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『イフ if ー王国の秘密』

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Academic year: 2021

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図書館運営委員からの寄稿

 摩訶不思議な物語である。

 登場するのは、伝説の剣・騎士・魔法・ドラ ゴンという、ファンタジーの常とう手段。おま けに、冒頭には、中世スペインの有名な劇作家 カルデロン・デ・ラ・バルカの『人の世は夢』

の一節が引用されている。本書を手にした当初 は、所詮、古くからあるこれらの物語の焼き直 し程度だろうと思っていた。ところが、1章を 読み終えたころには、この物語はけっして『人 の世は夢』の焼き直しでもなければ、古めかし い典型的なファンタジーでもないことに気づ く。もちろん、カルデロン・デ・ラ・バルカの『人 の世は夢』に、その趣向を借りていることは否 めない。実際、本書と『人の世は夢』の登場人 物や場面設定は、さまざまに重なりあっている からである。

 アナ・アロンソとハビエル・ペレグリンとい う二人のスペイン人作家が共作したこの物語 は、冒頭から読者をひきつけて離さない魅力的 な展開を見せる。グラン山脈、ラグの森、目に 見えない塔、魔術に満ちあふれたイフ王宮、マ ボロシ海など、展開する場面にも想像をかきた てられる。しかし、それ以上に読者を魅了する のが、ダウ王女、ケール、アルランド王子とい う3人の若い主人公と、彼らをとりまく従者シ リオ、大魔王アスティルなど、個性的でミステ リアスな登場人物だ。

 さらに、物語全体をおおっている不思議さは、

登場人物の二面性にあるようだ。男装の主人公 ダンカンは、実はキルダー王国王女ダウであり、

物語の鍵を握る魔法の塔の囚人ケールは、魔法 の犠牲となっていた少年であった。グラン山脈 でダンカン一行が助けた老婆は、実はマボロシ 海を守る妖精の女王フアナであった。おもしろ いことに、主人公は、助けたと思っていた老婆

に、結果的に助けられていたことも判明する。

このような登場場面と人物の交錯は、物語をよ りミステリアスにいろどっている。難点をいえ ば、その複雑さが、若干物語を読みづらいもの にしていることも確かである。実際、なんども 本書冒頭にふりかえって、登場人物の説明を読 み直しもした。

 本書は、スペイン本国では、2008年に、スペ インの児童文学賞のひとつである「バルコ・デ・

バポール賞」を受賞している。初版は、ハード カバーであったものが、またたくまに安価な ペーパーバックでの出版も果たしていることを 考えれば、この作品が、いかにファンタジー好 きの読者の心をとらえて離さなかったかがわか るだろう。また、登場する若い主人公たちが、

一生懸命、自らの運命に立ち向かい、未来をそ の手で切り開いていこうと戦う姿は、現代の若 者にも、ぜひ見習っていただきたい点でもあり、

その真摯な姿こそ、読者をひきつける魅力でも あるのだろう。また、物語の根底で、作者は不 思議な境遇の登場人物を通して、「命」や「生 きること」の意味をこんこんと問うている。そ れゆえに、おどろおどろしいドラゴンも登場す れば、戦いの場面もあり、残忍な情景もある物 語であるが、読了感は、やけにすがすがしく希 望に満ちているのだ。さらに、本書は、子ども からおとなまで年代を問わず楽しめる物語でも ある。

 最後に、『イフif−王国の秘密』の原題は、

≪El secreto de if=イフの秘密≫であり、作者 が王国の名前に≪if≫をもってきた意味をおし はかりつつ読むのもまた一興である。

ばんどう しょうじ(教授・スペイン語学)

スペイン語圏を知る本(その 61)

アナ・アロンソ/ハビエル・ペレグリン 作 ばんどう としえ 訳

『イフ if ー王国の秘密』

(未知谷、2011 年)

評者 坂東 省次

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