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コミュニケーション講座の実践と検証

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コミュニケーション講座の実践と検証

Implementation and Evaluation of Communication Training for Homeless People through Drama

古 賀 弥 生

[要旨]

本稿は、福岡市就労自立支援センターにおいて実施されている、ホームレ ス状態から就労自立を目指す方々を対象とした演劇によるコミュニケーショ ン講座の実践状況と、筆者が約 年間にわたって行った活動成果の検証につ いてまとめたものである。

検証の結果、この講座における「話す・聞く」という基本的な人との関わ りの経験は対話の訓練や集団の疑似体験になっており、演劇の持つ共同性が 生かされた活動となっていることが判明した。また、現実社会ではなく講座 の中の守られた環境において体験したことが実社会の予行演習となっており、

演劇の特徴のひとつである虚構性が関連していると考えられる。さらに自ら のコミュニケーションの状況を少し引いた目で見る経験から自分のコミュニ ケーションの特徴を知り、これまでとは違うコミュニケーションのやり方を 学ぶなどの成果も挙がっており、演劇の特質である客観性が生かされている ともいえる。

[Abstract]

This paper reports on the implementation and evaluation of communication lectures using drama for homeless people who wish to return to employment.

It was found that by providing lessons in talking and listening for home- less people, such communication training through drama simulates experi- ence of communal living. In addition, because this is a protected environment

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and not the real world, it provides a rehearsal for real social life in a safe, ficti- tious world. It can also be said that as one feature of drama is objectivity, the participants could experience distancing themselves a little from their own communication situations, know their own communication styles, and learn new ways of communicating.

.はじめに

福岡県に拠点を置く特定非営利活動法人アートマネジメントセンター福岡 は、当地の演劇関係者とともに演劇の力で社会貢献を行うプロジェクトに取 り組んでいる。 年度からは福岡市就労自立支援センターにおいて、ホー ムレス状態から就労自立を目指す方々を対象に演劇によるコミュニケーショ ン講座を実施中である。継続実施のための資金調達を始めとする環境整備等、

問題は多いが、将来的にはコミュニケーションに課題を有するさまざまな 人々のために汎用できる可能性を秘めた活動として注目される。

本稿は、この取り組みの経緯、実践の状況と、 年度から約 年間にわ たり筆者が行った活動成果の検証についてまとめる。

なお 年現在、ホームレスを含む生活困窮者に対する国の新たな支援策 が構築されている最中である。演劇によるコミュニケーション講座の展開や その成果検証についても今後そのあり方を変化させていく必要があると思わ れる。本稿はその過渡期における一時点での報告として受け止めていただけ れば幸いである。

.演劇によるコミュニケーション講座開催の経緯

⑴福岡市におけるホームレス問題の現状

福岡市内のホームレスについては、 年 月現在の目視による概数調査 で都市公園、河川、道路、駅舎等においてカウントされた数は 人(うち 男性 .%、女性 .%、不明 .%)であり、 年 月現在の 人をピー クにその後は減少傾向にある(図 参照)。ただし、その属性には後述のよ うな変化が見られ、一概に問題が収束しているとは言い難い面もある。

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607 607

784 784 782782

969 969

393 393

270 270

149 149 146146

77

77 7171 定住型, 59定住型, 59

0 200 100 400 300 600 500 800 700 900 1000

移動型, 186 移動型, 186 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年

年 月現在のホームレスを対象とした生活実態調査(福岡市、調査対 象者 名)によると、 歳以上の高齢者が全体の .%を占め、路上生活を するようになって 年以上になる人が .%と長期化の傾向が見られる。一 方で「きちんと就職して働きたい」と回答した人が .%に上るなど就労意 欲が高い人も一定数含まれており、求職中あるいは今後求職活動をする予定 の人も .%となっている。

ホームレス状態にある人々の自立支援については、 年施行の「ホーム レスの自立の支援等に関する特別措置法」において「自立の意思があるホー ムレスに対し、安定した雇用の場の確保、職業能力の開発等による就業の機 会の確保」(第 条)等が目的とされており、国が策定する方針のもと都道 府県・市町村は必要に応じて実施計画を策定するものと定められている(第

条)。

これを受けて福岡市では、「福岡市ホームレス自立支援実施計画」を策定 しており、 年現在、 年 月策定の第 次実施計画が発効中である。

同実施計画ではホームレスの高齢化及び長期化のほか、自立後に再ホームレ ス化する者が存在すること、公園等に居場所を定める「定住型」が減少して いるのに対し 時間営業のインターネットカフェ等を転々とする「移動型」

福岡市におけるホームレス数の推移(各年 月現在、単位:人)

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の増加がみられるなど従来の「ホームレス」の状況が変化していることなど を踏まえた施策について方針を示したものとなっている。具体的には、巡回 相談等によって相談者(ホームレス)に対し一時保護、アセスメントを行い、

就労の意欲と能力のある対象者については「就労自立支援センター」での衣 食住の提供、日常生活指導、求職活動支援等を行い就労自立を目指すほか、

生活保護を適用した居宅保護やグループホーム、福祉施設での福祉的自立へ 向けての支援を行うことになっている。「就労自立支援センター」は 度現在、大都市を中心に全国 都市、 施設が設置されているが、福岡市の 場合はシェルター(緊急一時宿泊事業)やアセスメントセンター(自立支援 事業)が別途設置され、機能分散型施設運営となっている点に特色がある。

国の取り組みとしては 年 月に「生活困窮者自立支援法」が成立し、

本稿を執筆している 年度現在、いわゆるホームレスを含むより広い意味 での生活困窮者を支える新たな制度設計が行われているところである。

⑵「演劇によるホームレスのためのコミュニケーション講座」実施に至る経緯i

「演劇によるホームレスのためのコミュニケーション講座」は、特定非営 利活動法人アートマネジメントセンター福岡(以下、AMCF)が 年度 から福岡市就労自立支援センター(以下、支援センター。設置者:福岡市、

運営者:特定非営利活動法人福岡すまいの会)において実施している。

AMCF は、「福岡を中心とした国内外の若手舞台芸術家の活動を支援する とともに地域の人々に対して、舞台芸術を通したまちづくりや地域の発展を 図る事業を行うことにより、地域における文化・芸術の発展に寄与するこ と」を目的とする NPO である。毎年春に実施される福岡演劇フェスティバ ル実行委員会の事務局を務め、東京のカンパニーの制作およびプロデュース を行うほか、地元九州を拠点に活動する劇団の支援も行っている。

ホームレスの自立支援に対する演劇の活用は、長年、演劇振興に携わって きた AMCF 理事長の糸山裕子が、演劇の社会的な影響力を芸術文化以外の 領域、例えば福祉の分野においても及ぼすことができるのではないかと考え たところから端を発している。

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ホームレス状態からの自立の過程において、地域社会(近隣)、職場、NPO 関係者との付き合いが多い人ほど社会への信頼感、生きる意欲が高い傾向が あるといわれ、こうした社会関係を築き、保つためにコミュニケーション力 は欠かせないものである。糸山は、演劇ワークショップがコミュニケーショ ン力の醸成に活用される近年の動向にかんがみ、演劇によるホームレス支援 を思い立ったと言い、「ホームレス支援については、食物・住居・医療の提 供などを中心とした第一段階から、生活に必要な知識の提供・就労相談から 就職へつながるメンタル面も含めたサポートを行う第二段階にあり、この段 階においては福祉関係者のみならず幅広い分野の多様な人々が自分の持って いる得意分野を生かして積極的に支援することがホームレス当事者の心を開 き、社会の中で自立しようとする意志を持つ手助けになるのではないかと考 えた」と述べている。この思いから、AMCF が関わりを持つ地元演劇人を 巻き込み、演劇の手法を活用したワークショップを実施することでコミュニ ケーション技術を取得し、人と人とのつながりの中から得られる充足感、自 尊感情を支えとして、自立を確実なものとすることを目指す「演劇によるホー ムレスのためのコミュニケーション講座」(以下、講座)の実施を企画した。

一方、支援センターにおいては、コミュニケーションに課題があるために 就労に至らない入所者が少なからずいるとの認識のもと、従来からコミュニ ケーションに関する講座は実施していたが、体験型講座の成果に期待を寄せ、

演劇による講座の実施を決めた。

開始当初はトヨタ財団の助成を 年間受け、その後は AMCF の自主財源、

各種助成財団等からの助成金、一部は支援センターの各種講座実施経費等に よって運営を継続している。

.講座の実施状況

講座は約半年のプログラム開発及び準備期間を経て 年に開始された。

講座実施と同時並行でプログラム内容や実施時間・回数など活動の枠組みの 見直しを図りつつ、 年度前半までに クールを実施している。 年度 以降は約 カ月半から カ月半の期間に 回ないし 回( 回 〜 分)

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を クールとし(ただし、 年度後半は全 回に変更)、原則として対象者 全員が全回を受講するよう支援センターから働きかけが行われている。しか しながら、支援センターは入所期間が最長 カ月間と決められており、入所 中に就職したうえで経済的基盤を確立し自力で住居を借りて退所できるよう 支援される仕組みであるため、入所者の入れ替わりが激しく、初回から終了 まで受講者数が一定になることはほとんどないのが現状である(このことは 講座実施上、支障となることは否めない)。多い回は参加者が 人を超える が、少ない場合は 人に満たない場合もある。また、社会情勢の変化に伴い、

支援センター入所者の状況は年齢層、入所に至る経緯等が多様化しており、

講座対象者の特性を絞り込みにくい状況もある。

ファシリテーターを務めるのは主に福岡市内で演劇活動を行うと同時に、

子どもや一般を対象とした各種演劇ワークショップの経験を積んでいる劇団 関係者 名(山田恵理香、五味伸之〈以上、空間再生事業劇団 GIGA〉、古 賀今日子〈企画演劇ユニット che carina!/che carino!〉、田坂哲郎〈非・売 れ線系ビーナス〉、幸田真洋〈劇団 HallBrothers〉)で、この 名がシフトを 組み、各回の講座は原則として 名体制で実施されている。なお、ファシリ テーターがこの講座に取り組む前の 年度にプログラム開発期間を カ月 程度とっており、支援センターから入所者の実態に関するヒアリングを行っ たほか、主に東京で活動する経験豊富なファシリテーターによるアドバイス も受けている。

講座は、「コミュニケーションは面倒だがおもしろい、ということを体験 し、他者との関わり合いの中で表現する力(受信・発信)を身につける」こ とを到達目標としており、就職のための面接時に有用なテクニックを身につ けるといった直接的な目的ではなく、むしろ職場や日常生活の中でコミュニ ケーションをめぐるトラブルがあっても自ら解決できるようになることを想 定してプログラムが組まれている。

以下、各回のテーマと実施されたプログラム内容を、 年 〜 月実施 の第 クール全 回を例にとって記載する。なお、プログラムは各クールの 参加者の状況に応じて変化するものであり、下記はあくまで一例である。

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■ 回目

実施日時: 年 月 日㈬ : 〜 :

テ ー マ:人はひとりひとり違うという面白さを知る 容:①ウォーミングアップ(緊張を解く)

②フルーツバスケット⇒なんでもバスケット(共通点を探す)

③連想ゲーム(テーマにもとづいて大多数〈または少数〉が思い 浮かべる「言葉」を考える)

■ 回目

実施日時: 年 月 日㈮ : 〜 : テ ー マ:受信に注目して伝え合う

容:①ウォーミングアップ

②ルックダウン・ルックアップ(目と目を合わせる)

③ティッシュ落とし(視線を受け取る)

④息を合わせる(全体を見ながら行動する)

⑤言葉を使わずに並ぶ、集まる(相手が伝えたいことを読み取る)

⑥言葉を使わずに会話する(相手が伝えたいことを想像する)

■ 回目

実施日時: 年 月 日㈮ : 〜 : テ ー マ:言葉を選択し伝え合う

容:①ウォーミングアップ

②言葉を使って自己紹介(自分を説明する)

③図形を言葉で伝える

④グループで話し合い絵描き歌をつくる

■ 回目

実施日時: 年 月 日㈭ : 〜 : テーマ:話し合いを通してひとつの考えをつくる 容:①ウォーミングアップ

②砂漠で生き残るために、残された道具の優先順位を考える(話 を聞く/自分の道具の順位づけ/他者の順位付けを聞く/グ

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ループの順位を決める)

③振り返り(自分とグループの順位の違いを知る/話し合いの様 子を振り返り共有する)

■ 回目

実施日時: 年 月 日㈮ : 〜 : テ ー マ:自分を活かす、他者を活かす 容:①ウォーミングアップ

②食材を活かして料理づくり(好きな食材を持ち寄りグループで 料理をつくるとしたら)

③ゲストハウスづくり(自分の特徴を書きだし、それを生かした ゲストハウスづくりをグループで考える/他グループのゲスト ハウスについてラジオ CM をつくって発表する)

④振り返り(自分や他者の特徴はどう活かされたのか)

■ 回目

実施日時: 年 月 日㈮ : 〜 : テ ー マ:会話を通してつながりを共有する 容:①ウォーミングアップ

②決められた言葉に接続詞をつけて次の文章につなぐ(会話をす る)

③自分に関する つのことを書く⇒カードを使って会話をする

(つながりを発見する)

④他己紹介(カードを使って他者を紹介する)

⑤振り返り(相手には自分がどう伝わっていたのか)

これらのプログラムは、演劇における創作活動への導入として用いられる エクササイズをベースとしており、演劇ワークショップの手法を活用した内 容となっている。

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.検証について

筆者は、同講座の成果を検証するため 年 月より活動現場への立ち会 いを開始した。 〜 月期の第 クールは予備調査期間とし、 〜 月期の 第 クールから本格的な検証を行っている。

検証の目的は、実施されている講座の社会的意義を可視化することである。

講座の趣旨はコミュニケーション能力の向上とそれによる就労自立であるが、

前述のようにプログラム立案に際しては「就職のための面接時に有用なテク ニックを身につけるといった直接的な目的ではなく、むしろ職場や日常生活 の中でコミュニケーションをめぐるトラブルがあっても自ら解決できるよう になること」が目標とされている。したがって、本稿ではいわゆる就労につ ながった件数等による成果の把握ではなく、講座受講者にもたらされた変容 に注目することにより、講座実施の社会的意義を探ることとした。

⑴検証の方法

検証にあたっては、講座参加者の変容を定量・定性両面から測定すること、

コミュニケーション能力の向上を主眼に置きつつ、その他の面での変容につ いても視野に入れることに留意している。

検証手法は、参加者全員を対象とした実施前後のアンケート調査及び講座 の様子を記録したフィールドノートから何らかの変容が認められる参加者を 抽出して実施するヒアリング調査を用い、分析についてはエスノグラフィー の手法によるエピソード収集や、ヒアリングで収集されたデータから GTA

(Grounded Theory Approach)を援用した手法による図式化及びストー リー化を行う。

なお、特に定量的調査については、心理学の専門家の参画が必要と考え、

久留米大学文学部の藤本学准教授(社会心理学)に協力を依頼し、調査票の 作成、分析等に協力していただいている。心理学の領域からの定量的調査に ついては 年度を基礎調査期間とし 年度以降に本格的なデータ収集を 開始したところであり、今後の継続調査を経て分析が行われる予定である。

以下、講座による受講者の変容について、定性的調査結果をまとめる。

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⑵検証結果(定性的調査による)

定性的調査は大きく分けて 種類を実施した。

まず、受講者が講座を受けた直後に行ったヒアリング調査である。

〜 月期に実施した第 クールから 年 〜 月期実施の第 クールま で、講座実施前に支援センタースタッフの協力を得て参加予定者を対象とす る事前アンケート調査を、また実施後に、筆者によるアンケート及びヒアリ ング調査を実施した。講座受講者は 名、うち実施後のヒアリング対象者は 名、ヒアリングの時間は各 分程度ずつであった。アンケート調査につい ては、実施前は「講座への期待度」等を、実施後は「講座の満足度」等を尋 ね、ヒアリング対象者を選定するための判断材料のひとつとして活用したも のである。

もうひとつは、支援センターを退所した受講者のうち、自主的に講座を受 講し続けている 名の追跡調査である。講座実施直後のヒアリングでは、支 援センター退所後の生活において受講の経験がどのように生かされたのかを 検証することができない。また、 回だけではなく継続した受講によってよ り鮮明な影響が現れることが想定されることから、退所後も自主的に講座に 参加し続けている 名について詳細なヒアリング調査を実施した。

①講座実施直後のヒアリング調査に見る受講者の変容

講座実施後のヒアリング調査は、アンケート及び講座中の様子から受講に 際してなんらかの変化や積極的な態度を示した受講者を中心に、支援セン ターの協力のもと実施した(ヒアリングは講座実施の翌日から 日後までの 間に支援センター内で実施)。ヒアリング調査では、対象者がさまざまな形 で人生の困難を経験しており自身のことを積極的に語ろうとしない場合も多 いこと、講座受講や調査への協力が必ずしも自主的に行われたものではない ことなどを考慮し、可能な限りなごやかな会話から対象者の語りを引き出し、

講座の感想を中心に、感じたことや考えたことを自由に語ってもらい、他の 話題に及ぶことも妨げないようにした。表 はヒアリング調査対象者の属性 に関する一覧である。

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分析にあたっては、ヒアリング内 容を逐語記録し口述内容から設問に 関わる内容を抽出したうえで、同趣 旨の記述を束ねて分類し内容を端的 に示すコード付けを複数回行った。

最終的に得られたコードを用いて、

コード間の関係性を図式化し、講座 受講者の変容に関する簡潔なストー リーとして文章化する作業を行った。

表 は、 名のヒアリング対象者 から得られた口述内容から 点の記 述(コード )を生成し、さらに 段階目(コード )までまとめた一 覧である。表 のとおり、対象者の 語った内容は、講座のなかで経験し たこと、そこから気づいたこと、学

んだこと、さらに講座受講をきっかけとした自身の気持ちや行動の変化に関 わることに分類される。

演劇コミュニケーション講座受講者 ヒアリング対象者一覧

対象者 性別 年齢 ホームレス歴

Aさん 男性 カ月以上

Bさん 女性 〜 カ月

Cさん 男性 カ月未満

Dさん 男性 〜 カ月

Eさん 男性 〜 カ月

Fさん 男性 〜 カ月

Gさん 男性 カ月未満

Hさん 男性 カ月未満

Iさん 男性 〜 カ月

Jさん 男性 カ月未満

Kさん 男性 〜 カ月

Lさん 男性 カ月未満

Mさん 男性 カ月未満

注)年齢は支援センター入所時現在、ホーム レス歴は住まいを出てからの期間

演劇コミュニケーション講座 参加者の変容 コード表

コード コード コード

・話下手な人にあっている講座だと感じる。

・話をしない人にはいい経験になる。

・日頃は全然しゃべらない人が、興味のあることにはよく 話す様子を見て、いい経験になっていると感じた。

・話をしない人には強制的にでも発言する機会として参加 させるといい。

・話しやすい雰囲気をつくってもらったので自然に思って いることを話せた。

・座学の講座で自分の輝いていた時代をグラフにして発表、

と言われても自分の経歴を人前で話せなかった(この講 座のほうが受け入れやすい)

・あがり症だが、講座ではよく話せた。

話す 対話の訓練 経験

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・相手の話を聞く経験が今後の役に立つのではないか。

・日常の集団生活で軋轢があっても話し合うことが苦手な 人がいる。そんな人に、人の意見を聴くことを体験して もらえるのがいい。

聞く

・相手の考えを尊重することが勉強になった。

・人の話を聞いてまとめ、自分の考えで話すという機会が 日ごろはない(講座はそういう機会になる)。

・自分の発言を相手がどうとらえるか考える機会になる、

日常にはない機会。

・グループワークでの意見の相違を経験。引かない人、ま とめ役の人との関係性のなかで自分は引いた。

話し合う 集団の疑似 体験

・今すぐはわからないが先で役に立つことがあると思える。

・何に生かせるかわからないが、やらないよりはやったほ うがいい。

・(講座の影響)具体的にはないが、いつか何かで変わるかも。

・具体的な自分の変化は感じられない。わかるのは就労後 だと思う。

・職場で生かせるのではないかという感覚。

・社会・職場の予行演習。

将来に生かせる 社会の予行 演習

・ディスカッションをするのが苦手。できることは聞く側 だと気づく。

・自分の意見が聞き入れられないとイラっとするタイプだ と知った。現実の世界でもそういう経験があったことを 思い出し、直さないといけないと感じた。

コ ミ ュ ニ ケ ー ションタイプ

自 分 の コ ミュニケー ションの特 徴を知る

学び・

気づき

・直球で言ってしまう性格だが、遠まわしな表現によって 圧迫感をなくすことができると知った。

・人と接するときに違う角度から見る方法がわかった。

・自分の考えを押し付けず、人の言い分のいいところをと り入れるやり方もあると学んだ。

・意見が聞き入れられないときに譲らない自分だったが、

引き際を学んだ。

コ ミ ュ ニ ケ ー ション手法

これまでと は 違 う コ ミュニケー ションのや り方を学ぶ

・若い講師がよい。若者の考えがわからないから(就職のた めには違う世代の考えを知ることが必要と考えている)。

異世代交流への 欲求

・ 回目あたりから理解した講座の趣旨、まず自分を見直 すこと。

・自分を見直してどういう人間かをふまえてコミュニケー ションをとること。そのために講座で経験したことをど う活用したらいいかと考えた。

・隠したい自分が多くなっていた(ことに気づいた)。

・自分で壁をつくっていた(ことに気づいた)。

・人と話すことがなかった数年間を経験、(講座を通じて)

会話がないと知識も情報も通り過ぎていくだけになると わかってびっくり。

自分への気づき 自分を見直

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・コミュニケーションは話すこと(自分の苦手なこと)ば かりではないと確認できた。聞き役でよいと思えるよう になった。

・自分の良くない点、嫌いなことでも発想の転換によって 活用の仕方がある、と気づいた。

・否定的に捉えていた昔の仕事での経験を前向きに考え直 すことができるようになった。

・自分は自分でいい、違っていることに引け目をもたない、

という点で(講座が)プラスになる。

・(ここ 年くらいの経験から)自分をマイナスのイメー ジばかりでとらえていたが、プラスの面があることを考 え直す機会になった。

・(クリエイティブな活動で)一番輝いていた時期のこと を思い返す。

・人と自分の違う面を活かす経験ができる。

自分を受け入れ

自己肯定

・前向きになれた。

・自分から発信まではできないが、積極的に話してみよう かという気にはなった。

・自分はこういう人間だと話す自信が戻ってきた。

・自分のいいところを表現できればやれるのではないかと 思えるようになった。

・中途半端に終わった過去の仕事にもう 度チャレンジす る意欲が出てきた。

・接客やサービスについて自分なりに考えると創造的な仕 事ができそうに思えてきた。

今後に向けて 前向きな気 持ち・意欲

・自信

行動

・講座のあとに話をするようになった人もいる(ここにき ている人のふれてはいけない部分への気遣いがあるので 話しづらい)。

・センター内で、会うと挨拶が増えた。

・センター内の人と話ができるようになる。

・あまり話したことのない入所者と話す機会になった(助 かった)。

・苦手な人とは距離を置く方だが、話をしたことのない入 所者と話す機会になり、その人のことを知ると話せるよ うになる。

・講座受講で入所者の印象が変わる。話ができるようにな る。

・入所者同士のコミュニケーションの場としてよい。

・センター内でのコミュニケーションはとれた。

・入所者同士が話しやすくなった。やわらかくなっていっ た。

・講座をきっかけとしたセンター内での話題の広がり。

入所者同士の交

施 設 内 コ ミュニケー ションの促

派生 効果

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表 におけるコード 及びコード の相互関係を図式化したものが図 で ある。網掛けの部分はコード に該当し、それぞれについて具体的に語られ た内容の例として「発言例」(=コード )を , 点記載している。

以下、表 及び図 をもとに、講座受講者の変容について記述する。

・センター内の話題づくりになった。より深いコミュニ ケーションがとれるようになった。

・入所者の考え方や気持ちがわかるようになった。

・入所者の見た目だけではわからない性格を理解できた。

・入所者と話す機会になった。

・他の入所者の雰囲気の変化を感じた。話をするように なった。

・(ほとんど話をしない人の)表情が変わった。

・気分転換になった。

・警戒している気持ちがリラックスした。

リラクゼーショ

緊張緩和

・「演劇」をやる機会があればやってみたい。 演劇への関心 演劇への関

演劇コミュニケーション講座受講者の変容

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≪演劇コミュニケーション講座受講者の変容≫

講座では、一見、ゲームのように思える活動を含め講師や他の受講者と 話す機会が多く用意されている。そのため、引きこもりがちな受講者にとっ て、とにかく話をする、そして人の話を聞く場、対話の訓練となっている。

同時にグループ活動では話し合い、意見をまとめる必要があり、自分の意 見を主張して引かない人、意見を表明しようとしない人、なんとか調整し ようとする人など、さまざまな個性がぶつかる場となる。これは社会にお ける多彩な集団内の関係を疑似体験しているともいえる。

こうした経験から多くの受講者が口にするのは「支援センター内でのコ ミュニケーションが促進された」という成果である。支援センター入所者 は触れてほしくない過去を有している場合が多く、他者とコミュニケー ションをとることに積極的ではない人も多いが、受講をきっかけとして入 所者同士が知り合い講座外でも話をするようになるなどの現象が起きてい る。このような支援センター内の人間関係も社会の疑似体験になりうるも のであり、受講者の変容を支える基盤となるものである。受講者自身の言 葉では「この経験は職場で生かせる」と、支援センター退所後の生活に関 する予行演習という捉え方も出てきている。

また、自分がどのようなときに「キレる」のか、といったコミュニケー ションに関する自身の特徴に気付いたり、表現の仕方で相手の受け止め方 が違うことを知るなどコミュニケーションの具体的な手法を学んだりする こともできている。

さらに、講座での経験から「自分で壁をつくっていた」これまでの自分 自身を見直し、後半に実施される CM づくりなどクリエイティブな活動 で本領を発揮し周囲から賞賛される体験を得て「一番輝いていた頃を思い 出した」といった、自己肯定の感情が現れ、「中途半端に終わった過去の 仕事にもう 度チャレンジしたい」などの前向きな意欲、自信を取り戻す、

という気持ちの変化、退所後の行動につながる変容を見ることができる。

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上記ストーリ―の後半に示した、自己肯定感や意欲・自信を取り戻した事 例として、以下にCさんの具体的なエピソードを挙げておく。

●Cさん(ヒアリング時点で 歳、男性)

大学卒業後、九州で大手の呉服屋に 年ほど勤務していたが、約 年前に 失職。ほぼ同時に離婚もして関西に移動した。期間工などをしていたが雇用 が続かず日雇い労働者が集まる地域にも行った。このままではだめだと福岡 に移動しタクシー運転手等の仕事を経験。そこでも続かずセンターに入所す ることになった。

最初の仕事を辞めた 年前から自分の悪い面ばかり見てしまうようになっ ていたが、この講座を受けるうちに自分のいいところを思い出した。自分は 実はこういう人間なんだと人に話す自信が湧いた。

センター入所前に勤めたタクシー会社でプレミアムタクシー(黒塗り)の 運転手になる研修を受けないかと言われたのに挑戦しないまま辞めてしまっ たが、今はチャレンジしてみたいと思う。いい運転手になれるのではないか という気がしてきた…と語る。

(C氏のヒアリング記録から〈本人の発言のまま〉)「なんか、そのコミュ ニケーション(講座)受けながら思ったのは、もう一回タクシー乗ろうかなー と思ったんですよね。なんか、その…タクシーの仕事も結局中途半端に終わっ ちゃったような気がしてたんで。確かにきついし、収入もばらばらだし、(中 略)もっとそのー…お客様に対しても、心配りが出来るようなタクシー運転 手になれるんじゃないかなと。(中略)コミュニケーションの講習で、なん かこう、自分で感じたっていうわけでもないんでしょうけれども、その…さっ き言ったように、自分のいいところを思い出せて、そういうところをもっと

……もっと表現に発信していけるような、気持ちになっていけば、例えタク シーの運転手という地味な…仕事の中でも、もっと、今までと違って、お客 様に気に入ってもらうためにはどうすればいいかとか、その…もっと自分で 考えて、その運転なり、その…行動なり考えなりっていうのを、出来るんじゃ ないかなと思って」

(17)

②継続受講者の変容

表 及び図 とそこから導き出されたストーリーは、講座実施直後のヒア リングによるものである。上記C氏については、実際にタクシー会社に再就 職したことを支援センターに確認できたが、通常は支援センター利用者が退 所後にセンターとの連絡を取り続けることはほとんどないのが現状であるた め、元受講者が社会生活で講座受講の経験をどのように活用できているのか を追跡調査することは難しい。また、講座は短期で終了するものであり、C 氏に訪れたような変化を多くの受講者が経験することにはなりにくい。その なかで、 年度に入所し講座を受講したN氏は、退所後も頻繁に支援セン ターに顔を出し、毎回ではないものの可能な限り継続して講座を受講し続け ている唯一のケースである。そこでN氏の協力を得て、約 年にわたり講座 を受講しながら社会生活を送るなかで講座受講の意義を振り返るヒアリング を行った。N氏には支援センター入所に至る経緯から当時のセンター内での 状態、初受講の際のこと、退所後の生活、継続受講の動機、現在の自分と以 前とを比較しての変化などを順不同で語ってもらったii。N氏のプロフィー ルは以下のとおりである。

●Nさん(ヒアリング時点で 歳、男性)

福岡でパチンコ店店員として働いていたが、幼い頃に別れた実父から家業 の飲食店を継ぐよう誘われ転職。 年ほどして店がつぶれ、同時期に本人が 離婚し、別の土地へ行きたいと関西へ移動した。腰痛の持病が悪化して仕事 を続けられなくなったことと母が倒れたこともあり、福岡へ戻る。支援セン ターに入所して療養をしながら就労の機会を探り、現在は支援センターを出 てグループホームで生活しながら福祉作業所での作業や調理ボランティアと しての活動に従事している。

分析手法は、N氏の語りの内容を時系列で整理し、受講前、 回目の受講、

複数回受講と時期を追ってN氏の状況をまとめ、現在と過去の比較によって 変容を描き出した。表 はN氏の語りをまとめ、時期及び内容によって分類 しコード付けしたものである。さらに表 で得られたコードをもとに支援セ

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ンター入所中と社会に出てからの時間の流れのうえでN氏の変容を図式化し たのが図 である。

表 、図 及びヒアリング内容をもとに、N氏の変容を文章化すると以下 のとおりである。

≪継続受講者N氏の変容≫

N氏は受講前、自分から人に話しかけることができず、世代の違う人と の接し方がわからないなど、コミュニケーションに課題を抱えていた。持 病の療養が必要なため支援センター内では他の入所者と別の部屋に入居し ていたこともあり、初めての講座受講時は孤立した状態で不安を感じてい た。しかし 回目の受講を経験した時点で、年配の受講者から気さくに声 をかけてもらえるようになるなど、人と話す楽しさを知り、支援センター 内でのコミュニケーションが促進された。この経験から、自分から話をす れば人間関係が広がっていくことを学んだ。

退所後も、「もっと積極的に話ができるようになりたい」との思いから、

自主的に講座の受講を継続し、回を重ねるごとに自身の変化を実感するよ うになった。その変化とは、積極的に話ができるようになったこと、コミュ ニケーションを楽しいと感じられること、楽しみながら人に話しかけ、そ こから交友関係が広がったことが挙げられる。さらに以前は話がまとまら ず「何が言いたいのかわからない」と言われることもあったが、整理して 話ができるようになるなど話術も向上している。こうした変化は支援セン ターの職員らから「以前は話ができなかったのに今はうるさいくらいよく 話す」と言われるほどで、他者から承認される成功体験となっている。こ の結果、現在活動中の福祉作業所では障がいのある利用者同士の会話を仲 介するなど職員と間違われることもあるほどで、作業所内の円滑な人間関 係を構築する手助けをできるまでになった。このように自らの成長を実感 できた体験から、現在も「もっと交友関係を広げたい」という思いを持っ ており、今後は作業所でボランティアとして関わっている調理を仕事とし て自立につなげたいと希望している。

(19)

継続受講者 N 氏の変容

受講前の自分*体調を崩して離職しセンターに入所 自分から話すことができなかった。

聞き役だと思っていた。

世代の違う人との接し方がわからない。

コミュニケーションの取り方がわからなかった。

話が遠まわしでわかりづらいと言われていた。

人と関わりたくない性格だった。

自分から壁をつくっていた。

コミュニケーション の取り方がわからな

センター内での状態

知り合いがいない状態で不安。 孤立

( 回目の受講)

自分から話すようになった。

話すのが楽しくなった。

話す楽しさを知る 受講者同士打ち解けることができた。 センター内コミュニ

ケーションの促進 話すことで相互理解ができることがわかった。

センター内で交流できたことで話せば人間関係が広がるとわかった。

話すことで人間関係 が広がることを知る

(複数回受講の動機)

自分から積極的に話ができるようになりたくて講座に継続参加。

毎回参加者が変わるので、違う人といろいろな話ができる。

現在の自分 *センターを退所し福祉作業所で就労&ボランティア活動中

(障がいのある方とも接する機会が多く、自分から話しかけることも必要な立場になった)

誰とでも話ができる。

知らない人にも話しかけられるようになった。

世代を問わず話ができるようになった。

聞き役だと思っていたが、話もできる

「以前は話せなかったのに今はうるさいくらいだ」と言われる。

積極的に話ができる

知らない人ともコミュニケーションによって気持ちよく接するこ とができると感じる。

スポーツの話、健康の話などで話題の中心になることもある。

話をすることで友達が増え、居心地がよくなる。

コミュニケーション を楽しいと感じる

話ができることで友達の輪が広がる。前向きになる。 交友関係の広がり 話が遠まわしでわかりづらいと言われていたのが、まとめ方がわ

かるようになった。

話術の向上 自分から壁をつくっていたが、誰とでも話をし、人の話をつなげ

るようになった。

他人同士の会話の橋渡しをしている。

ボランティアをしている場で職員と間違われるほどよく話をしている。

会話の橋渡し役がで きるようになる

もっと交友関係を広げたい。

もっといろんな人と話したいと思うようになった。

さらなる交流の意欲

(20)

さらなる交流 の意欲

.演劇による自立支援の意義

劇作家の平田オリザは「演劇人は、表面的ではあるかもしれないが、他者 とコンテクストを摺りあわせ、イメージを共有することができる。そこに演 劇の本質がある」と述べているiii。さらに平田は、現代の日本人に要求され るコミュニケーション能力は価値観をひとつにする方向ではなく、「バラバ ラな人間が、価値観はバラバラなままで、どうにかしてうまくやっていく能 力」が求められているとして、コミュニケーション概念の変化を「協調性か ら社交性へ」と表現し、集団で行う芸術である演劇の力を強調しているiv

演劇人による、演劇ワークショップの手法を活用した講座の受講者に対す る影響が、「演劇」がもたらしたものと言えるのかどうかについては、実際 のところ判定するのは困難である。どこまでが「演劇」の範疇なのかといっ た問題や、講座以外に受講者が支援センター内で経験していることの影響を 取り除くことができないという状況も考慮しなくてはならない。それでも、

演劇によるコミュニケーション講座がもたらしたものを演劇ワークショップ の効用として一般化する視点から整理を試みたい。

演劇の特性とそこからもたらされるであろう教育的効果を、一般的な演劇 ワークショップについて考察すると、演劇でできることは 点あると考える。

継続受講者N氏の変容

(21)

点目は、演劇は例え一人芝居であってもひとりではできず、必ず人と関わ る芸術であるという特質(共同性)に起因するものである。ホームレスは何 らかの事情で人との関わりが切れてしまっている人々であるが、本来、人は 社会のなかで人と関わりながら生きている。演劇に関わることで人との関係 性を取り戻すことができる。 点目は、演劇の客観性に起因する。演劇は人 に見せることで成立するため、自分の言動が人にどう受け止められているの かを常に意識する。つまり客観視する目を獲得できるという点である。 点 目は、演劇は虚構の世界で展開するため(虚構性)、守られた安全な「ウソ」

の世界で生き方の練習ができるという点が挙げられる。

≪演劇の特性≫ ≪演劇がもたらす効果≫

・共同性 → 本来持っていたはずの人とのつながりを取り戻す

・客観性 → 自分の言動を他人はどう受け止めるのかを客観視する

・虚構性 → 安全な環境のなかで生き方の練習ができる

注)北九州芸術劇場『ドラマによる表現活動記録集 年度− 年度』p 〜 塚恵美子が記録した太宰久夫の言葉をもとに筆者が整理したもの。

図 に示した講座受講者の変容を上記 点の演劇の特性及び効果と照合し てみると、「対話の訓練」「集団の疑似体験」という、変容の基盤となる経験 は演劇の「共同性」によって提供されたものと見ることができる。話す・聞 くという基本的な人との関わりの経験は、支援センターのなかで自然発生的 に生まれるものではなく、この講座で与えられた場によって発生したもので ある。そして「集団の疑似体験」「社会の予行演習」は、現実社会ではなく 講座の中で守られた環境において体験できることであり、演劇の「虚構性」

が出現しているといえよう。講座内での体験が支援センター内でのコミュニ ケーション促進という、虚構ではないが現実社会とも異なる集団内での人間 関係づくりに影響を与えている。また、「自分のコミュニケーションの特徴 を知る」「これまでとは違うコミュニケーションのやり方を学ぶ」は、自ら

(22)

演劇コミュニケーション講座受講者の変容、演劇のもたらす効果との関係図 のコミュニケーションの状況を少し引いた目で見る経験からの学びであり、

演劇の「客観性」が生かされたといえよう。さらに「自分を見直す」ことか らの気づきも、自らの置かれた状況を客観的に見る視点を獲得したために得 られたものである。

このような「共同性」「客観性」「虚構性」が作用した経験や学び・気づき から、「自己肯定」「前向きな気持ち・意欲・自信」という、退所後の行動に もつながる可能性のある変容が導き出される(図 参照)。

次に、継続受講者であるN氏の変容について同様に演劇の特性及び効果と 重ね合わせてみると、支援センター入所中の 回目の受講で得た「人と話す 楽しさを知る」経験は「共同性」の生み出したものであり、そこから「施設 内コミュニケーションの促進」が発生し「話すことで人間関係が広がること を知る」学びにつながった。参加した当初は支援センター内で孤立し不安を 抱えた状態だったが、講座のなかでは実社会の人間関係のように傷つくこと なく守られた環境を用意され、対話の訓練ができたことから、「虚構性」の 効用もあったものと思われる。

(23)

さらなる交流 の意欲

継続受講者N氏の変容、演劇のもたらす効果との関係図

退所後、継続的に受講するなかで特に「話術の向上」については、話のま とめ方がわからなかった状況からどうしたら伝わるのかを考える「客観性」

を獲得した成果といえるだろう。また、退所後の生活において「積極的に話 ができる」「コミュニケーションを楽しいと感じる」ようになった結果、「交 友関係の広がり」が得られており、「共同性」による講座での経験と学びが 実社会で生かされた、と見ることができよう。N氏は、現在、他者同士の「会 話の橋渡しができるようになる」ことで人をひきつける存在となっており、

このような成功体験や、以前のN氏を知る人から「よく話すようになった」

と賞賛・承認される体験が「さらなる交流の意欲」につながっていると考え られる(図 参照)。

.おわりに

支援センターの使命は就労による自立であるが、いったん退所しても再入 所する人が見られるなど、自立支援は就労が果たせれば終了とはいえない。

ホームレス支援は当事者が希望を持って生き、幸福な人生を送ることが最終 的な支援の目標となるものであろう。 年に出された社会保障審議会福祉

(24)

部会の「生活保護制度の在り方に関する専門委員会」の報告書でも、生活保 護制度のあり方を考えるにあたっての「自立支援」を、社会福祉法の基本理 念にある「利用者が心身共に健やかに育成され,又はその有する能力に応じ 自立した日常生活を営むことができるように支援するもの」を意味し、就労 による経済的自立のための支援(就労自立支援)のみならず、それぞれの被 保護者の能力やその抱える問題等に応じ、身体や精神の健康を回復・維持し、

自分で自分の健康・生活管理を行うなど日常生活において自立した生活を送 るための支援(日常生活自立支援)や、社会的なつながりを回復・維持する など社会生活における自立の支援(社会生活自立支援)をも含むとし、より 広く捉えている。

社会的なつながりが社会への信頼感、生きる意欲につながることは先述の とおりである。そこに演劇が作用する点が確かにあるのではないかと考えら れる。

菅野仁は『友だち幻想 人と人の〈つながり〉を考える』のなかで幸福の 本質的なモメント(契機)として「自己充実」と「他者との『交流』」を挙 げており、後者はさらに「交流そのものの歓び」と「他者からの『承認』」

に分けて整理している(p )。コミュニケーションを「人とのつながりを 媒介するもの」と定義するならば、コミュニケーションは幸福につながるも のといえよう。受講者全員にあてはまるものとはいえないまでも、C氏やN 氏の事例は講座がこうした契機となる可能性を証明しているのではないか。

今後、ホームレス支援は、いわゆる「ホームレス」のイメージとは異なる 多様な「生活困窮者」を対象とした支援へと拡大していくものと思われ、そ こに AMCF の糸山がいうように社会のさまざまな人が関わることが理想で あろう。その一端として演劇による貢献の試みは大きな意義があるといえよ う。

このような試みに対する成果検証については緒に就いたばかりであり、そ の分析手法の妥当性の検討、ケースの蓄積を増大させる必要性が課題である と思われ、今後の継続的な取り組みが必要である。支援制度そのものが変化 するなか、柔軟に対応しつつ、演劇の持つ力を生かす活動のあり方を探って

(25)

いくことも求められよう。そこには、最終的な受益者である自立を目指す方々 に寄り添う姿勢が要求されることは言うまでもない。

ホームレス状態を経験した方々が、希望を持って未来を生きることができ る社会の構築に、演劇による試みが貢献できる可能性を示せるよう、今後も 継続的な研究に取り組んでいきたい。

*本稿は科学研究費(挑戦的萌芽研究〈基〉 .研究代表者:藤本学)

「応用演劇に基づくホームレスの就労自立支援に関する社会心理学的研究」

による研究成果の一部である。

*本稿の執筆にあたっては、本文中に示した各機関・団体のほか、福岡市保 健福祉局保護課の協力を得ました。記して感謝の意を表します。

i この項は AMCF 理事長の糸山裕子氏及び福岡市就労自立支援センター長の安達一徳氏 へのヒアリングにより構成している。

ii ヒアリングは 年 月 日㈪、AMCF 事務所内で実施。

iii 平田オリザ『わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か』(講談社、

年)p

iv 同上、p

(参考文献)

菅野仁は『友だち幻想 人と人の〈つながり〉を考える』(筑摩書房、 年)

菊池馨実「ホームレス自立支援をめぐる法的課題」『季刊社会保障研究』第 巻第 号(国 立社会保障・人口問題研究所、 年 月)

益田仁「ホームレス自立支援における社会関係の回復―北九州市での調査結果から―」『長 崎国際大学論叢』第 集( 年 月)

山内祐平、森玲奈、安斎勇樹『ワークショップデザイン論 創ることで学ぶ』(慶應義塾 大学出版会、 年)

表 におけるコード 及びコード の相互関係を図式化したものが図 で ある。網掛けの部分はコード に該当し、それぞれについて具体的に語られ た内容の例として「発言例」(=コード )を , 点記載している。 以下、表 及び図 をもとに、講座受講者の変容について記述する。・センター内の話題づくりになった。より深いコミュニケーションがとれるようになった。・入所者の考え方や気持ちがわかるようになった。・入所者の見た目だけではわからない性格を理解できた。・入所者と話す機会になった。・他の入所者の雰囲気の変化を感じた。話
表 継続受講者 N 氏の変容 受講前の自分*体調を崩して離職しセンターに入所 自分から話すことができなかった。 聞き役だと思っていた。 世代の違う人との接し方がわからない。 コミュニケーションの取り方がわからなかった。 話が遠まわしでわかりづらいと言われていた。 人と関わりたくない性格だった。 自分から壁をつくっていた。 コミュニケーションの取り方がわからない センター内での状態 知り合いがいない状態で不安。 孤立 ( 回目の受講) 自分から話すようになった。 話すのが楽しくなった。 話す楽しさを知る 受講

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