運動後急性腎不全(ALPE)
石川 勲 浅ノ川総合病院 腎臓内科 Isao Ishikawa Key Words:急性腎不全,無酸素運動,背骨痛,腎虚血,尿酸トランスポータURAT1 要 旨 運動後急性腎不全とは,「短距離を全力疾走す るなど無酸素運動後に,強い背腰痛を伴って発 症する非ミオグロビン尿性の急性腎不全」をい う.したがって,従来から知られている,マラ ソンなど有酸素運動後に発生するミオグロビン 尿性急性腎不全(Exertional rhabdomyolysis with acute renal failure)とは異なるものである.また この「運動後急性腎不全」は症状の特徴から ALPE(Acute renal failure with severe Loin pain and Patchy renal ischemia after anaerobic Exercise)とも 呼ばれるので,著者らは「運動後急性腎不全 (ALPE)」と記載することを提唱している. 運動後急性腎不全(ALPE)は患者の98%が男 性で,年齢の中央値は19歳(IQR:16∼26)と, 主に若い男性に発生する.典型例は,運動会や 体育祭で200m走を複数回全力疾走し,その数時 間後に,強い背腰痛,嘔気・嘔吐を訴えて,夜 間救急外来を受診するというものである.しか し強い痛みから尿路結石と診断されることが多 く,血清クレアチニンを測定しないと,急性腎 不全の診断がつかない.また多くは非乏尿性急 性腎不全で,尿の色に変化はなく,褐色尿も認 めない.血清CK値は基準値内か高くても9倍以 内である.221例の集計によると受診時の血清ク レアチニン(中央値)4.0mg/dl,最高値(中央 値)5.6mg/dlで,大部分は保存的治療で回復し ているが,23%の症例では血液透析が必要になる. また報告例の58%が腎性低尿酸血症患者であり, 腎 性 低 尿 酸 血 症 は , こ の 運 動 後 急 性 腎 不 全 (ALPE)の発生リスクとして最も重要なもので ある.発生機序についてはまだ解明されていな い.しかし著者らは,delayed CT(造影24-48時 後の単純CT)で,両腎に楔形の造影剤残存がみ られることから,無酸素運動によって筋肉から 何らかの腎血管攣縮因子が発生し作用するから という仮説を考えている.一方,腎性低尿酸血 症患者に起こりやすい理由としては,急性尿酸 腎症が起こるから,あるいは低尿酸血症で活性 酸素消去系がうまく働かないから,さらには尿 酸トランスポートの異常からなど,種々の説が ある. はじめに 最近,運動後急性腎不全が特に腎性低尿酸血 症患者に多く報告されるようになり注目されて いる1).そこで,運動後急性腎不全2,3)とはどのよ うな疾患か述べたい. (1)運動と血清尿酸値,血清尿酸値と急性腎不 全 1)運動と血清尿酸値 長時間に及ぶ激しい運動,マラソン・ジョギン グ・水泳などの有酸素運動では,脱水状態がな い限り血清尿酸値は上昇しない.これに比べ, 短い時間に筋肉を激しく使い,瞬発力が要求さ れる無酸素運動では脱水の有無にかかわらず血 清尿酸値が上昇する4).146 痛風と核酸代謝 第34巻 第 2 号 (平成22年) 2)血清尿酸値と急性腎不全 Ejazら5)は総説の中で,尿酸と急性腎不全の発 生について述べている.それによると,高尿酸 血症で尿酸の結晶が尿細管を閉塞すると急性尿 酸腎症が起こることはもちろんだが,尿細管を 閉塞しなくても,高尿酸血症が長期間持続する と,腎血管の攣縮,抗血管新生作用,炎症促進 作用,活性酸素作用,腎自動調節能異常によっ て,急性腎不全の発生が促進されるとしている. このことから考えると,尿酸結晶による閉塞 は別として,腎性低尿酸血症患者では急性腎不 全が起こりにくいように思われるが,実際には, 運動後急性腎不全(ALPE)に限り起こりやすく1), 他の原因によっても虚血性急性腎不全が起こり やすいということはない6). (2)運動誘発性急性腎不全の2タイプ 運動誘発性急性腎不全には2つのタイプがあ る(表1).1つはミオグロビン尿性急性腎不全 の運動性横紋筋融解による急性腎不全7)と非ミオ グロビン尿性急性腎不全の運動後急性腎不全 (ALPE)2,3)である.表2に鑑別点が解説してあ る. 表1 運動で生じる急性腎不全 (運動誘発性急性腎不全) 1)ミオグロビン尿性 運動性横紋筋融解による急性腎不全 2)非ミオグロビン尿性 =運動後急性腎不全(ALPE) a)腎性低尿酸血症を伴わない運動後急性 腎不全(ALPE) b)腎性低尿酸血症を伴う運動後急性腎不 全(ALPE) (3)ミオグロビン尿性の急性腎不全:運動性横 紋筋融解による急性腎不全 ミオグロビン尿性の急性腎不全7-9)は,マラソ ンなど長時間の激しい運動後に脱水をともない 発生し,乏尿,赤褐色のミオグロビン尿,使用 筋肉の疼痛・圧痛(compartmental syndrome)を みる.筋肉細胞の破壊により,血清クレアチニ ン上昇,血清Creatine Kinase(CK) 高値(基準 値の20倍以上),血清ミオグロビン高値,血清電 解質異常として,高K・P・尿酸血症,著しい低 Ca血症を伴う.また回復時にはしばしば,高Ca 血症を来す. 脱水,高温多湿での運動,慣れない運動,発 症前の低K血症は発症のリスクとなる10). 治療は,乏尿性腎不全であるので,透析療法 が必要となることが多い.脱水の治療を行いつ つ,透析療法で尿毒症,電解質異常の補正を行 い,腎機能の改善を待つ. 腎性低尿酸血症患者が運動性横紋筋融解によ る急性腎不全を起こしやすいという報告はない. (4)非ミオグロビン尿性の急性腎不全:運動後 急性腎不全(ALPE) 運動後急性腎不全(ALPE)は,1982年著者ら によって背腰痛と腎の血管攣縮を伴う急性腎不 全として提唱され11,12),2002年ALPE(Acute renal
failure with severe Loin pain and Patchy renal ischemia after anaerobic Exercise)13)としてまとめ
表2 運動後急性腎不全(ALPE)と運動性横 紋筋融解による急性腎不全の鑑別診断3)
られた. 現在,非ミオグロビン尿性の運動誘発性急性 腎不全としては,非典型例2,3)はあっても,運動 後急性腎不全(ALPE)しか知られておらず,1 つの疾患と考えられる. その根拠は,横紋筋融解症にはdelayed CTによ る楔形の造影剤残存がみられないが2,3),運動後急 性腎不全(ALPE)の症例では,血清クレアチニ ンが6mg/dl以下であれば(よくみられるのは 1.5-3.0mg/dlの間),楔形の造影剤残存がみられ るからである2,3). Delayed CTによって楔形の造影剤残存を見ると きには,患者のインフォームドコンセントを得 た後に,患者に脱水がないことを確認のうえ, 少量(40ml)の造影剤を使用し,施行する.造 影剤の投与がためらわれる場合には,感度はや や落ちるものの,MDP骨スキャンや14),MRI画像 2,3,15),造影超音波検査16)でも,楔形の造影剤残存 と一致する所見を得ることが出来る. (5)運動後急性腎不全(ALPE)の臨床的特徴 典型例の病歴と特徴を述べる2,3).若い男性が運 動会で複数回200mを全力疾走し,その夜激しい 背腰痛で夜間外来を受診する.救急診察医は腎 尿路結石を疑う.しかし翌日内科を受診すると, 血清クレアチニンが上昇しており急性腎不全と 診断される.血清CK値は基準値以内か,基準値 をわずかに超えているぐらいである. 1)運動の種類 運動には有酸素運動と無酸素運動があるが (表3),運動後急性腎不全(ALPE)を起こす運 動としては,100m,200m,400m走など全力疾走 する無酸素運動の短距離走が最も多い(221例中 140例)17).他に,無酸素運動である重量挙げで の発症はもちろん無酸素運動の繰り返しを含む 運動,すなわち,サッカーや野球,バスケット, 競輪,スキー,競泳などでみられる2,3).また警官 が犯人を追いかけて発症している例もある. わが国で運動後急性腎不全(ALPE)が多い理 由の一つに,日本では運動会が富国強兵策の一 環として明治時代に始まり,現在も年間行事と して小学校から大学,職場,町内会などで行わ れるが,中でも徒競走は必ず行われる種目であ り,発症の機会も多いことがあげられる. 2)背腰痛 痛みは運動後3-12時間後(1-48時間後)に発症 し,背腰痛として訴えることが最も多い13)が, ときには腹痛,腰痛として訴えることもある. ただし,激しく使用した筋肉の痛みではなく, おそらく腎血管の攣縮による腎性狭心症(renal angina)としての痛みと著者はとらえている13). 背腰痛は平均4日間持続する17).腹痛として訴 え,嘔気を伴うとしばしば急性胃腸炎と診断さ れることがある.
最近Goldsteinら18)は,acute kidney injury (AKI)
の早期マーカーについて,腎の血管攣縮(腎の 虚血)をrenal anginaと表現し,「狭心症の早期マ ーカーとしてトロポニンがあるように,renal anginaにもトロポニンに準じるAKIの早期マーカ ーを探す必要がある」と報告している.運動後 急性腎不全(ALPE)でみられる背腰痛は,腎血 管攣縮による痛みをまさに表しており,真の renal angina であると著者は考えている13). 3)斑状腎虚血 Delayed CTによって楔形の造影剤残存を確認す るには,血清クレアチニン1.5-3.0mg/dlの腎機 能時に造影剤40mlを静脈内投与し,1日後(数 時間から2日後)に単純CTを撮ると良い(図1). 血清クレアチニンが高いと造影剤残存部は広く なる12,13).したがって透析が必要な重症例などで 表3 有酸素運動と無酸素運動3)
148 痛風と核酸代謝 第34巻 第 2 号 (平成22年) は,回復時で血清クレアチニン1.5-3.0mg/dlの 腎機能時にdelayed CTを行うと,両腎に造影剤の 楔形残存を認める2,3).またこの楔形の造影剤残存 は腎性低尿酸血症例でもdelayed CTで同様に見ら れ12,13),感度は落ちるもののMDP骨スキャン14), MRI2,3,15),造影超音波検査16)でも斑状の造影剤残 存に一致する所見がみられる.運動誘発試験で 斑状楔形造影剤残存が証明された例も,Ohら19) によって報告されている. これらの点から著者らは運動後急性腎不全 (ALPE)で認められる楔形の造影剤残存は,腎 虚血(血管攣縮)が両腎に斑状に現れるため, すなわち,斑状になるのは虚血病変に強いとこ ろと弱いところが存在するからと考える.そし てこの腎血管の攣縮が背腰痛の原因になってい るのではないかと考えている13). なお血管攣縮は腎だけに起こるが,ごくまれ に,脳血管にも攣縮が起こり,ALPE症例に可逆 性後頭葉白質脳症(PRES)を合併したのではな いかという症例が2-3例報告されている20,21). 4)運動後急性腎不全(ALPE)発生のリスク ファクター 発生のリスクを調べると,かぜ気味である, かぜ薬やNSAIDを服用後に全力疾走した,腎性 低尿酸血症患者である13,17)などがあげられる(表 4).この中でも,腎性低尿酸血症患者でベース の血清尿酸値が1mg/dlを切るような状況がハ イリスクである6). 5)運動後急性腎不全(ALPE)診断のクライ テリア 本疾患はdelayed CTによる楔形の造影剤残存に よって発見された12)が,以下の3つの項目が揃 ったとき本疾患と診断する2,3,13). 1)短時間の激しい運動(無酸素運動)後に 発生した急性腎不全 2)背腰痛 3)血清CK値が基準値以内か軽度上昇(基準 値上限の9倍以内) の3項目である. 横紋筋融解は無いかあっても軽度なので,血 清CK値や血清ミオグロビン値は基準値内か,9 ないし6倍までの軽度の上昇に留まり,ミオグ ロビン尿は認めない13). (6)腎性低尿酸血症 腎性低尿酸血症患者が,運動後急性腎不全 (ALPE)を起こしやすいことは,1990年Ishikawa らの「運動後急性腎不全(ALPE)の自験例1) 13 例を調べ,3例が腎性低尿酸血症患者であった」 という記載に始まり1),その後,腎性低尿酸血症 患者は運動後急性腎不全(ALPE)を50倍起こし やすいこと2,3),ほとんどの症例でベースの血清尿 酸値が1mg/dl以下である6)ことがわかった. また運動後急性腎不全(ALPE)患者のうち腎 性低尿酸血症患者の占める割合は,これまでの 自験例23例中5例で,1990年の自験例13例中3 例と変わらなかった.しかし著者らによる報告 例の集計では,運動後急性腎不全(ALPE)201 例中,腎性低尿酸血症患者は116例(58%)と多 くを占めていた17).これは2002年Enomotoら22)に よってURAT1がクローニングされ,腎性低尿酸 血症が注目されるようになったために,腎性低 尿酸血症患者でより多く報告されているのか, 真に発生数が多いのか,今後検討が必要である. 運動後急性腎不全(ALPE)の自験例を含め, 図1 楔形造影剤残存(delayed CT)と図によ る説明
表4 運動後急性腎不全(ALPE)221例のまとめ17)
あり
あり なし
150 痛風と核酸代謝 第34巻 第 2 号 (平成22年) 報告例221例をまとめた17)(表4).運動後急性腎 不全(ALPE)は,主に若い男性に発生し,初診 時,背腰痛以外に,悪心・嘔吐,微熱,CRP陽 性を呈する例が多い.血清クレアチニン値は初 診時4mg/dl(中央値),最大値5.6mg/dlを示し, 透析必要例は23%にみられた.再発例は20%であ った.両側斑状の楔形造影剤残存は,血清クレ アチニン値が1.5-3.0mg/dl時に検査を行えば, ほぼ全例に見られている. 運動後急性腎不全(ALPE)患者でも腎性低尿 酸血症と非腎性低尿酸血症で比較すると,腎性低 尿酸血症を伴う患者では,再発は29%と多く,初 診時の血清クレアチニン4.7mg/dl(中央値),最 大血清クレアチニン6.6mg/dlと非腎性低尿酸血症 患者よりいずれも高値で,透析必要例も29%と, 急性腎不全が重度になりやすかった17)(表5). 日本では腎性低尿酸血症患者の頻度が0.1-0.4% と他国と比べ高いことと,先に述べた運動会の 開催頻度が高いことが,わが国における運動後 急性腎不全(ALPE)の発生が多いことと関連し ているように思われる. 1)運動後急性腎不全(ALPE)とURAT1 (SLC22A12),GLUT9(SLC2A9)変異との 関係 URAT1(SLC22A12)遺伝子変異(遺伝性腎性 低尿酸血症タイプ1:RHUC1)としてはW258X homozygoteが最も多いが,W258Xとのcompound heterozygote,W258X heterozygoteの他,R90Hの homozygoteやcompound heterozygoteの例も報告さ れ て い る21-40)( 表 6 ). 著 者 ら が 経 験 し た 父 が R90H homozygoteで,息子がR90HとW258Xの compound heterozygoteの例は,共にdelayed CTな どの画像診断で両腎に楔形造影剤残存が認めら れた2,3,27). 最近,URAT1の変異による運動後急性腎不全 (ALPE)の症例だけでなく,GLUT9(SLC2A9) の変異(遺伝性腎性低尿酸血症タイプ2:RHUC 2)による運動後急性腎不全(ALPE)の症例も 報 告 さ れ た ( 表 6 ). そ れ に よ る と G L U T 9 (SLC2A9)変異でL75R homozygote を示す7人は, 血清尿酸値の平均が0.17mg/dlと著しく低値で, FEUAは>150%を示し,うち3例に運動後急性腎 不全の既往があったと記載されている23,41). 2)外国での関心 腎性低尿酸血症に伴う運動後急性腎不全の症 例は,日本・韓国以外にも,米国42)・台湾24), 34)・カナダ32)・イスラエル23,41)からも報告されて いる.Sebastaらによる2010年開催のEDTAでの発 表43)によると,チェコ人3,500人の検体から569人 の低尿酸血症患者を検出し,この中にURAT1の 異常を8人とURATv1(GLUT9)の異常(het-erozygote2人,compound heterozygote5人, homozygote2人)を9人認め,これら計17人中 3人に急性腎不全と腎結石の既往があると報告 した.彼らは,日本や韓国以外でも腎性低尿酸 血症はもっと多い可能性を指摘している.
また2010年Kidney Int 5月号の"make your diag-nosis"でも本疾患が取り上げられており,外国で も本疾患に興味を持つ人が増えてきているよう に思われる.しかしこれによると,Yanら34)は単
に運動後に腎性低尿酸血症患者に急性腎不全が 起こったとしか記載していなかった.そこで著 者は,Kidney Intのletter to editor44)で,「本例は単
なる運動後の急性腎不全ではなく,運動後急性 腎不全(ALPE)である.したがって腎性低尿酸 血症患者は他の種々の原因によっても虚血性急 性腎不全を起こしやすいというわけではない」 と反論した. つまりURAT1やGLUT9の変異による腎性低尿 酸血症患者は運動後に急性腎不全を起こしやす いという記載は,正確には運動後急性腎不全 (ALPE),または英語でexercise-induced acute kid-ney injury(ALPE)を起こしやすいとすべきであ る.言いかえれば,腎性低尿酸血症患者は,運 動性横紋筋融解による急性腎不全を起こしやす いのではなく,著者が提唱するALPEを起こしや すいのである. (7)運動後急性腎不全(ALPE)の発生機序に 対する説
表5 腎性低尿酸血症を伴う運動後急性腎不全(ALPE)と腎性低尿酸血症を伴わない運動後急性腎不 全(ALPE)の比較(n=201)17)
152 痛風と核酸代謝 第34巻 第 2 号 (平成22年)
1)運動後急性腎不全(ALPE)の発生機序 どうして運動後急性腎不全(ALPE)が発生す るのかという疑問に対しては,筋原性腎虚血説13) が最も説明しやすい(図2).しかし,無酸素運 動でタイプ2筋線維から遊出し,腎に作用する ミオグロビン以外の血管作動性物質はまだ同定 されていない.著者らはSELDI-TOF MSでこれら の物質を調べてみたが,具体的な物質は同定さ れなかった2,3). 2)腎性低尿酸血症患者に発生しやすい機序 腎性低尿酸血症患者ではそうでない人に比べ 50倍発生しやすい.この理由として,次の3つ の仮説が考えられている.急性尿酸腎症説42,45), 活性酸素消去不全・腎虚血説12,46),尿酸トランス ポータ変異説26,41)である. 急性尿酸腎症説42,45)は,FEUAが高い腎性低尿 酸血症患者では,運動によって尿酸の産生が増 加すると,さらに多くの尿酸が尿細管の内で結 晶化し尿細管を閉塞するため,急性尿酸腎症を 呈するというもので,最も考えやすい説である 42,45).ところが,運動後急性腎不全(ALPE)では, 発症早期の腎生検でも急性尿酸腎症の所見が1-2例を除き認められない.このためこの説は否 定的である. 次に,魅力的な説として,活性酸素消去不全 46)・腎虚血12)説がある.腎性低尿酸血症患者で は,活性酸素をスカベンジする尿酸が少ないた め,腎は活性酸素の影響を強く受けて,腎血管 の攣縮12)を起こし,その結果運動後急性腎不全 (ALPE)を起こすという説である.運動を負荷 して抗酸化力に対する酸化ストレス度を調べた ところ,コントロールでは3.2%しか上昇しなか ったのに対し,患児では38.5%上昇し相対的抗酸 化力の不足が示された29).しかし1例だけの報告 であり,方法論も含め今後の検討が必要である. 尿酸トランスポータ変異説は,尿酸が再吸収 されないため,これと交換に排泄される乳酸な どのアニオンが尿細管内に蓄積し,急性腎不全 を起こすという説である.ただし,運動後急性 腎不全(ALPE)は腎性低尿酸血症を伴っても伴 わなくても,症状,検査所見,delayed CT所見に 差がなく同じ疾患であるので,尿酸トランスポ ータ変異説だけでは,腎性低尿酸血症を伴わな い運動後急性腎不全(ALPE)の病因の説明が出 来ない. 現在のところ,筋原性腎虚血説と活性酸素消 去不全・腎虚血説が支持を受けつつあるが,今 後のさらなる研究が待たれる. (8)運動後急性腎不全(ALPE)の非典型例 前述した診断基準の3項目のうち,3)のCK 値が基準値以内か軽度上昇の項は必須であるが, 運動をした覚えがない例2,3,47)や,背腰痛を訴えな かったという例がまれにみられる2,3).著者はこの 様な例は運動後急性腎不全(ALPE)の非典型例 と考えている. (9)運動後急性腎不全(ALPE)の治療,予後, 再発,再発予防法 治療としては体液量を正常に保つ,すなわち 脱水があれば補液を,溢水があれば水分制限を 行い保存的にみる2,3).大部分で症例の予後は良好 である.ただし,重症例や,発症後に背腰痛で NSAIDが投与され急性腎不全が増悪した例では, 透析療法が必要となる.報告例の23%の症例で透 析療法が必要であった17). また運動後急性腎不全(ALPE)で問題となる のは再発率が高い点である.特に,腎性低尿酸 血症患者に発生した場合は,再発率がさらに高 図2 運動後急性腎不全(ALPE)の発生機序 (仮説)3)
154 痛風と核酸代謝 第34巻 第 2 号 (平成22年) くなる17)(表5). 再発予防法として次のような点に注意する. 1)患者に,運動後急性腎不全(ALPE)を起こ しやすい無酸素運動は,どのようなものかを十 分説明し,これらの運動を避けさせる.2)脱 水を予防させる.3)かぜ気味のときやNSAID 服用後は全力疾走させない.4)発生したら背 腰痛があっても極力NSAIDを服用させない.ど うしても必要なら非麻薬性鎮痛薬を使用する. 5)再発予防の効果について明確なデータはま だないが,allopurinol42)を勧める記載はある.6) ベースの血清尿酸値が1mg/dl以下の著しい腎 性低尿酸血症患者に対して,部活でどの運動を 選択すべきか,運動会などで全力疾走して良い か否かなど,医学的見地からの見解が現在,求 められている. 文 献
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Exercise-induced acute renal failure
(ALPE:Acute renal failure with severe Loin pain and Patchy renal ischemia
after anaerobic Exercise
)
Isao Ishikawa
Key words:acute renal failure;acute kidney injury,anaerobic exercise,loin pain,renal ischemia, uric acid transporter
There are two types of acute renal failure induced by exercise. One is due to myoglobin and occurs after a marathon or other such prolonged exercise(exer-tional rhabdomyolysis),and the other type is not related to myoglobin and occurs after a dash or other anaerobic exercise(exercise-induced acute renal fail-ure: ALPE).Typically,a young male takes 200-meter dash at an athletic meeting and then complains of severe loin pain, nausea and vomiting after several hours,and comes to an emergency clinic at night. This type of acute renal failure is called as ALPE. Exercise-induced acute renal failure is ALPE,not exertional rhabdomyolysis with acute renal failure. Renal hypouricemia is the most important risk factor for this exercise-induced acute renal failure(ALPE). The serum CK value is within the normal limits,or less than 9 times normal.In a survey of 221 ALPE
cases,the median serum creatinine at the time of consultation was 4.0 mg/dl,the median maximal value of serum creatinine was 5.6 mg/dl and most patients recover conservatively,however,hemodialy-sis was required in 23% of cases. Fifty-eight percent of reported cases show renal hypouricemia(23% of our series).Renal ischemia,which is demonstrated by patchy wedge-shaped contrast enhancement on delayed CT,is related to the etiology and loin pain. Renal ischemia due to unknown metabolic substance released from muscle during anaerobic exercise is proposed as the pathogenesis of ALPE without ample evidence.Hypotheses on the high risk for ALPE in patients with renal hypouricemia,are acute uric acid nephropathy,poor scavenging activity of reactive oxygen and abnormality of the urate transporter.
痛風の病因遺伝子
松尾 洋孝 防衛医科大学校 分子生体制御学講座 Hirotaka Matsuo key words:尿酸トランスポーター,ABCG2/BCRP,ゲノムワイド関連解析(GWAS),痛風,高尿酸血症 はじめに 痛風は,高尿酸血症に引き続いておこる生活 習慣病で,common disease(ありふれた疾患)の 1つである.激痛を伴う関節痛を生じるのみな らず,高血圧,虚血性心疾患,脳卒中などのリ スクとなることが知られている.生活習慣の欧 米化および高齢化に伴い患者数が増加している が,食生活を含む生活習慣のほか,遺伝的要因 も関与していると考えられてきた. ヒトを含む霊長類の一部では尿酸分解酵素で あるウリカーゼが欠損しているため,ウリカー ゼの機能が保たれているマウスのような哺乳類 と比較すると,ヒトの血清尿酸値は高値を示す ことが知られている1).また,その欠損のためヒ トにおいて尿酸はプリン代謝の最終代謝産物と なり,腎臓や腸管から排泄される.したがって, ヒトにおける尿酸の代謝,輸送動態やその異常 に起因する疾患については,ノックアウトマウ スなどのモデル動物を用いては解析困難である ことが多く,ヒトを対象とした解析,特に,ヒ トの疾患における臨床遺伝学的解析とそれに基 づく分子機能解析が不可欠である2). 本総説では,上記の解析の実施により明らか になってきた尿酸トランスポーター遺伝子の生 理学的および病態生理学的役割3, 4)や,ゲノムワ イド解析による新しい知見を含めて紹介する. さらに,最近明らかになってきたcommon disease としての痛風の主要な病因となる遺伝子5)につい ても紹介する. 1.痛風を伴う稀な先天性代謝異常症の遺伝子 「痛風の病因遺伝子」としてこれまで報告さ れてきたものは,痛風を伴う稀な先天性疾患か ら同定されてきた6).痛風をきたしうる先天性疾 患としては,表1にあげたように,Lesch-Nyhan 症候群やKelley-Seegmiller症候群などがある.と もに,ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシル トランスフェラーゼ(HPRT)という酵素の遺伝 表1 痛風を伴う稀な先天性異常症の遺伝子160 痛風と核酸代謝 第34巻 第 2 号 (平成22年) 子が病因遺伝子となっているが,前者がHPRTの 完全欠損症で,後者がHPRTの部分欠損症である とされている.これらの酵素などの病因遺伝子 の異常により,尿酸の産生過剰などが起こるこ とで,高尿酸血症及び痛風が引き起こされると されている. このような,単一遺伝子の異常に伴う疾患は 「単一遺伝子疾患(monogenic disease)」または「メ ンデル遺伝病(Mendelian disease)」と呼ばれる. そのほとんどが青年期までに発症し,神経症状 など他の随伴症状を認めることもあるが,患者 数は少なく一般臨床の場で診る機会は多くはな い.すなわち,common diseaseの1つである,一 般的な痛風の遺伝的原因にはなりにくいと考え られる. 2.血清尿酸値に関連する遺伝子 1)腎性低尿酸血症1型の病因遺伝子URAT1/ SLC22A12 痛風の遺伝要因としては,痛風を引き起こす 先天性代謝異常症の研究が進んでおり,上述の ように,プリン代謝に関わる酵素などの遺伝子 が明らかになっている.common diseaseとしての 痛風の遺伝要因の探索のためには,それらの酵 素を含む代謝系の分子を対象とする研究に加え, 尿酸の輸送系に関わるトランスポーター分子を 対象とした研究の重要性が最近注目されている. この血清尿酸値を調節するトランスポーター分 子には,多型性の高いものもあり,また,血清 尿酸値を高める作用のある分子と下げる作用の ある分子が存在する.それぞれ低尿酸血症や高 尿酸血症の候補病因分子となるが,これまでの 研究で,これらの尿酸関連疾患の病因遺伝子で あり,かつ生理学的な血清尿酸値の調整で重要 な役割を担う尿酸トランスポーター分子の実体 が明らかになってきた. 血清尿酸値を調節する遺伝子として同定され たのは,Urate transporter 1(URAT1/SLC22A12) 遺伝子が初めてであった.解読されたばかりの ゲノム情報概要版を用いて有機アニオントラン スポーター遺伝子OAT4/SLC22A11と相同性をも つ遺伝子として,URAT1遺伝子は2002年に発見 された3).URAT1は腎臓特異的に発現し,近位尿 細管の管腔側に局在する尿酸再吸収トランスポ ーターであり,高尿酸血症治療薬であるベンズ ブロマロンの分子標的であることもあわせて報 告された3).このようなURAT1の生理学的な機能 は,URAT1/SLC22A12が腎性低尿酸血症1型の病 因遺伝子として同定されたことに基づいており, 自衛隊熊本病院の症例解析により証明された3). 腎性低尿酸血症においては,合併症としての 尿路結石や運動後急性腎不全7, 8)が臨床上の問題 となる.URAT1/SLC22A12遺伝子における腎性低 尿酸血症1型の病因変異としては,機能が全く 消失するW258X(G774A)変異が日本人に最も 多く,74.1%を占めていた9).このW258X変異は, URAT1タンパク質の258番目のアミノ酸であるト リプトファン(W)が終止コドン(X)となるナ ンセンス変異と呼ばれる変異であり,URAT1の分 子機能が完全に消失することがわかっている. W258X変異は日本人において頻度の高い一塩基多 型(single nucleotide polymorphism, SNP)であり, アレル頻度は2.30∼2.37%と報告されている2,10). このことは,染色体100本(50人相当)あたり2 本程度にW258X変異を認めるということを意味 している.日本人の腎性低尿酸血症ではそのほ とんどにURAT1の変異が認められるが,一部に URAT1の変異を認めない症例が存在することも 報告されており9,11),URAT1以外の腎性低尿酸血 症の病因遺伝子が存在することが示唆されてい た.痛風症例を対象とした症例対照研究では, W258X(G774A)が認められる場合には,痛風 になりにくいことも報告されている12). 2)腎性低尿酸血症2型の病因遺伝子GLUT9/ SLC2A9 ヒトゲノム情報の解読後,ゲノムワイド関連 解析(genome-wide association study, GWAS)に よる疾患関連遺伝子の探索が盛んに行われるよ う に な っ た . 血 清 尿 酸 値 に 関 わ る G W A S も , 2007年以降,複数のグループにより実施され, 尿酸値の変動に関与する遺伝子としてGlucose
transporter 9(GLUT9/SLC2A9)が報告された13-16). これにより,GLUT9がヒトにおいて生理学的に 重要な尿酸トランスポーターの候補であること が示された.最初のGWASの報告は,4,731名の イタリアのサルデーニャ人を対象としたLiらの 報告によるもので,初めてGLUT9遺伝子と血清 尿酸値変動との関連が明らかにされた13).Liらの 報告後も,血清尿酸値変動とGLUT9のSNPに関 連があるという報告が相次ぎ14-16),血清尿酸値を 指標とするGWASにおいてはGLUT9が最も有意 な相関を示すことが確認された(表2). Vitartらは,GLUT9が尿酸を輸送することを GWASの報告の際に初めて記載し,さらに,そ の輸送動態(Km値,890 μM)についても明ら かにした15).また,VitartらはURAT1と比べて緩 やかではあるが,GLUT9の機能がベンズブロマ ロンにより抑制されることも報告している15). GLUT9による尿酸輸送能は,その後の報告でも 確認され4,17,18),従来,主要な輸送基質と考えられ ていたD-グルコース,D-フルクトースなどの糖 輸送活性よりも尿酸輸送活性の方が数十倍高い ことが示されている17). GLUT9/SLC2A9が尿酸値の変動に関与すること に加えて,過去の報告で近位尿細管における G L U T 9の 発 現 が 示 さ れ て い る こ と か ら , GLUT9/SLC2A9遺伝子が腎性低尿酸血症の第2の 病 因 遺 伝 子 で あ る 可 能 性 が 示 唆 さ れ て い た . 我々は過去10年間にわたる85万セットの健康診 断データを有する海上自衛隊の健康診断データ ベースを活用することにより,十分な症例数を 確保した上で,GLUT9遺伝子を対象とした低尿 酸血症の臨床遺伝学的解析を実施した.その詳 表2 血清尿酸値変動を対象とした主なゲノムワイド関連解析
162 痛風と核酸代謝 第34巻 第 2 号 (平成22年) 細は他の総説に記したが2,19),この解析により腎 性低尿酸血症を来す2つの機能消失型のミスセ ンス変異(R198CとR380W)を見いだすことが でき,かつGLUT9がその生理学的機能として, ヒトの近位尿細管における尿酸の再吸収という 役割を担っていることを示すことができた4).こ の腎性低尿酸血症の新規病因遺伝子GLUT9の同 定により,既知病因遺伝子であるURAT1変異に よるものが「腎性低尿酸血症1型」(RHUC1, renal hypouricemia type 1, MIM 220150),GLUT9 変異によるものが「腎性低尿酸血症2型」(RHUC2, renal hypouricemia type 2, MIM 612076)と初めて 分類されるようになった2). URAT1変異以外の病因による腎性低尿酸血症2 型の概念が確立したことにより2),腎性低尿酸血 症の重要な合併症である運動後急性腎不全が, URAT1の機能低下が原因であるのか、あるいは 腎性低尿酸血症という病態そのものによるもの か を 検 討 す る こ と が 可 能 と な っ た . 最 近 , GLUT9のホモ病因変異を認める海外の複数の症 例が報告され,血清尿酸値が1.0 mg/dl以下となり, 尿中尿酸排泄率(FEUA)が150%以上であった ことが報告された20).すなわちGLUT9の尿酸再吸 収における影響力はURAT1と比べても高いこと が示唆された.さらに,この家族例を含む2種 類のホモ変異症例において,運動後急性腎不全 や尿路結石の合併が報告されたことにより,病 因遺伝子の種類にかかわらず,腎性低尿酸血症 という病態により,運動後急性腎不全をきたす ことが明らかとなった20). これまでの解析により,URAT1及びGLUT9の 両遺伝子に変異を認めない腎性低尿酸血症例が 存在することも確認されており,今後,未知の 病因遺伝子異常による「腎性低尿酸血症3型」 (RHUC3, renal hypouricemia type 3)が見いだされ
る可能性がある2,19).このほか,低尿酸血症の1 例にGLUT9のP412R変異を認めたという報告18)が あるが,報告された機能変化の程度が小さいこ と18),および機能解析結果が別のグループにより 再現できていないこと4)から,今後の検討が必要 とされている21).また,GLUT9遺伝子のSNPと痛 風の関連も複数の施設の症例対照研究において 示されているが,その分子機構は明らかにされ ておらず,今後の研究の進展が期待される. 3.痛風の主要病因遺伝子ABCG2/BCRP 1)なぜABCG2は有望な候補遺伝子であったか? 2004年に台湾の研究グループにより報告され たゲノムワイド連鎖解析により,ヒトの第4染色 体長腕に未知の痛風遺伝子が存在する候補領域 があることが報告された22).そのため,我々は, この領域に存在する複数のトランスポーターの うち,個人差が大きく,かつ尿酸と構造が類似 したAIDS治療薬3'-azido-3'-deoxythymidine (AZT) などの物質を輸送するトランスポーターの遺伝 子であるATP-binding cassette transporter G2 (ABCG2/BCRP)が最も有望な候補であると考え た.初期のGWASでは,GLUT9遺伝子のみが尿 酸値と関連する遺伝子として検出される報告が 相次いたが,表2に示すように,さらに多くの サンプル数を扱ったGWASにより,GLUT9以外 に,ABCG2を含む遺伝子領域が尿酸値の変動に 関わることが報告され23-25),GWASの結果からも ABCG2は極めて有望な痛風の候補遺伝子である ことが示唆された. 2)高容量性尿酸トランスポーターABCG2 ABCG2の分子機能の解析のために,我々は細 胞 膜 小 胞 ( ベ シ ク ル ) の 解 析 系 を 用 い5 ), Woodwardらはアフリカツメガエル卵母細胞の解 析系を用いて26),それぞれ独立にABCG2が尿酸 を輸送することを示した.我々が採用した細胞 膜小胞を用いた分子機能解析は,ABCトランス ポーターの解析において一般的な方法であり, ABCG2をHEK293細胞に発現させたのち,細胞膜 小胞を調製してRIで標識した基質の輸送を評価 することにより実施した.前述のように,尿酸 と構造が類似した物質であるAZTをABCG2が輸 送することが分かっているため,まずは既知の 輸送基質である硫酸エストロンの輸送に対する, AZTと尿酸の阻害効果を解析した.その結果, ABCG2による硫酸エストロンの輸送は,AZTに
より濃度依存性に阻害されるが,尿酸によって も 同 様 な 阻 害 が 観 察 さ れ る こ と が 分 か っ た . ABCG2において尿酸の輸送能を解析すると,生 理的に到達しうる尿酸濃度においても輸送飽和 の生じない,高容量性の尿酸輸送能が観察され た(図1).前述のように,ABCトランスポータ ーの機能解析法としては,細胞膜小胞を用いた 解析系が適しており,Woodwardらが採用した卵 母細胞の解析系では濃度依存性やATP依存性を 調べることは困難である.そのため,我々は細 胞膜小胞を用いた解析を実施することにより ABCG2が高容量性尿酸排泄トランスポーターで あることが初めて示すことができた5). 3)ABCG2遺伝子における病因変異候補の同定 ABCG2において病態に関わる遺伝子変異を見 いだすために,高尿酸血症症例90名において ABCG2遺伝子の全コーディング領域を対象とし たリシークエンスを実施した.これにより,図 2Aに示すようなアミノ酸置換を伴う6つの変異 ( V12M, Q126X, Q141K, G268R, S441N, F506SfsX4)が見いだされた.細胞膜小胞を用い た輸送実験系でABCG2の変異体における尿酸輸 送を計測すると,V12M以外の5変異で機能の低 下が認められた.この5変異のうち,Q141Kでは 機能が半分に減少し,残りの4変異では機能が完 全に消失することが観察された(図2B).また, 図1 高容量性尿酸トランスポーターとしてのABCG2(文献5より引用,改変) 図2 アミノ酸置換を伴うABCG2の変異 A,ABCG2のトポロジーモデルと特異部位 B,ABCG2変異体による尿酸輸送能 (文献5より引用,改変)
164 痛風と核酸代謝 第34巻 第 2 号 (平成22年) これらの5変異のうち,Q126X とQ141Kはそれぞ れ日本人の5.5%及び53.6%と高い頻度で認めら れることが報告されており,以降の臨床遺伝学 的解析はこの2変異に注目して実施した. 4)ヒトの生理学的な尿酸排泄を司るABCG2ト ランスポーター ABCG2の生体における機能を検討するために, 739名の日本人の健康診断受診者のサンプルを用 いて,血清尿酸値とABCG2の変異による関係に ついて量的形質座位(QTL, Quantitative trait locus) 解析を実施した.その結果,機能半減変異であ るQ141K変異を有する数が多いほど,血清尿酸 値が上昇することがわかった(図3A-C). これらの所見と,ABCG2トランスポーターの 腎臓27),肝臓および小腸28)における発現パターン から,我々は図4に示したようなABCG2によるヒ ト腎臓および肝臓,腸管からの尿酸排泄機構にお いて,生理学的なモデルと病態生理学的なABCG2 機能不全モデルを提唱することができた5).すな わち,生理学的なモデルにおいては,腎臓の近 図4 ABCG2を介したヒト尿中及び糞中への尿酸排泄機構 (文献5より引用,改変) 図3 ABCG2の機能低下型SNP(Q141K)によ る血清尿酸値の上昇 C/Cは野生型,C/Aはヘテロ変異,A/Aはホモ変異 を示す(文献5より引用,改変)
位尿細管,肝細胞および小腸上皮細胞の管腔側 に局在するABCG2は,それぞれ尿中および糞中 への尿酸排泄を担っている.肝細胞からの胆汁 中への尿酸排泄は,小腸上皮細胞からの小腸の 管腔内への尿酸排泄とともに,糞中への尿酸排 泄(腸管排泄)に関与していると考えられる. ABCG2機能不全モデルにおいては,近位尿細管, 肝細胞および小腸上皮細胞の管腔側における尿 酸排泄の障害があり,この機能不全により血清 尿酸値が高まることが示唆された.ヒトにおい て尿酸は,3分の2が腎臓から尿中へ,残りの3分 の1は主に小腸などから糞中へ排泄されることが 教科書的にも記載されていたが,ABCG2がそれ らの尿酸排泄を担う分子的実体であることが示 唆された. 5)痛風の主要病因遺伝子としてのABCG2 痛風や高尿酸血症の発症におけるABCG2トラ ンスポーターの役割を解析するために,日本人 男性の痛風症例161例を含む228名の高尿酸血症 症例と,血清尿酸値が正常な日本人男性865名を 対象として,ABCG2の主な遺伝子多型について 検索した.その結果,Q126XというABCG2の遺 伝子多型は,高尿酸血症と痛風の両方の発症リ スクを増加させることがわかり,高尿酸血症の 発症と比べて,痛風の発症により強く関わるこ とが明らかとなった.また,ハプロタイプ頻度 解析という方法により,ABCG2遺伝子のQ126X とQ141Kという2つの変異は,1つの染色体上で は同時に存在しないことが明らかとなり,独立 したリスクであることが分かった5).したがって, これらの2つの変異を調べるだけでヒトのABCG2 トランスポーターの機能低下の程度をほぼ予測 できることがわかり,簡便な検査によりリスク の予測が可能であることが見いだされた. このような解析の結果,痛風の症例の10%に ABCG2トランスポーターの機能が4分の1以下に なる遺伝子変異パターンが認められ,痛風の発 症リスクを約26倍高めることが明らかとなった (表3).また,ABCG2トランスポーターの機能 低下が,日本人の痛風症例の約8割に見られるこ とがわかり,3倍以上の発症リスクを認めること が分かった5)(図5). 生活習慣病などのcommon diseaseを対象とした これまでのゲノムワイド関連解析などで同定さ れる疾患関連遺伝子は,通常,リスクの増加が 2倍以下のものがほとんどであった.したがっ て,生活習慣病の遺伝子解析において,上記の 知見は,ABCG2遺伝子が痛風の主要病因遺伝子 であることを示しており,疾患の病態解明にせ まる日本発の大きな成果となった. 激しい国際競争の中,Woodwardらも,前述の 卵母細胞の解析系を用いてQ141Kにより輸送機 能が低下することを報告した26).しかしながら, 彼らの解析では痛風のリスクは2倍以下にとど まり,これまでの他の生活習慣病での成果と大 きく変わらないものであった.我々,日本の研 究グループは,より包括的な研究アプローチを 独立して実施したことにより,最終的に頻度の 比較的高い2つのSNPの組み合わせにも注目する 下線はリスク変異を示す(文献5より引用,改変) 表3 ABCG2の機能低下による痛風発症リスクの顕著な上昇
166 痛風と核酸代謝 第34巻 第 2 号 (平成22年) ことができた.さらに,それらの遺伝子型だけ でなくヒトの個体における分子機能に着目する ことにより,痛風症例の8割に3倍から26倍の発 症リスクを認めることを見出すことができた. これにより,痛風の主要な病因遺伝子の解明を 含む重要な知見を報告することができた5). 6)ABCG2以外の重要な遺伝子の存在 2008年末にDehghanらにより報告されたGWAS では,GLUT9以外に,ABCG2,SLC17A3を含む遺伝 子領域が血清尿酸値の変動に関わることが報告され た23)(表2).連鎖不平衡の問題があり,特に後者の 遺伝子領域は,SLC17A3_SLC17A1_SLC17A4 と複数 のトランスポーター遺伝子を含む領域にまたが っているため,どのトランスポーター遺伝子が 血清尿酸値の変動において,より生理学的に重 要であるのか,GWAS後のさらなる詳細な解析 が必要である.そのうち,NPT1/SLC17A1につい ては,その遺伝子のSNPが痛風の発症に関連して い る こ と に つ い て Uranoら29)が 報 告 し て い る . NPT1/SLC17A130),NPT4/SLC17A331)ともにそれぞ れ尿酸を輸送することが最近報告されており, SLC17A3_SLC17A1_SLC17A4の遺伝子領域におい てどの分子が重要であるのか,これらの知見を もとに今後解明されていくものと期待される. 2009年にはKolzらが,これまでのGWASの成 果をもとにして,2万8千人以上を対象としたメ タ解析を実施し,血清尿酸値の変動に関わるさ らに多くの遺伝子群が報告された24).この報告で は,これら3つの遺伝子領域のほかに,新たに, 6つの遺伝子領域が見いだされた.トランスポ ーター遺伝子の領域としては,URAT1/SLC22A12, OAT4/SLC22A11, MCT9/SLC16A9が挙げられ,そ の他に,PDZK1,GCKR,LRRC16A-SCGNといっ た様々な遺伝子領域が報告された(表2).上記 のうち,LRRC16A-SCGN以外は,その後のrepli-cation studyにおいても血清尿酸値への影響の再現 性が認められている32).Kolzらの報告において, URAT1のSNPと血清尿酸値変動との関わりが, GWASにおいても初めて報告された24). PDZドメインタンパク質PDZK1は,URAT1を はじめとするトランスポーターと結合してその 機能を高めることが報告されており33),尿酸トラ ンスポートソーム(尿酸輸送分子複合体)にお ける尿酸輸送調節機構の解明につながることが 期待される.OAT4についても尿酸輸送活性があ ることが既に示されており34, 35),高尿酸血症や低 尿酸血症などの疾患との関連が解明されていく 図5 ABCG2の機能低下と痛風発症の関係 下線はリスク変異を示す(文献5より引用,改変)
ものと考えられている.その他の遺伝子につい ては,尿酸動態との関連が不明である.GCKR (glucokinase regulatory protein)はグルコースセン サーとして作用する解糖系酵素の調節因子であ り , 2 型 糖 尿 病 を 対 象 と し た G W A S に お い て
GCKR遺伝子の同じSNPが中性脂肪値の変動に関 連することが報告された36).
最近,Kamataniらにより,日本人における GWASの 結 果 も 報 告 さ れ , URAT1, GLUT9,
ABCG2が血清尿酸値と関連することが示される
と と も に , 新 た な 遺 伝 子 と し て low density lipoprotein receptor-related protein 2(LRP2)と尿 酸値との関連も指摘される25)など,これらの遺伝 子と尿酸関連疾患との関係についても,今後の 研究の進歩が期待される. おわりに ヒトゲノムの解読後のポストゲノムシークエ ンス研究として重要な位置づけにあるGWASな どのゲノムワイド解析により,疾患に関連する 遺伝子が次々と同定されているが,その後の病 態解明は困難な場合もある.GWASの成果を効 率的に引き出す重要なポイントの1つは,対象 となる遺伝子の機能を評価し,そのSNPによる影 響を適切に判定できることであると考えられる. そのため,分子機能の評価法が確立しており, かつ,様々な疾患の病態に密接に関わるトラン スポーター分子は格好のターゲットとなる.今 回紹介した,痛風のリスクを著明に高める尿酸 排泄トランスポーターABCG2遺伝子のSNPsの同 定は,痛風を含めたcommon diseaseを対象とした 「個人差に応じた早期予防や早期治療法」(テー ラーメイド医療)の確立のためにも,極めて重 要な知見になると考えられる. ABCG2遺伝子が,痛風の主要病因遺伝子であ るとともに,高容量性の尿酸排泄トランスポー ターをコードしていることもあわせて解明され, ABCG2がヒトの生理学的な尿酸排泄に関わるこ とが示唆された.さらに,ABCG2が腎臓のみな らず,肝臓や小腸にも発現していることから, 尿酸の腎臓からの排泄のみならず,教科書的に も記載されていた腎外排泄(腸管排泄)の生理 学的分子機構がABCG2により担われていること も示唆された37).これらの知見は,尿酸動態の生 理学的な分子機構や,痛風や高尿酸血症の病態 解明をさらに進めるものであり,さらに今後の ABCG2以外の遺伝子における研究の発展も期待 されることから,新たな視点からの痛風の予防 法や治療薬の開発につながることが大いに期待 される. 文 献
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尿酸トランスポーターURAT1トランスジェニックマウスにおける
尿酸の体内動態
塚田 愛1) 木村 徹2) Jutabha Promsuk2)
安西 尚彦2) 市田 公美1) 櫻井 裕之2)
受付:2010年6月7日,受理:2010年10月6日
1)東京薬科大学病態生理学 Ai Tsukada,Kimiyoshi Ichida
2)杏林大学医学部薬理学 Toru Kimura,Jutabha Promsuk,Naohiko Anzai,Hiroyuki Sakurai key words:尿酸,尿酸トランスポーター 尿酸はヒトにおけるプリン体の最終代謝産物 であり,主に腎臓から排泄される.腎臓での尿 酸の排泄亢進や排泄低下によって腎性低尿酸血 症や高尿酸血症が引き起こされるため,腎臓で の尿酸輸送を理解することは臨床的に重要であ る.尿酸トランスポーターURAT1は,腎臓近位 尿細管管腔側において尿酸再吸収を行う分子で ある.このURAT1は尿酸降下薬の作用点であり, また遺伝子変異により腎性低尿酸血症をきたす. よってURAT1は血中尿酸値に大きく影響を及ぼ す因子であると考えられるが,その発現が尿酸 値や他の尿酸トランスポーターにどのような影 響を及ぼすのか明らかになっていない.そこで, URAT1トランスジェニック(Tg)マウスを用い て,尿酸値測定およびマイクロアレイと定量 PCRによる遺伝子発現変化の解析を行った. RT-PCRの結果から,Urat1 mRNAが腎臓特異 的に発現しており,Tgマウスでは野生型と比べ て発現量の上昇が見られた.ウエスタンブロッ ト お よ び 免 疫 組 織 染 色 に よ り , 導 入 し た HA-mURAT1タンパク質が腎臓の近位尿細管管腔側 に発現していることを確認した.以上の結果か ら,導入したHA-mURAT1がすでに報告されてい るmURAT1と同様の発現分布を示し,URAT1が 過剰発現していることを確認できた.そこで, このマウスをモデルとして解析を行った.血中 および尿中尿酸値を測定した結果,どちらの尿 酸値にも変化が見られなかった.マイクロアレ イおよび定量PCRにて検討した結果,Urat1遺伝 子はTgマウスにおいて発現が有意に増加してい たが,他の尿酸トランスポーターや尿酸代謝酵 素の遺伝子の発現量に変化は見られなかった. 以上の結果より,URAT1過剰発現は,マウス生 体内での尿酸動態および他の尿酸トランスポー ターや尿酸代謝酵素の遺伝子発現に大きな影響 を及ぼさないことが示された. 緒 言 尿酸はヒトにおけるプリン体の最終代謝産物 である.体内で合成された内因性プリン体や食 事から得られる外来性プリン体は,ヒポキサン チン,キサンチンを経て尿酸に代謝される.多 くの哺乳類では,尿酸はウリカーゼにより水溶 性が高いアラントインへ代謝されるが,ヒトを 含む霊長類ではウリカーゼを遺伝的に欠損して いるため,尿酸がプリン体の最終代謝産物とな る1).従って,ヒトの血中尿酸値は他の哺乳類に 比べて高値を示すことが知られている. 尿酸は主に肝臓で合成され,その約70%が腎 臓,残りの約30%が小腸から排泄される.腎臓に おいて糸球体濾過された尿酸は,尿細管におい て再吸収と分泌が行われ,最終的に糸球体ろ過 量の約10%が尿中に排泄される.血中尿酸値は 生体内における尿酸の産生と排泄のバランスに よって決定されるが,痛風患者の半数以上が尿 酸排泄の低下が原因であり,尿酸産生亢進との 混合型を合わせると85%以上の患者に尿酸排泄 の低下が見られる2)