1.緒 言
染料が移染する現象を防止するため酸素系漂白剤が用 いられており,酸素漂白剤を用いた染料退色反応の検討 が行われている[1,2].著者らは移染を防止する方法とし て,ペルオキシダーゼ(POD)を用いた色素の退色反応の 研究を行っている.PODは酸化還元酵素に分類され,過 酸化水素(H2O2)を第一基質として反応が進行する.色素 溶液へPODとH2O2を共に添加した場合,pH 9.0におい て室温付近の低温で,色素の退色反応がすばやく進行す ることが明らかにされている[3,4].また,界面活性剤と 共存しても移染防止に十分な色素の退色速度を有する[5-
6].しかし,PODを用いた退色反応は色素の分解に特異
性を有し,PODの由来によって退色速度や退色挙動が大 きく異なることがわかっており[7],効率的な色素の退色 反応には様々な要因が関与することがわかっている.
PODの色素反応で第一基質として必要不可欠である H2O2は,高濃度条件下でPODの不活化をもたらし反応の 進行を妨げることが,西洋ワサビ由来のPOD(HRP)で報
告されている[8].また,近年,消費者の抗菌および防臭 効果などへの高い関心より,市販衣料用洗濯洗剤にも酸 素系漂白剤が配合される機会も多くなっている.さらに は洗浄槽に洗濯用洗剤と共に酸素系漂白剤を添加して洗 濯をする方法を洗剤メーカーが推奨するなど,多様化し ている.そこで,不活化せずに種々の濃度のH2O2条件下 において,PODを用いた退色反応が安定に進行すること はPODの実用化に必要不可欠だといえる.
以上より本論文では4種の由来の異なるPODを用いた 色素の退色反応におけるH2O2濃度の影響や保存安定性な どのH2O2耐性を実用化が可能な高濃度まで詳細に調べた.
中でももみがら由来POD(RPO)と西洋わさび由来POD
(HRP)については分光学的結果より反応スキームを推察 することでH2O2への耐性を考察し,基礎的知見を得るこ とを目的とした.
2.実 験 2.1 試料
試薬は全て市販の特級品を特に精製せずに使用した.
水はイオン交換水を1回蒸留し,さらにミリポアで超純
松林 真奈美
*1, #・松林 誠
*2・森田 みゆき
*3Abstract: It has been known that natural source of origin peroxidases, such as rice hull peroxidase (RPO), horseradish peroxidase (HRP), soybean peroxidase (SPO), and Arthromyces ramosus peroxidase (ARP), might be alternative candidates for bleaching system. However, their characteristics have not fully investigated. The purpose of this work is to evaluate these peroxidases for the decoloration of Orange II with high concentration of H2O2. Consequently, RPO system showed high decoloration rate contents even at the high concentration of H2O2, 150 mM, comparing with other PODs. Furthermore, decoloration activity of this RPO was stable under the coexistence of H2O2at 120 minutes. By assessing PODs oxidation states at the high concentration of H2O2, 75 mM, intermediates, namely Compound III and Compound IV, appeared to be formed in the RPO and HRP oxidation cycle, and inactivated the decoloration reaction.
Interestingly, only RPO system could maintain decoloration rate contents after several reaction cycles. In conclusion, RPO might be effective to edge closer to practical use as washing enzyme.
(Received 31 March, 2014 ; Accepted 18 June, 2015)
# corresponding author
*1Fuji Women’s University, Hanakawa Minami 4-5, Ishikari, Hokkaido, 061-3204, Japan (a part-time instructor)
*2National Institute of Animal Health, National Agriculture and Food Research Organization, Kannondai 3-1-5, Tsukuba, Ibaraki 305-0856, Japan
*3Hokkaido University of Education Sapporo, Ainosato 5-3-1, Kita-ku, Sapporo 002-8502, Japan
一般報文
ペルオキシダーゼによる退色反応の過酸化水素に対する耐性
Decoloration Reaction of Peroxidase-H
2O
2System to the Tolerance for Hydrogen Peroxide
Manami Matsubayashi*1, #, Makoto Matsubayashi*2, and Miyuki Morita*3水処理したものを用いた.使用したPODの由来は,もみが ら(RPO),西洋わさび(HRP),大豆(SPO)そしてArthromyces ramosus(ARP)の4種とした.また,PODの濃度はモル吸 光係数を用いて算出し[9],母液(0.164 mM)を使用直前に 希釈して使用した.PODとオレンジIIを含む溶液は0.1 M トリス-HCl緩衝溶液(pH 9.0)で調製した.H2O2水溶液は その都度緩衝溶液(pH 9.0)で調製した.
2.2 装置
反応過程のオレンジIIの吸光度及び吸収スペクトルの 測定には,日立製紫外可視分光光度計U-2010を用い,光 路長1 cmの石英セルで測定した.また,温度制御のため 日立セルホルダを使用した.pH測定には,堀場製pH/イ オンメー タ ーF-23型 を 用 い た.SDS-PAGEに はBio-rad 社製ミニプロティアンシステムを用いた.
2.3 操作
色素の退色反応;石英セルに終濃度が0.05 mMオレン ジII,3.4 µMのPODを含む0.1 Mトリス-HCl緩衝液(pH 9.0)2.7 mlを入れ,30秒間撹拌の後,任意の濃度のH2O2 0.3 mlを注入して反応を開始させた.反応温度は全て20℃ に設定した.反応過程における色素の吸光度の変化は,
色素の最大吸収波長の485 nmの吸光度を測定した.
POD退色反応は擬一次反応であることが確認されてい るため,
ln (C0/Ct)=k·t
の式から色素の初期退色反応における速度定数kを求め た.ここで,k(min−1)は擬一次速度定数,C0は色素の初濃 度,Ctは反応時間tにおける色素の濃度であり,図の反応 条件は終濃度を示す.また,色素の退色率は反応開始前 の反応溶液の吸光度から反応後の吸光度をひき,反応開 始前の吸光度で除して100をかけ算出した.
保 存 安 定 性;石 英 セ ル に1.0 mMオ レ ン ジIIを 含 む 0.1 Mトリス-HCl緩衝液(pH 9.0)2.5 mlを入れ3分間撹拌 した.そのセルに,0.68 µM PODと7.5 mM H2O2を0.25 ml ずついれ,任意の時間撹拌した混合液0.5 mlをインジェ クターによって注入して反応を開始した.反応温度は全 て20℃に設定した.反応過程における色素の吸光度の変 化は,色素の最大吸収波長の485 nmの吸光度を測定した.
反応機構の解析;石英セルに1.0 mMオレンジII,68 µM のPODを含む0.1 Mト リ ス-HCl緩 衝 液(pH 9.0)2.7 mlを 入れ,インジェクターによって各濃度のH2O2を0.3 ml石 英セルに注入して反応を開始した.その任意の反応時間 において,吸収スペクトルを測定した.PODはSoret帯(3
(0-500 nm),Q帯(500-700 nm)のスペクトルが確認しやす い 濃 度 と し て,至 適 条 件 と し て 定 め ら れ て い る 濃 度
(3.4 µM)の20倍高濃度(68 µM)にして測定した.
SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動; 0.34 µM POD,
H2O(0.75 mM,75 mM)となるよう混合した緩衝溶液を2 30 分間攪拌した.攪拌後,酵素反応を停止させるため-180℃
に入れ凍結し,使用まで保存した.SDSポリアクリルア ミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)は,Laemmliの方法[10]に 従い,4℃で解凍したサンプルにただちに等量のSDS変 性緩衝液(125 mM Tris-HCl,pH 6.8),10 % 2-メルカプト エタノール,4 % SDS,20 %グリセロール,0.01 %ブロモ フェノールブルーを加え,沸騰水中で4分間加熱処理し,
SDS-PAGE用試料とした.SDS-PAGEは12 %分離ゲルを 用い,各サンプル10 µl(変性緩衝液込みで20 µl)をアプラ イし,200 V定電圧で泳動した.泳動後のたんぱく質は,
Silver Stain II Kitで染色し,検出した.
3.結果と考察
3.1 POD を用いたオレンジ II 退色反応に及ぼす過 酸化水素濃度の影響
RPOとHRPを 用 い た オ レ ン ジII退 色 反 応 に お け る H2O2濃度の影響についての退色曲線を図1に示す.RPO を用いた場合,H2O2濃度が75 mMまでオレンジIIの初期 退色速度および退色率が低下せず,効率よく退色反応が 進 行 し た(図1(a)).一 方,HRPを 用 い た 場 合,H2O2が
0.75 mMでオレンジIIが最も速く退色し,それ以上の濃
度のH2O2を添加すると初期退色速度および退色率が低下 した(図1(b)).
そこで任意のH2O2濃度における4種のPODを用いた オレンジIIの退色反応について詳細に調べた.退色曲線 より算出した各H2O2濃度におけるオレンジIIの退色反応 速度定数値を図2(a)に示す.
RPOを 用 い た 場 合 の 退 色 速 度 定 数 は,H2O2濃 度 が 0.75 mMで1.26 min−1を示し,75 mMのH2O2では1.50 min−1 に増加した.さらに高濃度の150 mMを添加すると退色 反応の進行は遅くなったが,H2O2を0.75 mM(至適濃度
[3])添加した反応系の退色速度定数(1.26 min−1)と比較し ても,その70 %の0.881 min−1を保った.また,図には示 していないが,H2O2が375 mMの高濃度においても至適 濃度の退色速度定数の60 %である0.725 min−1と高い値を 保持した.
一方,HRPを用いた場合,0.75 mM H2O2を添加した時 の退色速度定数は1.89 min−1を示すが,それ以上の高濃度 になると退色速度定数は徐々に低下し,37.5 mMの濃度 で0.379 min−1と急激に減少した.また,75 mM以上のH2O2 濃度ではオレンジIIの退色反応は進行しなかった.
SPOを用いた場合は,75 mMのH2O2濃度で,至適濃度 である0.75 mMを添加した場合の67 %の0.753 min−1まで 退色速度定数が低下し,150 mMで退色しなかった.しか し,RPOと類似し,HRPやARPと比較すると高濃度の H2O2でも高い退色速度定数を示した.またARPを用いた 場合は,0.75 mMよりH2O2濃度が高くなると退色反応は 進行しにくくなり,12.5 mM以上のH2O2濃度では反応が 全く進まなかった.
次に,任意のH2O2濃度添加における反応開始30分後
のオレンジII退色率を図2(b)に示す.RPOを用いた場合 は,H2O2濃度75 mMまで30分後の退色率が80 %と高い 値を示した.SPOを用いた場合は,H2O2濃度が75 mMで は54 %と な っ た.一 方,HRPはH2O213.7 mMで 退 色 率 が65 %まで,37.5 mMでは32 %まで低下した.ARPにお いては7.5 mMで52 %まで退色率が低下し,それ以上の H2O2濃度では退色反応は進行しなかった.
3.2 過酸化水素と POD の共存時間の影響
PODの由来によって,H2O2濃度に対するオレンジIIの 退色反応耐性は大きく異なった.そこで,次にPODとH2O2
共存時間におけるPODの保存安定性についてオレンジII の退色反応で評価した.
4種のPODとH2O2の共存時間の影響をオレンジIIの 退色速度定数(図3(a))および退色率で示した(図3(b)).
退色率は反応開始30分後におけるオレンジIIの吸光度か ら算出した.
RPOはH2O2と120分間共存しても,共存時間1分の場
合の退色速度定数0.212 min−1の79 %である0.167 min−1を 保ち(図3(a)),オレンジII退色率も85 %と高い値を示し た(図3(b)).またSPOも同様にH2O2との共存時間の経 過によって退色速度定数および退色率の大幅な低下はな かった.
一方,HRPはH2O2と30分間共存すると,退色速度定 数が共存1分間の退色速度定数(0.273 min−1)の50 %の値 である0.137 min−1となった.また,120分間保存すると 40 %の0.113 min−1まで大きく低下した(図3(a)).退色速 度定数で変化がなかった60分間から120分間の共存にお いても,HRPとH2O2の共存時間の経過とオレンジIIの退 色率は直線的に低下し,150分間共存すると54 %まで減 少した(図3(b)).
ARPは,H2O2と5分間共存するとオレンジIIの退色反 応は進行せず,他の由来のPODと比較し保存安定性が極 端に低かった(図3(a),(b)).以上より,H2O2との共存 時間においてもPODの由来が大きく影響することが明ら Fig. 1 Effect of H2O2 concentration on decoloration curves of Orange II in the POD
system. (a) RPO system and (b) HRP system. [Orange II]=0.05 mM, [RPO, HRP]
=0.34 µM, and [H2O2]=0.75, 7.5 or 37.5 mM.
Fig. 2 Effect of H2O2concentration on decoloration rate constants and decoloration rates of Orange II. (a) Decoloration rate constant (k), and (b) decoloration rate (R) obtained after 30 min. RPO (●), HRP (▲), SPO (○), and ARP (□). [Orange II]
=0.05 mM and [POD]=0.34 µM.
かとなった.
3.3 SDS-PAGE による POD の分析
PODの由来によりH2O2への耐性が大きく異なることか ら,SDS-PAGEにより各PODのタンパク質を解析した.
各PODと0.75 mM H2O2共存下で30分間反応させた後に 泳動した像(A)と75 mM H2O2共存下で反応させた後に,
Aと同条件で泳動した像(B)のSDS-PAGE銀染色像を図4 に示す.RPOは75 mM H2O2の共存下においてもRPOに 由来する約45 kDaのバンド及びその他のバンド強度が低 下しなかった(図4 RPO(A),(B)).一方,SPO,ARPに ついては,75 mMのH2O2を添加した場合,どの分子量に おいてもバンドの強度が低下した(図4 SPO,ARP(A),
(B)).HRPはH2O2を 添 加 し な い 場 合,HRP由 来 の 約 45 kDaのバンドのみが見られるが,0.75 mM H2O2の添加 により,ペプチド化によると推測される約45 kDa以下の 分 子 量 の 小 さ い 幾 重 の バ ン ド も 出 現 す る.高 濃 度 の 75 mM H2O2添加によって,その約45 kDaのバンド強度が 大きく低下し,さらに分子量の小さい幾重のバンドも消 失した(図4 HRP(A),(B)).
以上より,高濃度のH2O2と共存することによって各 PODの分解消失がおこるが,RPOは他3種由来のPOD と比較し,各バンドの消失やバンド強度の低下が小さい ことが明らかとなった.
3.4 高濃度過酸化水素共存下における POD の酸化 状態退色反応経路
PODは,H2O2を第一基質として種々の水素供与体の酸 化反応を触媒する酵素で,ヘム鉄を活性部位として次式 に示すような中間体(Compound I,Compound II)を経て,
酸化還元反応によりNativeの状態に戻る酵素サイクルで 反応が進行する.式内のカッコ内はヘムの酸化数を示す.
Native(+3)+H2O2→Compound I(+5)+ H2O (1)
Compound I(+5)+ AH2→Compound II(+4)+ AH! (2)
Compound II(+4)+ AH2→Native(+3)+ AH! (3)
また,PODは条件によって,これらの反応経路とは別 に582 nmに吸収を持つCompound IIIや670 nmに吸収を 持 つCompound IVが 出 現 す る こ と が わ か っ て い る.
Compound IIIは,HRPの過剰なH2O2共存下において発現 し,通常の反応サイクルと別経路をとるためにHRPの反 応 阻 害 に 起 因 す る こ と が 確 認 さ れ て い る[8].ま た,
Compound IVはP-670といわれ,吸収スペクトルに670 nm のピークを有することが特徴である.過剰のH2O2共存下 やサリチル酸とH2O2共存下おいて発現し[11],酵素反応 を阻害することが確認され[12],さらに,Compound III の破壊より,Compound IVが生成される反応連動性があ ることも判明している[13].
PODを用いたオレンジIIの退色反応では,PODの由来 によってH2O2耐性は大きく異なっていた.そこで,H2O2
濃度によるオレンジIIの退色速度定数の変化が顕著であ り,オレンジIIの退色速度が速い代表的なRPO,HRPを 用いてH2O2の高濃度条件下における反応機構を分光法に より解析した.
図5にPODを 用 い た オ レ ン ジII退 色 反 応 系 にH2O2
Fig. 3 Effect of preserved times with H2O2on decoloration rate constants and decoloration rates of Orange II. (a) Decoloration rate constant (k), and (b) decoloration rate (R) obtained after 30 min. RPO (●), HRP (▲), SPO (○), and ARP (□). [Orange II]
=0.05 mM, [POD]=0.056 µM, and [H2O2]=0.625 mM.
Fig. 4 Silver staining of SDS-PAGE of 12% gel electrophoresis product. The positions of molecular mass standards are indicated on the both sides (SD). H2O2 concentrations are (A) 0.75 mM and (B) 75 mM.
75 mM添加した場合のsoret帯とQ帯の反応スペクトルを 示す.図5(a)はRPOを用いた場合,図5(b)はHRPを用 いた場合の吸収スペクトルである.また,より詳細にPOD の酸化状態を考察するため,図5の吸収スペクトルにお
けるsoret帯の最大吸収波長の経時変化を図6に示した
(RPOを用いた場合を図6(a),HRPを用いた場合を図6
(b)).
図5(a)に示すように,RPOは反応開始5秒後に,410 nm にピークを持つnativeの状態から418 nmのCompound II
(Q帯は552 nm付近にλmaxを示す)の状態に変化した.ま た,nativeからCompound IIの酸化状態に変化する間に,
オレンジIIの最大吸収波長である485 nmは大きく低下し,
オレンジIIの退色が確認された.反応開始から4.5分後 にはCompound IVに裏付けられる670 nm(Q帯)の吸光度 が 大 き く 上 昇 し た.さ ら に,582 nmに 吸 収 を 有 す る Compound IIIと推測される小さなピークが見られ,RPO の不活性化が起こっていることが考えられる.また図に は示していないが,75 mMのH2O2添加することで,活性 部位であるヘムの極大吸収波長である410 nmの吸光度は 大きく減少した.これは過剰のH2O2によるRPOの失活 が推測される.しかし,RPOを用いた場合,図5(a)の吸 収スペクトルでは失活による影響が大きく見難いが,図6
(a)のSort帯の最大吸収波長変化で示すように,418 nm に吸収を有するCompound IVの酸化状態から,時間の経 過とともに最大吸収波長が短波長側に少しずつシフトし た.その後,反応開始35分後に411 nmに吸収を有し,
一部分が410 nm付近に最大吸収を有するnativeの状態に RPOが戻っていることが推測される.また,図5(a)より,
反 応 開 始 か ら51分 でCompound IVに 特 徴 付 け ら れ る
670 nmのピークはほぼ消滅し,さらに反応終了後のRPO
は再度退色反応に利用できた.そのため,少量であるが nativeの状態に戻るRPOも存在することが示唆された.
一方,75 mMのH2O2を添加したHRPを用いた場合は,
図5(b)に示すように,Soret帯において,反応開始から 0.083分後にCompound IIIの状態に特徴付けられるQ帯
の546 nmと582 nmにおける吸収が観察され,さらに反 応開始から2分後にCompound IVが生成された際に見ら れる670 nmの吸光度の上昇が観察された.また図6(b)よ り,HRPは反応開始90分後にも417 nmに最大吸収波長 を有し,Compound III及びCompound IVの状態のままだっ た(図6(b)).図には示していないがそのまま反応を継続 させると,反応開始から7時間経過後もCompound IIIと Compound IVの状態が継続し,nativeの状態に戻らなかっ Fig. 5 Absorption spectra of Orange II with 75 mM H2O2in the POD system. (a) absorption spectra using RPO and (b) absorption spectra using HRP.
[Orange II]=0.05 mM, [PODs]= 6.8 μM, and [H2O2]=75 mM.
Fig. 6 Effect of H2O2 concentration on variation of maximum absorption wavelength of RPO and HRP during the decoloration reaction. H2O2concentrations are 0.75 mM (●) and 75 mM (○). [Orange II]=0.05 mM and [POD]=6.8 μM.
た.従って,HRP反応系の酸化還元反応の停止により,
反応サイクルにおいて水素供与体として働くオレンジII の退色反応は進行せず,75 mMのH2O2における退色速度 定数および退色率の低下を示唆すると考えられる.
3.5 H
2O
2高濃度条件における反応機構
3.4においてH2O2高濃度条件における分光法解析で反 応系を調べた結果および先行研究を基に,POD-H2O2漂白 系のオレンジII退色反応機構を図7に提案した.
RPOを用いた場合,PODの吸収スペクトルの大幅な低 下は確認されるが,Compound IIが唯一,確認されること がわかった.さらに,RPOは高濃度のH2O2が共存した際 に確認できるCompound IIIとCompound IVが発現した後,
一部分がnativeに戻るため,通常のPOD反応系に戻る経 路が存在すると推測される.RPOを用いた高濃度のH2O2
共存下におけるオレンジIIの反応系は,まず,通常のPOD 反応経路においてnativeからCompound I,Compound IIに 進み,オレンジIIを退色させる.その後,Compound III
とCompound IVの状態が混在し,その状態から一部が
nativeに戻り,残りは反応が終了するため,オレンジII
の退色反応がおこると考えられる.
一方,HRPを用いた場合は反応直後にnative(403 nm)
の状態からCompound IIIとなり,その後Compound IVの 状態になる.HRPはCompound IVからnativeの酸化状態 に戻らない.従って,Compound IIIとCompound IVの状 態でPOD反応は停止し,オレンジIIを退色させる通常の スキームと別の経路をたどるため,退色反応が進行しな いと考えられる.
以上から,Compound IIIやCompound IVの状態の発現 は,POD-H2O2漂白系におけるオレンジIIの退色反応速度 に大きく影響すると考えられる.また,RPOは75 mM H2O2
でもPODが一部失活するものの,反応は継続することか ら,H2O2耐性が高いことが明らかとなった.
結 論
PODを用いた色素の退色反応へのH2O2の耐性を探るた めに,由来の異なる4種のPODを用いてH2O2濃度の影 響および保存安定性を比較した.RPOを用いた場合,H2O2
濃度が150 mM以上の高濃度であってもオレンジIIの退 色反応が効率よく進行することがわかった.一方,HRP, ARPにおいてはH2O2が最適濃度以上となると退色速度は 大幅に低下し,HRPはH2O2濃度が75 mMで,ARPでは 7.5 mMでオレンジIIの退色反応が進行しなかった.また PODとH2O2の共存時間の経過において,RPOとSPOは 120分間経過した場合でも退色速度定数および退色率は高 い値を示した.HRPはH2O2の共存時間の経過と比例的に 退色率が低下し,ARPは,H2O2と5分間共存するとオレ ンジII退色反応は進行しなくなり,保存安定性が著しく 低いことがわかった.
また,オレンジIIの退色速度が速い代表的なRPO,HRP を用いてH2O2の高濃度条件下における反応機構の差異を 分光法により解析した.その結果,75 mMのH2O2でも速 い退色速度定数と高い退色率を有するRPOは,退色反応 において,PODの酸化還元反応を妨害するCompound III およびCompound IVの酸化状態となるが,その後一部分
がnativeの状態に戻り,反応サイクルが引き続く進行す
ることが明らかとなった.以上より,高濃度のH2O2と共 存した際にPODを用いたオレンジII退色反応は低下する が,RPOについては高い反応性を保持し,H2O2耐性が高 いことがわかった.
文 献
1. T. Tamura, T Kubota, M. Tamura, H. Yoshimura, Yukagaku,44, 1086 (1995).
2. T. Tamura, T Kubota, M. Tamura, H. Yoshimura, Yukagaku,44, 1093 (1995).
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