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1.はじめに  繰り返し検討されてきたように、社会運動ユニオニズムを担う主体(の 1 つ) は移民労働者であり、彼(彼女)らの組織化を進める組織として、労働組合だ けではなく労働者センターが注目されているのであった。本稿においては、移 民労働者が担うローエンドな労働のなかでも日雇労働(day labor)と、主とし て 女 性 が 従 事 す る 家 庭 の 清 掃 労 働、 す な わ ち ハ ウ ス・ ク リ ー ナ ー(house cleaner)の労働を事例としてとりあげ、こうした労働に従事している移民労働 者を組織化してきた労働者センターの試みを理論的・経験的に検討していこう1。  この際、この労働者センターの試みを評価するにあたってとりあげる理論的 な 議 論 は、 す で に 別 の と こ ろ で 検 討 し た ネ オ・ ポ ラ ン ニ ー 主 義(Neo-Polanyianism)である(山田 , 2012)。ネオ・ポランニー主義は、カール・ポラ ンニー(Karl Polanyi, 1957)の議論に依拠した社会運動待望論ともいえよう。 ポランニーによれば、互酬性(reciprocity)と再分配(redistribution)とともに、 市場における交換は基礎的な経済関係の一環を構成してはいても、それだけで は社会は存続することはできない。市場における交換は、様々な社会的規制を 受けること、つまり社会に埋め込まれている必要があるという。したがって、 市場関係を拡大する運動が進展すると、それと軌を一にしてそうした拡大を押

労働者センターによるポスト資本主義戦略

―日雇労働者と家事労働者の組織化

山 田 信 行

Nobuyuki Yamada

A Post-Capitalist Strategy of Worker Centers:

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しとどめようとする運動も生起してくるというわけだ。これらは、いわゆる「二 重の運動(double movement)」として把握されている。  ネオリベラリズムのもとで、「市場原理主義(market fundamentalism)」とも いわれる市場関係の普遍的拡大を選好する志向性が強まるならば、ポランニー の議論に依拠する限り、「二重の運動」の一環として市場関係の拡大を制約す る社会運動が必然的に生起することになろう。さらに、市場関係の拡大が「労 働力の商品化」の拡大も伴うのであれば、「二重の運動」を構成する対抗運動 の少なくとも 1 つは、「商品化」のあり方を規制する可能性がある労働運動で あり、その目標は労働力の「脱商品化(decommodifi cation)」2 傾向を拡大する ということになろう。言葉を換えていえば、「労働力の商品化」が市場関係に 代表される資本主義的な社会関係の拡大を意味するならば、労働力の「脱商品 化」は資本主義とは異なる社会関係の拡大、すなわちポスト資本主義的な (post-capitalist)社会関係の編成を意味することにもなろう3。  本稿で検討する日雇労働者(day laborer)と家事労働者(具体的には、ハウス・ クリーナー)の組織化を実行する労働者センターの試みは、はたしてネオ・ポ ランニー主義が想定するポスト資本主義的な社会関係の編成を意味するのであ ろうか。この課題を検討するために、まずはアメリカ合州国における日雇労働 者とハウス・クリーナーの現状について確認することから作業を始める必要が ある。 2.日雇労働者とハウス・クリーナー  (1)日雇労働の背景と現状  ①背景  2000 年以降、とりわけアメリカ合州国においては、日雇労働が増加してき ているという。この原因としては、やはりグローバル化による企業間競争の激 化、それを下支えするネオリベラリズムのイデオロギー、さらにはそうしたイ デオロギーに基づく規制緩和が指摘されている。すなわち、企業間競争は産業 全般、とりわけ建設業における雇用の減少をもたらしたし、ネオリベラリズム

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を背景とする規制緩和は作業のアウトソーシングを増加させるとともに、アウ トソーシングを受けた下請契約企業においては労働力のフレクシブルな利用も 増加した。こうした一連の過程が進展することによって、労働市場における需 要側(demand side)においては、非正規労働、あるいはコンティンジェントな 労働の 1 つとしての日雇労働という形式も増加したというわけだ(Valenzuera Jr. et al., 2006)。  労働力を供給する側(supply side)である労働者としても、工場閉鎖などに よって製造業における安定した雇用が減少することによって、これまでの居住 地に留まろうとすれば、日雇労働に職を求めなくてはならない。失業によって、 ともかく就労が差し迫ったものとなれば、日雇労働が利用されることもあろう。 さらに、多くの移民労働者にとっては、アメリカ合州国において最初に職を得 る機会は日雇労働であり、場合によっては将来の雇用のためのスキルを獲得す る機会ともなりうるという(Valenzuera Jr. et al., 2006)。このように、労働市場 における供給側においても、日雇労働が受容される傾向が強くなっているので ある。  ②労働力構成  日雇労働者の多くは、移民労働者である。その 59%はメキシコ生まれであり、 28%は中米地域の出身である。もっとも、日雇労働者は移民だけから構成され ているわけではなく、7%は合州国生まれである。こうした日雇労働に従事す る移民労働者の 75%は、正規の手続きを行うことなく入国した(undocumented) 移民である(Valenzuera Jr. et al., 2006)。こうした非正規移民が多くを占めるこ とが、日雇労働者の賃金と労働条件を大きく規定することになる。  ③雇主と仕事  アメリカ合州国において、近年における最も包括的な日雇労働者の調査(全 国日雇調査(National Day Labor Study)4によれば、49%の日雇労働者が一般の 家主(homeowner)あるいは借家人(renter)に雇用されており、建設業者 (construction contractor)に雇用されている日雇労働者は 43%である。この結果、

彼らが従事する仕事についても、建設労働(construction laborer)、造園や宅地 の手入れ(gardener and landscaper)、塗装(painter)、屋根の手入れ(roofer)、

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および石壁づくり(drywall installer)が多数を占めることになっている。  ④求職活動  多くの場合、日雇労働者による求職活動はいわゆる「寄せ場」において行わ れる。こうした「寄せ場」は狭い区画に限定されたものではなく5、かなり広 範な区域に散在する傾向があるという。「寄せ場」は公的に定められた場では なく、特定の企業の周辺、家庭用の備品・工具などの販売店の周辺、ガソリン・ スタンド(gas station)周辺、あるいは街頭などに存在し、仕事を探している 日雇労働者はこうした「寄せ場」に集まって、その日の雇主が現れるまで待つ ことになる。  ⑤賃金と労働条件  いうまでもなく、日雇労働者の賃金は低く、全国日雇調査によれば、調査時 点における時給は 10 ドルであった。恒常的に仕事が見つかるとは限らないた めに、月収は 500 ドルから 1400 ドルまでの幅をもって変動するという(年収 についても、15000 ドルを超えることはないという)。日雇労働者の賃金は単 に低いというだけではなく、しばしばそれが支払われない(wage theft)とい う問題がある6。調査時点から って 2 カ月以内に、ほぼ半数の日雇労働者が 賃金の不払いを少なくとも 1 度は経験していた。こうした労働法違反は常態化 しており、作業中の休憩や食事はいっさい与えられなかったり、作業の終了後 現場に取り残され「帰宅」7が困難になったりする事態が起こっている。  さらに、日雇労働者は警察から不当に逮捕あるいは職務質問をされたり、近 隣の商店から侮辱を受けたりすることも多いという。換言すれば、人格を貶め られるような社会関係によって、日雇労働者の日常生活は規定されているわけ だ。加えて、建設業に従事することが多いこともあって、日雇労働者は作業に 由来する外傷(injury)を頻繁に負っている。全国日雇調査によれば、日雇労 働者はその 5 人のうちに 1 人は外傷を負ったことがあるという結果になってい る。しかも、こうした外傷を経験した日雇労働者の半数は医療保険を受け取っ ていない。

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 (2)ハウス・クリーナーの背景と現状  ①背景  一般的にいえば、一般家庭清掃業は市場に外部化された(outsourced)家事 労働(domestic labor)の 1 つである。家事労働が外部化されるにあたっては、 従来は主婦として家事労働を専一的に担っていた女性たちが職場進出に代表さ れる社会的活動に従事する割合が増えたことに求められよう。その限りでは、 従来のジェンダー関係が変容し、ジェンダーに規定された家庭内の分業のあり 方が変化したということになる。  もっとも、こうした女性たちは相対的に富裕な階層に限定され、彼女たちが 担っていた家事労働を代わって遂行する労働者は移民に代表される相対的に貧 困層に位置する女性労働者にほかならない。アメリカ合州国においても、グロ ーバル化のもとで社会的格差が拡大するにつれて、外部化され賃金が支払われ る家事労働が増加してきていることが明らかにされている(Milkman et al., 1998)。  ②労働力構成  こうした家事労働を担う労働者の多くは、やはり女性である。指摘したよう に、移民女性がその多くを占めていることが知られている(実数は不明である ものの、こうした女性には非正規の移民も含まれていよう)。アメリカ合州国 にやってきたばかりで、特に技能や資格をもたない女性が見つけやすい仕事と しては、彼女たちが日常的に行ってきたことをすればよい(だけと思われがち な)家事労働が第 1 に想起される傾向がある。したがって、在宅介護(homecare)、 子供の世話(child care, nanny)、あるいは清掃労働などに従事する移民女性は きわめて多い。  ③雇主と仕事  外部化された家事労働については、いくつかのタイプが存在する。第 1 には、 現在ではかなり少数ながら、住み込み(live-in)タイプの家事労働が存在する。 第 2 には、住居はともにせず訪問して(live-out)家事労働を行うタイプがある。 現在では、この形式が大多数である。さらに、第 2 の形式には、家事労働者自 らが独立した契約者(independent contractor)となる場合と特定の企業に雇用

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されて家事労働を行うために派遣されるタイプがある。このように、タイプに 応じて雇主は異なることになる。  雇主のタイプが異なることに対応して、内容というよりも仕事の範囲が異な るになる。容易に想起されるように、住み込みで家事労働に従事する労働者は、 労働時間とそれ以外の時間とが極めて連続的でしばしば区別されなくなる可能 性がある。例えば、深夜や早朝にも必要を訴えられて仕事をさせられる可能性 がある。労使関係についても、極めて人格的な関係がとり結ばれ、しばしば家 族の一員として親密な関係が成立する一方では、(女)主人と召使との関係で あるかのように、人格的な(personalistic)統制が行使される可能性がある。こ のことは、独立契約者として家事労働を行う女性に対しても一定程度妥当する。  企業に雇用されて契約家庭の清掃に派遣される労働者については、作業内容 と時間が決められているために、派遣先の家庭において無限定で無制限な労働 に従事することはないし、人格的な関係がとり結ばれることもない。しかし、 彼女たちの労働過程とその結果は、労働者による窃盗を恐れる家人によってし ばしば厳しく監視されている可能性があるという(Ehrenreich, 2003)。  ④求職活動  独立契約者として個別に各家庭と契約している家事労働者については、勤め 先の選定にあたって、多くの場合移民の社会的ネットワークが利用されている (Ehrenreich, 2003)。そうしたネットワークを通じて、雇主となる家庭が紹介さ れる。企業に雇われる場合には、多くの場合広告をみて求職することが多い。 現在、こうした家庭向けの清掃会社は多数存在しているし、採用は随時行われ ているのである8。自らハウス・クリーナーとして働いた経験を基づいて、こ の産業の実態を分析したエーレンレイク(2003)によれば、採用手続きは極め て簡便であり、場合によっては電話で求職の意思を伝えれば、翌日からでも仕 事に行くように指示されるという。  ⑤賃金と労働条件  賃金については、なによりも住み込みタイプの家事労働者が最も低くなって いる。2011 年から 2012 年にかけて行われた調査9でも、子守り、ケア労働者 (caregiver)、および清掃労働者のすべてを平均して時給 6.15 ドルしか受け取っ

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て い な い し、67 % が 最 低 賃 金 以 下 の 報 酬 し か 受 け て い な い(Burnham & Theodore, 2012: 19)。独立契約者として働いている家事労働者の賃金は、相対 的に高くなることもあるという。このことは、親密性(intimacy)に規定され た関係やイレギュラーな職務内容に由来すると考えられる(Ehrenreich, 2003)10。 しかし、超過労働に対する支払いを考慮に入れれば、彼女たちの時給賃金はか なり低くなるし、親密性に媒介された関係は、場合によってはかえって労働者 の服従(servitude)を強化する事態にも帰結する。  ちなみに、2007 年の調査によれば、こうした家事労働者たちの 11% がカリ フォルニア州における最低賃金(時給 6.75 ドル)を下回る賃金しか受け取っ ていない。例えば、当時のサンフランシスコ市における最低賃金は時給 8.82 ドルなので、家事労働者の賃金はこれを大きく下回っていることになる11。さ らに、家事労働者の 22%が契約通りの賃金をもらっておらず、16%は全く賃 金が支払われないか、不渡り小切手(bad check)による支払いを受けていた (National Employment Law Project, 2008)。企業に雇用されている場合にも、家

事労働者の賃金はやはり相対的に低くなっている。  企業に雇用されている場合についていえば、1 日当たりの労働時間には、出 発までの準備時間、移動時間12、および営業所に戻ってからの用具の片づけに 要する時間が含まれていないために、拘束時間に比べて手取り収入が少なくな るといわれている。さらに、多くの移民女性は子供を育てているために、子供 の急病などのために出勤日数が少なくなり、収入が減少する傾向がある。要す るに、労働者に支給される賃金が少なくなる仕組みが整備されているというわ けだ。  労働内容については、しばしば日常的に主婦が行う仕事と同じものとして簡 単な作業だと考えられているものの、清掃労働は腰や足に対する負荷が大きい 肉体労働である13。部屋数が多い大きな住宅の場合には、短時間で定められた 作業を効率的に行うために、さながらテーラー主義(Taylorism)を想起させ るような高密度の労働が強いられるという(Ehrenreich, 2003)14。  さらに、洗剤や芳香剤などの化学薬品を多用するため、これらについての充 分な知識をもたない労働者には健康被害を引き起こす可能性もある。言及した

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ように、極めて簡単に採用されるハウス・クリーナーたちは、こうした薬品に 対する知識について研修などを受けることもなく、作業をさせられることにな る。事実、例えば、家事労働者の 38%が、調査時点で過去 1 年間に手首、肩、 ひじ、あるいはお尻の痛みを経験しているし、清掃労働者については、29%が 皮膚疾患、20%が呼吸障害をそれぞれ経験しているのである(Burnham & Theodore, 2012: 30)。  総じて、ハウス・クリーナー、あるいは家事労働者全般が直面する問題とし ては、低賃金、言葉による虐待(verbal abuse)、性的虐待15、および移民に対 する差別的対応などが指摘されている。こうした雇主による対応には、家事労 働者のなかに非正規の移民が少なからず含まれていることにも由来しよう16。 以上、日雇労働者とハウス・クリーナーの背景と現状について、既存の調査研 究に依拠して概観してきた。厳しい労働者の現状を改善する試みは、アメリカ 合州国においてはさしあたり労働者センターによって担われている。以下では、 フィールド調査に依拠して、労働者センターによる試みを紹介し、その試みを 評価していこう。 3.労働者センターによる活動―日雇労働プログラムと女性労働者コレクティブ  (1)対象17  ここで対象とする事例は、サンフランシスコ市のミッション地区(Mission District)で日雇労働者とハウス・クリーナーの組織化を行っている労働者 NGO である。ミッション地区においては、従来からラティーノ住民たちのコ ミュニティが形成されてきた。このコミュニティの内部に、日雇労働者が求職 活動を行う「寄せ場」が存在する。この労働 NGO は、日雇労働者をはじめと するラティーノ住民を対象にして、移民資格やその他の案件に関する法律相談 を行ってきた。  この労働 NGO は、1973 年に設立された。この組織は、当初からラティーノ 住民の利害関心に則した活動を志向し、彼(彼女)らのしばしば非正規である 移民としての立場を改善し、認められている権利を確実なものにするために、

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法律家を主要なメンバーとして設立されている(現在のスタッフは 20 人ほど である)。組織の運営資金は、すべて様々な財団からの基金に負っている。 1990 年代から本格的に法律相談を行うようになり、2000 年にはサンフランシ スコ市から業務委託18を受けて日雇労働プログラム(day labor program)19を実 行することによって、この労働 NGO は労働者センターとして活動するように なってきた。あくまでサンフランシスコ市というローカルなレベルの組織であ るものの、この労働者センターは全国日雇労働組織化ネットワーク(National Day Labor Organizing Network, NDLON)に加入し、ナショナルなレベルの運動 と連携してもいる20。さらに、2001 年にはラティーナ労働者を組織して、ハウ ス・クリーナーによる女性労働者コレクティブ(women s workers collective) を設立している。  (2)日雇労働プログラム  それでは、この労働 NGO はどのような活動を行っているのであろうか。こ こでは、日常的な法律相談以外の労働者センターとしての活動について概観し よう。この NGO が労働者センターとして遂行する日雇労働プログラムは、ま ず第 1 に労働市場を統制することを目的としている。すなわち、労働法が遵守 されず、資本主義社会であれば当然想定される労使関係がとり結ばれることも ない労働市場21を統制して、まずは雇主に労働法を遵守させ日雇労働者を保護 することが目的である。換言すれば、「寄せ場」において雇主と日雇労働者と が直接交渉して、結果的に労働者にとって不利な雇用関係をとり結ぶ事態に介 入し、労働者センターが賃金と労働条件の下支えを行うことが目的なのである。  この目的を達成するために、路上における「寄せ場」とは異なる「場」を設 定する必要がある。そのために、この労働者センターにおいては、2004 年に ミッション地区に位置するシーザー・チャベス(Caesar Chavez)通りに雇用斡 旋所(hiring hall)を設置した。より多くの日雇労働者をこの斡旋所に集める ことによって、労働者センターが、日雇労働者がとり結ぶ労使関係を媒介し、 賃金と労働条件を下支えすることが可能になるのである。  さらに、日雇労働プログラムおよび雇用斡旋所の運営に関して、日雇労働者 自らが意思決定を行う機会が与えられていることは注目に値しよう。もちろん、

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このプログラムの実行にあたっては、サンフランシスコ市から委託を受けてい る労働 NGO がその責任を担っており、そこに所属するオルガナイザーがプロ グラムの実行を統括していることはいうまでもない。しかし、労働者の組織化 はいうまでもなく、その他の日常的な活動についても、コーディネーター22と 呼ばれる労働者のリーダーが自らの意見を述べ意思決定に関わる機会が与えら れているのである23。換言すれば、必ずしも全員参加ではないものの、日雇労 働者が主体として自らの労働のあり方を管理することが容認されているわけだ。  もっとも、こうした雇用斡旋所をつくっても、日雇労働者がそれを利用しな ければ、労働市場の統制は困難となろう。したがって、日雇労働プログラムの 第 2 の目的は、日雇労働者の組織化にほかならない。このプログラムを担う労 働者センターは組織化を通じて、雇用斡旋所の利用者を増やそうとしている24。 こうした組織化のための活動としては、主として街頭における情宣活動、つま りアウトリーチ(outreach)が行われるとともに、コーディネーターが自らの ネットワークを通じて勧誘することが含まれる。  さらに、このプログラムにおいては、労働者に様々なサービスを提供してい る。すなわち、建設労働に照準を合わせた技能訓練、第 2 の言語としての英語 (English as a Second Language, ESL)クラスの受講、コンピュータ・スキルの習 得、さらにはリーダー育成プログラム(leadership development program)への 参加などがそうしたサービスに含まれる。こうしたサービスを受けることによ って、日雇労働者はスキルアップを図ることができるだけではなく、「主体化」 することができる。  最後に、日雇労働プログラムの第 3 の目的は、近隣住民に潜在する反移民(労 働者)意識の緩和である。「寄せ場」に集う日雇労働者が、しばしば人格的に 貶められていることはすでに言及した。旧来からの住民にとっては、移民コミ ュニティそれ自体がいわばいかがわしい「よそ者」の集まりであり、そこに非 正規の移民が多数存在することはあたかも「犯罪者」の巣窟であることを意味 することになるかもしれない。路上において求職する日雇労働者は、まさにそ うした象徴として把握されることになろう。  そもそも、サンフランシスコ市においても雇用斡旋所が作られた背景には、

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近隣住民からの苦情に配慮するとともに、住民による不当な差別から日雇労働 者を守る目的があった25。近年でも近隣住民との関係を良好に保つために、日 雇労働プログラムに参加している労働者がボランティアとして路上の清掃活動 を行ったりしている。  (3)女性労働者コレクティブ  それでは、この労働者センターが試みているハウス・クリーナーの組織化に ついてはどうであろうか。ハウス・クリーナーに対する試みは、すでに言及し たように女性労働者コレクティブという「ワーカーズ・コレクティブ(workers collective)」の設立と運営に集約されよう26 。この組織の特徴と目的はいかなる ものであろうか。なによりも、女性労働者コレクティブの活動は日雇労働者プ ログラムの一環であることを確認する必要がある。すなわち、その第 1 の目的 はやはり労働市場の統制にほかならない。  労働者たちが自らの共同事業として雇主と労働者との関係を媒介することを 通じて、低賃金で過酷な労働条件を是正しようとする営みが、女性労働者コレ クティブなのである27。そのために、ハウス・クリーナーの仕事が立派なもの であるとともに、有害な(toxic)化学物質を扱う危険なものでもあることを、 雇主、政治家、および労働者自身に教え込むためにパンフレットなどを作成し て宣伝に努めている。  それでは、コレクティブはどのような労働者によって運営されているのであ ろうか。このコレクティブのメンバーは、調査時点において 50 人ほどである という。彼女たちは、いずれも活発なメンバーであり、リーダーといってよい 労働者である28。コレクティブにおいては、週に 1 度は会議を開いて組織の運 営について協議するという。参加している労働者は、月に 3 ドルから 4 ドルの 会費を支払っている29。コレクティブは極めて民主的に運営され、賃金につい ては 2010 年時点で 3 時間の労働に対して 70 ドルが支払われる(さらに 1 時間 追加するごとに 15 ドルが支払われる)。   コ レ ク テ ィ ブ 運 営 の 第 2 の 目 的 は、 移 民 女 性 の エ ン パ ワ ー メ ン ト (empowerment)である。コレクティブのフェロー(リーダー)によれば、エ ンパワーメントの具体的な内容は、社会的には女性相互の交流を通じて彼女た

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ちを「社会化」すること、政治的には人権を守り移民の権利を伸長すること、 さらには経済的には職を確保することであるという。この目的を達成するため に、ラティーノ以外のコミュニティにもコレクティブの存在を周知し、新規に 加入したメンバーには自らが獲得しているはずの権利を理解してもらう必要が ある。加えて、コレクティブが極めて民主的な組織であることも宣伝していく ことが重要であるという。  新しいメンバーの組織化については、アウトリーチを通じて勧誘し、会議に 参加してくれた労働者には役割(ファシリテーターやキャンペーンの企画など) を与えて自覚を高めてもらうとともに、仕事を達成すれば人々から称賛される ことを知ってもらって自信をつけてもらうという。日雇労働プログラムと同様 に、女性労働者コレクティブにおいてもリーダー育成プログラムが実施されて いる。さらに、効果的な清掃技術のトレーニングを行うことによって、労働者 としてのスキルを高め、仕事を獲得しやすくしているのである。  コレクティブ運営の第 3 の目的は、エンパワーメントの一環として、家事労 働者あるいは移民女性労働者全般の権利拡大のための政策提言を行うことであ る。アメリカ合州国においては、とりわけ住み込みや独立契約者としての家事 労働者は労働者として認められていない。そのため、労働者であれば享受でき るはずの権利(有給休暇、超過労働手当、失業保険、あるいは不当解雇の禁止 など)を行使できない状態が続いてきた。  こうした状況を打開するために、コレクティブは 2007 年に全国家事労働者 同 盟 に 加 入 し30、「 家 事 労 働 者 の た め の 権 利 章 典(Domestic Workers Bill of Rights)」の法制化を要求してきた。粘り強い運動の結果、ニューヨーク州に おいては、2011 年に権利章典は容認されるにいたった。カリフォルニア州に おいても、2012 年になって州議会で法制化が可決されたものの、ジェリー・ ブラウン(Jerry Brown)知事が拒否権(veto)を発動し施行にいたっていない。 以上、われわれは事例となる労働者センターが試みている日雇労働プログラム と女性労働者コレクティブについて、その活動内容を概観してきた。この活動 は、労働者がとり結ぶ関係のあり方に注目するならば、どのように評価できる のであろうか。

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4.ポスト資本主義戦略と主体形成  (1)ポスト資本主義戦略  日雇労働プログラムと女性労働者コレクティブを運営する労働者センターの 活動は、どこがユニークなのであろうか。確認してきたように、どちらの活動 においても、それぞれのプログラムあるいは組織の対象である労働者自身がそ の運営に大きく関与しているということであった。とりわけ、女性労働者コレ クティブにおいては、ワーカーズ・コレクティブとして、労働者による民主的 な意思決定が経営体としてのコレクティブの方向を決めていたのであった。日 雇労働プログラムについても、ワーカーズ・コレクティブを名乗ってはいない ものの、労働者の斡旋事業を担う組織としての性格は女性労働者コレクティブ と異なることはないといえよう。  それでは、こうしたプログラムとコレクティブとが担う活動は、労働者がと り結ぶ関係に対してどのような効果を持つことになろうか。これらの活動は、 労働者自らが運営に参加し、自らがとり結ぶ労使関係を媒介することを通じて、 他者に雇用されることによって労働過程を統制され賃金を受け取る存在である 労働者が、結果的にかなりの程度労働過程と賃金額を自己決定することを可能 にしているといえよう。  翻っていえば、資本主義において種差的にみられる「労働力の商品化」とは、 労働市場において雇用されることによって、雇主に賃金決定を大きく依存する とともに労働過程を統制される関係によって裏書きされているのである。本来、 雇主による賃金決定と労働過程統制によって特徴づけられた労使関係が、資本 主義に種差的な「労働力の商品化」の内実であるとすれば、労働者自らによる 賃金の決定と労働過程の統制に特徴づけられる関係は資本主義的なものではな いことになろう。つまり、歴史的な視点をふまえるならば、この関係はポスト 資本主義的なものであり、労働者センターによる日雇労働プログラムと女性労 働者コレクティブが実質的にこうした関係の編成を目的とするならば、その運 営はポスト資本主義的な関係を編成しているとみなせよう。要するに、この労 働者センターが試みる活動はポスト資本主義戦略の追求なのである。

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 (2)主体形成  こうした戦略を追求するにあたっては、なによりも労働者が主体としてこの 戦略に関与することが必要となる。概観してきたように、日雇労働者プログラ ムと女性労働者コレクティブにおいて重視されているのは、労働者の「主体化」 であった。あくまで、労働者センターに所属するオルガナイザーやコーディネ ーターは、労働者をサポートするだけであり、労働市場を統制する作業を担う 主体は移民労働者たちだというわけだ。  こうした姿勢は、例えば日雇労働プログラムの実行においても顕著に確認さ れる。指摘されているように(e.g., Day Labor Research Institute. 2004; Melendez et al., 2009a; 2009b; 2009c)、このプログラムの一環として運営されている雇用 斡旋所を利用する労働者たちは必ずしも多くはない(全国日雇調査のデータで は、労働者センターにおいて求職する日雇労働者は 21%にすぎない)。それと いうのも、労働市場統制のために設置されている雇用斡旋所が紹介する仕事は 安全で賃金が高くなるものの、雇主にとってはコストが高くなるために、セン ターを媒介にした求人は忌避される傾向がある。  この労働者センターについていえば、すでに 2007 年の時点において、賃金 は 3 時間で 50 ドル、それ以上については 1 時間延長するごとに 15 ドルが提示 されていた31。労働者センター(したがって、労働者自ら)が定めたこの賃金 を受け入れる雇主だけが、センターを通じて求人を行うことになる。したがっ て、実をいえば雇用斡旋所に寄せられる仕事の量は多くはない(インタビュー によれば、1 日あたり、15 から 20 の仕事しか斡旋していない。それに対して、 雇用斡旋所の利用者は約 200 人であるという)。そのため、依然として路上に おいて求職する日雇労働者が多数存在することになるのである32。  このことをめぐって、既存の研究においても、労働者センターの活動につい ては批判的な評価も行われてきた。すなわち、労働者センターが雇用斡旋以外 のサービスを提供することは、なにをおいても仕事を確保したい労働者の欲求 を必ずしも充足しないこと(Day labor Research Institute, 2004; Camou, 2009a)、 さらに労働者センターは移民労働者の社会的ネットワークの性格を的確に把握 していないことが指摘されてきた(Camou, 2009b)33。

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 こうした状況において、労働市場の統制という所期の目的を達成するために は、依然として路上において求職活動を行う日雇労働者を排除したり、強制的 に日雇労働者に雇用斡旋所を利用させたりするという方途をとることが考えら れよう。要するに、路上において求職する日雇労働者と敵対することも辞さな いというわけだ34。事実、付随的なサービス提供を行わずに労働市場管理だけ を追求する労働者センターの方が、日雇労働者の利用数が多くなるという指摘 もある(Day labor Research Institute, 2004)。

 しかし、サンフランシスコ市において日雇労働プログラムを委託されている、 この労働者センターは、路上において求職活動を行う日雇労働者についても、 その行動を労働者による「主体化」の一環として容認している。すなわち、あ くまで労働者の「主体性」を尊重し、強制によってそれを統制することはしな いというわけだ。その結果、労働市場を統制することを通じて、賃金を高め労 働過程を統制するという所期の目的が充分に達成できなくなっても、それが労 働者による主体的な選択に由来するのであれば仕方がないというのである。こ のように、この労働者センターの活動はなによりも労働者の「主体形成」が重 視されているというユニークな特徴がある。  (3)労働運動の本質  それでは、指摘したようなポスト資本主義戦略を追求する労働者センターの 活動は、ネオ・ポランニー主義において想定される「脱商品化」を志向するも のとみなせるであろうか。これまで述べてきたように、日雇労働プログラムと 女性労働者コレクティブにおいては、「労働力の商品化」に体現される資本主 義的な社会関係とは異なる社会関係がとり結ばれていた。労働者による賃金決 定と労働過程の統制は、雇主によってそれらがそれぞれ、かなりの程度決定さ れ統制される資本主義における労使関係とは異なっている。したがって、その 意味では、この労働者センターのポスト資本主義戦略にはネオ・ポランニー主 義の想定が妥当しよう。  しかし、こうした戦略が追求されることによって結果的に達成される事態は、 インフォーマル性を帯びた労働のあり方を変更することにほかならない。確認 したように、日雇労働者とハウス・クリーナー(あるいは家事労働者一般)が

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直面する問題は、賃金の不払い、人格貶価、あるいは暴力による虐待などであ ることが共通している。このことは、彼(彼女ら)がとり結ぶ労使関係が資本 主義的なものではないことを意味している。つまり、賃金が支払われないこと は、労働力が再生産されないことになるし、ルールに基づかない労働過程の恣 意的な統制は、形式的で合理的な官僚制的なそれとは相容れないものである。 さらにいえば、労働力の再生産に必要なだけの賃金が支払われないことは、労 働力が「商品化」されていないことを意味しよう。つまり、労働者センターが 賃金を自己決定するポスト資本主義戦略は、労働力の再生産に必要な賃金を雇 主に払わせることを通じて、資本主義的な「労働力の商品化」の徹底に帰結し ているのである。  要するに、労働者センターによるポスト資本主義戦略は、その帰結として資 本主義的な社会関係を徹底し、そのことを通じても労働者の立場を改善するこ とを志向しているといえよう。さらに、急いで付け加えなくてはならないこと は、ポスト資本主義戦略を可能にする移民労働者の組織化が、一定程度移民に よる社会的ネットワークに媒介されているということである。こうした社会的 ネットワークは、本書において一貫して強調してきたように、前資本主義的な 性格をもったコミュニタリアンな社会関係によって特徴づけられるのであった。  したがって、日雇労働プログラムと女性労働者コレクティブを担う労働者セ ンターの活動は、前資本主義的な社会関係の動員に裏書きされたポスト資本主 義戦略を通じた資本主義的社会関係の徹底として概念的に把握することができ よう。このような把握を通じて、やはり労働運動は資本主義的な関係の徹底を 志向する社会運動であり、そのことを通じて資本主義のシステムを制約する営 みであると解せよう。このような了解は、ネオ・ポランニー主義の想定が少な くとも一面的であることを明らかにしてもいるのである。 5.むすび  本稿においては、サンフランシスコ市において日雇労働プログラムと女性労 働者コレクティブを運営する労働者センターの事例を経験的・理論的に検討し

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てきた。この 2 つの営みは、労働者自身による賃金決定と労働過程の統制とい う点からとらえれば、資本主義社会においてポスト資本主義的な社会関係の編 成を志向する試みであるとひとまずは評価できよう。しかし、その結果追求さ れていることは、資本主義的な社会関係を徹底して編成することであり、この 労働者センターの活動には、まさに労働運動の本質が現れているのであった。  さらに、ポスト資本主義戦略を可能にしているには、移民労働者の社会的ネ ットワークを媒介にした前資本主義的社会関係の動員による組織化であった。 加えて、こうしたネットワークのあり方は、移民労働者によって種差性をもつ 可能性があることも明らかになったといえよう。この種差性は、移民労働者に よる運動を検討する際に今後追求されなければならない課題を明示していると 思われる。 注 1  多くの研究において、日雇労働者の組織化に関して、労働者センターの活動は肯定的

に 評 価 さ れ て き て い る(e.g., Gonzalez, 2007; Martin et al., 2007; Valenzuera Jr. et al., 2006; Theodore et al. 2008)。こうした評価は運動論に関わるものが多いものの、本章 における検討は必ずしもそれにとどまるものではなく、後述するように、いわば関係 論に関わる論点を含んでいる。 2  資本主義社会において、さしあたって「脱商品化」は労働者が賃金に依存しないで生 活する程度を高めることを意味することになろう。具体的には、社会福祉制度の整備 による生活保護を目的とした公的扶助や失業手当の拡充などが想起されよう。「脱商 品化」に関する、より詳細な概念的考察については、行論の過程で行われよう。 3  確認しておくならば、資本主義的な社会関係と異なる社会関係は、歴史的な視点をふ まえていえば、前資本主義的な社会関係とポスト資本主義的な社会関係とが想定され るのだった。本稿において言及している労働力の「脱商品化」という事象が、さしあ たって前資本主義的な社会関係の復古的編成を意図するものではないことは自明であ ろう。このことが、「脱商品化」をポスト資本主義的な社会関係の編成として把握す る所以である。 4  この調査研究は、2004 年に合州国全体にわたって合計 2660 人の日雇労働者を対象に

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実施された。これらの労働者は、コロンビア特別区および 20 州(139 の自治体)に おいて、264 か所におよぶ「寄せ場(hiring site)」において、ランダムに選ばれた人々 である。調査の実施時期はかなり以前ではあるものの、現在までのところ合州国にお ける最も大規模な調査であるだけでなく、調査時点から現在に至るまで日雇労働の状 況に大きな差異はないことから、この調査はいまだに重要な情報を提供してくれてい るといえよう。ちなみに、この研究に基づく試算によれば、アメリカ合州国において は任意の日におよそ 117,600 人の労働者が日雇労働を探していることになるという。 ちなみに、同じ試算によれば、カリフォルニア州においては 4 万人の日雇労働者がい ることになる。これは、全労働力人口における 0.2%に過ぎず、男性の非正規移民労 働者に占める割合も 3%にとどまるという(Gonzalez, 2007)。 5  大きな「寄せ場」については、しばしば大きな通りにそって、中心から半径数ブロッ クにわたる広がりをもつことがあるという。日雇労働者たちは少しでも雇主と出会う 機会を増やそうとしてこの範囲を移動することになる(Valenzuera Jr. et al., 2006)。筆 者も主たるフィールドの 1 つにしてきたカリフォルニア州オークランド市を事例とす る研究においては、こうした「寄せ場」がインターナショナル大通り(international boulevard)と思われる街路にそって、延々半マイルほど(約 800 メートル)にわたる 広がりを見せることが報告されている(Purser, 2009)。 6  さらに、こうした支払いが多くの場合現金(cash)によって行われるため、小切手に よる支払と異なり、雇主の帳簿あるいは支払い用の口座に記録が残らないことになる。 合州国においては、こうした支払いの方法は、失業保険、労働者への保障、あるいは 社会保障費などを支払わない、雇主による不正を示唆するものとして歓迎されない。 この事情は、家事労働者についても同様である(National Employment Law Project, 2008)。 7  もっとも、日雇労働者の一部はいわゆるホームレス(homeless)であり、住所不定の 路上生活を送ることも多い。 8  エーレンレイク(Eherenreich, 2003)によれば、こうした清掃会社は伝統主義とジェ ンダー関係に媒介された社名を多用するという。すなわち、メイド(maid)という「古 風な(antique)」語句が社名の一部に用いられることが多い。

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催し、多数の研究者が参加して実施された、家事労働者に関するほぼ初めての全国調 査である(Burnham & Theodore, 2012: 14)。2011 年 6 月から 2012 年2月にかけて、ボ ストン、シカゴ、あるいはニューヨークなどの 14 の大都市地域(metropolitan area) において 2086 人の家事労働者にインタビューが実施された。

10 例えば、こうした家事労働者はチップ(tip)をもらう機会があるものの、企業に雇

用されている労働者にはそのような機会はほとんどないという(Eherenreich, 2003)。

11 2012 年の調査においても、23%の家事労働者が各州で定めた最低賃金を受け取って

いない(Burnham & Theodore, 2012: 18)。

12 こうした清掃会社は、いくつもの一般家庭と契約してハウス・クリーナーを派遣する ことになっている。労働者たちは、数人からなるチームを組んで複数の契約家庭を回 り、契約内容に則した清掃労働を行うことになる。したがって、1 日の勤務時間には かなりの移動時間が含まれることになるものの、こうした時間に賃金は払われないわ けだ。さらには、1 日の勤務時間のなかでほとんど休憩に充てられる時間はなく、昼 食も移動途中にコンビニエンス・ストアなどに立ち寄って簡単にすますことを強いら れるという。ちなみに、いくつかの家庭を訪問して清掃を行うことは、独立契約者と して働く労働者にとっても同様である。一般に、移民女性にとっては自動車を所有す ることは経済的に負担であり、この負担を回避するために企業に雇用されることを選 択する移民女性も多い。 13 エーレンレイク(Eherenreich, 2003)によれば、伝統主義と旧来のジェンダー関係が 清掃会社の社名に反映されるのと軌を一にして、ハウス・クリーナーの作業内容にも 伝統的な女召使の作業を示唆するような、 いつくばるようにして床を拭く作業が付 け加えられるようになっているという。ちなみに、労働負荷が高いことは、この産業 における離職率の高さにも反映されているのである。 14 翻っていえば、住み込みや独立契約者としての家事労働者は、作業の密度や速度につ いては、自由裁量の余地(discretion)が大きいことになる。しかし、彼女たちの職務 内容について、雇主との間に明文化された契約書が交わされることは通常は少なく、 あったとしても雇主がそれを守らないことも多い。例えば、30%以上の労働者が、過 去 1 年 間 だ け で も 違 約 事 項 が 1 つ で も あ っ た こ と を 報 告 し て い る(Burnham & Theodore, 2012: 26)。

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15 とりわけ、住み込みタイプの家事労働者はこうした被害に遭いやすい。調査時点で、 過去 1 年間の間に、彼女たちの 36%が「言葉による虐待」を経験していた(Burnham & Theodore, 2012: 34)。 16 1986 年の移民法改定によって、非正規の移民を雇用している雇主も処罰の対象にな ったため、雇主はこの改定を逆手にとって労働者を威嚇するようになった。つまり、 非正規の移民を積極的に摘発するスタンスをほのめかすことによって、移民労働者を 威嚇し、不当な条件を甘受させるというわけだ。しかし、いうまでもなく、合州国の 労働法、つまり公正労働基準法(Fair Labor Standards Act)においては、非正規の移 民であっても労働者としての権利は担保される。 17 この調査は、アメリカ合州国サンフランシスコ・ベイエリアにおいて、2007 年 3 月 から 2011 年 8 月まで断続的に行ってきたものの一部である。この労働 NGO につい ては、日雇労働者に対するオルガナイザー 1 人、女性労働者コレクティブのコーディ ネーター 1 人、日雇労働者の労働者リーダー(コーディネーター)6 人、および女性 労働者コレクティブの労働者リーダー(フェロー)1 人に対してインタビューを行う とともに、資料の収集および会議への参加を試みた。 18 すなわち、日雇労働プログラムに対してはサンフランシスコ市から助成金が支出され ているわけだ(2011 年度については、この労働 NGO は 9 万ドルの助成を受けている。 女性労働者コレクティブに対しても、同じく 5 万ドルの援助を受けている)。サンフ ランシスコ市は、こうした業務委託を通じて、後述するような住民と移民との対立を 自ら解決することを回避したことになる。念のため断わっておけば、サンフランシス コは市であるとともにそれ自体が郡(county)でもあるため、業務委託の主体はサン フランシスコ市および郡(city and county of San Francisco)となっている。

19 このプログラムそれ自体は、1991 年から実施されてきた。プログラムが満たすべき 要件については、サンフランシスコ市が決定している。すなわち、プログラムには日 雇労働者を不正な雇主から保護し、彼らに安定した仕事を提供する活動が含まれてい なければならないことが規定されている。この要件をみたす活動を実践できる民間団 体がアプライして、業務を受託しているのである。 20 一般に、アメリカ合州国における社会運動ユニオニズムの展開は、ローカルなレベル において顕著であるものの、様々な地域において同種の運動が展開されており、こう

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したナショナルなレベルにおける連携も進められているのである。そのような意味で、 社会運動ユニオニズムをローカルで部分的な運動として評価することは妥当ではなか ろう。 21 換言すれば、こうした日雇の労働市場には、このような意味でのインフォーマル性(山 田,1996)が現れているといえよう。 22 この労働者センターにおいては、コーディネーターは全部で 5 人だという。コーディ ネーターは、毎週会議に参加して日雇労働プログラムについてアイデアを提供すると ともに、アウトリーチの実践、会合におけるファシリテーター(facilitator)の役割、 会議の議事録作成、さらには日雇労働者の勧誘などを担っている。リーダー育成プロ グラムを通じて、自己表現、交渉力、あるいは会議の運営力などリーダーとして必要 な資質が育成され、現れたリーダーをコーディネーターとして採用するわけだ。もっ とも、オルガナイザーによれば、リーダー育成プログラムは実施しているものの、あ くまで労働者自らが「主体化」することを重視しているという。つまり、移民労働者 が自ら運動を組織することが待望されているのである。 23 2008 年の 8 月に筆者は、雇用斡旋所において開かれた会議に参加し、その後コーデ ィネーター 4 人にインタビューを行うことができた。会議では、以下のような事項が 議論されていた(会議はスペイン語で行われたため、オルガナイザーに適宜通訳して もらった)。(1)サンフランシスコ・ベイエリアにおいて同様の日雇労働者プログラ ムを委託されている労働者センターとの連携形成について、(2)路上におけるコミュ ニティへのサービスについて、(3)運転免許証を容易に取得できるように政治家に要 求することについて(これは、身分証明書を取得して非正規移民に対する強制捜査 (raid)に備える目的もあるようである)、(4)アルコール依存などの労働者の個別的 な問題について、(5)「会費(membership due)」の必要性について(サービスを充実 させるために、雇用斡旋所の利用者から「会費」を取る必要があるのではないか)、(6) インターネットを通じて仕事を斡旋するかどうかについて(斡旋所の意義が希薄にな らないか)、(7)コーディネーターの報酬について(報酬を受け取るべきかどうか。 現状では全くのボランティアである)、(8)ヒスパニック系テレビで放映される安全 な仕事についての番組を労働者に告知する件について、などといったことが議論され ていた。会議の参加者は、7 人であった。インタビューを試みたコーディネーターた

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ちは全員男性であり、出身地はメキシコ、エルサルバドル、グアテマラ、およびペル ーであった。 24 雇用斡旋所には朝 7 時から仕事を探している日雇労働者が集まってくる。求職する労 働者は、その日の求職者のリストに記帳したうえで、雇主が現れるのを待つことにな る。記帳した労働者のなかからローテーションによって、その日の仕事につける労働 者の候補が選ばれ、さらに求められる能力・装備(技能、英語能力、移動手段の所持、 あるいは用具の所持など)によって最終的に仕事を得る労働者が決められることになる。 25 もちろん、雇用斡旋所によって日雇労働者を守ることのなかには、一日中何時間も街 頭に立ち続けることに伴う肉体的な苦痛から彼らを解放することも含まれる。彼らに 軽食や飲み物を提供するサービスを行い、休息の場を与えることも重要である。こう した雇用斡旋所の存在それ自体が、住民と日雇労働者との対立を緩和するだけではな く、かえって先鋭化させる契機にもなりうることが指摘されている(Cotty & Bosco, 2008)。

26 女性労働者コレクティブの設立・運営には、サンフランシスコ市とオークランド市に

拠点をもち、同じくラティーノ・コミュニティを基盤にした NGO も協力している。 この NGO は、男性パートナーによる家庭内暴力(domestic violence)を受けた女性の ケアを主として行うとともに、家事労働者の権利擁護のための活動も担っている。 27 したがって、事実上、女性労働者コレクティブは住み込みの家事労働者や独立契約者 といった個人が契約して遂行する清掃業あるいは家事労働に対するオルタナティブを 提示しようとする試みといえよう。女性移民労働者によって運営される、こうしたワ ーカーズ・コレクティブの設立は、合州国各地で在宅介護(homecare)や子供の世話 (childcare)に従事する労働者によっても行われている(Dresser, 2008)。 28 こうしたリーダーたちは、いずれも移民女性である。出身は、メキシコ、エルサルバ ドル、およびグアテマラが多い(しかし、パナマ、南アフリカ、中国、ドイツ、ある いは日本からの移民も含まれているという)。ラティーナが多いため、会議はスペイ ン語で行われることになる。出身地における彼女たちの職業も多様であり、秘書、看 護士、医者、弁護士、仕立屋、衣服労働者、あるいは農民などであるという。 29 こうした会費は、会議の際のコーヒー代や資料のコピー代に使っているという。 30 女性労働者コレクティブは、ローカル、ステイトワイド(statewide)、ナショナル、

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およびインターナショナルの 4 レベルで移民女性労働者の権利伸長を模索している。 インターナショナル・レベルにおいては、国際労働機関への陳情活動を行っていると いう。2008 年には、こうした陳情活動に合わせて、全国的なデモも行ったという。 31 この賃金は極めて高く、2011 年度のサンフランシスコ市における最低賃金よりもは るかに超えて、「生きられる賃金(living wage)」をも凌駕している可能性がある。 32 路上で求職した場合には、週あたりの労働時間も長くなり、その限りでは週あたりの 収入も増えることになる。 33 これは、日雇労働者が移民労働者による社会的ネットワークにあまり組み込まれてい ないか、あるいは組み込まれていても極めて功利的にそれを利用していることを意味 している。筆者が行ったインタビューにおいても、日雇労働者たちはラティーノによ るコミュニティに長くとどまるわけではなく、一定期間で移動しているために組織化 を困難にしていることを聞くことができた。このことは、前者の指摘を支持している かもしれない。移民労働者のタイプとその社会的ネットワークのあり方に差異がある ことは、今後検討されるべき極めて興味深い論点を提供しているように思われる。後 者の指摘については、周知のように、スウェットショップ(sweatshop)における雇 主が、社会的ネットワークを利用して雇用した、同じエスニシティに属する労働者を 搾取することにその事例を見ることができよう(e.g., Cranford, 2005)。 34 事実、労働者センターを利用する日雇労働者と路上における「寄せ場」において求職 する労働者とは、互いの「女性性」を揶揄すること、翻っていえば自らの「男性性 (masculinity)」を強調することを通じて「優越性」を主張し、対立しあっていること が明らかにされている(Purser, 2008)。このことに関連して、日雇労働者は自らの「男 性性」を強調するあまり、労災に会いやすく、さらには労災にあって働けないことに よって「男性性」を発揮できない苦しみに苛まれることになるという(Walter et al., 2004)。一般に、ラテンアメリカ社会、あるいはより広範にはヨーロッパも含めたラ テン文化圏においては、依然として「マッチョ主義(machoism)」が優越し、そのこ とが家庭内暴力を発生させる温床になっている。

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参照

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