北 海 道 の 雪 氷
No 19(2000)
間伐 木 を用 い た仮 設 防 雪 林 の諸機 能 につ い て
斎藤 新一郎 (専修大学北海道短期大学)。 平泉 清 (日本道路公団岩見沢管理事務所)・
鳥田宏行 (北海道立林業試験場)
1
まえがき筆者たちは
,除
伐木 を有効利用す るために,こ
れ をガー ドレールの杭 に縛 って,視
線誘 導 樹 として利用 してきたなぜな ら
,常
緑針葉樹は,視
認性 が大きく (磯部ほか1990),体
眠 した後に伐採すると,根
無 しであ りなが ら,春
まで,青
い葉 を着 けたままである,
とい う性質 をもつか らである (斎藤・ 林 1993)そ して
,こ
の除伐木を,さ
らに有効に利用す る方法 として,こ
の除伐木 と生きた木 との防雪 効果に大差がないであろ う,と
の考えか ら,樹
木群ない し林帯 としての利用を検討 し,「仮設 の防雪林」 として用いることに考え到つた (斎藤 1999)そ して
,こ
の仮設 防 雪林 は,小
規模 なが ら も,道
央 自動車道 の奈 井江町官村地 区に,道
路公 団岩 見沢管理 事務 所 に よって
,1999年
初 冬 に設 置 され,1999/
2000年
の1冬
が経過 し たもちろん
,防
雪林と して
,苗
木 が植 栽 さ れ ていて,
この仮 設木 は,冬
季の寒風・ 雪害 か ら苗木 を保 護す る役 割―一 生 きてないが,子守 り木
,生
きた柵 と しての役割―― も有 し てい る (図‑1)
仮設防雪林 の設置 は,
それ ほ ど難 しくない 予定地 に鉄パ イプ杭 を
打ち込み (長さ
lm,ほ
ぼo5mを
地下へ ;内径 70〜 10011m),そ れに除伐木を縛 るのである この鉄パイプ杭の配置間隔は,苗
木の植 え付け間隔 と同様 で,
しかも,苗
木か らい くぶん離 し て,列
間が35m,苗
間が20mで
ある (写真‑1)除
伐木のサイズは,樹
高が 3〜4mで
あり
,そ
の大部分が トドモ ミ(トドマツ)であった本稿では
,そ
の防雪機能の検証 と,仮
設防雪林 の さらなる利用方法 とについて,検
討 して みた諸賢か らの ご批判 を期待 している
仮 設 木
≒
35m h
吹雪・
地吹雪
→
一 ヽ ユ ヽ
〆 ヽ
Kl濃
ノ
/´
ヽi ̀ヽ
/
″
/
ヽ
図
‑1
仮設防雪林 の造成方 法 とそ の捕 雪機 能 (予想)│
│
1道 央道
│
│
│
│
‑41‑
北海道の雪氷
No.19(2000)
2.仮
設防雪林 の捕 雪機 能2000年
1〜3月の現地調査・ 踏 査 の結果 は, 次の よ うであった 。苗木植 えでス ター トした防雪林 であ り
,植
え付 け後
1成
長期 しか経 てい ないので,高
さ0.50mの
苗木 (ヨー ロ ッパ トウヒ2列 ,
トド モ ミ1列 )は ,冬
季 には積雪 下 に没す る.し
か し
,仮
設防雪林 の設置 に よ り,突
然 に,10
年先の防雪林 が出現 した (写真
‑2).
この仮設林 に入 つて
,積
雪深 の調査 が行 わ れた.列
間 には,や
や 高 い小丘 が形成 され て いた (写真‑3)。 しか し,こ
れ が捕 雪 に よる吹 き溜 ま り (雪丘
)で
あるのか,樹
冠 か ら の冠雪 の落下で あ るのか,あ
ま り明 らかでな かつた (両方の混在 ではなか ろ うか).そ して
,積
雪深 を測 定 した ら,図 ‑2の
よ うであつた。風上側 の侵入 防止柵 の高 さ が約
lmで
あ り,積
雪深 は80m(樹
冠 下)か
ら120cm(列
間)の
範囲 であ り,
ふ.│
写真
‑2
突 然 に現 われ た仮設防雪林(ト ドモ ミ, 3列
;2000.3)林外 の風上側 では 90〜100 clllであつた。 ど うや ら
,こ
の冬 には,大
吹 雪がな く,
しか も,道
路 に対 して
,風
が平行 に近 い角度 で吹 いた ら しい一一 本試験 地ふ き んでは,狭
い石狩川 平野 に沿 つて,卓越風 は
,南
北方向に吹 いてい る. それ ゆ え,こ
の冬 には,仮
設防 雪林 の捕雪機能 が十分 に発揮 され なか った,と
いえ よ う.そ うで あれ ば
,風
向 きに応 じた 仮設林 の配 置 を考 える必要が あ る. 幸いに も,杭
打 ちは容易 であ るから
,い
ろい ろな方 向か らの風 に対 応 で き る.こ
れ が,
うま く運べ ば, 実際 に,苗
木 を植 え付 け,機
能 の発現 まで成長す る前 に
,そ
の配 置 写真‑3
仮設防雪林 の列間の小 丘 ら しきもの(同上)写真
‑1
仮設防雪林 の設 置前(上)と後(下).3
‑42‑
仮設木 (除伐 木)
積 雪面
牧 草 地 ↑
・
吹 き溜 ま り
(?落
雪)鉄 パ イ プ杭 侵 入防止柵
図
‑2
仮設防雪林内外の積雪深の測定結果 卓越風は,道
路に平行に吹 くらしいおよび効果を
,計
画段階で,か
な りの精度で予測できること になる (図‑3)
仮設林の良い点は
,ほ
かにもある実物大のスケールで,
防雪機能を測定できることである
縛 る杭 さえ堅固であれば,
高 さ
10mの
除伐木ない し間伐木でさえ,縛
ることが可能で あ り,造
成 して20年
くらい先まで も,予
測できるのであるこの仮設林方式であれば
,上
述のよ うに,苗
木の成長 を 待ちなが ら,機
能を発揮 し,既
往の林帯か ら,除
伐木 を運搬して
,毎
年,設
置できるつま り
,従
来の造園的な手法によ る完成木の移植 (強度の根切 り)を
しなくても,ま
た,新
しい凍土方式による大木移植 を しなくて も (斎藤・ 田口 1995),
北 海道 の雪氷
N019(2000)
図
‑3
あ らゆる風向に対応 できる仮設防雪林 苗木植 えで十分に対応できる測定す る
>
風 に よる音の伝送
3
環境林 としての諸機能の検証道路防雪林は
,道
路に とっては, 1冬
に数回〜十数回程度で発生す る,吹
雪防止が本命 の 林帯であるしか し
,立
場を変 えると,道
路沿いの人々に とっては,環
境林であるつま り,
道路か ら発生す る迷惑な騒音の低減および音源の遮蔽 (防音効果
),林
帯の風下側における農 作物の増収 (防風効果),ほ
かがあるこれ らは
,通
年ない し長期間の防災・環境保全の機能 をもつているさらに
,新
しい立体的な緑の景観の形成,野
生生物の棲み家・通路,酸
素の放 出お よびllFガスの吸収
,ほ
かの機 能 も考 え られ るそれ ゆ え
,こ
ぅし た機 能 を,仮
設林 を 利用 して,測
定す る越 える騒音
こと が可 能である 「 本 線
少な くとも
,防
音効 果,防
風効果を測定 す ることは,そ
れほ ど困難ではない (図‑4)
音源の遮断
側道 袋ギ 水田・畑 図
‑4
防音・ 防風 に関す る防雪林 の機 能測 定の模式図燿 』 [f][の 減 衰
防
雪
林 (抑え盛 り土
) <防
音効果を‑43‑
道路排雪
北海道の雪氷
N019(2000)
4
この研 究の進 み方視線誘 導樹 か ら発 展 した
,仮
設防雪林 の研 究 は,次
の よ うに進 んで ゆ くで あろ う①密に植栽 された防雪林は ,林 木の成長に合わせて ,問 引きが必要である さもないと ,下
枝が枯れ上が り ,防 風・防雪機能が低下す る 間引かれた木
(除伐木ない し間伐木 )の 利
用方法はないのであろ うか
?
②吹雪時 の高速道路では
,視
程確保のために,常
緑性の視線誘導樹が欲 しい根つ き若木の 移植 は難 しい し
,経
費が莫大であるその上
,活
着 し難いところが
,休
眠 した常緑針葉樹は
,伐
られ て も, 1冬
中,青
い葉 を着けてい る道路林 か らも間引き木が出 る し
,一
般 の造林地か らでも除間伐木を購入できる (林業に貢献す る)③不要になった除間伐木を ,25m間 隔に ,杭 に縛って ,視 線誘導樹 としたら ,吹 雪の 日に効 果が大きい そ して ,晴 れた 日にも ,沿 線の景観を高める
④視線誘導樹 くらいでは ,惜 しい よ り良い利用方法はないのか ? 杭を数列に打ち込み
,これに除間伐木を縛って ,仮 設防雪林 としてみよう
!⑤仮設防雪林は ,冬 ごとに働き ,苗 木の成長 を待つ 10年 後の若い防雪林の機能 を先取 りで きるのである
⑥道路に平行に吹 く風に対 しては ,杭 打ちの方向を変え うる これな ら ,奈 井江町のよ うな 風向きでも ,十 分に対応できる そ う ,奥 羽山脈を横切る高速道路にも使える
!⑦防雪林 を造成できない場所であつても ,仮 設林なら ,容 易に設置できる 吹雪防止であれ ば ,冬 季だけなので ,毎 年 ,初 冬に設置 し ,早 春に撤去できる
③防風林の機能 を「実物大の模型 Jで ,測 定できる 防雪林は ,防 雪構 と異な り ,多 機能で
あ る と と もに
,サ
イ ズ的 にず っ と大 き くな り,機
能 もは る力ヽこ大 き くな る⑨防音林 の機能 を 「実物大の模型
Jで ,測
定できる落葉樹の冬季の防音機能の低下を
,常
緑樹の
1列
仮設林で,か
な り補 うことがで きる⑩ さらに
,発
展の見込みがある参考文献
磯部圭吾・竹内政夫・石本敬志・福沢義文
,1990
吹雪時にお ける常緑樹の視認性について 雪氷大会講予稿集,平 2:163
斎藤新一郎・林
敏雄
,1993
高速道路における除伐木を用いた視線誘導樹の試み北海道 の雪氷, no 12:33〜36
斎藤新一郎・ 田口和幸
,1995
凍上方式による大 きな木の厳寒期にお ける移値について北 海道の雪氷, no 14:3〜6
斎藤新一郎
,1999
間伐木による仮設防雪林造 りの提案―― 奈井江町官村地区の場合雪氷
北支研究発表会 (講演のみ)