前川遺跡発掘調査
1
上
調査の契機 と経過
前川遺 跡 は
,昭
和 47年3月財 団法人奈 良県開発公社がお こな った前川筋 河川 局部改良工事 に 伴 って発見 された ものであ る。前川 は,春
日山麓 に源 を発す る岩井川 か ら分水 した農業灌漑用 の水路 であ り,奈
良市杏町 。大和郡 山市三橋 町か ら地蔵院川 を径 て佐保川 に流 れ込む流路 を も つ。改 良工事は,奈
良市郊外 の都市化現 象や工場 団地建設 の影響 を うけ,前
川 が下水道化 した ため,大
和 郡 山市側 を経 由せず 奈 良市側 で直接佐保川 に流す水 路変更を 目的 と していた。 この ため,奈
良市杏町か らか っての平城京東一坊大路沿 いに南下す る前川を,平
城 京九 条大路付近 で西折・ 西流 させ佐保川 に流す 目的 で,東
西約500m,幅 13m,深
さ4mの
用水 路を新 た に 掘 整 した。前川筋河川改良工事がお こなわれていた頃
,西
方約500mの
地 点 にあ る平城京羅城 門跡 では,大和郡 山市教 育委員会 の依頼 を うけ た奈良国立文化財研究所が発掘調査 をお こなっていた。 こ の ことに関連 してた また ま工事現場 に立 ち寄 った岸俊 男氏や発 掘調査関係者 に よって前川遺跡 の存在が明 らかにな った。遺跡発 見時においては
,河
川 の掘塾 はほぼ終 了 してお り,揚
土 中に 多量 の遺物 が含 まれ てい る こ とが注 意 された。奈良国立文化財研究所 では,遺
跡遺 物発見届 を 提 出す る とともに奈 良県教育委 員会 と連絡 を と り,応
急 の調査 を実 施 した。調 査 は, 3月■ 日 か ら4月12日まで実施 し,揚
土 中に合 まれ る遺物 の採集 と工事用法面や川底 に残存す る土嫉 お よび井戸 な どの遺構 につ いてお こな った。調査は工事 と平行 して実施 し,そ
の うえ遺構 の大半 が破壊 されていたため充分 な もの といえず,遺
構 の実測 につ いて も,一
部 を除 いては地点 を記 録 したに とどまった。2.遺 跡の状況
前川遺跡は
,大
和 盆地 の北 半部 ほば中央,奈
良市西九 条町 ス ゲハ ラ付近 に所在す る。遺跡周 辺 の現地表面標高 は51mで
ぁ る。遺跡 の西側 には,秋
篠川 と合流 した佐保川 がほぼ北 か ら南ヘ 流 れ てい る。佐保川 の両岸 には10年 前 までは水 田地帯がひろが っていたが, こ こ数年来,北
からは工場が
,南
か らは住宅が しだ いに押 しよせ て きて,付
近 の景観は変 貌 しつ つあ る。遺 跡は平城京羅城 門跡 の東約
500mの
ところにあ り,そ
の位置 は,ほ
ば九 条大路上 にあた る。多 くの遺 物 と遺構 を認 めた ところは
,九
条大路が東一方大路 と交わ る所か ら西へ約50mの
地 点 であ り,ま
た九条大路 と東一方坊 間路 との交叉点付近か らも多 くの瓦が出土 してい る。以下確 認 した遺構 につ いて概略 を説 明 してお きたい。遺構 は
,東
西方 向に掘 られた用水路 の側壁 と基底部において確認 した。側壁 の上層 の観察 に よって南側で3個
所,北
側 で5個
所 の計8個
所 で,遺
物 を多量 に含む黒 色上 の落 ち こみを認 め た(PLAN 3,Pl〜 P8)。
工事 の関係上,遺
構 の性格 を確かめ るまでには至 らなか ったが,遺 物 の出土状 況 か ら土竣 と考 え られ よ う。 また これ以外 に基 底部 で は
, 2基
の井戸 を確認 した(PLAN 3,El・ E2)。
しか し,す
でに一部で導水がは じめ られ ,調 査期間中再三 の降雨が あ ったため,遺
物 を取 りあげ た直後 に,井
戸枠 は崩壊 し,井
戸遺 構 につ いては充分 な記録 を と る ことがで きなか った。 なお遺構 の番号 は発見順位 につ けた。土壊
1
地表面下約50cIIlから掘 りこまれ た袋状 の上壊 (口径0.7m,底
径1,Om,深
さ0.5m)で あ る。覆土 中に は灰化物 を合 み,土
師器 の杯 が重 な った状態 で多量 に出上 した。土壊
2
地 表面下約30cIIlから掘 りこまれたほぼ円形 の上竣 (径約1.Om,深
さ0.5m)で
あ る。土師器 の皿 。杯
,須
恵器 杯 な どが 出土 してい る。上境
3
地 表面下約30clllから掘 りこまれた土埃 (径1,Om,深
さ1.2m)で
あ る。 遺 物 の出土 量 も少 な く,柱
穴 か とも考 え られ るが,柱
お よび柱痕跡 な どは発見 で きなか った。土壊
4
地 表面下約30clllから掘 りこまれた円形 を呈す る土壊 (径約2.Om,深
さ0.3m)で
あ る。土器 の出土 は少 な く,土
馬 が約20個 体 分 出上 した。原形 を完全 に とどめ るものはない。土壊
5
地 表面下約30clllから掘 りこまれた土羨 (径約0.5m,深
さ0,3m)であ る。土師器 の杯や 皿が多量に出土 した。
土境
6
地表面下約15clllから掘 りこまれた土壊 (径約0.5m,深
さ0,3m)であ る。土 師器 杯や 須恵器 壷 な どが 出土 して い るが,全
体 に遺 物 の量 は少 ない。土竣
7
地 表面下約lmか
ら掘 りこまれた土壊 (径約0.5m,深
さ0.3)であ る。土馬,
土師 器 皿 と杯 が 出土 してい る。土壌
8
地 表面下約lmか
ら掘 りこまれた土壊 (径約0.5m,深
さ不明)で
あ る。土師器皿・杯 な どの遺物 が 出上 してい る。
井戸
1 ‑辺
に各2枚
の板 を綻 に連ね,四
隅 に丸 木 の支柱 を配 し,そ
の支柱 を横桟 で固定 した方形 の井戸 である。一辺約80Clll,深さ現存1,7mを
はか る。井戸底 には砂 を敷 き,曲
物 を 据 える。縦 板 は幅約40Clll,厚 さ3 CIIlであ り,支
柱 と横桟 には径10CIll前後 の九太材 を用 い る。井戸
2
井戸1と同様 の構造 を もつ一辺約80CIllの方形 の井戸 で あ る。縦板 には幅50〜約 60Cm,厚
さ5 Cmの板 と幅 30〜20clll,厚さ2 cIIl前後 の板 との2種
類が あ り,一
辺 に各1枚
づつ を組 合せ て井戸枠 としてい る。底 には礫が敷かれてい る。現存 の深 さは2.2mを
はか る。(岡本 東三)
3.遺 物
前川遺跡の
2基
の井戸, 8ケ所の土壊か ら総数約80箱の土器類を得た。井戸出土土器・ 土壊 出土土器 は ともに天平末年頃の良好な一括資料である。ここでは瓦は出土 していないが
,
調査地の西方約200mの
工事現場揚土中か ら若千の瓦を採 集 している。A.井
戸 出土 土 器井戸は
2基
あるが,い
ずれ も土器群の示す器種 。手法を同 じくしているため, ここでは一括 して報告す る。井戸出土土器には土師器・ 須恵器がある。他に墨書土器3点と土馬2点
が あ る。出上のほ とんどが土師器であ り,須
恵器は微量である。出土土器 は全般に遺存状況が良好28
である。 とくに上師器類は黄赤色硬質で
,器
面はまった くといっていいほ ど荒れていない。ま た,煤
の付着す ることの通常な甕類など煮沸形態の土器のほ とんどには煤その他の使用痕跡は 見 られず,製
作当時の状況を とどめている。若千量を占める須恵器類を除いて,井
戸出土土器 は未使用 のものであった と言えよ う。土師器
井戸出上の上師器には
,杯
A・ 皿A・ 皿B・ 皿C・ 椀A・ 椀C・ 蓋A・ 高杯A
・ 盤A・ 鉢A・ 鉢C・ 鉢 D・ 鉢X・ 壺D。 甕A・ 亀がある。
a.杯 AI(1〜 5)
口径21.4CIll〜19.6clll,高 さ4.lclll〜 3,7Cal。 平 らな底部 と外傾す る日縁部 か らなる。 口縁部は屈曲 し,端
部を内側に巻 き込む。2・ 3・ 4・5は
底部内面を撫で,
口縁 部内外面を横撫でで調整 し,底
部外面を調整 しないa手
法で作 り, 3の
底部外面には木葉痕 を とどめる。1は底部外面のみを箆で削って調整するb手
法で作 る。 口縁部外面に箆磨 きを行な うものが1例ある。内面の底部に2重
の螺旋暗文 と口縁部に一段の放射暗文を施す ものが多い が,底
部内面に2重
の螺旋暗文 のみを旋す ものが1例ある。b.杯 AⅢ
(8〜11)
口径17。
7Clll〜17.2c霊,高
さ3.4c14〜2,8Cal。 法量の差のみで,形
態 。手 法 とも杯AⅡ と変 らない。8〜
10は a手法で作 り, 8・ 10の底部外面には木葉痕がつ く。11はb手
法による。C.杯 AⅣ
(14〜22)
口径16.OCIn〜 13.8clll,高 さ3.2clll〜2.5clll。 口縁端部 の巻 き込む ものが ほ とんどであるが,巻
き込みのわずかなものや巻 き込 まず外反す るものもある。すべてa手法 で調整 し,14の
底部外面には木棄痕を とどめる。暗文は2重
螺旋暗文+1段
放射暗文である。22は須恵器杯
Aと
似た特殊な形態をもつ。 口径13.8Cm,高さ3.5clll。d.皿 AI(24〜 28)
日径23.8cm〜22.6cm,高さ3.Oclll〜2.5clll。 平 らな底部 と短い 口縁部か らなる。 日縁部は屈曲 し,端
部は巻 き込む。25〜28はa手法で作 り,底
部外面には木棄痕をと どめる。24はb手
法で作 る。暗文 のないものが1例あるのみで,他
はすべて螺旋暗文+1段
放射暗文を施す。
e.皿 AI(6・ 7)
口径18.2c皿〜18,Ocn,高
さ3.2cm〜2,8CII。端部が薄 く外反す るもの と
,わ
ずかに屈曲 し,端
部 内側の凹む ものとがある。いずれ もa手
法で作 り,内
面に2重
螺旋 暗文+1段
放射暗文を施す。f.皿 AⅢ
(12・13)
口径16,9clll〜16.lclll,高 さ3.2cm〜2.9cm。口縁端部が薄 く外反するも のとわずかに屈曲 し
,端
部 の巻 き込む ものとがある。いずれ もa手
法 で作 り,暗
文はない。g.皿
B(38・39)
口径33.2clll〜32.2c14,高さ5,lcm〜3.5cmo ttAに 高台のついたものであ る。 口縁部は屈曲 し,端
部 は巻 き込む。b手
法で調整 し,39の
日縁部外面には粗い箆磨 きを施 す。38には螺旋暗文+1段
放射暗文を施すが,39で
は放射暗文 を2段
に施 し段間に連弧暗文を 配す る。h.皿 C(33)
口径11.3cm〜■.2clll,高さ2.5clll〜 2.lclllの小形 の皿である。平坦あるいはわ ずかに丸味をおびた平 らな底部 と,外
反す る短い 口縁部か らな り,端
部は外反す る。内面を撫 で,日
縁部内外面を横撫でによって仕上げ るが,横
撫での範囲は狭 く,底
部にまで至 らない。三
.蓋 A(23)
わずかに丸味をおびた弓形 の頂部に 上部 の平 らな偏円形のつまみのつ くも のである。縁部を折 り曲げて内側に突出させ る。/1・面に密な箆磨 きを施 し,内
面には2重
の螺 旋暗文をつける。 日径21.8clll,頂部の高 さ3.Oc皿。ユ
椀 A(30・
31)
小 さな底部 と内弯す る 口縁部 か らな り,
縁 端認 はわず か に外 反す る。30 では端部以下 の外 面を箆で削 って仕上げ るが,31で
は調整 しない。外面全体 を密に箆で磨 く。口径12,9cll〜11,9clll,高さ4.8Cm〜3.5cIIl。
k.椀
C(34〜37)
口径13.8伽 〜13.lCIIl,高 さ4.6cm〜3.4Cm。 丸 い底部 と外反す る短 い 口縁 部 か らな る。 内面 を撫 で, 日縁部 内外面を横撫 でで調整 し,以
下 の外 面は調整 しない。ユ・ 盤
A(44)
口径24.3C鳳,高
さ7.OCIll。 平 らな底部 と大 き く開 く口縁部 か らな る。口縁部
は外反 し
,端
部上 端 が突 出す る。 内面及び 口縁外 面 を横撫 で で調整 し,以
下 の外 面 は粗 く箆 で 削 って仕 上げ る。m.高
杯A(45,46)
杯部 の破片のみである。浅い杯部 に短 い脚部 のつ くものであろ う。 杯 縁部 はわず かに外 反 し,端
部 は内側 に突 出す る。45に は螺旋 暗文 と1段の放射暗文 を施す。 口 縁部 内外 面 を横撫 で し,以
下 の外 面 を箆 で削 る。外 面 を井状 に4区割 りに箆 で磨 く。 日径29.6 cm‑26.8Cm。m.鉢
A(40〜43)
口径20.4Clll〜18.6clll,高 さ8.OCm〜5。8Cmざ 平 らな底部 と内弯する口縁部 か らな り,
口縁端部を巻 き込む。内面を撫で,
日縁部内外面を横撫で し,以
下の外面を調整 し ない ものが一般的であるが,43は
口縁部下半の内面を刷毛 目で調整 し,41は
縁端部以下の外面 を箆削 りす る。40・ 41の外面全体には3区割 りの密な箆磨 きを施す。o.鉢 C(32)
逆三角形状の手づ くねの小形の器で,
口縁部はわずかに外反す る。 日縁部 内外面を横撫です る。 口径10.lCm,高 さ4.2cm。p.鉢 D(47)
日径27.6clll,高さ15.3clll。 肩部 のまる く張 った下すばま りの体部 と外反す る短い 日縁部か らなる。底部に高台がつ く。内面を撫で,
日縁部内外面を横撫で し,体
部外面 を箆で削って調整す る。底部外面を除 く外面 と口縁部内面を密に箆で磨 き,体
部内面には粗な 箆磨 きを施す。q.鉢
X(48〜50)
底部にむかってゆるやかにすぼまる円筒形 の体部の上端を外反させて 口 縁部 とした ものである。体部中ほ どに一対の三角形折曲把手がつ く。 口縁端部は面をな し,端
面はハ傾す る。内面を撫で, 日縁部内ハ面を横撫です る。体部 と底部の外面は調整せず
,粘
土 紐接合痕跡を明瞭に残 している。 口径20.5clll,高 さ14.6cm。 50・ 51は内面を撫で, 日縁部を横 撫で調整す るだけの小形の器である。模型土器ででもあろ うか。r。 竃(67・
68)
上すばま りの円筒形体部の下半を 1ケ 所方形に切 りとって焚 口としたもの で,焚
口の周囲には高 さ約5 Clllの粘土板を貼 り巡 らせて廂 としている。内面を撫で,外
面を刷 毛 日で調整す る。廂の前面は刷毛 目で調整す るが,背
面は撫でで調整す る。約5個
体あるが, 完形に復原できるものはない。また,こ
の うち煤が付着 して使用 したことの明 らかなものは1 個体で,他
には煤が付着 しない。底径約23clll,体部の高 さ約27Clll。
s.甕
A(51〜66)
九 い体部に外反する口縁部のつ くものである。 体部外面はすべて刷毛調 整す る。体部内面には,不
調整のもの,撫
でで調整す るもの,刷
毛で調整す るものがある。 日 縁部 の外面はすべて横撫でで調整するが,
内面には刷毛で調整す るものがある。法量によっ て
,Al〜 AVの 5種
類に分類が可能である。 この うち,AI・
AⅡにのみ,体
部中ほ どに一 対の三角形折曲把手がつ く。須 恵器 30
須恵器には
,杯
A・杯B・ 蓋A・蓋B・皿B・鉢A・ 壺A・ 壷B・ 瓶・ 奏がある。a.杯
A(73・74)
平 らな底部に外傾す る日縁部のつ くもので,
口縁部には端部が九 く直に 開 くもの と,縁
部が屈曲 して外反 し,端
部内側の突出す るもの とがある。底部外面は箆切 りの のちに撫でで仕上げている。b.杯 B(72)
平 らな底にやや内弯 ぎみの 口縁部のつ くものである。高台は貼 り付け高台 で,や
や高 く,外
端部が突出す る。底部外面は箆切 りののち撫でで仕上げ る。
底 部 外 面 に
「女」形 の焼成後 の箆亥Jがある。
C.蓋 A(71)
偏平な宝珠つまみのつ くもので,丸
い頂部 に垂直な短い縁部のつ くもの と, 平坦な頂部に屈曲す る縁部のつ くものがある。頂部外面は箆切 りののちに撫でで仕上げ る。d.蓋 B
いずれ も縁部破片である。 平坦な頂部に垂直な長い縁部のつ くもので,縁
端部内 側が突出す る。頂部外面を箆削 りで調整 し,頂
部外面には 自然釉が付着す る。e.皿 B(76)
平 らな底部に/1・傾す る短い 口縁部のつ くものである。 日縁部は外傾 し,端
部は丸い。高台は付け高台で幅狭 く
,端
部は平 らである。f.鉢 A
鉄鉢形 の上器でいずれ も口縁部破片である。 端部 は平坦で内傾する。外面を箆磨 きしている。g.壷 A(77)
わずかに外反する短い口縁部 と無花果形 の体部か らなる。高台は長 く,外
へ張 り出す。体部下半の外面を箆削 りし
,肩
部外面には自然釉が付着す る。h.壷 D(75)
肩部の直線的に張 った低い体部に外反す る広 ロロ頸のつ くものである。 日 縁端部が上方に突出す る。高合は断面が短形で低い。i.瓶
(78〜87)
肩部が丸 く器高の低いものと,器
高の高い ものとがある。85は肩部が角ば ったもので,肩
部に1条,体
部中ほ どには3条
の沈線を施 してお り,体
部下半以上には灰緑色 の自然釉がべ った りと付着 している。86・ 87は肩部に一対の耳 のつ くものである。耳は欠失 し て為 り,形
は不 明である。墨書土器
井戸
2か
ら墨書土器が3点
出土 しているa。 「 部」。「部
J
須恵器瓶の底部外面 と体部外面下半の2ケ所に,底
部を上に した方向で 同一字を墨書 した ものである。b.「
□□」土師器の杯または皿の底部内面に墨書 した ものであるが
,
破片でもあ り,判
読できない。
C.人
面上師器鉢の体部外面に眉・ 目・ 口を描いて人面 とした ものである。 背面にも同 様の人面を描いている。
上
馬
1は ,断
面U字
形の短い胴部に垂直な頸頭部 と細い脚 のつ くもので,尾
は斜上 につ きだす。胴部に馬具の表現を欠 く。頸部に粘上を貼 りつけて耳 と頭部を作 る。顔面には直 径0.6clllの竹管を押 しつけて 目をあ らわすが,鼻
孔はない。総高15,7Cln,現存体長13.8Clll。3は
,頭
部 の破片である。頸部に耳 と頭部 とを貼 りつけ,
顔面には直径0.5crllの竹管を押 し つけ,日
と鼻孔を表現 している。B.土
羨 出土 土 器6ケ 所の上壊か ら土師器 と須恵器を得た。 この うち須恵器 は きわめて少な く
,上
師器が大部 分を占める。各土壊出土土器は,器
種,製
作手法,年
代を同 じくしてお り,
ここでは一括 して報告す る。 これ らの上器群 の年代 として天平末年頃を与えることがで きる。
土師器
土壊出上の土師器には
,杯
A・ 皿 A・ 皿C・椀C・ 高杯A・ 鉢A・ 鉢X・ 横瓶 がある。井戸出土土器に比較 して,器
種の変化に乏 しい こと,,と くに甕A・ 竃がな く,す
べて供膳形態に限 られ ることが
,土
壊出土土器群の特徴 である。 また,皿
C・ 椀C等
の場合,同
一器種の上器 が上下に重なって出上 した。遺存状況は良 くな く
,赤
褐色を呈 し,質
のもろいのが多い。 しか し
,器
面の遺存は良好で,手
法 の観察に耐 え得 る。使用痕跡は明確でな く,井
戸出 土土器 と同様,未
使用品であろ う。a.杯 AI(lol〜 lo4)
口縁部が屈曲 し,端
部を内側に巻 き込む ものである。a手法で作 り,
すべて底部外面に木葉痕をとどめる。内面の底部に
2重
の螺施暗文,
口縁部に1段
の放射暗文 を施す。 日径21.2clll〜19。
4Clll,高さ4.OClll〜3.5cm。b.杯 AⅢ
(lo5〜109)
口縁部が屈曲 し,端
部を内側に巻 き込む。 すべてa手法で作 り,105
・107・ 109の底部外面に木葉痕を とどめる。
2重
螺旋暗文+1段
放射暗文を施す。 口径17.8Cm〜17.OCal,高 さ3.3clll〜3.2clll。
c.皿 AⅣ
(117〜120)
端部を内側に巻 き込んだ もので,
口縁部の屈曲の強いものと弱い も のとがある。a手法で作 るが,底
部外面には木葉痕はない。2重
螺旋暗文+1段
放射暗文を施 す。 口径15,3Clll〜14.8CIll,高さ2.9CIll〜2.8CIIl。d.皿 AI(131〜 133)
平 らな底部 と屈曲す る口縁部か らな り,端
部は内側へ巻 き込む。すべ てa手
法で作 り,底
部外面に木葉痕を とどめる。螺旋暗文+1段
放射暗文を施す。 口径24.5cm〜21,8clll, 局さ3.0〜2.5clll。
e.皿
AI(1lo・111)
端部の薄 く/1・反す るものである。a手
法で作 り, 2重
螺旋暗文+1段
放射暗文を旋す。 日径17.6Clll〜17.OClll,高 さ3,Ocm〜2.9clll。
f.皿 AⅢ
(112〜■6)
口縁部が屈曲 し,
端部 を内側に巻 き込んだ ものと,
端部が薄 く外反 す るもの とがある。いずれ もa手法で作 るが,底
部外面には木葉痕がない。2重
螺旋暗文+1
段放射暗文を施すが
,暗
文のないものもある。 日径15.5clll〜14,7Cm,高さ3,Oclll〜 2.6ctt。g.皿 C(134〜 136)
底部のわずかに丸 い小形 の皿 である。内面を撫で
,
日縁部を横撫で で調整す るが,以
下の外面は調整 しない。 口径12.5clll〜10.6clll,高 さ2.6Cm〜2.4Clll。h.椀
C(121〜130)
口縁端部の外反す るもので,
端部内側がわずかに凹むものがある。口
縁部上半を横撫で し
,以
下の外面は調整 しない。 口径14.6clll〜 13,6c延,高
さ4.6clll〜3,9clll。i.高
杯A(140・141)
脚部破片である。140は脚 の短 いもので,
裾部を横撫で したのち脚外 面を箆で削って10角形に面取 りしている。脚内面上半には しば り目が残 るが,以
下は箆で裾端 部 まで削る。141は脚 の長いもので,裾
部を横撫で したのち,脚
部を箆で9角形に両取 りす る。棒芯を用いて脚部を成形 した もので
,脚
部内面下半を裾端部まで箆で削って仕上げ る。裾外面 には4区
割 りの箆磨 きを施す。工
鉢A(137・
138)
平 らな底 と内弯す る日縁部か らな り,端
部は内側に巻 き込む。端部以下 の外面を箆で削って調整 し,外
面全体に3区割 りの箆磨 きを施す。 口径11.6c14,高さ5.Oclll。k.鉢 X(139)
丸 い体部 と外反す る口縁部か らなる小形の器である。 日縁部内外画を横撫 で し,以
下の体部外面は調整 しない。口径9,9Clll,高さ5,9clll。
l.横
瓶(142)
須恵器 の横瓶を模 した小形の器 である。口縁部は短 く直立する。
口径3.6 32
Clll,長径,8.4clll,短 径7.2cm。
須恵器
土壊か らは杯
Bl個
体 と甕 の破片数点が出上 したのみである。a.杯 B(142)
平 らな底部 と直に開 く口縁部か らな り,日縁端部は外反す る。高台は方形断 面で,端
面は外傾す る。底部外面を箆切 りののちに撫でで仕上げ る。 口径19.8Clll,高 さ6.OClll。土
馬
2は
井戸出上の上馬 1と 同様 の上馬である。総高14.2clll 現存体長5.6Clll。刀
銭
ま と め
前川遺跡 は
,河
川改 良工事 中に発見 された遺跡 であ り,応
急 的 な調査 しか実 施 で きなか った ため,遺
跡 の性格 につ いては不 明な点が多 い。 ここでは主 に出土上器 を ま とめ てお きたい。前述 した よ うに
,井
戸 出土土器 と土嫉 出土土器 は形 態 。手法 を 同 じ くしてい る。 これ らの形 態 。手法 は また,平
城 宮跡6AAB区
で検 出 したS K820出土土器 と共通 している。これ らか
ら
,前
川遺 跡 出土土器 の年代 につ いては,天
平末年頃 とい うことがで きる。前 川遺 跡 の上器 群 と平城官跡土壊S K820の土器群 とを比較す ると出土器種 に差がみ られ る。
す なわ ち
,平
城 宮跡土壊S K820では土 師器 17器 種 (杯A・B,椀
A・ C・D,皿
A・B,蓋
A・B, 高杯A,壷A,鉢 A,把
手付有孔大形蓋,甕 A〜D)・ 須恵器 19器種 (杯A〜 D,椀 A,皿
B・C,蓋 A
・
B,鉢 A,壷
B・ E・ F・H,平
瓶、浄瓶,甕
A〜D)が
あ る。これに対 し前川遺跡では土師器 14 器種 。須 恵器 12器種 であ り
,器
種 が少 な くな ってい る。両 者 を比較 して特徴 的 な ものは土師器 杯Bで
あ る。この土器 はS K820土壊 にか ぎ らず平城官 内では普遍的 に存在す るが
,前
川遺 跡 では一点 も出上 しない。 この よ うに両遺跡 を直接対比す る ことには多少難点 もあるが,前
川遺跡 出土土器 群 の性格 の一端 は半」明 しよ う。
前川遺跡 の位置 は
,遺
存地割 な どか ら復 原 され る九 条大 路 の路面敷 内に あた り,検
出遺構 を14 内の居住地域 に伴 う遺構群 である と考 える ことはで きない。井戸 。土壊 な どか ら多 くの上器 が出土す るが
,上
壊 では同一器種 が重 な って多数 出土す る傾 向がみ られた。 これ らの上壊 は,径
lm内
外,深
さ0.4m内
外 の小規模 な ものが多 く,ま
た遺物 の出土状況か らみて も,土器 を廃 棄 した土 壊 とは考 え難 い。む しろ路面敷上 に遺 構 が存在 す る と考 え られ る点 や,遺
跡 が京 の南 端・ 羅城 門 に近 く位 置す る点 な どか ら,祭
事 に関連 した遺 跡 の性格 を想定 してお きたい。前 川遺跡 の性格 につ いてはなお不 明な点が多 く
,今
後 の周辺地域 の調査 に期待す る ところが 多 い。 また井戸 中か ら大 量 の上器 類 を出土 す る遺 跡 も増 加 しつつ あ り,前
川遺跡 の性格 の究 明もさほ ど透]いことではなか ろ う。 (吉田恵二)
高さ 5
15 ! Fig.13 前川遺跡土師器法量 図