令和元年度
地域創生プロジェクト活動報告
【研究プロジェクト課題名】 地域創生基盤構築の実践的研究
【研究目的・目標】
本学は、事業方針に「地域創生」を掲げ、東京一極集中・地方消滅をくい止めるため、地 域に雇用を生み出す取組みに挑戦し、地域に残り、地域に貢献する人材育成を進めてきた。
本研究プロジェクトは、学内諸学科・諸組織との有機的な連携、更には学外研究機関・民間 企業、地方自治体との積極的な連携を図りながら、これからの日本の地域創生に必要な課題 に果敢に取り組み、その研究の諸成果を、地域創生に活用することを目標とした。
地域創生のためには地域に活力をもたらす新しい産業・福祉事業の創生が必要不可欠で あり、研究の進め方は、①課題抽出・課題解決型の基盤的研究、実用化のための実践研究、
それをさらに進めた②事業化につなげる事業化推進研究の2段階とし、それらの研究の成 果に基づいて新しい事業の創生を目標とした。本プロジェクトにおいては、主に①の基盤的 実践研究を推進した。研究テーマとしては、農業・福祉分野の幅広い内容を含ませた。また、
これらの研究テーマを遂行する中で、本学のブランド力を高めるとともに、新しい農業・福 祉事業を推進する若手人材の育成にも注力した。
【本年度の研究内容】
本研究プロジェクトの本年度の研究実施項目は大きく分けて、①福祉農業研究、②福祉環 境資源・防災研究、③福祉ICT(Information and Communication Technology)研究の3項目で ある。各項目の研究内容の概略は以下のとおりである。
① 福祉農業研究(育種・栽培研究) 研究グループ: PJ1
本年度の研究項目は、コメや麦の加工技術の開発、ワイン醸造用ブドウの栽培技術の開発、
寒冷地におけるオリーブの栽培技術の開発である。これらの技術開発を行うことにより、新 しい農業技術を開拓し、その成果を大震災被災地や過疎化が進む地域に還元して、地域の活 性化に貢献する。
② 福祉環境資源・防災研究 研究グループ: PJ2
本学諸施設に適用可能な新規分散型エネルギーシステムの開発、水力や地下エネルギー 資源(地熱)を活用した自律分散型エネルギー資源の調査・開発研究、さらに地域の防災・
減災のための防災教育用データベースの構築などを当面の研究項目とした。東日本大震災
を契機として、地方や過疎地域のエネルギー資源をどのように確保していくかが大きな課 題となっている中で、自律分散型エネルギー資源の確保に関する研究は重要度を増してい る。また、防災教育のためには地域の地形や地層の理解は必要不可欠であり、本研究では地 層調査に基づいて防災教育の基礎資料の収集を集中的に行った。
③ 福祉ICT(Information and Communication Technology) 研究グループ: PJ3
ドローン空撮映像やVR映像を活用した認知症の心理行動症状の改善を図る研究、地域 自然風景VR映像化による地域の観光振興などへの応用を目指した実証研究、福祉介護分 野へのAI及びICTの活用技術の基盤研究および実証研究、ドローンの農業への応用研 究である。最近急速に技術が進歩しているドローン空撮やそれと関連したICT技術を、福 祉・介護分野あるいは農水産業へ積極的に活用するための研究であり、特に医療介護分野へ の活用が実証された場合には、事業化を目指すことを目標とした。
本研究プロジェクトは地域の将来を担う若手の人材育成も重要な目的の一つである。学 内の学内諸学科との連携により、以上の諸研究プロジェクトにできるだけ多くの学生・大学 院生を参加させるよう努力した。
令和元年度 研究活動報告
研究グループNo: PJ1-1
研究課題名:新規需要米・麦等の適品種の選定と生産性向上及び 加工利用法開発に関する研究
【研究組織】
研究代表者:永野邦明
研究分担者:鈴木康夫、渡邊圭、庭野道夫
【研究目的】
本研究グループでは「地域の基幹となる農産物の生産振興と加工利用の促進」をテーマと して、津波被災地の復興も考慮しながら、大麦・米・ブドウを主に、品種の選定、栽培条件・
適地の検討、加工利用法に関する研究を関係機関の協力を得ながら行う。本年度は生産地 域・生産組織の選定から取り組み、併せて適品種の検討も進め、将来的な出口となる加工品 の開発に関する情報収集と加工業者との連携強化も図る。
【今年度の目標】
本年度は、以下の 4 項目について課題の抽出と各研究項目の実現可能性について詳細な 検討を行い、実施項目の整理と実施方法を検討する。また年度の前半から取り組み可能な項 目については、本格的な調査研究を開始する。
具体的な研究計画は以下のとおりである。
(1)「玄米食用米・金のいぶき」に関する研究
① 安定生産に向けた栽培条件の検討(七ケ宿町農業法人千年塾、仙台市他)
「金のいぶき」の育苗の改善を図るため、種子浸漬時に機能水(三菱ケミカルアグリドリ ーム株)を使用した場合、苗質が改善するか比較試験を行う。また、宮城県内各地産の「金 のいぶき」を収集し、七ケ宿町千年塾産米との成分比較を行い本学産米の特性を確認する。
② 日本酒製造に関する基礎的研究
精米を出来るだけしない(精米歩合 90%以上)「金のいぶき」を原料とした日本酒の醸造 試験を、(合)寒梅酒造、高清水食糧(株)、宮城県産業技術総合センタ-、(株)福祉工房、
東北福祉大学産業福祉マネージメント学科等の協力で実施する。
本学学生も生産に関わる平成 30 年七ケ宿町千年塾産の「金のいぶき」を原料米とし、精 米は高清水食糧(株)、醸造は県産業技術総合センタ-の指導助言を得て、本学卒業生が社 長を務める(合)寒梅酒造が実施する。原料米や日本酒の調査分析は東北福祉大学産業福祉 マネージメント学科の学生を中心に実施する。日本酒の商品化調査は(株)福祉工房が中心 となり学生の協力を得て実施する。
(2)「高アミロース米・さち未来」に関する研究
① 安定生産に向けた栽培条件の検討(登米市、山形県他)
登米市米山町と山形県飯豊町における「さち未来」の現地生産水田を観察調査し、栽培上 の問題点を探るとともに生産物の成分品質について調査する。
② 麺や米ゲル加工に向けた基礎研究
本学や関係企業等で構成される「米及び油糧米が創る新産業に係る研究開発プラットフ ォーム」において今後の加工の方向性を定期的に議論するとともに、加工の現場を確認し問 題点を探る。
(3)「大麦の生産・加工に関する研究」
① 二条大麦(ビール麦)の品種試験
学内みやぎ台圃場に 11 月上旬を目標に「はるな二条 HKI」を播種し、生育特性を把握 するとともに、次年度生産物の収穫後に品質特性を調査する。
② 栽培適地に関する現地実証試験(塩害・津波被災地)
東松島市や加美町で栽培されている二条大麦「サチホゴールデン」、「はるな二条 HKI」
などの播種・生育状況を把握し課題を探るとともに、次年度収穫物の収量・品質を調査する。
(4)「ワイン醸造用ブドウ」に関する研究 ① 適品種の検討
県外先進地(山梨県等)や苗木業者から品種の最新情報を収集し、宮城県に適する用途 別のブドウ品種を選定し、次年度栽培に向けて苗木を確保する。
② 栽培条件に関する実証研究
学内の栽培候補地の土壌等を調査し、適地を選定する。
【研究経過】
本年度は,米、麦、ブドウに関する以下の 4 項目に関する研究を展開した。以下,研究活 動状況の概要を記す。
(1)「玄米食用米・金のいぶき」に関する研究 ① 安定生産に向けた栽培条件の検討
仙台市泉区の K 農家の協力を得て「金のいぶき」の種子消毒後の、種子浸漬時に機能水
(三菱ケミカルアグリドリーム株)を使用した。比較の用水は井戸水(10℃)とし、3/23 から浸漬を開始した。4/6 に加温催芽し 4/7 に育苗箱に播種し、ビニールハウスで無加温 育苗した。5/12 に苗を採取し、5/20 に苗調査を行った。田植えは 5/18 でその後、収穫 期まで生育状況を継続して観察し、10/12 に収穫調査を行った。表 1 のとおり苗質は機能
品質の向上には明確な差が見られなかった。
表1)⾦のいぶき育苗試験の調査結果
無処理区 苗清⽔処理区
草丈 葉令 乾物重 乾物重 苗⽴数 草丈 葉令 乾物重 乾物重 苗⽴数
地上部 根部 地上部 根部
cm 100本/g 100本/g 20c㎡/本 cm 100本/g 100本/g 20c㎡/本 15.3 3.7 3.1 10.7 332 17.1 4.0 3.8 11.8 342 浸漬3/23〜、井⼾⽔10℃
催芽4/6、播種4/7、無加温ハウス育苗 苗採取5/12、苗調査5/20 ⽥植え5/18
その他に宮城県内各地(登米市、大崎市等)産の「金のいぶき」を数点収集した。今後、
七ケ宿町千年塾産米との成分比較を行う予定である。
② 日本酒製造に関する基礎的研究
平成 30 年七ケ宿町千年塾産の「金のいぶき」を原料米とし、精米は見掛けの精米歩合 92,
94%に設定し、研削式の精米機(サタケ、MCS630A)を使用して高清水食糧(株)で実施し た。日本酒の醸造は 2 種の精米歩合の米を各 90kg 使用して、県産業技術総合センタ-の指 導を得て(合)寒梅酒造で実施した。原料米や日本酒の調査分析は東北福祉大学産業福祉マ ネージメント学科の学生を中心に実施した(表 2、3、4)。
胚芽を出来るだけ残す精米に取り組んだが、胚芽残存度が極めて低い結果となった。日本 酒については市販の純米吟醸酒並に良好な出来となり、酒質はやや濃厚で味があり酸味も 強く 94%の方がよりその特徴が出ていた。また、GABA 等の機能性成分については、フェルラ 酸以外は検出されなかった。
表2)「⾦のいぶき」⽇本酒⽤原料⽶の分析結果
⾒掛け 真精⽶歩合 ⽩度 千粒重 粗タンパク質 粗脂肪
精⽶歩合(%) (%) g % %
94 88.3 35.2 20.2 6.47 2.24 92 85.9 38.0 19.7 5.56 0.76
参考(⽞⽶) - - 22.9 7.39 -
注1)原料⽶はH30年七ケ宿町(農業法⼈千年塾)産
注2)分析は東北福祉⼤学産業福祉マネージメント学科の学⽣が実施。
表3)「⾦のいぶき」⽇本酒の分析結果
⾒掛け ⽇本酒度 アルコール分 酸度 アミノ酸度
精⽶歩合(%) %
94 -3.1 14.2 1.75 0.63 92 -0.5 14.3 1.70 0.83 注1)原料⽶はH30年七ケ宿町(農業法⼈千年塾)産
注2)分析は⼭形県⼯業技術センターで実施。
表4)「⾦のいぶき」⽇本酒の機能性成分分析結果
⾒掛け ビタミンE γアミノ酪酸 フェルラ酸 精⽶歩合 α−トコフェロール 遊離GABA 遊離
(%)
(mg/100g) (mg/100g) (mg/100g)
94 ⾮検出(0.1未満) ⾮検出(1未満) 1.2 92 ⾮検出(0.1未満) ⾮検出(1未満) 1 90 ⾮検出(0.1未満) 1 0.9 注1)原料⽶はH30年七ケ宿町(農業法⼈千年塾)産注2)分析は(⼀財)⽇本⾷品分析センターで実施。
日本酒の商品化調査は(株)福祉工房が中心となりビジネスマッチ東北 2019(11/7、夢 メッセみやぎ)等の機会を活用して学生の協力も得て試飲のアンケート調査を実施した。日 本酒の味の特徴から、活用シーンのイメージや料理との相性等多くの提案を得ることが出 来た。
(2)「高アミロース米・さち未来」に関する研究
① 安定生産に向けた栽培条件の検討(登米市、山形県他)
登米市米山町と山形県飯豊町の「さち未来」の生産状況を調査し、生産物の成分調査を行 った。表 5 のとおりアミロース含量は同程度であったが、登米市の収量がやや低くタンパク 質含量が高めであった。
表5)「さち未来」の成分品質
品種名 地点名 タンパク質 アミロース 千粒重 収量(聴取り) 含量(%) 含量(%) (g) kg/10a
さち未来 登⽶⽶⼭ 9.22 29.4 23.2 420
さち未来 ⼭形飯豊 6.69 30.0 23.6 588
② 麺や米ゲル加工に向けた基礎研究
6/7 に「米及び油糧米が創る新産業に係る研究開発プラットフォーム」の研究会を開催 し、「さち未来」の加工に取り組んでいる関係者間で今後の方向性や課題について議論し、
その後も継続して検討を進めている。また、6/11 には宮城県で麺の加工に取り組んでいる 業者の加工の現場を訪問し課題や改善策を検討した。
(3)「大麦の生産・加工に関する研究」
① 二条大麦(ビール麦)の品種試験
二条大麦品種「はるな二条 HKI」の品種適性を確認するため、学内みやぎ台圃場 2a に 11 月 13 日(一部 11 日)に畝間 20cm で条播した。播種の遅れによる初期生育の確保が懸念 されたが、暖冬の影響で発芽苗立は順調である。今後は 5 月上旬頃に生育調査を行い、6 月 上旬頃に収穫して品質特性を調査する予定である。
大麦の生育状況(みやぎ台、2/27)
② 栽培適地に関する現地実証試験(塩害・津波被災地)
東松島市(2 法人)で栽培されている二条大麦「サチホゴールデン」の生育状況を 6/
4 に調査し、収穫後に収量・品質を確認した。1 法人は播種の遅れが影響して 200kg/10a と やや低収であったが、1 法人は 350kg/10a と多収であり、品質も良好であった。今回生産さ れた大麦は麦芽に加工され、アサヒビール、やくらいビール等で原料に使用され、クラフト ビ ー ル や 地 域 限 定 ビ ー ル と し て 販 売 さ れ て い る 。(「 希 望 の 大 麦 プ ロ ジ ェ ク ト 」 https://www.asahigroup-holdings.com/csr/assistance/barleyofhope.html)
本年度作の大麦は台風 19 号の影響で作業が遅れたため、東松島市(2 法人)の「サチホ ゴールデン」、加美町の「はるな二条 HKI」とも播種期が 11 月末から 12 月上旬と大幅に遅 れたが、記録的な暖冬の影響で発芽・苗立とも順調で遅れを取り戻しつつある。4 月以降も 生育状況を把握し課題を探るとともに、収穫物の収量・品質を調査・確認する予定である。
塩竈市の浦戸諸島・寒風沢島においても津波被災水田に大麦・小麦の試作を小面積で開始 するとともに、地力増強作物としてのナタネとレンゲを 11 月上旬に播種し生育観察を行っ ている。
(4)「ワイン醸造用ブドウ」に関する研究 ① 適品種の検討
6/21 に山梨県のブドウ苗木業者を訪問して、国内ブドウ品種の開発状況や栽培の現状 を聞き取り、山形県の苗木業者の情報も収集し、最終的に宮城県で栽培に適して苗木が導入 可能な生食用 4 品種、ワイン用 2 品種の苗木(表 6)を導入した。次年度 4 月以降に学内に 植栽予定である。
表6)導⼊予定ブドウ品種
品種名 ⽤途
シャインマスカット ⽣⾷⽤ ⻩緑⾊⼤粒品種 クインニーナ ⽣⾷⽤ 鮮紅色大粒品種 BKシードレス ⽣⾷⽤ 紫黒色大粒品種 サンヴエルデ ⽣⾷⽤ 黄緑色大粒品種 ヤマ・ソービニオン 赤ワイン用
マスカットベリーA 白ワイン用
② 栽培条件に関する実証研究
土壌分析機「EW-THA1J」(シャープライフサイエンス社製)により、ブドウ栽培予定地の N,P,K,Ca,Mg 等の土壌養分を分析した。4 月以降の栽植に向けて不足する成分を土壌改良資 材や肥料で施用する予定である。
【研究成果】
本年度は、以下に示す研究成果を得た。
「金のいぶき」の安定生産に向けた取り組みとして、機能水利用による苗質向上の可能性 が示されたが、最終的な収量品質の向上に至るまでには他の多くの要因が関与するため、施 肥や水管理等も含めた体系的な検討が必要であることが確認された。
「金のいぶき」の日本酒製造に関しては、米生産から原料米の調査分析、日本酒の製品化 に多くの学生が関わり、原料生産・加工・販売に至る実際の経済活動を体験することで多く の学びを得たと思われる。今回の基礎研究結果を基に、11 月から七ケ宿町千年塾令和元年 産米「金のいぶき」900kg を原料に(合)寒梅酒造で日本酒醸造を行い、酒質良好な「金の いぶき」酒が出来上がり、12 月から(株)福祉工房において、ハーフボトルと 4 合瓶の 2 種 類の一般販売を開始したhttps://f-shopweb.easy-myshop.jp/。精米歩合 94%を目標としたが、
平成 30 年産米よりも削れやすく、基礎試験同様に胚芽がほとんど脱落してしまい、GABA 等 の機能性成分をお酒に残す取り組みは不十分であるため、次回の醸造に向けて精米方法の 改善が必要である。
「さち未来」の安定生産に向けた取り組みとして、生産地域によるアミロース含量の変動 は小さいがタンパク質含量が収量等の影響で大きく変動することが確認されたため、次年 度に向けて、米麺や米ゲル製造に対するタンパク質含量の影響を明らかにし、品質の安定し た商品製造を可能する必要がある。
二条大麦生産に関しては、津波被災地の特産作物として生産量・品質ともに安定し、定着 しつつある。今後も適品種の選定とビール麦芽原料としての品質向上対策を継続して検討 するとともに、菓子、麦飯等で利用する実需者との連携を図り、新たな商品化を目指す必要 がある。
【成果資料】
(1) 玄米食用新品種「金のいぶき」について 永野邦明 医と食 2019.4 第 11 巻 2 号 P75-78
(2)特集/コシヒカリを超える米 コンビニで人気!「金のいぶき」 月刊食糧ジャ ーナル vol.44 No.6 2019.7 P48-55
令和元年度 研究活動報告
研究グループNo: PJ1-2
研究課題名:樹木栽培を通じた離島並びに沿岸部の地域活性化に関する実践研究
【研究組織】
研究代表者:山口政人
研究分担者:庭野道夫、坪川宏、河地庸介、渡邊圭、磯田博子(筑波大学)、
平塚明(東北大学)
【研究目的】
本研究は、人口減少と高齢化が進む石巻市網地島、塩竈市野々島、亘理郡山元町において、
オリーブの試験栽培並びに植樹活動を通じて地域の活性化に寄与することを目的とする。
寒冷地宮城での栽培方法の確立とオリーブ由来の各種機能性成分等を明らかにし、これら の成果を当該地域に還元していくと共に、世代間の異なる住民と学生による栽培交流の機 会も併せて企画し、地域振興の一助となることを目指す。
【今年度の目標】
今年度の目標は、3 地域での実践研究を行うに当たり地域住民との関係構築、生育調査、
学生参加の機会を増やし、実践学習の環境を整備することを目標とした。詳細は次の通りで ある。
網地島では、耕作放棄地の開墾とオリーブの移植作業、生育調査、気象センサーを設置す る。野々島では、島民とのオリーブ栽培の打ち合せ、島内の景観作りのための植栽活動、主 にラベンダーの移植作業を行う。山元町ではオリーブの生育調査を開始することである。
また、当該地域での継続的に植樹活動していくためには、一定数のオリーブの苗木を確保 する必要がある。そのため苗木栽培を国見ケ丘キャンパスの実践農場で実施する。これら一 連の取り組みは、社会貢献活動として意義があり、医療、福祉を学ぶ本学学生が自主的に参 加できるよう環境整備する。
【研究経過】
今年度は、離島と沿岸部の 3 地域におけるオリーブ試験栽培の生育調査、学生参加の機 会の構築等の環境整備を中心に実施した。
以下,活動状況の概要を記す。
(1)石巻市網地島での経過状況
網地島でのオリーブ試験栽培は、2018年5月25日に遡る。NPO法ジョイフル網地島の 協力を得ながら、島民と学生が共にオリーブの苗木を植樹した。品種はスペイン産のアルベ
キナ、ギリシャ産のコロネイキ、チュニジ ア産のシェトウィの3品種、計29本であ る。図 1 の通り、植樹当初、背丈はアル ベキナでは28.8±3.3cm、コロネイキで は 28.8±5.4cn、シェトウイでは 50.4± 6.6cmであったが、15ヶ月後には、各々 84.6±12.1cm、86.7±7.3cm、83.6± 9.5cmであり、約1.7倍~3倍成長したこ とがわかった。アルベキナにおいては 100cmを超えるものもあり、枝の横方向 への伸長が著しく、広い農地での移植が必 要となった。 2019年8月25日、NPO 法人ジョイフル網地島、地元漁師の協力の もと、隣接の耕作放棄地を重機による開 墾、新しい農地が完成し、オリーブを移植 した(図2)。学生による生育調査、除草作 業は2019年7月20日、8月24日、9月 7日に実施した(図3)。土壌のpHは中性寄 りの6.1~6.7であり、オリーブ栽培におい て支障はなかった。植樹後1年3ヶ月で、
背丈89cmのコロネイキにおいて、着花、
結実の様子を観察することができた(図 4)。この背景には島民やNPOの方々によ る水やり、害虫忌避剤の散布、支柱の修繕 など、我々が網地島に訪問できない日に支 援していただいている。2019 年 12 月 23 日には、学生達と共に気象センサーを農園 に設置した(図5)。これにより、大学キャ ンパスから、農園の画像、気象状況(気温、
湿度、風力)がリアルタイムでPC上で確認 できるようになり、オリーブの寒冷地栽培 の基礎資料として活用していく予定であ る。尚、本学は2018年4月にNPO法人ジ ョイフル網地島と地域共創推進事業に関す る連携協定、2019年4月に石巻市と包括連 携協定を締結している1)。
(2)塩竈市野々島での経過状況
本学と野々島との交流は 2014 年の子ども 支援プロジェクトから始まり、すでに島民と の関係構築が出来ている2)。東日本大震災以 降、護岸工事、嵩上げ工事、昨年から区画整 備、住宅の建設工事、家屋等の移設工事など が始まり、景観が変わりつつある。昨年頃か ら島民の間で、ラベンダー栽培のほかにも何 か新しい事をやりたいという声があがってい た。2019年の冬、島民からオリーブを植えた いとの要望があり、本学の国見ケ丘キャンパ スの実践農園で栽培管理している苗木をラベ ンダー畑に、試験的に5本移植することが決 まった。移植作業には学生が関わった(12月 7日)(図6)。土壌のpHは6.2~6.8であり、
オリーブの栽培に支障はない。2020年度の春 には、オリーブの本数を増やし、新たに農地 を開墾し、移植予定である。島民から積極的 な申し出があったため、ぜひ実現したい。野々 島においては、オリーブの栽培活動だけでは なく、学生による様々な地域貢献活動を実施 した。6月8日と22日には、ラベンダー畑に 牡蠣殻を散布し、土壌改良作業を実施した。
牡蠣剝き場から廃棄された牡蠣殻を土嚢袋に
詰め、リヤカーに積み込み、およそ1Km先のラベンダー 畑まで運搬した(図7)。運搬した土嚢袋は400個である。
漁業者の高齢化により重筋作業が困難であること、島内に は生活道路が多く自動車が進入できる道路は限られてい る。今回、若い学生の力によって初めて実現した。水産廃 棄物の有効利用という視点で社会貢献が出来た。11月9日 には、ラベンダー畑から20 本の木を引き抜き、島の主要 道路沿いの花壇に移植する島の景観作りに関わった。花壇 作りにおいても開墾から整地まで全ての作業に関わった
(図8)。このような学生達の取り組みに対して、謝礼とし
て島民からラベンダーの苗木15本を提供していただいた。感性福祉研究所の中庭の花壇に 移植した(図9)。島民と学生との交流ができている良い事例である。尚、塩竈市とは2019
年11月に地域発展や人材育成を目指す包括連 携協定を締結した。離島振興と農業技術交流に も積極的に関わっていくことになっている
3)4)。
(3)山元町での経過状況
2018 年9月 19 日、牛橋地区公民館の花壇 において住民と学生によるオリーブの植樹会 を開催した。元々、牛橋区民会館は東日本大震 災によって倒壊しており、同年7月に新たな土 地に新築され、町民待望の集いの場所である。
牛橋地区区長の協力のもと造成されたばかり の新しい花壇に、開花と結実の期待を込めて苗 木が植えられた(図10)。品種はアルベキナ、
コロネイキ、シェトウィの3種7本である。そ の後、除草作業や看板設置など整備が行き届い ており、地元住民による自主管理が徹底して いる。2020年1月31日の生育調査には地元 出身の学生が関わっている(図11)。図12は 植樹して 16 か月後の背丈の平均値の変化を 示す。網地島のオリーブが品種による成長度 合いの差異が認められたのに対して、山元町 では3品種ともに約3倍程度の成長が認めら れ、興味深い結果が得られた。
(4)国見ケ丘キャンパス農場での試験栽培 国見ケ丘キャンパスの農場は、標高151mの 内陸に位置している。網地島、山元町とは気象 条件や地理的条件が異なると思われることか ら、比較対象として、2018 年8月から試験栽 培を始めた。アルベキナ、コロネイキ、シェト ウィの3品種、計46本である。土壌のpHは 6.5~6.8の範囲にあり、栽培において支障はな
い。特に冬季の降雪による生育障害の心配がある。その対策として、我々は寒冷紗と支柱
(竹)を用いた簡易な雪囲いを考案し、オリーブに施した。支柱に用いた竹は網地島に自生
年3月にかけての降雪日数は 16日間あったが、
雪囲いにより越冬が実現可能となった5)。2019年 12月~2020年3月25日までの降雪日数は6日 間であり前年度と比べて半分以下の日数であり、
雪囲いは施さなかったが、現時点でオリーブに被 害は見られない。寒冷地での栽培方法を確立する ためには、環境要因となる基礎情報を収集し、生 育との関係を分析する必要がある。今後、国見ケ 丘キャンパス農場にも気象センサーを設置し、網 地島のオリーブと比較検討していく予定である。
図13 は学生による生育調査の様子である(2020 年1月17日)。また、網地島、山元町等への植樹 活動を継続的に実施していくためには、苗木の栽 培及び維持管理が必要である。国見ケ丘キャパス
の農場では、苗木栽培においても学生達が積極的に参加している(図14)。
【研究成果】
(1)対象地域となる石巻市網地島、塩竃市野々島、亘理郡山元町の住民皆様と実践研究に おける協力関係が構築できた。
(2)寒冷地におけるオリーブの試験栽培を開始し、2年目の越冬に成功した。3地域によ る成長の違いが見られるので。気象条件等の裏付けとなる基礎情報が今後必要であり、それ らの研究環境が整いつつある。
(3)本学学生の活動への参加が、地域住民や高齢者を元気づけると共に、学生においては 地域の現状を知り、未来を創造する生の学習の機会となっている。継続して関わる学生が少 しずつ増えてきており、一連の活動が地域貢献への意識の醸成に役立っている。
【参考資料】
1)「地域振興へ包括連携 石巻市、東北福祉大と協定」河北新報 2019 年 5 月 9 日 掲載 https://www.kahoku.co.jp/special/spe1000/20190509_15.html
2)「野々島プロジェクト」金政信、山口政人. 平成26年度 東北福祉大学子ども支援プロジェク ト活動報告書、52-86、2014
3)「介護予防や離島振興に注力 塩釜市と東北福祉大が連携協定」河北新報、2019年11月19 日掲載 https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201911/20191119_13009.html
4)「塩釜市と東北福祉大協定 高齢者の健康増進などで連携」読売新聞、2019年11月19掲載 https://www.yomiuri.co.jp/local/miyagi/news/20191119-OYTNT50003/
5)「チュニジア産オリーブ栽培の実践的研究Ⅰ」庭野道夫、山口政人、渡邊圭、礒田博子. 感性福祉研究所年報、20、79-94、2019
令和元年度 研究活動報告
研究グループNo: PJ2
研究課題名:地域の資源活用・福祉防災に関する実践研究
【研究組織】
研究代表者:庭野道夫
研究分担者:山口政人、渡邊 圭、峯田喜次郎(以上、東北福祉大学)、
高嶋礼詩、西 弘嗣、津田 理(以上、東北大学)
【研究目的】
高齢化が進む地域を活性化し、また地域の防災上の安全を維持するためには、自律分散型 地域エネルギー資源の農林水産業への利活用技術の開発や、減災・防災教育を充実する研究 や実践活動が必要不可欠であり、それらは福祉の観点からも本学において推進すべきもの である。本研究グループでは「地域の資源活用・福祉防災」を主テーマとして、①地域のエ ネルギー資源の探索・利活用及び②福祉防災のための基盤構築・防災教育に関する研究を遂 行することを目的とした。
【今年度の目標】
本年度は、地域分散型エネルギーシステムの構築に関する基礎的研究と、福祉防災教育充 実のための基礎情報の収集・アーカイブ化を遂行することを目標とし、具体的には以下の課 題に取組むことを研究計画として挙げた。
(1) 自律分散型エネルギーシステムの構築に関する基礎的研究
・ 農業に活用可能な自立分散型エネルギーシステム構築の基礎研究
・ 東北福祉大キャンパス及び付属医療・福祉施設の新規エネルギー供給システムの検討 ・ 地域エネルギー資源の調査と活用法の基礎的検討
(本学の朴木山、横向山キャンパスを中心とした白沢カルデラ一帯の地質調査)
(2) 福祉防災教育充実のための基礎的研究
・ 防災教育充実のための地質調査および教材の収集 ・ 栗原市栗駒荒砥沢地区の地滑り地帯の地質調査
・ 東日本大震災被災地一帯の地質調査およびドローンによる空撮 ・ ドローン空撮画像の解析による新規教材コンテンツの開発
【研究経過】
本年度は,防災教育充実のための地質調査および教材の収集に関する研究を主に展開し
宮城県の地盤は主に中新世前期から現在に至るおよそ 2300 万年間に形成されたものが 多い。このうち、中新世前期から後期(2300万年前~800万年前)には、海底火山活動に よって堆積した火山岩・火山砕屑岩類が広く形成され、中新世後期から鮮新世にかけては陸 域のカルデラ火山によって堆積した火砕流堆積物や各種貫入岩類が堆積あるいは貫入した。
さらに、第四紀(259万年前から現在)にはいると、奥羽山脈が隆起すると共に、その脊梁 部に多数の成層火山が形成された(高嶋ほか、2018)。火山性の地盤はしばしば斜面崩壊や 土石流などを起こすため、宮城県における火山性の地層の分布や性質を調べることは、地盤 災害を予測するうえで重要と考えられる。しかしながら、本地域の新第三系~第四系の凝灰 岩や火成岩類の年代については 1980 年代の放射年代測定以降ほとんど検討がなされてい ないため(石井ほか、1983;北村ほか、1986)、十分な精度の年代が得られておらず、微化 石による年代との不一致が指摘されてきた(例えば、柳沢、1990)。
本研究は、宮城県の仙台市周辺、松島などの海岸地域、栗原市東部の奥羽山脈地域の地質 を詳細に検討するとともに、各凝灰岩や火成岩類の放射年代を最新の年代測定方法で測定 し、各地域の地盤に関する最新の基礎的なデータベースを作成することを第一の目的とし た。これらの地質データを基に、地域ごとに起こりうる地盤災害や過去の火山噴火等の自然 災害リスクを評価することを第二の目的とした(図1参照)。
図1.本プロジェクトの調査地域
【研究成果】
本 研 究 で は 、 野 外 調 査 を 基 に 地 質 図 を 作 成 し 、 凝 灰 岩 に つ い て は ア リ ゾ ナ 大 学 LaserChronセンターのレーザーアブレーション質量分析計を用いたジルコンのU-Pb放射 年代測定を実施した。また、荒砥沢周辺の火山砕屑岩類のように、ジルコンを含まないもの に関しては、蒜山地質年代研究所に依頼し、サニディンのK-Ar放射年代測定を行っている。
また、各凝灰岩の対比については、東北大学産学連携先端材料研究開発センターの波長分散 型EPMAを用いてアパタイトの微量元素組成を基に行っている。
(1)仙台周辺の新第三系凝灰岩の研究
仙台市周辺には、中新世後期~鮮新世に形成されたカルデラが複数分布する(白沢カルデ ラ、定義カルデラ、深野カルデラ、白石カルデラ、七ツ森カルデラ)。本研究ではこれらの カルデラ噴出物の地質学的、岩石・鉱物学的検討を行い(高嶋ほか、2018)、ジルコンのU- Pb放射年代の測定を実施した。その結果、各カルデラの活動時期が780万年前から350万 年前にかけての時代であることを明らかにした。さらに、仙台市内に広く分布する火砕流堆 積物である広瀬川凝灰岩の給源火山を特定するために、中新世後期~鮮新世の上記各カル デラ噴出物と広瀬川凝灰岩のアパタイト微量元素組成を測定した。その結果、アパタイト微 量元素組成とジルコンのU-Pb年代測定結果が白石カルデラの噴出物と一致したことから、
広瀬川凝灰岩は白石カルデラの噴出物であることを明らかにした(Takashima et al.、 in press)。
(2)松島周辺の新第三系凝灰岩の研究
松島周辺の地層は日本海拡大時期のおよそ2200万年前から1500万年前に至る時代に形 成された。この時形成された地層は下位から網尻層、松島層、大塚層と名付けられており、
このうち、松島層は海底で堆積した火砕流堆積物である。本研究では、この3つの地層の地 質学的検討を行うとともに、松島層と大塚層については、火砕流堆積物からジルコンを抽出 し、その形成年代を測定した。その結果、松島層最上部のMt-5部層と大塚層最下部に挟ま る軽石凝灰岩の年代は、それぞれ1579万年、1576万年前であることが明らかになった(高 嶋ほか、2019)。この2つの凝灰岩の間には、国際年代スケールにおける前期中新世と後期 中新世の境界である地磁気の逆転層準があることから、これら二つの凝灰岩の年代が決ま ったことにより、国際標準年代尺度において大きな貢献を果たした。
(3)栗原市荒砥沢周辺の凝灰岩の研究
栗原市荒砥沢地区は、2008年の宮城岩手内陸地震によって大規模な地すべりを起こした 地域である。この地域の地滑りの要因としては、中新世後期のカルデラの湖成層の上に、軟 弱で低密度の軽石凝灰岩、さらにその上位に高密度の溶結凝灰岩が重なる不安定な地質条
でほとんどなされておらず、地すべり体となった軽石凝灰岩と溶結凝灰岩の年代や給源火 山も不明なままであった。本研究で両凝灰岩からジルコンの抽出を試みたが、ほとんどジル コンは含まれていなかったために、サニディンを抽出し、K-Ar 放射年代の測定を行った。
その結果、下位の軽石凝灰岩は136±31万年前、上位の溶結凝灰岩は 131±4万年であるこ とが分かった。これらの年代は隣接する秋田県湯沢市の兜山溶結凝灰岩と類似しており(高 島・荻原、1999)、同一の噴火に由来する可能性があることが判明した。
以上のように、最新の放射年代測定とアパタイト微量元素組成を測定することにより、従 来不明だった宮城県各地域の凝灰岩の年代や層序関係、給源火山とその影響範囲が明らか になりつつある。今後、さらに詳細な地質基礎データを蓄積し、地域の防災に役立てていく 予定である。
【成果資料】
(1)Takashima, R., Kusawaka, H., Kuwabara, S., Orihashi, Y., Nishi, H., Niwano, M., Yoshida, T., in press. Identification of the source caldera for a Pliocene ash-flow tuff in Northeast Japan based on apatite trace-element compositions and zircon U–Pb ages. Journal of Volcanology and Geothermal Research.
(2)高嶋礼詩・庭野道夫・佐藤寿正・成田朱里・鈴木結衣・西弘嗣,2019.宮城県東部に 露出する松島層最上部-大塚層最下部の地質年代とその意義.東北福祉大学感性福祉 研究所年報,20巻,p. 103-111.
(3)渡邊圭・庭野道夫・山口政人・鹿納晴尚・高嶋礼詩,2019.ドローンを用いた被災地 域の三次元地形モデル作成の試み-崩落地域の地形を例に-.東北福祉大学感性福祉 研究所年報,20巻,p. 141-151.
(4)高嶋礼詩・桑原里・草川遥・庭野道夫,2018.東北福祉大学・横向山校地及び朴木山 キャンパス周辺に露出する新第三系―第四系の層序.東北福祉大学感性福祉研究所年 報,19巻,p. 79-92.
引用文献
石井武政・柳沢幸雄・山口昇一,1983.松島湾周辺に分布する中新世軽石凝灰岩のフィッシ ョントラック年代.地質調査所月報,34巻,139–152.
北村信・石井武政・寒川旭・中川久夫『仙台地域の地質』(地域地質研究報告 5万分の1地 質図幅),地質調査所,つくば,1986
高島 勲・荻原宏一・張 文山・村上英樹,1999.秋田県泥湯周辺地域の第四紀火山岩類の TL年代 岩鉱 94巻,p. 1-10.
高嶋礼詩・桑原里・草川遥・庭野道夫,2018.東北福祉大学・横向山校地及び朴木山キャン パス周辺に露出する新第三系―第四系の層序.東北福祉大学感性福祉研究所年報,
19巻,p. 79-92.
高嶋礼詩・庭野道夫・佐藤寿正・成田朱里・鈴木結衣・西弘嗣,2019.宮城県東部に露出す る松島層最上部-大塚層最下部の地質年代とその意義.東北福祉大学感性福祉研究 所年報,20巻,p. 103-111.
Takashima, R., Kusawaka, H., Kuwabara, S., Orihashi, Y., Nishi, H., Niwano, M., Yoshida, T., in press. Identification of the source caldera for a Pliocene ash-flow tuff in Northeast Japan based on apatite trace-element compositions and zircon U–Pb ages. Journal of Volcanology and Geothermal Research.
柳沢幸夫,1990.仙台層群の地質年代-珪藻化石層序による再検討―.地質調査所月報,41 巻,1–25.
令和元年度 研究活動報告
研究グループNo: PJ3-1
研究課題名:自然風景の VR 映像化と認知症の心理行動症状の改善
【研究組織】
研究代表者:柴田理瑛
研究分担者:大内 誠、岩田一樹、山口政人、渡邊 圭、庭野道夫
【研究目的】
本研究では、地域資源の仮想現実(VR)映像化と認知症の心理行動症状の改善を目的と して、①VR技術および心理学的手法を用いた自然風景のVR映像化と、②認知症患者のコ ミュニケーション能力やメンタルヘルスの向上に関する研究を行うことを目的としている。
【今年度の目標】
本年度は基礎研究として、地域の里山や河川といった資源を360度カメラで撮影したVR 映像の制作を行うことを目的とした。
【研究経過】
本年度は,自然風景のVR映像化に関する研究を行った。以下,研究活動状況の概要を記 す。自然風景のVR映像化を行うため、A県某所の公園において、360度カメラを用いた撮 影を行った。360度カメラとは、上下左右全方位を1度に撮影できるカメラのことである。
これまでのカメラは、基本的に正面から見た景色を静止画ないし動画にする一方で、360度 カメラは複数のレンズで同時に撮影し、各レンズより得られた画像を繋ぎ合わせる(ステッ チ)することで360度すべての景色を静止画や動画にすることができる。本研究では、360 度カメラとして、Insta360 pro2を使用した。公園内を撮影し、60秒の360度3次元動画 として記録したものを自然風景の VR 映像とした。撮影時の秒間フレーム数は、Insta360 pro2の 360 度3 次元映像撮影時の最大値である 30fps とした。自然環境音の録音には、
Insta360 pro2 に内蔵のモノラルマイク 4 本を用いた。これらの映像を呈示するモニタに は、Oculus Goを用い、解像度は3840×1920であった。今後の研究のために、撮影と編集 方法に関するマニュアルを作成した。
各レンズより取得した動画データは、Insta360 pro Stitcher によりステッチした。一般 的に、秒間フレーム数が高いほど、モニタに呈示される映像は滑らかになり、輝度や彩度も 高くなる。そのため、映像の視認性は高くなる一方で、1秒間に処理するデータが増えるこ とで、映像全体のデータ量が増えてしまい、フレーム落ちが生じやすくなる。フレーム落ち とは、映像を再生する際に、あるフレームが何らかの理由でモニタ上に描画されないことで
ある。例えば、ボールが動くような映像をモニタに呈示する際に、1フレーム描画されない と、ボールがある地点からある地点に1フレーム分飛んで見え、粗い印象となる。このよう なフレーム落ちや、低い秒間フレーム数による視認性の低下は、VR映像の視認性および没 入感に負の影響をもたらすと考えられる。そこで、立体感と秒間フレーム数がVR映像の視 認性、没入感に及ぼす影響について予備観察を行うために、360度3次元動画で秒間フレー ム数が30fpsのVR映像(立体感有り、視認性低い)と、360度2次元動画で秒間フレーム 数が60fpsのVR映像(立体感無し、視認性高い)、360度2次元動画で秒間フレーム数が 30fpsのVR映像(立体感無し、視認性低い)の3種類を作成した。
【研究成果】
本年度は、以下に示す研究成果を得た。
3種類の 360度VR映像を2名が視聴し、視認性、奥行き感および没入感についてイン タビューを行った。その結果、視認性、奥行き感、没入感は、360度30fps 2次元動画のVR 映像でもっとも低くなった。視認性についは、360度60fps の2次元動画のVR映像が高 かった一方で、立体感と没入感は360度30fps の3次元動画のVR映像が高くなった。
これらの結果は、奥行き感と没入感は視認性と独立である可能性を示唆する。次年度は、
このような予備観察の結果が支持されるかについて、心理実験を行う予定である。
今回構築することができた3 次元映像撮影およびVR 映像化のシステムは、オンデマン ド授業や、本学で実施している網地島プロジェクト実践活動等の事前学習用コンテンツへ の応用が可能であると期待している。
令和元年度 研究活動報告
研究グループNo: PJ3-2
研究課題名:介護・福祉、および、農業分野における ICT、IoT の活用
【研究組織】
研究代表者:岩田一樹
研究分担者:大内誠、漆山純一、髙橋俊史、栁田恵梨奈
【研究目的】
近年の人口減少や高齢化問題を背景に、介護・福祉、および、農水産業分野において、ICT、
IoT、人工知能(AI)技術、および、XR 技術(XR 技術とは VR(Virtual Reality)、AR
(Augmented Reality)およびMR(Mixed Reality)をまとめた総称)の活用が注目され ている。本研究はこのような背景の下で、ICTやIoT、人工知能技術の農水産業分野、およ び、福祉・介護分野での活用を目的とし、その実践的な研究開発を実施する。
【今年度の目標】
今年度の目標は、以下の通りである。
・石巻市網地島において簡易気象測定器を設置し、気象情報をモニタすること
・深層学習(畳み込みネットワーク)を用いたオリーブの品種識別の可能性を検討 すること
・ドローンによる空撮からの3D地図を作成し、建物の採寸ができるかを検証すること ・介護・福祉分野、および、農水産業への物体認識技術の応用に向けてプログラム
を試作すること
【研究経過】
本年度は、以下の研究を展開した。
(1)石巻市網地島における気象モニタリングの開始
12月に石巻市網地島に気象観測装置を設置し、気象データ(気温、湿度、照度、風速)、
および、装置周辺画像(オリーブ畑)のモニタリングを開始した。
これらのデータを蓄積していくことでビッグデータを作成し、気象からオリーブの成 長の長期的な予測を実現する。そして、オリーブでの実証後には、他の作物へ展開する。
(2)オリーブの品種識別プロジェクト
8月に撮影した3種類のオリーブの品種(koroneiki, chetoui, arbequina)の深層学習 による識別実験を実施した。学習は、学生が中心となって「オリーブの品種識別プロジェ クト」として実施し、かなり過学習気味ではあるが、83%程度の精度での識別結果を得た。
(3)ドローンによる3D地図の作成
8月に漆山ゼミの学生2名と共にウェルコム21をドローンで200枚程度空撮し、その 画像からのモデリングを行い、ウェルコム 21 の寸法評価等を行い、0.1m 程度の精度で 採寸が可能であることがわかった。
その後、10月には学生1名とせんだんホスピタル裏の畑において、空撮を行い、栽培 されているオリーブの木の高さの採寸を試みた。
前者は漆山ゼミの学生らが、さらにVRへとデータを処理して、3D地図を作成、最終 的には2019年度の卒業論文としてまとた。
(4)介護・福祉分野、および、農水産業への物体認識技術の応用
深層学習の介護・福祉分野、および、農水産業への展開として、Web カメラなどから 取得した画像から物体認識を認識し、その情報の活用を検討する。本年度は、その基礎と して、写真からの物体(人なのか、猫なのか、犬なのか など)の識別を学生が行った。
【研究成果】
(1)石巻市網地島における気象モニタリング
表1 石巻市網地島における気象データの基本統計量(12月23日~3月8日)
気温(℃) 湿度(%) 照度(lux) 風速(m/sec)
平均 4.78 72.8 9863 1.63
標準偏差 2.87 13.8 17140 1.40
最小 -3.40 41.0 0 0.00
25% 2.90 63.0 0 0.40
50% (median) 4.80 71.0 0 1.30
75% 6.80 83.0 12394 2.60
最大 13.6 100 87819 7.60
図 1 石巻市網地島における気象データの時間毎の変化。左上のパネルは気温、右上
図 2 石巻市網地島における気温の時間毎の変化(月毎)。パネル内の数値 は、その月の平均気温と標準偏差。
2020/3/3 9:00 2020/3/3 11:00 2020/3/3 13:00 2020/3/3 15:00 2020/3/3 19:00
図 3 気象観測装置付近の画像データ
ここでは、先ず、石巻市網地島において、12月23日~3月8日の期間に収集した気 象データ(気温、湿度、照度、風速)の分析結果について述べる。収集した気象デー タについての基本統計量(平均、標準偏差、最小、25%タイル、50%タイル(中央 値)、75%タイル、最大値)を表1にまとめる。なお、最高気温を記録したのは3月 のデータではなく、12月31日11:06:09であったことから、今冬の暖冬傾向が伺え る。また、各データ同士の相関係数を算出すると、気温と照度が中程度の正の相関
(0.409)、湿度と照度が中程度の負の相関(-0.459)、湿度と風速が中程度の負の相関
(-0.344)、照度と風速が中程度の正の相関(0.303)を有していた。照度と風速を除 いて、経験的に妥当であると感じられる結果である。一方、照度と風速については一 概に妥当とは判断できない。観測期間が12月~3月であったことが原因による季節性 のものなのか、風速と日照に相関性があるのか、今後、観測を続ける中で検討してい きたい。
次に、図1は12月に設置した気象観測装置から得た各データについて、時間毎の データを箱ひげ図でプロットしたものであり、横軸が時間(24時間表記)、縦軸が気 温、湿度、照度、および、風速を示している。また、気温に着目し、各月毎に時間毎
の気温データをプロットしたものが図2である。なお、図中に各月の平均気温と標準 偏差を同時に記載している。気象庁が発表している1981年~2010年における石巻市 の月毎の平均気温は12月3.5℃、1月0.7℃、2月1.2℃、3月4.1℃であることと比 較すると、今年の網地島の気温は温暖であり、また、気温差も少なかったことが示唆 される。ただし、比較したデータが石巻市のものであることから、石巻市と網地島と では、そもそも、気候が異なっている可能性があるので、長期的なデータ収集を行っ て、さらに検討を進めていきたい。
次に、図3は気象観測装置付近の画像データを時間毎に表示したものであり、網地 島のオリーブ畑が撮影されている。なお、本報告書では2時間おきに掲載したが、実 際は0.5時間毎に撮影がなされている。また、撮影される画像の解像度は2592× 1520 pixel の高解像度である。今後は、興味のある学生とともに、この画像と気象デ ータを組み合わせて機械学習を行い、オリーブの成長予測をスタートに様々な植物に おいて気象と成長の関係性を検討し、保温や施肥などの情報を提供するシステムを開 発し、事業化を目指したい。
このような長期的なデータ収集、管理、分析を通した新たな知見・知識の発見を、
近年、注目を浴びているデータサイエンス教育の一環として実施していきたい。
(2)オリーブの品種識別プロジェクト
koroneiki
学習用
評価用
chetoui
学習用
評価用
arbequina
学習用
評価用
図 5 オリーブ品種識別の学習曲線。左図、右図ともに横軸に学習回数(epochs)、
縦軸は、左図が損失、右図が精度である。なお、青色が学習データ、オレンジ色が 評価データに対する結果である。
現在、東北福祉大学では、koroneiki, chetoui, arbequinaの3種類のオリーブを栽培 しているが、素人ではとても見分けがつかない。しかし、施肥時期や収穫時期などは品 種によって異なるので、オリーブに詳しくない学生や地域の方々とオリーブ栽培を行 っていく上で、素人にも可能なオリーブの品種識別方法が必要である。そこで、深層学 習を利用して、これら 3 種類のオリーブの品種を識別し、それをアプリケーション化 できないかと考え、識別実験を実施した。
表 1 は学習に用いた写真と識別器の性能評価に用いた写真である。学習には、
koroneiki 5 枚、 chetoui 3 枚、 arbequina 3 枚の合計 13 画像を用い、性能評価
(validation)にはそれぞれの品種で2枚ずつの合計6画像を使用した。また、学習は プログラムの実装を含めては3名の学生(2年生)を中心に行い、ニューラルネットワ ークの構造にはVGG19を用いた。
図4の左図に損失(クロスエントロピー誤差)、右図に精度(正解率)について学習 曲線を示す。なお、青色の線は訓練データ、オレンジ色の線は評価データをそれぞれ意 味しており、横軸は学習回数である。図4から、学習データ、評価データともに、学習 回数の増加に対して、損失は学習開始から減少しながら漸近、精度は上昇しながら一定 値となっている。精度については、最終的に訓練データに対しては正解率100%、評価 データに対しては正解率83.3%(6枚中5枚正解)となった。
今回の実験で、学習回数とともに損失は減少し、精度は増加したことから、学習可能 であることが確認できた。しかしながら、図4をみると、十分な学習回数を経た後に、
損失、精度の両方とも学習データと評価データの間に差ができている。このことは、過 学習が生じていることを示唆している。
過学習になってしまっている原因としては、データ数の少なさが第1にあげられる。
したがって、来年度以降はより多くのデータを取得して、学習を行いたい。また、ニュ ーラルネットワークの構造についても、ResNetなどVGG19以外の構造についても検
討し、その上で、スマートフォンなどのカメラで撮影された画像から品種識別が可能な アプリケーションの開発を行いたい。
この研究開発は、データの収集、データの処理、モデルの構築、モデルの評価、アプ リケーション化という、近年、話題となることが多い機械学習を用いたアプリケーショ ン構築の実践的な教育として行いたい。
(3)ドローンによる3D地図の作成
ドローンおよびVR 技術の農業、林業分野の活用を検討するにあたり、本年度は、ド ローン(Phantom4)により撮影された画像から3D地図を作成し、その寸法制度の評価 を実施した。それに加え、第2校地のオリーブ畑をドローンにより撮影、3D地図化し、
木の高さの測定を試みた。
図6左図は 2019年8月に漆山ゼミの学生2名とともにウェルコム 21 をした様子で ある。図6右図と同様にウェルコム21の建物を一周、240枚の写真を30分程度で撮影 し、Agisofts社のPhotoScanによってSfM(Structure from Motion)処理し、3Dモ デル化したものが図7である。
この3Dモデルは撮影時に、GPSによって、同時に取得している座標情報から実寸 で作成されいる。したがって、コンピュータ上の建物の長さと実際の建物の長さを比較 することで、どの程度の精度の建物を再現できているのか評価できる。そこで、図8の ように建物を実際に採寸して、評価したところ、実際の建物の横の長さが28.9mであ ったのに対して、3Dモデルにおける同じ部分の長さは28.7mと0.2mの違いしかない
図 6 ウェルコム21の撮影の様子 図 7ドローンで撮影された画像か
ことがわかった。したがって、ドローン によって空撮された画像から、3Dモデ ルを作成し、その長さを採寸すること で、0.1m程度の正確さで建造物の長さを 知れることがわかった。
また、図7においては、光の反射など の影響で、ガラスの部分が抜け落ちてい る箇所や、ドローンによる撮影ができな かった部分が存在している。そこで、こ れらの部分を手動で修正し、3Dモデル 化したものが図9である。さらに、この ようにして構築した3Dモデルを用いて 3D地図を作成した。この3D地図はヘ
ッドマウントディスプレーとコントローラによって、操作可能なVR地図として使用が 可能である(図10)。
これらの研究の詳細は、令和元年度 東北福祉大学 総合福祉マネジメント学部 情報 福祉マネジメント学科 卒業論文(近藤夏希、滝澤奈々子)によってまとめている。
図 10 作成した3D地図(中央)と地図を操作する様子(右下)。
図 9 図7を元に修正して作成したモデル。
図 8 ウェルコム21での測定の様子。
図 11 ドローンで撮影された画像から作成したオリーブ畑の3Dモデル
漆山ゼミの近藤、滝澤らの研究から、ドローンによる空撮とSfMによる3Dモデル化 によって、0.1m程度の精度でオブジェクトの採寸が可能であることが示唆された。そ こで、その際寸技術の木々や作物の育成状況計測に応用できないかと考え、2020年10 月に岩田ゼミの学生1名とともに、第2校地あるオリーブ畑の空撮を行い、SfMによる 3Dモデル化を行い、オリーブの採寸を試みた。測定には、ドローン(Pantom4)を使 用し、ドローンを地上10mの高さ、カメラの角度を45°にそれぞれ固定し、その状態 で、オリーブ畑を縦横に移動しながら100
枚撮影したものを3Dモデル構築に用い た。
図11は、撮影された100枚の画像から 構築されたオリーブ畑の3Dモデルであ る。実際は、規則的に並んでいる畝にオリ ーブが植わっているのだが、畝については モデル化できているがオリーブに関しては ほとんどモデル化できなかった。
モデル化ができなかった原因ははっきり とはわかっていないが、今後、撮影の高さ やカメラの角度など、測定パラメータを変 更して試行錯誤を行いたい。
モデル化に適した測定パラメータが見出 された後には、ドローンをプログラムによ って自動制御し、ドローンによる自動撮 影、データの3Dモデル化、採寸までの流 れの構築を目指したい。
(4)物体認識技術の介護・福祉分野、およ び、農水産業への応用
元画像 認識結果
図12 YOLOv3 を用いた物体識別。
左図は東北福祉大学ホームページから ダウンロードした画像。右図はYOLOv3
水産業への応用を検討するために、本年度は画像からの物体検出プログラムの実装を学生 とともに行った。検出アルゴリズムはYOLOv3(You Only Look Once version 3)を用い た。今回は学習済みのパラメータを用いたので、写っていれば画像から、人、車、飛行機、
電車、ボート、犬など20種類の物体を検出することが可能である。
その検出結果を図12に示す。右図では、左図から検出された物体を四角で囲み、それが 何と識別しているかを記載している。人(person)や鞄(bag)を上手く識別していること が見て取れる。このような画像からの検出技術は、主に、自動運転などに利用されているが、
それ以外の応用例はあまりない。今後、介護・福祉分野、および、農水産業において、この ような技術がどのように利用可能かを学生らとともに検討していきたい。
【成果資料】
令和元年度 東北福祉大学 総合福祉マネジメント学部 情報福祉マネジメント学科 卒業論 文 近藤夏希、滝澤奈々子