【教育論文】
運動量理論とぺルトン水車のトルク測定
森 下 悦 生
1Momentum Theory and Torque Measurement of a Pelton Hydro Turbine Etsuo MORISHITA1
We test a Pelton hydro turbine as one of the educational topics in the fluids engineering experiments. The theoretical characteristics of the Pelton wheel is derived from the momentum theory of fluid mechanics. Care must be taken when we apply the momentum theory to the moving bucket of the turbine although the derivation process is well established. We first revisit the application process of the momentum theory to the Pelton wheel. Torque and the efficiency of a Pelton hydro turbine is measured by our students during the course work, and we compare the experimental results to the theory. Pelton hydro turbine is a very good subject to learn the momentum theory in the fluid mechanics.
キーワード:運動量理論,ぺルトン水車, 流体機械
Keywords:Momentum theory, Pelton hydro turbine, fluid machinery
1. はじめに
流体力学や流体工学の分野では、運動量理論は重要であ って、物体に作用する流体力を、物体を囲む境界面の情報 から決定しようとするものである。学部履修科目としての 機械工学実験において、ぺルトン水車が扱われており、こ の流体機械は運動量理論によってその理論的なトルクや効 率を解析的に求めることができる。本報告では、まず運動 量理論の一般的な取り扱いに触れ、その拡張としてぺルト ン水車の問題を再確認する。また、明星大学機械工学系の 実験室に設置されているぺルトン水車を用いた学生実験で 得られたデータと理論を比較してみる。
2. 運動量理論
2・1 検査体積
運動量理論では、図1のような静止検査体積を考える。
図1において、
f:体積力ベクトル、
n:単位法線ベクトル、
o
:原点、
p:静圧、
r:位置ベクトル、
S:検査面(B:
物体、
:微小積分路、
:境界) 、
V:速度ベクトル、
Vol: 検査体積、
x,y,z:座標、
τ:摩擦応力テンソル、である。
図1における運動量と角運動量のつり合いは
(1)、
dVol dS
dS p
dS t dVol
Vol S
S
S Vol
f n
τ n
n V V V
(1)
dS
n V
p
τ
dVol
f
x z y
Vol
r
o
n
p
τ
S
SB
Body
S
図
1静止検査体積
Fig.1 Stationary control volume
p dS
dS dVoldS t dVol
Vol S
S
S Vol
f r n
τ r n r
n V V r V
r
(2)
2・2 流体機械における運動量理論
ポンプや水車は回転しており、羽根車に作用する流体力 について考える場合、回転の影響を考慮する必要がある。
1 明星大学理工学部総合理工学科機械工学系 常勤教授 流体工学
p
o
p
r
n n
n n
2 1
3 4
W
U V
p
p図2 回転羽根車
Fig.2 Rotating impeller流体工学の教科書などでは羽根車内部の流動には着目せ ず、静止した流出入部分に着目して適用するのが通例とな っている。ここでは、さらに踏み込んで、流体機械内部を 含めて考える手法について考察してみる。
図2は回転羽根車を表しており、図において、
U:羽根 車周速度ベクトル、
V:流れの絶対速度ベクトル、
W:流 れの相対速度ベクトル、
:回転角速度、
1:流入面、
2: 流出面、3:羽根車圧力面、4:羽根車負圧面、である。
羽根車と共に回転する回転座標系においては、コリオリ 力と遠心力が加わり、角運動量の保存則は、
dVoldVol dS
dS p dS
t dVol
Vol
V S
S S
Vol
ω r ω ω W r
f r n
τ r
n r n
W W r
W r
2
(3)
定常で、摩擦が無く、体積力も作用しない条件では、羽根 車の紙面に垂直な単位幅について
2
0
dVol dS p dS
Vol
S S
ω r ω ω W r
n r n
W W r
(4)
ここで、
rer
r
(5)
e e
WWr rW
(6)
e e
nnr rn (7)
であり、
er,e,ez :円筒座標系単位ベクトル、
nr,n:法 線ベクトル成分、
Wr,W:相対速度成分、
ω
ez :角速 度ベクトル、である。
図3を参照して、羽根車表面の単位接線ベクトル
tと単位
r d dr dl
n
o r
t
図3 羽根要素
Fig.3 Impeller blade element
法線ベクトル
nは、
dl
rd dl dr
t , (8)
dl dr dl rd,
n
(9)
ここで、
22 rd
dr
dl (10)
となり、
dSdlであるので、
S3(全ての羽根の合計)に ついては、法線ベクトルの向きに留意して、
pdl prdrdl dr dl r rd
dS p
S z r
r
S
3 3
e e
e e
n
r
(11)
同様に、
S4については、
pdl prdrdl dr dl r rd dS p
S z r
r
S
4 4
e e
e e
n
r
(12)
コリオリ力と遠心力については、
Wrer We
ez Wre Werω
W 2 2 2
2
(13)
r ω
ez
rer ez
ez r e r er ω 2(14) (4)式は、S1
では
ner、
S2では
nerであるので、
24 2 2
03 2 1
dVol r
W W
r
prdr prdr
dS W W W r
dS W W W r
r r r
r Vol
S z S
z
r r
r r S
r r
r r S
e e e
e e e
e e e
e e e
e
e
ez r
の 項 の み 残 っ て 、
dSrd( 1 と 2 )、
rdr
dVol2
から(
S2r、 12
2
2 r
r
Vol
)
2 0 2
2 2
4 3
2 2 2 2 1 1 2
1
prdr prdr r W rdrW W r W W r
r V
S S
r r
z
e (15)
羽根車を単位時間あたり通過する体積流量
Qについて、
r
r V
W
であるので
r r
r r
r
r rV rV rW rW rW
rV
Q2 21 121 221 122 22 (16)
また、
V U V r
W (17)
従って、羽根車に作用する時計周りのトルク
Tは、
Q
m (18)
を単位時間あたりの質量流量として、
2 2
2
1 1
12 1 2 2 2
1
1 2
4 3
r r W Q r r W Q
r r Q r QW r QW
prdr prdr
T
S S
(19)
22 11
1 1 2
2r QV r mV r V r
QV
T (20)
結局羽根車は流体から回転を妨げられるようなモーメンを 受ける。逆に羽根車は接続された動力源によって、流体に 反時計周りの角運動量を与える。
ポンプを駆動するのに必要なパワ
P(動力)は、
Urなので、
V 2U2 V1U1
m T
P (21)
ポンプの総ヘッドを
g H p
0
とすれば、
PQp0なので、
2 2 1 1
1 V U V U
H g (22)
ここで、
p0
p02 p01 :総圧差、である。水車の場合は、
0
r
r V
W
となるので、受けるトルクの向きは逆になるだ
U W V
V
図4 速度三角形
Fig.4 Velocity triangleけで、取り出せるパワは同じ表現となる。
(22)式はオイラーのポンプの式
(2)と呼ばれるものであ り、回転座標系における角運動量保存則からも導けること を確認できた。
2・3 回転座標系におけるベルヌーイの式
ポンプの総ヘッド
Hは、ポンプ前後の総ヘッドの差とな るので
22 2 2 12 1 1
2
2 z
g p g z V g p g
H V (23)
図4から、
U W UU V
UW W
U
V2 2 22 cos 2 22
となるので、
2 2 2
2 1 2 1 2
1V U W
U
V (24)
(22) 、 (23) 、 (24)式より、
U rであるので、
1 1 2 1 2 2 2 2
2 1 2 2 1 2 1 2 2 2 2 2 2 2
01 02 1 1 2 2
2 2
2 2 2 2 2 2
1
g z p g z V g p g V
g W g r g V g W g r g V
g p U p
V U g V H
(25)
(25)式より、
const 2
2 2 2
2 2 2 2 2 2 2 2 2 1 1 1 2
1
g z r g p g W g z r g p g
W
(26)
const 2
2 2
2 rel 0 2 2
2
g h U g z r g p g
W
(27)
ここで、
g z p g h W
2
2 rel
0 (28)
は相対総水頭である。 (27)式が、回転座標系のベルヌー
イの式である。
3. ぺルトン水車
3・1 運動量理論
従来の教科書に記述された運動量理論に従った説明は以 下のようである
(3)。
図5はぺルトン水車の概念図であり、図6は図5のぺル トン水車バケット部を紙面に垂直な断面内で見たものに対 応する。動力源となる水噴流の流速ベクトルが
V、ぺルト ン水車の周速ベクトルが
Uである。バッケト部に流入する
流れの相対速度ベクトルは
Wであり、その大きさは
UV
W (29)
バッケト部で運動量を与えた流体は反転して、同じ大き さの相対速度
Wで角度
の方向に流出する。これは非圧縮 流体の連続の式からの要請である。従って流出した流体の 絶対速度ベクトル
Vは、図6を参照して
sin , cos
0 , sin , cos W U W
U W
W
W U
V (30)
V U
r
図5 ぺルトン水車
Fig.5 Pelton hydro turbine
W
V W U
W W
U V'
図6 バッケト断面
Fig.6 Bucket cross section(30)式より、静止側で観測した流れの断面積は流出入 で変化することに留意する必要がある。
噴流方向の運動量変化はバケット部に加わる力
Fに等し いので、
1 cos
cos
U V m
U W
V m F
(31)
トルク
Tとパワ
Pは、
1cos
rF mrV U
T (32)
1cos
T mUV U
P (33)
トルク係数
CQと効率
は
1
2 cos 1 2rV m CQ T
(34)
21cos 1 2
1 2
V m
P
(35)
ここで、
V
U
(36)
は速度比である。
3・2 回転する検査体積における運動量理論の適用
図2は回転する羽根車に固定した座標系で表されてい る。この図をぺルトン水車に適用する場合について考えて みる。ぺルトン水車は
r2r1rのように、外周と内周を極 限まで接近させた場合と等価であると見なすと(20)式 は、
V2r2 V1r1
mr
V2 V1
m
T
(37)
(37)式において、流入側を2、流出側を1として、
V
V2 (38)
U W
V1 cos (39)
のように対応させれば、(32)と同じであることが示せ る。
3・3 トルク測定
図7に学生実験で使用されているぺルトン水車を示す。
バケットの基準円直径は
200mm、バケット数は20である。左下部のノズルから水噴流が供給され、その供給圧力
pは 水車入力水頭のラベルのついたブルドン管圧力計によって 計測される。図7の水車前方のブレーキによってトルクが 加えられ、電子秤で力を計測する。回転中心から秤までの 距離からトルクを求める。回転数を計測し、動力も求まる。
バッケトに流入する水噴流の速度
Vは、損失が無いものと
して、
図7 ぺルトン水車
Fig.7 Pelton hydro turbine0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
CQ_group_1 eff_group_1 CQ_group_2 eff_group_2 CQ_group_3 eff_group_3 CQ_group_4 eff_group_4
CQ
CQ theory
図8 トルク係数
CQと効率
理論と実験
Fig.8 Torque coefficientCQand efficiencyTheory vs. experiment
V p
2
(40)
図8は、 (34) 、(35)式から得られる、
0とした 場合の理論的なトルク係数
CQと効率
、
V 20m/sにおけ る4組の学生実験グループによる測定値を示している。静 止時のトルクに差異が認められるが、実験は概ね再現する。
グループ4、3、1、2の実験順に、若干の効率の変化が 認められるが、軸受け等の馴染みの可能性が考えられる。
実験におけるトルクは、軸受の摩擦、設計構造は
0とな っているが実際の流出方向は
0となり得ること、バッケ トが有限枚数であることなどの影響も含めた、流体損失の 分だけ理論値より小さくなる。また、ブレーキ負荷を0に しても軸受分のトルクは残るので、無負荷でも
u/v1が予想される。即ち、空回し状態でも、水車の速度は水噴 流のそれより遅くなると見込まれる。実験における効率の ピークは、トルクが左に偏った分だけ速度比
の小さい側 に来る。実験における速度比
の上限は、安全上回転速度 を制限しているためである。
同様の実験装置がウエッブ上に見受けられる
(4)。
4. まとめ運動量理論の流体機械への適用について考察し、オイラ ーの式の導出過程について再検討を行った。従来の教科書 に示されている解説に加えて、定常回転する検査体積にお ける取扱いを示した。運動量理論から得られるぺルトン水 車のトルクと効率を学生実験の結果と比較し、損失の影響 などについて考察した。運動量理論の機械への具体的な適 用例としてのぺルトン水車のトルク測定は、流体工学の学 生向け実験のテーマとして相応しい。
参考文献
(1) Warsi, Z.U.A., : Fluid Dynamics - Theoretical and Computational Approaches 2nd Ed., CRC Press pp.29-43(1999)
(2) 妹尾泰利 : 内部流れ学と流体機械, 養賢堂, pp.38-40 (1977) (3) 日本機械学会編 : 機械工学便覧, 応用編, B5 流体機械, pp.47-48
(1986)
(4) http://www.gunt.de/index.php?option=com_gunt&task=gunt.list.category
&product_id=889&lang=en