壁に関しては、以前の我々の報告で、過重力 刺激(300 g)がシロイヌナズナの花茎においてリグ ニンの形成および二次壁の発達を促進することが明 らかにされている(Tamaoki et al. 2006, Nakabayashi et al.2006)。

シロイヌナズナの花茎においては、過重力刺激に よりオーキシン応答性遺伝子やエチレン応答性遺伝 子の発現が上昇することから(Tamaoki et al. 投稿中)、

これらの植物ホルモンが過重力刺激による抗重力反 応におけるシグナリングを担っている可能性が示唆 されている。オーキシンについては、過重力刺激に よる内生オーキシン量の増加が花茎における抗重力 反 応 に 関 与 し て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ て い る

(Tamaoki et al. 2008)が、エチレンとの関わりにつ いてはまだ詳しく調べられていない。 

そこで本研究では、シロイヌナズナの花茎におけ る抗重力反応にエチレンが関わるか否かを明らかに することを目的とした。エチレン非感受性変異体

ein3-1 を用いて、過重力刺激が花茎の長さ、乾燥重

量、横断面積に与える影響を調べた。また、過重力 刺激による二次壁におけるリグニン形成の促進にエ チレンが関与するかを知るために、過重力刺激を与 えた場合のリグニン合成関連遺伝子の発現およびリ グニン含量の定量を ein3-1 を用いて行い、野生型 (WT)と比較した。

2、材料と方法 植物材料

シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ (Arabidopsis thaliana L. Heynh

(24)

ecotype Columbia)のWTおよびein3-1の種子を、試 験管に入れたムラシゲ・スクーグ寒天培地上に播種 し、4℃3日間の低温処理後、20-26日間、23℃で連 続白色光下(130 µmol/m2s1)で生育させた。ein3-1 はNottingham Arabidopsis Stock Centreから入手した。

花茎が5 mmの長さになった植物体(Boyesら(2001) の発達段階の分類によればStage No. 5に相当する。

また Smyth ら(1990)の花の発達段階の分類によると

Stage 1-12 に相当する。)を選び、遠心機を用いて

25℃の条件で300 g の過重力を茎から根の方向に向

けて24時間与えた (過重力処理区)。1 g 対照区とし ては、25℃暗所で24時間静置した 。植物体はさら に連続白色光下で3日間生育させた。

乾燥重量測定

過重力処理後3日後に花茎長を測定し、花茎を切り 離して、60℃で一晩乾燥させた。乾燥後、ウルトラ ミクロ天秤(SE2, Sartorius, Goettingen, Germany)を用 いて花茎の乾燥重量を測定した。

明視野顕微鏡観察と横断面積測定

過重力処理後3日間生育させた植物の花茎の基部か

ら5 mmの長さの切片を切り出し、切片を5%(w/v)

寒天に包埋した。その後、リニアスライサーPRO7(堂 阪イーエム株式会社,京都,日本)を用いて、基部から

2.5 mmの部位から50μm の厚さの横断切片を切り

出し、明視野顕微鏡で観察した。花茎横断面の面積 は明視野顕微鏡観察によって得られたデジタル画像 か ら 、 ソ フ ト ウ ェ ア Openlab 3.0.2 (Improvision,  Conventry, UK) を用いて測定した。

RNA抽出

Plant RNA Isolation Mini kit (Agilent Technologies, Palo Alto, USA)を用いて、1 g あるいは300 g 処理を 24時間行った直後の植物体の花茎からtotal RNA を 抽出した。

Real-time RT-PCR

PCRはABI PRISM 7000 Sequence Detection System

(Applied Biosystems, Foster City, US)を用いた。PCR 産物の定量にはインターカレーター法(SYBR Green を用いた)により行った。RNA の逆転写反応には PrimeScript RT reagent Kit(Perfect Real Time)(タカ ラバイオ株式会社、東京、日本)を用い、付属のプ ロトコールに従って行った。PCR 反応は SYBR・ Premix Ex Taq iPerfect Real Time )(タカラバイオ株 式会社、東京、日本)を用いて行った。遺伝子の発 現レベルは、18S ribosomal RNAの値に対して標準化

した相対的な値として求めた。生物学的に3回の独 立した実験を行った。

リグニン定量

過重力処理後3日後に花茎を切り出し、乾燥重量を 測定後、トルエン/エタノール溶液で洗浄し、アセチ ル ブ ロ マ イ ド 法 に よ り リ グ ニ ン 定 量 を 行 っ た (Tamaoki et al. 2006)。

3、結果と考察

  まず、過重力刺激が花茎の生長に与える影響にエ チレンが関与するか否かを明らかにするために、過 重力刺激後の花茎の伸長成長と乾燥重量、および花 茎基部横断面の面積をWTとein3-1において測定し 比較した。花茎の伸長成長はWTとein3-1変異体の 両方において過重力刺激によって有意に抑制された。

その一方で、乾燥重量はWTにおいて過重力処理に より有意に増加したのに対し、ein3-1 変異体では変 化が見られなかった。また、花茎基部横断面の面積 は過重力処理によりWTで有意に増加し、過重力処 理は花茎の中心柱と皮層の横断面積を同程度に増加 させることが確認されたが、ein3-1 変異体ではこの ような花茎の横断面積の増加は見られなかった。こ れらのことから、過重力刺激による花茎の伸長成長 抑制にはエチレンは関与していないが、乾燥重量の 増加と花茎基部の横断面の面積の増加にはエチレン が関与しているという可能性が示唆された。

次に、過重力刺激による花茎におけるリグニン形 成の促進にエチレンが関与するか否かを明らかにす るためにリグニン合成関連遺伝子である ATPA2C3HC4H の 過 重 力 刺 激 後 の 発 現 を Real-time

RT-PCR により解析した。その結果いずれの遺伝子

もWTでは過重力処理により発現量が増加したが、

ein3-1 では増加しなかった。また、花茎におけるリ

グニン含量の定量を行ったところ、WT では過重力 刺激によるリグニン量の増加が見られたが、ein3-1 では見られなかった。これらのことから、花茎にお いて過重力刺激によるリグニン形成の促進にはエチ レンのシグナリングが関与していることが示唆され た。

以前の研究より、過重力刺激によるリグニン形成 および二次壁形成の促進は過重力刺激による花茎に おける内生オーキシン量の増加が仲介することが示 されている(Tamaoki et al. 2008)。またオーキシンは エチレン生合成を誘導することが知られていること から(Yang and Hoffman 1984)、過重力処理による内 生オーキシン含量の増加がエチレン生合成およびシ グナリングを促進し、リグニン形成を促進するとい

(25)

う可能性が考えられる。

以上の結果から、シロイヌナズナの花茎において 過重力刺激により引き起こされる乾燥重量の増加や 横断面の面積の増加、そしてリグニン形成にはエチ レンが関与している可能性が示唆された。過重力刺 激による花茎における内生オーキシン量の増加がエ チレン生合成とシグナリングを促進し、これらの抗 重力反応を仲介しているという可能性が考えられる。 

参照文献

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(26)

過重力条件下におけるアラビノガラクタン-プロテインの遺伝子発 現

埼玉大 小竹 敬久、五十嵐 俊、円谷 陽一 大阪市大 曽我 康一、若林 和幸、保尊 隆享

Expression of arabinogalactan-proteins under hypergravity conditions

Toshihisa Kotake1, Shun Igarashi1, Kouichi Soga2, Kazuyuki Wakabayashi2, Takayuki Hoson2, and Yoichi Tsumuraya1

1Division of Life Science, Graduate School of Science and Engineering, Saitama University, 255 Shimo-okubo, Sakura-ku, Saitama 338-8570

2Department of Biology and Geosciences, Graduate School of Science, Osaka City University, Sumiyoshi-ku, Osaka 558-8585

E-mail: [email protected]

Abstract: Arabinogalactan-proteins (AGPs) are a family of proteoglycans found in the plasma membrane and cell walls of higher plants. AGPs are implicated in many physiological processes such as cell elongation, cell-to-cell signaling, cell adhesion, cell death, and stress responses. The effects of hypergravity on expression of AGP species were examined using AGPs visualized with GFP. The expression level of a classical AGP significantly decreased in the influorescence meristem under hypergravity conditions. The expression level recovered within 2 hours after transfer to 1 g condition. The results indicate that expression level of the AGP is regulated by the magnitude of gravity.

Key words;Arabidopsis thaliana, arabinogalactan-protein, cell wall, gene expression, hypergravity.

はじめに

 およそ4億年前に地上に進出して以来、植 物は過酷な環境に適応すべく、重力応答反応 を進化させて来たと考えられる。植物には重 力屈性の他に、抗重力反応と呼ばれる重力応 答反応が存在する。重力の向きに対する反応 である重力屈性に比べ、重力の大きさに対す る反応である抗重力反応は未解明な部分が多 い(Hoson and Soga 2003)。アラビノガラク タン-プロテイン(AGP)は高等植物に普遍的 に存在する細胞外プロテオグリカンであり、

細胞伸長や細胞接着、細胞間情報伝達、スト レス応答など様々な生理現象に関与すること が知られている(

Fincher et al. 1983, Nosnagel 1997)。AGP はヒドロキシプロリンやセリン、

トレオニンに富んだコアタンパク質とアラビ ノガラクタン(AG)糖鎖から構成され、糖鎖 が重量の 90%以上を占める。また多くの AGP

コアプロテインの C 末端には原形質膜にアン カリングされるグリコシルホスファチジルイ ノシトール(GPI)アンカー付加シグナルがあ り、細胞表面や細胞壁に存在すると考えられ ている。個々の細胞が強固な細胞壁に覆われ ている植物細胞においては、隣り合う細胞壁 との接着や原形質膜と細胞壁との接点が成 長・分化に重要である。AGP 分子種の一つに 変異をもつ

sos5

変異体では、適切な細胞接着 を形成できないために根の組織形態が乱れる ことが報告されている(

Shi et al. 2003

)。AGP は高等植物には普遍的に存在する一方で、単 細胞性藻類には見られないことから、植物が 水中から陸上に進出する過程で、地上の重力

(1 

g)環境に適した形態形成を行うために発

生・発達したと予想される。興味深いことに、

ポプラでは引張あて材で AGP 様遺伝子の発現

が誘導される(Lafarguette et al. 2004)。AGP

(27)

は環境因子に応答して細胞壁の構築・代謝の 制御している可能性がある。 しかしながら AGP は分子種が多く(Schultz et al. 2002)、重力応 答反応に関係する AGP 分子種は未だ同定され ていない。

 本研究では、5種類の AGP 分子種を緑色蛍 光タンパク質(GFP)により生きた植物で可視 化し、過重力環境下における発現変化を詳細 に解析した。本研究では、一部の AGP 分子種 が重力の大きさに応答して発現することが明 らかになった。

方法

植物材料

 シロイヌナズナ(Columbia)は MS 寒天培地 に播種し、滅菌条件のもとで2週間育成した。

その後遠心管に移植し、暗所、23-26℃で遠心 過重力処理した(

Soga et al. 1999, Hoson and

Soga 2003

)。対照には移植後過重力処理と同

じ時間、暗所で育成した植物を用いた。

AGP 分子種の GFP による可視化と観察

 クラシカル AGP2種、AG-ペプチド2種、フ ァシクリン様 AGP2種の計6種類の AGP のゲ ノミック遺伝子を PCR により単離した。ゲノ ミック遺伝子には、本来の発現や分子として の挙動が反映されるように、2 kb 程度のプロ モーター領域、オープンリーディングフレー ム、1 kb 程度の 3

側領域を含むよう単離した。

ゲノミック遺伝子のコアプロテインコード領 域に

GFP

遺伝子を挿入し、AGP- GFP 遺伝子コ ンストラクトとした。

 アグロバクテリウム法により

AGP- GFP

遺伝 子コンストラクトをシロイヌナズナに遺伝子 導入し、AGP 可視化植物を作成した。AGP-GFP のシグナルは共焦点レーザー顕微鏡(ニコン TE2000-U)により観察した。

結果

AGP 分子種の可視化

 これまでの研究で(小竹他, 2008)、シロ イヌナズナの芽生えには重力に発現応答する 分子種が少なくとも3種存在することが分か っている。今回、これら3種と、比較的発現 量の高い3種のAGP分子種の可視化を試みた。

 AGP- GFP コンストラクトをシロイヌナズナ

に導入したところ、6種類の AGP-GFP うち、

5種類で GFP シグナルが観察された。観察で きなかった1種類は、短いオープンリーディ ングフレーム内にイントロンを持つ遺伝子で、

GFP

遺伝子の挿入が、発現に影響した可能性 がある。AGP-GFP のシグナルパターンは AGP 分子種毎に異なっていた。興味深いことに、

コアプロテインの構造と発現部位・局在の間 には相関がなく、相同な構造の AGP 分子種が 異なる生理機能を持つことが示唆された。

過重力環境下での発現変化

 可視化した AGP 分子種のうち、クラシカル AGP に分類される1種は、過重力に対して顕 著 な シ グ ナ ル 強 度 の 低 下 を 示 し た 。 こ の AGP-GFP は、1 

g

環境下では、根の分裂組織、

地上部の茎頂分裂組織、葉のトライコームで 発現が認められた。過重力環境下で育成する と、茎頂分裂組織と葉のトライコームにおけ るシグナルが顕著に低下した。葉のトライコ ームでは、均一だったシグナルがパッチ状に 変化した。根における発現は変化しなかった。

茎頂分裂組織における過重力による発現低下 は、処理後 2 時間以内に観察され、定量的 RT-PCR の結果とも一致した。過重力処理後、

1 g 環境にもどすと、1時間以内に GFP シグ ナルが回復した。また、メカノレセプター阻 害剤であるガドリニウムで処理した後に過重 力処理すると、シグナル強度の低下が観察さ れなかった。このことから、このクラシカル AGP に分類される AGP 分子種は、地上部にお いて、重力の大きさに応答して発現が変化す ると考えられる。

考察

 AGP の生理機能は多岐にわたるが、その具 体的な分子機能は未だ不明である。最近、GPI アンカータンパク質の一種、COBRA タンパク 質が、セルロースの配向制御に関与すること が報告された(

Roudier et al. 2005)。AGP の大

半は GPI アンカーにより原形質膜に係留され ており、同様の分子機能を持つ可能性がある。

また、COBRA タンパク質もアラビノガラクタ

ン糖鎖化を受けるとの予測もある(Seifert and

Robert 2007)。植物細胞の形態や成長はセル

ロース微繊維の配向により支配されているこ

とから、AGP は植物が感受した重力シグナル

(28)

の伝達に関わることが考えられる。原形質膜 内側に存在する表層微小管の配向が、細胞壁 のセルロース配向を制御すると考えられてい るが、AGP を始めとする GPI アンカータンパ ク質は、空間的には両者の間に存在する。今 後、AGP と表層微小管、セルロース微繊維と の関連を明らかにする必要がある。

 今回詳細に解析したクラシカル AGP 分子種 は、重力の大きさに応じて発現を変化させた。

植物にはこの AGP 分子種のように、重力の大 きさに応答した発現を示す遺伝子が多数存在 すると予想される。これらは、抗重力反応に 関連した未知の情報伝達経路により発現を制 御されている可能性が高い。今回の AGP-GFP コンストラクトは約 2 kb のプロモーター領域 を含んでいることから、現段階では過重力応 答に関わる発現制御領域を絞り込むのは困難 ではあるが、プロモーター領域を段階的にト ランケートすることで、発現応答に重要な領 域・配列を特定することが、将来的には可能 と考えている。

 AGP は糖鎖が重量の 90%以上を占めるプロ テオグリカンであることから、遺伝子発現だ けでその生理機能を推測することは危険であ る。実際、植物体内には、AGP の糖鎖代謝酵 素が多数存在し (Kotake et al. 2005, Kotake et al.

2006)、生体内では活発に代謝・分解されて

いる。遺伝子発現や細胞内局在に加えて、今 後は抗重力反応における AGP 糖鎖の構造変化 も調べたい。

謝辞

 本研究の一部は財団法人日本宇宙フォーラ ム・宇宙環境利用に関する地上公募研究によ る助成を受けて行われた。

参考文献

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(29)

シロイヌナズナの花芽に対する過重力の影響についてのプロテオーム解析

須藤宇道 (富山大・理・生物), 浅野智哉 (金沢大・学際センター・ゲノム), 玉置大介 (富山大・院・理工), 唐原一郎 (富山大・院・理工),

西内巧 (金沢大・学際センター・ゲノム), 神阪盛一郎 (富山大・院・理工)

Proteome analysis of hypergravity effect on Arabidopsis flower buds

Takamichi Sutoh1, Tomoya Asano2, Daisuke Tamaoki3, Ichirou Karahara3, Takumi Nishiuchi2, Seiichiro Kamisaka3

1Department of Biology, Faculty of Science, University of Toyama, Gofuku, Toyama,   930-8555 Japan

2 Division of Functional Genomics, Advanced Science Research Center, Kanazawa University Takara-machi, Kanazawa, 920-0934 Japan

3 Graduate School of Science and Engineering, University of Toyama, Gofuku, Toyama, 930-8555 Japan

E-Mail: [email protected]

 

Abstract: Proteome analysis was performed to examine the effect of hypergravity on reproductive growth of Arabidopsis plants. Plants were grown for 20-26 days under continuous light, and then exposed to hypergravity at 300 g or placed at 1 g for 24 h in the dark. Proteins extracted from the flower buds with a buffer containing Triton X-100 were subjected to two-dimensional electrophoresis. It was turned out that hypergravity up-regulated the expression of nine spots of polypeptides and down-regulated that of five spots. These peptides were subjected to matrix-assisted laser desorption ionization time of flight (MALDI-TOF) mass spectrometry, to compare the present proteome results with our previous transcriptome results.

Key words; Life cycle, Reproductive growth, Hypergravity, Proteomics, Arabidopsis

          

1、序論

  陸上植物は動物と違い置かれた環境の変化から逃 げることができないため、変化した環境に自らの生 活環をうまく順応させる必要がある。植物は水中か ら陸上進出することで、その体にかかる重力は増加 したが、またその環境変化に対応して進化すること で、生活環を全うできるようになった。重力環境が 植物の形態形成や代謝過程に与える影響を調べるこ とは、陸上植物の進化の仕組みを探る上で重要であ る。

  一方、人類は月や火星へ進出するプランを進めて おり、これらの長期有人探査のためには宇宙で作物 を生産することは重要な課題であり、具体的な検討 が必要な段階にきている。宇宙での作物生産の実現 には、植物が地上とは異なる重力環境で生活環を全 うできるかが問題でる。高等植物の生活環ではまず 栄養成長が起こり、その後に生殖成長が起こる。重 力が栄養成長にあたえる影響は細胞壁を中心として これまでに研究が進められているが(保尊ら 2003)、 生殖成長に与える影響についてはまだよくわかって いない。 

  生殖成長において花芽の発達は細かいステージに 分かれており、その発達の過程で多くの遺伝子やタ

ンパク質の発現が関与すると考えられている。重力 環境が植物の生殖成長に与える影響について解析す るために、遺伝子レベルにおいては遠心機による過 重力処理を植物に比較的与える実験系を用いて、ト ランスクリプトーム解析 が行われている(玉置ら 2007)。タンパク質レベルで生殖成長が重力によりど のような制御を受けているかについては、調べられ ていない。そこで我々は生殖成長が重力によりタン パク質レベルでどのような制御を受けているかを調 べるため、過重力処理(300 g)したシロイヌナズナ の花芽よりタンパク質を抽出し、二次元電気泳動に より分離し、300 g条件と1 g条件で発現量に差があ るスポットを検出した。これらのスポットをトリプ シンで消化したペプチド断片をMatrix-Assisted Laser Desorption Ionization Time of Flight (MALDI-TOF)質 量分析でを同定することで、過重力環境が生殖成長 におけるタンパク質の発現に与える影響についてプ ロテオーム解析を試みた。まだ予備的ではあるが、

これまでに得られた結果について報告する。

2、材料と方法 植物材料

シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ (Arabidopsis thaliana L. Heynh

(30)

ecotype Columbia)種子を、試験管に入れたムラシ ゲ・スクーグ寒天培地上に播種し、低温処理後、20-26 日間、23℃で白色光下(130 µmol/m2s1)で生育させ た。花茎が 5 mm の長さになった植物体{Boyes ら (2001)の発達段階の分類によればStage No. 5に相当 する。また Smyth ら(1990)の花の発達段階の分類に

よるとStage 1-12に相当する。}を選び、遠心機を用

いて暗所25℃の条件で300 gの過重力を茎から根の

方向に向けて24時間与えた (過重力処理区)。1 g 対 照区としては、25℃の条件で暗所で 24 時間静置し た 。

タンパク質抽出

過重力処理および1 g対照区における植物体(過重 力処理区は19個体、1 g対照区は25個体)から花芽

(頂芽)を切り出し、液体窒素中で組織を破砕し、

PBS、1% TritonX-100、1 mM PMSF、プロテアーゼ インヒビターカクテル等を含むバッファーを加えて タンパク質を抽出した。この抽出液にTCA(最終濃

度5%)を加え、タンパク質を沈殿させ、アセトン洗

浄後、泳動用バッファーに溶かした。

二次元電気泳動

Immobiline DrvStrip pH 3-10 ( GE Healthcare Bio-Sciences KK, Tokyo, Japan)を用いた等電点電気 泳動および SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動 を行った。二次元電気泳動後、ゲルは Coomassie Brilliant Blue R-250 (CBB) を用いて染色を行った後、

さ ら に 銀 染 色 キ ッ ト MS(Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Osaka, Japan)を用いて銀染色を行っ た。

MALDI-TOF質量分析

高解像度スキャナーを用いてスポット解析を行い、

発現量に差異が見られたタンパク質のスポットを検 出し、20のタンパク質スポットを含むゲル片を切り 出した。Sequencing Grade Modified Trypsin (Promega

KK, Tokyo, Japan) を用いてタンパク質をペプチド

断片へと消化し、Zip TipC18カラム (Nihon Millipore

KK, Tokyo, Japan)を用いて脱塩と濃縮を行った。そ

の後 MALDI-TOF 型質量分析計 4800 Plus MALDI TOF/TOF Analyzer (Applied Biosystems Japan Ltd., Tokyo, Japan) 、Protein Pilotソフトウェア2.0 (Applied Biosystems Japan Ltd.)を用いてタンパク質の同定を 行った。

3、結果と考察

  過重力処理直後の花芽において、対照区と比べて いくつかのタンパク質のスポットで変化がみられた。

変化がみられたスポットのうち変化が大きいものか ら20 スポットを質量分析した結果、17のスポット

でタンパク質が同定でき、3 スポットでは同定でき なかった。同定できたもののうち9つのスポットで 過重力条件下でタンパク質の増加が、8 つのスポッ トで減少がみられた。17スポットから同定されたタ ンパク質のうち、いくつかのタンパク質は重複して いた。これは同じタンパク質が、翻訳後修飾により 分子量や等電点の異なる複数のスポットとして検出 されていたためであった。

  過重力により発現が増加したスポットにおいての み見られたタンパク質は、2 種類の ATP synthase subunit 、enolase 、actin-7(actin-2) 、elongation factor Tu 、 5-methyltetrapteroyltriglutamate-homocysteine methyltransferase (MetE) 、Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase (GAPDH) の7種類であった。これら のうち多くは代謝経路や解糖系に関わるタンパク質 であった。またEnolaseおよびGAPDHの遺伝子は、

玉置ら(2007)が行ったマイクロアレイ解析の結果 において過重力によりその発現が2倍以上増加した 遺伝子の中に含まれていた。解糖系に関わる酵素で

あるGAPDHは酸化ストレスに応答するタンパク質

としても知られており、過重力によって酸化ストレ スが引き起こされることが示唆された。GAPDH の 場合、アミノ酸の翻訳後修飾の違いによる等電点の 異なる2つのスポットが、共に過重力により増加し たものとして同定された。MetEはホモシステインを メチル化しメチオニンを合成するメチオニン合成酵 素であり、メチオニンはエチレンの前駆体である。

MetE 遺伝子は、玉置ら(2007) のマイクロアレイ 解析の結果において過重力によりその発現が2倍以 上増加した遺伝子の中には含まれていなかった。一 方、Martzivanouら (2003)が行った、シロイヌナズナ のカルスに対する過重力の影響のトランスクリプト ーム解析においては、過重力により MetE 遺伝子の 発現が増加することが示されている。従って、過重 力によってエチレン合成が促進される可能性がある。

MetEはvitamin B12-independent methionine synthase のアイソザイムであり、シロイヌナズナの根に水平 刺激を与えた場合のプロテオーム解析 (Kamada et al. 2005)において、vitamin B12-independent methionine synthase は 水 平 刺 激 に よ り 減 少 し て お り 、 ま た Elongation factor 1-alpha は水平刺激により増加して いた。様々な重力環境の変化によりこれらのタンパ ク質の発現が調節されている可能性が示唆された。

  過重力により発現が減少したスポットにおいての み 見 ら れ た タ ン パ ク 質 は chlorophyll a-b binding protein 2、ribosome recycling factor chloroplast precursor、 およびストレス応答に関わるmyrosinase、Vegetative Storage Protein2 (VSP2)の4種類であった。これらの タンパク質をコードする遺伝子は玉置ら(2007)が 行ったマイクロアレイ解析の結果において発現が 1/2 以下に発現した遺伝子の中には認められなかっ

(31)

た。一方、VSP2 遺伝子は玉置ら(2007) のマイク ロアレイ解析の結果ではその発現が増加していた。

こ の 理 由 に つ い て は 現 時 点 で は 不 明 で あ る 。

myrosinase の場合、減少が見られた2つのスポット

のうち1つのスポットでは、重力条件によってアミ ノ酸の翻訳後修飾の違いも検出された。

    今回の解析は生物学的には1回の実験でありま だ予備的であるため、今回得られた結果は検証して いく予定である。

  本研究は宇宙環境利用科学委員会研究ワーキング グループの研究支援を得て行われたものである。

参照文献

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(32)

サクラ当年枝の形態形成と重力

富田-横谷 香織, 佐藤 誠吾(筑波大)馬場 啓一(京大)鈴木 利貞(香川大)中村 輝子(さくら研究所)橋本 博文, 山下 雅道(JAXA) 樹木WG(JAXA)

Wood formation in current year’s branch and gravity in Sakura

Kaori Tomita-Yokotani, Seigo Sato, Kei’ichi Baba, Toshisada Suzuki, Teruko Nakamura, Hirofumi Hashimoto, Masamichi Yamashita, Tree working group

*Graduate School of Life and Environmental Sciences, University of Tsukuba, Tsukuba, Ibaraki 305-8572, Japan [email protected]

Abstract: Our working group have been noted the importance of woody plant under the space.

We would need woody plants in space for several uses. Tree morphgenesis is regulated by the response against the gravity vector. The final shape of a tree would depend on the branch number, angle, bending pattern and so on. For these factor, buds and tension wood formation would have the key points. The existence of some functional substances related to tension wood formation has been recognized during this study. Tree shape formation is also related to the angle of current branch. One of the results of this study suggests the existence of aoutmorphosis-tree-shape.

<宇宙環境における樹木利用>

宇宙利用における樹木研究について、研究班ワー キンググループとして、継続して研究を行っている。

本年度は、1つの国際会議、3つの国内学会に参加・

発表した。我々樹木WGは、宇宙で樹木を利用する

(できる)ことを目的に研究を行っている。大きく 二方向からの取り組み方を平行して進めている。一 方は、樹木の基本的な宇宙環境応答基礎科学として の樹木形態形成とそれに関与する機能分子について、

他方は宇宙環境をより具体的に利用することを想定 した取り組みである。これは宇宙農業に係る物質循 環への貢献部分を含む。平成20年度は、宇宙実験 用極小盆栽“CosmoBon”の重力環境応答をテーマと して研究を進めた。特に、樹形の形態形成とそれに 関与する機能分子に関する研究の取り組みを行った。

重力は質量に対して導き出される力である。生物個 体の質量が大きければ、環境に応答して導き出され る力の変化は大きくなることから、重力変化に対す る応答機能は複雑あるいは顕著に現われる可能性が あると考えられる。屈曲を伴う樹木の重力に対する 姿勢制御は、先端では草本同様の偏差成長を示すが、

肥大成長している幹の大部分では成長応力の異なる あて材を形成することで行っている。しかしこれら、

あて材形成についての全容は複雑でまだ完全には解 明されていない。広葉樹では引張あて材、針葉樹で は圧縮あて材と正反対のあて材が形成されるが、宇 宙では木材以外の実や葉の利用も見込まれる広葉樹

が適していると判断し、広葉樹・引張あて材を対象 とした。

<あて材形成に関与する分子の探索>

花あざやかで日本古来より文化的に注目され、日 本・アジアにおける親近感が高く、材が硬く木材と しても古くから利用されているサクラ (Prunus) に注目し、その中でも挿し木・採り木や組織培養に よる増産がしやすいマメザクラ(Prunus incisa)の立 ち性株(MS001,002)としだれ性株(MW001,002) を 基本材料として用いていた。 約15cm~20cmに伸 長した当年枝を選び出し地上側方向に巻き、ループ 状まで巻き上げた後、園芸用針金で1ヶ所ないし2 か所固定した。ループ状に処理を行わなかった枝は 対照用に用意した。3週間後ループ状の枝を切り取 り、常套方法による溶媒抽出と組織観察を行った。

それぞれのタイプの株における当年枝の切片は 4%KI,2% I2 , 20%chloral hydrateで染色した後顕 微鏡観察した。あて材様は、立ち性株におけるルー プのある部分に明らかに認められた。一方、しだれ 性株では、当年枝におけるどの部域にも認められな かった。すべての採取された枝から、あて材が形成 される予定部域を4mm取り出し、溶媒抽出した後、

各々における分子差異を調べた結果は、立性株のそ れにおいて、吸収スペクトルおよび分子量分析から、

少なくとも既知主要成長制御物質(植物ホルモン)

とは異なる低分子物質の存在を確認した。

Fig.  1  Phylogenetic  relationships  based  on  deduced  amino  acid  sequences  of  AUX  genes  (upper)  and  PIN  genes  (lower)
Table 2. Gene Expression Changes by Quantitative PCR.
Fig. 2    Morphological and functional (hormone  secretion) changes in human thyroid tissuesin SCID  mice exposed to γ−rays and neutron
Fig. 4    Tandem repeat loci in mice and humans.
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参照

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