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小学校における「総合的な学習の学習の時間」に関する実証的考察 [ PDF

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(1)小学校における「総合的な学習の学習の時間」に関する実証的考察 キーワード:総合的な学習の時間、生きる力、子どもの参画、ポートフォリオ. 発達・社会システム専攻 大庭 みゆき. 1研究の背景と目的 本研究は、平成 14 年 4 月から小学校において全面 実施される「総合的な学習の時間」の本質的意義を. 数種類の資質・能力が総合的に結合した総合力 である。 (2)「生きる力」を構成する資質・能力は個別のスキ. 実証的に検証することによって、それが育成を目指. ルを持ち、 そのスキルを習得することによって、. す「生きる力」を解明し、 「総合的な学習の時間」を. 育成される。. 効果的に推進する促進要因や対策等を明らかにしよ うとするものである。 「総合的な学習の時間」に対する先行研究として. (3)「総合的な学習の時間」は教師の力量と校長のリ ーダーシップを要請するカリキュラムである。 (4)「総合的な学習の時間」の基軸(もとになる基本. は、授業研究、教材研究、カリキュラム研究等が大. 的な考え方の原理)は、 「多様性」と「連関性」. 部分を占め、 そのほとんどが方法論や運営論であり、. である。. 「生きる力」の育成を目指すためという「総合的な. (5)「総合的な学習の時間」を効果的に実施するため. 学習の時間」の本質的な意味から取り組まれた研究. には、子どもの主体的能動的参画が不可欠であ. はほとんどない。また新しい学力観に基づく「総合. る。. 的な学習の時間」の評価についてもポートフォリオ. (6)「総合的な学習の時間」のカリキュラム開発には. の紹介や子どもの感想文や反省文を評価と見なして. まず子どもの自己点検評価等の評価基準の作. いるようなものが多く、客観評価をどのように取り. 成が必要である。. 入れるかという実践例や研究例は少ない。「生きる 力」についてもそれをどうとらえるかという具体的. (7)「総合的な学習の時間」を効果的に推進していく ためには、教育関係者の支援が必要である。. な定義を行っているところは多くなく、大部分の学. 研究方法としては、 「総合的な学習の時間」の本質をよ. 校が言葉の定義を曖昧にしたままで周知の事柄のよ. り実践的に検証するために、筆者がゲストティーチ. うに「生きる力」を使っているというのが現状であ. ャーとして関わってきた福岡市内の小学校における. る。本論は、そのような状況の中で果たしてその本. 「総合的な学習の時間」の試行実践から得られた知. 来の趣旨を生かした学習が実際に行われるかという. 見等を含んだ形で研究全体のフレームを作成し、仮. 疑問を踏まえ、 「総合的な学習の時間」 とは何のため. 説の検証方法としては、アクションリサーチを採用. に創設された学習なのかという「総合的な学習の時. した。. 間」の本来の趣旨を達成するための実践上の具体的 方法や要因を明らかにすることを目指すものである。 2仮説と検証方法 本論では以下のような七つの仮説を立て、それを検 証した。 (1)「総合的な学習の時間」が目指す「生きる力」は. 3論文構成 第1章では、「総合的な学習の時間」が目指す「生 きる力」について「生きる力」を教育政策と研究開発 校の実践事例、子どもを取り巻く社会変化から分析し、 「総合的な学習の時間」が目指す「生きる力」の資質・.

(2) 能力とは何かということについて検証し考察を行っ. れは単なる Power としての「力」ではない。急速に多. た。. 様に変化する社会に「対応」するために人はもがき、. 第2章では、子どもが学習によって学ぶことができ. あがき、努力し、苦労しなければならないと仮定する. るものは、資質・能力のスキルであり、そのスキルを. と、 「生きる力」とは“The Struggle for living”つ. 習得することによって資質・能力が育成されると仮定. まり「生きるための努力という闘争」と考えられる。. し、「生きる力」を構成する資質・能力とそれらに関. また“Struggle”するためにはそれに必要な能力、ス. わる具体的スキルについて検証した後、「総合的な学. キル、ストラテジーが十分備わっていることが求めら. 習の時間」で育む「生きる力」のスキルを考察した。. れる。そのように考えると「総合的な学習の時間」は. 第3章では、第2章を受け、「生きる力」を構成す. そのような能力、スキル、ストラテジーを発達させる. る資質・能力のスキルが「総合的な学習の時間」にお. 機会と場であるととらえることができ、それ(機会と. いてどのように育成されているのかを「総合的な学習. 場)を全ての子どもに平等に実施することが今、教育. の時間」のいわゆる先進校の事例をアクションリサー. に求められている課題であると考える。. チを行って検証することでその問題点と課題を明ら. 「総合的な学習の時間」と同じように近年の教育改革. かにしていった。その際の指針としてまずカリキュラ. において誕生したものが、「ゆとり」、「個性重視」、. ムとしての「総合的な学習の時間」をどうとらえるの. 「新しい学力観」等のいわゆる、「子ども中心主義」. か、それに関連して教師の求められる力量とは何かと. と呼ばれるものであった。その背景としては、「日本. いうことから導かれるストラテジーや課題から先進. の社会には個人が先駆性を発揮するのをよしとしな. 校の実践事例を分析していくという方法をとった。. いきらいがある。日本人のもつ絶対的とも言える平等. 第4章では、 「生きる力」を数種の資質・能力の総合. 観と深く関わるが、『結果の平等』ばかりを問い、縦. 力ととらえ、その育成はそれらの資質・能力に関わる. 割り組織、横並び意識の中で、“出る杭”は打たれ続. スキルの積み上げによってなされるものであるとい. けてきた。 『結果の平等』を求めすぎた挙句、 『機会の. う仮説に立ち、「総合的な学習の時間」を検証するこ. 不平等』を生んできたi」という反省が見られる。従来. とで、子どもの自己点検評価としてのポートフォリオ. までの学校教育では、全ての子どもを同じように扱う、. を考察し、「指導―学習―評価」の一体化を図るため. 言い換えればどの子どもも同じようなことを要求さ. の条件等を考察した。. れる、という「結果の平等」主義が取られていた。し. 第5章では、「生きる力」とは何かという本質的な. かし「結果の平等」は横並びという視点での教育の平. 定義をあらためて行い、それを踏まえて「総合的な学. 等に過ぎず、子ども一人ひとりの個人としての資質・. 習の時間」とはどのような学習なのかということを分. 能力を無視したものであり、子どもに対してあらゆる. 析した。そこで、まず社会の変化に対応できる力とし. 「競争」を排除するものであった。この結果、子ども. ての「生きる力」という視点から、子どもを取り巻く. は多様性の少ない画一的な教育を受けることになり、. 社会の変化を検証し、それに対応できる力としての. 見せかけの「結果の平等」社会の中で現実としての「機. 「生きる力」の本質について考察した。. 会の不平等」を体験することとなる。これによって生 じているものが、「生きる力」の減退又は弱体化であ. 4結 論. ることは間違いない。. 本論では小学校における「総合的な学習の時間」が. 従って、「総合的な学習の時間」とは、子ども一人. 目指す「生きる力」についてそのコンテンツ、スキル、. ひとりの個別の資質・能力の違いを十分理解した上で. 評価と様々な検証を行ってきたが、「生きる力」その. 「機会の平等」を実施し“The Struggle for living”. ものの本質的な概念についての考察を行っていない。. を育成する学習といえる。. そこで序章で提示した7つの仮説の検証結果と考察. そこでそれを実現するための促進要因、阻害要因に. から「生きる力」とは何かという本質的な定義をあら. はどのようなものがあるかを考えてみる。促進要因と. ためて行い、それを踏まえて「総合的な学習の時間」. しては、第一に学習の多様性である。子ども一人ひと. とはどのような学習なのかという具体的に明らかに. りが自分の資質・能力に合った学習を行うこと、同じ. した上で、今後の課題を提示する。. 課題に対しても子どもの興味関心や資質・能力に合わ. 「生きる力」とは、前述のような社会変化に対応で きる「力」でなければならないと考えられるので、そ. せた多様な解決方法を教師が具体的に指導すること、 教科で学んだことが「総合的な学習の時間」での課題.

(3) 探求にどのようにリンクするのかを様々なスタイル. living”を持つ子どもとはどのような子どもなのかを. で教師が子どもに提示し指導していくこと、等の学習. 以下に示す。「生きる力」の内容で論じた資質・能力. の多様性が求められる。第二に子どもと教師の相互主. は、日常的な生活体験と非常に関連性が強いものであ. 体性である。なぜならば学習中に Struggle している. ると考えられる。そこで、 “The Struggle for living. 子どもに対して、同じように Struggle し学んでいく. としての「生きる力」を持つ子どもとは以下のような. という教師の姿勢があってこそ、学習における子ども. 子どもであると考える。. と教師の主体的協働が実現すると考えられるからで ある。. ①人間が生来持っている五感が発達し、生活者の 感覚で他者との社会的関係を築ける子ども. 第三に教師の多様な知識と高度なスキルである。. ②生活の中で他者との多様なふれあいを日常的に. 前述したとおり「総合的な学習の時間」を“The. 体験し、対面的コミュニケーション能力が高い. Struggle for living”の育成として実施するために. 子ども. は、 教師に従来の教科教育の知識だけでは足りない。 子ども一人ひとりの学習課題に十分対応できるため には多様な知識と指導力、指導のスキルが必要とな ってくる。 「総合的な学習の時間」とは、子どもの興. ③他人のために自分の時間を使う=「待つ」こと ができ、相手を存在的に受容できる子ども ④物事に対して常に好奇心と遊び心を持ち、毎日 の生活を楽しめる子ども. 味関心をどのようにして学習課題にまで発展させて. ⑤オラリティー能力が発達し、他者の心情を声で. いくのかということから始まって、子どもの“The. 理解するとともに自らの情操を声で他者に伝. Struggle for living”としての「生きる力」の育成. えることができる子ども. をどのように指導しサポートしていくのかという従 来にない新しい教師の力量が求められる学習なので ある。第四に、大学・大学院のサポート及びアシス トである。現場の教師に求められる多様な知識やス キルをどのようにしたら教師が習得し「総合的な学 習の時間」が有効に機能するのかということを大. ⑥イメージを膨らませ,イマジネーションを働か せることができる子ども ⑦自らの感性を大切にしながら他者の感性を大切 にする感性の自由度が高い子ども ⑧自分と他者との違いを認識した上で、他者と積 極的に交わろうとする子ども. 学・大学院が支援することが望まれる。大学・大学. 次に子どもが学習によって学ぶことができるもの. 院は、社会に対する貢献、大学の知的財産の有効活. は、資質・能力のスキルであり、そのスキルを習得す. 用を社会に示すことが求められている。 このことは、. ることによって資質・能力が育成されると仮定して. まさしく大学という閉じたバウンダリーを社会に対. 「生きる力」を構成する九つの資質・能力とそれらに. して開くこと、つまり開かれた大学に他ならない。. 関わる具体的スキルについて検証した結果、それらの. 特に教育研究機関の存在意義と研究者のアカウンタ. 具体的スキルはいずれも独立したものではなく、個々. ビリティを具体的に提示する必要があり、そのこと. のスキルは相互連関性をもつ有機的結合をしている. が 大 学 ・ 大 学 院 に と っ て の “ The Struggle for. ことが分かった。スキルが関係し合うということはす. living”であると考える。. なわち、それの元となる資質・能力が連関しているこ. では、次に阻害要因は何かを考えると、それはク. とに他ならない。よって、「生きる力」という資質・. ローズドシステムの維持、閉鎖性である。. 能力は提示した 9 つの資質・能力の結合した総合力で. 「教師と子ども」だけの学校というクローズドシス. あると判断でき、仮説は証明されたと判断できる。. テムでは子どもの個性に合った多様な学習は実行で. このような「生きる力」を構成する資質・能力のス. きない。クローズドシステムは「もの」、「情報」、. キルが「総合的な学習の時間」においてどのように育. 「人」等の出入りがなく、変化、進歩、改革がおこ. 成されているのかを「総合的な学習の時間」のいわゆ. りにくい画一的な環境となり、子どもに逼塞感を与. る先進校の事例をケーススタディしてそのストラテ. えやすい。 このような閉鎖性の高い学習環境では 「総. ジーと課題を検証した結果、①子どもと教師との相互. 合的な学習の時間」が目指す“The Struggle for. 主体性の尊重、②多様なコミュニケーション、③学び. living”は育成されないと考える。. の方法・教える方法、④子どもの主体的参画という 4. 以上、 “The Struggle for living”について見てき. つのストラテジーと課題が明らかになった。これらは. たが、これらのことを踏まえ、“The Struggle for. いずれも「総合的な学習の時間」で「生きる力」を育.

(4) 成する場合に不可欠となる必要十分条件であると考 えられる。. 子どもの参画研究会訳 萌文社 2000 年 5『総合的な学習の時間への取り組み』 (財)総合初等教 育研究所 2001 年. 以上のように「生きる力」を数種の資質・能力の総 合力ととらえ、その育成はそれらの資質・能力に関わ るスキルの積み上げによってなされるものであるとい う仮説に立って、 「総合的な学習の時間」を検証してき たが、スキルの積み上げの確認を子どもが自覚し自己 点検評価を行わなければ、 「総合的な学習の時間」が目 指す子どもの主体的能動的参画とは言いがたい。そこ で、子どもの自己点検評価としてのポートフォリオを 考察し、 「総合的な学習の時間」における「指導―学習 ―評価」の一体化を図るための条件(インフラ)につ いて検証した。条件としてはまず、第一に「学校」と しての評価基準の整備である。第二に評価の公表し、 評価の正当性(または評価の価値)を高めることであ る。第三に評価で得られた情報を次の指導案に反映さ せることである。このように考えると、 「総合的な学習 の時間」は校長のリーダーシップと教員の協働を必要 とする学習であると言うこともできる。言うまでもな くこのような評価は、子どもが学習主体者であり、教 師や学校はその支援者(ファシリテーター)であると いう認識の上に立っている。つまり「子ども」と「教 師」とは等しく対応するという意味での学習における 「相互主体性」が「評価」の前提となる。 「総合的な学 習の時間」における「指導―学習―評価」の一体化は、 「学習主体者」である子どもの主体的な参画をどれだ け実現できるかによってその本来の趣旨の実現性が見 えてくるものであると言える。 今回の研究では、 「総合的な学習の時間」の促進要因 に揚げた現場の教師に求められる「多様な知識と高度 なスキル」を教育関連の大学がどのように支援してい くのかという具体的支援策や支援システムについて検 証することができなかった。そこで学校教育への支援 としての大学及び教育研究者の果たす役割についての 検証を次の研究課題としたい。 【参考文献】 1『総合的な学習のカリキュラムマネジメントの基軸と 戦略』中留武昭 2001 年 2「 『総合的学習』のカリキュラムマネジメントに関する 理論的・実証的考察」研究代表者中留武昭 文部 省科学研究費補助金基盤研究 2000 年 3『子どもたちの「居場所」と対人的世界の現在』住田 正樹他平成 10 年度∼平成 12 年度科学研究費補助金 基盤研究 2001 年 4『子どもの参画―コミュニティづくりと身近な環境ケ アへの参画のための理論と実際』ロジャー・ハート. i. 「21 世紀日本の構想」懇談会報告書 2000 年.

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参照

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