山 本 行 雄
1 . ま え が き
磁気ダイオー ドは外部か ら加えられた磁界に よって,電気的特性が変化す るダイオー ドで あ り,実験室 レベルで種種の研究がなされてきた.これ らの多 くは,使用温度が低か った り, 特性の再現性が乏 しか った り 、 したため,実用に適さなか った.
わが国で開発された磁気ダイオー ド
(SONYMagnetodiodeと呼ばれている)はこの点を 改良 して,. I 羊じめて実用化された もので,室温で使用でき,磁気感度が非常に高い・また,
2端子素子であるため,、 ホール素子に比較 して回路構成が簡単であ り,磁界の方向が判別で きる点において磁気抵抗素子 より優れている.・
磁気ダイオー ドの応用には多 くのものが考えられてお り
(1),筆者は微少電力測定用 の 電カ ー電圧変換器 として用いることが可能であるとの報告をおこなった( 2 X 3 ) .
微少電力測定は,た とえば小形軽量磁心の鉄損測定等において必要 となるが,従来の鉄損 測定は,主 として電流力計形電力計に よっておこなわれてお り,感度等の点か ら小形磁心の 鉄損測定には不適当である.交流電位差計法,交流 ブ リッジ法,熱電法は高感度測定が可能 であるが,取扱いは簡単 とはいえない.
これ らに対 して,ここに述べる磁気ダイオー ドを用いた電カー電圧変換器は,高感度であ り,取扱いも簡単であると共に,ひずみ波電力の測定が可能で,使用力率範囲も広 く,鉄損 測定に好都合であるといえる.
本論文では,磁気ダイオー ドを用いた電力‑電圧変換器の基本的な構成 と特性について述 べ,また,一つの応用例 としてこの変換器を軽量磁心の鉄損測定に使用 し,高感度な電力測 定器 として有用であることを示 し,鉄損に関する若干の検討をおこなっている.
2.
電 カー 電 圧 変 換 器
試料 として用いた磁気ダイオー ド ( 以下
MDと略記)は
PIN接合を持 ったダイオー ドで
Ge製である.電圧一電流特性は整流性を示 し,動作磁界によって導電率が変化する.
同一規格の
MDを
2個,同一基板上に動作磁界
Hに対する極性を逆に して直列接続 し,順 方向電圧
Vを加えるとき,それぞれの
MD (MDl ,
MD2とす る)の直流抵抗
RDl
,RD2は次 式で表わす ことができる.
RDl‑Vl/I‑Rsl(1+blH)‑Rsl+al RD乏‑%/I‑Rs忠(1lb2H)‑Rs2Ta2
ここ† こ, r Vl ;V
2:MDl
,MD2それぞれの端子電圧
‑・ ‑ ・ ‑ ‑
(1)
122
長野工業高等専門学校紀要 ・第
5号
bl,b2:HK よる抵抗変化を示す係数
Rsl,Rs2:H‑O
における
MDの抵抗
al‑blRsl, a2‑b2Rs2J :M
Dに流れ る電流
なお
,Vh V2とZとの関係は
,H‑ Oの場合,理想状態では次式で表わされ る
(4).7‑klV12‑k2V2乞
ここに,k
l,k2:定数 したが って,
Rs1‑1/klVl, Rs2‑1/k皇Y2
・ ‑‑・ ・ ‑
(2)‑ ‑・ ‑‑(3) とな る.
V
l と
V2とがほぼ等 しければ
,Rsl,Rs之は電圧
Ⅴ (‑Vl+V2)に反比例する.図 1 は,こ の様子を示 した ものである.
図
2は
,Hを変化 させた場合の
al
,a丑の特性であ り
,Hが
0‑6×101A/m馨度の範囲で は一定値を示 してい る.
42︹e71)Nh.U.tSy
4 8 12
電 圧
y〔Ⅴ〕図1 Rsl,R
5
2の特性
4 8
磁 界 〟 〔 A/m〕
図2 磁界に対する
al,aB 12×104磁気ダイオー ドを用いた電力‑電圧変換器は図
3のように構成され て い る.入力電圧
VLは入力段増幅器
Alで増幅 され る. トラソジス タ
Tによって形成 され る回路は
,Alと負荷回 路 との整合,お よび負荷回路に直流バイアスを加える作用をはた している.
電力か ら電圧への変換は端子
C‑C'に接続 されたブ リッジ回路に よっておこなわれる.ブ
リッジ回路は磁気ダイオー ド
MDl,
M D2,抵抗Rタ,R
qおよび零点調整用抵抗
Rvで構成 さ
れている.
MD
l
,MD2は電流 コイルの巻かれた磁路の一部のギャップに配置 し, 電流 コイルに流れ る電流に比例 した動作磁界の影響を受ける.
端子
C‑C
'には,直流ノ ミ イアス電圧
VBと, 次式の ような交流電圧 vsとが重なって加えら れている.
V.‑
ノ1 5 1 V
ssina・
t,
1㌔‑αlVL・ ‑‑・ ・
‑(4)ここに
,α1:増幅回路に よって決定され る定数
いま
,Rvが接触点
d'をはさんで
,Rp側へRvl,Rq側へRv2になるように分離 された とす るとき,プ 1 )ッジ回路の不平衡電圧 vdは次式 となる.
vd
‑
普 tRDl(Rq+Rv 2 )‑RD2 ( Rp ・Rv l ) )
+葺 tRDl'(Rq+Rv2)‑RD包′(Rp+
Rv l )) ・ ‑・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・(5)
ここに,
A‑(RDl+RD2)(Rb+Rq+
Rv )
A'‑(RD
l'
+R'D2)(Rp+Rq+Rv)二 三
aa,B LTH 図3 構 成
R
Dl
′,RD2'は
VBに よって決定され る動作点での
MDl
,MD2の交流抵抗であ り
…::I,≡ddVv:;ZII==芸 ::::HH)
‑
・・ ・ ‑
‑・(6,2
個の
MDの磁気感度が近似 していれば
(al
≒a2),RDl+RD2および
RDl'+RD2′ は王かこ対 してほぼ一定 とみなす ことができ
,Hの影響を受けるのは(
5)式において,第 1,第
2項の中 括弧内である.
動作磁界
Hは図
3の電流端子
a‑a'に接続された電流 コイルによって形成される.電流 コ
イルに流れる電流 Z Lと動作磁界 H との関係を
124 長野工業高等専門学校紀要 ・第5号
H‑KIZLSin(wt‑p)
ここに
,Kl. ・定数
,p:ZLと
VLとの位相差
とするとき,vdの平均値 Vdは ,VB ≧ ノす
Ysな り時 .満 期を T として
vd‑
舶
Rsl(Rq・A 2,‑Rs"Rp
で ,.T t・#
I.T
tal(Rq・Rv高 (
R. Rv1,‑ ‑P,dt・ ‑・ ・ ‑‑
(7)'・ 督 J . T {Rcl(RqiRv?,‑Fc2tRP・Fvl,Binwt.、dt.
・
#
I.T
tal(読 ,丁議 場1 ,
誌 二(wt‑p,di ・ ・ ・ (8, となる.
al,a2
は一定であ り
,Rcl
,RC2が一定 とみなせる範囲において
Rsl(Rg+Rv2)‑Rs2(R♪+Rvl)になるように零詞用抵抗を設定すれば, 1
I I
vd‑為 「tal(Rq・Rv2)・a2(
RP・
Rvl)IVsILCOSP ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・( 9) とな り
,VsZLCOSPに比例した電圧に変換 される.
1
㌔ を増幅器
A2で増幅すると V
o‑α2Vd ‑FV
LZLCOSPここに ,V
o:A2の出力電圧,α2:
A2の増幅率
F‑票 欝 tal(Rq・Rv2).aHRp・Rvl
) ) となる.
・
・
‑‑‑
・(10)‑‑‑ ‑ ‑
(l l )
したが って
,H,Vsがそれぞれ I L
,VLに比例 し, 位相誤差を生 じなければ,電力 V LZ L
cos
pを出力電圧 Voに変換できる.
\∴I
3.
変換 器 の特 性 √ }、
'電力 と出力電圧 との間の変換係数Fは帥式で示 され ,F に含 まれている A ′ が
VBにほぼ反
比例するため , 郎 まVBと共に増加する傾向にある.図 4はバイアス電圧 VB を変えた場合, I
出力電圧 V
oの変化の様子を示 したものである. VB の増加 と共に,直線性,感度が改善され
ているのがみ られる.
(>u)
0 ^ TJ
B.1.rfヨ
60
0
06
.4‑(
>u)0^
EtL固くW
0
0.4 0.8電
圧 VL(Ⅴ)
図4 J l ' ィァス電圧の影響
0㌧ 、 40 80 120
・ .
.1涜 JL(mA) 〜図6 電 流 特 性
4
′り アス
VB(Ⅴ) 図5 零 点 変 動00よV.▲︼(>u)0^
TJ
好CF召J0
0. 4
0.8 1.0 度 庄 VL.(V)
.図7 電 圧 特 性
直線性が改善されることによって,零点変動が減少 してい く様子を図
5に示す.零点変動 は
Vsを加えることに よって ( 8 ) 式の第 3 項の
Rcl
,Rc雪が変動するために生 じるもので,こ こでは
,Vs‑0.5Vの とき零点調整をおこない
,Vsを
0‑1.OV迄変化させた ときの出力電 圧の変動を測定 している.
図
6は電流 Z Lのみを変化させた場合の出力特性の一例であ り,図
7は電圧
VLのみを変化 させた場合,また図
8は力率
co s9 )のみを変化 させた場合の出力特性である.
それぞれ良好な直線性を有してお り,バイアス電圧を加えた結果,正確な乗算作用をおこ
な うようになっている. し
126
長野工業高等専門学校紀要 ・第
5号
最高感度状態で使用 した 場合
,cos
P‑1で あれば
,VL‑1mV,ZL‑4mA で出力計器を フルスケールで指示でき, また
60Hzにおい て,c os
9つ‑0.035(
p‑880
)の場合, 力率誤差 は フルスケールの
2%以下であった.
電圧,電流に高調波が含 まれ てい る場 合 は,これをフー リエ級数で表わ し
(8)式 と同様 な計算をおこな う と,出力電圧 帆 は,つ ぎ の ような,ひずみ波電力を示す.
く ) 0
Vo ‑ F 2 i = ]
1VL,・IL,・0 0SP. ・
‑ ‑‑・・(12)ここに
,VL
,・,ZL. ・ ,P. ・: 各高調波成分 の 電 氏 ,電流,位相角
電流,電圧の うち一方を正弦波,他方を方 形波 として虚負荷試験をおこな った結果が表 1 である.実測値は計算値 とよい一致を示 し ている.
MD
自身の温度に対す る特性変化がかな り 大 きいため,変換器の感度の温度変化は比較 的大 き く , 図
9の ように
‑10‑+40oCの範 囲では
15oCにおける感度の
± 2%の変化を 示 している.
温度補供 として,抵抗 とサー ミスタ で構成 した分流器を出力電流計に接続 す ることに よって
±0.5%以下の感度 変化におさえることができた.
M Dを高感度で使用す る場合,ウォ ー ミソグアップタイムは無視できない 問題であるが,ここで用いたMDは長 時間 ( 約2 0 0時間)通電に よるエージン
グを施 してお り,数分間で安定す るよ うにな っている.ただ し,この方法に よるエージソグ効果は試料に よってか な りのば らつ きがあ り,効果的なェ‑
ジソグについては まだ問題が残 されている.
0006.tr2(ンtu)0^
irL
甲'.ri31.I.
1
0.8 0.6 0.4 0.20
力 率
cosp図8
力 率 特 性 蓑 l ひ ず み 波 特 性
基本出力との比
備考
VL:方形波
60Hえ,I L: 正弦波
104 I .<.ミ
〉 100 世 饗〜
96
‑20 0 20 40
温 度 (℃) 図9
温 度 特 性
4.鉄 損 測 定
以上に述べた ような特性を利用すれば,小形軽量磁心の鉄損測定は容易におこなわれる.
測定回路は一般の鉄損測定の場合と同様である.
鉄損測定の磁化条件は,磁束正弦波 として規定 されているが,この方法は試料の一次 コイ ルの巻数 N lが多 くな り,特に小形磁心では巻線が困難 となるため, ここでは電流正弦波の もとで実験をおこな っている.
実験の結果, 1
g程度の小形磁心の鉄損測定が要領 よくお こなえることがわか った.
図
10は磁心重量 の‑
0.
5‑1000gの範囲における環状磁心の単位重量あた りの鉄損測定の 結果である
.mが
100g以下になる と鉄損の急増がみ られ る.磁心の内径,外径比は同一重量 では鉄損値への影響は,み られなか った.
図1 1 は重量
1gの磁心の鉄損の周波数特性である. この結果に もとずいて,鉄損
Wと周波
(lqlJンこuf志
10 100 1000
磁 心 盃
五王(g)(B く
^1)LrL 翁
100
I .
七日皮l女川 j・.)図10
鉄損と重量との関係
図11 鉄択の周波波特性
表2 鉄 損 定 数
(1)1000
磁心重量‑[
g]lj1‑プ
厚[mm]極 束密度Bl T] l
M l n I M. l MB1 0.1 1.0 13.1×10 3 1.25 27.9X10‑3 47.1×10ー8
0.5 5.5×10 3 1.13 8.57×10‑a 3.75×10‑8
1060 0.3 1.0 1.25×10‑3 1.45 7.64×10ー8 23.0×10 6
数 ′との閑係を次式で表示す る.
:≡::ニ;
w
Mff:][WPg])
・ ・・ ・
・‑‑
・(13,ここに
,M,Ml,M2,n:定数
これ らの定数値を求めて ,m
‑ 1gと
1060gの試料
表3
鉄損定数
(2) mlgj l MI I nlの比較をおこな った ものが表
2である.試料はけい素鋼であるが,定数にはかな りの相違が ち られ,重量効果が大きいことを示 している.
鉄損
lyと磁束密度 βとの関係を
128 長野工業高等専門学校紀要 ・第5号
W‑M'Bn' [W/kg]
‑・ ‑‑
・・(14)とす るとき
,M'とn'とは表
3のようであった
.mが大 き くなると共に
̀M'は減少 し,n'は 増加す る傾向がみ られている.
以上のように,本稿で述べてきた電カー電圧変換器を用いることによって,軽量磁心の鉄 損特性の検討を容易におこな うことができた. 〜
表
4に鉄損測定に用い られ る電力計( 5 )をあげ,磁気 ダイオー ドを用いた電カー電圧変換器 ( 表では
MD形 として記す) との比較をお こな っている.簡単に感度の高い測定ができると い う点において,他の測定器 より優れているといえよう.
周波数特性は, 3kHz までであるが,' いずれ
Si製の磁気ダイオー ドが使用 され る よ うに なれば
,lMHz付近迄,測定可能になるはず と思われ る
(6).このことは,高磁束密度におけ る鉄損測定において精度良い結果を出すために重要である.
表4
鉄 損 測 定 器 の 比 較
静 電 秒 電流力計形 勤 電 形 ホ ‑ ル 形 M D.形
測 定 範 囲
本
体増幅器付 周 波 数 磁 束 密 度 精 度
500mW〜300W O.25.‑1.5W 50H2;〜10kHz
2×102‑2T
±1%
>lW
>50mW 50H2:〜10kHz 5×102‑1.5T
10mW〜lkW 50Hz〜10kHz 5×102‑1.5T
±1%
50mW〜low
50Hz〜10kHz 5×102‑1.5T
±1%
20lLW〜1.2kW 30Hz‑3kHz 5‑10‑2‑1.5T
±2%
や や 難
や や 難 や や 難
5. あ と が き
‑ 磁気ダイオー ドを用いて,つ ぎのような特性を持つ電カー電圧変換器が得 られた. 〔
・ (1)
電力測定範囲は, フルスケールで
4FLW (lmV,4mA)
〜1.2kW (200V,6A)と 広範囲である.
(2) 30Hz‑3kHz
の周波教範酔 こおいて,一定の応答が得 られ る.
(3)
電力測定が可嘩な力率範囲は・60Hz において, 1‑±0・
035、(0‑芋880)である・(4)
ひずみ波電力の測定が可能である.
これ らの特性を利用 して,小形軽量磁心の鉄損測定が手軽にお こなえることを,応用の一 例 として示 した.
なお;磁気 ダイオー ドでは,周波数特性 とな らんで ドリフ ト,雑音が無視できない問題で
あ る.本稿で述べてきた電力‑電圧変換器では,電力を直流電圧に変換 して測定 してい るた
め周波数の高い雑音は,出力計器の指示に影響を与えないが, ドリフ トは無視できず, これ
に よって最高感度は限定 され る. ここでは ドリフ ト対策 として,磁気ダイオー ドを
2個用い
ることに よって,それぞれの素子の ド1 )フ トを打消 し合 ってお り,かな りの軽減がなされて いる.これ よりも効果的な ドリフ ト対策がおこなえるようになれば,感度を更に高 くす るこ とができるはずであ り, この点に関 しては残された問題であるといえよう.
おわ りにあた り,御討論いただいた電気学会非線形磁気応用研究委員会各位,および 日頃 御指導いただいている信州大学山田‑助教授に謝意を表する次第である.
参 考 文 献
( 1 )
鈴木 :電子展望別冊 p.104(1972‑5)(2)山本,山田 :電気学会 非線形磁気応用研究会資料NM‑72‑9(1972) (3)山本,山田 :昭47電気四学会東海支部適合大会 17p‑H‑4
(4)山田 :電気学会雑誌 vol.89,No.4,p.611(1969) (5)電気学会 :電気学会技術報告 No.61,p.36(1964) (6)新井,山田 :電子材料 p.64(1971‑12)