• 検索結果がありません。

株主債権の劣後的取扱いの機能について

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "株主債権の劣後的取扱いの機能について"

Copied!
90
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

株主債権の劣後的取扱いの機能について

著者 増田 友樹

雑誌名 同志社法學

巻 66

号 5

ページ 1523‑1611

発行年 2015‑01‑31

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000015222

(2)

    同志社法学 六六巻五号二三五一五二三

           

                                    

(3)

    同志社法学 六六巻五号二三六一五二四    Recharacterization                                                     

第一章  検討の視点

  本稿は、株主債権の劣後的取扱いが具体的にどのような機能を有するのか、また、実際にどの程度事案の解決に役立

(4)

    同志社法学 六六巻五号二三七一五二五 ってきたのか、を明らかにしようとするものである。

  株主債権の劣後的取扱いとは、会社倒産手続において、株主の会社に対する債権を他の一般債権者の債権よりも劣後的に取り扱うことをいう 1

。わが国では、倒産法 2

や会社法 3

の分野において、支配株主の債権の劣後的取扱いに関する立法化が検討されたが、要件や対象範囲が不明確である、親会社による資金の引上げを助長するおそれがあるとの指摘がされており、現在のところ立法化には至っていない 4

。また、株主債権の劣後的取扱いが争われた下級審裁判例もいくつか存在するが 5

、実務上は、支配株主からの債権の届出自体が少なく、届出がされたとしても、管財人の勧告で取り下げられることが多いようである 6

  株主債権の劣後的取扱いについて、会社法学では、実体法上、法人格否認の法理の適用による効果の一つとして説明される。法人格否認の法理が適用された場合に、会社の金銭債務の株主への拡張(以下、本稿ではこれを﹁債権者の株主に対する直接請求﹂と表現する)のほかに、株主債権の劣後的取扱いの効果も認められるというものである 7

  倒産法学では、民事再生法一五五条一項但書、会社更生法一六八条一項但書を根拠に、再生計画や更生計画において、衡平を害しない場合には、同一の債権であっても異なる取扱いができることが認められるといった説明がされる 8

  もっとも、わが国のこれまでの研究は、第二章で詳しく見るように、株主債権の劣後的取扱いをどのような法的根拠や要件に基づいて認めるのかという検討が中心であった。それらの研究は、衡平や平等といった道徳的な観点からの検討であったり、単に要件を挙げるだけで具体的な問題状況との結びつきを説明しない。そのため、なぜ株主債権が劣後的に取り扱われなければならないのか、株主債権の劣後的取扱いがどのような問題状況を解決するのかということについては、なお明らかにはされてこなかった 9

  本稿では、このような問題意識を前提に、次のような順序で検討を行う。

(5)

    同志社法学 六六巻五号二三八一五二六

  第二章では、わが国の従来の研究を整理する。従来の研究が株主による貸付けという状況にどのような問題意識を持っていたのか、そして、株主債権の劣後的取扱いにどのような機能を期待していたのかといった点を整理し、明らかにしたい。

  第三章では、株主債権の劣後的取扱いに関するアメリカの議論を検討する。

  第四章では、第二章・第三章の検討から導き出された問題意識や株主債権の劣後的取扱いに期待される機能について、それらが理論的に適切であるかどうかを検討する。

  第五章では、第四章での検討を前提に、実際にアメリカで問題となった事案を通じて、株主債権の劣後的取扱いがどの程度事案の解決に役立ってきたのかを検証する。

  第六章は、結語である。

第二章  株主債権の劣後的取扱いに関する従来の研究

  本章では、株主債権の劣後的取扱いに関する従来の研究を整理することで、株主債権の劣後的取扱いにどのような機能が期待されていたのかを明らかにする。

第一節  倒産法分野における研究

  倒産法分野における研究は、株主債権の劣後的取扱いを衡平・平等の観点から説明し、要件や範囲を明確にすることを目的とするものが多い。ただし、松下淳一は、より具体的な問題状況と株主債権の劣後的取扱いを結びつけて分析す

(6)

    同志社法学 六六巻五号二三九一五二七 る。そこで、本節では、松下以外の研究について検討した後に、松下の研究について検討する ₁₀

一  奥山  恒朗

  奥山恒朗は、法人格否認の法理の要件を検討するなかで、支配株主が会社に対して資金の貸付けを行うことによって、倒産時に他の債権者と同等に扱われること自体を問題にする ₁₁

。そして、奥山は、どのような場合が問題になるのかということについて、道具性と株主の債権者詐害の害意を挙げる ₁₂

  後者の株主の債権者詐害の害意とは、奥山によると、﹁会社業務の失敗の危険あるべきことを予想しこの場合に自己の損害を他の債権者に分担させあるいはその全部を負担させることを企図すること﹂とされる。そして、このような害意の存在は、過少資本状況であったり、担保権が設定されている場合には、比較的容易に認められると説明されている ₁₃

  以上のことから、奥山は、事業が失敗するリスクを認識しながら、株主が貸付けを行うことによって、リスクを他の債権者に転嫁することを問題視していると思われる。

二  伊藤  眞

  伊藤眞は、倒産時にどのような場合が不公平なのかということについて、経営者の会社に対する貸付金債権や親会社の子会社に対する貸付金債権を他の一般債権者と平等に取り扱う場合を挙げる。その理由として、経営者の貸付けは、一種の追加的資本投下とも見られるので、一般の債権者とは異質な性格をもっているからであるとされる ₁₄

  次に、このような問題意識のもとで、伊藤は、﹁どのような具体的事情をどの法的効果と結びつけるのか﹂を検討す

(7)

    同志社法学 六六巻五号二四〇一五二八

るために、アメリカにおける株主債権の劣後的取扱いの事案から具体的な要件を列挙する。そこでは、子会社の利益が親会社のために犠牲にされていること、劣後的取扱いを主張される債権者が倒産企業に損害を与えたこと、忠実義務に違背したこと、過少資本による経営が紹介されている ₁₅

。もっとも、伊藤は、この四つの要件が、なぜ株主債権の劣後的取扱いに結びつくのかを具体的に説明しない。

三  上原  敏夫

  上原敏夫は、会社債権者の保護手段として、ドイツにおける資本代替的社員貸付に関する議論を紹介する。なぜ株主による貸付けが劣後的取扱いをされなければいけないのかという問題について、上原がどの考え方によって立つのかは不明であるが、大きく二つの考え方が紹介されている。すなわち、支払能力に対する信頼の保護、株主と貸主という二重の役割を濫用して外部債権者に危険を転嫁することへの対処、である ₁₆

  これら二つを具体的にみていくと、支払能力に対する信頼とは、﹁社員貸付によって会社に支払能力ありという外観が生ずること﹂とされる ₁₇

  また、株主と貸主という二重の役割を濫用して外部債権者に危険を転嫁することへの対処については、﹁株主は企業家としての成功の可能性を保持しつつ、貸付の形式を選択することによって出資に伴う危険を避けようとすること﹂が根拠とされる ₁₈

  さらに、上原は、単に株主による金銭の貸付けだけでなく、会社施設等の賃貸借にも言及する。この場合には、会社が倒産しても、株主は取戻権を行使できることから、他の債権者に優先して当該資産を回収することができる。上原は、これについて、取戻権を否定すべき理由として、﹁社員が金銭を貸し付けて会社に施設を購入させることと、社員が施

(8)

    同志社法学 六六巻五号二四一一五二九 設を購入して会社に賃貸することは、⋮経済的実質が同一である﹂という考え方を紹介する ₁₉

  他方で、上原は、そのような取戻権を否定すべきでない理由として、﹁施設の賃貸は、目的物の所有権を資本として提供するものではなく、会社が支払能力を有するかのような外観を作り出しはしない﹂との考え方を紹介する ₂₀

  以上のことから、上原は、株主の貸付けにより、会社債権者が会社に支払能力があると誤信してしまうこと、株主の貸付け(および会社施設の賃貸借)により、株主が他の一般債権者に危険(リスク)を転嫁することを問題にしていると思われる。

四  畑  宏樹

  畑宏樹は、倒産時における﹁債権者間の実質的平等を図るための有効な一手段﹂として、株主債権の劣後的取扱いを主にアメリカの事案を通じて検討する。

  畑は、株主債権の劣後的取扱いが認められる要件として、過少資本、不当搾取、信認義務違反など様々な要件を﹁不衡平な行為﹂として挙げる ₂₁

。また、別の論文では、これらの要件とは異なり、偏頗弁済が株主債権の劣後的取扱いの要件とされる ₂₂

  もっとも、畑は、このように多くの要件を抽出しているが、株主債権の劣後的取扱いがどのような役割を果たしているのかという観点からの分析は行っていない。

五  倉部  真由美

  倉部真由美は、支配株主の債権について、倒産時にその債権を行使することが必ずしも適切ではなく、より実質的な

(9)

    同志社法学 六六巻五号二四二一五三〇

平等の確保を図ることが求められる場合もあり、株主債権の劣後的取扱いの基準や要件を明確にする必要があるとする ₂₃

  そこで、倉部は、アメリカの事案を通じて、株主債権の劣後的取扱いが﹁どのような要件﹂で認められたかを検討する。そして、株主債権の劣後的取扱いが認められる要件として﹁不衡平な行為﹂、より具体的には、過少資本、不当搾取 ₂₄

、詐欺、道具性が指摘されている ₂₅

  さらに、倉部は、﹁不衡平な行為﹂が認定されない場合であっても、株主の﹁債権﹂を﹁出資﹂と認定する﹁

re ch ar ac te riz at io n

﹂を紹介する。そして、倉部は、この

re ch ar ac te riz at io n

を判断する要素として、一三個のファクターを挙げる ₂₆

。しかしながら、具体的にそれら一三個のファクターが会社債権者との関係でなぜ問題なのか、また、なぜ株主債権の劣後的取扱いではなく、

re ch ar ac te riz at io n

が用いられるのかは説明されていない。

六  松下  淳一

  松下淳一は、これまで紹介した研究と異なり、具体的な問題状況と株主債権の劣後的取扱いの関係を検討する。

  松下は、株主債権の劣後的取扱いが認められる要件として、アメリカの事案を通じて、大きく二つの要件をあげる。

  第一が、過少資本である。松下は、過少資本の場合には、株主債権の劣後的取扱いを用いることで、リスクを株主に再配分することができると述べる ₂₇

  第二が、不当搾取である。松下は、親会社への配当や支配株主との取引条件が問題となった事案を紹介し、具体的な損害額の立証が特になされない場合でも、株主債権の劣後的取扱いを用いることで、株主への配当による会社財産の減少を防止しうることから、その意味で﹁債権者に対する簡易な救済﹂として機能していると述べる ₂₈

(10)

    同志社法学 六六巻五号二四三一五三一   以上のとおり、松下は、株主債権の劣後的取扱いの機能を、過少資本の場合にはリスクの再分配、不当搾取の場合には簡易な救済手段として理解していると思われる。

第二節  会社法分野における研究

  会社法分野における研究は、株主債権の劣後的取扱いそのものを対象とするのではなく、法人格否認の法理や過少資本との関係で、株主債権の劣後的取扱いを紹介する。

  法人格否認の法理と株主債権の劣後的取扱いについては、江頭憲治郎による包括的な研究が存在する。そこで、江頭の研究について検討した後で、その他の研究について検討する ₂₉

一  江頭  憲治郎

  江頭は、法人格否認の法理の要件が不明確であるとの認識から、より具体的に、企業危険を負担するとして誰がどれだけひきうけるのかといったことを細かく考える必要があるとする。そして、株主有限責任の前提として、一定額の﹁資本の拠出﹂と﹁資本の維持﹂を通じての引受が要求されると述べる ₃₀

  様々な法人格否認の事案が存在するなかで、江頭は、﹁過少資本﹂・﹁財産移転(本稿では不当搾取とよんでいるもの)﹂という類型における法人格否認の典型は、債権者の株主に対する直接請求であると述べたうえで、その亜型として、株主債権の劣後的取扱いが存在しており、それは、会社債権者全体の保護法理であると述べる ₃₁

。そして、江頭は、株主債権の劣後的取扱いと債権者の株主に対する直接請求では救済範囲が異なると指摘した上で、それぞれ区別して検討する。

  江頭は、アメリカの

D ee p R oc k

事件 ₃₂

を取り上げて、﹁過少資本﹂のみで株主債権の劣後的取扱いが認められた事案と

(11)

    同志社法学 六六巻五号二四四一五三二

評価する ₃₃

。もっとも、なぜ過少資本が問題となるのかは述べられていない。

  一方で、債権者の株主に対する直接請求が認められた事案では、極端な資本枯渇を判例が要求している点は否定できないとする。そして、そのような事案は、﹁みな例外なく、過少資本が株主の手によって不動産賃貸借その他巨大な設備の賃貸借によって填補されていた場合である﹂と指摘する ₃₄

  なぜこのような場合に債権者の株主に対する直接請求が認められるのかについて、江頭は、第一に、株主による金銭消費貸借と異なり、不動産の賃貸借契約は会社を搾取する手段として使われていたと推測できること、第二に、不動産の賃貸借の場合には、会社外の第三者から賃借することもできることを挙げる ₃₅

  次に、江頭は、﹁財産移転(不当搾取)﹂もまた株主債権の劣後的取扱いの根拠となることが、

D ee p R oc k

事件以後明らかになったとする。このことについて、江頭は﹁有限責任がそこから擁護されねばならない危険﹂を明らかにするとしており、不当搾取の場合には、株主の債権者に対する忠実義務違反を指摘する ₃₆

。他方で、不当搾取の事案において、債権者の株主に対する直接請求は、あまり用いられていないことを示唆している ₃₇

  以上のとおり、江頭は、株主債権の劣後的取扱いが問題となる状況として、過少資本、そして不当搾取をあげるが、それがなぜ株主債権の劣後的取扱いにつながるのかという点については十分な説明をしていない。また、株主債権の劣後的取扱いと債権者の株主に対する直接請求の用いられ方が異なることを指摘しているものの、その理由は明らかにされていない。

二  片木  晴彦

  片木晴彦は、会社にごくわずかな自己資本しかない場合(実質的過少資本)と自己資本がわずかで残りの資金は株主

(12)

    同志社法学 六六巻五号二四五一五三三 による貸付けという形をとっている場合(名目的過少資本)に区別して検討する ₃₈

。本稿では、この二つのうち、後者の名目的過少資本状況に関する記述に焦点を当てる。

  片木は、名目的過少資本について、支配株主によって﹁会社の弁済能力を越える貸付がなされているとき﹂に、﹁会社は、見かけ上の資本額ではなしえない様な規模で事業を行﹂うことができると述べる ₃₉

  さらに、片木は、会社に貸付けをした株主は、事業の採算が悪化したときには、﹁自己の貸付金を他の債権者に先駆けて回収することができる﹂と述べた後で ₄₀

、会社が倒産した場合には、株主は債権者として、他の債権者と同じ立場で配当を受けることから、﹁支配株主以外の会社債権者は、通常以上のリスクを負担しなければならない﹂とする ₄₁

。以上の前半からは、株主に対する偏頗弁済、後半からは、支配株主が出資でなく貸付けという形をとることでリスクを回避していることが問題視されていることがうかがえる。

  片木は、以上に述べたような、会社債権者が会社の支払能力を誤信すること、株主に対する偏頗弁済、他の会社債権者に対するリスクの転嫁を、株主債権の劣後的取扱いが認められる要件として挙げているものの、論文の結論部分での規範的検討においては、主として第一のものを根拠に、株主債権の劣後的取扱いを肯定する。すなわち、貸借対照表に記載されている自己資本の額からは通常維持しきれるはずのない営業を会社が続けていることから、債権者は現実の営業規模を信頼すべきか、それとも貸借対照表上の財務構成を信頼すべきなのかを迷うために、株主は、債権者の誤信リスクを負うべきだとする ₄₂

三  齊藤  真紀

  齊藤真紀は、親会社の事実上の影響力の行使によって子会社に損害が発生した場合(齊藤はこれを不当経営と呼ぶ)

(13)

    同志社法学 六六巻五号二四六一五三四

に、子会社の債権者はいかに保護されるべきかについて検討する ₄₃

  齊藤は、子会社債権者を害する要因を﹁不当経営﹂と﹁その他の要因﹂に区別しており、後者として、過少資本、取引相手に対する信頼の惹起、会社財産の混同および業務の混同、を挙げる ₄₄

  そして、過少資本については、支配株主が﹁事業運営に実際に必要な資金は会社への貸付という形﹂で提供した場合に、﹁貸付債権が出資とみなしうる限りで、法定倒産手続において他の同順位の権利よりも劣後的に取り扱うべきであることが主張されている﹂とされる ₄₅

  齊藤は、このような主張を紹介するにとどまっているが、その後の説明で﹁事業リスクの緩衝器として適正な自己資本が装備されないまま事業が継続された結果⋮支配株主に過少資本に基づく責任を追及しうることを意味する﹂と述べており ₄₆

、株主が出資ではなく貸付けによって事業を継続することそれ自体を問題視しているように思われる。

  また、齊藤は、﹁不当経営﹂について、債権者に損害が発生した場合に、その損害を回復するための規整として、アメリカ連邦倒産法上の株主債権の劣後的取扱いを紹介する。

  そして、アメリカにおいて、この法理を援用するためには﹁不衡平な行為﹂の存在が必要であり、その不衡平な行為として、詐欺、違法行為および信認義務違反、過少資本、債務者たる会社を道具として利用すること、が問題になるとする ₄₇

。また、株主債権の劣後的取扱いが詐害的譲渡規整が認められる問題状況と類似しているとして、このような不衡平な行為は、﹁債務者の支払能力に影響を及ぼすほど財産を減少させる行為又は債務超過を助長させる行為に限定されることを示唆する﹂と述べる ₄₈

。もっとも、不衡平な行為と株主債権の劣後的取扱いがなぜ結びつくのかについては、特に説明されていない。

(14)

    同志社法学 六六巻五号二四七一五三五 四  後藤  元

  後藤元は、過少資本それ自体を問題視するのではなく、﹁インセンティブのゆがみ﹂という観点から、過少資本状況における株主の責任について検討する ₄₉

。株主債権の劣後的取扱いについては、過少資本による株主の責任に関する限度で言及されるにとどまるが、その分析は問題状況を機能的に整理しており、本稿の視点も、その分析枠組みによるところが大きい。

  後藤は、法と経済学による株主有限責任制度の弊害に関する分析をもとに、株主有限責任制度(かつ過少資本状況)のもとでは、資産代替、不法行為コストの外部化 ₅₀

が問題になると述べる ₅₁

。そして、このような問題を前提に、株主が安定的な事業を投機的な事業に転換する、また、不法行為コストを外部化するために会社の責任財産を少なくする、というインセンティブのゆがみに着目する ₅₂

  株主債権の劣後的取扱いについては、一定の場合に、株主のインセンティブのゆがみの解消という観点から説明することができるとされる ₅₃

。なぜなら、株主が貸付けとして会社に資金を拠出していたものを﹁出資﹂とみなすことで、資産代替のような、株主が投機的な事業を選択する﹁インセンティブのゆがみ﹂をある程度是正することができるからである。

  他方で、後藤は、資産代替以外の場合に、株主債権の劣後的取扱いがどのように機能しているかは不明であるとして、会社搾取や抜駆け的債権回収に対処するものとして用いられている可能性があることを指摘する ₅₄

(15)

    同志社法学 六六巻五号二四八一五三六

第三節  検討 一  従来の研究の整理

  株主債権の劣後的取扱いについて、倒産法分野における研究は、倒産手続という事後的な局面における衡平や平等の観点から株主債権の劣後的取扱いを検討しており、その前提として、株主が出資でなく貸付けを行うことそれ自体を不衡平と捉えているようである。ところが、それらの研究は、﹁なぜ支配株主が出資でなく貸付けとしてリスクを回避することが不衡平なのか﹂ということについては、具体的に説明していない。しかし、現在の会社法は、最低資本金制度や株主に対する追加出資義務を規定しておらず、支配株主が﹁貸付けでなく出資という形をとるべきである﹂とただちに考えることは難しい。また、松下淳一以外の研究は、株主債権の劣後的取扱いが問題となる状況を述べているが、株主債権の劣後的取扱いとその状況の結びつきを具体的に説明していない。衡平や平等といった道徳的な観点からの検討だけではなく、株主債権の劣後的取扱いがどのような機能を有するのかという観点からの検討を行う必要があると考えられる ₅₅

  一方で、会社法分野における研究のなかでも、特に、後藤元と江頭憲治郎は、倒産法分野における研究に比べて、株主債権の劣後的取扱いが問題となる状況をより明らかにしている。

  後藤は、過少資本それ自体が問題なのではなく、資産代替といったインセンティブのゆがみが問題になることを指摘する。そして、株主債権の劣後的取扱いがそのような問題状況をある程度解決しうるとした上で、会社搾取や抜駆け的債権回収への対処に用いられている可能性もあると指摘する。

  また、江頭は、株主債権の劣後的取扱いと債権者の株主に対する直接請求を区別して検討する。そして、債権者の株主に対する直接請求が認められる場合には、極端な過少資本状況である場合や不動産の賃貸借である場合が多いことを

(16)

    同志社法学 六六巻五号二四九一五三七 指摘する。さらに、不当搾取の場合には、債権者の株主に対する直接請求が認められにくいことを示唆する。

  もっとも、後藤と江頭の研究は、株主債権の劣後的取扱いが、問題状況に応じて、異なる役割を果たしている可能性を指摘するに留まっている。そのため、個別の問題状況に応じて、株主債権の劣後的取扱いにどのような機能を期待できるかを検討する必要がある。また、株主債権の劣後的取扱いが問題になる場面の多くは、法人格否認の法理の適用が問題になる場面でもあることから、債権者の株主に対する直接請求を用いることもありうる。それにもかかわらず、なぜ債権者の株主に対する直接請求ではなく、株主債権の劣後的取扱いを用いる必要があるのだろうか。そこで、債権者の株主に対する直接請求との機能の違いについても検討する必要があると思われる ₅₆

二  株主債権の劣後的取扱いが問題となる状況

  第一節と第二節の検討からは、株主債権の劣後的取扱いが問題とされてきた状況として、①不当搾取、②過少資本、③詐欺、④道具性、⑤忠実義務・信認義務違反、⑥偏頗弁済、⑦支払能力の誤信、さらに⑧

re ch ar ac te riz at io n

を挙げることができる。

  これらのうち、③詐欺、④道具性、⑤忠実義務・信認義務違反については、以下の理由により、本稿の検討対象とはしない。

  ③詐欺については、具体的にどのような行為を指しているのかは明らかでないが、株主が貸付けを出資であると述べて債権者を欺くといった場合、それは当該債権者との間の問題であり、会社債権者全体を救済する株主債権の劣後的取扱いと関連性はないように思われる。このような行為であれば、株主は当該債権者に対して直接不法行為責任を負うことから、株主債権の劣後的取扱いとは別の問題であるといえる ₅₇

(17)

    同志社法学 六六巻五号二五〇一五三八

  ④道具性については、これまでの研究によって、その概念の中には様々な問題意識が含まれており、曖昧であるとの批判がされているように ₅₈

、具体的な問題状況を示していないことから、本稿ではこれを問題として検討しない。

  ⑤忠実義務・信認義務違反については、根拠規範が述べられているだけであって、具体的な問題状況を示していないことから、これも本稿の検討対象から外す。

  したがって、以下では、残りの①不当搾取、②過少資本、⑥偏頗弁済、⑦支払能力の誤信、を検討対象とする。⑧の

re ch ar ac te riz at io n

については、わが国においても特段議論されていないことから、第三章第六節で紹介するアメリカの議論を踏まえた上で、それ以後の検討対象とするかどうかを判断する。

第三章  アメリカにおける議論

  本章では、アメリカにおける株主債権の劣後的取扱いに関する議論について検討する。従前のわが国の研究で紹介されている議論も多いことから、本稿では、アメリカにおける議論の展開および株主債権の劣後的取扱いにどのような機能が期待されてきたのかという点に絞って検討する。

第一節  アメリカ連邦倒産法五一〇条(C)

  アメリカでは、一九七八年に、アメリカ連邦倒産法の五一〇条(C)に株主債権の劣後的取扱いが成文化された ₅₉

。それ以前は、株主債権の劣後的取扱いは、倒産裁判所によって形成されてきた判例法であった。特に、第五章で紹介する二つの一九三〇年代の最高裁判決がその理論的基礎を築いたとされる ₆₀

(18)

    同志社法学 六六巻五号二五一一五三九   もっとも、成文化後も、実際の株主債権の劣後的取扱いの運用は、裁判所の解釈に委ねられているとされる ₆₁

。そして、アメリカにおける議論は、まさに、株主債権の劣後的取扱いについての裁判所の基準が不明確であることから、その基準を明らかにしようと発展してきた。

第二節  具体的な要件

  一九六〇年代のアメリカにおいて、株主債権の劣後的取扱いを主に取り扱う研究は、わが国の倒産法分野における研究と同様に、株主債権の劣後的取扱いがどのような要件で認められるのかということを中心に検討するものであった ₆₂

 

H er zo g & Z w eib el

は、株主債権の劣後的取扱いについて検討する前に、債権の不認可(

dis all ow an ce

)と株主債権の劣後的取扱いが混同されていることを指摘する ₆₃

。すなわち、債権の不認可は、そもそも債権が法的に存在しないものであるが(債権が無効と評価されるものも含む)、株主債権の劣後的取扱いは、法的には有効に存在している債権を、一般債権よりも劣後的に扱うものである ₆₄

。そして、株主債権の劣後的取扱いは、債権者を欺罔したり、問題となる株主が不衡平な利益を得た場合に用いられるべきであるとされる ₆₅

  これを前提に、

H er zo g & Z w eib el

は、株主債権の劣後的取扱いが問題になった事案を、合意による劣後的取扱い、資本的貸付(

C ap ita l C on tr ib ut io n

)、詐欺、債権の性質・エンフォースメントの違法性、親会社や支配株主といった信認関係、道具性、の六つに区分する ₆₆

  また、

G le ic k

は、株主債権の劣後的取扱いが用いられた事案を、すべての債権者に対して劣後的取扱いされることに同意している場合、一部の債権者に対してのみ劣後的取扱いされることに同意している場合、詐害行為や信認義務が問題となる場合、倒産会社を道具のように用いている場合、過少資本であることを理由に裁判所が資本的貸付として扱

(19)

    同志社法学 六六巻五号二五二一五四〇

う場合、倒産会社と(問題となる)債権者がジョイントベンチャーのような場合、債権それ自体あるいは債権の取得が違法である場合、の七つに区分する ₆₇

第三節  具体的な問題状況

  一九七〇年代に出された二つの研究は、第二節で紹介した研究とは異なり、具体的な問題状況に対処するための方法として、株主債権の劣後的取扱いを検討する。

 

L an de rs

は、裁判所が株主債権の劣後的取扱いを用いる際に提示してきた要件は、裁判所が株主債権の劣後的取扱いをアドホックに用いることを認めてきたと批判する。その上で、親子会社は実質的には一つの経済主体であるという認識を前提に、親会社から子会社(および関連会社)への貸付けは、グループ全体の利益を最大化することを目標としており、他の外部債権者の貸付けと比較して、よりリスクキャピタルに近いこと、子会社の運営に関する親会社の決定は、子会社自身が収益を上げることを確保するという考え方では行われないであろうこと、を指摘して株主債権の劣後的取扱いを全面的に支持する ₆₈

  このような

L an de rs

の見解に対しては、

P os ne r

が批判を展開する。すなわち、親会社の子会社への債権が弁済されないということになれば、親会社の債権者は、子会社の信用力をより注意深く調査するために追加のコストが生じる ₆₉

。また、親会社は、子会社の倒産リスクについて、外部債権者と比較して、より低いコストで評価することができるといった効率性があるにも関わらず、株主債権の劣後的取扱いを全面的に認めてしまうとこのような効率性をゆがめてしまうとされる ₇₀

  そこで、

P os ne r

は、株主債権の劣後的取扱いを用いる場合として、親会社が子会社に貸付けを行うことにより、子

(20)

    同志社法学 六六巻五号二五三一五四一 会社債権者が、子会社が債権者に弁済するための資産を有していると誤解したこと、子会社債権者が、子会社が事業のための通常の資本を持っていると合理的に信じたことを挙げ、このような場合には、株主債権の劣後的取扱いが認められてもよいと主張する ₇₁

第四節  詐害譲渡法との関係

  第三節で紹介した論文の直後に出された

C la rk

の論文は、株主債権の劣後的取扱いが問題となる事案の多くは、詐害譲渡法との関係で理解できるとした。

  詐害譲渡法を用いる場合には、それぞれ個別の取引について、会社と支配株主等の取引が不公正であったことやその不公正な額を詐害譲渡法の効果を享受しようとする債権者が証明しなければならない。しかし、個別の取引を過去に遡ってすべて証明することは困難であり、証明するためのコストもかかる ₇₂

  一方で、株主債権の劣後的取扱いの場合には、個別の取引が詐害的であったかどうかを必ずしも証明する必要はない。裁判所は、会社と支配株主等との一連の取引全体をみて判断すれば良いことから、詐害譲渡法の適用と比較して、株主債権の劣後的取扱いの適用はコストがそれほどかからないとされる ₇₃

。そして、

C la rk

は、株主債権の劣後的取扱いが発展してきた理由として、大企業は数多くの子会社を所有しており、グループ間で何千もの取引を行うようになってきたことが背景にあると指摘する ₇₄

  一九八二年の

H ac kn ey & B en so n

の論文も、株主債権の劣後的取扱いを

C la rk

と同様の枠組みで理解する。すなわち、株主債権の劣後的取扱いは、支配株主等が会社財産の搾取等を行ったことによる会社への債務と支配株主等が会社に対して持つ債権を相殺したに過ぎないと指摘する。そして、詐害譲渡法では、費用と時間がかかることから、株主債権の

(21)

    同志社法学 六六巻五号二五四一五四二

劣後的取扱いが用いられてきたと述べる ₇₅

  一方で、

H ac kn ey & B en so n

は、過少資本もまた、株主債権の劣後的取扱いが用いられる重要なファクターの一つであると指摘する ₇₆

。もっとも、

H ac kn ey & B en so n

がこの過少資本という問題をどのように考えていたのかは明らかでなく ₇₇

、過少資本の事案であっても、親会社や支配株主が経営指導料や報酬名目で利益を吸い上げていたこと ₇₈

を指摘するにとどまっている ₇₉

第五節  過少資本との関係

 

P os ne r

C la rk

の論文では、過少資本の場合に株主債権の劣後的取扱いを用いる理由について十分に説明されていなかったが、

G elt er

は、この理由について、過少資本状況における過剰なリスクテイキング(資産代替)の観点から検討する ₈₀

 

G elt er

は、社会的厚生の観点から簡単なモデルを導入した上で ₈₁

、株主債権の劣後的取扱いが、貸付けを行う株主のインセンティブにどのように作用するのかを分析する。そして、社会的に非効率なプロジェクトを実施する可能性があるにも関わらず、株主債権の劣後的取扱いでは防止できない場合があること ₈₂

、および社会的に効率的なプロジェクトであるにも関わらず、株主債権の劣後的取扱いは、そのプロジェクトの実施を妨げてしまう場合があること ₈₃

、以上二つの問題を指摘する。

  特に、株主債権の劣後的取扱いが効率的なプロジェクトの実施を妨げてしまう可能性を

G elt er

は問題視しており、株主債権の劣後的取扱いを用いるかどうかは、株主が貸付けを行った時点で、そのプロジェクトが社会的にみて効率的であったかどうかを裁判所が判断し、非効率なプロジェクトである場合に、株主債権の劣後的取扱いを用いるべきであ

(22)

    同志社法学 六六巻五号二五五一五四三 ると述べる ₈₄

。また、非効率なプロジェクトの実施の防止について、株主債権の劣後的取扱いでは不十分で、より厳しい、債権者の株主に対する直接請求を提案する ₈₅

  もっとも、このような見解について、

Sk ee l & K ra us e- V ilm ar

は、会社が財政的に困難な状況に置かれている場合には、過剰なリスクテイキングを行う可能性が高いことから何らかの規制を行う必要性は認めるものの、

G elt er

のように、裁判所にプロジェクトの価値を判断させることは、裁判所の能力からすると難しいと指摘する ₈₆

。そこで、裁判所が事案毎に判断するのではなく、株主が担保を取得して融資を行った場合、その担保は認められず、貸付債権だけが他の一般債権者と同様に取り扱われるべきであるとされる。担保を取得した場合には、株主は債権者の損失のもとで事業を継続するリスクがより高く、担保に在庫品が含まれる場合には、その在庫を増やすおそれがあることを根拠にする ₈₇

  また、

C ah n

は、過少資本における過剰なリスクテイキングという株主のインセンティブを改善する手段として、株主債権の劣後的取扱いは適切でないと述べる ₈₈

。株主が追加の貸付けを会社に対して行わない場合には、債権者はより状態が悪くなるとして、むしろ債権者に倒産申立ての権利を与えたり、管財人を任命するといった方法が適切であるとする ₈₉

。さらに、

Sk ee l & K ra us e- V ilm ar

と同様に、株主が担保を取得して会社に貸付けを行った場合、その担保は認められるべきでないと述べる ₉₀

第六節 

Recharacterization

の概念

  これまでの株主債権の劣後的取扱いの議論では、要件は様々であるが、何らかの不衡平な行為が必要とされていた。ところが、近年になって、不衡平な行為を必要としない

re ch ar ac te riz at io n

という概念がアメリカで議論されている。この概念は、単に﹁貸付け﹂を﹁資本﹂としてみなすことから、株主債権の劣後的取扱いとの関係が問題になる ₉₁

(23)

    同志社法学 六六巻五号二五六一五四四

R ec ha ra ct er iz ait on

については、倒産裁判所がこのような﹁債権﹂を﹁出資﹂とする事実認定を行う権限があるのかという手続上の問題も指摘されているが ₉₂

、本稿の問題意識からは、なぜ株主債権の劣後的取扱いではなく、

re ch ar ac te riz at io n

が用いられるのかが重要である。

  裁判所は、

re ch ar ac te riz at io n

を判断するにあたって、支配株主の行為やその行為による損害をみるのではなく、一三個のファクターに着目し、債権の性質そのものを中心に判断するとされる ₉₃

  しかしながら、この一三個のファクターについて触れた判例 ₉₄

は、税法上、株主が提供していた資金が貸倒れによる損金に含まれるかどうかが問題となったものであり、そもそも会社債権者の損害や信頼とは異なる文脈の事案であったことが指摘されている ₉₅

。また、問題になっていた債権が存在していたのかどうかも不確かであり ₉₆

、実際に問題となるのは、その債権が本当に存在するかどうかという事実認定であるとされる ₉₇

。さらに、

re ch ar ac te riz at io n

が用いられている場合も、裁判所は、実際には会社債権者の損害などを考慮していることが指摘されている ₉₈

第七節  検討

  第二節で紹介した一九六〇年代の論文は、株主債権の劣後的取扱いが認められた事案を分類することで、どのような場合に株主債権の劣後的取扱いが認められるのかといったことを明らかにしたものの ₉₉

、なぜそれらの要件が株主債権の劣後的取扱いに結びつくのかという点については明らかにしていなかった。

  一方で、第三節で紹介した論文は、より具体的な問題状況を指摘して、株主債権の劣後的取扱いを検討する。もっとも、

L an de rs

の主張の前提となっている、親子会社関係および親子会社間の貸付けに対する認識には恣意的なものがあり、親会社から子会社への貸付けを劣後的取扱いする理由として十分ではないように思われる。

(24)

    同志社法学 六六巻五号二五七一五四五   また、株主の貸付けにより、﹁子会社債権者が、子会社が債権者に弁済するための資産を有していると誤解した﹂という

P os ne r

の主張は、上原敏夫や片木晴彦が主張していた、会社債権者が会社に支払能力があると誤信することと同様の問題意識であると言える。さらに、

P os ne r

の別の主張である、株主の貸付けにより、﹁子会社債権者が、子会社が事業のための通常の資本を持っていると合理的に信じた﹂という主張は、そのような子会社債権者の合理的な信頼が会社に支払能力があると誤信することにつながると考えるのであれば、先に説明した主張と同様の問題意識といえる。一方で、実際には過少資本であったことを問題とするのであれば、なぜ過少資本であることが株主債権の劣後的取扱いに結びつくのかを検討する必要がある。しかしながら、

P os ne r

の論文からは、過少資本状況における具体的な問題意識は読み取れない。

  第四節で紹介した

C la rk

H ac kn ey & B en so n

は、株主債権の劣後的取扱いを詐害譲渡法と結びつけて理解しており、日々の取引における会社財産の搾取に対して利用されていることを示唆していた。もっとも、詐害譲渡法との関係だけでは株主債権の劣後的取扱いを説明できないとしており、過少資本に基づき株主債権の劣後的取扱いが用いられている可能性が指摘されていた 100

  第五節で紹介した

G elt er

は、過少資本における株主の過剰なリスクテイキングに着目し、株主債権の劣後的取扱いをそのようなリスクテイキングの防止という観点から整理していた。実際に裁判所がそのようなリスクテイキングについて正確な判断をできるかどうかという問題は指摘されているものの、これまで十分に説明されてこなかった過少資本時の株主債権の劣後的取扱い機能のメリットとデメリットを明らかにした意義は大きいように思われる。

  以上のことから、アメリカの議論において、株主債権の劣後的取扱いの機能は、主に、支払能力の誤信、不当搾取における簡易な救済手段、および過少資本における過剰なリスクテイキングへの対処として理解されてきたといえる。

(25)

    同志社法学 六六巻五号二五八一五四六

  第六節で紹介した

re ch ar ac te riz at io n

については、その前提となる判例が税法上の事件であること、また実際には債権が存在するかどうかという判断が問題になっているといったことが指摘されている。したがって、株主債権の劣後的取扱いと同列に検討することは、議論を不明確にするおそれがある。そのため、本稿では、この

re ch ar ac te riz at io n

を検討対象から外すこととしたい。

第四章  株主債権の劣後的取扱いの機能についての分析

  本章では、第二章・第三章の検討から得た不当搾取、過少資本、偏頗弁済、支払能力の誤信という四つの問題状況と株主債権の劣後的取扱いの関係について具体的に検討を行う。第一節と第二節では、株主債権の劣後的取扱いを用いる必要がないと考えられる問題状況について検討する。その後、第三節と第四節では、株主債権の劣後的取扱いが機能するであろう問題状況について検討する。第五節では、債権者の株主に対する直接請求との関係を検討する。第六節は、第五節までの検討から得られた株主債権の劣後的取扱いの具体的な機能とその適用についてのまとめである。

第一節  偏頗弁済

  支配株主はその会社の経済状態をよく知りうる立場であることから、会社に対する貸付けについて、支配的な立場を利用して抜駆け的な弁済を得ることができ、このことは、本来であれば受け取ることのできるはずであった他の債権者の分け前を少なくすることから実質的平等に反するといわれることがある 101

  たしかに、会社の財務状態について、一般の会社債権者よりも支配株主の方が情報を多く持っていると思われる。そ

参照

関連したドキュメント

点から見たときに、 債務者に、 複数債権者の有する債権額を考慮することなく弁済することを可能にしているものとしては、

[r]

今後の取り組みは、計画期間(2021~2040 年度)の 20 年間のうち、前半(2021~2029

等に出資を行っているか? ・株式の保有については、公開株式については5%以上、未公開株

KK7補足-024-3 下位クラス施設の波及的影響の検討について 5号機主排気筒の波及的影響について 個別評価 (確認中).

再エネ調達(敷地外設置) 基準なし 再エネ調達(電気購入)

2-2 再エネ電力割合の高い電力供給事業者の拡大の誘導 2-3 多様な再エネ電力メニューから選択できる環境の整備