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8号(2020)p.21-40

ディスクロージャー誌に見る農協ガバナンス改革の必要性について

Recommendations of the governance reform of the agricultural cooperatives based on the analysis of their disclosure documents

中央大学大学院戦略経営研究科 ビジネス科学専攻(博士後期課程) 中川峰郎 Summary

Various surveys have revealed that the self-reforms of agricultural cooperatives in Japan, which began in 2015, are generally felt by the cooperatives’ members.

However now that the number of farmers is declining, there is no guarantee that the inherited successor will continue to use the agricultural cooperative's business after the retirement of the elderly members of the cooperative.

In this article, the current state of governance of agricultural cooperatives, which seem to be closed to non-member, is shown by utilizing the items in the governance report of listed companies from the description in the disclosure documents of agricultural cooperatives.

From this analysis result, I will discuss the possibility of applying the

Corporate Governance Code mutatis mutandis to agricultural cooperatives in Japan in order to strengthen governance.

Keywords: self-reform, agricultural cooperative, disclosure, corporate governance code, governance report

目次

序:問題意識

Ⅰ 「農協改革」の現状

Ⅱ 農協経営の持続性の手段としてのコード準用

Ⅲ 課題と方法

本論:ディスクロージャー誌に見る農協のガバナンスの現状

Ⅰ.コーポレート・ガバナンスに関する基本的な考え方及び資本構成,企業属性その他 の基本情報

Ⅱ.経営上の意思決定,執行及び監督に係る経営管理組織その他のコーポレート・ガバ ナンス体制の状況

Ⅲ.組合員その他の利害関係者に関する施策の実施状況

Ⅳ.内部統制システム等に関する事項

Ⅴ.その他

結論:農協でのガバナンスコード準用への道筋

Ⅰ 上場企業ガバナンスコード項目の準用の可能性

Ⅱ 農協のホームページで開示している資料とコードとの関連性

Ⅲ 農協のコーポレートガバナンスの透明性確保〜ガバナンス改革の見える化〜

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序:問題意識

Ⅰ 「農協改革」の現状

2013 年から始まった規制改革会議(当時)農業ワーキング・グループにおける議論に端 を発した「農協改革」

1

は,自己改革集中期間が 2019 年 5 月末に終了した.

2

農協の自己改革に対する評価について,規制改革推進会議は「自己改革が進められ,一 定の進捗が見られた.しかしながら,引き続き農業者所得の向上,一層の資材価格の引下 げ,信用事業の健全な持続性などについて課題が残されている」

3

とした.

農林水産省は『農協の自己改革に関するアンケート調査』

4

を 2016 年度から 2019 年度ま で実施した結果を踏まえ, 「農協・農業者ともに「具体的取組を開始した」との回答が改革 集中推進期間において増加した一方で,農協と農業者の評価に一定の差がある」とし, 「農 協改革集中推進期間においてJAグループの自己改革は進展.今後も農業者の所得向上に 向けた取組を継続・強化しつつ,信用事業をはじめとして農協を取り巻く環境が厳しさを 増す中で,地域農業を支える農協経営の持続性をいかに確保していくかが課題」

5

とした.

いずれも,肯定的な評価を示しつつも,課題も明示しており, 「農協改革」の継続的な必 要性を指摘している.

全国農業協同組合中央会(JA全中)は,2019 年 3 月に行われた第 28 回JA全国大会

6

に おいて,農協改革を踏まえた前回第 27 回JA全国大会決議の成果として,9 つの重点実施 分野のJAでの具体的な施策の策定・実践がすすんでいることを挙げ,課題として「地域ご とに実態やニーズが異なっており,JAの経営資源を有効に活用し,持続可能な形で組合 員ニーズに応えていく」ことを挙げている.

7

また,JA全中は,この自己改革集中期間末期の 2018 年 12 月から 2019 年 12 月にかけ て,①JAグループ自ら,自己改革への評価などに関する正・准組合員の意思を的確に把 握,②正・准組合員の対話強化の契機とし,正・准組合員との一層の関係強化に取り組む ことを目的として「JAの自己改革に関する組合員調査」

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を,全組合員を対象に実施した.

2020 年 7 月に公表の調査結果によると, 主な質問項目の「肯定的回答」は, 以下の通り.

①「JAの必要性」は全体で 93.7%,「JAの総合事業の継続」は全体で 91.7%

②営農関連事業への,認定農業者の「期待度」は 73.0〜82.9%, 「満足度」は 57.7〜66.7%

③営農関連事業の改善度は 82.9〜84.0%

概ね,農協の自己改革が組合員に実感されており,その一方で,農協の正組合員の核と なる認定農業者の営農関連事業の満足度は,肯定的回答は過半数を超えるものの,まだ改 善の余地がある,という結果になり, 概ね, 政府の評価と乖離がないというものであった.

「農協改革」の現時点の課題は,回答者の属性にも潜んでいると考える.調査実施時の 対象となる正准組合員は約 606 万人で,そのうち約 390 万人の回答(回答率 64.4%)があ ったが,回答者の平均年齢は全体で 66.4 歳, そのうち認定農業者が 65.3 歳,また回答者 のうち男性が占める割合は全体で 69.4%,認定農業者 86.3%という結果になっている.

これは,現在の農協の大部分の組合員が「高齢者の男性」ということを意味し,前述の 農林水産省の指摘である「農協経営の持続性」という大きな危機が迫るということだ.

2019 年にこの調査を実施しているため,具体的には 11 年後の 2030 年には回答者の平均

年齢は後期高齢者に達する 75 歳を超えることになり,事業継承や遺産相続がその間に相

当行われることが予想される. この 2030 年までに,農協は現在の組合員の子供世代に継続

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して利用されるかどうか,という危機がある.

実際,農協に対する意識(「親しみ」「必要性」「連帯感」「理解」)や行動(「営農事業利 用」「信共事業利用」「生活事業利用」「活動参加」「組合員組織加入」「意思反映」)につい て数値化して分析した [西井,2020] (pp.45-50)は, 高年齢の組合員ほど数値が下方に位置 するという結果に基づき,次世代への組合員資格継承の観点から好ましくない旨の主張を している.この調査結果は,現状のままであれば,高齢組合員は,実際には農協へのロイ ヤリティが低く,事業や活動の利用も低下し,相続の際,子供世代には親世代ですら親し みがない農協は閉鎖的に見え,引き続き利用はしない可能性が高いと解することができる.

図表1 農業就業人口

9

データの出典:2000〜2015 年『農林業センサス』 ,2016〜2019 年『農業構造動態調査』

(農林水産省統計部)

注: 「農業就業人口」とは,15 歳以上の農家世帯員のうち,調査期日前 1 年間に農業のみに 従事した者又は農業と兼業の双方に従事したが,農業の従事日数の方が多い者をいう.

図表2 日本の将来推計人口(平成 29〈2017〉年推計)

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さらに,農業就業人口(図表1)は,今世紀に入って激減しており,今後,団塊世代の 引退にともない, 減少が加速すると想像される.また将来推計人口 (図表2) も 2030 年に は現在の 5%,2040 年には 11.5%,2050 年には 18.7%減少する見込みだ.これは,農業者や 利用者といった農協の正准組合員だけではなく,農産物の購入者や農協の新しい組合員も 減ることも意味し, 「地域農業を支える農協経営の持続性」確保が困難になるということだ.

「農協改革」以降の農協の課題をまとめると,①農業者の所得向上や農業資材購買など 営農関係事業の組合員ニーズ対応,②信用事業を始めとした経営環境の厳しさ,という従 来のものに加え,③組合員の高齢化,④組合員の子供世代の利用継続,⑤人口減少による 組合員数減と市場の縮小が挙げられ,これらを克服して「農協経営の持続性」の危機を脱 しなくてはならない.

Ⅱ 農協経営の持続性の手段としてのコード準用 1.コード準用で期待される効果

協同組合の事業特性

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に基づき,農協が出資者たる組合員のみならず,ステークホル ダーから規律を受けると[中川,2019](p.4)で論じた.

実際に [全国農業協同組合中央会,2019a] では, 「7.自己改革の着実な実践と伝える 取り組み」(pp.42-44)で, 「自己改革取組宣言」として組合員・地域住民等へ情報発信す ることや,広報という観点では「5.「食」「農」「協同組合」にかかる国民理解の醸成」

年 2000 2005 2010 2015 2016 2017 2018 2019 (千人) 3,891 3,353 2,606 2,097 1,922 1,816 1,753 1,681

割合(%) 100 86 67 54 49 47 45 43

年 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050

推計人口(千人) 125,325 122,544 119,125 115,216 110,919 106,421 101,923

比率(%) 100 98 95 92 89 85 81

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(pp.35-37)にて,正准組合員をはじめ,消費者・国民などの多様な訴求対象ごとの関心 や特性に応じて,パブリシティや WEB,SNS などを使った情報発信すべき,としている.

現行の農業協同組合法 (以下,農協法と略記) 第 53 条の3第1項と農協法施行規則第 204 条及び第 205 条でディスクロージャーが規定されているが,ステークホルダーの農 協への理解には,これらの項目には留まらないと考える.

序Ⅰで言及したとおり,今こそ組合員の代替わりの時期で,現在の組合員の子供世代 が,農協が提供する財・サービスと競合他社が提供するものとを比較して農協の事業利 用を行うかを判断することになる.農協の目的が,組織の利益の最大化ではなく,事業 の利用価値

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の最大化であることが問われる.

さらに,コーポレートガバナンスが的確に行われているという経営の透明性も問われ ることになる.農協は株式会社とは異なるため「理解しにくい閉鎖的な存在」から脱す るため,農協がコーポレートガバナンス・コードやガバナンス報告書の準用により,ス テークホルダーへの説明責任を果たし,ステークホルダー自身も農協という組織をより 容易に知り,理解が深まると考える.

事実, [中川,2019](p.13)で農林中央金庫の「コーポレートガバナンスコードにおけ る開示事項」

13

の開示, そして信金中央金庫と保険相互会社の「コーポレート・ ガバナン スに関する報告書」の様式を準用した開示に言及したが,住友生命保険相互会社は同報 告書

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の冒頭に「コーポレートガバナンス・コードに関しても,当社は上場会社ではない ことより,直接適用を受けるものではありませんが,コーポレート・ガバナンスは会社 形態に関わらず共通のものであるとの認識のもと,任意で対応する」とあり,信金中央 金庫や相互会社が株式会社のガバナンスの共通性,ひいては比較対象であることを各法 人が認識していると思料される.

上場企業以外では, 監査法人には『監査法人の組織的な運営に関する原則 ≪監査法人 のガバナンス・ コード≫』 [監査法人のガバナンス・ コードに関する有識者検討会,2017]

をはじめとして,農協と同じく非営利組織の公益法人は, 「民間公益活動を実施する主体 として, そのガバナンスについて,自らが襟を正し,自律的な取り組みが必要」 [公益法 人協会,2019a]とし,公益法人ガバナンスコード[公益法人協会,2019b]が制定された 他, 『スポーツ団体ガバナンスコード』 <中央競技団体向け> [スポーツ庁,2019a] , <一般 スポーツ団体向け> [スポーツ庁,2019b] ,大学法人としては, 『私立大学版 ガバナンス・

コード』 [日本私立大学協会,2019] , 『国立大学法人ガバナンス・コード』 [文部科学省・

内閣府・国立大学協会,2020] ,コードではないがガバナンス・モデルを示した『公立大 学の将来構想 ガバナンス・モデルが描く未来マップ』 [公立大学協会,2019] があり,こ のようにガバナンスコードが設定されているのも,ガバナンスの透明性確保,さらには 高度化のためコード準用が有益との考えに基づいている.

[落合,2016](pp.94-97)は上場企業コーポレートガバナンス・コード(現行版は

[東京証券取引所,2018] )

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の要請の注目点として①中長期的な企業価値向上の基礎と

なる経営理念の策定(原則 2-1),②適切な情報開示と透明性確保(基本原則3),③経

営者に対するモニタリング機能の重視(基本原則4),④株主との建設的な対話に関す

る方針の作成・開示の遵守(原則 5-1)を指摘し,遵守によりガバナンスの前進が期待

できるとしている.農協への準用では①はJA綱領や各農協で策定されている経営理念

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が利用価値向上につながるか,②と③は前述の通りの農協経営の透明性確保,④は現状 実施されている総(代)会以外の地区別の座談会や生産者部会で「組合員との建設的な 対話」を行っているかを要請することになる.

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2.コード準用の具体的効果

金融庁は 2019 年に有価証券報告書の非財務情報開示について『記述情報の開示に関 する原則』 [金融庁,2019a] を示したが, 記述情報 (非財務情報)の開示の意義について,

「投資家と企業との建設的な対話が促進され,企業の経営の質を高めることができる.

このため, 記述情報の開示は, 企業が持続的に企業価値を向上させる観点から重要」(p.1) とし, 「投資家」を「組合員」に, 「企業」を「農協」と読み替えても特段違和感はない.

特に対話は,農協の場合, [全国農業協同組合中央会,2019a] において,一層の組合員の 意思反映・運営参画をはかるための「組合員との対話運動」を明言しており(p.1), コー ド項目の活用が対話への一助となると考える.

特に「農協改革」にともなう 2015 年の農協法改正

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では,第7条の事業運営原則の明 確化のほか,第 30 条第 12 項の理事の過半数を①認定農業者,②農畜産物の販売その他 の当該農業協同組合が行う事業又は法人の経営に関し実践的な能力を有する者(実践的 能力者)のいずれかにすること,第 30 項第 13 項の理事の年齢及び性別に著しい偏りが 生じないよう配慮, 第 37 条の2の会計監査人の設置など, コーポレート・ ガバナンスの 根幹に関わる事項が加わった.このような法的な義務や要請についてどのように遵守さ れているのかを示すのもコードの役目である.

さらに, [金融審議会,2018](pp.8-9)では「経営トップが経営戦略・財務状況・リス クやガバナンスに関する情報等について明確な考えを持っていれば,その考えを反映し た充実した開示を行うことができる.そして,そのような開示は,投資家による適切な 投資を促すとともに,投資家との建設的な対話をより深度あるものとし,対話を経てよ りよい経営戦略を確立するという好循環が生まれることが期待される」としている. 「投 資家」を「組合員」と読み替えて,このことを農協の組織構造から考えると,ガバナン スの実践が明確化されることで,農協への事業利用を促し,さらに対話による組合員の ガバナンス,すなわち参画につながる.

実際にコーポレートガバナンス・ コードの適用の効果を挙げると, [江川,2019] では,

2015 年のコード導入後の取締役会について,上場企業 13 社の調査を行い「以前に比べ て議論が活発になり,所要時間,審議時間比率ともに拡大」(p.36)と報告している.

また, [金融庁,2020]では,ガバナンスにおけるダイバーシティの現状として上場企 業の女性役員数の推移(p.7)を示しており, コード導入時の 2015 年は, 女性役員は 1,142 人,同比率は 2.8%であったが,2019 年は同じく 2,124 人,5.2%と増加している.もっと も「女性役員の比率は 5.2%に留まる」との説明であり,女性役員もその比率も倍にな っているが,まだ道半ばであることを表明している.

さらに[東京証券取引所,2020a]によると,上場企業の指名委員会の設置(法定・任 意計)(p.8)は 2015 年の 10.5%から 2019 年の 82.6%へ,報酬委員会の設置(法定・任意 計)(p.11)は 2015 年の 13.4%から 2019 年の 84.6%へと大幅に増加している.

なお, 『コーポレート・ ガバナンスに関する開示の好事例集』 [東京証券取引所,2019]

も公開されており,すでに上場企業では,コーポレート・ガバナンス改革がコード策定

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などの施策

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により一定の進捗が見られ [関本 ・ 山脇,2019] (p.16) [東京証券取引所,2019]

(p.1),「コーポレートガバナンス・コードの趣旨について理解を深め,それらの実現に 向けた取組の充実に繋げていく」[東京証券取引所,2019](p.1)ために,コードの活用 により導入時と比べガバナンスが高いレベルとなっている.

一方,国際協同組合同盟(ICA)による協同組合のガバナンスの見解は, [中川,2019]

(pp.7-8)で言及し, [ICA,2013]並びに[ICA,2015]の後継の[ICA,2020]では,「優れ た協同組合ガバナンスや協同組合ガバナンスに関するフォーマルな教育研修の必要性」

(p.3),「B.9 若者の関与を深める」「B.10 ジェンダー平等を推進する」(pp.9-10)と明示 しており, [ICA,1995]の第2原則「組合員による民主的な管理」,第3原則「組合財政 への参加」, 第4原則 「自主・自立」といった協同組合ガバナンスに関連する原則の着実 な実行を述べている.

これらの ICA の見解については,我が国の[東京証券取引所,2018] (上場企業コーポ レートガバナンス・ コード)の 【原則4-14.取締役・監査役のトレーニング】 (p.20),

【原則4-11.取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件】(p.19)(多様性に 言及)で示されていることと本質的に同じである.

従って ICA が協同組合に求めていることを含め,ガバナンスの諸要素が,どの程度,

日本の農協でも実現しているか検証する必要がある.

Ⅲ 課題と方法

本論文では,農協のコーポレートガバナンスの現状を,ディスクロージャー誌の非財務 情報を中心に読み取り,その結果から農協のガバナンス改革の必要性を論じる.

具体的には,我が国の上場企業に適用される「コーポレート・ガバナンスに関する報告 書」

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のうち,監査役に相当する監事を農協は機関として設置しているため, 「監査役会設 置会社版」の非財務情報を中心とした項目を用い,農協のディスクロージャー誌に対して これらの項目の分析を行う.

はじめに地区別に図表3の数の農協を無作為抽出して全国的な傾向を把握する.

図表3 全国的な傾向を調べるために抽出した農協の数(単位:組合)

注:農協数はJA全中ホームページ掲載の 2020 年 4 月現在数.

全国的な傾向を調査の後,県全体の農協で同じ傾向が当てはまるかを確認するために,

同じ経済圏にある隣接しているA県,B県,C県の3県の農協を悉皆で調査した.この3 県の概況は以下の通りである.

図表4のとおり,この3県の中で B 県が人口も多く,この経済圏の中心となる県である が,販売農家も全国の約3%存在し,農業産出額も約3%となり,農業も盛んであること もわかる.3県を合計すると,販売農家の数も農業産出額も全国の6%程度を占め,この 経済圏での農業の存在感は低いわけではない.

47 都道府県の単純平均値で比較した場合, 3県合計 (11,325 千円)は, 総人口は平均値 の3倍(8,070 千人)よりも大きいものの,農業関係の, 販売農家数 (186 千人)と農業産出

地区 北海道 東北 関東甲信 北陸 東海 近畿 中四国 九州・沖縄 合計

農協数 105 60 124 56 53 58 52 76 584

抽出数 2 1 2 1 1 1 1 1 10

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額 (5,332 億円)は平均値の3倍 (177 千人と 5,826 億円)とあまり変わりがなく, この3 県は我が国の典型的な農業事情を反映していると判断した.

図表4 対象となる県の概況

データの出典:総人口=2018 年『人口推計』 (総務省)

販売農家=2018 年『農業構造動態調査』 (農林水産省)

農業産出額=2017 年『生産農業所得統計』 (農林水産省)

なお,図表5のとおり,3県の農協の事業総利益と正准組合員数の合計値は,全国全体 の約1割を占め, 47 都道府県の単純平均値で比較しても,農協としての事業規模は小さく はないことがわかる.特に非農家である准組合員数3県合計は,全国平均値からしても大 きく,地域住民の利用が多いことがわかる.

図表5 対象となる県の農協の概況

データの出典:農協数=2020 年 JAグループHP https://org.ja-group.jp/

事業総利益,正准組合員=『平成 30 事業年度総合農協一斉調査』 (農林水産省)

今回,農協のディスクロージャー誌を調査対象とするが,図表6の通り,ほとんどの農 協のホームページで pdf 形式のものを公開しているため,今回はホームページから入手し たディスクロージャー誌の 2020 年度版 (2019 年度の事業や決算の報告)で分析を行った.

図表6 ディスクロージャー誌 pdf のホームページでの公開

県名 農協数 ディスクロージャー誌

pdf 公開 比率

A 7 7 100%

B 20 18 90%

C 9 9 100%

3 県合計 36 34 94%

なお,ホームページでディスクロージャー誌を公開していない場合は,全国抽出の場合 は除外し,B 県の2農協のうち1農協はミニディスクロージャー誌を pdf 形式で,またも う一つの農協はディスクロージャー項目をいずれもホームページのコンテンツとして公開

県名 総人口(千人) 構成比 販売農家(千人) 構成比 農業産出額(億円) 構成比

全国 126,443 100% 2,765 100% 91,283 100%

県平均 2,690 - 59 - 1,942 -

A 1,997 2% 54 2% 1,104 1%

B 7,537 6% 80 3% 3,115 3%

C 1,791 1% 52 2% 1,113 1%

3県合計 11,325 9% 186 7% 5,332 6%

県名 農協数 事業総利益(千円) 構成比 正組合員(人) 構成比 准組合員(人) 構成比 合計(人) 構成比

全国 584 1,801,399,467 100% 4,247,743 100% 6,242,964 100% 10,490,707 100%

県平均 12 38,327,648 - 90,378 - 132,829 - 223,207 -

A 7 46,914,181 3% 138,087 3% 193,921 3% 332,008 3%

B 20 117,232,700 7% 158,287 4% 457,956 7% 616,243 6%

C 9 38,980,334 2% 98,846 2% 104,618 2% 203,464 2%

3県合計 36 203,127,215 11% 395,220 9% 756,495 12% 1,151,715 11%

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していたので,これらの掲載事項から分析する.

本論:ディスクロージャー誌に見る農協のガバナンスの現状

それでは, 「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の項目掲載順に従って,全国抽 出を見たあと,対象3県の農協のガバナンスの現状を見てみる.

Ⅰ.コーポレート・ガバナンスに関する基本的な考え方及び資本構成,企業属性その他の 基本情報

図表7−1について,「Ⅰ」では,「2.資本構成」「3.企業属性 上場予定市場区分」

「4.支配株主との取引を行う際における少数株主の保護の方策に関する指針」は,農協 は出資を公開せず,出資者の出資上限が定められているため比較対象から除外する.

「1.基本的な考え方」に該当する農協のディスクロージャー項目としては,全国抽出 を調べたところ, 「経営管理体制」という項目があり, ここでガバナンスの基本情報が簡潔 に述べられている.この項目がなくとも,組織機構図が掲載されてガバナンス構造が図示 されているため,全て確認できた.

図表7−1 「Ⅰ.コーポレート・ガバナンスに関する基本的な考え方及び資本構成,企業 属性その他の基本情報」(1と3)

3.企業属性 県名 農協数 1.基本的な

考え方 構成比 決算期 構成比 業種 構成比 全国抽出 10 10 100% 10 100% 10 100%

A 7 7 100% 7 100% 7 100%

B 20 18 90% 20 100% 20 100%

C 9 9 100% 9 100% 9 100%

3 県合計 36 34 94% 36 100% 36 100%

A,B,C の3県(以下3県と記述)はディスクロージャー誌をホームページで公開して いない農協を除き,全国抽出と同様の項目で確認できた.

「3.企業属性」の「決算期」は,全国抽出した農協の中には3月の他,1月と2月の ものも存在した.ディスクロージャー誌の貸借対照表・損益計算書で決算期は確認できる が,決算期が3月の農協の財務諸表に年度のみで決算期が明示されていないものが散見さ れ, そのような農協は「財務諸表の正確性等にかかる確認 (確認書)」が代表理事組合長名 で掲載されているため,こちらで決算期を確認できた.

3県はすべての農協が3月であったが,全国抽出同様, 財務諸表に決算期が明示されず,

確認書で確認したものがあった.農協でも決算期は必ずしも3月ではないため,第三者が 見てすぐ分かるように財務諸表には決算期は明示すべきだ.

「業種」も基本的には,全国抽出では,信用事業(JAバンク)の業務のほか,共済事 業,農産物販売, 生産資材購買などを行う「総合農協」であることは, 「事業の概況」など の事業紹介や成果を示す項目で明らかにしていた.ただし, 「業種」という項目が農協のデ ィスクロージャー項目にあるわけではない.この項目は3県でも同じ傾向であった.

図表7−2について,全国抽出も3県も,農協本体の職員数については開示が法定化し

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ているため全農協が記載していた.ただし,連結対象子会社の職員数の明示は法定化され ていないため,全国抽出では連結対象子会社職員数の明示は実際にはなかった.

図表7−2 「Ⅰ.コーポレート・ガバナンスに関する基本的な考え方及び資本構成,企業 属性その他の基本情報」に該当する記載(「3.企業属性」続き)

3県は,全体の約3割の農協に連結子会社があったが,連結子会社の職員数を掲載して いる農協は1農協にとどまった.

(連結)事業収益については,ディスクロージャー誌 pdf を公開している農協では全国 抽出も3県もすべて(連結)財務諸表などで確認できた.

Ⅱ.経営上の意思決定,執行及び監督に係る経営管理組織その他のコーポレート・ガバナ ンス体制の状況

図表8−1について,「組織形態」は農協の場合は,基本的には理事会の上位に位置する 経営管理委員会を設置するか否かの開示となり,全国抽出では,組織機構図で確認でき,

3県も,ホームページでディスクロージャー誌を開示していない農協を除き確認できた.

図表8−1 「Ⅱ.経営上の意思決定,執行及び監督に係る経営管理組織その他のコーポレ ート・ガバナンス体制の状況」(1.機関構成・組織運営等に係る事項)

県名 農協数 組織形態 構成比 定 款 上 の 理

事の員数 理事会の議長

全国抽出 10 10 100% 0 0

A 7 7 100% 0 0

B 20 19 95% 0 0

C 9 9 100% 0 0

3 県合計 36 35 97% 0 0

県名 農協数 定 款上の理

事の任期 構成比 理事の人数 構成比

全国抽出 10 0 0% 10 100%

A 7 0 0% 7 100%

B 20 1 5% 18 90%

C 9 0 0% 9 100%

3 県合計 36 1 3% 34 94%

また【理事会関係】では,全国抽出でも3県も「定款上の理事の員数」「理事会の議長」

についての開示は確認できなかった.ただし「定款上の理事の任期」については,全国抽

県名 農協数

直前事業年 度末におけ る職員数

構成比

直前事業年 度末におけ る連結子会 社数

構成比 うち連結職 員数を明示

該当農協 との構成比

直 前 事 業年 度 に お ける (連 結) 事業 収益

構成比

全国抽出 10 10 100% 4 40% 0 0% 10 100%

A 7 7 100% 2 29% 0 0% 7 100%

B 20 20 100% 5 25% 1 20% 18 90%

C 9 9 100% 4 44% 0 0% 9 100%

3県合計 36 36 100% 11 31% 1 9% 34 94%

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出では確認できなかったが,B 県の1農協のみ各理事の就任時期と任期満了時期を明示し 実質3年ということがわかる事例があったのでカウントしたが,それ以外の農協での開示 は確認できなかった.

「理事の人数」については理事名簿の開示が法定化しているため,全国抽出と3県で,

ホームページでディスクロージャー誌を掲載しているすべての農協で開示が確認できた.

ただし,「代表理事組合長」「専務理事」のような役職は掲載されているが,常勤・非常勤 の違いや,各理事の担当(任意の委員会の担当など)の明示も限られており,今回の農協 法改正で求められた「実践的能力者」 「認定農業者」 「女性代表」 「青年代表」という理事の 属性の明示は,全国抽出では「実践的能力者」 「認定農業者」を2つとも示しているものが 2農協,また,具体的な属性は不明だが「員外理事」を示しているものが1農協存在した.

3県では「実践的能力者」等の属性を示したのは,A 県の1農協にとどまった.

なお「社外取締役」については農協では定義されておらず(常勤理事が職員出身者,非 常勤理事が正組合員や第三者であることが多い),「独立役員」についても制度化されてい ないため割愛した.

図表8−2 「Ⅱ.経営上の意思決定,執行及び監督に係る経営管理組織その他のコーポレ ート・ガバナンス体制の状況」 (1. 機関構成・組織運営等に係る事項の続き)

図表8−2に示した【監事関係】では,「監事会設置の有無」は,ディスクロージャー誌 の組織機構図で明示されるので,全国抽出と3県ともほぼすべての農協で確認できた. 「定 款上の監事の員数」は理事同様,開示が確認できなかった. 「監事の人数」については, 理 事名簿と同様,監事名簿の開示が法定化されており,全国抽出と3件とも,ほぼすべての 農協で確認できた.

「監事,会計監査人,内部監査部門の連携状況」については,全国抽出では「内部監査 体制」,「コンプライアンス体制図」で,監事と内部監査部門との連携がすべて言及されて いた.ただし,第三者である会計監査人との連携に言及していなかった.3県でも同様で あったが,会計監査人との連携まで言及されていた農協も見られた.

県名 農協数

監事会 設置

の有無

構成比

定款上 の監

事の員数 監事の人数

構成比

監事、 会計 監査人 、内 部監査 部門 の連携状況

構成比

全国抽出 10 10 100% 0 10 100% 10 100%

A 7 7 100% 0 7 100% 7 100%

B 20 18 90% 0 18 90% 18 90%

C 9 9 100% 0 9 100% 9 100%

3県合計 36 34 94% 0 34 94% 34 94%

県名 農協数

員外監 事の

選任状況

構成比

員外監 事の

人数

構成比

全国抽出 10 10 100% 9 90%

A 7 7 100% 7 100%

B 20 18 90% 16 80%

C 9 9 100% 8 89%

3県合計 36 34 94% 31 86%

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「員外監事の選任状況」についても,信用事業(JAバンク)を行う農協では必ず員外 監事を設置しなくてはならないため,全国抽出も3県でも, ディスクロージャー誌では「経 営管理体制」という項目で言及していた.ただし,監事名簿の中で代表監事と常勤監事の 明示があるものの,員外監事がどの監事か明示されていない例が全国抽出でも3県でも一 部認められた.なお,監事でも「独立役員」は農協法上規程がないため割愛した.

図表8−3について,農協でも指名委員会や報酬委員会に相当する任意の委員会は設置 することが想定されるが,全国抽出では,指名委員会に相当する,組合員の代表者で構成 される「役員候補者推薦会議」の存在を明示しているものが1農協あり,報酬委員会に相 当する,正組合員等で構成される審議会が存在するものが1農協,総代会,理事会・監事 会で決定すると明示しているものが1農協あった.

3県では, 指名委員会は, A 県の1農協しか言及がなかったが, 報酬委員会については,

C 県の農協では,すべて同じ様式で言及しており,県下で統一した対応になっていた.

図表8−3 「Ⅱ.経営上の意思決定,執行及び監督に係る経営管理組織その他のコーポレ ート・ガバナンス体制の状況」 (1. 機関構成・組織運営等に係る事項の続き)

報酬委員会の属性については,全国抽出は,前述の通り,総代会,理事会・監事会の構 成員としており,C 県の農協の報酬委員会委員については,氏名までは明らかにしていな いが,属性と委員の人数まで言及している.

インセンティブの付与についての言及は,全国抽出では「インセンティブの付与につい ての言及」を行った2農協あり,いずれも「インセンティブの付与はなされていない」と の記述であった.3県では,C 県の役員報酬は,すべての農協で理事に対する「インセン

県名 農協数 指名委員会に相当

する任意の委員会 構成比 委員の属性 構成比

全国抽出 10 1 10% 1 10%

A 7 1 14% 0 0%

B 20 0 0% 0 0%

C 9 0 0% 0 0%

3県合計 36 1 3% 0 0%

県名 農協数 報酬委員会に相当

する任意の委員会 構成比 委員の属性 構成比 インセンティブの付

与についての言及 構成比

全国抽出 10 2 20% 2 20% 2 20%

A 7 0 0% 0 0% 0 0%

B 20 2 10% 0 0% 0 0%

C 9 9 100% 9 100% 9 100%

3県合計 36 11 31% 9 25% 9 25%

県名 農協数

報酬額又はその算 定方法の決定方針 の有無

構成比

報酬額又はその算定 方法の決定方針の開 示内容

構成比

全国抽出 10 1 10% 0 0%

A 7 0 0% 0 0%

B 20 0 0% 0 0%

C 9 9 100% 9 100%

3県合計 36 9 25% 9 25%

(12)

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ティブの付与はなされていない」との記述であった.

さらに,報酬額については,全国抽出では2農協が役員報酬と役員退職慰労金の合計額 が明示され,3県のうち C 県では,すべての農協で同様に明示があり,決定も,全国抽出 でも C 県でも,報酬の審議会や総代会,理事会・監事会での機関決定にも言及している.

図表8−4について,「員外監事のサポート体制」については,全国抽出でも3県でも,

記述を確認できなかった.ただし,役職員を対象としているコンプライアンスの研修につ いてはほぼすべての農協で明示されていたが, 員外監事固有のサポートとは言い難いので,

カウントしなかった.

図表8−4 「Ⅱ.経営上の意思決定,執行及び監督に係る経営管理組織その他のコーポレ ート・ガバナンス体制の状況」 (1. 機関構成・組織運営等に係る事項の続き)

「代表理事組合長等を退任した者の状況」は,上場企業では代表取締役社長等が,顧問 や相談役に就任している事例を指し,任意での記載になっているもので,全国でも3県で もディスクロージャー誌上では確認できなかった.

図表8−5 「Ⅱ.経営上の意思決定,執行及び監督に係る経営管理組織その他のコーポレ ート・ガバナンス体制の状況」(2,3)

図表8−5について,「2.業務執行,監査・監督,指名,報酬決定等の機能に係る事項 (現状のコーポレート・ガバナンス体制の概要)」については,全国抽出では, 図表7−1で 言及した「Ⅰ.コーポレート・ガバナンスに関する基本的な考え方及び資本構成,企業属 性その他の基本情報」の「1.基本的な考え方」に該当する農協のディスクロージャー項 目「経営管理体制」で,それらの要素は満たされていると解釈したため「経営管理体制」

が明示されていたら示されているものとした. 「経営管理体制」が明示されておらず「組織 図」しか示していないものでも少なくともコーポレート・ガバナンス体制が明示化されて いる3農協もできているものとカウントした.

「3.現状のコーポレート・ガバナンス体制を選択している理由」については,前述の

県名 農協数 員外監事のサポート体制 代表理事組合長等を退任し

た者の状況

全国抽出 10 0 0

A 7 0 0

B 20 0 0

C 9 0 0

3県合計 36 0 0

県名 農協数

2 . 業 務 執 行 、 監 査 ・ 監 督、指名、報酬決定等の機 能に係る事項(現状のコーポ レート・ガバナンス体制の 概要)

構成比

3.現状のコーポレート・

ガバナンス体制を選択して いる理由

構成比

全国抽出 10 10 100% 7 70%

A 7 7 100% 7 100%

B 20 18 90% 18 90%

C 9 9 100% 9 100%

3県合計 36 34 94% 34 94%

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「経営管理体制」が明示されている農協をカウントしたが, 「組織図」しか示していない3 農協については, 「3. 現状のコーポレート・ガバナンス体制を選択している理由」に応え ていないと解釈したため,その分を減じて7農協という結果とした.

3県では,ディスクロージャー誌をホームページで公開しているすべての農協で「経営 管理体制」についての開示がなされていた.

Ⅲ.組合員その他の利害関係者に関する施策の実施状況

図表9−1について,もともとは「株主」とされていた項目を「組合員」と読み替えた.

「1.株主総会の活性化及び議決権行使の円滑化に向けての取組み」に明示されている 項目は「株主総会」を「総(代)会」と読み替えるにしても, 「株主総会招集通知の早期発 送」「集中日を回避した株主総会の設定」「議決権電子行使プラットフォームへの参加その 他機関」 「投資家の議決権行使環境向上に向けた取組み」 「招集通知(要約)の英文での提供」

については農協では想定できないため割愛した. 「電磁的方法による議決権の行使」につい ては農協法 16 条 4 条で規定化されているものの,新型コロナウイルス感染症流行の状況 でもあまり想定できないので,こちらも割愛した.

図表9−1 「Ⅲ.組合員その他の利害関係者に関する施策の実施状況」

(2.IR に関する活動状況の農協の該当部分)

「2.IR に関する活動状況」についても,そもそも組合員は投資家ではないため,ほぼ 割愛したが,「個人投資家向けに定期的説明会を開催」という項目だけは,「組合員向けに 定期説明会を開催」と読み替えて, ディスクロージャー誌を調べてみたところ図表9−1の とおりとなった.

そもそも組合員全員を招集する総会ではなく,総代会をほとんどの農協で最高意思決定 機関として開催するため,全国抽出では2農協のみ「集落座談会」や「(事業推進以外の)

訪問活動」を明示していた.

3県では,「総代会事前説明会」「地域別座談会」だけではなく,准組合員対象の「地区 別准組合員意見交換会」,ステークホルダー対象の「利用者懇談会「支店ふれあい委員会」」

に言及している例が見られた.こちらでも,会議体の形をとらず,「組合員全戸訪問活動」

「役員による担い手農家への訪問」などの取り組みで説明している旨の記述もあった.

図表9−2について, 「3.ステークホルダーの立場の尊重に係る取組み状況」のうち 「社 内規程等によりステークホルダーの立場の尊重について規定」「ステークホルダーに対す る情報提供に係る方針等の策定」は割愛したが, 「環境保全活動,CSR 活動等の実施」につ いてディスクロージャー誌を調べたところ,全国抽出および3県のほとんどの農協で実践 されていることが明らかとなった.

県名 農協数 組合員向けに定期説明会を開催 構成比

全国抽出 10 2 20%

A 7 4 57%

B 20 6 30%

C 9 4 44%

3県合計 36 14 39%

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ディスクロージャー誌では, 「文化的・社会的貢献活動」 「地域との繋がり」 「文化的・社 会的貢献に関する事項」として記述されており,食育活動や高齢者福祉などが例としてあ げられる.特に,SDGs にも言及している例は,全国抽出では,1農協存在し,3県では B 県の1農協で,実施活動に該当する SDGs 項目を明示していた例があった.

図表9−2 「Ⅲ.組合員その他の利害関係者に関する施策の実施状況」

(3.ステークホルダーの立場の尊重に係る取組み状況)

Ⅳ.内部統制システム等に関する事項

図表10について,「Ⅳ.内部統制システム等に関する事項」のうち,「1.内部統制シ ステムに関する基本的な考え方及びその整備状況」については,農協のディスクロージャ ー誌では,全国抽出でも3県でも「リスク管理の体制」 「リスク管理の状況」などという項 目で記述されており,図式化したものを掲載している例もあった.

図表10 「Ⅳ.内部統制システム等に関する事項」

「2.反社会的勢力排除に向けた基本的な考え方及びその整備状況」については,全国 抽出では, 「マネー・ローンダリング等及び反社会的勢力等への対応に関する基本方針」が あるものが1農協, 「反社会的勢力との取引排除」について, コンプライアンス方や内部統 制の方針に明示しているものが4農協で,実施率は5割という結果であった. 3県のうち,

A 県,C 県では,「マネー・ローンダリング等及び反社会的勢力等への対応に関する基本方 針」 「反社会的勢力との取引排除」という形で県下一斉に同じ様式を採用していたが,B 県 の農協の対応はまちまちで「反社会的勢力排除」についてディスクロージャー誌で示して いる方が少数であった.

Ⅴ.その他

図表11について,「Ⅴ.その他」のうち,「1.買収防衛策導入の有無」については農 協として想定されていない.「2.その他コーポレート・ガバナンス体制等に関する事項」

県名 農協数 環境保全活動、CSR活動等の実施 構成比

全国抽出 10 10 100%

A 7 7 100%

B 20 19 95%

C 9 9 100%

3県合計 36 35 97%

県名 農協数

1.内部統制システムに関 する基本的な考え方及びそ の整備状況

構成比

2.反社会的勢力排除に向 けた基本的な考え方及びそ の整備状況

構成比

全国抽出 10 10 100% 5 50%

A 7 7 100% 7 100%

B 20 18 90% 8 40%

C 9 9 100% 9 100%

3県合計 36 34 94% 24 67%

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の「適時開示体制の概要(模式図)」についても割愛した.

「模式図 (参考資料)」については,組織機構図はディスクロージャー誌で開示されてい るため,全国抽出でも,3県でも全く同じ傾向であった.

図表11 「Ⅴ.その他」「2.その他コーポレート・ガバナンス体制等に関する事項」

【模式図(参考資料)】

結論:農協でのガバナンスコード準用への道筋

Ⅰ 上場企業ガバナンスコード項目の準用の可能性

以上のように調査を行った結果,全国抽出および3県で概ね同じ傾向が見られた.総括 すると以下の通りになる.

「Ⅰ.コーポレート・ガバナンスに関する基本的な考え方及び資本構成,企業属性その 他の基本情報」

農協で法定開示となっていない連結職員数の問題を除けば,概ね適用可能である.

「Ⅱ.経営上の意思決定,執行及び監督に係る経営管理組織その他のコーポレート・ガ バナンス体制の状況」

「1. 機関構成・組織運営等に係る事項」については,とくに「指名委員会」 や 「員 外監事のサポート体制」や「代表理事組合長等を退任したものの状況」についても,

については,なんらかの強制がないと難しい低水準である.ただし, 「報酬委員会」に ついては,特定の県のみ詳しい記述をおこなっていたため,全国的な方針として定め れば適用可能と思料される.

「2.業務執行, 監査・監督, 指名, 報酬決定等の機能に係る事項(現状のコーポレ ート・ガバナンス体制の概要)」および「3. 現状のコーポレート・ガバナンス体制を 選択している理由」については現状の農協の開示でも十分に準用の可能性が高い.

「Ⅲ.組合員その他の利害関係者に関する施策の実施状況」

「組合員向けに定期説明会を開催」については,調査では低い水準の記述に留まった が,そもそもJAグループとして「組合員との対話運動」について[全国農業協同組 合中央会,2019a] (p.2)でも方針と定めており, 本来ならば高水準で記述があっても良 かったと考える.

「環境保全活動,CSR 活動等の実施」については概ね記述されていたので,今後は SDGs の実践の観点など,内容の充実を考える必要がある.

「Ⅳ.内部統制システム等に関する事項」

「1. 内部統制システムに関する基本的な考え方及びその整備状況」についてはほぼ 全ての農協で問題なく記述があったが, この項目について [金融庁 ・農林水産省,2020]

県名 農協数 模式図(参考資料) 構成比

全国抽出 10 10 100%

A 7 7 100%

B 20 18 90%

C 9 9 100%

3県合計 36 34 94%

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の「反社会的勢力による被害の防止」(pp.86-90)で監督されている「2.反社会的勢 力排除に向けた基本的な考え方及びその整備状況」について特定の県の農協で記述が まちまちであったのは意外であった.開示としての強制力が必要である.

「Ⅴ.その他」

【模式図(参考資料)】 の明示については, 何ら問題はなかった.今回, 割愛した「適 時開示体制の概要 (模式図)」についても, 現実的にはほぼすべての農協でホームペー ジを設け,紙媒体でも農協の広報誌も発行しているため,こちらについても強制力が あれば準用は問題ないと考える.

以上より,現行の農協のディスクロージャー誌からガバナンス改革が一定進んでいるこ とは伺え,さらに開示状況そのものから,上場企業ガバナンスコードの農協への準用の可 能性は十分高いと考える.

Ⅱ 農協のホームページで開示している資料とコードとの関連性

上場企業の「コーポレート・ ガバナンスに関する報告書」では, 紙幅も制限があるため,

各項目の詳細が明示されている自社ホームページのリンクを示すことが少なくない.

現況の農協のディスクロージャー誌の記載項目は多岐にわたり大部となるが,各項目で の記述は極めて限られており,詳細な情報については,ホームページで公開されているこ とも少なくない.実例として図表12はある農協のホームページの階層とコンテンツを示 すが,数多くの有益な項目を網羅していることがわかる.

閲覧者が希望の情報に容易にアクセスを誘導するために, 「コーポレート・ ガバナンスに 関する報告書」の様式を準用する価値はある.

Ⅲ 農協のコーポレートガバナンスの透明性確保〜ガバナンス改革の見える化〜

[全国農業協同組合中央会,2019a](pp.4-7)で,JAグループの目指す姿の具体的な取 組方向を5つ掲げているが,これらが自己改革の成果として実現しているかを農協へのコ ーポレートガバナンス・コードと「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の準用に より示すことが,まさしく農協のガバナンスの透明性確保と言える.

特に取組方向の中で,ガバナンスの要素が大きい項目について,順に見ていく.

「(3)自己改革の実践を支える経営基盤の強化」(p.5)では, 「自己改革の実践を支える業 務執行体制の強化」を掲げている.それならば,理事の属性について,常勤・非常勤ばか りではなく,改正された農協法第 30 条第 12 項で明示された「実践的能力者」「認定農業 者」や同条第 13 条のダイバーシティ条項に準じた「女性代表」「青年代表」といった役員 の選出について,さらに役員の報酬についてもコードの準用にて示すべきだと考える.

また, 「JAは,環境変化に対応し自己改革の実践を通じて事業モデルの転換等」を図る としており, その成果は『自己改革活動報告書』

20

等の名称で1年間の成果を冊子化したり,

動画化したりして,ホームページで公開していることも熱心に行われており,これらの存 在も「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」に明示するべきだ.

「(4)組合員の「アクティブ・メンバーシップ」の確立」(p.6)については,組合員の基

盤強化のために「正・准組合員の維持・拡大」に対する施策への対応, 「組合員組織の活性

(17)

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化」といった組合員の参画の実際のほか,上場企業コードでも株主との対話を重視してい る以上に農協でできているはずの,組合員座談会や事業推進に限らない訪問活動など,組 合員との日常的な対話の場についても,明示すべきである.

図表12 ある農協のホームページの階層とコンテンツ

第1階層 「JA〇〇について」の第2階層 JA〇〇について(注1) ◎JA〇〇の案内

○基本情報 理念 組織 事業

○活動など 地域貢献活動 採用情報

○計画と情報公開 農業振興構想 運営基本構想 中期経営計画

情報公開(ディスクロージャー)

○方針

JA総合事業を通じた農業振興と地域貢 献に関する取組宣言(注3)

利益相反管理方針

マネー・ローンダリング等及び反社会的 勢力等への対応に関する基本方針 ホームページ運用ポリシー

〇〇の農産物 お米・野菜づくり 暮らしの情報

事業所・店舗のご案内 行事カレンダー

活動レポート(Blog)

お知らせ一覧 直売所

ライフサポートセンター 広報誌(注2)

子会社のご案内

会計監査人の募集について

金融機関名等の変更に伴う店舗新旧対比表 営農振興基金

採用情報

組合員資格等の変更手続きについて 未来につなぐ相続登記〇〇地方法務局 JAファーマーズマーケット(直売所)

JA直売所キャラバン

東京電力福島第一原子力発電所事故による 農畜水産物等への影響(関係省庁等へのサ イトのポータル)

オンラインショッピング JA紹介動画

特別介護老人ホーム 葬祭場

JAバンク JA共済 お問い合わせ

女性活躍推進法行動計画 一般事業主行動計画 人材育成基本方針

注1:下線部を引いた第1階層のコンテンツと 第2階層のすべてのコンテンツが特にガ バナンスへの関連が深いもの.

注2:当農協では「自己改革の取り組み」を広 報誌の特集記事として掲載している.

注3:この宣言はJA自己改革の取り組みを主 眼としている.

さらに「次世代組合員のリーダー育成に取り組みます」とあるので,これは指名委員会

に将来的にはつながる取り組みであるので,この現状についても明示すべきである.

(18)

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「(5)「食」 「農」 「協同組合」にかかる国民理解の醸成」(p.7)については,特に SDGs 等 の枠組みの活用により,農協の活動の成果を国内において組織内外に情報発信するとあり,

『JAグループ SDGs 取組方針』 [全国農業協同組合中央会,2020d]も定められ「取り組み の「見える化」と積極的な情報発信」が SDGs を農協での取り組みの視点の一つとして定め られた. そうならば,まさしく農協の通常の事業・活動が SDGs の実践につながることを網 羅的に示す場として「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」も活用できよう.

最後に, [金融庁・農林水産省,2020]で「経営管理(注:本書ではガバナンスと同義)

が有効に機能するためには,その組織の構成要素がそれぞれ本来求められる役割を果たし ていることが前提」(p.7)とあり,さらに[落合,2016]が指摘するように,コーポレート ガバナンス・コードのような「ソフトローは,基本的には自主規制であるから,経営者自 身に強い遵守の意思がなければ, 本コードが目指すところは,結局は実現されない」(p.97) ため,まさしく,ガバナンスを具現化するのは農協も経営者であるのは株式会社と変わる ことがない.そして,組合員そのものが経営を行うのが協同組合であるからなおのことで ある.この「農協改革」を永続的に行うためにも,コーポレートガバナンス・コードを準 用して,透明性を確保し,同時にガバナンス改革の高度化を実現しなくてはならない.

謝辞:3 名の匿名査読者から本稿への大変貴重なご助言をいただき厚く感謝申し上げます.

【参考文献】

COGECA (2011): Cogeca reaction to the European Commission’s public consultation

“on the EU Corporate Governance Framework”

International Cooperative Alliance(1995): Cooperative identity, values &

principles, International Cooperative Alliance(「協同組合のアイデンティティに関 する ICA 声明」 北川太一・柴垣裕司編著『農業協同組合論』 (第3版)全国農業協同組合中 央会,2018 年,pp.25-33)

International Cooperative Alliance(2013): Blueprint for a Co-operative decade (国 際協同組合同盟訳『協同組合の 10 年に向けたブループリント』,2013 年)

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(脚注:URL は 2020 年 11 月 3 日閲覧)

1

本論文では, 原則として農業協同組合の略称を「農協」と表記する.なお,引用文等で日 本の農業協同組合の公式の愛称「JA」を使用しているものもある.

2

現在までの農協改革の経過は[斉藤,2020]が詳しい.

3

[規制改革推進会議,2019]p.10 参照.

4

[農林水産省,2019a]参照.

5

[農林水産省,2019b]引用前半は p.1,後半は p.3 参照.

6

詳細は[全国農業協同組合中央会,2019a]参照.

7

[全国農業協同組合中央会,2019b]p.2 参照.

8

[全国農業協同組合中央会,2020a] pp.1-5,[全国農業協同組合中央会,2020b] p.1 参照.

9

農林水産省ホームページ「農業労働力に関する統計」を参考にして作表した.

https://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/08.html

10

出典は[国立社会保障・人口問題研究所,2017]p.81.

11

[北川・柴垣,2018](pp.17-24)をもとに論じた[中川,2019](pp.2-4)を参照.

12

利用価値については[COGECA,2011]を参照.

13

こちらを参照.https://www.nochubank.or.jp/governance_code/

14

住友生命相互会社のコーポレート・ガバナンス報告書は,こちらを参照.

https://www.sumitomolife.co.jp/about/csr/group/pdf/g_01.pdf

15

[落合 ,2016 ]は 2015 年に公表されたコードに基づいているが改訂後の[東京証券取 引所 ,2018 ]でも指摘部分の変更はない.

16

コーポレートガバナンス・コードの解説については[中村・塚本・中野,2017]のほ か, [江川,2018]pp.137-163 も参照のこと.

17

農協法改正については[明田,2015]を参考にして記述した.

18

上場企業のディスクロージャー誌の『記述情報の開示の好事例集』[金融庁,2019b]

も発行されている.

19

様式は[東京証券取引所,2020b]を参照.

20

全国のJAの自己改革の成果は[全国農業協同組合中央会,2020c]を参照.

参照

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