平成30年度
函館白百合学園高等学校 一般入学試験問題
国 語
全コース共通
平成30年2月16日(金)実施
注意事項 1. 試験時間は45分です。
2. 問題は 一 から 四 までで,2ページ~15ページまであります。
3. 答えはすべて別紙の解答用紙に記入し,解答用紙だけ提出しなさい。
一次の問いに答えなさい。
問一次の線のカタカナを漢字に直しなさい。
①新しい部署にツく。②シめ切りがせまる。
③任務をスイコウする。④提出された法案のゼヒを問う。
⑤受験者数をコウヒョウする。⑥大コウヒョウを得た演技。
⑦宗教のシンコウは自由だ。⑧音楽家とシンコウがある。
問二次の線の漢字の読みをひらがなで答えなさい。
①絵画展が開かれる。②画一的な教育を改める。
③無駄をなくす。④無愛想な顔をする。
問三次の□に共通して入る体の一部を表す漢字を入れて、慣用句を完成させなさい。....
①□に刻む□を打つ
②□を決める□を割る
③□がなる□をふるう
問四次の□に同じ漢字を入れて、四字熟語を完成させなさい。
①□朝□夕〔意味…わずかな時間、日にち〕
②□信□疑〔意味…なかば信じ、なかば疑うこと〕
問五次のことわざの□に入る語として適当なものを、後のア~オからそれぞれ選びなさい。
①□は急げ〔意味…よいと思ったことは、すぐに実行するのがよい〕
②飛ぶ□を落とす勢い〔意味…力などがとてもさかんな様子〕
ア良イ綿ウ鳥エ花オ善
問六次の行書のうち、楷書と異なる筆順で書かれているものはどれか、ア~エから選びなさい。
アイウエ証紹葉寄
次の文章は「大和物語」の一場面である。長年愛し合って一緒に住んでいた夫婦がいたが、妻の方が貧しくなって生活が苦しくなった。
そこで夫は別の裕福な女性も妻にして通うようになった。以下はそれに続く場面である。これを読んで、後の問いに答えなさい。
裕福な所に 通いなれて、(元の妻の所に) 貧しい様子でいて(夫が)このように他の女の元に通っていても、少しも 見えなかったかくにぎははしき所にならひて、来たれば、この女、いとわろげにてゐて、かくほかにありけど、さらに妬たげにも見えず
ので、 (実は、女は) つらく がまんしてなどあれば、いとあはれと思ひけり。心地にはかぎりなく妬たく心うく思ふを、忍ぶるになむあり〔
1
〕。(夫が元の妻の所に)泊まろうと思う夜も 私がこうしてが他の女の元へ通うのを妬まないで、他の男と浮気をしているのであろうか そういうこととどまりなむと思ふ夜も、なほ、「 2いね」といひければ、わがかく歩きするを妬たまで、ことわざするにやあらむ、さるわざ
でなければ せずは、恨むることもありなむ、など、心のうちに思ひけり。
見せかけて、庭の植え込み (部屋の) 座ってさて、出でて行くと見えて、前栽の中にかくれて、男や来るとみれば、端に出でゐて、月のいといみじうおもしろきに、
髪をとかすなどしている。 ひどく 物思いにふけっていたので、 待っているのだろうと見ていると、(元の妻の)かしらかいけずりなどしてをり。夜更るまで寝ず、いと 3いたううち嘆きてながめければ、 4人待つなめりと見るに、使ふ人の
前にいた使用人に前なりけるにいひける、
風が吹くと、沖の白波が立つように、あぶない道の立田山を、夜中にあなたはただひとり越えて行くのでしょう。
風ふけばおきつ白波 ※たつた山夜半にや君がひとりこゆらむ とよみければ、 5わがうへを思ふなりけりと思ふに、いとかなしうなりぬ。
(「大和物語」)
※たつた山……新しい妻の家が、たつた山を越えて行く道筋にあった。 ふ
二
ね
問一〔 1 〕にあてはまる語を、ア~エから選びなさい。 アけり イける ウけれ エけろ 問二 線2「いね」の語意として最も適当なものを、ア~エから選びなさい。
ア来てください イ来ないでください ウ行ってください エ行かないでください 問三 線3「いたう」の読みを現代仮名遣いで答えなさい。
問四 線4「人」が指しているものを文中より一字で書き抜きなさい。 問五 線5「わがうへを思ふなりけり」とあるが、この時の「夫」の心情として最も適当なものを、ア~エから選びなさい。
ア期待 イ焦燥 ウ失望 エ感動
問六「大和物語」は、平安時代に書かれた物語である。同じ平安時代の作品ではないものを一つ、ア~エから選びなさい。
ア源氏物語 イ平家物語 ウ伊勢物語 エ竹取物語
小学三年生になり、初めてのクラス替えが行なわれ、ヤンチャ、ノリオ、ワタル、ハム太の四人は、仲の良い友だちとなった。四人はいつも一緒に遊んでいたが、ヤンチャは突然原因不明の病気にかかり、夏休み後に入院する。他の三人はヤンチャを助けるため、秘密基地で「タイムマシン」を作り始め、クリスマスイブの二日前に完成するが、クリスマスに病院に行くと、ヤンチャは亡くなっていた。以下は、それに続く場面である。文章を読み、後の問いに答えなさい。
ヤンチャのお葬式に、僕らは出なかった。前に 1おじいちゃんが死んだ時、焼かれた後の白い骨を箸 はしで拾った話をしたら、ノリオもハム
太も絶対に出たくないと言ったのだ。
その日、太陽がすっかり沈んでしまうまで、僕らは秘密基地のそばの河原にぺたんと腰をおろし、ときどき小石を水に投げこんだりして
過ごした。昼間のうちよく晴れていたせいで、あたりはこの前よりさらにドブ臭かったけれど、お尻の下の丸い石はどれも温かかった。
「ハム太……」
あたりがだいぶ薄暗くなってから、ノリオが言った。
「 2お前んちの修理工場さ。お前が継ぐんだろ」
「そんなの、まだわかんないよ」ハム太は、鼻のつまりきった声で言った。「でも、まあたぶんな。……なんで?」
「オレさ。今、決めた」と、ノリオは言った。「オレはこれからうんと勉強して、将来はきっとすごい発明家になってみせる」
「発明家?」
「うん。それで、いつか絶対、本物のタイムマシンを発明してみせる。 A正真正銘、本物のやつをさ」
「お前、まだあきらめてないのかよ」とハム太は言った。「ヤンチャみたいな病気を治したいんなら、医者になったほうが早いんじゃない
の?」
「だめなんだ、それじゃ」と、ノリオは言った。「今から医者になったって、ヤンチャを助けるのには間に合わない」
答えようがなくて黙っていると、ノリオは僕らのほうに向きなおった。
「なあハム太、オレを信じろよ。オレ、絶対頑張って作りだしてみせるからさ。そしたらお前、お前んちの工場の機械全部使って、それ
を組み立ててくれよ。そうすれば、みんなで今の時代に戻ってきて、ヤンチャのやつに会える。病気だって治してやれるかもしれない」
「で……できるのかな、そんなこと」
とハム太。
三
「できるのかな、じゃなくて」ノリオはきっぱり言いきった。「やるんだよ」
「……うん」
3もう、誰も泣いてはいなかった。何か大きなものが
―
ひとかたまりの時間というか、ひとつの時代とでもいうべきものが終わりかけているのを、そのとき僕らは感じていたのだと思う。どんなに泣いたところで、ヤンチャはもう帰ってこない。四人は、永久に三人になって
しまった。これから先、僕らは何とかして、ヤンチャ無しでやっていかなくてはならないのだ。
「それで、ワタルはさ」ノリオは僕に目を向けた。「お前は、いろいろ想像すんの得意だし、作文もうまいだろ?だから、これまでのこ
とをちゃんと書いといてほしいんだ。オレたちや、それからもちろん、ヤンチャのことをさ。いつかオレたち、今日のことをはっきり思い
出せなくなるかもしれない。そんな時でも、書いたものがちゃんと残ってたら、それを読んで、今のこの気持ちを思い出すことができるん
じゃないかと思うんだ。何ていうか……ほら、押し入れから出てきた日記みたいにさ。わかるか?」
「うん」と、僕は言った。「わかるよ」
実際、 4僕にはノリオの言おうとしていることがよくわかった。
僕らはもう、たとえば七歳だった頃のことを忘れている。四歳ごろの記憶ともなれば、すでに霧の彼方だ。これだけは絶対に覚えておこ
うと心に決めたことでさえ、僕らはころりと忘れてしまう。やがては、ヤンチャのことも。あるいは、ヤンチャがどうして死ななければな
らなかったかということも。
「いつか、本物のタイムマシンが出来たらさ」と、僕は言った。「あのおっちゃんが言ってたみたいに、ずっと昔の世界にも行こうな」
「うん」
「きっと行こうな」
「うん!」
5「絶対……ぜったい行こうな……!」
*
あれほど固く交わしたはずの約束が、やがて力を失っていくのはなぜなんだろう。
あんなに強い思いが、いつしか薄れていってしまうのはどうしてなんだろう。
あの頃
―
僕は何度も、何度も、何度も……指の節が白くなるくらい強く鉛筆を握りしめてノートに向かった。 でも、宿題の作文を書くような具合にはいかなかった。それどころか、 6一行も書けなかった。ちょうど、病院からの帰り道、ほかの二人に気持ちを伝えようとして言葉が見つからなかったあの時と同じように、何から書き出せばいいのか見当もつかなかった。何が大事なこと
で、何がどうでもいいことなのか、迷いはじめたらどんどん深みにはまってしまって、結局いつも最初の一文字すら書きつけることができ
なかった。
早く書きあげて読ませろよ、と他の二人から急 せきたてられるたびに、僕は、もう少しだからとか、最初からもういっぺん書き直してるん だとか言ってごまかし続けた。僕が人より得意なことといったら作文を書くことくらいしか ①ないのに、それさえもでき ②ないでいるなんて 言えるわけが ③ない。
やがて僕らは五年生になり、再びクラス替えが行われて、今度は三人ともばらばらになった。
ノリオやハム太がどうだったかは知ら ④ないが、 7僕は正直、ほっとする思いだった。 書け ⑤ないでいたせいばかりじゃない。彼らと一緒にいる限り、何をしていても〈一人足りない〉という感じから逃れられなかったから
だ。
柿どろぼうもセミ捕りも、缶けりも高オニも戦争ごっこも、前ほど面白くなかった。三人でいる寂しさよりは、一人でいる寂しさのほう
がまだましに思えるほどだった。
そうしていつしか、あの日の約束はうやむやになっていった。
皮肉なものだ。〈約束を守らなければ〉という、使命感にも似た強い気持ちがあった頃は、経験を言葉にする能力が足りなかったというの
に、ようやくその能力が身についた頃には、気持ちのほうがなしくずしに薄らいでいる。 8時とともに色褪 あせていくのは、記憶ばかりでは
ないのだ。
そして僕は、ひとつ学んだ。
〈約束を果たすには力がいる〉
どれほど固く交わされた Bチカいも、どんなに強い思いでさえも、それだけでは何の意味もない。
実現させるには、実現させるに足るだけの力が必要になる。あの頃の僕にはその力がなかった。なぜって……子供だったから。
いや
―
わかっている。こんなのは、ただの言い C逃れにすぎない。九
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