リアルタイムモニタリング微細加工装置の開発
竹下 朋春
*1野中 智博
*1谷川 義博
*1安部 年史
*1Development of Unified High-speed Spindle Unit with Real-time Synchronization Monitoring for Micro Machining
Tomoharu Takeshita, Tomohiro Nonaka, Yoshihiro Tanigawa and Toshifumi Abe
産業技術総合研究所が発行するものづくり技術調査(平成 18 年 3 月発行)によると,金属切削企業の 90%が穴あ け加工を行っている。その工具交換時期は作業者の判断にゆだねられており,特に微細穴加工は,小さな工具を用 いるため,加工が難しく,高速回転を要求される。しかし,工作機械が対応していない現状がある。そこで,既存 工作機械に簡単に装着し,高速回転と回転加工中の加工力の測定が可能な微細加工装置を開発することを目的とし ている。
1 はじめに
現在,消費者ニーズの多様化により,金型加工メー カへも短納期で高付加価値な金型の製作要求が高まっ ている。製作困難な金型には,微細な加工を要求され るものが大半であり,直径 0.5mm 以下の工具を使用す る加工も多い。部品加工業においては,直径 0.5mm 以 下の微細穴を一つの部品に数千から数万穴あける加工 も行なわれている。
中小企業の中には,工作機械の主軸回転数が低いた め小径の穴加工の仕事を受注できなかったり,工具の 折損が判断できないため NC 工作機械を用いずに人手 で行っているところがある。また,工具の交換時期も 経験とカンに頼っているのが現状である。さらに,小 径工具は製作の困難さから安定した寿命を示しにくく,
突発的な折損も発生する。そのため夜間運転を行い加 工しても,折損により加工できず,加工途中の部品も 使えないという問題点があった。
そこで,テーパシャンク等の工作機械主軸にワンタ ッチで取り付け可能なホルダを有し,既存工作機械の 低速 回転 主 軸 にお いて も , 本装 置組 込 モ ータ によ り 30000min
-1以上の高速回転を提供するものである。
本研究の目的は,本装置に加工力の測定が可能な機 構を組み込むことで,オンマシンでリアルタイムに工 具の折損や加工トルクの判断と,高速回転加工を同時 に行うことが可能な,一体となった加工装置
1)の開発 を行うことである。
2 研究,実験方法 2-1 動作原理
本装置は,図 1 に示すように駆動用モータ部とスピ ンドル部が直交するように構成されている。駆動用モ ータ部には,螺旋状の磁性体と回転角度を検出可能な エンコーダが直結している。同様に,スピンドル部も 螺旋状の磁性体とエンコーダが直結している。モータ を回転させると,直結した螺旋状の磁性体による磁場 が変化することで,対向したスピンドル側の螺旋状の 磁性体も磁気引力により追従し回転する。モータ部と スピンドル部は,任意のギャップを持って磁気引力が 発生することにより,動力の非接触伝達が可能である。
加工力によりスピンドル側の負荷が変化すると,モ ータ側の回転とスピンドル側の回転とのずれが発生す る。駆動側と被駆動側のエンコーダからの回転角出力 のずれを回路で検出することにより,小径ドリル等の 工具摩耗,折損を工作機械上で工具回転中に検出が可 能となる。
図 1 リアルタイムモニタリング微細加工装置概念図
エンコーダ切削工具
トルク 駆動用モータ
スピンドル
エンコーダ 電子回路 磁性体
*1 機械電子研究所
2-2 検知方法
図 2 に,信号処理の概要を示す。モータが回転する とエンコーダから信号が発生する。スピンドル側も同 様に追随して回転することで信号が発生する。この 2 つの信号を PLL 周波数シンセサイザなどで用いられる 位相比較器に入力すると,回転角度ずれに相当する位 相差に応じた信号が発生する。この位相差をアナログ 回路により積分することで,トルク変化を検出するこ とが可能である。
図 2 信号処理
2-3 ギャップ変動機構
モータ側の磁性体のギャップを大きくすると,動力 伝達許容負荷が減少するため,より小さい切削力に対 しても大きな回転角度ずれを発生させることが可能で ある。またギャップを小さくすると,許容負荷が増大 し,切削力が大きくなる。従って,2 つの磁性体のギ ャップを変化させることで工具径に応じた最適な加工 力の感度設定が可能となる。そこで,モータ側の磁性 体を移動させることにより,ギャップの変更が可能な 装置を開発した。分解構成図を図 3 に示す。
スピンドルは,ベースフレームを介して工作機械主 軸部に固定されている。このため,変動機構の動作に 無関係である。
モータは,8×18 サイズのクロスローラガイド 2 セ ットにより案内されている。変動量は,磁性体を接触 させ,マイクロメータヘッドにより動作開始する位置 を 2μm 目盛のダイヤルゲージを用いて計測し,ゼロセ ットを行っている。磁性体のギャップは,0 から 1.8mm まで変動可能となっている。
クロスローラガイド
スピンドル
図 3 ギャップ変動機構分解構成図
2-4 試作品
リ アル タ イ ム モ ニタ リ ン グ 微 細加 工 装 置 の 試作 開 発を行った。3 次元CAD/CAMシステムを用いて,セール スポイントとなる 30000min
-1以上の対応とするため,
高 速 回 転 に 対 応 し た モ ー タ を 使 用 し , 最 高 回 転 数 50000min
-1とした。
試作したものを写真 1 に示す。回転軸の静的振れ精 度は 4μmを達成した。また,磁気引力による伝達のた め脱調などの問題点があると考えられるが,最高回転 数 50000min
-1まで問題なく動力の伝達が可能である。
本装置を用いて加工を行った加工例を写真 2 に示す。
さらに,製品化の準備として折損時に自動で工具の 交換を行う装置も試作し,工具交換が可能なことを確 認した。
写真 1 試作品
駆動用モータ
マイクロメータヘッド ベース フレーム
ギャップ変動方向
磁性体
モータ側 出力 tM
スピンドル側 出力 tS
位相比較器
出力 tP
積分器
出力
写真 2 ドリル加工例(φ0.1mm 100 穴)
2-5 加工実験
本加工装置は,駆動モータ側の回転角出力とスピン ドル側の回転角出力のずれを検出して切削トルクを検 出しているため,回転ムラの回転ずれへの影響を調べ る必要がある。よって,本加工装置の駆動モータ部と スピンドル部の回転ムラをエンコーダによる出力から 算出し,空転時と実加工時の比較を行った。
図 2 に示すように駆動モータの矩形波周期 tM とス ピンドル部の矩形波周期 tS を測定し,それらの位相を 比較した時間幅 tP を LabVIEW を用いて演算を行い,空 転時と実加工時の回転ムラによる影響を解析した。
図 4 に空転時,図 5 に実加工時の演算結果を示す。
赤のプロットは tM,緑のプロットは tS 紫のプロット は tP を示し,青と緑の実線はドリル加工におけるスラ スト力と回転方向の切削抵抗を示す。図 4 の白のプロ ットは 1 回転に一回のトリガの波形を示す。すべての プロットを同一画面に表示するため tM,tS,tP は実 数倍で表示した。
図 4 の tP の分布より,駆動モータ部とスピンドル 部の磁気引力追従による回転ムラがわかり,ほぼ周期 的に分布している様子が見られる。これは,汎用のモ ータドライバによる回転ムラの影響と螺旋状の磁性体 の着磁特性によるものである。図 5 の tP の分布から工 具負荷による回転ずれの影響がみられ,空転時に比べ 大きな振幅になっているのがわかる。また回転ずれの 振幅が急激に大きくなる位置とスラスト方向の切削抵 抗の変動位置は同一であり,リアルタイムに検出が可 能なことが分かった。
しかし,本加工装置の切削抵抗は,現状回転ムラを 含む回転ずれから検出しているため,回転ムラが回転 ずれに及ぼす影響について調べた。
tM ト リ ガ tP
図 4 空転時の演算結果
tS
tM トルク tP
スラスト力