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雑誌名 明治学院大学国際学部付属研究所研究所年報 =

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社会規範の『ヨーロッパ化』の政治過程 : ドイツ とオーストリアにおける反差別指令の国内法制化

著者 網谷 龍介

雑誌名 明治学院大学国際学部付属研究所研究所年報 =

Annual report of the Institute for International Studies

号 10

ページ 91

発行年 2007‑12

URL http://hdl.handle.net/10723/495

(2)

91

社会規範の『ヨーロッパ化』の政治過程

――ドイツとオーストリアにおける反差別指令の国内法制化――

網 谷 龍 介

本フォーラムでの報告は、報告者の同名の論文を基に、いわゆる「ヨーロッパ化(Euroepanization)」

研究の文責枠組を基礎としながら、ドイツとオーストリアの反差別立法の過程を分析したものである。

1990年代以降、社会規範に関わる分野でもEUレヴェルの立法が見られるようになった。しかし各 社会の規範意識には差異があり、国内法制化は極めてセンシティヴなものとなる。本報告では、その 一例として反差別指令のドイツとオーストリアにおける国内法制化過程を分析した。

本報告は以下の二つの点を重視している。第一に、いわゆる「ヨーロッパ化(Europeanization)」研 究は、これまで主として構造的要因に注目した政策分析を行ってきた。しかし、国内の政治過程の意 味とその変容の意義は軽視されるべきではない。ヨーロッパ・レヴェルの指令の「置換(transposition という、行政的にさえ聞こえる作業といえども、国内立法の制定作業なのであり、そこには様々な政 治力学が作用する。本報告は、指令の置換という「外圧」を内政上の資源として利用しようとする政 権の戦略、内政とヨーロッパのタイムテーブルのズレ、という二つの要因に注目し、この二つの政治 的要因がドイツとオーストリアの相違を生み出したと主張する。

第二に本稿が照らし出すのは、「社会的ヨーロッパ」を作り出す際に生じる困難である。反差別指令 の置換過程で露になるのは、「ヨーロッパ」に実体的価値を担わせることで、統合の正統性を獲得する 試みから生じる衝突である。反差別指令のヨーロッパ・レヴェルでの制定はシンボリックな意味を持 つものであり、EU が実体的な価値を担うためのものであったが、それは各加盟国に存在する規範体 系と衝突しうる。

これはEUにとって困難なジレンマ状況である。一方で、現状のEUに対しては社会的次元の欠如 が指摘され、時にそれこそがEUの「民主主義の赤字」問題の主要因とされる。しかし、反差別指令 が示すように、一旦EUレヴェルで社会政策上の合意がなされたとしても、それが加盟国レヴェルの 政策体系や規範意識と衝突し、結果としてはEUによる国内規範の侵食、という言説が流布すること があるのである。

「民主主義の赤字」問題の本質が、EU機構の抽象的な民主性評価ではなく、「実感」に基づく一般 市民の不満であるとするならば、ここにみられるような衝突が示しているのは、憲法制定など、何か EU レヴェルにビッグバンを起こすことで問題を一挙に解決しようとする戦略の困難であろうと思わ れる。種々の衝突を繰り返しつつ、速度や方向性を絶えず修正していくプロセスの中でのみ、民主性 は担保されていくのではなかろうか。

報告に引き続く議論では、現在のEUの一般的な性格等を含め幅広く議論が行われた。

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