本論文は、范曄『後漢書』に基づいて、後漢時代の学問のジャンルを調査し、同一人物によって経学以外の 諸学がどの経書と併修されたかを探り、後漢時代の経学と諸学の関係を考察したものである。考察の結果、黄 老(『老子』)は『易』との併修、術数は『(京氏)易』や他の経書との併修、兵法は『春秋』との併修がそれ ぞれ確認され、後漢時代に新たに成立した讖緯学を含めて、後漢時代の学問ジャンルは、『七略』(『漢書』藝 文志)によって示された当時の経学的世界の枠内にすべて組み込まれていたことが理解できた。理念としての
『七略』(『漢書』藝文志)の学術分類と現実としての学問のジャンルとに、基本的に齟齬が無かったことは、
総体的に言って、当時の多くの儒者は、経学の本来あるべき姿として、この『七略』(『漢書』藝文志)の学術 分類体系を支持した、ということを意味する。しかし、反面、これら後漢時代の学問ジャンルは、『七略』(『漢 書』藝文志)に著録されている諸学派が淘汰された結果である、ということも、同時に知ることになった。
後漢時代の学問ジャンル
――経学と諸学――
The classification of learning in Latter Han period : Jing−xue and others
井ノ口 哲 也
Tetsuya INOKUCHI
哲学・倫理学* 要旨
*Department of Philosophy and Ethics
東 京 学 芸 大 学 紀 要 人文社会科学系Ⅱ 第58集(2007)
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