扉・はしがき・目次・奥付・欧文タイトル
雑誌名 大阪の都市化・近代化と労働者の権利
発行年 2015‑03‑31
URL http://hdl.handle.net/10112/9267
大阪の都市化・近代化と労働者の権利
大阪の社会労働運動と政治経済研究班
研 究 双 書 第161冊
はしがき
最近話題になったおもしろい歴史書に、平山優氏の『検証 長篠合戦』(吉川弘 文館、2014年)がある。長篠合戦といえば1757(天正 3 )年、三河国長篠の設 楽ヶ原で織田信長・徳川家薬連合軍が武田勝頼の軍勢を撃破したもので、古く からの通説によれば、伝統的な騎馬武者軍団を先に立てて一斉攻撃を行った武 田軍を、織田・徳川軍が3000挺の鉄砲の三段撃ちという新戦法で迎撃した、と いうことになっている。
それに対して平山氏は、同時代の文献史料を徹底的に突き合わせ、また残さ れた現物資料などを再検討した結果、武田軍も鉄砲を装備しており、しかも「武 田軍が長篠合戦で使用した鉄炮は、その口径から推定される大きさなどから、織 田・徳川軍が使用した鉄炮とまったく遜色ないものであったと考えられる」(135 頁)こと、騎馬戦法にしてもその他の用兵戦術にしても武田軍と織田・徳川軍 との間にそれほど大きな違いは見られないこと、を明らかにした。
他方で平山氏は、合戦場跡で発掘された鉄砲の鉛玉の成分分析結果から、そ れらが「東南アジア産と中国華南産、朝鮮半島からのもの」で、「そのいずれも が、南蛮貿易によって日本に輸入された」(75頁)ものであること、そして堺こ そが「南蛮貿易の拠点」であることから、合戦に必要な大量の鉄砲や弾薬の「需 要にすぐさま応じられる京都や堺を擁する畿内の物流こそ、信長の鉄炮装備を 支えていた」(61 62頁)と論じている。
要するに、「長篠合戦での両軍の明暗は、やはり双方の装備量(物量)の差、
それは鉄炮・玉薬・弾丸の生産、流通経路へのアクセス度の格差に由来する」
(135頁)というのが、著者の結論なのである。武田軍の騎馬による突入は、弾 薬が尽きた後の最後の手段にすぎなかった。この本を読むと、戦国時代の畿内、
特に堺が、南蛮貿易と国内物流の拠点として戦略的な重要性を持っていたこと がよくわかる。
その後、豊臣政権時代には堺の北に位置する大坂が政治的拠点として栄えた こと、徳川の時代に変わっても大坂が米を中心とする商品流通の全国的拠点と して栄えたことは、改めて言うまでもない。それでは、近代に入ってからの大
阪はどうなったのか。
『昭和大阪市史』によれば、「大阪は[第一次]世界大戦以後大なる発展をな し、その経済上の実力は東京をしのぎ、「大阪は我国の心臓」であると称せられ たもので、政治都東京に対する産業都大阪として、わが国産業の一大中心地で あった。昭和元年の全国工業生産額(職工 5 人以上を有する工場の)は71億5400 万円であるが、大阪は 8 億9600万円で全国の約12%を占め、紡績工業及び金属 工業がその中心をなしており、東京市の産額は全国の5.12%に過ぎず、大阪は 断然優位を占めていた」(『昭和大阪市史 第 1 巻 概説編』大阪市役所、1951年、
14 15頁)。
それだけではない。「1928年11月に昭和大礼が行われたとき、大阪は人口で東 京を抜いて日本一の大都市となっていたが、同時に東京をしのぐ日本経済の中 心でもあった」(原武史『「民都」大阪対「帝都」東京―思想としての関西私鉄』
講談社選書メチエ、1998年、29頁)。こうして1930年代までの大阪は、「人口、面 積、経済すべてに「帝都」を圧した「民衆の都」」(同上書、表紙)だったので ある。
工業と経済の中心だった「民衆の都」大阪は、当然のことながら労働者の街 でもあった。私たち「大阪の社会労働運動と政治経済」研究班は、近代以降の 大阪における社会運動・労働運動の基礎的資料の分析、およびそれに関連する 政治・法・経済の動向の分析を共同研究のテーマとして発足した。
大阪の社会労働運動に関しては、すでに大阪社会労働運動史編集委員会編『大 阪社会労働運動史』全 9 巻(大阪社会運動協会/有斐閣、1986〜2009年)があ る。私たちの研究は、このような成果を踏まえながら、さらに主に大阪産業労 働資料館(エル・ライブラリー)が所蔵する貴重な資料を活用することによっ て、大阪を中心とする関西地方の社会・労働・経済・政治・法律(裁判)の歴 史から現在を照射し、21世紀の現代的課題について考察することを目的とする。
この研究双書は、その最初の研究成果報告である。
本書の内容について、簡潔に説明しておこう。
最初の 4 論文は、大阪の都市化・近代化と社会労働運動の歴史に関する研究 の成果である。第 1 章「工業の街大阪の都市化変遷図の作成―社会労働運動の 背景として―」(大谷渡・相良真理子)は、著者たちがこれまでに収集した明
治・大正・昭和の統計資料や地図資料を考察し作成した2CG に関する研究ノー トである。第 2 章「近代日本紡績業と労働者―近代的な「女工」育成と労働運 動―」(橋口勝利)は、近代日本の工業化の一翼を担った紡績業の成長過程を企 業と労働者との視点から検討したものである。第 3 章の「大阪における勤務評 定反対運動の思想と状況―勤評闘争の「大衆性」再考の試み―」(広瀬義徳)は、
戦後の勤務評定反対運動を実証的に分析し考察したものである。第 4 章「炭鉱 離職者と関西の労働運動(1)」(谷合佳代子)は、1960年の三池炭鉱の大争議の 後に関西に移動してきた労働者を中心とする労働運動を論じたものである。
続く 3 論文は、労働者の権利にかかわる訴訟を対象とした研究の成果となって いる。第 5 章「プライバシー権と民主制―西成監視カメラ訴訟を契機として―」
(髙作正博)は、西成に設置された監視カメラ(街頭防犯カメラ)の違憲性・違 法性が争われた訴訟を素材として、プライバシー権の政治的意味について論じ たものである。第 6 章「大阪市職員アンケート調査国賠訴訟」(小泉良幸)は、
大阪市(橋下徹市長)が実施した「労使関係に関する職員アンケート調査」に かかわる国家賠償訴訟の経緯と争点に関する分析を行ったものである。第 7 章
「憲法上の義務」(西村枝美)は、大阪の市長と市職員組合との間で争われた公 務員の権利制限の問題に関して、憲法上の「国民の義務」の理解の仕方につい ての法理的分析を行ったものである。
最後の第 8 章「社会労働運動の表象―赤旗の歴史―」(植村邦彦)は、大阪の 労働運動を世界的な視野から見直す研究の成果であり、大阪産業労働資料館(エ ル・ライブラリー)が所蔵する現物資料のうち、大阪の純向上会=日本労働総 連盟系の労働組合旗を手がかりに、労働運動における赤旗のもつ歴史的意味を、
フランス革命期にまでさかのぼって検討したものである。
これらの研究は、大阪の社会労働運動と政治的・法的諸問題に関する共同研 究の最初の研究成果であり、これからさらに研究を深めていくべきものである。
ご意見やご批判をお寄せいただければ幸いである。
2015年 3 月
大阪の社会労働運動と政治経済研究班
主幹 植村邦彦
目 次
はしがき
Ⅰ 工業の街大阪の都市化変遷図の作成
―社会労働運動の背景として―
大 谷 渡・相 良 真理子
1
Ⅱ 近代日本紡績業と労働者 ―近代的な「女工」育成と労働運動― 橋 口 勝 利
はじめに 11
1 日本紡績業の成立と労働観の変化 13 2 紡績企業は「農村女性」を如何にして「女工」にしたのか? 16
おわりに 26
Ⅲ 大阪における勤務評定反対運動の思想と状況
― 勤評闘争の「大衆性」再考の試み ―
広 瀬 義 徳
1 本稿の目的と課題 31
2 勤務評定反対運動をめぐる「大衆性」再考の論点 33 3 全国新聞紙、世論調査における勤務評定に関する意識状況 39 4 元組合員教師へのインタビュー調査から見える
大阪勤務評定反対運動史の細部 47
5 結論に代えて 54
Ⅳ 炭鉱離職者と関西の労働運動(1)
谷 合 佳代子
はじめに 59
1 戦後石炭政策と炭鉱離職者対策の概略 61
2 三池争議後の離職者の再就職 63
3 離職者と総評大阪地評 65
4 「三池魂」はいかに受け継がれたか 67
5 今後の研究課題 80
Ⅴ プライバシー権と民主制 ―西成監視カメラ訴訟を契機として― 髙 作 正 博
序 ― プライバシーの現在 81
1 プライバシー権の保障と価値 82
2 プライバシー権の制約 ― 公法関係を中心に 90 結 ― 「監視」によるプライバシー権・民主制への影響 95
Ⅵ 大阪市職員アンケート調査国賠訴訟
小 泉 良 幸
はじめに 101
1 憲法判断の枠組み 103
2 あてはめ 114
おわりに 123
[資料] 125
Ⅶ 憲法上の義務
西 村 枝 美
1 イエリネクの地位論 137
2 義務のその後 145
3 公務員の義務 153
4 分析 158
Ⅷ 社会労働運動の表象 ―赤旗の歴史
植 村 邦 彦
はじめに 167
1 2012年/1832年の赤旗 171
2 1789年の三色旗と赤旗 175
3 1792年の赤旗 181
4 1848年の赤旗 186
5 パリ・コミューン以後の赤旗と労働組合運動 191
執 筆 者 紹 介
研 究 双 書 第 161 冊
発 行 日 発 行 所
平 成 2 7 年 3 月 3 1 日 関西大学経済・政治研究所
大阪府吹田市山手町3丁目3番35号
髙 瀬 武 典
株 式 会 社 遊 文 舎
大阪府大阪市淀川区木川東4丁目17番31号
発 行 者 印 刷 所
ISBN 978-4-901522-44-1
大 谷 渡 関西大学文学部教授 日本近現代史 相 良 真理子 関西大学大学院博士課程後期課程 日本近現代史 橋 口 勝 利 関西大学政策創造学部准教授 近代日本産業史 広 瀬 義 徳 関西大学文学部准教授 教育制度学、教育政策学 谷 合 佳代子 大阪産業労働資料館館長 日本近現代史
髙 作 正 博 関西大学法学部教授 憲法学 小 泉 良 幸 関西大学法学部教授 憲法学 西 村 枝 美 関西大学法学部教授 憲法学 植 村 邦 彦 関西大学経済学部教授 社会思想史
(執筆順)
Economic & Political Studies Series No.161
Urbanization, Modernization, and Rights of Workers in Osaka
CONTENTS
Ⅰ Mapping Industrialization in Urban Osaka:
Background of Labor Movement and Social Action
...Wataru OYA Mariko SAGARA
Ⅱ The Spinning Industry in Japan and Workers
... Katsutoshi HASHIGUCHI
Ⅲ Thought and Situation of the Counter Movement
against the Teacher Evaluation System of Teachers in Osaka
... Yoshinori HIROSE
Ⅳ Labor Movements in Kansai and Workers who Left Coal Mine
... Kayoko TANIAI
Ⅴ The Right to Privacy and Democracy
... Masahiro TAKASAKU
Ⅵ A Suit against the Survey of Political Beliefs Held by Public Employees of Osaka City
... Yoshiyuki KOIZUMI
Ⅶ Constitutional Obligation ... Emi NISHIMURA
Ⅷ History of Red Flag: Symbol of Social and Labor Movements
... Kunihiko UEMURA