アメリカ犯罪学の基礎研究 (115)
中央大学犯罪学研究会
(代表 只 木 誠)*
今回は,三井英紀が,アメリカにおいて行われた,刑事司法システム内 における重篤な精神疾患を抱える人々について調査し,当該集団に対する ケア及びサービスの向上を図るための改善策を提示する研究の一部を紹介 する。
また,綿貫由実子は,ニュージーランドの青少年裁判所が,太平洋諸島 出身の青少年の非行・犯罪対策のために設置した,太平洋諸島出身の担当 官による「太平洋諸島系コミュニティ・リエゾン・サービス」について紹 介する。
(只 木 誠)
刑事司法システムにおいて重篤な精神疾患を抱える人々
──要因,帰結及び改善策──
People with Serious Mental Illness in the Criminal Justice System: Causes, Consequences, and Correctives
三 井 英 紀
*** 所員・中央大学法科大学院教授・法学部教授
** 嘱託研究所員・作新学院大学総合政策学部非常勤講師
は じ め に
重篤な精神疾患を抱える人々(People with Serious Mental Illness:以下 PSMIとする)は,国家の社会的なセーフティーネットから漏れ落ち続け,
刑事司法制度と精神保健制度の間を繰り返し巡回していることは,これま で多くの研究者によって指摘されてきたことである。この点,例えば,マ ウアー(M. Mauer)は,精神衛生ケア領域における明白な人種的・経済 的不均衡と懲罰的な犯罪統制政策の強化が,刑事司法システム内に,より 多くのPSMIが流入してくる状況をもたらしたと言及している。
また,ほとんどの種類の精神疾患が,一般社会におけるよりも矯正施設 内において顕著に高い割合を示していることも,これまでの研究の多くが 明らかにしている点である。例えば,ヴェイゼイ = ビヒラー・ロバートソ ン(B. Veysey and G. Bichler-Robertson)による調査では,矯正施設内に おいては特定の診断名が特に高い割合であったことを明らかにしており,
一般社会内よりもジェイル及び刑務所では,統合失調症(schizophrenia)
及び精神病性障害(psychotic disorders)の割合が 4 倍以上,双極性障害
(bipolar disorder)の割合が 3 倍以上,(心的)外傷後ストレス障害(post-post- traumatic stress disorder:PTSD)の割合が 2 倍以上高かったことを明ら かにしている。
こうした状況の一方で,精神疾患に対するより良き治療の提供は,
PSMIを犯罪者化する流れを止めるものであり,絶えず増加している裁判 所の事件審理や過剰収容状態にあるジェイルから彼等を遠ざけうるもので あると考えられている。刑事司法システムに取り込まれたPSMIに対する 効果的な精神衛生トリートメントは,システム内のあらゆる段階及びプロ セスにおける精神障害者の問題に取り組む鍵と広く認識されていることは 否定することはできない。さらに精神保健サービスの提供は,彼等の犯罪 及び再犯を直接的に削減するものではないが,治療供給に伴う症状の安定 化は,間接的に彼等の犯罪及び再犯を減少させうるものであり,健全な刑
事司法的投資であるといえよう。
以下本稿では,刑事司法システム内におけるPSMIについて調査し,当 該集団に対するケア及びサービスの向上を図るための改善策を提案してい る研究を紹介していく。
1. 定義上及び診断上の問題:Definitional and Diagnostic Issues
⑴ PSMIと物質使用障害との関係
本稿において,PSMIは統合失調症,双極性障害及び大うつ病(major depression)の診断基準を満たす人々と定義される。アメリカ精神医学会 の『精神疾患の分類と統計の手引き』(DSM-IV-TR)における第 1 軸(Axis I)において説明されているように,これらの脳疾患は,あらゆる精神疾 患の中でももっとも辛く,人々を衰弱させる粘着性のある疾患である。こ れらの疾患は主に脳構造及びプロセスにおける変質(anomalies)によっ て引き起こされ,強い遺伝的要素を有しているとされる。これら重篤な精 神疾患に対しては過去30年間において薬理学的治療の進歩が見られつつあ るが,PSMIは周囲の無知や烙印押し,及び治療オプションの不足等を理 由として,治療が著しく行き届いてない集団と考えられている。
全米併存症調査(The National Comorbidity Survey)は,あらゆる種類 の精神疾患が併発する可能性が高いことを明らかにし,このことは同時に 2 つ以上の精神疾患の診断基準を満たすことがあることを意味している が,本稿との関連では,精神障害と物質使用障害(substance use disor-substance use disor-
ders)との併発が挙げられる。後述するように,PSMI間では相当程度の
割合が,物質使用及び乱用が刑事司法制度への入り口となっている。すな わち,1980年代後期に「薬物との戦い」(war on drugs)政策が開始されて 以来,違法薬物の所持がPSMIの相当数の逮捕と結びついたといわれてい る。事実,ミューザー = ドレイク(K. T. Mueser and R. E. Drake)による 研究においても,PSMIの相当程度が,薬物乱用及び依存障害を併発して いることを示唆しており,この組み合わせが,彼等の逮捕,再犯及び拘禁
への可能性を高めるものとなっていることを明らかにしている。
しかし,精神病性障害が精神異常を理由とする抗弁としての根拠(the basis for an affirmative insanity defense)を形成するのに対して,薬物中 毒はそうとはならない。すなわち,たとえ被告人が精神異常の証明に失敗 したとしても,精神疾患は薬物中毒よりも量刑を緩和させる要因となる可 能性が高いのである。事実,物質使用障害はその破壊的な後遺症が残るに もかかわらず,それ単独では深刻な精神疾患としてはみなされないことが 一般的であり,研究や臨床上の文献及び法制度等においても,重篤な精神 疾患とは別に論じられている。
こうした理解に対して,国立薬物乱用研究所(National Institute on Drug Abuse)の主導する一連の研究やキャンペーンは,依存や中毒が脳 疾患の 1 つであるという見方を促進することに尽力してきた。しかし,物 質使用障害は医療問題の 1 つであるという人々の評価に至らしめる努力に もかかわらず,いまだに薬物依存・中毒者は危険な存在であり,同情には 値しないと認識されていることもまた事実である。さらに,PSMIとは異 なり,物質使用障害を抱える人々に対しては,「彼等にコカインを吸引す ることやヘロインを打つことを強制していた者は誰もいない」といった意 見で占められ,彼等の置かれている現状に対しては自己責任の問題とみな されることが一般的である。
そうした薬物依存・中毒者に対する世間の認識の一方で,PSMIは一般 的に勘違いされ中傷され,さらには恐れられてはいるが,その病気に対し ては責任を負ってはいないとみなされることが一般的である。それにもか かわらず,PSMIは,精神障害と物質使用障害との高い併存症率ゆえに,
頻繁に刑事司法制度に「薬物事犯者」として取り込まれている。たとえ彼 等が刑事司法制度内において薬物中毒及び依存障害のための治療サービス を受けるとしても,彼等の精神障害は診断・治療されないことも起こりう るのである。
⑵ 第2軸障害(反社会性人格障害,境界性人格障害及び妄想性人格障 害等)との関係
同様に,固定的・永続的な不適応傾向を示す第 2 軸(Axis Ⅱ)診断を 伴う人々も,臨床上又は法律上の理由によって重篤な精神疾患のカテゴ リーから除外される。第 2 軸障害,特に反社会性人格障害(antisocial per-antisocial per- per-per- sonality disorders),境界性人格障害(borderline personality disorders)あ るいは妄想性人格障害(paranoid personality disorders)といった診断を 受けた人々は,問題行動を引き起こすだけではなくその扱いが困難でもあ る。彼らは他者に危害を及ぼす危険性が高く,一般的に「狂気的である」
(mad)というよりは「邪悪である」(bad)とみなされている。さらに第 2 軸診断が刑事的な抗弁の 1 つとして用いられることはまれである。事実,
エリクソン = エリクソン(P. E. Erickson and S. K. Erickson)が指摘する ように,反社会的人格障害の診断は通常,当人が「生まれながらの犯罪者」
(criminal by nature)であることから,より厳しく罰すべきであるという 考えに帰着するものである。また物質使用障害と同様に,PSMIは第 2 軸 障害を併発しうる。精神障害や物質使用障害と反社会性人格障害とを併発 している者は,特に犯罪行動や暴力的行動を行う危険性が高いと考えられ ている。
先の議論において示唆したように,刑事司法システムへのPSMIの関与 についての理解は,その定義上あるいは診断上の問題によって複雑化され る。PSMIは様々な道を通じて刑事司法制度に流入してくる可能性がある。
つまり,彼らは精神疾患の症状から生じる軽微な犯罪を理由として逮捕さ れるかもしれないし,彼らは併存する物質使用障害の依存状態から生じる 違法薬物所持を理由として逮捕されうるかもしれない。さらには,彼等は 重篤な精神疾患と犯罪的思考(criminal thinking )や反社会性人格障害と の併発から生じた重大犯罪によって逮捕されるかもしれないのである。
2. PSMI
の犯罪者化における脱施設化の役割:
Deinstitutionalizationʼs Role in the Criminalization of PSMI
州立病院の閉鎖を意味する脱施設化(Deinstitutionalization)が,刑事 司法システムへのPSMIの流入を引き起こしたという意見は,部分的には 相関的な誤謬に基づくものであり,支持し得ない仮定に基づくものである。すなわち,州立病院を空にするという動きは,1960年代における劇的な犯 罪数の増加と犯罪の政治問題化より10年以上前から開始され,大量収容政 策(the policy of mass incarceration)の実施より25年以上前のことである。
仮に病院に収容されていた患者が,単に刑務所へと移行したと仮定するな らば,「患者」数と「犯罪者」数は,その構成において本質的に重なり合 わなければならないであろう。
この点,ココッツァ = ステッドマン = メリック(J. J.Cocozza, H. J. Stead-J. J.Cocozza, H. J. Stead- Stead-Stead- man and M. E. Melick) は「州立病院の患者の変化」,すなわち,過去に犯 罪歴を持った患者の増加を理由として,病院から退院した患者の逮捕率が 増加していることを明らかにし,州立病院の人口集団が1970年代に変化し たことを示唆している。この 2 つの人口集団間の交差は,その共有する人 口統計学的特徴に帰着するものであり,精神疾患を理由とした元患者間の 犯罪リスクの増加に帰着するものではない。また同様に,モナハン = ステッ ドマン(J. Monahan and H. Steadman)は,犯罪と精神障害との関係に着 目する200の研究レビューにおいて,大部分は「 2 つの集団が共有する人 口統計学的・歴史的特徴によって説明されうる。年齢や性別,人種や社会 的地位及び過去の施設収容歴等といった因子に関して,適切な統計的管理 が適用されるならば,犯罪と精神障害との関係において報告されるいかな るものが,消失する方向に向かうであろう」と結論付けている。さらに,
フランク = グリート(R. Frank and S. Glied)による調査では,1950年から 2000年までのPSMIの収容率の増加は控え目なものであり,同時期におけ る全体的な収容人数の増加を考慮すれば予測可能な範囲であったことを明 らかにしている。特に20世紀後半の半世紀では,精神科医療機関における
PSMIの割合が23%下落する一方で,PSMIの刑事司法関係施設への収容 率はたった 4 %しか増加していないことを彼らは明らかにしている。
3. 貧困と精神疾患:Poverty and Mental Illness
PSMIは典型的には,犯罪行動に従事するよう彼等を追いやるような貧 困に満ちた犯罪性の高い環境に住んでいる。しかし,これらの環境を特徴 付ける因子,例えば,失業やギャング勢力,教育制度から零れ落ちてしまっ たこと,及び住居が不安定であることは,重篤な精神疾患を患っていない 貧困層にある人々にさえも影響を与える。つまり,PSMI間の犯罪を予測 する危険因子は同時に,重篤な精神障害を抱えていない人々の間の犯罪を 予測する危険因子でもある。
この点,精神疾患に関するもっとも初期の疫学的研究以来,多くの研究 者は貧困と重篤な精神疾患との相関関係を見出しており,より低い社会経 済的地位に置かれている人々は,より高い社会経済的地位に位置する人々 よりも重篤な精神障害を負っていると診断される可能性が高いことを明ら かにしている。貧しいことについての弛まぬプレッシャーは精神疾患を引 き起こしうるものであり,下層に漂流していく過程において,精神疾患は その症状が学校に行き,安定した職を得ることを阻害するおそれがあるこ とから,人々を貧困へと至らせる恐れがある。さらに,貧困層に位置付け られる人々は,主要な精神衛生ケアのための保険保証をしばしば有してい ない,あるいは福祉受給権制度(entitlement programs)を通じて提供さ れるケアにアクセスすることが困難となっている。したがって,彼等の諸 症状は治療されることなく,結果として不可逆的な臨床上の悪化・荒廃と,
より重篤な精神疾患の発作・発病を繰り返すおそれがある。さらには,軽 微な犯罪による繰り返しの逮捕は,PSMIの転落への負の連鎖を引き起こ しかねず,刑事司法との接触を重ねた者は,より深く刑事司法システムに 取り込まれていく可能性を高めるであろう。言い換えるならば,軽微な犯 罪による犯罪歴の集積は,総じて刑事施設への収容と再入へと彼等を導く
であろうということである。
また,社会解体が進み,インフォーマルな社会統制メカニズムが脆弱化 している貧困コミュニティーでは,犯罪や逸脱行動に関して高い許容性を 有し,安価な住居を見つけようとするPSMIを,積極的に受け入れる傾向 にある。ハドソン(C. G. Hudson)による社会経済状況と精神疾患との相 関性についての 7 年間にも及ぶ大規模な研究は,貧困や失業,利用可能な 低廉な住居の欠如といった経済的ストレスに繫がる状況は,深刻な精神疾 患の後遺症というよりも前兆の 1 つとなりやすいことを示唆している。つ まり,社会関係資本(social capital)が欠如していることや,家族や友人 と疎遠になること,あるいは貧困地域に居住していること等によって,
PSMIは違法薬物の使用を開始したり,向社会的な価値観を避け,犯罪へ の関与の機会を増やし犯罪者の生活様式へ順応するよう引き込まれていく ことを示唆しているのである。
4. 刑務所人口の激増と「薬物との戦争」:
The Prison Explosion and the War on Drugs
米国における刑務所人口は1980年から2000年までに 4 倍増となり,1995 年以来毎年100万人を超え続けている。アメリカ人10万人当たりの拘禁率 は1980年の139人から2000年の478人にまで上昇,243%の増加を記録して おり,2009年中期までに,成人の拘禁者数は230万人にまで達している。ウォームズレー(R. Walmsley)によれば,現在,合衆国は世界でもっと も高い拘禁率を記録しており(10万人当たり714人),もっとも多い刑務所 及びジェイル人口を記録している。
1980年代以降の,非合法薬物の使用及び販売の撲滅を目的とした法執行 機関の戦略は,国家の逮捕率及び拘禁率の劇的な増加をもたらした。すな わち,一般人口調査(general population surveys)が,1990年代における 合衆国の非合法薬物の使用に関して減少を報告しているにもかかわらず,
薬物事犯の逮捕率及び拘禁率は,21世紀に入ってからも記録的なペースを 継続している。1980年代以降,薬物事犯は逮捕に関するもっとも大きなカ
テゴリーであり,1980年から2000年までの間に,薬物関連事犯による逮捕 は 2 倍以上,2000年単独では,150万人以上の者が薬物事犯で逮捕され,
そのうち 5 分の 4 以上が薬物所持であった。また貧困地域に住むPSMIは,
違法薬物を入手しやすく(コミュニティー内の路上で売られている可能性 が高い),貧困地域における警察官の増員を背景として,所持によって逮 捕される可能性がより高いものとなっている。
薬物所持及び販売のかどで有罪となった犯罪者(同様に薬物使用も高い 割合で併せ持つ)は,以前に比べて頻繁かつ長期間拘禁される傾向にあり,
国家の刑務所人口及びプロベーション人口におけるもっとも増加率の激し い一団を形成している。また,彼等のかなり大きな割合が精神障害を併発 しており,精神疾患を抱えた薬物使用者が苛烈な薬物取締り政策の網に捕 らえられている状況がある。
要約すれば,近時の「薬物との戦争」政策と,違法薬物に代表される物 質使用障害と精神障害との間の併存率の高さは,国家のジェイル及び刑務 所人口において,PSMIが相当程度を占めている状況を部分的に説明する ものである。部分的な薬物及び精神衛生治療システムは,併発障害を抱え る人々に対して完全に統一されたケアを提供することに失敗しており,双 方の領域における懸念を増幅させ,逮捕及び拘禁の危険性をも増大させて いる。
5. 精神疾患のみの治療では,再犯を防ぐことは難しい:
Treating Mental Illness Alone is Unlikely to Lower Recidivism
PSMIに対する施設内及び社会内におけるサービスの提供に対する実務 的な動機付け(motivation)は,再犯を減少させることにある。しかしな がら,精神疾患と犯罪との間の病原論(pathogenesis)は,いまだ確立さ れてはいない。もっとも深刻な 3 つの精神疾患(すなわち,前述した統合 失調症,双極性障害及び大うつ病)の症状が未治療であることは,犯罪と は何らの因果関係を有しているわけではなく,あるいは非常に弱い因果関 係を有しているに過ぎない。重篤な精神疾患と犯罪行動との明白な関係性を説明あるいは予測する論理的モデルは現在のところ存在せず,主要な精 神疾患はそれ自体,犯罪活動のリスクをほとんど,あるいはまったく引き 起こさないように思われる。
また同様に,ステッドマン = デュプイ = モリス(H. Steadman, S. Dupius
and L. Morris)等が指摘するように,精神疾患の諸症状の緩和のみがPSMI
間の犯罪性の減少に影響を与えるということを示した研究はいまだ見受け られない。精神疾患の治療は犯罪性の減少に直接的に影響を与えるもので はないということを認識することが重要であるが,対照的に,物質使用障 害と他の第 1 軸診断に属する精神障害との併発は,特に犯意(criminal in-criminal in- tent)及び犯罪的嗜癖(inclinations)を有す人々の間の犯罪活動を促進さ せることを研究は強く示唆している。このことは,暴力行動とアルコール の摂取・乱用及び依存との関係性を巡るエビデンスが豊富であり明白でも あることからもうかがえよう。しかしながら,精神疾患は間接的に再犯に 影響を及ぼしかねないと思われる。それゆえ,特に,その諸症状を緩和す ることは,PSMIを就業させ安定的な住居を確保・維持し,より適切な自 己管理方法を確立させ,学校へ彼等を戻らせ,家族との関係性を改善させ,
指示された遵守事項に従わせ,結果としてプロベーションやパロールの違 反を回避させることを手助けするであろう。さらには,精神疾患の諸症状 を緩和させることは,犯罪的思考を変化させうる認知行動療法等といった 犯罪行動に対して肯定的な影響を及ぼすであろう介入に対して,PSMIを より従順にさせるであろう。精神衛生サービスが犯罪性に対して何らの影 響をも及ぼさないとしても,ジェイルや刑務所にはPSMIを効果的かつ慈 悲深く治療する道義的・倫理的及び法的な義務がある。システムへと至る 彼等の道筋にかかわらず,PSMIはサービスを受ける権利が与えられてい るのである。
要約すれば,重篤な精神疾患はそれ単独では,めったに人々を犯罪に導 くものではなく,したがって,精神疾患の治療のみでは犯罪あるいは再犯 を予防・減少することは困難である。また精神疾患を抱えていない人々と 同様にPSMIも,犯罪的思考に影響を与える認知行動療法等から利益を受
けることができる。より重要であることは,精神疾患と物質使用障害との 併発のための統合された治療は,PSMIが彼等の諸症状等に対処すること を手助けすることにおいて決定的であるということであろう。
6. 刑事司法制度内においてPSMI
を扱うための諸施策:
Attempts to Handle PSMI in the Criminal Justice System
刑事司法制度内における顕著な精神障害者の存在は,彼等の多様なニー ズを満たす特化したアプローチ,学際的なアプローチに対する多大な資金 要求と強い呼びかけを引き起こした。近年では,精神保健医が警察やジェ イル,刑務所,プロベーション及びパロール機関において,中心的な役割 を担うよう協力し始めている。そうした一方で,刑事司法の専門家もまた,現在,精神疾患や行動障害を伴う犯罪者を管理するための新たな諸方策を 学習しているところである。
現在,ジェイルや刑務所は事実上,精神障害者に対する最も大規模な治 療環境となっており,矯正施設内における精神衛生ケアの提供者は,不十 分なサービス環境と膨大な業務負担量にしばしば対処している。メンタル ヘルスコート(mental health courts:以下,MHCとする)等のような PSMIに対して特化したプログラムは,彼等を刑事司法制度からダイバー トし,彼等が適切な介入を受けることを保障する大きな見込みがある。
刑事司法システムはそのプログラム及びサービスに関して,PSMIに対 する各段階における介入を現在創出し始めている。例えば,連邦政府に よって拠出された「GAINS Center」や「Criminal Justice/Mental Health Consensus Project」,「Council of State Governmentʼs Justice Center」等の ような国家的取組みは,意欲的な研究を促進させ,連邦,州及びローカル レベル等の異なる法域間でのエビデンスに基づいた実務の共有を促してい る。さらに,2004年の「精神障害犯罪者処遇及び犯罪減少法」(Mentally Ill Offender. Treatment and Crime Reduction Act)等に代表される幾つかの連 邦法は,刑事司法領域と精神衛生領域との,より良き協働を促進させ,刑 事司法制度内におけるPSMIに対する関心を高めることに成功している。
このように刑事司法システムは,その各段階においてPSMIに対処する ための多大な努力を払っている。刑事司法制度と精神保健制度は異なる基 盤に立てられており,両者は異なる哲学,異なる能力を有し,異なる組織 的な義務(institutional imperatives)を満たすものである。しかし,それ でもなお前者は本来的には後者に排他的に位置付けられた業務の多くを 行っている。そのことはつまり,物質使用障害やホームレス,及び失業と いったその他多くの問題を抱える貧しいPSMIのために,刑事司法システ ムが精神衛生ケアを提供していることを意味しているのである。
7. 政策的示唆
⑴ 標準化されたアセスメント ・ ツールの利用:The Use of Standard-The Use of Standard- ized Assessment Tools
ある集団において,何らかの疾病を治療するために必要なことをアセス メントする際に必要となるステップは,その性質及び規模を決定する,安 定した精神測定特性(psychometric properties)を備えた,標準化された アセスメントツールの利用を要求することである。例えば,構造化面接法
(Structured Clinical Interview for DSM-IV [SCID])に代表される幾つかの ツールが,刑事司法集団人口間の苦悩や基本的諸症状及び機能障害(func-func- tional impairment)等をスクリーニングするために実施されるべきである。
スクリーニングは,主要な精神疾患(統合失調症や双極性障害,及び大う つ病)の診断評価における第一歩として実施されるべきであり,明確な診 断基準に従って行われなければならない。さらに基準値(baseline mea-baseline mea- sures)の生成は,長期間に渡る精神障害の発生率等を図表化するために 利用しうるものである。「Brief Jail Mental Health Screen」といった特化さ れたスクリーニング・ツールは,矯正施設内の集団のために作り出され適 用されており,ジェイルや刑務所及びプロベーションといった環境におい て,訓練された専門家が雇用されるべきである。要するに,スクリーニン グの結果は,重篤な精神疾患のさらなる評価の基盤としての役割を果たす
だけではなく,職員の配置及びケース・マネジメント計画の展開の基盤と しても資するものである。
⑵ 犯罪者化の終焉:The End of Criminalization
PSMIの非犯罪者化についても検討されるべき問題の 1 つである。警察,
裁判所及びジェイルを基盤としたダイバージョン・プログラムに対して十 分な資金供給がなされ,PSMIのダイバージョンや精神衛生システムの実 務及び運用について精通した専門家が適切に配置されなければならない。公 的ニューサンス(public nuisance)等の類型の侵害行為を行ったPSMIを,
刑事司法手続からダイバートするための段階的な取組みは,救急措置(入院)
プロセスと結びついたダイバージョン的メカニズムを確立するための強い 決意や,警察署と地元の病院との間で取り決めに関する成文化された取り決 めを要求するものである。このような取り決めには,重篤な精神的疾患を抱 えている者を迅速な診断や心情の安定及び治療を受けるために病院へと連 れて行く方法等といった明確なプロトコルが記述されるべきである。
同様にPSMIの犯罪者化には,収容状況下の行動を管理するジェイル及 び刑務所の規律・規則やプロベーションやパロールの条件等を構成する遵 守事項等に従うことができないことを理由とした処罰をも含むものであ る。例えば,精神疾患を伴う在監者を対象とする管理上の隔離措置や特別 ユニット(special housing units)の利用は,そのような処罰の究極的な 有害的帰結を理由として再考されるべきである。すなわち,クーパーズ(T.
Kupers)が指摘するように,隔離はPSMIに対して深刻な代償不能な精
神疾患を引き起こしかねず,また過酷なストレスと孤独を通じて,これま で兆候のなかった在監者に対してもメンタル面での問題を引き起こしかね ないことを研究は示唆しているのである。
確かに施設運営上の隔離措置は,刑務所の規律や集団管理の必要な構成 要素の 1 つではある。しかし,幻聴や認知機能障害あるいは妄想等が原因 で,施設職員の命令に対して応答することができないPSMIに対しては使 用を控えるべきか使用すべきではない。刑務所の規則に従うことができな い精神疾患を抱える在監者に対しては,薬物療法や病院への移送が代替的
に検討されるべきである。
⑶ ケース ・ マネジメント及び治療の重要性:The Importance of Case Management and Treatment
重篤な精神疾患は,矯正施設内における他の疾患と同様に治療されるべ きである。生きたまま脳を視覚化させる先端科学技術は,PSMI間の脳構 造の逸脱や過程を明らかにさせ,これらの相違が,重篤な精神疾患に関す る生物学的,あるいは遺伝学的な支持を確立させ,医療的介入の進展を示 唆するものである。刑務所及びジェイルは,他の慢性的な疾患や健康状態 を抱える人々に対するケアと同様の方法で,PSMIのケアに対して長期間 の責任を受け入れる準備をすべきである。
精神衛生サービスの供給は,ジェイルや警察及びコミュニティー矯正プ ログラムにおけるPSMIを対象とした期待のケアの 1 つである。施設収容 状況下における薬物療法は,精神疾患の諸症状を緩和するために安全かつ 安定した環境における他のケアとともに処方されるべきであり,鎮痛剤に よる集団の管理等を目的とするものであってはならない。ただ,ヒューマ ン ・ ライツ・ウォッチ(Human Rights Watch)をはじめとした多くの研 究が示唆しているように,矯正施設における精神衛生ケアは深刻な資金不 足に悩まされており,精神疾患を抱える在監者の相当程度の割合のニーズ は満たされないまま放置されていることこともまた傾聴しなければならな いであろう。
また,パロール対象者や釈放者に対して,刑務所やジェイルを離れた後 の疾患に対処するために,将来の釈放を準備するための移行的なサービス が拘禁収容中に提供されるべきである。効果的なアフターケア・サービス の供給は,PSMIの継続的な回復にとって必要不可欠であり,重篤な精神 疾患は様々なレベルで対処しなければならない慢性疾患の一種であること を認識する必要がある。
さらにMHCは,コミュニティー内において犯罪に関与したPSMIに対 して有益な介入手段の 1 つであるように思われる。通常,軽微なレベルの 犯罪者に対して,MHCは精神疾患を伴う者をジェイルに入所させないよ
うにするためのダイバージョン的機能を果たしている。治療や他のサービ スプログラムの成功に基づいて,MHCの参加者は,事件の取り下げを受 ける(cases dismissed)ことが可能となっている。MHCは,治療法学
(therapeutic jurisprudence)やドラッグ ・ コートの原理モデルを基礎とし ており,MHCチームによる非敵対的(nonadversarial)アプローチは,精 神衛生や薬物治療の専門家と並んで,コーディネートされたケース ・ マネ ジメント計画を実施するために裁判官と密接に協働する,ソーシャル ・ ワーカーやプロベーション・オフィサーの知識を汲み取るものである。
お わ り に
本稿を通じて主張してきたように,現在のところ,精神疾患の治療それ 自体が,犯罪や再犯の減少を導くものであるという考え方を裏付ける証拠 はない。重篤な精神疾患は,犯罪リスクを予測する主因子(例えば,反社 会的行動歴や反社会的な人格傾向,反社会的認識及び反社会的交友関係)
に含まれるものではない。
しかし,精神疾患の治療は,犯罪リスクを低下させるに資するプログラ ムにPSMIを乗せやすくさせるものである。刑事司法システム内における PSMIを対象としたケース・マネジメント戦略は,犯罪生成ニーズ(crimi-crimi- nogenic needs)や犯罪的思考の改善に向けた介入等と並んで,生産的か つ遵法的な生活を送るために必要な能力や技術の教育も含まなければなら ない。したがって,例えば,犯罪的思考を判定するための尺度には,第四 世代評価(fourth-generation evaluations)として知られるような,エビデ ンスに基づいたリスク・アセスメント戦略等が取り入れられるべきであ る。このようなツールは,犯罪生成ニーズや統計的予測モデルに由来する 動的因子(dynamic factors)に焦点を当てるものである。
刑事司法制度内におけるPSMIのケアに対する多大な資金投資は,精神 疾患と物質使用障害との併存症の治療に向けられるべきである。違法薬物 の使用は犯罪促進因子であることが一貫して研究によって明らかとされて
おり,(精神疾患と物質使用障害との)併存症もまた,犯罪や暴力,再発 及び再犯と関連付けられている。
結論として,重篤な精神疾患と貧困及び物質使用障害との相互関係を理 由として,PSMIは刑事司法制度に過度に多く取り込まれ続けるであろう ことが今後も予測される。懲罰的な薬物政策と犯罪統制政策は,前例のな いほど多くの人員を刑事施設に送り込んでいるが,刑事司法手続の観点か ら言えば,PSMIはそれらの政策の矢面に立たされている。公的ニューサ ンス等の公序に違反する軽微な行為を行ったPSMIは,刑事司法制度から ダイバートされるべきであり,より重大な犯罪を行った者に対しては,適 切な診断と刑に服させるべきであり,それは刑事司法制度を担う者の法的,
道義的・倫理的な義務である。
またケース・マネジメント戦略は,精神疾患と犯罪への関与によって 人々を阻害する複雑な問題を対処するための最も効果的な戦略の 1 つであ る。もっとも重要であることは,(犯罪活動に活発に従事しやすく,公共 の安全に対して危険性が高い)併発障害を伴う人々に対する完全に統一化 されたプログラムの供給である。
最後に精神疾患の治療はPSMIに対する,よりよき介入の中心に位置付 けられなくてはならないが,それ単独では犯罪や再犯を減少させる可能性 は低いことをわれわれは認識する必要がある。サービス提供者たる刑事司 法関係者には,犯罪生成因子の改善に焦点を当てるような施策を提供する ことが今後も望まれ,国家政策的には,併発障害の治療に対する大規模な 資金投資と,治療の利益や回復を維持するために必要不可欠な,アフター ケア・サービスに対する資金供給も同時に望まれるであろう。
参 考 文 献
*American Psychiatric Association, DIAGNOSTIC AND STATISTICAL MANUAL OF MENTAL DISORDERS,FOURTH EDITION TEXT REVISION, Arlington, VA:American Psychiatric Publishing Inc, 2000.(高橋三郎 = 大野裕 = 染矢俊幸訳
『DSM‐IV‐TR 精神疾患の診断・統計マニュアル新訂版』医学書院2003年)。
*Arthur J. Lurigio, “People With Serious Mental Illness in the Criminal Justice System: Causes, Consequences, and Correctives”, The Prison Journal, Vol.91, No.
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ニュージーランドにおける青少年裁判所太平洋諸島系 コミュニティ・リエゾン・サービス
The Youth Court Pacific Community Liaison Service in New Zealand
綿 貫 由 実 子
*は じ め に
近年,我が国における外国人犯罪対策は,従来の,犯罪目的で入国する 外国人犯罪者対策に加えて,日本で遵法的に暮らす外国人労働者等やその 家族との「共生」をも重視するようになってきた。平和で安全で生活水準 の高い,豊かな日本で働きたいと思って来日した外国人を地域社会の中に 受け入れて共に生活することは,犯罪対策としても有効であると考えるか らである。
外国人労働者が多数居住する「外国人集住地域」を抱える地方自治体は,
それぞれ独自に「共生」に向けた取組みを行ってきた。「外国人集住都市 会議」1)は,このような自治体が多文化共生について考える会議であり,
必要に応じて首長会議を開催し,国・県・関係機関等に対する提言を行っ てきた。こうした社会の変化に応じて,警察もまた,共生に向けた取組み を進めてきた。だが,我が国が今後,少子化にともなう労働力不足を補う ために,さらに多くの移民を労働者として受け入れていくつもりでいるな らば,一層の努力が必要となることは,諸外国の動向を見ても明らかであ
* 嘱託研究所員・常磐大学非常勤講師
1) 南米日系人を中心とする外国人住民が多数居住する自治体関係者の集まり。
群馬・長野・岐阜・静岡・愛知・三重・滋賀・岡山にある28都市からなる
(2011年 4 月 1 日現在)。http://www.shujutoshi.jp
ろう。
移民国家として誕生したアメリカも,旧植民地出身者という多様なエス ニックを抱えるイギリスもフランスも,そして外国人労働者としての移民 の受け入れを決断したドイツも,現在同じ問題に直面している。「移民二世」
の問題である。その最悪の事例が,2005年にイギリスで発生した同時多発 テロ事件であり,我が国の『警察白書』でも,「ホームグローン・テロリ スト(国内育ちのテロリスト)」2)として紹介されている。
「移民の犯罪」は古くから世界中で憂慮されてきたが,すでに1930年代 のアメリカの研究3)によって,移民の第一世代よりも,両親の移民後に生 まれ育った第二世代や,親に連れられて少年期に移民してきた第一世代に 問題があることがわかってきた。自らの意思に基づいて移民を決断した第 一世代には,母国を捨てて他国に移住するだけの理由があった。このため 言葉ができなくても労働条件が悪くても一生懸命に働き,犯罪に至る者は 少ない。しかし,そのような母国の事情をよく知らないまま親に連れられ てきた子どもの移民や,両親の母国を知らずに育った第二世代は,文化葛 藤による社会不適応などの末に,犯罪や非行に至る確率が高まる可能性が あり,対策が必要となる。
本稿が紹介するニュージーランドの「青少年裁判所太平洋諸島系コミュ ニティ・リエゾン・サービス」もそのような対策の一つである。太平洋諸 島系の担当官による,太平洋諸島系の青少年の犯罪や再犯の防止を目的に 設立された制度である。担当官は,自分と同じ出自の青少年を見守り,青 少年と家族・教会・コミュニティ等との間の絆を深め,青少年裁判所にお ける訴訟手続等の際には付き添い,青少年に必要な援助を行うことを通し
2) 「欧米等の非イスラム諸国で生まれ又は育ちながら,何らかの影響で過激化 し,自らが居住する国やイスラム過激派が標的とする諸国の権益をねらってテ ロを敢行する」者。警察庁編『平成20年版警察白書』ぎょうせい(2008年)
162頁ほか。
3) ソーステン・セリン(小川太郎・佐藤勲平訳)『文化葛藤と犯罪』法政大学出 版局(1973年)ほか参照。
て,裁判所と家族と地域社会との密接な連絡を行うことが求められている。
移民国家であるニュージーランドと異なり,今なお外国人登録者数が人 口の 2 %にも満たない我が国において,「移民二世」の問題は遠い話のよ うにもみえるが,少年院や保護観察所をみれば,この問題がすでに顕在化 していることがわかる。我が国の将来のためにも,2002年にニュージーラ ンド裁判所省が作成したブックレットである『青少年裁判所および青少年 裁判所太平洋諸島系コミュニティ・リエゾン・サービス(The Youth Court and the Youth Court Pacific Community Liaison Service)』を参照し ながら,青少年裁判所太平洋諸島系コミュニティ・リエゾン・サービス担 当官と,青少年裁判所における太平洋諸島系の青少年に対する司法制度の 概要について,見ていきたいと思う。
I 「太平洋諸島系」とはどのような人々か
⑴ ニュージーランドにおけるエスニック・グループの現状
人口437万人程度4)の国家でありながら,ニュージーランドのエスニッ クは複雑である。
2006年の国勢調査5)よるエスニック調査の結果は,ヨーロッパ系(Euro-Euro- pean, 67.6%),マオリ系(Maori, 14.6%),太平洋諸島系(Pacific peoples, 6.9%),アジア系(Asian, 9.2%),中近東・中南米・アフリカ系(Middle Eastern/Latin American/African, 0.9%),その他のエスニシティ(Other Ethnicity, 11.2%)であり,その合計は総人口を上回る。複数のエスニッ クに所属すると自認する者が複数のエスニックを選択するためだが,「そ の他のエスニシティ」と答えた者(11.2%)のほぼ全員が「ニュージーラ ンド人(New Zealander, 11.1%)」6)と答えている。
4) 外務省HPの各国情報より。2010年 7 月末の推計値として掲載されている。
5) 2011年に国勢調査が行われる予定であったが,クライストチャーチの地震に より2013年に延期された。このため,2006年のデータが最新のものとなる。
6) この「ニュージーランド人」という区分は,2001年の国勢調査の際に登場した。
ニュージーランド政府は現在,これらのエスニックの中でも特に,マオ リ系と太平洋諸島系に対して熱心な取組みを行っている。マオリ系は先住 民族であり,太平洋諸島系の多くがニュージーランドの旧植民地出身者で あるという歴史的背景もあるが,両エスニックには,ニュージーランド社 会に脅威を与える存在であるという共通点がある。
2003年に,ニュージーランド最大の都市であるオークランド市にある オークランド地方裁判所を訪問した際に聞いたところによれば,総人口の 15%を占めるマオリ系が刑務所人口の約50%を占め,総人口の 5 %を占め る太平洋諸島系が刑務所人口の約25%を占めているとのことであった。
ニュージーランド矯正省が公表した2011年12月31日現在のデータによれ ば,エスニックごとの刑務所人口比は,マオリ系51.4%,ヨーロッパ系 32.9%,太平洋諸島系11.5%,アジア系2.7%,その他0.9%,不明(unknown) 0.6%となっている。太平洋諸島系の刑務所人口比は改善傾向にあるとも みえるが,依然として高い数値であることに変わりはない。
また,マオリ系と太平洋諸島系の両エスニックは,低賃金の未熟練労働 者としての社会的・経済的な競合関係にあることに加えて,同じポリネシ ア系という民族的な出自がある。しかしそのことが先住民であるマオリ系 と移民である太平洋諸島系に対するニュージーランド国内における待遇の 違いを差別的だと感じさせたり,民族的な近親憎悪等から争いが絶えない ともいわれる。しかし,残念ながら両者の間には,貧困率や失業率が高く,
教育程度が低いという共通点がある。そのうえ両エスニックはその他のエ スニックよりも出生率が高いため,20年後にはニュージーランドの人口の 多数派を形成する見通しとなっている。
いうなれば,これまでニュージーランドの政治・経済・地域社会をリー ドしてきた「パケハ(Pakeha,マオリ語で白人を意味する)」と呼ばれるヨー ロッパ系が,マイノリティに転落するということである。それゆえこの両 エスニックの自立と更生と健全育成は,ニュージーランド政府にとって,
非常に重大な問題なのである。
⑵ 太平洋諸島系とはどのような人々か
本稿が参照する『青少年裁判所および青少年裁判所太平洋諸島系コミュ ニティ・リエゾン・サービス』というブックレット(以下,「本冊子」と 表記)は,青少年裁判所に係属されることとなった14歳から16歳までの青 少年とその家族に対して,今後の裁判等の中で行われる手続きの概要につ いて,英語・クック諸島マオリ語(Cook Islands Maori)・ニウエ語・ニウエ語(Ni-(Ni-(Ni- uean)・サモア語(Samoan)・トケラウ語(Tokelauan)・トンガ語(Tongan) という 6 つの国または地域の言語で説明するものである。
これらの国または地域は,いずれもハワイやタヒチと同じポリネシア系 に属する。近年,アメリカ合衆国においてもポリネシア系による犯罪が問 題となっているが,米領サモア(旧東サモア)系やトンガ系が多いとされ る。一方ニュージーランドで問題となっているのは,ニュージーランド最 後の植民地と呼ばれるトケラウや,旧植民地のクック諸島とニウエ(現在 はニュージーランドとの自由連合)およびサモア独立国(旧,西サモア)や,
1970年にイギリスの保護領から独立したトンガ王国からの移民である。
そもそもポリネシア7)とは,ハワイ諸島,ニュージーランド,イースター 島を結ぶ三角形の内側にある「たくさんの島の連なり(ポリネシアの原意)」
を指す地理上の区分であり,文化的,人種的な区分でもある。「ポリネシ アは古くから,各諸島間の文化の近似性が航海者や宣教師などに指摘され ていた。各諸島間の文化は,言語でいえば方言に相当する差異でしかなく,
祖先を同じくすることは明らかなのである。」「今日,とりわけポリネシア ではキリスト教は『土着的』といいうるまでに人々の生活に深く結びつい ている」などの特徴がある。
言語の近似性という点については,例えば,本冊子の序文の冒頭に出て くる「こんにちは(Talofa lava, kia orana, malo e lelei, fakaalofa lahi atu, Talofa ni, greetings)」という一語をみてみたい。もちろん,これらの表記だけを 見てポリネシアの言語的な近似性を否定するものではないが,ニュージー 7) ポリネシアに関する記述については,山本真鳥編『新版世界各国史27 オセ
アニア史』山川出版社(2000年)を参照した。
ランド裁判所省が 6 ヶ国・地域の言語を併記した本冊子を作成した理由が 理解できるような気がする。またキリスト教との関係についていえば,本 冊子は「地域社会との連携」とはいわずに,「教会とコミュニティ」とい う表現を使用するなど,コミュニティに加えて必ず教会が明記されている。
このことからも,太平洋諸島系の人々にとって,いかに教会の存在が大き いかということがわかるであろう。
また,ポリネシア諸国は「MIRAB経済」であるといわれる。「これらの 国々がMI=migration(移民),R= remittance(送金),A=aid(海外援助),
B=bureaucracy(官僚制)によって成り立っているという認識に立つ。ポ リネシア諸国はとりわけ環太平洋諸国への移民送り出し国となっており,
その送金は国家経済にも影響を与えるほどの金額にのぼる。」ためである。
この「移民送り出し国」という点についていえば,現在も,特にニウエ とトケラウは,本国の数倍の人口がニュージーランドに居住しているとい われる。また,第二次世界大戦後に国家・地域としての独立を果たした後 も,MIRAB経済から抜け出せずにいたポリネシア諸国は,移民として ニュージーランドに押し寄せた。だが1970年代に,EC(現EU)に加盟す るイギリスから経済的な自立を突きつけられたニュージーランドが,国家 的な経済危機に直面した結果,市民権を持たずに短期滞在の査証で働いて いた太平洋諸島系の不法滞在者を摘発し,強制送還した8)ことが今なお禍 根を残しているという指摘もある。
このような経緯を経て,太平洋諸島系の人々は現在もニュージーランド に居住している。このような人々とうまく共生していくための制度として
「太平洋諸島系コミュニティ・リエゾン・サービス」は期待されているの
8) 内藤暁子「太平洋島嶼国の一員として」日本ニュージーランド学会編『ニュー ジーランド入門』慶應義塾大学出版会(1998年)210-214頁を参照。同書はまた,
太平洋諸島系は,一般にひとまとめにして扱われることが多いが,実際には出 身地である島嶼ごとにコミュニティを形成しており,若者も,島嶼ごとにギャ ング団を組織し,ニュージーランド・マオリのギャング団とともに街を騒がせ ているとしている。
である。以下,本冊子の内容を見ていきたい。
III 序 文
青少年裁判所主席判事(Principal Youth Court Judge) によるこの序文は,
本制度の概要と目的について明記しているので,ポイントを絞ってみてい くことにする。
⑴ 対 象 者
青少年裁判所は,罪を犯した14歳から16歳の青少年(young offender)を 対象とする。
なお,約 7 割の青少年犯罪者は,警察による警告や,加害者本人が被害 者に対して謝罪や弁償などを行うことによって処理される軽微な犯罪のた め,裁判所には起訴されない。
⑵ 本 部
マヌカウ地方裁判所(Manukau District Court)に本部をおく。
マヌカウ地方裁判所があるマヌカウ市9)は,南オークランド(South
Auckland)に位置し,太平洋諸島系が多数居住する地域として知られてい
る。多数のエスニック・コミュニティが存在する民族的に多様な都市であ り,全国平均よりも失業率が高いなどの問題もあるため,治安の面でも注 意が必要な地域である。
⑶ 本制度の目的
本制度の目的は「太平洋諸島系の人々の家族とコミュニティに対して,
太平洋諸島系の青少年犯罪者が,再犯を行わないという決断をするための 手助けをしていく上で,より大きな役割を果たす機会を提供するものであ 9) マヌカウ市の概要と再犯率の高さについては,荻野大司「犯罪予防論の現代
的展開(1)」『広島法学』30巻 1 号(2006年)229-254頁を参照した。
る。」と説明されている。
実際のところ,太平洋諸島系コミュニティ・リエゾン・サービスの担当 官は,対象者を,再犯のみに限定しているわけではない。街に出て,太平 洋諸島系の児童や青少年に声をかけ,様子をたずねることも大切な仕事で ある。しかし,少年犯罪の高い再犯率が問題となっているニュージーラン ドの中でも,マオリ系に次いで非常に高い再犯率を示している太平洋諸島 系の少年が対象とあっては,「再犯防止」が何よりも重要な問題となるため,
このような表記がとられたのではないかと思われる。
⑷ 本冊子発行の目的
「南オークランドの裁判所に出廷する青少年犯罪者に対して,青少年裁 判所太平洋諸島系コミュニティ・リエゾン・サービスの担当官は,裁判所 における手続き(court process)の中で,青少年犯罪者とその家族を手助 けするものである。裁判所における手続きの初期段階の間に,家族,教会 さらにはコミュニティから望ましい支援を受けることは,青少年が,さら に罪を犯さないことを確かなものにするための手助けとなり得るものであ る。
本冊子は,もしあなたが青少年裁判所にいかなければならなくなったと きに,あなたの身にどのようなことが起こるのかについて,あなたとあな たの家族に対して,情報を提供するものである。本冊子が,あなたとあな たの家族にとって,裁判所における手続きへの不安を軽減するための手助 けになることを期待するものである。もし,何か質問があれば,マヌカウ 地方裁判所にある青少年裁判所太平洋諸島系コミュニティ・リエゾン・
サービスまで連絡されたい。」として,序文は結ばれている。
IV 本冊子の内容紹介
⑴ 青少年裁判所とはなにか?
「もしあなたが青少年で,罪(法令に反する行為)を犯したのであれば,
あなたは,警察によって訴追され(be charged by the Police),裁判所に出 廷しなければならないことになるかもしれない。」という一文に続き,青 少年とは14歳から16歳までの者であり,裁判は非公開で行われる旨の説明 が続く。
そして「青少年裁判所に出廷するということは,すべてが『更生の機会 (second chances)』に関することである。いうなれば犯した過ちを正すと いうことである。すなわち青少年が,彼らの成長を妨げてきた過ちをなく すことによって,彼らの人生を歩んでいけるようにするということなので ある。多くの青少年は,このような機会をつかみ取り,決して後ろを振り 向くことはないのである。」と青少年裁判所の意義について説明している。
⑵ 太平洋諸島系に特化した,太平洋諸島系の青少年に対する援助につ いて
青少年裁判所は,ときに恐ろしく,困惑させる場所であるかもしれない が,太平洋諸島系の青少年とその家族には,「青少年裁判所太平洋諸島系 コミュニティ・リエゾン・サービス」という援助が用意されており,①「青 少年裁判所太平洋諸島系コミュニティ・リエゾン・サービス担当官(以下,
「担当官」と表記する)」と,②担当官が,青少年裁判所に来るに至った太 平洋諸島系の青少年のために,最善のアイディアを見つけ出す手助けをす る専門家委員会(Resource Panel) とによって構成される。
担当官とは,「あなたと青少年裁判所との間を橋渡しできる人」であり,
「司法過程の各段階において,あなたがどのようなことに直面するのかと いうことを,可能な限り確実に理解できるように,あなたとあなたの家族 のそばで,働く人」であると説明する。そして,「家族や教会やコミュニティ から望ましい支援を受けることは,あなたにとって肯定的な成果を達成す るための手助けとなる」と強調することを通して,担当官が行う橋渡しの,
もうひとつの重要な側面について言及している。
そして,もしあなたが初めて裁判所に出廷するまでの間に担当官と会え なかった場合は,裁判官かあなたの担当弁護士を通して,このサービスを
受けられるようにすることはとても重要であると明記している。
⑶ 警察に逮捕されたら?
① 初めての裁判所(First time in court)
警察によって逮捕され,訴追されたら,その日のうちに,そして,もし 時間的な余裕があるとしても翌朝までには裁判所に出廷しなければならな い(土曜日に逮捕された場合は,次の月曜日に裁判所に出廷しなければな らない)。しかし,青少年裁判所は毎日開廷しているわけではないので,
まず地方裁判所に出頭してから,次に青少年裁判所が開廷される日まで待 つことになる。
そして以上のような実務上のきまりごとに続けて,「青少年を逮捕でき る要件については極めて厳格な法律があるため,弁護士が最初にすべきこ とは,あなたの事件に対して,その法律が正しく用いられているかどうか を確認することである。」ことも明記している。
② 召喚状(Summons)
ときには,警察官が,あなたを逮捕するのではなく,あなたに青少年裁 判所に行くように通知することがある。この通知が「召喚状」である。召 喚状には,あなたの事件を審理する日時と場所が記載されている。もしあ なたが裁判所に出廷しなければ,警察官は裁判所に対してあなたの逮捕状 を請求することになる。(あなたが裁判所に出廷すべき時に出廷しなかっ た場合,警察はいつでもこの令状を取ることができる。)
③ あなたの弁護士/青少年アドボケイト(Youth Advocate)
犯罪行為によって訴追された青少年に対処するための訓練を受けた弁護 士を,「青少年アドボケイト」といい,その資金は政府から支出される。
あなたには自分で自分の弁護士を選ぶ権利があるが,その場合は私費で弁 護活動に対する費用を支払わなければならない。
④ ダイバージョン
法を犯したすべての青少年が裁判所に出廷するわけではない。多くの者 は,「ダイバージョン」という司法制度から回避される制度の中で処理さ
れる。
⑷ 青少年裁判所で何が行われるのか?
① 起訴内容を否認した場合
あなたが起訴内容を否認し,罪を犯していないと主張した場合,防御の ための審理が行われることになる。この審理において裁判官は双方の話を 聞き,その上で誰が信用できるのかを決定することになる。
② 起訴内容を認めた場合
あなたが起訴内容を認めた場合,あなたを担当する青少年アドボケイト は裁判官に対して「否認しない」と告げることになる。例えば,あなたが ある家に不法目的侵入をしたと警察が主張した場合,起訴事実は一件の不 法目的侵入となる。あなたがその家に不法目的侵入をしたことを認めた場 合,青少年アドボケイトは,不法目的侵入の起訴事実について否認しない と主張することになる。
⑸ 家族集団協議会(Family Group Conference:FGC)
事件の審理を中断して家族集団協議会を開催することがある(通常 2 週 間位)。裁判官があなたの事件の審理を中断する場合,このような措置を
「休廷(adjournment)」という。
家族集団協議会の正式な面談を開催するために必要な参加者は,あなた とあなたの家族,あなたを担当する青少年アドボケイト,被害者,公衆
(public)及び被害者の代表を務める警察の青少年支援官,面談を計画し運
営する児童・青少年・家族サービス省の青少年司法コーディネーターであ る。この面談においてあなたは,自分がしたことに対して自分の力で埋合 せができる最善の方法や,再びこのような問題を起こさないために自分が どうすべきかについて話すことになる。家族集団協議会は概ね 2 時間から
4 時間ほど続く。
また,上記以外に,あなた側の関係者として家族集団協議会の面談に招 かれる可能性がある者として,青少年裁判所の太平洋諸島系コミュニ
ティ・リエゾン担当官,ソーシャル・ワーカー,あなたが通う教会の牧師
(church Minister)や教会関係者,あなたが通う学校の関係者(養成課程 の場合はあなたの課程の関係者),カウンセラーが挙げられる。この場合,
あなたが参加してほしいと思う全ての人を,青少年司法コーディネーター に告げることが,極めて重要となる。
そして家族集団協議会において最終的に,あなたの事件がどのように処 理されるべきかについての決定がなされることになる。次回の法廷での審 理において,裁判官はこの決定を受理できるかどうかを決定する。裁判官 の判断が最終的な決定となるのである。
⑹ 家族集団協議会でなされる決定について
青少年の中には,家族集団協議会で決定された計画を課される者もいる。
これまで裁判所に訴追されたことがない場合,もしくは罪が軽微な場合,
あるいはその両方である場合が,通常これに該当する。あなたの計画が終 了するまでに,求められたすべてのことを実行した場合,通常は起訴が取 消される。つまり,あなたの犯罪記録がなくなることを意味している。
より重大な起訴事実によって,あなたが更生の機会(second chance)を 与えられ,かつ,これを台無しにしてしまった場合,青少年裁判所から命 令が下される。これは,あなたに対する犯罪記録は残るものの,地方裁判 所が下す有罪認定とは異なることを意味している。青少年裁判所の命令の 一般例として挙げられるのは,社会内労働命令,保護観察命令,そして特 定の行動を伴う保護観察命令などである。
すべての選択肢が,家族集団協議会において,あなたに対して十分に説 明される。もしあなたが望むのであれば,この問題についてあなたの家族 と私的に話し合うことができるし,青少年アドボケイトと単独で話し合う こともできる。
命令が下された後に,あなたが行うべきことを達成できなかった場合は,
あなたのソーシャル・ワーカーによって破棄される場合がある。これはあ なたが裁判所に呼び戻され,再度量刑宣告を受けるかもしれないことを意
味している。そして,このことはしばしば,より厳しい刑を受けることを 意味するものである。
⑺ 青少年裁判所における事件の審理の間に使用される住居に関する取 決め
裁判所で審理が継続している間,裁判官はあなたがどこで生活するかを 決定しなければならない。選択肢としては,以下のものがある。
①家族と一緒に生活できるよう保釈される場合(あなたの家族があなた を受け入れることができない場合には,その他の場所)。
②児童・青少年・家族サービス省の保護監督下に置かれる場合(青少年 の家族もしくはコミュニティ内にある家のうちのいずれかへの配置,また は,彼らの居住のための場所のうちのいずれかに送られることを意味する 場合もある)。
③警察の保護監督下に置かれる場合。
⑻ 深刻な犯罪行為
青少年の中には,例えば加重強盗などのように,極めて深刻な方法で法 を犯す者もいる。法律用語では,これに対する訴追を「正式起訴状のみで 訴追される犯罪」と呼ぶ。
あなたが正式起訴状のみで訴追される犯罪によって訴追され,かつあな たがこれを認めた場合,青少年裁判所はまず最初に,青少年裁判所にとど めることを認めるべきか否かを決定しなければならない。
それ以外の選択肢としては,量刑宣告のために地方裁判所もしくは高等 裁判所に移送することが挙げられる。これらは成人の裁判所であり,あな たは成人の犯罪者と同様に扱われることになる。このような決定は,しば しば「司法管轄権上の」決定と呼ばれる。
⑼ それでは今どこへ行けばいいのか?
あなたやあなたの家族が,あなたの事件に関して聞きたいことの中には,