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『征清戦袍餘滴』 (三) : 山岡金蔵中尉の日清戦争 従軍日誌

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(1)

従軍日誌

著者 井ヶ田 良治, 山岡 高志

雑誌名 社会科学

号 77

ページ 91‑119

発行年 2006‑09‑30

権利 同志社大学人文科学研究所

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000010998

(2)

前 明 治 二 十 七 年   続 き

︶ 十

二 月 二 十 五 日   海 城 縣 に て 發 信 誰 人 御 覧 被 下 候 と も 差 支 無 之

︑ 唯 自 分 の 見 聞 に 付

︑ 大 体 と 相 違 す る 所 は

︑ 自 分 の 見 聞 の 足 ら ざ る 事 と 御 承 知 被 下 度

︑ 但 し 一 事 に 誤 り な き 事 に 候

︑ 新 聞 上 の

事 は 恐 ら く は 正 直 な ら ざ る 事 も あ ら ん

︑ 併 し 以 後 は 第 六 聯 隊 の 事 多 く 出 で ん 十 二 月 四 日 午 前 手 紙 を 出 す

︑ 此 夜 前 哨 勤 務

︑ 岫 巖 北 方 に 砲 声 を 聞 く

︑ 鳳 凰 城 方 向 に や

︑ 寛 甸 縣 に や 分 ら す

︑ 此 日 藤 林 大 尉 大 孤 山 よ り 当 地 に 至 る 前 進 の 準 備 に や

︑ 第 六 中 隊 は 偵 察 と し て 析 木 方 向 に 行 く 十 二 月 五 日 此 日

︑ 防 寒 用 フ ラ ン ネ ル シ ャ ツ

︑ メ リ ヤ ス ズ ボ ン 一 着 渡 る

十 二 月 六 日 補 充 兵 中 隊 へ 十 一 名 来 る

︑ 宇 野 大 尉 手 紙 着 す

︑ 并 に 父 上 様 よ り の 四 通 切 手 と も 着 す

︑ 二 通 は 辰 次 郎 へ 送 る

︑ 光 田 軍 曹

︑ 前 田 亀 太 郎 来 る

︑ 名 古 屋 の 事 を 聞 く

︑ 虎 山 の 事 を 聞 く に 尤 も ウ ソ 多 し

︑ 大 迫 少 将 は 健 在 な り

︑ 青 山 忠 次 は

︱ 山 岡 金 蔵 中 尉 の 日 清 戦 争 従 軍 日 誌

(3)

死 せ し

︑ 第 六 聯 隊 の 第 一 大 隊 は 余 り 急 に 進 ミ 過 ぎ し な り

︑ 兵 卒 の 勇 気 賞 す べ し

︑ 第 十 八 聯 隊 の 佐 藤 大 佐 は 虎 山 の 戦 に 参 與 せ ず

︑ 辰 次 郎 今 朝 よ り 道 路 偵 察 と し て 牛 心 山 に 行 く

︑ 二 三 日 に て 帰 る 筈 な り 北 村 中 尉 は 大 孤 山 へ 補 充 兵 を 送 り て 来 る と 聞 く

︑ 十 二 月 七 日 師 団 は 岫 巖 へ 集 合 の 為 め

︑ 第 二 大 隊

︵ 第 八 中 隊 の 外

︶ は 鳳 凰 城 街 道 の 村 落 へ

︑ 第 三 中 隊 と 西 方 の 村 落

︵ 三 軒 屋

︶ へ 移 る 本 夕 師 団 長 及 旅 団 長 来 る

︑ 補 充 兵 九 名 又 中 隊 へ 来 る

︑ 前 日 の 補 充 兵 と 舟

︵ は し け

︶ に て 後 れ

︑ 路 に て 後 れ し も の な り

︑ 行 軍 力 は 補 充 隊 に て 演 習 あ ら ん 事 を 祈 る

︑ 北 村 中 尉 本 夕 着 す 補 充 大 隊 は 十 月 廿 五 日 の 虎 山 の 事 を 語 る に

︑ 僅 に 卅 米 突 位 退 却 せ し

︑ 大 西 千 秋 両 子 の 事 を 以 て 第 六 聯 隊 の 事 を そ し り

︑ 第 十 八 聯 隊 に 助 け ら れ し と 云 ふ が 如 き は

︑ 我 忠 死 者 に 對 し て 千 歳 の 残 念 な り

︑ 望 む

︑ 補 充 隊 の 幹 部 諸 君 は 戰 鬪 詳 報 に よ り

︑ 我 聯 隊 一 手 を 以 て 虎 山 の 敵 を 敗 り し 功 名 を

︑ 永 く 軍 旗 の 下 に 生 活 す る 兵 卒 に 貫 肝 す る 如 く 教 示 あ ら ん 事 を

︑ 近 頃 の 新 聞 に は 余 の 言 の 誣 な ら ざ る を 証 す

る を 得 し が

︑ 高 木 熊 二 郎 は 朝 鮮 の リ ュ ウ コ ン ド ー ま で 来 り 帰 国 す と 云 十 二 月 八 日 北 村 中 尉 を 旅 団 司 令 部 に 問 ふ

︑ 父 上 の 健 康 を 聞 き 承 り 候

︑ 安 心 せ り

︑ 同 中 尉 は 十 一 月 廿 一 日 廣 嶋 の 大 本 営 の 命 に て 補 充 兵 引 率

︑ 大 孤 山 港 に 来 る

︑ 同 氏 已 に 此 地 に 来 る と き

︑ 恰 も 我 隊 は 将 校 欠 乏 せ し 故

︑ 多 分 当 地 に 残 る 事 に な ら ん と 云 へ り

︑ 補 充 隊 諸 君 の 健 康 起 居 を 詳 に 致 候 一 書 を 托 す る 積 も り な り し が

︑ 同 氏 帰 ら ざ る 様 子 故 に 書 き た る 儘 發 せ ざ り し 十 二 月 九 日         岫 巖 出 發 五 里 半 本 日 午 前 十 一 時 出 發 し

︑ 析 木 城 に 進 む

︵ 糧 食 の 為 め に 十 一 時 の 出 發

︶ 六 の 第 一

・ 第 二 大 隊 と 第 十 八 聯 隊 第 一 大 隊

︵ 石 田 少 佐

︶ 砲 兵 第 六 中 隊

︑ 工 兵 一 小 隊

︵ 庄 田 少 尉

︶ 騎 兵 第 一 中 隊

︵ 一 小 隊 欠 く

︶ は 右 側 支 隊 と な る

︑ 六 の 第 三 大 隊 は 岫 巖 へ 残 る

︑ 第 十 八 聯 隊 の 第 三 大 隊 は 析 木 城 以 西 に 運 動 し て 蓋 平 城 の 敵 を 扼 止 す る の 任 を 帯 ぶ

︑ 此 夜 小 洋 河 の 上 流 を 渡 り 太 田 領 に 宿 す

︑ 夜 七 時 な り

︑ 天 黒 く 風 寒 く 半 は 夜 行 軍 の 如 く 人 馬 皆 疲 労 す

︑ 余 は き び か ら の 中 に 一 夜 を 明 せ り

︑ 大 寒 し 第 一 中 隊 長 村 山 大 尉 は リ ュ ー マ チ ス の 為 に 岫 巖 へ 帰 る

(4)

山 縣 中 尉 代 理 す 一 二 月 十 日 師 団 本 隊 は 第 六 旅 団 と 残 余 の 砲 騎 工 を 以 て 析 木 街 道 を 進 む 右 側 支 隊 は 太 田 領 よ り 図 上 に な き 道 を 進 み

︵ 山 間 の 道

︶ 牛 心 山 に 向 ふ

︑ 此 の 間 雪 深 く 五 寸 道 路 悉 く 氷 の み

︑ 黄 家 堡 子 に 行 き し と き

︑ 土 民 柴 を 路 上 に 出 し 火 を 焚 く

︑ 依 て 少 時 暖 を 得 た り 牛 心 山 に 着 せ し は 午 後 七 時 な り

︑ 民 家 に 入 る

︑ 此 日 第 一 大 隊 前 衛 と な り

︑ 第 一

・ 第 二 中 隊 は 前 哨 と な る 午 後 の 四 時 よ り 夜 十 一 時 ま で は 敵 の 騎 兵 に 出 會 し

︑ 歩 兵 も 五 六 十 人 あ り て 前 哨 は 静 粛 な ら ず

︑ 負 傷 者 な し 十 二 月 十 一 日   五 里 午 前 六 時 半 整 列

︑ 十 時 第 二 大 隊 前 衛 と な り て 進 む

︑ 雪 中 の 行 進 の み

︑ 黒 峪 は 急 な る 坂 路 の 為 め に 人 馬 氷 の 為 め に 通 ぜ ず

︑ 兵 卒 一 人 づ つ き び が ら を 持 ち 道 へ 敷 き 漸 く 坂 を 下 る こ の 黒 峪 の 西 方 に 敵 兵 約 二 千 人 を 見 る

︑ 悉 く 整 列 し て 旗 を 立 て 山 上 に あ り

︑ 我 騎 兵 に 向 て 射 撃 す

︑ 余 左 翼 へ 将 校 斥 候 に 出 て 高 き 山 に 上 り し 故

︑ 安 心 に 敵 の 観 兵 式 を な し た り

︑ 凡 そ 二 時 間 に し て 我 前 衛 本 隊 の 展 開 を 見 て

︑ 遼 陽 城 の 方 向 へ 退 却 せ り

此 日 本 道 上 の 銃 声 甚 だ し

︑ 後 に て 聞 け ば 大 島 久 直 少 将 と 榊 原 参 謀 少 佐 と 敵 情 を 偵 察 す る 時

︑ 榊 原 参 謀 は 敵 の 為 め に 右 腹 を 打 貫 か れ し

︑ 其 他 兵 三 名 負 傷 す る の み 此 日 の 敵 は 南 北 両 道 よ り 析 木 に 向 け 敗 走 す

︑ 明 朝 は 右 側 支 隊 は 本 隊 と 析 木 を 合 撃 す る 筈 な り 紅 花 谷 に 一 宿 す 十 二 月 十 二 日   五 里 午 前 六 時 三 十 分 出 發

︑ 午 前 八 時 我 騎 兵 は 析 木 城 に 入 る

︑ 敵 は 已 に 海 州 城 に 退 却 す

︑ 我 支 隊 は 師 団 に 合 し 第 六 旅 団 に 続 行 し て 缸 窖 村

︵ 揚 家 廬 の 南 析 木 の 北 二 里

︶ に 一 宿 す 又 々 食 品 に 乏 し く 小 豆 二 合 白 米 四 合 是 れ 一 日 分 な り 天 寒 く 河 水 皆 氷 と な り

︑ 道 路 田 畑 山 川 皆 雪 と 氷 の み

︑ 人 は 氷 の 上 を す べ り

︑ 或 は は い 行 く も 馬 は 皆 倒 れ て 行 く 能 は ず

︑ 殊 に 析 木 以 東 の 河 の 如 き は 人 馬 と も こ ろ ば ざ る も の な し

︑ 顛 倒 す れ ば 立 つ 能 は ず

︑ 漸 く 雪 の 深 き 所 へ 匍 伏 し 行 き て 立 つ 有 様 は 誰 も 笑 は ざ る な し

︑ 笑 ふ も の 又 倒 れ

︑ 丁 度 象 棋 倒 れ の 有 様 は 何 と 申 し て よ ろ し き や

︑ 殊 に 砲 兵 の 如 き は 馬 の 倒 れ る と き は 已 む を 得 ず 十 字 鍬 に て 氷 を 破 り 土 を 置 き て 馬 を 起 す な ど ま こ と に 大 困 難 な り し 余 は 幸 に 暖 国 に 生 れ し 故 に 呼 吸 の 氷 る 事 は 知 ら ざ り し が

︑ 本 日 の 如 き は 口 ひ げ 又 は 息 呼 の か か る 所 は 悉 く 氷 の 花 を

(5)

結 び 人 々 口 の 近 傍 は つ ら ら を 作 り 候

︑ 殊 に 鼻 の 穴 に 氷 が 張 り

︑ は な く そ と 思 ひ て 指 に て 掘 れ ば 皆 氷 な る に は 我 兵 卒 等 も 皆 驚 き た り

︑ 故 に 止 れ ば 皆 火 を た き 居 ら ね ば 寒 さ に 耐 へ ら れ ず

︑ 土 人 に 聞 け ば 是 れ よ り は 大 抵 毎 日 此 の 如 し と

︑ 平 然 と し て 話 を な す に は

︑ 海 州 城 は 是 れ よ り 北 な り

︑ 如 何 な ら ん と 心 配 す

︑ 北 海 道 の 寒 さ も 此 の 如 き も の な ら ん か

︑ 耳

・ 手 先

・ 足 先 は 覚 え は 更 に な か り し

︑ 皆 氷 に て は れ し な り

︑ く さ る な り

︑ 此 夜 豚 一 匹 を 捕 へ 鶏 三 羽 と か ら き 味 噌 に て た き 夕 食 せ ず に 翌 朝 ま で 疲 労 し て 眠 る 今 日 の 模 様 に て は 最 早 戦 争 は 出 来 ず 此 日 大 阪 朝 日 新 聞 十 一 月 十 五 日 の 分 を 道 に て 拾 ひ た り

︑ 虎 山 の 事 を 記 せ り

︑ 是 に て 大 抵 虎 山 の 事 は よ し

︑ 大 迫 枝 隊 の 活 動 と は 我 第 六 聯 隊 な り

︑ 第 六 聯 隊 は 第 一 大 隊

・ 第 二 大 隊 が 第 一 線

︑ 第 三 大 隊 は 第 二 線 に て あ り し 十 二 月 十 三 日       五 里 位 午 前 六 時 三 十 分 出 発

︑ 海 州 城 に 向 ふ

︑ 第 十 九 聯 隊 は 前 衛

︑ 海 州 城 南 一 里 に し て 敵 に 遭 遇 し

︑ 僅 か に 小 戦 闘 あ り

︑ 負 傷 四 名 あ り し の み

︑ 敵 兵 退 却 す

︑ 他 聯 隊 は 戦 は ず 此 日 前 日 に 劣 ら ざ る 寒 気 に 殊 に 雪 ふ ら ざ る も 半 雪 の 大 風 身 体 き ら る る 思 ひ あ り 敵 将 聶 士 成 は 又 退 却 せ り

︑ 蓋 平 縣 よ り 来 り し 敵 の 歩 兵 千

五 百 騎 兵 百 と 砲 若 干 は 我 軍 の 海 州 城 に 入 る を 見 て 海 州 の 西 方 を 横 切 り 牛 荘 方 向 へ 退 走 せ り 海 州 城 に あ り し 敵 は 三 千 人

︑ 米

・ 小 豆

・ 等 を 貯 へ た り

︑ 悉 く 分 捕

︑ 土 民 は 皆 順 民

︑ 日 本 国 帝 民 順 な ど 云 へ る 字 を 旗 又 は 紙 に 記 し 皆 門 戸 に 出 て ゝ 歓 迎 す 第 一 大 隊 は 俄 に 前 哨 に 任 ぜ ら れ

︑ 海 州 城 西 北 牛 荘 街 道 を 警 戒 せ し が

︑ 白 雪 深 さ 一 尺 四 五 寸

︑ 殊 に 夜 間 十 時 よ り 十 二 時 に 亙 り 前 哨 の 位 置 変 換 し て

︑ 牛 荘 と 営 口 の 街 道 間 を 警 備 す る 事 と な り し が 為 め

︑ 兵 卒 等 も 夜 二 時 に 夕 食 を 喫 せ り

︑ 以 て 其 困 苦 を 見 る べ し

︑ 余 は 小 哨 長 と な り

︑ 前 哨 の 張 る 線 も 夜 の 事 な れ は 分 ら ず

︑ 白 雪 の 中 山 川 と も 分 明 な ら ず

︑ 道 路 も 亦 然 り

︑ 翌 朝 見 れ ば 各 前 哨 区 と も 何 れ と も 面 白 く 可 笑 き 程 重 れ る 歩 哨 線 な り し と

︑ 人 生 の 疲 労 の 極 点 な り し 事 知 ら る べ し 十 二 月 十 四 日 敵 は 蓋 平 城 の 街 道 に て 截 子 嶺 に 来 る

︑ 第 十 八 聯 隊 の 第 一 大 隊 は 依 て 析 木 城 へ 行 き 之 を 扼 止 せ ん と す

︑ 午 後 一 時 前 哨 よ り 帰 る

︑ 海 州 城 へ 入 る 海 州 城 は 方 十 三 四 町 も あ る 城 に し て

︑ 作 り 方 は 岫 巖 の 如 く に て 五 倍 以 上 も 大 な り

︑ 市 街 も 皆 城 内 に あ り

︑ 西 洋 人 も 住 め り

︑ 耶 蘇 教 も 流 行 す と 見 へ 宣 教 師 あ り

︑ 又 人 民 の

(6)

中 に 耶 蘇 教 民 と 門 戸 に 記 す も の あ り

︑ 城 内 の 市 民 は 大 抵 家 に あ り て 戸 を 閉 づ

︑ 是 れ は 清 兵 の 略 奪 に 逢 ひ し 為 め な り と 云

︑ 大 な る 造 家 多 し

︑ 人 口 は 七 八 万 も あ る な ら ん

︑ 此 地 は 満 州 八 旗 兵 の あ る 所 に し て 士 族 等 多 し

︑ 道 幅 狭 き も 人 家 は 概 し て 清 潔 な り

︑ 人 民 の 掃 除 を な す も の あ れ ば な り

︑ 土 民 の 婦 女 は 我 を 見 て 大 に 怕 れ 何 れ も 三 拝 九 拝 し て 宿 舎 を 拒 絶 し

︑ 涙 泣 の 段 は 気 の 毒 の 位 な り

︑ 日 本 軍 大 勝 利 民 順 と は 筆 談 し 得 る も の 常 に 記 す る 所 な り

︑ 城 門 五 個 あ り

︑ 一 々 告 示 を 張 り 人 民 を 安 撫 す

︑ 土 民 来 り 謝 す る 者 多 し 十 二 月 十 五 日     敵 は 牛 荘 街 道 の 三 台 子 に あ り

︵ 四 里 西 北

︶ 我 が 騎 兵 の 二 人 を 梟 首 す と 云

︑ 後 に て 聞 け ば 第 二 中 隊 永 井 中 尉 の 騎 卒 に て 斥 候 に 出 て 打 た れ た る 兵 な ら ん と 馬 玉 崑 の 間 諜 二 十 人 海 州 城 に 入 る と

︑ 依 て 城 門 内 外 の 支 那 人 の 交 通 を 禁 じ 支 那 人 を 取 調 べ る 事 と な る

︑ 支 那 製 の 菓 子 及 砂 糖 を 買 入 る

︑ 菓 子 は 何 れ も 油 に て あ げ た る 者 な り

︑ 昨 夕 及 今 日 の 両 度 砲 兵 第 四 中 隊 成 田 大 尉 よ り 使 来 る

︑ 三 好 収 死 亡 の 事 な り

︑ 以 下 之 を 述 ぶ

︑ 之 を 三 好 家 へ 写 し て 送 ら れ た し 去 る 十 日 岫 巖 出 發 の と き 少 々 風 邪 気 な り し や 医 師 の 診 断

を 受 け ず と 云 十 一 日 十 二 日 雪 中 行 軍 に て 困 難 せ し が 我 慢 し て 夜 深 く 宿 に 付 く

︑ 成 田 大 尉 よ り 診 断 受 け と 云 ふ も 強 情 に て う け ず

︑ 早 く 一 戦 し た し と 云 ふ の み

︑ 殊 に 十 二 日 は 夜 四 時 に 宿 へ 付 く

︑ 成 田 大 尉 は 大 行 李 と 共 に 後 よ り 進 め 無 理 す べ か ら ず と 命 令 せ り 十 三 日 尤 も 後 れ た り 大 行 李 は 遂 に 到 着 せ ず

︑ 成 田 大 尉 は 看 護 手 一 人 を 迎 ひ に 遣 は し

︑ 若 し 病 気 な れ ば 早 く 申 来 る べ き を 以 て せ り

︑ 三 好 は 熱 の 為 め に 歩 行 も 充 分 な ら ず

︑ 依 て 看 護 手 に 助 け ら れ 途 中 に て 一 泊 せ り 十 四 日 三 好 は 早 く 海 州 に 行 か ん と 云 ひ し よ り 看 護 手 は 助 け て 海 州 に 来 る 途 中 午 前 一 時 途 中 民 家 に 休 み た る と き 呼 吸 切 迫 し 曰 く 放 列 の 敷 き 方 悪 し

︑ 曰 く 早 く 彼 の 敵 を 照 準 せ よ な ど の 浮 言 を 言 ひ つ つ 遂 に 永 眠 す 十 五 日 午 後 一 時 海 州 城 南 の 山 に 南 向 き に 火 葬 す

︑ 墓 標 を 立 つ 蕎 麦 山 と 云 ふ 山 に 葬 る 成 田 大 尉 我 に 此 事 を 語 り

︑ 且 つ 曰 く

︑ 我 も 亦 三 好 家 の 事 を 知 る

︑ さ れ ど 此 寒 気 に て 本 人 行 か ん と し て 止 ま る 事 を せ ず

︑ 手 を 尽 し た る 甲 斐 も な し

︑ 良 兵 を 失 へ り

︑ 恩 給 の 都 合 あ れ ば 熱 病 な れ ど 凍 死 と 云 ふ 届 に な し た り

︑ 乃 ち 十 三 日 の 大 行 李 の 監 督 に て 公 務 の 為 め に 死 せ し 様 に す れ ば

(7)

其 積 り に 思 ふ て く れ

︑ 久 々 本 人 を 依 頼 せ ら れ な が ら 一 戦 せ ず に 死 せ し こ そ 悲 し け れ と

︑ 余 は 大 尉 同 行 し て 死 骸 に 香 料 を 供 へ し が 憐 れ み も 三 好 収 は 黒 く 煤 け た る 如 く な り 居 れ り

︑ 熱 病 な る 事 明 な り

︑ 依 て 同 行 火 葬 し て 墓 に 葬 る 大 小 刀 二 本 と 私 金 は 成 田 大 尉 へ 預 け 帰 朝 の 後 に 國 へ 送 る

︑ 私 物 品 は 加 古 軍 曹 へ 托 し 置 く 事 と せ り

︑ 何 分 我 も 荷 物 多 し

︑ 砲 兵 は 馬 あ る 故

︑ 此 く せ り

︑ 遺 髪 と 骨 は 幸 便 以 弟 に 送 る 様 成 田 大 尉 に 談 じ 置 く 十 二 月 十 六 日 前 哨 相 当

︑ 追 送 品 は 来 る 見 込 な し

︑ 依 て 兵 卒 に も 支 那 靴 を 買 ひ て は か し む 此 地 に 善 後 局 を 置 く

︑ 第 六 旅 団 の 一 士 官 と 兵 若 干 と を 以 て 成 る 逓 歩 哨 を 設 け 公 用 郵 便 だ け 通 す

︑ 私 用 は 通 ぜ ず

︒ 日 中 と 雖 当 地 雪 融 け ず 窓 の ガ ラ ス は 呼 吸 の 氷 に て 外 は 終 日 見 へ ず

︑ 当 地 高 き び の み

︑ 材 木 炭 な し

︑ 冬 営 中 は 定 め て 二 三 軒 も 家 を 焼 か ね ば な ら ざ る べ し 鶏

︑ ア ヒ ル

︑ 豚

︑ 羊

︑ は 三 四 十 も 手 に 入 れ た り

︑ 第 二 中 隊 は 偵 察 に 出 発 す 十 二 月 十 七 日 切 子 嶺 の 敵 は 退 却 せ り

︑ 十 五 日 午 前 十 時 大 家 堡 子 に 於 て

谷 岡 大 尉 の 報 告

︑ 昨 十 四 日 午 前 早 く 大 石 橋 を 發 し 八 叉 溝 に 向 て 帰 来 す る 土 人 を 捕 へ 訊 問 せ し に

︑ 大 石 橋 を 發 す る 頃 敵 将 馬 瑞 慶 約 千 人 の 兵 を 率 ひ 東 方 よ り 大 石 橋 に 入 り 来 り

︑ 又 其 途 中 続 々 大 石 橋 に 入 る 兵 を 見 た り

︑ 依 て 此 土 人 は 彼 等 を 避 け ん 為 め 大 家 堡 子 に 通 ず る 二 道 中 北 の 道 を 取 り し と

︑ 此 敵 は 何 れ よ り 来 り し や 知 ら ず と 今 朝 六 時 よ り 出 し た る 海 州 城

・ 大 石 橋 に 通 ず る 北 路 各 一 里 半 及 石 柱 溝 の 方 面 は 無 事

︑ 緑 家 堡 子 へ 敵 騎 五 六 の 跡 あ り

︑ 八 叉 溝 へ は 日 々 敵 兵 徴 發 に 来 る と

︑ 島 少 佐 の 情 報   岫 巖 よ り 出 し た る 間 諜 の 報 に 蓋 平 城 に は 宋 慶 の 兵 千 二 百 人

︑ 清 大 人 の 兵 二 千 人

︑ 聶 大 人 の 兵 二 千 人

・ 猛 虎 兵 千 五 百 人

︑ 複 州 よ り 来 り た る 兵 五 百 人 合 し て 七 千 五 百 人 蓋 平 よ り 乾 馬 河 子 を 経 て 析 木 城 に 帰 る 途 中 八 岔 溝

︵ 八 叉 溝 と も 云

︶ の 西 南 に て 蒋 大 人 の 敗 兵 千 人 余 を 見 た り

︑ 章 某 は 三 年 前 海 城 の 知 縣 な り し が

︑ 蓋 平 に 至 り 兵 に 従 事 す る 事 を 命 ぜ ら れ し も

︑ 辞 し て 任 に 趣 か ず と 探 聞 せ り 宋 慶 は 二 万 の 兵 を 率 ひ 老 屯

︵ 分 水 堡 の 北 方

︶ に あ り

︑ 析 木 に あ る 第 十 八 聯 隊 の 第 一 大 隊 を 営 城 子 に 招 致 す

︑ 此 夜 何 時 敵 襲 あ る や も 知 れ ず と て 一 夜 安 眠 せ ず 立 見 旅 団 は

︑ 范 家 台 と

﹁ ニ ド ー ボ ー シ

﹂ の 間 に 於 て 敵 騎

(8)

五 百

・ 歩 兵 二 千 五 百 に 出 会 し 激 戦 突 貫 の 後

︑ 午 後 一 時 半 敵 を 撃 退 す

︑ 我 死 傷 六 十

︑ 敵 の 死 骸 百 余

・ 十 二 日 塞 馬 集 道 よ り 鳳 凰 城 に 向 ひ 敵 兵 約 四 千 人 襲 来 す

︑ 友 安 大 佐 は 十 三 日 攻 勢 防 禦 を 取 り 十 四 日 午 前 六 時 半 よ り 敵 の 左 側 を 攻 撃

︑ 激 戦 の 後 十 時 三 十 分 大 に 之 を 敗 る

︑ 長 岑 ま で 追 撃 敵 兵 潰 走

︑ 我 死 傷 七 十 三

︑ 敵 の 死 傷 分 捕 詳 な ら ず

︑ 敵 は 黒 竜 江 の 兵 に て 虎 将 軍 之 を 率 ゆ

︑ 捕 虜 四

︑ 分 捕 大 砲 四

︑ 支 隊 は 目 下 革 河 口 に あ り て 磨 天 岑 地 方 の 敵 を 牽 制 す 十 七 日   日 本 酒 一 合 づ つ 渡 る 十 二 月 十 八 日 午 前 九 時 第 三 中 隊 は 騎 兵 一 小 隊

︵ 遠 藤 中 尉

︶ と 共 に 紅 瓦 塞 に 向 て 敵 情 を 偵 察 す る の 任 を 受 け

︑ 即 時 出 発

︑ 破 厰

︵ 海 州 よ り 二 里 半

︶ に 至 る

︑ 敵 兵 千 五 百 騎 兵 五 百 蓋 家 屯 に あ り と 土 人 に 聞 く

︑ 依 て 攻 襲 を な す

︑ 敵 兵 二 百 我 に 應 戦 連 発 せ り

︑ 旅 団 長 聯 隊 長 は 後 方 の 山 に 居 り 之 を 見 る に 恰 も 二 千 人 位 の 兵 我 を 抱 囲 す る か 如 し

︑ 依 て 北 村 中 尉 を し て 我 退 却 を 掩 護 せ し め ら る

︑ 我 中 隊 は 傷 者 五 人

︵ 味 岡 一

︑ 田 中 岩 太 郎

︑ 下 地 音 吉

︑ 森 安 次 郎

︑ 山 本 四 郎 吉

︑ 何 れ も 軽 傷

︶ あ る の み に て 退 却 水 鴨 屯 に 至 り 報 告 し

︑ 茲 に 一 泊 す 十 二 月 十 九 日 師 団 は 本 日 蓋 家 屯 の 敵 を 攻 撃 す

︑ 蓋 家 屯 に 至 り し も 敵 は

已 に 紅 花 塞 に 退 却 せ り

︑ 師 団 長 は 已 に 海 州 城 に 帰 ら ん と し 第 六 旅 団 も 帰 ら ん と す 大 迫 少 将 は 之 を 追 撃 せ し に 紅 花 塞 に は 敵 兵 一 万 五 千 以 上 も あ り

︑ 依 て 大 激 戦 と な る 江 尾 塞 の 近 傍 は 二 千 米 突 の 編 ん だ に 一 畝 計 り の 松 林 あ る 外 は 一 他 物 な く

・ 以 上 の 所 に て 道 路 も 一 尺 以 上 の 雪 あ り

︑ 支 那 家 屋 の 囲 壁 は 堅 固 成 る 上 に 銃 眼 を 穿 ち

□ に し て 防 せ り

︑ 故 に 我 兵 は 死 傷 四 百 十 二 人 に し て 敵 の 死 傷 は 少 し 僅 に 三 十 四 の 死 骸 を 見 し の み

︑︵ 配 置 図 と 家 屋 の 土 塀 の 図   省 略

︶ 傷 者 は 多 く 運 び 去 り

︑ 死 者 は 雪 中 に 埋 め し 模 様 あ り

︑ 敵 砲 は 四 門 な れ ど 速 射 砲 な り

︑ 敵 将 は 宋 慶 に し て 銘 字 軍 に て 小 口 径 の 連 発 銃 を 用 ゆ 敵 は 退 却 中 な り し が 引 返 し

︑ 凡 そ 一 万 人 位 に て 我 兵 は 五 千 に 満 た ず

︑ 午 後

〇 時 三 十 分 に 始 ま り

︑ 銃 声 天 地 を 動 か す

︑ 二 時 頃 に 凡 そ 五 十 分 程 休 戦

︑ 日 西 山 に 没 す る ま で は 両 軍 と も 一 歩 も 進 ま ず

︑ 一 歩 も 退 か ず

︑ 地 物 な き 雪 の 中 の 事 な れ ば 運 動 快 速 な ら ず

︑ 午 後 五 時 頃 よ り 漸 次 我 軍 は 前 進 し 進 ま ざ る 兵 は 斬 れ と ま で 号 令 せ り

︑ 此 戦 の 詳 況 は 東 京 日 々 新 聞 の 新 井 由 三 郎 へ 詳 し く 教 へ た れ ば 同 新 聞 に て 苦 戦 の 事 を 知 ら れ よ

︑ 東 京 の 都

・ 自 由  

︑ 日 本 の 記 者 に も 同 席 に て 話 を な せ り

(9)

負 傷

︑ 岡 本 少 佐

︵ 右 肩 に て 骨 に 当 ら ず

︶ 千 秋 中 尉

︵ 足

︶ 柴 山 中 尉

︵ 足

︑ 砲 弾 に て

︶ 第 一 大 隊 下 士 以 下 死 傷 五 十 余

︑ 第 十 九 聯 隊 に て は 森 川 大 尉

・ 塚 本 大 尉

・ 高 島 中 尉

・ 平 岡 中 尉

︑ 第 七 聯 隊 青 木 八 郎 中 尉

︑ 死 三 浦 少 尉

︑ 第 十 八 聯 隊 大 村 少 尉

・ 三 宅 中 尉 外 一 名

︑ 将 校 は 何 れ も 軽 傷

︑ 岡 本 大 隊 長 は 敵 を 破 り 村 を 取 る 前 に て あ り し

︑ 伏 し て 居 ら れ し が 右 肩 を 上 け る と 同 時 に 良 し 来 た と 云 は れ し と き 中 り し な り

︑ 佐 の 菊 松 と 大 脇 鉾 麿 が 繃 帯 所 に つ り 送 る

︑ 軽 傷 な り

︑ 今 十 日 を 経 ば 快 復 せ ん 我 中 隊 は 前 日 の 戦 に て 第 二 線 な り し が 又 は 左 側 に て 敵 の 退 路 に 迫 れ と の 事 に て

︑ 雪 中 に 戦 ひ

︑ 敵 砲 二 門 と 組 打 同 様 な り し 故

︑ 此 激 戦 否 苦 戦 中 の 楽 隠 居 な り し が

︑ 砲 一 発 我 直 前 六 尺 の 所 に 落 ち

︵ 砲 弾 は 終 始 我 に 向 ひ て 射 る

︶ 三 尺 程 前 に あ り し 小 隊 の 坂 野 代 の 助 は 頭 を 砕 か れ 即 死

︑ 戸 嶋 仲 次 郎 は 胸 と 左 腕 に 中 り

︑ 翌 日 死 亡

︑ 田 中 忠 次 郎

・ 伊 藤 松 次 郎

・ 花 井 由 二 郎 は 何 れ も 顔 に 破 片 を 受 く

︑ 我 と 中 山 才 の 助 は 土 と 雪 と を か ぶ り し が 幸 に 中 ら ざ り し

︑ 虎 山 と 云

︑ 此 度 と 云 ひ

︑ 我 は 小 銃 弾 よ り も 砲 弾 の 害 を 受 く る 事 多 き 身 と 見 へ る

︑ 小 銃 弾 は ピ ュ ピ ュ と 云 ひ

︑ 砲 弾 は ブ ー ン と 云 ひ 来 る 故 如 何 に も 恐 ろ し く 感 ず る な り

︑ 中 隊 で は 我 小 隊 五 人 の 外 は 無 傷

日 暮 れ の と き は 陛 下 万 歳 の 声 を 擧 げ て 紅 瓦 塞 一 万 以 上 の 敵 を 突 貫 し た り

︑ 敵 兵 潰 走 せ り

︑ 嗚 呼 此 時 こ そ は 生 き た る 心 持 こ そ な し た り け り

︑ 此 時 紅 瓦 塞 二 個 所 に 火 を 付 け て 去 る

︑ 我 兵 軍 歌 と 万 歳 を 唱 ふ 雷 の 如 し 師 団 長 旅 団 長 相 見 て 勇 武 を 賞 揚 し 光 輝 あ る 戦 闘 と こ そ 云 は れ た り

︑ 其 夜 海 州 城 へ 帰 る

︑ 第 四 中 隊 は 止 り て 前 哨 第 一

・ 第 五 中 隊 は 戦 地 掃 除 隊 此 夜 十 時 紅 瓦 塞 出 發 せ し が

︑ 月 な く 雪 深 く 道 に 迷 ひ 激 戦 の 雪 中 を 通 り し と き

︑ 数 百 の 負 傷 者 は 廣 き 雪 中 に 凍 え て 死 す る も の あ り

︑ 或 は 隊 を 見 て 呼 び 泣 く あ り

︑ 助 け 呉 れ と 云 ふ 声 は 彼 の 石 黒 軍 医 総 監 が 幻 燈 に て 示 せ し 赤 十 字 社 の 死 傷 捜 が し の す ご き よ り も 一 層 に て

︑ 凱 旋 と は 云 ひ 乍 ら 此 声 を 聞 き と き は 誰 一 人 も 泣 か ざ る も の な し

︑ 翌 午 前 六 時 漸 く 我 は 諸 隊 の 先 頭 に て 海 城 に 帰 り し が

︑ 我 軍 は 悉 く 凍 瘡 を 起 し 一 二 日 を 経 る も 帰 り 得 ざ る 者 あ り

︑ 我 も 足 は れ 歩 行 充 分 な ら ず

︑ 兵 卒 は 足 の 先 の く さ り

︵ は れ て 水 ぶ く れ と な り た る 後

︶ た る も の す ら 中 隊 に て 五 十 余 人 を 生 ぜ り

︑ 寒 気 の 強 き 御 察 し を 乞

︑ 砲 兵 は 馬 過 半 雪 中 に 倒 れ 途 中 に て 一 泊 す る 事 と な れ り

︑ 此 戦 争 此 寒 氷

︑ 日 本 男 子 を し て 無 量 の 感 を 起 さ し む

︑ 日 々 新 聞 新 井 由 三 郎 の 通 信 を 見 て 其 景 況 を 比 較 せ ら れ よ

(10)

十 二 月 二 十 日 北 村 中 尉 の 第 五 中 隊 附

︑ 午 前 十 時 半 ま で 寝 る

︑ 十 二 時 よ り 前 哨 地 に 趣 く

︑ 足 の は れ ざ る も の 一 人 も な し

︑ 已 む を 得 ず 大 患 者 五 十 人 を 残 し

︑ 残 り を 無 理 に 率 ひ 行 く

︑ 半 里 位 の 処 を 二 時 間 に て 交 代 す

︑ 兵 の 疲 労 は 極 点 を 今 日 と す 十 二 月 二 十 一 日 唯 前 日 来 の 疲 労 に て 人 々 眠 む る 計 り

︑ 唯 時 々 紅 瓦 塞 方 向 に 砲 声 と 銃 声 を 聞 き

︑ 杖 つ き な が ら 山 に 上 り 見 れ ば 何 に も 見 へ ず

︑ 土 人 を 捕 へ て 聞 け ば 敵 は 籃 旗 溝 に 走 り し と

︵ 海 城 の 正 西 八 里

︶ 此 夜 聞 く

︑ 敵 は 遼 陽 街 道 上 我 地 を 去 る 五 里 に 鞍 山 店 に 敵 あ り と 二 千 人 位 の 由

︑ 又 戦 は ん か な 山 縣 大 将 よ り 析 木 及 海 州 城 攻 撃 の 結 果 満 足 す と 命 令 あ り

︑ 大 将 は 病 気 の 為 め 帰 国

︑ 野 津 中 将 第 一 軍 司 令 官 と な る

︑ 第 十 九 の 小 山 大 尉 少 佐 に

︑ 第 三 師 団 管 理 部 長 と な る

︑ 星 野 参 謀 は 少 佐 に

︑ 鋳 方 大 尉 は 第 三 師 団 参 謀 と な る 日 々 新 聞 の 新 井 由 三 郎 は 黒 田 甲 子 郎 の 手 紙 を 以 て 来 り

︑ 萬 事 報 知 の 事 を 依 頼 に 来 る

︑ 依 て 同 人 へ 紅 瓦 塞 の 戦 況 を 詳 し く 聞 か し 且 約 束 す る に 必 ず 新 聞 へ 漏 れ な く 出 せ と

︑ 日 本

︑ 都

︑ 自 由 新 聞 の 記 者 も 又 々 同 人 の 紹 介 を 以 て 来 る 故 に

︑ 同 諸 新 聞 は 我 が 述 べ し 事 を 書 き 送 る 筈 な り

十 二 月 十 六 日   午 後 十 二 時 三 十 二 分 析 木 城 發

︑ 渡 辺 少 佐 報 告 十 二 月 七 日 馬 頭 岑 よ り 孫 営 官 に 送 る 照 会 分 に よ る に

︑ 本 月 三 日 李 地 洋 大 臣 よ り 左 の 勅 書

総 署 へ 下 さ れ し 詔 勅

︶ を 転 送 せ り

︑ 倭 國 偽 謀 を 以 て 連 勝 し 探 偵 を 密 に し

︑ 又 重 賞 を 惜 ま ず 平 時 士 卒 を 優 給 し

︑ 戦 時 進 み て 退 く な し

︑ 我 軍 は 積 疲 振 は ず

︑ 勉 め て 速 か に 籌 整 す べ し

︑ 旅 順 窘 縮 十 余 日

︑ 敵 情 更 に 消 息 な し

︑ 李 鴻 章 に 命 じ 対 含 芳 宗 慶 を し て

︑ 速 か に 報 告 せ し め

︑ 且 つ 宗 慶 の 各 軍 に 通 じ

︑ 密 に 賊 情 を 探 り 厳 に 警 備 を 行 は し む べ し

︑ 平 時 士 卒 の 優 恤

︑ 戦 時 の 恩 賞

︑ 潰 敗 者 の 所 為 法 を し て 李 鴻 章 宗 慶 を し て 速 か に 協 議 を 遂 げ 之 を 各 軍 に 傳 へ し め

︑ 且 つ 其 次 第 を 電 奏 せ し む べ し

︵ 摘 択

︶ 十 七 日 の 記 事 次 き

○ 敵 は 更 に

﹁ ニ ド ー ボ ー シ

﹂ 附 近 の 山 を 固 守 せ る も 再 び 突 貫 し

︑ 午 後 四 時 遂 に 通 遠 堡 を 占 領 せ り

︑ 捕 虜 一

︑ 小 銃 四 十 五

︑ 其 他 弾 薬 を 遺 失 し 大 部 は 連 山 関 の 方 向 に 敗 走 す

︵ 去 る 十 日 立 見 枝 隊

△ 十 二 日 敵 は 四 千 を 以 て 襲 ひ 来 り

︑ 一 面 山 に 停 止 す 二 十 二 日 着 後 局 を 置 き 木 村 中 佐

︵ 砲 兵

︶ 島

︑ 渡 辺 両 少 佐 を し て 之 に 当 ら し め

︑ 人 民 を し て 店 を 開 か し む る 事 に 尽 力 せ し む

(11)

牛 荘 に あ る 佛 国 宣 教 師 は 清 兵 の 乱 掠 の 為 め

︑ 食 物 買 弁 の 為 に 当 地 に 来 る

︑ 以 て 栄 口 及 牛 荘 の 大 混 乱 を 見 る べ し

︑ 此 宣 教 師 は 師 団 の 保 護 を 受 け て 目 下 買 集 め 中 な り 戦 地 掃 除 隊 の 第 五 中 隊 の 薩 野 特 務 曹 長 曰 く

︑ 敵 は 紅 瓦 堡 の 西 北 一 里 の 所 へ 砲 一 門 を 捨 て 去 れ り

︑ 又 ジ ナ ミ ッ ト と 云 へ る 爆 発 薬 若 干 あ り し が 危 険 の 為 め に 井 中 に 投 入 れ た り

︑ 又 敵 の 死 骸 は 雪 中 に 埋 め し も の 多 し

︑ 傷 者 は 雪 車 に 乗 せ て 逃 去 ら し め た る は 敵 な が ら 感 心 の 処 置 な り

︑ 凍 へ た る 為 め に 多 く 我 傷 者 は 死 せ り

︑ 雪 中 呼 ば る 声 は 憐 れ な り と 紅 瓦 堡 に て は 少 し 糧 米 あ り し の み な れ ば 皆 粟 と 小 豆 と を 食 ひ て 前 哨 や 掃 除 隊 と な り 居 れ り 此 戦 は 元 と 蓋 家 屯 の 積 も り に て 該 地 に あ ら ざ り し 故 に

︑ 第 六 旅 団 及 師 団

︑ 大 行 李

︑ 衛 生 隊 等 は 海 城 へ 帰 り し に

︑ 第 五 旅 団 の 先 頭 は 敵 に 接 せ し 故

︑ 引 返 し 戦 ひ た り

︑ 此 時 は 既 に 四 時 頃 な り

︑ そ れ 迄 は 第 六 聯 隊 第 一 第 二 大 隊 と 第 十 八 聯 隊 の 第 一 大 隊 と の み に て 戦 ひ し

︑ か れ は 第 六 旅 団 の 戦 に 加 る や

︑ 全 く 無 茶 苦 茶 の 配 備 と な り

︑ 否 交 雑 増 加 と な り

︑ 隊 形 と て 明 に 配 備 せ し も の に あ ら ず

︑ 而 し て 突 貫 す る や 正 面 よ り 強 攻 せ し も の な れ ば 第 十 九 聯 隊 の 第 七 中 隊 の 如 き は

︑ 将 校 一 名 兵 五 十 名 計 り

︑ 死 傷 せ ざ る の み

な り し

︑ 各 中 隊 と も 何 れ も 十 四 五 名 以 上 の 死 傷 あ り

︑ 重 ね て 申 さ ば

︑ 実 に 無 謀 の 強 攻 戦 な り し

︑ 若 し 一 逆 襲 あ れ ば 恐 ら く は 全 敗 せ し 事 な り し な ら ん

︑ 大 勝 と は 申 せ 実 に 勝 ち し は 大 幸 な り

︑ 以 上 の 次 第 に て 衛 生 隊 の 戦 地 へ 来 る 事 遅 く 為 め に 無 残 の 死 を な せ し も の 多 し 二 十 三 日 敵 は 牛 荘 の 西 北 方 田 庄 台 へ 敗 走 せ り

︑ 大 将 宋 慶 も 之 に あ り と

︵ 海 城 西 北 十 二 三 里

︶ 本 日 の 食 物 は 米 二 合 小 豆 四 合 を 一 日 分 と す

︑ 又 前 哨 と し て 西 山 へ 行 く 二 十 四 日 前 哨 よ り 帰 る

︑ 辰 次 郎 に 面 会

︑ 不 相 変 無 事

︑ 大 隊 長 愈 快 癒

︑ 柴 山 中 尉 の 足 が 少 し 重 い

︑ 生 命 に は 係 ら ず

︑ 本 日 の 米 は 前 日 の 通 り 十 五 人 分 に 腕 程 の 薪 一 本 ね ぎ 小 さ き も の 三 本 渡 る

︑ 日 本 軍 兵 は 如 何 し て 生 活 す べ き

︑ 已 む な く 掠 奪 し て 火 食 す る の 外 な し 人 夫 の 米 を 運 ぶ も の 米 を 盗 む

︑ 依 て 首 を 斬 る 外 に 支 那 の 人 足 一 人 同 様

︑ 当 然 の 事 な り 飯 田 一

□ 氏

よ り 十 一 月 十 八 日 の 手 紙 受 取 り

︑ 何 分 宜 敷 御 世 話 を 願 仕 り 別 に 返 事 上 げ ま せ ん 日 本 よ り 補 充 兵 は 大 同 江 へ 上 陸 す と 云 へ ば 当 時 は 何 地 に あ る か

︑ 何 れ 一 月 下 旬 に 当 隊 に 加 れ ば 宜 し い が

︑ 陸 行 百

(12)

四 五 十 里 も あ れ ば 此 寒 中 の 行 軍 は 中 々 大 儀 な ら ん 此 夜 日 々 新 聞 社 の 新 井 由 三 郎 を 呼 寄 せ た り

︑ 此 人 遅 く 夜 来 る

︑ 依 て 余 り の 日 本 酒 を 与 へ た れ ば 大 慶 せ り

︑ 此 新 井 へ 三 好 の 事 や 我 中 隊 兵 卒 の 勇 戦 者 等 の 事 を 話 せ り

︑ 新 井 も 日 々 退 屈 の 事 多 け れ ば 時 々 来 る と 云 ひ て 十 二 時 過 ま で 話 せ り

︑ 依 て 日 々 新 聞 を 取 り

︑ 御 覧 を 乞 ふ 当 地 に 新 聞 記 者 十 一 人 来 り 居 る

︑ 過 日 の 紅 瓦 塞 の 戦 の と き に 先 頭 に あ り し 新 聞 記 者 は 激 戦 を 恐 れ て 後 へ 退 き 其 他 の 記 者 は 後 よ り 来 り 詳 し く 始 め の 事 を 知 ら ず

︑ 又 夕 景 に て 日 光 射 眼 し 敵 の 事 も 詳 し く 分 ら ざ り し と 云 へ り 敵 の 死 傷 者 百 五 六 十 名 を 発 見 せ り

︑ 其 他 は 持 去 り し 事 と て 今 調 べ 中 な り 二 十 五 日 本 日 午 後 軍 事 郵 便 を 出 す

︑ 本 日 朝 第 十 九 聯 隊 の 一 小 隊 と 騎 兵 は 高 刊

︵ 坎

︶ に 向 ひ

︑ 敵 あ ら ざ る 中 を 偵 察 す

︑ 本 日 二 六 新 聞 記 者 来 り 勇 戦 者 を 聞 き に 来 る 筈 な り 平 壤 の 戦 に 玄 武 門 を 開 き し 原 田 重 吉 と 云 ふ 第 十 八 聯 隊 の 兵 は 無 之

︑ 何 等 の 事 よ り 間 違 し や

︑ 玄 武 門 を 開 き し は 第 十 八 聯

︵ 隊 欠

︶ 第 一 大 隊 の 三 村 中 尉 の 隊 卒 三 四 名 な り し 今 日 よ り 一 月 元 旦 ま で 僅 か に し て 芽 出 度 廿 八 年 の 春 を 清 国 盛 京 省 海 城 縣 の 城 郭 内 に 迎 へ 候

︑ 皆 々 様 御 清 福 御

超 歳 可 被 遊 候

︑ 野 戦 郵 便 は 当 地 よ り 發 送 不 出 来 年 賀 状 も 差 出 兼 候

︑ 無 事 健 康 に 越 年 仕 候 儀 諸 家 様 へ 御 傳 言 被 成 下 度 候 謹 言 明 治 廿 七 年 十 二 月 廿 五 日   午 後 四 時 記 し 終 る 金 蔵 拝

︵ 印

︶ 清 国 盛 京 省 海 城 縣 に 於 て 父 上   様 飯 田 君

・ 岡 本 君 へ   并 に 中 野 大 尉 殿 を 始 め 補 充 隊 の 諸 官 と 上 村 と 六 郎 様 に 宜 敷 辰 次 郎 と 小 坂 井

︑ 二 従 卒

︑ 上 月

︑ も 無 事 に 候 宇 野 大 尉 殿 へ 御 願 被 下

︑ 補 充 兵 来 る 節 に 靴 一 足 御 送 り 奉 願 候

︑ 追 送 品 は 何 時 到 着 と も 分 ら ず 候 本 年 中 に 新 井 新 聞 記 者 か 手 紙 の 序 で あ り と 申 せ ば 一 二 本 差 出 度 積 り あ り

︑ 過 日 の 戦 の 重 傷 者 は 当 地 に て 療 養 六 け し

︵ 寒 故

︶ 後 送 す と 云 へ ば 名 古 屋 へ 行 く 人 も あ ら ん 明

治 二 十 八 年 一 月 四 日   海 城 縣 發 信 缸 瓦 塞 を 支 那 語 に て ホ ア ン ウ オ ー サ イ と 読 む 十 二 月 廿 五 日 午 前 軍 事 郵 便 を 以 て 缸 瓦 塞

︵ 一 に 関 翁 塞 ホ ア ン ヲ ウ サ イ と も 云

︶ の 戦 況 ま で を 郵 送 せ り

︑ 定 め て 此 節 は 御 覧 済 な

(13)

ら ん と 存 候 本 日 午 後 二 時 我 第 一 大 隊 戦 死 者

︑ 一 等 軍 曹 服 部 慎 二 郎 外 十 五 名 の 遺 骨 を 海 城 の 東 な る 蕎 麦 山 に 葬 り た り

︑ 第 一 大 隊 長 は 負 傷

︑ 徳 田 大 尉 は 前 哨

︑ 依 て 村 山 大 尉 代 理 に て 祭 文 を 読 む

︑ 此 祭 文 小 生 に 命 ぜ ら れ 一 時 間 の 大 急 ぎ に て 作 り た り

︑ 新 聞 に 出 て る な ら ん

︑ 御 笑 覧 を 乞 ふ 此 山 は 三 好 収 を 葬 り し 所 に て 山 の 北 側 に 北 向 き に 埋 め 茶 菓 松 木

︑ 旗 を 立 て 第 一 大 隊 の 諸 隊 は 之 を 送 り た り

︑ 第 二 大 隊 も 同 様 な れ ど 祭 文 な し 長 大 尉 は 缸 瓦 塞 以 後 風 邪 な り し が

︑ 今 尚 ほ 引 籠 居 れ り

︑ 差 し た る 事 な し

︑ 二 三 日 に て 全 快 な ら ん 俸 給 二 十 円 六 十 銭 受 領

︑ 太 田 欽 哉 中 尉 と 伊 東 完 蔵 に 逢 ふ

︑ 二 人 と も 無 事

︑ 此 隊 は 谷 岡 大 尉 の 中 隊 に て 蓋 平 方 向 に 偵 察 に 出 て 缸 瓦 塞 の 戦 に は 出 て ず と 旧 従 卒 近 藤 勇 吉 尋 ね 来 る

︑ 砂 糖 半 斤 持 来 る 殊 勝 の 男 な り 二 六 新 聞 記 者

︑ 土 陽 新 聞 の 記 者 戦 況 を 尋 ね に 来 る 十 二 月 廿 六 日 本 日 よ り 海 城 縣 に て 市 を 開 く

︑ 折 悪 し く 大 風 雪 と な り

︑ 夕 刻 ま で に は 已 に 二 尺 以 上 と な れ り

︑ 尚 雪 已 ま ず

︑ 遼 陽 城 方 向 の 鞍 山 店

︵ 五 里 位

︶ に は 敵 兵 六 七 十 人 と 騎 兵 五 十 騎 あ り

︑ 我 騎 兵 斥 候 の 一 人 は 討 た れ 走 り

︑ 一 人 は 即 死 せ

︑ 尚 後 方 に は 諸 兵 連 合 の 敵 居 る と 云 遠 藤 騎 兵 中 尉 は 二 三 日 前

︑ 敵 状 偵 察 の 為 め 出 発 す

︑ 牛 荘 城 に は 敵 居 ら ず

︑ 師 団 は 糧 食 四 千 石 も 不 足 す れ ば

︑ 今 一 ヶ 月 半 は 当 地 を 去 る 能 は ず と 云 へ り

︑ 追 送 の 毛 布 に て 作 り た る 防 寒 用 外 套 を 受 取 れ り

︑ 他 の 追 送 は 一 品 も な し 本 日 善 後 公 署 に 至 り 支 那 人 の 訴 を 聞 く

□ 本 日 日 々 新 聞 記 者 新 井 由 三 郎 へ 托 し 手 紙 を 出 す 四 銭 切 手 を 貼 る

□ 返 事 入 用

□ 二 十 七 日

□ 睛 天 本 日 は 聯 隊 旗 授 与 の 当 日 な れ ば

︑ 軍 旗 祭 を 行 ふ

︑ 我 聯 隊 の 宿 営 の 門 戸 に は 国 旗 を 立 て 午 前 九 時 二 十 分 よ り 各 隊 軍 旗 に 敬 礼

︑ 君 け 代 を 吹 奏 し 軍 歌 を な す

︑ 終 て 我 は 前 哨 に 趣 く

︑ 本 日 は 将 校 は 宴 会 あ る 筈 な り

︑ 新 聞 記 者 も 多 く 来 る

︵ 挿 入 の 満 州 文 字 の 説 明

﹁ 明 治 廿 八 年 一 月 十 二 日 清 人 包 振 麟 余 の 為 め に 特 に 写 之

︑ 此 満 州 文 字 は 金 州 街 道 上 復 州 城 の 南 十 五 里

︵ 清 里

︶ な る 前 双 台 子 に あ り し 貞 節 を 旌 表 せ し 碑 の 彫 文 な り

︑ 文 字 は 満 州 衙 門 の 書 せ し 所 な り と

︑ 何 事 な る や 不 明 な れ ど

︑ 多 分 旌 表 貞 節 と 云 ふ 事 な ら ん と 上 人 は 云 へ り

﹂ 二 十 八 日   晴 天

(14)

敵 の 大 将 宋 慶 は 田 庄 台 の 近 傍 に 二 万 人 を 率 ひ て 居 る と 云

︑ さ れ ど 此 雪 に て は 出 て 来 る 事 は 出 来 ざ る べ し

︑ 此 事 は 英 国 宣 教 師 の 話 な り

︑ ま た 蓋 平 に は 少 数 の 敵 あ り

︑ 営 口 に 英 国 兵 三 百 人 あ り

︑ 居 留 民 保 護 の 為 め に 居 る

︑ 午 後 聯 隊 よ り 焼 酎 中 隊 に 二 升 五 合

︑ 梨 百 九 十

︑ ウ ド ン 十 椀

︵ 日 本 の 盛 り 方

︶ ぶ ど う 入 の ヨ ウ カ ン の 如 き 菓 子 百 九 十

︑ 牛 肉 と 渡 る

︑ 軍 旗 祭 の 御 馳 走 な り

︑ 中 隊 総 員 百 九 十 二 人

︵ 負 傷 者 を 除 き

︶ 一 個 づ つ に 当 た ら ぬ 品 計 り

︑ 併 し 此 地 に あ り て の 大 馳 走 な り

︑ 但 し 醤 油 一 滴 な し

︑ 何 で も 味 噌 に て 又 は 塩 に て 食 ふ の 外 な し 北 村 中 尉 の 持 参 せ し 煙 草 着 す

︑ 将 校 一 人 に 付 二 百 本

︑ 下 士 一 人 百 本

︑ 兵 卒 二 十 本 づ ゝ

︵ 中 隊

︑ 四 千 八 百 本

︶ 渡 る

︑ 九 月 二 十 二 日 出 の 追 送 品 初 め て 到 着 す

︵ 毛 糸 手 袋 一 つ

︑ 真 綿 一 つ

︑ か つ ぶ し 二 本

︑ く つ 下 二 足 ス コ ッ チ

︑ 巻 煙 草 五 包 と 岡 本 氏 よ り の 真 綿 と チ ョ ッ キ 一 枚 づ ゝ と 同 封 父 上 様 よ り の 書 状 二 本

︑ 秋 尾 よ り の 一 本

︑ 岡 本 末 松 氏 よ り の 一 本 あ り

︶︑ 嗚 呼 今 日 は 豊 年 な り

︑ 雪 中 に 暖 物 を 得 る 有 難 仕 合 な り

︑ 本 国 出 発 以 来 始 め て 追 送 品 を 見 る

︑ 而 し て 自 分 の 持 来 り し 毛 布 の 如 き 第 一 追 送 品 は 未 だ 来 ら ず 今 夕 日 々 新 聞 の 新 井 来 り 曰 く

︑ 二 十 六 日 に 托 せ し 手 紙 は 立 花 大 尉 に 托 し

︑ 安 東 縣 よ り 出 す と 云 ふ

︑ 此 手 紙 に は 要

用 の 事 あ れ ば 届 き た れ ば 必 す 返 事 を 待 ち 候 本 日 は 米 四 合 小 豆 二 合 を 一 日 分 と す

︑ 炊 事 掛 の 山 田 良 太 郎

︵ 一 等 軍 曹

︶ に 委 托 し 便 利 用 の 醤 油 エ キ ス 一 塊 を 得 た り

︑ 両 三 日 は 醤 油 に あ り つ け り 二 十 九 日 朝 来 晴 天

︑ 軍 用 電 信 本 日 よ り 開 通 す

︑ 蓋 平 に は 敵 千 人 あ り

︑ 章 氏 之 を 率 ゆ

︑ 或 人 曰 く

︑ 第 五 師 団 は 奉 天 府 に 向 て 其 敵 を 扼 止 す

︑ 而 し て 第 三 師 団 と 第 二 軍 は 山 海 関 に 向 ふ と

︑ 真 か 偽 か し ら ず

︑ 本 日 午 後 四 時 十 一 月 二 十 四 日 出 の 御 書 状 着 す

︑ 其 返 事 次 の 如 し 一

︑ 人 夫 等 は 猥 り に 人 家 に 入 り 土 民 の 物 を 盗 む

︑ 而 し て 身 体 の 弱 き を 言 ふ

︑ 而 し て 國 に 帰 れ ば 大 金 を 有 す と

︑ 是 れ 愛 国 心 に あ ら ず

︑ 敵 国 に 入 り て 米 を 食 ふ 虫 と 云 ふ よ り 寧 ろ 強 盗 を 働 く 者 な り

︑ 人 夫 等 の 取 締 り は 困 り た 者 な り 二

︑ 虎 山 に て も 其 他 に て も 聯 隊 長 殿 は 丸 に 中 り 又 は か す ら れ し 事 な し

︑ 是 れ は 多 分 徳 田 大 尉 の 背 負 袋 に 丸 が 中 り た る 事 の 誤 り な ら ん

︑ 此 位 な 事 は 過 日 紅 瓦 塞 の 戦 の と き は 多 く あ り し 三

︑ 加 納 は 気 の 毒 な り

︑ さ れ ど 何 と も 致 方 な し

(15)

︑ 追 送 品 の 只 今 着 せ し は 二 十 八 日 の 通 り 其 他 は 何 れ に 舞 込 み あ る や

︑ 米 に 窮 す れ ば 中 々 手 が 廻 ら ぬ な ら ん 五

︑ 津 坂 廣 氏 は 小 生 知 ら ず

︑ 可 然 宜 敷 申 さ れ た し

︑ 又 宜 敷 御 礼 を 何 れ 書 面 に て 相 伺 ふ 六

︑ 成 田 由 太 郎 は 知 多 郡 石 濱 村 な り

︑ 又 生 石 村 と も 云

︑ 死 し た と 云 ふ 話 あ り 七

︑ 宮 田

・ 近 藤

・ 上 月

・ 辻 何 れ も 無 難

︑ 前 田 珍 男 子 君 へ は 宜 敷

︑ 殊 に 種 々 御 世 話 の 礼 を も 八

︑ 前 川 荘 太 郎

・ 加 藤 他 二 男

・ 野 田 善 蔵 へ 序 に 宜 敷 返 事 を 九

︑ 力 石 の か た み の 事 承 知 仕 候

︑ 義 男 の 事 は 当 地 に て も 分 ら ず 十

︑ 岫 巖 の 戦 の 事 御 承 知 な ら ん

︵ 先 に 便 に て

︶ 十 一

︑ 日 記 御 覧 下 さ れ 候 は ば

︑ 此 節 の 事 も 御 承 知 と 存 じ

︑ 他 は 御 答 不 仕 候

︑ 日 記 到 着 不 仕 事 あ れ ば 郵 便 に て 申 さ れ た し

︑ 当 地 に て は 多 分 冬 営 な ら ん

︑ 今 一 ヶ 月 半 は 他 に 行 か ざ る べ し 本 夕 聞 く 所 に よ れ ば

︑ 岫 巖 よ り 蓋 平 に 通 ず る 道 路 上 大 杉 馬 嶺 に 敵 騎 六 に 出 会 す

︑ 蓋 平 縣 に は 章 氏

・ 柳 氏 の 兵 五 千

︑ 砲 十 門

︑ 馬 隊 五 百 あ り と

︑ 豪 屯 に は 騎 兵 五 十 六 あ り と

︑︵ 岫 巖 の 酒 井 少 佐 の 報 告

︶︑ 福 島 中 佐

民 政 局 長 に 補 す

︑ 宇 佐 川 少 佐

︵ 一 正

︶ 中 佐 に 任 じ 第 一 軍 参 謀 副 長 に 補 す

︑ 山 田 寅 吉 中 尉 は 柴 山 中 尉 負 傷 の 為 め 第 二 大 隊 副 官 と な る

︑ 軍 用 電 信 は 私 用 に て も 急 用 な れ ば 取 扱 ふ と 云 山 田 藤 吉

︑ 佐 の 菊 松

・ 江 嵜 藤 太 郎

︑ 須 賀 傳 次 郎

︑ の 各 軍 壮

︵ 曹

︶ は 一 等 給

︑ 鶴 岡 常 磐 曹 長 に

︑︵ 一 中 隊 付 時 実 負 傷

︶ 江 崎 一 等 軍 曹 に

︑ 藤 井 梅 は 二 等 軍 曹 に

︑ 林 謙 吉 同 上

︑ 加 藤 直

・ 谷 口

・ 余 郷

︑ 上 等 兵 に

︑ 是 は 宇 の 大 尉 殿 へ 申 す 又 一 年 志 願 兵 少 尉 石 黒 稜 四 郎

・ 松 岡 恭 介 は 中 尉 に

︑ 宮 川 耕 一

・ 岡 野 幾 の 進

・ 伴 努 は 特 務 曹 長 に

︑ 鶴 岡

・ 力 川

・ 川 戸 は 曹 長 に 進 む 第 二 軍

・ 第 一 聯 隊

・ 第 一 大 隊 副 官 米 本 中 尉 は 連 絡 の 為 め に 来 る

︵ 二 十 九 日

︶ 其 談 次 の 如 し 一

︑ 十 二 月 二 十 日 金 州 廰 よ り 来 る 路 中 は 皆 徴 発 し て 食 す

︵ 一 小 隊 下 士 已 下 六 十 八 名 を 率 ゆ

︶ 二

︑ 一 二 里 距 て ゝ 敵 あ れ ど 道 な き 山 を 辿 り 来 り た れ ば

︑ 敵 を 見 ず

︑ 日 出 前 に 出 て 日 暮 後 に 宿 し 十 日 間 を 費 せ り 三

︑ 第 二 軍 大 山 大 将 は 旅 順 を 取 り し 翌 々 日 本 国 へ 帰 る

︑ 仲 裁 と の 風 説 盛 な り

(16)

︑ 第 二 軍 は 山 路 中 将 之 を 率 ひ

︑ 復 州 よ り 熊 岳 城 を 経 て 蓋 平 の 敵 を 討 ち 営 口 に 進 む と 云 五

︑ 金 州 廰 を 取 り し と き 及 旅 順 を 取 り し と き は 土 人 も 男 な れ ば 皆 殺 せ し 故 に 女 の み に て 男 を 見 ず 六

︑ 前 衛 の 某 隊 は 敵 に 囲 ま れ 銃 器 ハ イ ノ ウ も と ら れ し 隊 あ り し が

︑ 幸 に 金 州 の 陥 る に 就 て 取 戻 し た り と 七

︑ 金 州 及 旅 順 の 攻 撃 の と き 死 傷 多 か ら ず

︑ 又 工 兵 に て 金 州 の 門 を ジ ナ ミ ッ ト に て 倒 せ し は 愉 快 な り し

︑ 此 事 定 め て 新 聞 に あ る な ら ん

︑ 故 に 略 す 八

︑ 第 二 軍 は 第 一 師 団 及 熊 本 の 混 成 旅 団 よ り 成 る と 云 九

︑ 其 他 あ れ ど 新 聞 に あ る べ け れ ば 略 す 本 日 敵 に 就 て は 何 事 も な し

︑ 皆 遠 く 去 る と 見 へ て 五 里 以 内 に は 一 兵 な し 三 十 一 日 新 年 用 と し て 一 人 に 付 餅 米 五 勺

︑ き び 一 合 五 勺

︑ ミ カ ン 二 個

︑ 菓 子 パ ン 八 個 づ ゝ 渡 る

︑ 其 他 み り ん 日 本 酒 シ ョ ウ チ ュ ウ

︑ 等 少 々 渡 る

辰 次 郎 よ り せ い ぼ 来 る

︑ 見 れ ば 一 疋 の め ざ し 魚 に 胡 椒 半 瓶

︑ 貝 の は し ら

︑ き ん こ 少 々 な り

︑ 聞 け ば 皆 分 捕 品 な り と

︑ 依 て 巻 煙 草 二 十 本 の 礼 小 野 寺 少 佐 よ り 支 那 婦 人 の 衣 服 壱 領 を も ら う

︑ 辰 次 分 も あ り と

︵ 少 佐 の 宅 に あ る 品 な り

︶ 上 月 無 事 に 面 会 米 国 人 の 仲 裁 と の 説 あ り

︑ 若 し 仲 裁 出 来 ざ れ ば 我 師 団 と 第 二 軍 は 山 海 関 に 向 ひ

︑ 第 五 師 団 は 奉 天 に 向 ひ 牽 制 す と 云 呼 声 高 し

︑ 又 早 合 点 の 者 は 来 年 二 月 に は 牛 荘 営 口 よ り 帰 国 す と 云 ふ も の あ り

︑ 遠 征 の 長 き に 従 ひ 上 下 漸 く 倦 む は 人 情 の 免 れ さ る 所 な り

︑ さ れ ど 是 迄 来 り し 事 な れ は 北 京 に 迄 侵 入 し た し

︑ 左 な く も

︑ 奉 天 又 は 山 海 関 に 進 み た し

︑ 尾 張 各 都 市 に て の 出 征 軍 人 留 守 救 助 の 方 法 書 を 一 覧 し た り

︑ 遠 征 軍 人 に 取 り て は 何 よ り の 土 産 と 云 ふ べ し 明 治 二 十 七 年 十 二 月 三 十 一 日 に は 海 城 縣 西 方 盤 領 山 の 寧 家 寺 に 於 て 前 哨 勤 務 を な し 芽 出 度 二 十 八 年 の 新 暦 を 迎 ふ る 事 と な れ り

︑ 國 を 去 り て 満 四 ヶ 月 の 終 り と は な り ぬ

︑ 午 後 一 時 よ り の 前 哨 勤 務

(17)

Ⅲ   明 治 二 十 八 年 日 誌 明 治 廿 八 年 一 月 一 日 天 気 晴 朗 一 天 洗 ふ が 如 し と は 今 年 の 春 の 事 な り

︑ 身 は 清 国 海 城 の 西 晉 安 寺 に あ り て 前 哨 勤 務 中 に 於 て 陛 下 万 歳 を 祝 せ り 午 前 十 一 時 海 城 屯 在 の 師 団 諸 兵 は 海 城 の 西 な る 磧 に 集 合 し

︑ 師 団 長 次 の 勅 語 を 捧 読 す 第 一 軍 の 一 部 は 海 城 の 西 方 に 於 て 優 勢 な る 敵 を 逆 襲 し 数 時 間 雪 中 に あ り て 奮 闘 激 戦 し て 之 を 敗 る 朕 其 忠 雄 な る を 嘉 賞 す 終 て 一 同   陛 下 万 歳 三 回

︑ 第 三 師 団 万 歳 を 唱 ふ 午 後 二 時 よ り 勅 諭 奉 読 し そ れ よ り 聯 隊 本 部 に 至 り

︑ 両 陛 下 御 真 影 を 拝 す 後 閑 院 宮 殿 下 師 団 長

・ 旅 団 長 及

□ 大 隊 長 の 許 に 回 礼 し

︑ 兵 卒 の 万 歳 等 を 以 て 終 る 藤 林 大 尉 は 御 清 康 な り

︑ 昨 日 の 回 礼 に 一 處 に 行 き し 長 大 尉

︑ 辰 次 郎 も 無 事 島 田 中 尉 も 無 難 一 月 二 日 昨 日 出 し 騎 兵 斥 候 の 報 告 に 高 刊 の 東 方 に 於 て 敵 の 騎

︵ 五 六 十 人 に て 我 は 八 騎 な り し と

︶ に 出 會 し

︑ 為 め に 営 口 に 至 る を 得 ず

︑ 依 て 二 道 に 分 れ て 退 却 せ り

︑ 其 内 の 一 騎 は 遠 く 離 れ て 我 を 追 撃 せ り

︑ 依 て 一 騎 を 斬 殺 せ り

︑ 是 を 廿 八 年 一 月 一 日 の 豚 尾 漢 を 殺 せ し 初 と す 遼 陽 方 向 に は 我 海 城 を 去 る 五 里 程 に 敵 五 六 十 人 あ り

︵ 藍 線 堡 に

︶ 昨 日   勅 諭 捧 読 の 後

︑ 師 団 長 の 告 諭 あ り

︑ 其 大 要 我 第 三 師 団 は 優 勢 の 敵 を 攻 撃 し 大 勝 の 後 な り

︑ 常 に 我 軍 の 先 頭 に あ り て 常 に 敵 と 接 し な が ら 今 廿 八 年 一 月 一 日 の 吉 辰 に 遭 ふ

︑ 全 く 我 師 団 各 将 校 兵 卒 の 忠 勇 に よ る と 雖   全 く   天 皇 陛 下 の 御 御 稜 威 に よ る 云 々 此 日 故 と の 従 卒 近 藤 勇 吉

︑ 服 部 弁 雄 等 年 賀 に 来 る

︑ 秦 長 松

︑ 小 坂 井 太 吉

︑ 宮 田 来 る

︑ 上 月 も 無 事

︑ 皆 父 上 様 へ 宜 敷 申 上 を 述 ぶ 一 月 三 日       晴 天 敵 状 昨 日 に 異 な る 事 な し

︑ 昨 日 岡 崎 亀 雄 へ 一 通 の 返 書 を 出 す

︑ 幸 便 あ れ は な り 大 隊 長 岡 本 忠 能 殿 漸 く 快 気 な り

︑ 十 一 月 三 十 日 の 扶 桑 新 聞 日 々 新 聞 を 師 団 に て 一 読 せ り

︑ 仲 裁 の 事 は う

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