高成長を維持しつつ,2011年に向けた体制を構築 : 2007年のベトナム
著者 寺本 実, 荒神 衣美
権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization (IDE‑JETRO) http://www.ide.go.jp
シリーズタイトル アジア動向年報
雑誌名 アジア動向年報 2008年版
ページ [203]‑232
発行年 2008
出版者 日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL http://hdl.handle.net/2344/00002609
ベトナム
ベトナム社会主義共和国 面 積 33万1212㎞ 2
人 口 8415万5800人(2006年平均,暫定値)
首 都 ハノイ 言 語 ベトナム語
宗 教 仏教,キリスト教,カオダイ教,ホアハオ教 など
政 体 社会主義共和制
元 首 グエン・ミン・チェット大統領(国家主席)
通 貨 ドン( 1 米ドル=16,114ドン,2007年末現在)
会計年度 1 月〜12月
2 1
3
4 5
6 7 8
10 9 1211 13
1415 16 17 1918 20 21 22 23 24
2625 27 28
29
30
31 32
33 34
35 36
37 38
39 40
41 42
44 43 45
46
47 48 49 50 5251 53
64 54 55
57 56 58 60 59 61
62 63 カ ン ボ ジ ア
中 国
タ イ
ラ オ ス
南 シ ナ 海
国 境 省 境
フークォック島
ホアンサ
(パラセル諸島)
(西沙諸島)
チュオンサ
(スプラトリー諸島)
①ディエンビエン省
②ライチャウ省
③ラオカイ省
④ハザン省
⑤カオバン省
⑥イェンバイ省
⑦トゥエンクアン省
⑧バクカン省
⑨ランソン省
⑩タイグエン省
⑪ヴィンフック省
⑫フートォ省
⑬ソンラ省
⑭ハノイ市(首都,中央直轄市)
⑮バクニン省
⑯バクザン省
⑰クアンニン省
⑱ハイフォン市(中央直轄市)
⑲ハイズオン省
⑳フンイェン省 ハタイ省 ホアビン省 ハナム省 タイビン省 ナムディン省 ニンビン省 タインホア省 ゲアン省 ハティン省 クアンビン省 クアンチ省 トゥアティエン=フエ省 ダナン市(中央直轄市)
クアンナム省 クアンガイ省 コントゥム省 ビンディン省 ザーライ省 フーイェン省 ダクラク省 ダクノン省 カインホア省 ニントゥアン省 ラムドン省 ビンフォック省 タイニン省 ビンズオン省 ドンナイ省 ビントゥアン省
バリア=ヴンタウ省 ホーチミン市(中央直轄市)
ロンアン省 ドンタップ省 アンザン省 ティエンザン省 ベンチェ省 ヴィンロン省 カントー市(中央直轄市)
ハウザン省 キエンザン省 チャヴィン省 ソクチャン省 バクリュウ省 カマウ省
高成長を維持しつつ,2011年に向けた体制を構築
寺本 実・荒神衣美
概 況
国内政治では第12回国会代表選挙が実施され,その後開かれた第 1 回国会で政 府機構改造や新閣僚の選出などが行われた。同国会で選出された最高指導者たち の任期は2011年までに短縮されることが決まり,2011年に党大会,国会代表選挙,
政府・国家機構人事が行われる公算が強くなった。党の機構改革も進められている。
経済面では,ここ数年来の成長に拍車がかかり,実質経済成長率は前年を上回 る8.48%を記録した。WTO への正式加盟が継続的な市場開放・規制緩和の裏付 けとなり,外国直接投資流入は過去最高額を更新した。企業活動は国有・民間の 別や業種を越えて多様化し,貿易自由化もさまざまな問題を抱えつつも進展した。
他方,前年から課題となっている証券市場の安定化や,急速な市場開放や高成長 に伴って加速したインフレの抑制については,政策調整が難航した。
対外関係では引き続き全方位外交を展開し,10月16日には第62回国連総会で国 連安全保障理事会の非常任理事国(2008 〜 2009年)入りを果たした。
国 内 政 治
第12回国会代表選挙を実施
2007年 5 月20日,第12回国会代表選挙が実施された(表 1 参照)。同選挙では立 候補者の財産・収入の申告が義務づけられた。ベトナムの国会は一院制であり,
全国182選挙区最大定数500人のところ875人(候補者公布段階では876人であった)
が立候補した。その内訳は機関・組織の推薦が845人,機関・組織の推薦によら ない独立候補が30人である。当日は18歳以上の有権者5646万7532人のうち5625万 2543人(約99.6%)が投票を行った。第11回国会代表選挙の投票率は約99.7%であ り,前回に比べて投票率は若干下がった。
ノン ・ ドゥック ・ マイン党書記長,グエン・ミン・チェット大統領,グエン ・
タン ・ ズン首相,グエン・フー・チョン国会議長はそれぞれ,タイグエン省,ホ ーチミン市,ハイフォン市,ハノイ市の選挙区から立候補し当選した。前回はグ エン・ヴァン・アン国会議長が中部のダナン市から立候補しており,ベトナム最 高ポスト 4 役における中部からの立候補者がいなくなったことになる。中部は経 済開発が遅れているだけでなく,毎年台風などの自然災害にも悩まされている。
2006年 4 月に開かれた第10回党大会とその後の人事でも中部出身者の減少傾向が みられたが,中部の利害を中央政治に反映させるうえで影響が心配される。
2007年 5 月29日,選挙評議会が選挙結果を公式に発表した。当選者の主な構成 は以下の通りとなった。
当選者総数493人,中央推薦による当選者153人,地方推薦による当選者340人,
初当選者345人,少数民族の当選者87人,女性当選者127人,非党員当選者43人,
独立候補の当選者 1 人,大学以上の学歴を有する当選者473人,以上である。ち なみに最高齢は80歳,最年少は24歳であった。
大学レベルの教育を受けた当選者比率は前回の約93.4%から約95.9%に上昇し た。民主化との関係で注目されるのは非党員候補と独立候補の動向である。これ らについて前回の国会代表選挙の数字と比較しつつ検討してみたい。
非党員候補については,前回の立候補者数134人に対し今回は150人(150人とい う数字は http://www.baucukhoa12.quochoi.vn/ より。この資料では立候補者
(出所) 紙掲載記事より筆者作成。
表 1 第12回国会代表選挙関連日誌 1 月26日 党政治局,第12期国会代表選挙の指導について指示。
1 月29日 国会常務委員会,選挙開催日を 5 月20日と定め,第12回国会代表選挙評議会の 設立を定めた決議。
1 月31日 ズン首相,第12回国会代表選挙の組織について指示。
2 月 9 日 党政治局・国会常務委員会・国会代表選挙評議会,政府 ・ ベトナム祖国戦線の 協力とマイン書記長の指導の下で第12回国会代表選挙工作の展開のための全国 会議を開催。
2 月23日 ベトナム祖国戦線中央委員会,第12回国会代表選挙立候補者推薦(選出)のため の第 1 回協商会議を開催。
3 月 8 日 チェット大統領,国会代表定数,選挙区数,区割りに関する国会常務委員会決 議を公布。
3 月20日 ベトナム祖国戦線中央委員会主席団,第12回国会代表選挙立候補者推薦(選出)
のための第 2 回協商会議を開催。
4 月14日 ベトナム祖国戦線中央委員会主席団,第12回国会代表選挙立候補者推薦(選出)
のための第 3 回協商会議を開催。
4 月24日 第12回国会代表選挙評議会,立候補者名簿の公布について決議。
5 月20日 第12回国会代表選挙を実施。
5 月30日(紙面掲載日) 第12回国会代表選挙評議会,選挙結果・当選者名簿に関する決議。
5 月30日〜 6 月 2 日 第12回国会代表選挙の当選者名簿を公表。
総数876人)であった。このうち当選者数は前回51人であったのに対し今回は43人 に留まっている。
独立候補についてはどうか。前回の立候補者13人に対して今回は30人,当選者 数は前回 2 人に対し今回は 1 人に留まった。
この結果を額面通り受け取れば,当局は非党員・独立候補の候補者数を増やし,
国会代表に占める当該構成比率が高まるよう配慮したにもかかわらず(ベトナム の国会代表選挙ではベトナム共産党の影響下にあるベトナム祖国戦線を中心とす る立候補者のスクリーニングが行われる),有権者がそうした選択を行わなかっ たということになる。
そこで,例えばハノイ市第 2 選挙区の例をみてみたい。定数 3 人の所に 5 人が 立候補し,うち 4 人が党員である。党員候補には国会対外委員会副委員長,ハノ イ市人民評議会議長,ハノイ市法律家団副主任,ハノイ師範大学学長とそうそう たる役職者が並ぶ。他方,非党員候補は同選挙区中最も若い当時36歳の製菓会社 社長であった。落選したのはこの青年社長とハノイ市法律家団副主任である。ベ トナム共産党による統治の中心地首都ハノイで,また長幼の序を重んじる伝統が 残るなかで,国会代表のイメージと重ねやすく社会的影響力の大きい年配の現職 の高位役職従事者と,非党員である青年製菓会社社長が票を競うという状況が同 社長にとって有利だったとは考えづらい。また,筆者の確認したところによれば,
党員のみが立候補している選挙区が全国182選挙区のうち88選挙区ある一方で,
非党員候補が複数立候補している選挙区が40あった。選挙結果について判断する 際には,こうした選挙区における立候補者の組み合わせや配分が選挙結果に影響 を与えている可能性を考慮に入れる必要がある。
なお, 紙2007年 6 月 5 日付によると,国会代表選挙当日,30省・中 央直轄市で地方議会である人民評議会の代表補充選挙が実施された模様である。
国会・政府の再編・改造と新陣容の選出
2007年 5 月20日の第12回国会代表選挙の実施を受け,第12期第 1 回国会が 7 月 19日〜 8 月 4 日に開催された。ベトナムでは国会代表選挙後初めて開かれる国会 で国会・国家機構・政府の最高指導者たちの選出が行われるのが通例であるが,
同国会では新陣容の選出とあわせて国会 ・ 政府の改造 ・ 再編が行われた。党大会 後開かれた2006年の前期国会で選出されていたチェット大統領,ズン首相,チョ ン国会議長は再選出されている。
国会機構の再編・改造では次の動きがあった。⑴国会副議長の増員( 3 人から 4 人へ),⑵委員会・担当ポストの増設(司法委員会,経済委員会,財務・予算委 員会の設立と代表工作担当ポストの設置),⑶国会常務委員会構成員数の増員(13 人から18人へ),⑷国防安全委員会を除く各委員会の構成員数増加,の以上 4 点 である。これらの動きは,対応すべき問題の多様化・複雑化・具体化に対応する ため,国会の法案審議機能を強化することが目的だと考えられる。
政府機構関連の動きについては以下の動きがあった。⑴副首相の増員( 3 人か ら 5 人へ),⑵水産省と農業・農村開発省の統合,⑶工業省と商業省の統合,⑷ 文化・情報省の新聞・雑誌,メディア管理機能統括部門と郵政 ・ 電気通信省の統 合,⑸文化 ・ 情報省の⑷の動きに伴う残余の統括部門,体育・スポーツ委員会,
観光総局の統合,⑹資源 ・ 環境省に対する海洋に関する総合的管理機能の付与,
⑺人口・家族委員会の廃止と同機関担当職務の他省庁への移管,の以上 7 点であ る。この動きに伴い,省庁の数は26から22,閣僚数は30人から26人(兼務 2 人)に 削減された。
これらの動きは,ひとつには縦割り行政の弊害克服, 2 つめには時代状況によ り適合的な省庁管轄分野の設定, 3 つめには政府機構全体のスリム化を目的とし たものだと考えられる。
次に人事についてみてみたい。今回の国会,政府,国家機構人事においては以 下の傾向がみられた。⑴世代交代,⑵高学歴化,⑶党重職にある人物の就任増,
の 3 点である。特に⑴の点は顕著であり,1931 〜 1940年生まれの指導者がすべ て引退し,代わって1946 〜 1955年生まれの指導者が台頭している。
同国会における全体的方向性を評価すれば,国会の審議機能強化,政府機構の 再編・整備を行うとともに,最高幹部の若返りを図り,高学歴で党内でも重職に ある人物の参加率を高めることによって,国内外の諸問題に対する対応力を強化 することを狙いとしたものだと考えられる。なお,通常であれば任期は2012年ま でであるが,今国会で任期は2011年までと定められた。2011年には第11回党大会 の開催が見込まれており,党大会と国会代表選挙,国家機構・国会・政府の新し い指導者の選出が同じ年に行われる形が整えられた。
党中央委員会――引き締め基調を維持しつつ改革へ
2007年も例年通り党中央委員会総会は 2 回開かれ,党,国家・政府機関の再編 や人事といった重要事項について方針を決定した。
第10期第 4 回党中央委総会は 1 月15 〜 24日に開催された。同総会通報によれ ば,同総会では「WTO 加盟国となったベトナムの迅速かつ着実な経済発展のた めの若干の路線・政策大枠についての決議」「2020年までのベトナムの海洋戦略 に関する決議」が出されるとともに,党機関・国家機関の組織機構の刷新 ・ 強化 などについても話し合われ,方針が決定された(同通報では直接言及されていな いが,後続の 紙の報道から判断すると,「党機関の組織機構刷新・強 化と,国家,祖国戦線,政治・社会組織の組織機構刷新の方向性についての決議」
が同総会で出されていたものと考えられる)。
同通報をみると,「経済成長は社会の進歩,公平を伴わなければならない」「党 の指導を維持,強化する」といった文言とともに,「成功裏の国際経済参入のため に思想工作を強化しなければならない」との表現もみられる。新しい状況への適 応を図る一方で現体制を堅持する,経済成長一辺倒ではなく社会的公平も期すと いった,バランス感覚は維持されているとみることができる。
続く第10期第 5 回党中央委総会は2007年 7 月 5 〜 14日に開催された。同総会 通報によれば,同総会では「新しい要求を前にした思想,理論,新聞 ・ 雑誌工作 に関する決議」「党の検査・監視工作強化に関する決議」「政治体系の活動に対す る党による指導方式の継続的刷新に関する決議」「国家機構の管理効率・効果を 向上させるための行政改革推進に関する決議」の 4 決議を公布している。そして,
第12期政府の組織構造について検討し,国会で選出し承認を行うための国家機関 指導者の人事推薦案を決定した。
同総会通報の文言をみると,「誤った,反動的な情報・観点に適宜反駁し,敵 勢力の『和平演変』(平和的手段による政権転覆――筆者注)の企みを敗北させる」
「政治体系の活動に対する党の指導方式刷新は依然として遅れており,緩みがあ る」「幹部・公務員の質は未だ要求を満たすことができていない」など,その基調 は引き締めにあり,現状に対する危機感が看取される。
党政治局・書記局――党機構改革を実施
党政治局,党書記局から出された主な指示・決定などをみてみたい。
ベトナムの国際経済参入の本格化を国内外に印象付けた WTO 加盟から 5 日 後の2007年 1 月16日,党政治局は前年発動された「ホーチミン道徳の範にしたが った学習・仕事運動」の中央指導委員会設立を決定した。マイン書記長自ら委員 長を務める。幹部 ・ 党員の紀律引き締めを目指す同運動は2011年 2 月 3 日まで実
施される予定である。
4 月11日には党各機関の整理・再編に関する党政治局指示が出された。その内 容は以下のようなものであった。⑴党内部政治防衛委員会と党組織委員会を統合 し,党組織委員会とする,⑵党教育・科学委員会と党思想・文化委員会を統合し,
党宣教委員会とする,⑶党経済委員会,党内政委員会,党財政・管理委員会,党 事務局を統合し,党事務局とする,⑷ 7 つあった中央ブロック(khoi)党組織(各 中央党機関の直接上位に位置する党組織)の活動を終了し,中央機関ブロック党 組織を設立する,⑸中央企業ブロック党組織を設立する,の 5 点である。
紙2007年 5 月11日付けの報道から判断すれば,⑷の 7 つの中央ブロック党 組織とは,中央機関第 1 ブロック党組織,中央内政機関ブロック党組織,中央経 済機関ブロック党組織 , 中央対外機関ブロック党組織,思想工作に関する中央機 関ブロック党組織,中央教育・科学機関ブロック党組織,中央大衆工作機関ブロ ック党組織,の以上 7 つの組織だと考えられる。
中央企業ブロック党組織に関する動きについては, 4 月25日に党政治局が中央 直属ベトナム鉄道党組織を中央企業ブロック党組織の直属とすると決定したこと から判断すれば,重要企業の党組織を中央企業ブロック党組織の下にまとめよう とする動きだと考えられる。
こうした諸組織の統廃合の動きの背景には,各組織が独立した志向にしたがっ て動くことによる無秩序性を解消し,全体的な統一性を強化するためのリーダー シップ創出を,当該部門において行う狙いがあるものと考えられる。
最後に,党政治局が 5 月 7 日に国家行政学院とホーチミン国家政治学院の統合 を決定した点に言及しておきたい。新機関の名称はホーチミン国家政治・行政学 院とされた。2005年 7 月30日に党政治局はホーチミン国家政治学院を「党中央委 員会,政府の直属事業単位であり,党政治局・党書記局の直接的で恒常的な指導 下に置く」との決定を行っている。同学院はイデオロギーに関する研究・教育を 主要機能のひとつとしてきた機関である。他方,国家行政学院(2002年に内務省 と統合)は,より現実に即した行政機関の幹部育成 ・ 訓練などの役割を果たして きた機関であり,統合が相互の機能にどのような影響を与えるのか注目される。
「民主」への配慮と民主化を求める動き
2007年には国民の意見を集約しようとする当局の姿勢が目立った。また,民主 化を求める人たちの取締りについてしばしば報道されている。
前者の動きについては,法案・政府議定案に対する国民の意見を聞こうとする 政府,国会常務委員の試みがある(表 2 参照)。党大会政治報告や法案について国 民が意見を提出する機会を与えられたことは過去にもあったが,政府議定レベル で類似の動きがみられたのは,管見の限りでは新たな傾向のひとつである。
2007年 2 月 9 日にはズン首相がインターネットを通して国民と直接対話する機 会が設けられた。対話は「国民が豊かになり,国が強くなり,公平で民主的,文 明的であるひとつの社会主義ベトナム」「成功裏の国際参入,着実な発展」をテー マに,朝 8 時35分から正午まで予定を30分延長して行われた。直接対話の実施を 公表した 1 月24日から当日正午までに総数 2 万を超える質問が寄せられた。
紙2007年 2 月10日付によれば,ズン首相が応答した質問のなかには,「若干の 現職大臣は能力に問題がある」とし,優秀な人材を任用するために従来の人事任 用政策を変更する必要があるのではないかとする問いも含まれていた。
さらに2007年 4 月20日には国会常務委員会で,国民が知りうるよう公開すべき 事項や話し合いで決定すべき事項などを定めた「社・坊・市鎮(行政の末端レベ ル――筆者注)における民主実行法令」( 7 月 1 日施行)が可決されている。
民主化を求める活動についてはどうか。 紙2007年 3 月31日付によれ ば,2007年 3 月30日にトゥアティエン=フエ省人民裁判所において著名な反体制 活動家であるグエン・ヴァン・リー神父を首班とするグループに対する公開裁判 が行われた。国家に反する宣伝行為を行った罪を問われたリー神父は懲役 8 年,
服役後さらに軟禁 5 年の判決を受けた。リー神父らは2006年 4 月 8 日に民主化を 求める「2006年ベトナムのための自由民主宣言」を作成し賛同者を求め(賛同者ら は8406集団< Khoi 8406>と呼ばれた),さらに今回懲役 6 年,服役後 3 年の軟 禁を言い渡されたグエン・フォン被告を用いて「ベトナム昇進党」(dang Thang tien Viet Nam)を結成し,民主化を呼びかける活動を続けたという。
(注) ※当該記事( , 2007年 6 月14日)に意見聴取開始日のみ掲載されている。
(出所) 紙掲載記事より筆者作成。
表 2 2007年に国民による意見提案機会を設けた主な法案・議定草案
日時 名称
5 月25日〜 7 月25日任務・公務執行における国家機関の長に対する個人的責任制度を定めた政府議定 草案
※ 6 月12日〜 幹部・公務員ポストのリストと定期的な配置転換の期限について定めた政府議定 草案
※ 6 月12日〜 政府・首相・大臣・省庁と同等レベル機関の長における法規範文書の作成・公布 規程についての政府議定草案
6 月15日〜 8 月15日 個人収入税法案
また, 紙2007年11月29日付は,11月半ばから報道日までの間に治安 当局は 6 人の活動家を拘束し,「ベトナム更新革命党」(dang Viet Tan )の7000 近くの反動的リーフレット,8000超の封筒,3775枚の切手などを押収したと伝え た。 6 人の活動家のうちフランス,アメリカ国籍の 2 人は年内に国外追放された。
民主化は国際社会がベトナムに求める重要課題のひとつである。当局はそれを 理解し,一党支配の堅持を大前提として国民の声・意見に配慮する,それらを法 律,政策の作成や現場での政策実施に取り込み,反映させるという,「国民の声 に配慮する」という文脈での「民主化」への試みを進めている。
その一方,多党制への移行といった本格的民主化を求める勢力も確かに存在し,
こうした動きについては断固として取り締まる姿勢を当局はみせている。
その他の動き
9 月26日には日本の援助によるカントー橋架橋工事で崩落事故が発生し,死者 は54人に達した。また, 紙によれば2007年には台風・洪水などの自然 災害により500人近くが死亡・行方不明となり,800人を超える人が負傷し,物質 的被害は11兆5000億麹に達したという。鳥インフルエンザも各地域で年間を通し て断続的発生が伝えられ,同感染症の防止・取締りにおいても政府は対策に追わ
れた。 (寺本)
経 済
成長率は過去10年で最高の8.48%
WTO の正式加盟国となった2007年のベトナムは,実質 GDP 成長率8.48%と 過去10年間で最高水準の成長を記録した。部門別では,前年に引き続き工業・建 設(10.6%),サービス(8.68%)の 2 部門が高成長を牽引した。工業・建設では,
製造業(12.79%)の堅調な成長に加え,建設業(12.01%)の伸びが顕著であった。
サービスでは,ホテル・レストラン(12.72%),運輸・郵便・観光(10.42%),金 融・保険(8.83%)などが成長を牽引した。一方,農林水産業は3.41%の低成長に 留まった。水産業は10.38%と高成長を達成したものの,農畜産業が台風・洪水 などの度重なる自然災害,鳥インフルエンザや豚生殖器・呼吸器症候群(豚青耳 病)など家畜の疫病発生といった困難に見舞われた。
外国資金流入は前年を大幅に上回った。 誌(2008年 1 月
1 日付)によると,外国直接投資が登録資本総額203億㌦と飛躍的に増加したほか,
在外ベトナム人からの送金は80億㌦,政府開発援助約束額は54億㌦で,それぞれ 過去最高額となった。また,外国間接投資の流入も好調で,証券投資総額は53億
㌦に達した。
外国資金流入の急増は高成長を支えた一方で,これまでになくドル安ドン高圧 力を高め,為替調整を難航させた。後述のように,輸出競争力強化のためにドン 安基調を維持したい政府は,ドル買い介入で急激なドン高の回避を図った。しか し,ドル買い介入は他方でドンの流動性膨張を引き起こし,インフレ進行の一因 となった。2007年の消費者物価指数上昇率は,年初の目標であった「実質経済成 長率以下」を大きく上回る12.6%に達した。
対外貿易では,輸出が484億㌦で前年比21.5%増となったものの,輸入の伸び も著しく(608億㌦,前年比35.5%増),貿易赤字は大きく膨らんだ(124億㌦,同 145.5%増)。輸出では,繊維・縫製品(78億㌦,同33.4%増),コーヒー(18億㌦,
同52.3%増),電子・コンピュータ(22億㌦,同27.5%増)などが好調であった。
原油は前年より輸出量が減り,輸出額は前年比微増(2.6%増)の85億㌦に留まっ た。一方で,輸入急増の主因となったのは,機械・部品(104億㌦,同56.5%増),
石油製品(75億㌦,同25.7%増),鉄鋼(49億㌦,同66.2%増)などである。ベトナ ム経済の活況,主として外国直接投資の急増に伴う資本財,中間財,原材料への 需要増に対し,それらの国際価格上昇と輸出振興のもとでのドン高抑制が相まっ て,輸入総額は大幅に拡大した。
財政では,歳入・歳出ともに計画比106.5%となり,財政赤字はほぼ計画と同 水準に収まった。歳入では,援助収入が計画比156.7%と大きくなったが,原油 生産の低迷により原油収入が伸び悩んだ(計画比102.1%)。
外国直接投資の飛躍的増加
2007年の外国直接投資受入(2007年 1 月 1 日〜 12月22日)は,統計総局の速報 によると,新規投資が登録資本金額178億5590万㌦(1445件)となり,拡張投資を 合わせると,総額は前年比69.3%増の203億㌦に達した。これは外国投資受入を 開始した1988年以来最高額である。
継続的な高成長に加え,年初の WTO 加盟が持続的な投資環境改善や市場開放 の裏付けとなり,投資先としてのベトナムの評価は前年に引き続き高まった。実 際,WTO 加盟時の公約に従い,外国投資企業に対して輸出入権が付与される(石
油など一部品目は除く)など,投資環境改善に向けた動きが徐々に進んだ。国連 貿易開発会議(UNCTAD)による2007 〜 2009年世界投資動向調査では,ベトナム が投資先有望国の第 6 位に入った。
投資受入状況を分野別にみると,2007年はハイテクや不動産向けの新規大型投 資が目立った。ハイテク分野では, 8 月に台湾のフォックスコン社が計画投資省 とのあいだで50億㌦の投資枠組に合意し,同月中にバクニン省で 1 億6000万㌦相 当の電子部品製造工場の操業を開始した。不動産分野では,韓国のケアンナム・
グループや日本のリビエラ・グループによる高級アパート・ホテル等複合施設の 建設(各 5 億㌦)といった大型投資案件が相次いだ。また,年末にはマレーシアの ガムダによる20億㌦相当の都市型公園建設プロジェクトが認可されたと報じられ た。
国別では,韓国からの投資拡大が著しく,新規投資では同国からの投資が登録 資本金額44億6315万㌦(405件)で最大となった。また,1988年から2007年の累積 でみても,韓国の投資総額が135億㌦(1837件)に達し,従来首位であったシンガ ポールを抜いて最大の投資国となった。
企業活動の活発化・多様化
WTO 加盟後,国有企業は原則的には国内民間企業や外国企業と同等の条件で 市場競争を戦うことになった。国有企業改革では,これまでなかなか進まなかっ た大規模企業の改革に進展があった。 5 月末にはバオベト保険がハノイ証券取引 センターで新規株式公開(IPO)し,バオベト保険金融集団に再編された。また,
12月末には延期を重ねていたベトナム外商銀行(Vietcombank)の IPO が,ホー チミン証券取引所で実現した。国有商業銀行の IPO はこれが初となる。後述の ように,大規模国有企業の IPO については, 3 月以降の株価低迷を背景にスケ ジュール調整の議論が繰り返され,IPO 実施は計画通りには進まなかった。とは いえ,株式市場への上場を通じて国有企業の競争力強化を図ろうという改革方針 が漸く具体的な動きとして現れ始めたという点で,国有企業改革の新たな一歩が 踏み出されたといえよう。総公司の企業集団化では,上述のバオベト保険金融集 団のほか,ゴム産業集団が設立され,企業集団は計 8 集団となった。2006年に設 立されたベトナム郵政・通信集団(VNPT)については,郵便部門を分離してそこ への民間・外資の参入を認めることが決められていたが,12月末にベトナム郵政 総公司(Vietnam Post)の2008年初設立が正式に承認された。
さらに,国有企業の競争力強化においては,外資との資本・経営面での協力が 重要な方策のひとつとなりつつある。そうした実態を踏まえ, 6 月に出された国 有企業改革に関する政府議定109号では,外国企業が株式化対象の国有企業の「戦 略投資家」となり,長期的な協力・提携関係を結ぶことが認められた。なお,同 議定は2004年に出された株式化規則(政府議定187号)に代わるものであり,株式 化対象となる国有企業の範囲拡大や,株式化対象企業の資産価値算定方法に関す る具体的規定など,国有企業改革に関する重要な変更を多く含んでいる。
国有企業の国家資本を国家資本投資経営総公司(SCIC)へ移管する動きも進ん でいる。 紙(2007年12月 8 日付)によると,12月時点で国家資本 を有する800企業の国家資本20億㌦相当が SCIC の管理下に置かれている。
WTO 加盟に伴い自由化が進みつつあるサービス部門では,国有・民間の別や 業種を越えた多様な企業活動が活発化した。銀行分野では, 4 月 1 日から100%
外資の銀行支店設立を容認するという WTO 加盟時の合意もあって,100%外資 銀行の新規設立申請が相次いだ。国家銀行は年末までにスタンダード・チャータ ード銀行や香港上海銀行など 6 行から申請を受けている。ただし,設立承認には さまざまな条件が課されており,2007年内に承認を受けた銀行はなかった。一方,
国内銀行の新規設立申請も活発化し,ベトナム石油・ガス集団(PetroVietnam)
やバオベト保険など異業種企業が銀行分野参入の意向を示した。新銀行設立の気 運が高まるなか,国家銀行は 6 月に株式商業銀行の設立および操業に関して規定 を定め,資本金など具体的な設立条件を示した。
航空分野では, 4 月にオーストラリアのカンタス航空がパシフィック航空の株 式の30%を取得するという動きがあった。外国企業の航空分野への参入はこれが 初めてとなる。また,12月には,ベトナム初の民間航空会社となるべトジェット 航空の運航が許可され,ベトナムの航空会社は,ベトナム航空,パシフィック航 空,ベトナム・エア・サービス(VASCO)と合わせて 4 社となった。
流通分野では, 5 月に出された流通事業ロードマップで,2009年 1 月から100
%外資の流通業者の国内操業が可能となる見込みが示された。自由化の進展を控 え,国内流通業界では国有・民間企業間での連携による再編が行われた。 5 月14 日,フータイ・グループ,サイゴン貿易総公司(Satra),ホーチミン市商業合作 社連合(Saigon Coop),ハノイ商業総公司(Hapro)の 4 社が合弁で,国内最大の 流通業者となる,ベトナム流通ネットワーク投資開発株式会社(VDA)を設立し た。また,10月には,小売業界の競争力強化を狙い,約130の小売関係業者の参
加のもと,ベトナム小売業協会が設立された。
貿易自由化の動向
貿易自由化にもさまざまな動きがあった。WTO 加盟に伴い,これまで高関税 が維持されてきた品目について大幅に関税が引き下げられた。特に自動車新車に ついては,WTO 加盟公約以上の減税が実施された。新車輸入関税率は 1 月11日 の WTO 加盟と同時に引き下げられたが(90%→80%),その後 8 月(70%)と10月
(60%)にも減税が実施された。減税実施が一因となり,2007年に入って自動車需 要は急拡大し,年間販売台数は 8 万台を越えた。また,年間完成車輸入台数も前 年比123%増の 2 万8000台と大幅に増加した。一方で,輸入車減税はこれまで保 護政策に守られてきた国内メーカーからの反発や交通渋滞の悪化などをまねいて おり,政策調整は難しい局面が続きそうだ。
ベトナム第 2 の輸出品である繊維・縫製品は,WTO 加盟に伴ってアメリカ向 け輸出に課されるクオータが撤廃されることになった。しかし,アメリカ商務省 がクオータ撤廃の代わりにダンピングの監視を目的としたモニタリングシステム を導入したため,対米輸出は新たな困難に直面した。ベトナム側では,ダンピン グと誤解されるような製品を輸出しないため, 2 月末,商業省と工業省が国内繊 維縫製品輸出業者に対して,対米輸出繊維縫製品の一部について一時的に輸出ラ イセンスの取得を義務づけ,輸出数量や価格の監視を開始した( 6 月末にライセ ンス取得の義務づけは解除)。ベトナム繊維縫製品協会(VITAS)はモニタリング システムの縮小・廃止を求めてきたが,アメリカ商務省は2008年末まで監視を続 ける意向を示している。こうした困難に直面しつつも,2007年の対米繊維縫製品 輸出は前年比30%を越える拡大をみせた。しかし,対米輸出にダンピング・リス クがつきまとうことから,ベトナム縫製品企業のあいだでは輸出先を EU や日本 に多様化する動きも生じた。
2007年は,各国との自由貿易協定(FTA)締結に向けた動きも活発化した。 1 月,
ベトナムと日本との間で,経済連携協定締結に向けた交渉が開始された。 6 月に は,ASEAN 韓国 FTA が発効し,韓国からの輸入品に対する段階的関税引き下 げが始まった。さらに, 6 月のチェット大統領訪米の際には,アメリカとの間で FTA 締結の前提となる越米通商投資枠組協定(TIFA)が締結された。12月に開 催された TIFA 第 1 回評議会では,農産品等の貿易自由化について議論が交わ された。
過熱が一段落した証券市場と金・不動産市場の動き
証 券 市 場 は2007年 も 成 長 を 続 け, 上 場 企 業 数 は ホ ー チ ミ ン 市 証 券 取 引 所
(HOSE)で141社(うち,3 社が投資ファンド),ハノイ証券取引センター(HASTC)
で112社となった。 誌(2008年 1 月号)によると,両市 場の時価総額は GDP の40%を超えた。
制度面でも証券市場を安定的な取引の場とするための整備が進んだ。 1 月には 証券法が施行され,株式の公募・上場や,株式市場取引にかかわる違反行為への 行政処分など,一部条項について施行細則が出された。 5 月には,ホーチミン市 証券取引センター(HSTC)をホーチミン市証券取引所(HOSE)に改組することが 決められた。国家証券取引委員会の直属機関であった HSTC は,HOSE に改組後,
政府直属の有限会社となり,証券法や企業法に基づいて活動することになった。
一方,市場動向をみると,前年半ばから続いた過熱状態は 3 月以降,沈静化し た。HOSE の株価指数である VN インデックスは前年から続く急騰で 3 月中旬に 1170.67㌽ まで上昇したものの,それ以降は900から1100㌽ の間での変動に留まっ た。年を通じて株価が低く抑えられた主要因は, 5 月末に国家銀行が株式購入資 金融資に対する規制を強化したことと考えられる(国家銀行指示 3 号)。民間商業 銀行の証券担保融資を貸付残高の 3 %以内に抑えることが決められ,多くの投資 家が融資返済のために短期間で株式を売却せざるを得なくなった。また,2009年 施行予定の個人所得税法において証券投資収益への課税が決められたことが,投 資家心理を萎縮させたという見方もある。
こうした要因が影響してか,上半期に新規株式公開(IPO)を行ったフーミー肥 料やバオベト保険といった大規模国有企業の株価は伸びず,IPO で期待したほど の成果を挙げることができなかった。年後半には Vietcombank など大規模国有 商業銀行の IPO も予定されていたが,株式の大量供給によって株価が低く抑え られることや資金が十分に集められないことへの懸念が強まり, 7 月には国有商 業 銀 行 を 含 む 大 規 模 国 有 企 業 の IPO を 延 期 さ せ る 首 相 指 示 が 出 さ れ た。
Vietcombank は,年初に株式化コンサルタントを決め, 7 〜 8 月の IPO を予定 していたが,実際の IPO は12月末になって漸く実現した。
証券市場の低迷の一方で,金および不動産市場は活性化した。金市場では国際 価格の上昇を背景に,年初から変動を伴いつつも金価格上昇が続き,価格が低迷 した株式に代わる投資先として魅力が高まった。国際価格上昇に加えて国内金市 場での取引活発化により,金価格指数は年間27.35%(前年12月比)も上昇した。
不動産市場では,前年の株価急騰で利益を得た投資家の不動産投機熱の高まりや 外国直接投資の急増により不動産需要が急拡大した。旺盛な需要に対して供給が 追いつかず,不動産価格は急騰した。ハノイ,ホーチミンの両市では,実態に合 わせ2008年初からの土地公示価格引き上げが決められた。
インフレの進行
外貨流入の急増や活発な企業活動に支えられて経済が活況に沸いたなか,政府 にとって頭の痛い問題となったのがインフレである。消費者物価指数は年初から 上昇し続け,年間上昇率は12.63%にも達した。特に上昇が著しかったのは,食糧・
食料品(18.92%)と不動産・建設資材(17.12%)であった(図 1 )。物価高騰の要因 には次のような点が挙げられる。
第 1 に,度重なる自然災害や家畜の疫病の発生である。年半ばから後半にかけ て中部地方を中心に襲った大規模な台風・洪水や,年初からの鳥インフルエンザ 再発,年半ばの豚青耳病の発生といった家畜疫病の蔓延が,食品価格の上昇圧力 となった。第 2 に,電力価格等の引き上げが実施されたことがある。WTO 加盟 による輸入関税率の引き下げが物価下落に影響するとの予測もあった 1 月,前年 から据え置かれていた電力価格の引き上げや,電気,製紙,肥料,セメント産業 に対する石炭価格の値上げが実施された。第 3 に,経済発展に伴い製造業を中心 に原材料需要が拡大するなか,ガソリン,鉄鋼,ガス,小麦など輸入に依存して いる原材料の国際価格が軒並み上昇したことがある。ガソリンについては,政府 は 4 月から国内小売業者の自主的な価格設定を条件付きで認めたものの(政府議
(出所) 統計総局(http://www.gso.gov.vn)。
図1 2007年の消費者物価指数の推移(対2006年12月比)
120 118 116 114 112 110 108 106 104 102 100
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
消費者物価指数 うち 食糧・食料品 不動産・建設資材
定55号), 8 月にはガソリン輸入業者や小売業者に対してガソリン小売価格の引 き下げを義務付ける財務省決定を出すなど,価格急騰を抑えるための管理を続け ていた。しかし,11月には国際価格の高騰に応じて,政策的にガソリン価格の引 き上げが実施された。さらに,外国投資,援助,送金など外貨流入の急増に対し,
急激なドン高を回避するために政府が行ったドン売りドル買い介入が,ドンの流 動性膨張を引き起こし,インフレを後押しする結果となった。
インフレ抑制は,対外開放・輸出振興を図りながらの難しい舵取りとなった。
5 月末,国家銀行は通貨流通量を抑制するため,支払準備率の引き上げを決定し た。また, 8 月以降,食料品など一部品目の輸入関税率の一時的引き下げや国債 発行が実施され,一時は物価上昇の勢いが弱まったかにみえた。しかし,年末に かけて物価上昇は勢いを増し,政府はさらなる対応に迫られた。12月末には,国 内価格が高騰する乳製品等の輸入関税率の一時的引き下げが決められた。また,
国家銀行は年内 2 度目の外貨管理規制の緩和に踏み切った。クローリングペッグ 制を採用するベトナムは,輸出競争力強化を目的として,対ドル為替レート許容 変動幅を小幅で固定し緩やかなドン安基調の維持に努めてきた。一方,流動性膨 張を抑えるためには一層のドン高を許容せざるを得ない。国家銀行は2006年末の 決定に基づき, 1 月 2 日に対ドル為替レート許容変動幅を0.25%から0.5%に引 き上げていたが,12月24日にはさらに0.75%までの引き上げを容認した。
結局,こうした金融・為替政策等は十分な成果を挙げることができず,インフ レ抑制は次年度に持ち越しの課題となった。物価が上昇し続けるなか,11月には,
前年に引き続き共通最低賃金を引き上げることが決定された。 (荒神)
対 外 関 係
国連安保理非常任理事国に選出される
2007年10月16日,第62回国連総会でベトナムは国連安保理非常任理事国に選出 された。非常任理事国の選出は総会に出席しかつ投票する構成国の 3 分の 2 の多 数によって行われるが,ベトナムは同じアジア・アフリカ地域から立候補したブ ルキナファソの185票には及ばなかったものの,出席した190カ国のうち183カ国 から賛成票を得て承認を獲得した。ベトナムではこの選出を国際関係の多角化,
多様化を図ってきたベトナム外交の勝利であり,祖国建設・防衛事業に対する国 際社会からの支持をより確かにするものとして高く評価している。
対中国関係
2006年 8 月のマイン書記長の訪問に続き, 4 月 8 〜 15日にチョン国会議長,
5 月15 〜 18日にチェット大統領, 9 月 4 〜 9 日にはチュオン・タン・サン党書 記局常任が相次いで中国を訪問した。ズン首相は2006年10月に ASEAN・中国対 話関係構築15周年記念首脳会議に出席するため中国を訪問しており,第10回党大 会が開かれた後ベトナムの最高 5 役のすべてが中国訪問を終えたことになる。ち なみにズン首相は ASEAN・中国投資・通商首脳会議などに出席するため2007年 10月27 〜 29日にも中国を訪問している。また 7 月28 〜 30日には両国共産党第 3 回理論会議が「社会主義経済 ・ 社会建設における科学発展,調和――理論と実践」
をテーマに中国貴州省で開催されている。
6 月にはベトナムのディエンビエン省,ライチャウ省,ラオカイ省,ハザン省 と中国雲南省との間,カオバン省,ランソン省,クアンニン省と中国広西省との 間で国境経済交流などに関する合同工作グループ設立の合意文書に調印し,11月 には在中国のベトナム企業会が設立されるなど,中央より下のレベルや政治的関 係の範疇に必ずしも留まらない動きも継続的に進行している。
しかし,12月 9 日には在ハノイ中国大使館,在ホーチミン中国総領事館の前で ベトナムが領有を主張するホアンサ諸島,チュオンサ諸島をめぐる中国の政策に 抗議するデモが発生した。中国による同国海南省下にホアンサ諸島,チュオンサ 諸島を管轄下に含む行政市を設立する動きに対して,抗議を行ったものと考えら れる。12月30日にはラオカイ省と中国の国境地域における国境標識設置作業の終 了を祝う式典が開催されており,陸上国境の整備作業は着実に進展している。し かし,ホアンサ諸島,チュオンサ諸島をめぐる問題は引き続き両国間の懸案事項 となろう。
対アメリカ関係
2007年,対アメリカ関係は人権問題と通商関係を軸に推移した。
人権問題については2007年 4 月24日にベトナム外務相補佐官ファム・ビン・ミ ンがアメリカ国務省と人権について意見交換を行った。2007年 4 月27日付
紙によれば,ベトナム側は対話のなかでベトナム国民の基本的権利・自由 の保護と推進の状況について説明を行ったとのことである。
しかし,ベトナムの人権状況に厳しい態度をとり続けているアメリカ下院はベ トナムの人権政策の改善とリー神父(「国内政治」の項参照)を含む政治囚の釈放を
求める決議を可決している。これに対しベトナム外務省は 5 月 3 日,他国の内政 に干渉するものとして抗議している。
10月21日〜 11月 1 日には,アメリカのライス国務長官にベトナムを宗教に関 する特別関心国リストに再び入れることを提案したアメリカ国際宗教自由委員会 の訪問団が来訪した。同委員会訪問団はリー神父が在住してきたフエ,そして 2001年と2004年に少数民族による抗議行動が起きたダクラク省,ザーライ省の地 方政府幹部たちとも会った模様である。ベトナム側はズン首相も同代表団と会談 するなど,訪問団の調査 ・ 視察に協力的なスタンスを示すことで,アメリカ側の 理解を得ようとしたものと思われる。
通商関係では,チェット大統領が 6 月18 〜 23日にアメリカを訪問し,越米通 商投資枠組協定に調印したほか,11月 4 〜 8 日にはグティエレス ・ アメリカ商務 省長官が来訪した。そして有力企業家の訪問も相次いだ。 4 月のビル ・ ゲイツ・
マイクロソフト会長の訪問に続き 5 月にはスティーブ・バルマー同社最高経営責 任者(CEO)が来訪し,同社ソフト「Office」の使用権をベトナム政府に提供する 合意文書に調印した。 9 月にはゼネラル・エレクトリック社のジェフリー・イメ ルト CEO,10月にはモルガン・スタンレーのジョン・マック CEO が来訪し,ビ ジネス拡大に向けて動きをみせている。
対日本関係
5 月の中国訪問, 6 月のアメリカ訪問に続いて2007年11月25 〜 29日にチェッ ト大統領は日本を訪問した。その際,日越関係のさらなる深化に関する共同声明 を出し,44の項目からなる「日越間の戦略的パートナーシップに向けた協力プロ グラム」に基づく関係強化で合意した。
1 月16日の第 1 回会合以降,日越経済連携協定締結に向けた交渉が開始されて いる。 紙(2007年12月 7 〜 8 日付)の報道によれば,
12月に開かれた援助国会合で約束された過去最高の支援額54億2600万㌦のうち,
日本は11億1120万㌦という支援国中最高額の支援を約束した。対日関係は経済・
援助分野,対中国をめぐる問題の共有という側面で重要な位置を占めている。
対近隣諸国関係
チェット大統領が 2 月 5 〜 7 日と 2 月27日〜 3 月 1 日,チョン国会議長が 4 月 23 〜 28日にかけて,それぞれラオス,カンボジアを訪問した。サン党書記局常
任も 7 月にラオスを訪問しており,外交関係樹立45周年を迎えたラオスについて は中国と同様に2006年の第10回党大会後ベトナム最高 5 役の全員が訪問を終えた ことになる。
ベトナム,ラオス,カンボジア 3 国の関係については, 3 月にはベトナム・ラ オス・カンボジアの「発展の三角地域」の属するコントゥム省,アッタプー県(ラ オス),ラッタナキリー州(カンボジア)代表が国境にかかわる規則,法律に対す る理解向上を通した国境地域の安全・秩序保全のための継続的協力などに関する 覚書に調印した。 6 月12 〜 15日には 3 国間の国境設置点確定に関する 3 国専門 家会合の第 1 ラウンドが開始されている。また, 2 国間単位の国境画定交渉も継 続的に行われた。ベトナム国内でも「発展の三角地域」に関する対応が進み, 3 月にはズン首相が同地域に関するベトナムの調整委員会設立を決定した。
婦女・児童売買防止への取り組みも含め, 3 国間の国境にかかわる問題での協 力深化はベトナムにとって引き続き重要な外交課題のひとつになると考えられる。
2006年12月に予定されていた ASEAN 首脳会議が延期されたことにより,2007 年にはフィリピン( 1 月),シンガポール(11月)の 2 度にわたって同首脳会議と関 連会合が開催されたが,ズン首相はともに出席した。 8 月 8 〜 16日にはインド ネシア,フィリピン,シンガポール,ミャンマー,ブルネイを歴訪, 8 月30日〜
9 月 1 日には独立50周年を迎えたマレーシアを訪問している。
シンガポールとの関係ではリー・クアン・ユー顧問相( 1 月16 〜 20日),ゴー・
チ ョ ク・ ト ン 上 級 相(12月10 〜 15日 )が 来 訪 す る 一 方, 同 国 で 開 催 さ れ た ASEAN 首脳会議を含め,ズン首相が2007年に 2 度もシンガポールを訪問するな ど,高いレベルでの頻繁な交流が目立っている。
その他の動き
ズン首相は 7 月 4 〜 7 日までインドを訪問した。そして「越印戦略的パートナ ーシップに関する共同宣言」ほか 7 つの文書に調印している。隣国中国とは体制 を同じくし基本的には現在良好な関係にある。しかし,ベトナムにとって歴史的 に潜在的な脅威であることに変わりはなく,南アジアの大国インドとの関係緊密 化は安全保障上の観点からも意義を持つ。
東アジアとの関係では,マイン書記長が10月16 〜 18日に朝鮮民主主義人民共 和国(北朝鮮),11月14 〜 16日には韓国を訪問したことが注目される。韓国訪問 の際には21世紀における全面的パートナーシップの強化で合意した。
欧州との関係では,ケーラー・ドイツ大統領( 5 月21 〜 23日),バローゾ欧州 委員会(EU)委員長(11月25 〜 27日)が来訪した。EU とは,パートナー ・ 協力協 定締結交渉の正式開始で合意している。ズン首相は 9 月29日〜 10月 3 日にフラ ンスを訪問し,エアバス計30機の購入契約調印などに立ち会った。また故ホー ・ チ ・ ミン主席所縁の場所を訪れるなど,旧宗主国との関係は根強いものがある。
アフリカ,中東との関係では,ムベキ南アフリカ大統領( 5 月23 〜 25日),サ バーハ・クウェート首相( 5 月23 〜 25日),マクトゥーム・アラブ首長国連邦副 大統領・首相( 9 月 4 〜 5 日)らが来訪,南アフリカと外交・公用旅券所有者査証 免除協定,クウェートと投資奨励・保護協定を締結するなど,交流が進められた。
ラテンアメリカとの関係ではマイン書記長が 5 月24日〜 6 月 4 日にチリ,ブラジ ル,ボリビア,ベネズエラ,キューバを歴訪している。 (寺本)
2008年の課題
2007年には党の機構改革や政府 ・ 国会機構の改造などの動きがあった。多くの 機関を統合した結果,巨大官庁,組織が誕生した。多くのセクションを抱え込む ことになるこうした巨大官庁・組織が効率的に機能するためには,全体の調整を つかさどる官房系組織の機能強化など,さまざまな工夫が必要となる。
経済面では,WTO 正式加盟国となった2007年も高成長が維持されたことで,
国際経済におけるベトナムへの関心が一層高まっていくと考えられる。2008年も 国際経済参入下で高成長を達成するために,引き続き WTO 加盟条件の履行やそ のための法整備を着実に進めていく必要があるだろう。一方で,マクロ経済には インフレや貿易赤字といった不安定要因が現れており,安定化に向けた対応が求 められる。また近年,貧困地域での自然災害被害が深刻化しており,脆弱地域お よび住民への経済的・社会的サポートの充実も無視できない課題である。
対外関係においては,引き続き安定した環境で経済開発をはじめとする諸課題 に取り組み,経済交流の拡大を図るため,大国との関係のバランスを図りつつ近 隣諸国との関係維持・強化に努め,多方面外交を継続することが求められる。
(寺本:地域研究センター)
(荒神:地域研究センター)
1 月10日▲ ズン首相,2007〜2010年国家管理 領域の手続簡略化案の承認を決定。
11日▲ WTO に正式加盟。
12日▲ ズ ン 首 相, 第12回 ASEAN 首 脳 会 議ほか関連会議に出席(セブ,〜15日)。
15日▲ 第10期第 4 回党中央委総会,開催(〜
24日)。
16日▲ ベ ト ナ ム と 日 本, 経 済 連 携 協 定
(EPA)に向けた交渉を開始。
▲ 党政治局,故ホー・チ・ミン主席の模範 道徳にしたがった学習と仕事運動中央指導委 員会設立決定を公布。
▲ ズン首相,鳥インフルエンザ対策で制圧 を中心的,未曾有の任務と位置づける公電。
▲ リー・クアン・ユー・シンガポール顧問 相,来訪(〜20日)。
19日▲ 国会事務局,現在のドイモイ事業に おける1946年憲法の政治的,法理的価値の発 揮に関するワークショップを開催。
▲ 政府,2007年の社会経済および国家財政 に関する計画の実行について決議。
25日▲ ズン首相,イタリアを訪問。26〜27 日にはスイスでダボス会議に出席。
26日▲ 党政治局,第12期国会代表選挙の指 導について指示。
29日▲ チェット大統領,ILO 強制労働協定 に調印。
2 月 1 日▲ 汚職防止 ・ 取締り中央指導委員会 事務局の設立決定を公布。
▲ 政府宗教委員会,外務省,「ベトナムの 宗教と宗教政策」と題する白書を公表。
2 日▲ タインチ橋,開通(ハノイ市)。
5 日▲ チェット大統領,ラオスを訪問(〜
7 日)。
6 日▲ 国家銀行,法人組織のドル預金に対 する利子率制限を撤廃。
8 日▲ 党事務局,大統領府事務局,国会事 務局,政府官房の工作協力規則に調印。
9 日▲ ズン首相,インターネットを通じて 国民と直接対話を実施。
12日▲ 政府,外国企業の物品購入・販売活 動に関する議定。
14日▲ 政府,法人所得税法実施に関して議 定。
27日▲ チェット大統領,カンボジアを訪問
(〜 3 月 1 日)。
▲ 政府,WTO 加盟後の経済発展に向けた 行動計画を公布。
28日▲ 商業省と工業省,アメリカ向け繊 維・縫製品輸出の監視について合同通知。
3 月20日▲ 第11期第11回国会,開催(〜 4 月 2 日)。国会組織法修正法案などを可決。
23日▲ アメリカへの繊維・縫製品輸出ク オータ割当に絡む汚職事件で逮捕された元商 業省常任次官に対し,懲役14年の判決。
30日▲ 反国家宣伝の罪を問われたグエン・
ヴァン・リーに懲役 8 年の判決。
▲ 党書記局,党支部活動の質向上を指示。
4 月 6 日▲ 政府,ガソリン取引に関する議定。
国内小売業者の市場動向に基づいた自主的な ガソリン価格設定を条件付きで容認。
8 日▲ チョン国会議長,中国訪問(〜15日)。
11日▲ アイン公安相,人民警察における居 住法の執行について指示。
▲ 党政治局,党主要機関の整理・再編につ いて決定。
13日▲ 党政治局,奨学,才能奨励,学習社 会の建設工作に対する党の指導強化に関する 指示を公布。
16日▲ 財務省,2006〜2010年の共通効果特 恵関税(CEPT)税率の修正・補足を決定。
20日▲ 政府,外国投資家によるベトナムの