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(1)

x学研究室 平

(1969年11月6日受理)

      目

1.はじめに

∬. トポロジーの歴史的考察 皿.位 相 構 造

N.位相構造の意義

V. お わ り に

 1.はじめに

 数学教育の現代化として,いまや各国の数学教育の教育課程は大巾な改訂が進行中であ る.そのねらいの1つとして鱒内容の精選ということがあげられている・指導内容の精 選とは,現代的な立場から考えて余り重要でないと思われるものは省略したり・V たずら に灘とみられるものの一部を除去したりすることが主であろうが・それと同職こ・ばら ばらに扱われているものをある観点からみて,しくみや型式が同じであるということから 構造に着目して同一視して取り扱うような統一的な扱いも含まれると思われる。

 このような指導内容の精選ということは,小学校からの各学校段階においてあてはまる ことはいうまでもないが,ここでは,大学の一般教育さらには専門教育の初歩あたりの段 階までを含めて,位相構造が数学教育の立場からみていかなる意義をもっているかを考察 することにする。

 H. トポロジーの歴史的考察

位相構造をもとにしたトポロジー(TOPQIogy)は・現在も旺んな発展の途上にある。ひ とくちにトポロジー(位相数学)といっても極めて広汎な領域にわたる対象を問題にする        1) 2)

ので,はじめに,トポロジーについての歴史的な考察から進めることにする。

      i

 トポロジーという語は古くは幾何に関連した位相幾何学として用いられた。 代数学が 量を扱うのに対して,直接に幾何学的な位置(situs)を扱うAnalysisのもう1っの分科が 頓であろう。という意味のこeばは,すでにL・ibniz,・G・・W・F・から・Huyg・ns,C・への

(2)

手紙(1679)の中に見られた。その頃Euler・L・が ケーニヒスベルグ(KVnigsberg)

の橋の問題 を扱う際にもこのことばを引用し, つぎのようなのが恐らくLeibnizのい わゆる位置の幾何学の問題であろう と云って,有名なK6nigsbergの7つの橋の問題 について述べている。この橋渡りの問題に対してEulerはそれが不可能であることを証 明した(1736)が,これが位相幾何学についての最初の論文であったとみられている。

また,Eulerは空間における凸多面体に関する「オイラーの定理」とよばれるものも導い たが,この定理も位相幾何学の重要な成果となっている。

 なお,Gauss, C・ F・もこの「位置の幾何学」には関心をもっていた。1833年頃には,

Leibnizに予感され, Euler, Vandermondeのような二,三の幾何学者だけがいくらか の仕事をすることができた位置の幾何学(Geometrie Situs)については,その後一世紀 半もたっても,吾々には未だ殆んど何も得られていない などと云われていたが,一方で は,それより前に,彼の手紙(1806)の中で この未だ耕されない方面から,新しい分野 が開拓され,荘厳な数学の最も興味のある分野が起るであろう と云って将来の発展を予 言しており,彼自身,ある種の平面曲線の形や空間曲線の絡数の研究などを進めた。

 他方では,物理学者のKirchhoff, G. R.が電流の繋ぎ方の回路の考察から1次元複 体の研究に進み,またGaussに刺激されてこの幾何学の研究を進めたListing, J. B.も Vorstudien Zur Topologie(1847)を公けにしたが,いずれも未だこの幾何学を体系づけ

るところまでには至らなかった。

 現在よく用いられているTopOlogie(Topology)という用語のもとは上のListingに よるものであり,その語源はギリシャ語の 位置 を表わすトポス(τoπ09)と学問を意 味するロゴス(20γeg)との合成語として 位学。・とか 位置の学問。・とでもいうべきも のからきている。つまりは,位置(Lage)と形相(Gestalt)を扱う幾何学という意味か ら極めて適切な用語といえるであろう。しばらく前まではトポロジーのことを在置解 析(analysis situs)という語で用いていたこともある。

 また,1850年にGuthrie, F.&F.によって提案され, Cayley, A.などによってその 困難性が指摘されて有名になった地図の色分けに関する 四色問題 もある。その後,幾 何学を変換群の立場から定義し分類したKlein, F.のErlanger−Program(1893)によれ ば,トポロジーは空間の最も一般的な1対1両連続な変換のなす群の不変式論として考え

られるようになった。

 1つの空間Xの1対1両連続な変換をその空間Xの位相変換(topological transforma−

tion)というが,空間Xの中の2つの図形(点集合)の一方から他方へ, Xの位相変換に よって対応させることができるとき,これらの2つの図形はXにおいて同位(isotOP)で

(3)

あるという。この定義によれば,空間Xの位相幾何学は,Xの位相変換によって不変な図 形の性質,換言すれば,空間Xにおいて同位な図形に共通な性質を研究する学問であると いえる。このように定義された位相幾何学は,もっぱらユークリッド空間X内の図形の空 間Xに関する相対的位置について研究することになる。しかし,図形の研究では,ある図 形の空間に関する相対的な位置関係について研究するばかりでなく,その図形自身の(そ の図形が置かれている空間に無関係な)内的な構造,つまり形相も問題になる。

 そこで,これらの概念を明確にするために,図形F1から図形F2への1対1両連続な 写像を位相写像(topological mappi ng)とか同相写像(homeomorphism)というとき,

FlをR2へ位相写像できるときに,図形Flと図形F2は同相(homeomorph)であると いう。そして,同相な図形に共通な性質を研究することも位相幾何学の重要な対象にな

っている。

 以上,トポロジーの語源にまつわる歴史的な考察を簡単に行ってきたが,この後,トポ ロジーの考えは,位相幾何学という範囲にとどまらず,より広汎な領域において研究がな されるようになった。

 それは,一方では上の位相幾何学は,1881年に始められたPoircorζ, H.による一群の 業績がAnalysis situsにまとめられると,これが位相幾何学全般にわたって大きな影…響 を及ぼすようになり,それらの重要な成果はその後,組合せ位相幾何学(combinatorial topology)として体系づけられるようになった。このPoincar6の方法は,対象を多面体

として捉え,それを単体分割して得られる複体を用いて,そこにおける位相的な不変性を 求めるというやり方である。この組合せ位相幾何学も,それからさらに2つの方向に向け て研究され,1つは多面体の組合せ構造の線型写像による研究へ,他の1つは代数的方法 を活用した代数的位相幾何学(algebraic topology)へというように進められてきた。と くに,後者は位相幾何学の主流ともみなされるようになってきており,より細分化されて ホモロジー論(homology theory)やコホモロジー論(cohomology theory)やホモトピ ー論(homotopy theory)へと発展してきている。

 位相幾何学の上記の組合せ位相幾何学への発展ということに対して,他方では,集合論 的位相幾何学(set−theoretical topology)への発展があった。1870年代にCantor, G.は 一般集合論を創始したが,その中でユークリッド空間内の点集合を考察し,集積点,開集 合,閉集合などの一般的位相概念も導入した。これらの概念はさらに抽象化されて,20世 紀初頭にFr6chet, M.によって距離空間が, Hausdorff, F.らによって近傍空間などの位 相空間の概念が得られ,またWei1, A.により一様位相空間や位相群の構造まで広がって いった。このように,ユー一クリッド空間や距離空間あるいは位相空間の一般の点集合を颪

(4)

接に位相的研究の対象とする分野を集合論的位相幾何学という。したがって,ユークリッ ド空間論,距離空間論位相空間論などのいわゆる一般位相幾何学(general topology)は この集合論的位相幾何学に含まれる。

 なお,近年になって,微分の考えを用いた微分位相幾何学(differential topology)も 確立された。

 上記のように,トポロジーは,普通はしばしば位相幾何学とよばれているが,単なる幾 何学の分野ばかりでなくより広い 位相数学 として,多くの数学の分野(とくに解析学

の分野)と関連し,ますます重要なものとなってきている。

 以下では,集合論的位相数学のうち,距離空間を主にして述べることにする。

 皿・位 相 構 造

 1. 準 備

 集合の位相構造について述べるに当って,ここで若干の概念や用語・記号を準備してお

く。

 集合に関して,N, Z, Q, R, R+, Cはそれぞれ自然数の集合,整数の集合,有理数の 集合,実数の集合,正の実数の集合,複素数の集合を表わすものとする。

 集合Xの巾集合を撃(X)で表わす。

 2つの集合XとYの直積をX×Yで表わす。

X×y−{(x,.y)lx∈X,.y∈y}である。これはn個の集合X1, X2,…, Xnに対してもX1

×X2×…×Xn ={(κ1,κ2,…, Xn)Ix1∈X1, x2∈X2,…,x,、∈Xn}として定義され,とくに

X1=・X2=…=Xn=XならX =Xl×X2×…×Xnと表わす。

 関係については,たとえば,集合Xの要素xと集合yの要素.yの間の2項関係を一般的 な形ではxRyと表わす。2項関係については重要なものとして同値関係と順序関係があ る。Xの要素の間の2項関係κ彫yはつぎの条件を満足するとき同値関係(equivalence relation)という:

 (Ei) κ叙劣       (反射律)

 (Eii)x・¥yならばy・・x      (対称律)

 (Eili)κ・・uy, y・u 2ならばx…z       (推移律)

この(Ei),(Eii),(Eiii)を同値律(equivaIence law)といい,同値関係にある2つの要 素は互いに同値であるという。上の同値律は集合の要素の類別(dassification)の基本に

なる。

 Xの要素の間の2項関係x≦yはつぎの条件を満足するとき1順序関係(order relation)

(5)

という:

 (OD κ≦κ       (反射律)

 (Oii)劣≦ツ, y≦κならばx=y       (反対称律)

 (Oiii)κ≦y, y≦9ならばκ≦2       (推移律)

順序関係の与えられた集合を順序集合(ordered set)という。

 また,κ≦ッでκ々yのときx<Yとかくことにすれば,順序集合Xの任意の2要素x,

.yに対して,炉◇かX・yかy<Xのうちいずれか1つだけがつねに成り立つとき, Xは全 順序集合であるという。数の集合では,上の≦やくを≦やくと書く。N,Z,Q,Rを順序 集合とみれば,いずれも全順序集合になっている。

 Xを全順序集合とするとき,すべてのx∈Xに対してκ≦σ(a≦_(x)となるa∈≡XをXの 最大要素(最小要素)という。また,MをXの部分集合とするとき,任意のX∈Mに対し て,つねにκ≦α(α≦X)となっているようなa∈Xがあれば,そのaをMの上界(下界)

という。Mに少なくとも1つの上界(下界)があるとき, Mは上に(下に)有界であると いい,上にも下にも有界なとき,単に有界であるという。Mに最大要素(最小要素)があ れば,その要素は必ずMの上界(下界)になるが,逆にMが有界であっても必ずしもMに 最大要素や最小要素があるとは限らない。なお,Mの上界(下界)の集合に最小要素(最 大要素)があれば,それをMの上限(下限)とか最小上界(最大下界)といい,SttPM

(infM)で表わす。

 集合XとYがあるとき(X−・yでもよい),各x∈…Xに対してただ1つのyEYを定める 対応fを,XからYへの写像(mapping)といいf,X−yとかxtyなどと書く.写像

fは,一般には,Xの要素とyの部分集合の要素を対応させるので,その意味では,∫を xからYの中への(into)写像ということもある。もし, fがxの要素からYの要素全体に

(onto)対応させる,つまりXからY全体への写像であるとき, fを全射(surjection)と いい,fによってXの要素とyの要素が1対1に対応するとき, fを単射(injection)と いう。fが全射で単射なとき, fは全単射(bijection)であるという。とくに,ノがXから Yへの全単射であるとき,yからxへの写像f−1が定義できるが,このf−1をfの逆写像

(inverse mapPing)という。

 以上を準備として,つぎに位相構造について述べる。

 2.位相構造

       e  位相構造とは,集合の要素の問に何らかの意味で 近さ の概念を与えるしくみであ

る。

 たとえば,普通の解析学でよく扱われるように,実数の範囲で定義された関数ア(X)が,

(6)

X=aで連続であるというのは,変数Xがaに近づくとき,関数f(X)の値はいくらでも値 f(a)に近くなるということであった。このように,実数Rの範囲で連続ということ は,2つの実数について 近い とか 遠いNNということがある意味から決められている わけである。実数の例では,2っの実数の近さはそれらの2実数の差の絶対値で与えられ

ている。

 一般に,ある集合の要素について,そこにおける2つの要素が 近い とか 遠い ということが何らかの意味で定められているとき,その集合に位相構造(topological struCture)とか位相(topology)が入っているあるいはその集合は位相づけられている

(topologize)といい。位相構造が与えられた集合を位相空間(topo!ogical space)という。

集合について扱うとき,集合に関する概念を視覚に訴えて幾何学的な用語や記号,図式を 用いて表現すると便利なことが多いので,しばしば,集合のことを空間(space),集合の 要素のことを空間の点(point)ということがある。このような表現を最初に用いたのは距 離空間から抽象空間へと論を進めたFr6chetである。この位相の概念は,数列や点列の収 束とか関数や写像の連続などに関した連続性を究明するときに極めて重要な概念である。

 ある集合を位相づけるにも種々の方法がある。集合を位相づける方法としては,つぎの ようなものがあげられる:

 (a)開集合系による方法,(b)近傍系による方法,(¢)開核作用素による方法,(d)閉集合系に  よる方法,⑥閉包作用素による方法,(f)有向点列による方法,(9)フィルターによる方法  位相構造というのは,上の(a)〜(9)のうちのいずれかの方法によって,ある集合に定めら れる数学的構造の全体を意味するものとも考えられる。近年は,Bourbaki流に開集合系 による 方法で位相構造を定義して進めるのが比較的多くなっているように思われる。

 1つの集合に,上記のいずれかの方法によって位相構造を入れるにしても,そこで与え る位相構造が違っていれば,同じ集合でも位相空間としては違ったものとみなされる。

 5.距離空間

 1) 距離空間の位相構造

 一般の位相空間について述べる前に,位相空間の特殊な場合としての距離空間を(主に ユークリッド空間を想い浮べながら)1つのモデルとして述べることから始める。

 (1)距離

 まず,直線上や平面上で,遠いとか近いということは,そこにある2点問の隔たりの大 小によって考えられている。つまり,2点間の隔たりがあれば,それによって2点の間の 遠近がいえることになる。

 例1(1)地面から眼の位置までの高さは156cmあった。

(7)

 ② 直方体の面の上で,手前の面上の一点から向い合った面上のある点までの距離は  37.40nあった。

 (3)東京(駅)から水戸(駅)までの距離は121,1haである。

 この例1で,高さとか距離といったが,これらはいずれも2点問の隔たりを表わすこと ばで,2点間の隔たりを表わすには,このように直線状のものもあれば,折れ線状のもの もあり,また曲線状のものもある(通常は折れたり曲ったりしたものは 道のり などと いう)。 しかし,いずれにしても距離を表わすには,2点間の最短距離という考えが含ま れており,その最短距離は適当に実数の大小におきかえられて,その距離が遠いか近いか が判定されることになる。例1の3つの場合からも,よく考察すれば,それらから,抽象 概念としての下記の距離概念を獲得する手がかりが得られる。

 距離 集合Xの任意の要素x,.yに対する2変数の実数値関数ρ(x,.y),いいかえれば 写像ρ:X×X→Rがつぎの条件:

 (窃) ρ(X,.y)≧O, ρ(X,.y)=O〈⇒X=y    (非負値性)

 (Dii) ρ(x,.y)=ρ(.y, x)       (対称性)

 (Diii)ρ(x, y)+ρ(.y,の≧ρ(x, z)      (三角不等式)

を満足するとき,このρ(x,.3,)をXの上の距離(metric)とか距離関数という。また,こ の(Di),(Dii),(Diii)を距離の公理という。この距離の公理は,つぎの(Dii),(Dii!)

でもおきかえられる。

 (Di ) ρ(x,.y)=Oe⇒x =・y

 (Diii) ρ(x,y)+ρ(夕, z)≧ρ(2, x)

 下記の例2の(1)〜(7)はいずれも,そこに示されている空間の上の距離になる:

 例2 (1)n次元空間Rn,点x=(κ1,κ2,…,Xn), y−(Y1,Y2,…,Yn)

      1

 P≧1に対し,ρp(n)(X,y)={2]n瞬一.yilpa}万        i=工

  ρ=1のとき ρ1(n)(X,y)=Σ望IXi 一.yii        i=1

      寿

  P=2のとき ρ2(n)(x,y)={Σコ%(ti 一〉 i)2}−

      i=1   P・=・・のときρご勧)「総隔夕・1

 (2)無限次元空間R°°,点x−(κ1,x2,…, x。,…), y−(Y1,Y2,…,ツ。,…),ただし任意の

       oo

 X==(Xl,二じ2,°°°,X%,° )に対して,Σ 瞬IP<○○となっているものとする。

       i=1

  P≧1に対し, 、・E…(x,y)一={Σ・・ix、 一,y、1・} }−

       i=

(8)

P・−1のときpl°°)(x,y)=={z] :Cl., 1 x・ 一.y, 1 }

P−2のときρ1°°)(・,・y)一{環、(x・一夕評

P・一。。のときρ8° )α,.y)−sup

       I Xi 一.yi 1       1≦t〈。。

(3)関数空間C・(C・は1=[O, 1]上で定義された連続関数の集合),点x=x(t),y=y(t)

       1P≧1に対し・ρ・(x・.y)r={∫11x(t)一ア僻岬 P−1のときρ・(切一∫ノ畑一ツω14

  ρ=○○のときρ。。(X,y)=suPIX(の一y(t)l       I

 ρ・(x,y)は2つの関数κ(の,ツ(t)のグラフの間の面積になり,ρ。。(x,y)はx( t)と.y(の  の関数値の差の最大な値になる。

 (4)複素数の集合C,点z−x+あ,,〆−xノ+iYi,ρ(2,2ノ)=に一〆1

 :複素数平面(ガウス平面)上では,このρ(2,〆)は上の(1)のρ2(2)と同様になる。

 (5)任意の集合X,点x,y

    ρ(x・y)−lll獄窺套1

 (6)集合R+,点x,y(正の実数)

   胤ρR+(x,.y)−r1/x−1/yl

   集合N,点x,y(自然数)

    ρN(x,y)一月/x一し倒

 (7)R2上の円板の集合D,点X, y(円板),任意のX∈Dに対し,μ(X)を円板Xの測度  (面積)とする

    ρ(x,/y)== Pt(x△y)

  ここで,X△yはXとyの対称差:X△.y=(xUY) 一一(X∩y)である。

 (2)距離空間の位相構造

 i)距離空間 集合Xの任意の2点x,.yに対して,上の距離の公理を満足する距離 ρ(x,.y)が与えられたとき, Xとその上の距離ρを合せて考えた概念(X,ρ)を距離空間

(metric space)という。そして,このとき, Xを距離空間(X, to)の台という。しかし,

距離関数ρの意味がはっきりしている場合には,距離空間(X,ρ)のことを簡単に距離空 間Xとかくこともある。台集合が同じでも,そこに与えられた距離関数が違えば,距離空 間としては違ったものになる。例えば上の例2の(1)において,同じ集合Rnでも,距離関 数をρ1(n),ρ零(n),ρ勢)などのどれで与えるかによって距離空間は違ってしまう。

(9)

 距離関数が具体的にどんな形で与えられるにせよ,しかも距離が2点間の隔たりという 直観的なイメージとは異なっているとしても,さきの距離の公理を満足している限りそれ

を距離関数とよんでよい。したがって,いたずらに直観的な把握による論の進め方は慎ま なければならない。たとえば,R2上の2点κ, yに対しtO(x, y)=δ>0のとき,ρ(κ, 2)

=ρ(2,Y)=δ/2となる点2をxと.yの中点とよぶとしよう。このとき・ρ(x・.y)として 例2(1)のρ野)(x,y)をとれば,この9はユークリッド空間の普通の中点に当りただ1つだ けあるが,ρ(x,y)としてρ望)(x,y)をとり,仮りにx・=(0・O)・y==(1・1)としてみると・

p 堰j(x,.y)ニ2,で,このとき中点2はA={zl2=(ち1−t),0≦#S1}上の点になり,した がって中点zは無限にあることになる。また,もしρ(x,y)として例2(5)の距離をとれ ば,相異なる2点x,yをどうとっても,それらの中点は存在しないことになる。このよう に距離の与え方により,2点の中点がただ1つの場合もあり,無限にある場合もあり,1 つもない場合もあるというようなことも起こり得る。

 さて,上の距離空間を考えることによって,種々の距離をもつ空間を包括したより広い 範囲について考えを進めることができる。この距離空間の構造は距離の公理がそれを与え

ている。

 ii)球,ε一近傍 距離空間の概念を最初に導入したのはFr6chet(1906)である。距離を 用いると点列の収束や関数の連続性も定義できる。まず,距離空間Xにおいて,距離ρを 用いると,Xの任意の点aを中心とした半径r(>O)のつぎのような球が定義できる:

 閉球:B(a,r)={xlx∈x,ρ(a,x)≦r}

 開球:u(a,r)={xlx∈x,ρ(a,x)<Pt}

 球面:s(a,r)=倒κ∈x,ρ(a,x)=r}

 上の閉球B(a,r)はまた球体ともいう。

 Xの部分集合Mに対して,δ(.M−)−s妙{ρ(x,.y)lx∈M,y∈M}をMの直径といい,

δ(M)<○○のときMは有界であるという。

 また,a∈Xとε>Oに対して,開球U(a,ε)=−B(a,ε)−S(σ,ε)=〈xjx∈X,ρ(a,x)<ε}

をaのε一近傍ともいう。ε一一近傍については,つぎが成り立つ:

 (Ui)a∈…Xとε>0に対してa∈U(σ,ε)

 (Uii)a∈Xとε〉♂>oに対してU(σ,εノ)⊂U(a,ε)

 (U7tii)a∈Xとε>oに対する任意のx∈U(a,ε)と適当なδ>oに対して

  o(a,δ)⊂o(a,ε)

 (σiv)a, b∈X(aiib)と適当なε,μ>0に対てU(σ,ε)∩U(a,μ)=φ

 iii) 内部(開核),外部,境界,閉包 MをXの部分集合とする。点a∈…Xは,適当な

(10)

ε>0に対してU(a,ε)⊂Mとなれるとき,Mの内点であるといい, Mのすべての内点の 集合をMの内部(interior)とか開核(open kernel)といいMiとかM°で表わす。また,

Mの補集合Mcの内点をMの外点といい, Mのすべての外点の集合をMの外部(exterior)

といい,Meで表わす。つぎにMの内点でも外点でもない点をMの境界点といい, Mのす べての境界点の集合をMの境界(boundary, frontior)といいMfで表わす。さらに,

Mt U MfをMの閉包(closure)とか触集合(adherence)といいMaまたはπで表わし,

Maの点をMの触点という。

 上の定義から,任意のM(⊂X)に対して

  Mi⊂M⊂Ma, x=Mi U Mf U Me(直和), Mae=M・i, Ma=M・ ic, Mic=M・a,

  Mi=Mcae

などがわかる。

 なお,点a∈Mの任意のε一近傍U(a,ε)がMの点を無限に多く含むならば,aをMの集 積点という。Mの集積点は, Mに属することもありMに属しないこともある。

 iv) 開集合,閉集合xの部分集合Mが, M・−M°となっているとき, Mは開集合

(open s et)であるといい, M・・MaとなるときMは閉集合(closed set)であるという。

 上で定義した内部(開核),外部,境界,閉包,開集合,閉集合などの概念は,遠いとか 近いとか連続性などを議論するときの基礎になるものであり,これらはユークリッド空間 では勿論のこと,距離が定義されている空間ならいつでもいえる位相的性質である。

 距離空間における開集合と閉集合とは,つぎの意味で互いに 双対的 な概念である。

 定理1距離空間Xの開集合の補集合は閉集合である。また,閉集合の補集合は開集合

である。

 しかし,この定理から,開集合でないものは閉集合で,閉集合でないものは開集合であ るなどと誤解してはならない。開集合でも閉集合でもない部分集合があるからである。

 ここで,Xの開集合全体の集合,つまりXの開集合系をOで表わすと,この・Dについて はつぎが成り立つ:

 定理2

  (Oi) φ∈◎, X∈O

  (Oii)01,02,…,On∈£)ならば∩n Oi=01∩02∩…∩On∈◎

      i=1

  (Oiii)Oの任意の集合族をOa(2∈A)とすればU Oλ∈O       λ∈A

 いま,Xの閉集合系を貌とすれば,閉集合については,上の定理2と双対なつぎが成り 立つ;

(11)

定理5

 (Ai) x∈馴,φ∈襲

 (Aii)Al,A2,…,∠1η∈襲ならばU㌍・A,=AIUA2U…UAn∈瓢   (Aiii)鱗の任意の集合族をAz(R∈A)とすれば∩aEAAz∈貌

 例5aをRnの定点とすれば, U(a, 1/i)(i∈N)は開集合だが,∩鉾、σ(a,1/の一{a}

は開集合ではない。

 v)開核,閉包の特徴づけ 上では,xの部分集合Mに対して,その開核,閉包を定 義し,それらの概念を用いてXの開集合や閉集合を定義した。

 これとは逆に,また開集合,閉集合の概念を用いれば開核や閉包を特徴づけることがで きる。つぎの定理がそれを示している。

 定理4Xの任意の部分集合をMとするとき,開核M°はMに含まれる最大の開集合で ある。また閉包MはMを含む最小の閉集合である。

 (5)点列の収束

 距離空間における位相の概念は,つぎの点列の収束の概念からも導くことができる。

 (X,ρ)を距離空間とする。Xの点列(κの一{κ1,κ2,…,κn,…}に対し,点aEXが存在し てlim p(Xn, a)==Oとなるとき,つまり,任意のε>Oに対して,適当なn。∈Nを選べば,

 n− oo

n>n。なるすべてのn∈Nに対してρ(x。,a)〈εとなるとき,この点列(κのはaに収束す るといい,lim X。 ・= aとかXn→aと書く。そして,このときのaを点列(Xn)の極限点とか      n→OQ

極限という。

 Xにおいて,点列(Xn)が収束する場合には,その極限は一意的に定まる。また, Xの点 列(Xn)が点aに収束すれば,その任意の部分点列もaに収束する。

 点列の収束と,(X,ρ)との位相の関係については,つぎの定理が基本的である。

 定理5M(≒φ)を(X,ρ)の部分集合とするとき, Xの点aがMの触点であるための必 要十分条件は,点aがMの互いに異なる点からなる点列の極限となることである。

 このことから,任意のMの閉包mはMの点列で決定されることになり,したがって点 列の収束という概念は距離空間の位相を決定することになる。

 (4)連続写像

 i)連続写像 (x,ρ)と(xノ,〆)を距離空間とする。

 定理6fをXからXノへの写像とし, aをXの点とするとき,つぎの3つの条件は互い に同等である:

 (i)任意のε>Oに対して,適当なδ>Oをえらべば,ρ(a,X)<δのとき,p  (f(X),f(の)

(12)

  〈εである。

 (ii)xの点列(x・n)がXn−>aならば, xノの点列(f(Xn))もf(κn)→f(のである。

 (iii)任意のε>oに対して,適当なδ>oをえらべば, f(V(a,δ))〔Uノ(f(a),ε)また   はU(a,δ)⊂f−i(σノ(f(a),の)である。

 この定理の条件(i),(iD,(iii)のいずれか1つが成り立つとき, fはxの点aで連続で あるという。fがXの各点で連続であるとき, fはXで連続であるという。この定理6

の(i)は距離により,(ii)は点列の収束により,(iii)はε一・近傍によって,いずれも写像の 連続が定義できることを示している。

 ii)同相写像 距離空間(x,ρ),(xノ,〆)で, f:x→Xiが全単射で, fとf 1が連続な とき,fはXからXノへの同相写像であるという。f:X→Xノが同相写像ならf i:Xノ→X も同相写像である。XからX への同相写像が少なくとも1つ存在するとき, XとX は同 相であるという。この同相関係は同値律を満足する。また,Xにおける位相的概念は,ノ によってXに対応する他方のXノの上でもそのまま成り立つ。同相写像によって不変な集 合の性質を位相的性質という。この意味から同相な2つの空間は同等な位相構造をもって いることになる。図形を点集合として考えるとき,同相写像は,直観的には,伸縮だけに

よる変形にあたるといえる。

 2) 距離空間の一様位相的性質

 距離空間は,位相空間であるが,距離空間で扱われる性質の全部が位相的性質になると はかぎらない。つぎに述べる一様連続性や完備性などは解析学で重要な概念であるが,こ れらは位相的性質ではなく,いわゆる一様位相的性質といわれるものである。

 (1) 写像の一様連続性

 解析学で「実数値関数f(X)は閉区間で連続なら,一様連続である」というが,このこ とは,距離空間においては,各点の近傍の大きさは数値をもとにして比較できるからいえ ることで,一般の位相空間では,異なる2点における近傍を一般には比較できないので,

上のようなことは必ずしもいえない。このことの分析から 一様位相 という新しい概念 の研究がなされたわけである。

 距離空間(X,ρ)から(Xノ,〆)への写像fは,つぎが成り立つとき,Xで一様連続(uni−

formly continuous)であるという:

  任意のε>0に対し,適当なδ>0をえらべば,ρ(x,.y)<δなる任意のx,.y∈Xに対

 してρノ(ノ(X),f(.y))〈εとなる。

 ここで,δはεだけに依存してXや.yには依存しないことに注目すべきである。

 写像は一様連続ならもちろん連続であるが,この逆は必ずしもいえないg

(13)

(2)完備性

距離空間(X,ρ)の点列(x。)は,つぎが成り立つとき,Cauchy点列であるという:

  任意のε>0に対して,適当なn。∈Nをえらべば,m,n>n・なるすべてのm・nに対

 してρ(Xm, Xn)<εとなる。

 このことは,直観的には,点列の十分先の方はいくらでも互いに近くなることを意味し ている。いうまでもなく,収束する点列はCauchy点列になるが,しかし,この逆は必ず

しもいえない。

 例4(1)X・一]0,1Eで,(Xn)一{K,%,…}はCauchy点列だが, o q≡Xであるから・

この点列(Xn)はXでは収束しない。

 (2)無理数αに収束する有理点列(rn)はQではCauchy点列であるが・αEEQであるか ら,この点列(rn)はQでは収束しない。

 距離空間Xにおいて,Xの任意のCauchy点列が収束するとき, Xは完備(complete)

であるという。完備な距離空間の部分集合に対しては定理5からつぎが成り立つことがわ

かる。

 定理7 完備な距離空間Xの部分距離空間Mが完備であるための必要十分条件はMが Xの閉集合であることである。

 なお,上の例4の(2)で,距離空間として,有理数の集合Qは完備でなかったが,実数の 集合Rは完備である。すなわち

 定理8.距離空間Rは完備である。

 系ユー一クリッド空間R も完備である。

 この定理8の意味することが,通常,実数の連続性といわれているが,これは正しくは 実数の完備性というべきであろう。連続性というとき,関数や写像の連続性という場合と 実数の連続性という場合ではその意味が異なっているからである。

 解析学などで,完備な距離空間をもとにして理論を進めると便利なことが多い。そのた めに,距離空間Xが完備でないときには,そのXを完備な距離空間の中に埋蔵して考える ことがあるが,実際にそのような完備な距離空間を作ることができる。任意の距離空間X を稠密な部分空間として含みしかもJr=X*となるような完備な距離空間X*をXの完備 化(completion)という,するとつぎがいえる。

 定理9任意の距離空間Xはつねに完備化X*をもつ。

 上で,Qは完備でないが, Rは完備であると述べたが,このRがQの完備化になってい るわけである。これが,有理数の基本列(Cauchy数列)によって実数を構成したCantorの 実数論である。もちろん,実数論となれば,単に位相的な完備化ばかりでなく,大小の順序

(14)

構造や演算についての代数構造なども併せて考えなければならない。Cantorと同様に有 理数をもとにして実数を構成したDedekind, J. W. R.の切断による方法, Weierstrass,

K・の単調列による方法,Bachmann, P.の区間縮小法による方法などはいずれもRの完 備性と関連する。

 なお,完備性は位相的性質でないことは,つぎの例が示している。

 例5距離空間Rとコ0,1[は同相であるが,Rは完備であるのに対して]0,1[は完備

ではない。

 (5)全有界性

 距離空間(X,ρ)の部分集合系Uは,UU−Xとなるとき, Xの被覆(oovering)である という。Xの被覆筑のすべての要素Uに対し,適当なε>Oをえらべばδ(の〈εとなると き,この11をXのε一被覆という。

 任意のε>0に対して,つねに有限個の要素からなるXのε一被覆(有限ε一被覆)が存在 するとき,Xは全有界(tota!1y bounded)であるという。距離空間は全有界なら有界であ ることは明らかであるが,この逆は必ずしも成り立たない。

 例6空間12における単位球は,有界であるが,全有界ではない。

 しかし,ユークリッド空間R ではつぎがいえる。

 定理10 ユークリッド空間(Rn,ρ、〈n))の部分集合では,全有界性と有界性は一・致す

る。

 距離空間の全有界性も,一様位相的性質であるが,位相的性質ではない。これは前例5 におけるRと]O,1[は同相であるが,Rは全有界でないのに]0,1[は全有界であることか

らいえる。

 この全有界の概念はまた,点列の概念からもつぎのように得られる。

 定理11距離空間Xが全有界であるための必要十分条件は,Xの任意の点列がCauchy 点列を部分列としてふくむことである,

 5)距離空間のコンパクト性

 ここで,距離空間における位相的性質として重要なコンパクトの概念を考える。

 距離空間(X,ρ)は,Xの任意の点列が収束する部分点列をふくむとき,点列コンパクト

(sequentially compact)であるという。この点列コンパクトの概念はFr6chetによって 初めて導入された

 距離空間では,点列コンパクトの概念はつぎの性質と同等である:

 距離空間Xの有限集合,またはXの任意の無限部分集合はXの中に少なくとも1つの集

積点をもつ,

(15)

 また,距離空間Xの任意の開被覆がつねに有限開被覆をふくむとき,Xはコンパクト

(compact)であるという。 Xのコンパクト性についてはつぎが成り立つ。

 定理12距離空間Xではつぎの3つの条件は互いに同等である:

 (i) Xはコンパクトである。

 (ii) xは点列コンパクトである。

 (iii)xは完備かつ全有界である。

 このことから,距離空間に対しては,コンパクトの概念と点列コンパクトの概念は同等 であり,しかもコンパクトの概念は完備性と全有界性によって,特徴づけられることにな る。この後者のことは,コンパクト性という位相的性質が,(一様位相的性質ではあるが)

位相的性質ではない完備性と全有界性によって特徴づけられるということで重要である。

 上の定理12から,ユークリッド空間Rnに対してはつぎが成り立つことがわかる。

 系1Rnの部分距離空間Mがコンパクトであるための必要十分条件は, MがR の有界 閉集合であることである。

 系2(Bolzano−Weierstrass)Rnの有界な無限集合は少なくとも1つの集積点をも

つo

 系5(Heine−Bore1)Rnの有界閉集合Mの任意の開被覆からMの有限開被覆をえ

らび出すことができる。

 なお,コンパクトな距離空間における連続写像についてはつぎが成り立つ。

 定理15 コンパクトな距離空間Xから任意の距離空間Xノへの連続写像は一様連続で

ある。

 以上は,距離空間の位相構造について述べた。

 4.位相空間

 集合Xの要累の間に何らかの意味で 近さ を与えるのが位相構造であるといい,前節 では,集合に距離を与えた距離空間で,ε一近傍から開集合を定義して,位相構造を考察す るという方向で進んできた。ここでは,前節とは逆の順序で,集合Xの開集合系をもとに して,位相構造を調べていく。

 1)位相構造

 空でない集合Xの部分集合族撃(X)の部分集合Oがつぎの条件を満足するとき,◎はX に位相構造(位相)を定めるという:

 (Oi) φ∈s⊃, x∈≡◎

 (蔓⊃ii) Ol,02,…, On∈◎ならば∩n Oi∈≡蔓⊃

       6=1

(Diii)O・∈O(2∈A)ならばU・∈AO、EO

(16)

 集合Xにある位相構造が与えられたとき,(x,ll))を位相空間(topOlogical space)とい う。位相空間を以下では簡単にXとかくこともある。同じ集合にも,それに与える位相が 異なれば位相空間としては違ったものとみなす。位相空間(x,o)において, Xの要素 を(x,o)の点, Xの部分集合を(X, O)の部分集合という。

 例7任意の集合Xに対して,いつもつぎの2つの両極端な位相Oノ,oeを与えること ができる:

 (i)£ として{φ,x}をとるとき,◎ノを密着位相といい,(x, Oつを密着空間という。

 (ii)更) として撃(x)をとるとき, D を離散位相といい,(x, O )を離散空間という。

 例8 ユークリッド空間Rnで,開集合全体の集合OはRnの1つの位相になる。

 位相空間(x,s))の位相Oをもとにすると,(X, O)における開集合,開核,閉集合,閉 包,境界などの位相的概念を定義することができる。つまり,(x, s))のOに属するXの 部分集合を(x,D)の開集合という。 Mを(X,O)の任意の部分集合とするとき, Mに含 まれる開集合の和集合をMの開核(内部)といい,M°とかMiで表わす。(X,◎)にお ける開集合の補集合を(x,o)における閉集合という。Aが閉集合であることはAc∈D と同じことである。(X, S))の部分集合Mに対して,Mを含むような閉集合全体の共通部 分をMの閉包といいMで表わす。閉集合については,上の開集合についての性質と双対な つぎが成り立つ。

 定理14位相空間(x,o)の閉集合系を窺とすれば,1}1はつぎの性質をもつ:

 (Ql i)x∈QI,φ∈凱

 (窺ii) A1,A2,…,A,a∈貌ならばUnA,∈鱗       i.1  (1!tiii) Aa∈窺(R∈A)ならば∩aEAA 2∈駁

 (x,o)の部分集合Mを決めれば,開核M°や閉包拡が定まるので, MにM°またはπ を対応させる撃(X)から撃(X)への写像をそれぞれ(X,O)における開核作用素または閉 包作用素という。

 これらについては,互に双対なつぎの定理が成り立つ。

 定理15(X,£))の開核作用素はつぎの性質をもつ:

 (:」ri)   Xo=X

 (fii)跡∈撃(X)に対して, M°⊂M

 (Iiii)M,N∈撃(X)に対して,(M∩N)°=M°∩N°

(lli v)M∈撃(X)に対して, M・・=M・

 定理15ノ(X,◎)の閉包作用素はつぎの性質をもつ;

 (Ri)φ一φ

(17)

 (Fii)M∈!iB(x)に対して, M⊃M

 (Fiii)M, N∈撃(x)に対して, MUN=MUN  (Fiv)M∈畢(X)に対して, M−・M

 Mを(X,D)の部分集合とする。 Mの内部(開核)M°に属する点をMの内点といい,閉 包痂に属する点をMの触点という。Mの補集合の内部をMの外部といいMeで表わし,

Meに属する点をMの外点という。また1π一〃をMの境界といいMfで表わし, Mfに 属する点をMの境界点という。Xの点aがM−{a}の触点であるとき, aをMの集積点

という。

 位相空間(x,s⊃)に対し, Xの点Xを内点として含むようなXの部分集合をXの近傍と いいV(X)で表わす。Xを含む任意の開集合はXの近傍であるが,とくにXを含む開集合 をXの開近傍という。

 点Xの近傍全体の集合をXの近傍系といいU(X)で表わすと,このU(X)についても(こ こでは距離はないが)さきのε一近傍による性質と似た性質が成り立つ。

 2)連続写像

 距離空間においては,写像の連続1生は距離の概念をもとにして定義されたが,位相空間

(x,o)では開集合の概念をもとにして写像の連続性が定義できる。

 (x,s⊃),(Xノ, S)i)を位相空間とする。

 定理16写像f:X→Xノに対して,つぎの3つの条件は互いに同値である:

 (i)X・の任意の開集合0ノに対して,∫−1(0ノ)はXの開集合である。

 (ii)Xiの任意の閉集合Aノに対して, f−i(Aノ)はxの閉集合である。

 (iii)任意の点x∈Xに対して, f(x)一/とすれば,〆の任意の近傍V (〆)に対し   てf}1(Vノ(〆))はXの近傍になる。

 この定理のいずれか1つの条件が成り立つとき,f:X→Xノは連続写像であるという。

 写像f:x→Xノが全単射で,ノとf−1が連続なとき,fを同相写像という。この同相写像 についても,距離空間で述べたと同様な性質がいえる。

 5)連結性

 位相空間(X,D)において, Xが空でない2つの開集合(または閉集合)の直和に分解で きないとき,(X,O)は連結(conn㏄ted)であるという。(X, O)が連結であることは, X の開かつ閉な部分集合はφとXのほかにはないことと同じである。

 (X,O)の部分集合Mは,部分空間としてMが連結なとき, Xの連結部分集合という。

連結な位相空間に対してはつぎが成り立つ。

 定理17 Xが連結位相空間,Xノが位相空間であるとき,!:X→Xノが連続写像ならば,

(18)

f(X)はX の連結な部分空間である。

 実数の集合Rに対しては,Rの完備性からつぎがいえる。

 定理18 位相空間Rは連結である。

 系1位相空間Rの任意の開区間(閉区間)は連結である。

 系2位相空間Rnは連結である。

 系5位相空間Rの連結部分集合は,RかRの開区間(または閉区間)である。

 系4 (中間値の定理)f:X→Rを連結な位相空間Xの上で定義された実数値連続関

i数とするとき,Xの2点κ1,κ2におけるfの値f(Xl)一α, f(κ2)=β(α<β)とすれば,

α〈γ<βであるような任意の実数γに対して,f(x)一γとなる点x∈Xが存在する。

 ここでRの単位閉区間を1=[0,1]とおくとき,連続写像f:1→X(位相空間)の像ノ(1)

をXにおける弧(arc)といい, f(O)・・Xo, f(D−Xlのとき,弧f(bはXoとκ1を結ぶと いう。位相空間Xの任意の2点を結ぶ弧が存在するとき,Xは弧状連結(arcwise cbnn−

ected)であるという。位相空間は弧状連結ならば連結であるが,この逆は必ずしも成り 立たない。しかし,Rnではつぎがいえる。

 定理19位相空間Rnの開集合を0(≒φ)とすれば,0が弧状連結なことと連結なこと

は同等である。

 4)コンパクト性

 位相空間(X,S⊃)の部分集合系Uは, UU−=Xのとき, Xの被覆であるという。Uの各 要素がXの開集合のときUをXの開被覆といい,Uが有限個の要素からなときUを有限

被覆という。

 位相空間(x,ξ))は,Xの任意の開被覆が有限被覆を含むとき,コンパクトであるとい うが,このコンパクトの概念は解析学の 平均値の定理 関数の一様連続性NNなどに も関連する大切なものである。コンパクト性の重要さはその有限性にあるわけであるが,

Xの部分集合系㌶の任意の有限個の要素が必ず空でない共通部分をもっているとき,ceは 有限交叉性(finite intersection property)をもつという。

 定理20位相空間(x,D)がコンパクトなための必要十分条件は,つぎの(i),(ii)の条 件のいずれかが成り立つことである:

 (i)Xにおける有限交叉性をもつ任意の閉集合系eeに対して,∩ce=φである。

 (ii)Xにおける有限交叉性をもつ任意の部分集合系㌶に対して,∩x∈㌶又=φである。

 コンパクト性については,つぎのいくつかの定理がいえる。

 定理21位相空間Xの部分集合Mがコンパクトであるための必要十分条件は,Mの任 意の開被覆が有限被覆をもつことである。

(19)

定理22位相空間Xの部分集合M,(i−1,2,…,のがコンパクトならば,U獅1鴎もコ ンパクトである。

定理25位相空間Xがコンパクトならば,Xのすべての閉集合もコンパクトである。

 コシパクトな位相空間の連続像については下のような重要な定理がある。

定理24 コンパクトな位相空間Xから位相空間X への連続写像をfとすれば,f(X)

もコンパクトである。

 この定理により,ユークリッド空間R のコンパクトな部分集合についてはつぎに述べ るような定理が得られる。

 定理25(Heine−Borel) ユークリッド空間Rnの部分集合Mがコンパクトであるため の必要十分条件は,MがRnの有界閉集合であることである。

 したがって,ユークリッド空間では,部分集合が,コンパクトなことと有界閉集合なこ とは同じであることがわかるから,「Rでは任意の閉区間はコンパクトである」ことにな り,この有界閉集合に関して,解析学ではいくつかの大切な定理が成り立つことになる。

たとえば「閉区間で連続な関数は一様連続である」もその1つである。さらにつぎの定理 がいえる。

 系1位相空間Rのコンパクトな部分集合Mに対しては,つねにmaxMとminMが存

在する。

 系2 (最大値・最小値の定理)コンパクトな位相空間Xの上で定義された実数値連続 関数f:X→Rに対して,f(X)には最大値と最小値が存在する。

 以上,距離空間の位相構造を主にし,そのあとで位相空間の位相構造についての大略を 述べた。

IV.位相構造の意義

 ここで,数学教育における位相構造の意義を考察してみる。この考察にあたって,上で は,llで位相数学の歴史的発展の過程を考え,皿で位相構造とはいかなるものであるかと いうことを,はじめに距離空間について,さらに一般の位相空間について考えてきた。繰

り返すまでもなく,上で述べてきた位相構造は集合論的位相数学のそれが主であった。

 さて,最近は,算数・数学の現代化ということから算数。数学教育にも現代数学からの いくつかの新概念の導入が試みられており,位相的考えというものもその1つとして重視 されてきている。そして,位相的考えに根ざした教材として取り入れられているものは,

どちらかというと,組合せ位相幾何学に属するものが多いといえる。また,これらの教材

(20)

の大部分は,幾何学的なものであるだけに,児童・生徒には視覚的にも把握し易くまた操 作を通しても理解できるという利点をもち,扱い方によっては比較的低学年の段階からで

も指導できるという点で適当な教材といえるであろう。従来の算数・数学教育をみると き,それを図形教材に限ってみても,計量的な扱いによるユークリッド幾何一辺倒という 感じを免れない。こういった点の反省からも,より広い視野に立って図形教材を扱うよう になってきていることは一つの進歩である。

 幾何教育からみればこのような組合せ位相幾何に関連する教材の導入も大切であるが,

位相的な考えという観点からすれば,とくに解析学においては一必ずしも高等の解析学 ということでなくても,有理数や実数について解析的な扱いに関係する学習においては 一集合論的位相数学がまた重要な意義をもっているということは否めない事実である。

 さて,数学教育誌上に初めてトポロジーに関係した内容を紹介したのは筆者の知る限り        3)

ではHal1, F. C.をもって噛矢とする。彼は極めて短かい文でトポロジーとは何である        4)

か?について述べている。彼より約十年遅れてMeserve, B. E.が中等学校の数学教育へ のトポロジーの導入を提案し,トポロジーの意味,ユークリッド幾何と位相幾何の相違,

単純閉曲線(ジ。ルダン曲線),結び糸,同相,地図の色分け,ケーニヒスペルグの橋渡り,

グラフ・網,メービウスの帯などについて述べている。このような題材は,トポロジーの 歴史的発展の経緯からみても,この領域の創設から比較的早い時期に教育の面に導入され たものとして意味深いものといえるであろう。

 数学教育の現代化では,数学的考え方の育成が力説されている。この数学的考え方とい うものは,知的な面にも関係することはいうまでもないが,同時に態度とか方法などの面 にもかかわるものといえるであろう。したがって,数学的考え方は,単に数学の事実や知 識を学んだからといって体得できるものとは限らないので,むしろ数学とはいかなるもの か,数学の性質にはどんなものがあるかとか,数学の発展の真の姿などをよく探究するこ

となどが大切な観点といえるであろう。このような見方からすれば,さらに,数学の種々 の分野の発生の原動力やそれらの分野を創設したり考えついた先人の思想やアイデアを研 究することも重要であり,これらの先人達をして偉大な業績を築かしめるに至らしめたり 研究の方向づけをしたりした素朴な源泉ともなっていた内容で,教材として取り扱える

ようなものをえらび出すことは極めて大切なことである。しばしば引き合いに出される

、K6nigsbergの橋の問題 なども,上のような意味からすれば,数学的考え方の真髄を       5)

潜めた意義のある教材といえるであろう。たとえば,米山氏が 数学を創作し,発見し,

発展せしめた根元の数学的精神,数学的思想,数学的方法。Nを論述した書物の巻頭に上記        6)

の橋渡りの問題を扱われたり,正田氏も ケー二eスベルグやの橋や一筆がきの問題が数

(21)

学史の上で有名だから,ここで取り上げたのではない。 橋のように実際にあるものにつ いての問題を一筆がきの問題に帰着させ,それを鉄道や紐などのようなものとの連想のも

とに解くという,具体と抽象を常に結びつけてものを見ることが子どもの世界においては 特に大切だと思ったからである。抽象的に考えることはものの本質を見ぬいてはじめてで

きることであるが,具体と結びつけて考えることから次第に抽象の世界だけで考えること ができるようになるものだと思う といって,ものごとの本質を見抜いて考える教材とし て中学生対象に前述の橋の問題から一筆がきの問題をとりあげている。

S.M. S.GPやS.M.β19おテキストにもトポ・ジーの教材が轍扱われてV・るが,

この種の題材を教材として取り扱う場合には,上で述べたような指導のねらいをはっきり おさえてかかることが是非必要である。この指導のねらいを十分ふまえて指導しないと,

子供達にも実り豊かな学習内容とならないばかりか,時には単なる遊びのようになって終 ってしまうという危険さえあるであろう。

 さて,集合論的位相数学の位相構造はとくに解析学に関連が深いということは前に述べ た。数列の収束や関数の連続性などを扱う解析学の分野に進む段階では,微分や積分につ いての内容を理解するだけでなく,そこで扱われている内容の底流として横たわっている       ユの 根本の概念に目を向けていくことが必要になるであろう。たとえば,大学初年級の解析学

でも(時には高校数学の中にも),つぎのような内容が扱われるであろう。

 実数の連続性(Dedekindの切断,有界集合に関するWeierstrassの定理・区間縮少法・

  有界な単調数列の収束)

 数列の収束

 有界な無限点集合は集積点をもつ(Weierstrass)

 有限被覆についてのHeine−Borelの定理  関数の連続性

 連続関数の中間値の定理

 微分のロルの定理・平均値の定理  連続関数の最大値・最小値の定理  連続関数の平等性(一様連続性)

 ジョルダン曲線  誤差および近似計算

 上記の殆ど大部分は距離空間としての,あるいは一般位相空間としての,ユークリッド 空間の位相構造に関する内容といえる。つまり,大部分はユークリッド空間における集合

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