ANSYS/FLOTRAN による空気弁排気性能の数値シミュレーション
松藤 宏幸1)・平野 公孝 2)・菊地 正憲2)
NumericalAn alysisofInnerFlowsinAlrValves withtheANSYS/FLOTRAN
HiroyukiMArSUFUJI,KimitakaHIRANO,MasanoriKIKUCHI
Abstract
Incompressibleinnerflowsinairvalvessetinagriculturalpipelinesarenumericallyanalyzedwith ANSYS/FLOTRAN,theFEM nuidanalysissoftware.A pressuredifferencebetweenintakeand exhaustboundariesoftheairvalvesislkPa.Flowsaredrivenwiththepressuredifference.Heights oftheexhaustboundarieseffectonvelocityfields,vortexstructuresandnowratesofthevalves.The bestperformanceamongthevalvesisshowedastheheightoftheexhaustboundaryis14rrm.
KeyWords:
AirValve,FiniteElementMethod,ANSYS/FLOTRAN,Turbulence,VortexStructure,FlowRate
1. は じめに
農業用パイプラインは,水源が屋外の川や溜池であ るな どの理由か ら,配管内に空気が混入 しやす くなっ ている。この空気を十分に抜かずに放置すると,管路 の破損などの漏水事故を引き起 こす場合 も生じるOこ れ に対処するため,配管内の気泡を抜き取る空気弁が 使用 されている。特に,比較的頻繁に行われる管路の 充水 ・落水作業をよ り安全かつ迅速に行 う際に必要 と なる空気弁に求められる性能は,空気の多量急速排気 性能である。
空気弁の弁箱の中には,遊動弁体,フロー ト弁体お よび フロー ト弁体案内 (以下,これ らをまとめて単に 弁体 と記す。)が置かれている。空気弁内に空気が充 満 しているときには,これ ら弁体は,自重によ り図1 に示す ように一体 となって空気弁 の下部 に落ちてい るか このような急速排気時において,空気は弁の下部 管路か ら流入し,フロー ト弁体案内と弁箱の狭い流路 間 を流れ 遊動弁体上部の広 い領域 を通過 した後に, ふた に衝突 して流れの方向を変え,その周臣那こある出
1)機械システム工学専攻大学院生 2)機械システム工学科教授
図1 空気弁内での排気の流れ
口か ら排出される。即ち,空気が通過する流路面積は, 急縮小急拡大を繰 り返している。
急速排気時の性能評価に関する研究 として,中 l)に よる合成樹脂製農業用空気弁 の多量排気性能に対す る試験結果や矢野 ・岩崎2)による遊動弁体の形状変化 が空気弁の排気性能に及ぼす影響の実験的解析が報 告されている。しかし,空気弁内の流れの計測やその 可視化は非常に困難であり,空気弁の内部流れと関連 付けた排気性能の解析はほとんどなされていない。
本研究では,旭有機材工業 (樵)製の入 り口管路直径 が80mmである空気弁を対象 とし,ふたの高さ位置が空
をとる。速度 については,半径方向および対称軸方向 の速度成分をそれぞれ 〟, Vとす る。
従 って,軸対称流れ場 における渦度は,次式で定義 され る。
駕 篭
空気弁の入 口管路の直径 β を80mmとし,これを代表 長 さとす る。また,ふたの外周における空気の排 出す きまガ については,市販 されている製品の排出す きま
〟=14mmを基準 として設定する。この場合の空気弁の 入 口流路面積 は4,027mm2であ り,排 出す きまの流路面 積 は9,852mm2である。空気が流出す る排 出す きまは狭 くなってはいるが,しか し排出流路面積 自体は入 口部 に比べて約2.5倍 になっている。空気弁内では流路面 積が,入 口か ら出 口までの間で激 しく増減 している。
2.2支配方程式 と乱流モデル
流れ場は軸対称 とし,乱流モデル としてはShi‑Zhu‑
Lumleyk‑e乱流モデル3)を使用す る。従って,流れの 支配方程式は,運動方程式 として レイ ノルズの方程式 お よび連続の式に,乱れのエネルギーkとエネル ギー の消散率 Sに関す る方程式が加 えられ る。
2.3境界条件
2.3.1流入 ・流出境界条件
流れの駆動力は,空気弁の流入境界 と流出境界の間 の圧力差である。流出境界はふた外周部の排出す きま とし,そ こでの圧力条件 は大気圧 を設定 し,OPa(ゲ ージ圧) と固定す る。
一方,流入境界 としては,空気弁に接続 され る円管 の入 口部 とし,ここでの圧力のみが,解析の際の設定 可能な条件 として与え られ る。本研究では,入 口と出 口の間の圧力差47は,比較的低圧 な条件 としてlkPa
図2 計算モデルの各寸法 と座標系 と設定 された。
2.3.2軸対称境界条件
対称軸上の速度に関す る条件 として,半径 方向の速 度成分について,〟=0が与えられ る。
2.3.3壁面上境界条件
弁体,弁箱やふたの壁面上では,粘性 による滑 りな しの条件 として,〟=0お よびV‑0を与える。
2.4 数値解析 ソフ トウエア
本研 究で使用 された有限要素法 に よる流 体解析 ソ フ トウエアは,Cybemet社のANSYS/FLOTRAN(以後 FLOTRANと記す)である。
FLOTRANは,有次元量を用いて数値解析 を実行す る。 このため,本研究では単位 系 としてSIを用いる。
また,空気の密度お よび粘性係数は,20℃の標準大気 圧のp=1.205kg/m3,11=1.81×10H5pa・Sを用い る.
なお,FLOTRANは渦度の計算機能 を持 っていない。
渦度 は,計算結果の後処理 として速度場の数値差分に
図3 基本モ デル の メ ッシュ図 よ り計算 され た。
3. メッシュ構造
3.1基本モデルの メ ッシュ構造
空気 の排 出す きま〃=14m の場合 を基本モデル と し,そ の メ ッシ ュ分割 図 を図3に示す。 この場合 の要 素数 は5,121であ り,節 点数 は5,411であ る。壁面近傍 や 急激 な形 状 変 化 の部 分 で の メ ッシ ュを細 か く分割 す る。
3.2 ふたの位置 を変 えたモデルの メ ッシュ構造 空気 の排 出す きま 上は,これ 以降,基本モデル のガ で無次元化 したL/Hを使用す る。
L/H‑1・0と した基 本 モ デル に加 え,L/H‑0・75, 1.25,1.5,2.0の よ うに,ふ たの位置 を変 えた 4つ の モデル について も計算 を行 い,空気弁 の排気性能 を解 析す る。
図4には,代表例 と してエ/〟 ‑2・0のモデル の上部 の メ ッシュ分割 を示す。 この場合 の要 素数 は4,640で あ
図4 L/H‑2・0の場合 のメ ッシュ図 り,節点数 は4,931である。
なお ,L/H‑0・75,1・25,1・5の各場合 の要素数 は それ ぞれ4,515,4,964,5,626で あ り,節点数 はそれ ぞれ4,8080,5,255,5,917であ る。
4.解析モデルの妥 当性の検証
4.1時間刻みの選定
非定常計算 で の時間刻 みdJは,安定的 な時 間進行 を可能 とす るよ うに予備 計算 の結果 ,次 と設 定 され た。
上/〟 ‑1・0,1・25,1・5の 各 モ デ ル に 対 して は At‑3×10 6 S,一方,L/H‑0・75,2.0のモデル に対 して はAt=5×10‑6 Sとす る.
4.2壁付近 のメ ッシュ分割の検 証
FLOTRANの計算手法 として,壁付近 の挙動 は壁 関 数 に よってモデル化 され てい る。壁 関数 が正 しく導入 され てい るか を評価 す るた め に,次式 で定義 され る y'の数値で検証 を試み る。即ち,y'‑yuT/Vで あ り,
yは壁 面か らの距離 ,uTは壁面 のま さつ速度 ,Vは 動粘性係 数である。
y'の値 は,FLOTRANのマニ ュアル では30‑150の 範 囲な らば適切 とされ てい る。基本モデル に対す る予 備 計算 の結果 と して,各壁 面上 にお け る 〆 の値 を図 5(a)(b)に示す。図(a)は弁体下部Aか ら弁体 に沿 って 点 Bまでの値 ,図 (b)はふ たの 中央 Cか ら出 口の排 出 境界Dにか けての〆 の値 である (図2参照)0
どの壁 面上 にお い て もy'は概 ね30‑150の範 囲 内 に収 まってお り,壁 面付近 のメ ッシュ分割 は適切 に行 われ てい る とい える。
′〆 ′′・‑一・〉/
図5弁体 とふたの壁面上に沿 うy'の変化
4.3計算誤差のチェック
本解析では非圧縮計算を行ってお り,流入境界と流 出境界を通過する体積流量は同一となる。
しかし,実際には両者の間に数値計算上の誤差Eが 発生する。誤差Eの定義は,次式で与えられる。
E‑FQh‑QoJ/Qob,×100(%)
ただし,Eは誤差 (%),Qinは入 口流量,Qoktは出口流 量である。
エ/〟‑0・75,1・0,1・25,1.5,2・0の場合の各モデ ルの誤差Eは,それぞれ0.02%,0.71%,0.68%,1.20%, 1.84%であった。排出すきまが大きい場合に誤差が lO/. を越えたが,ほぼ妥当な結果 と考えられる。
5.計算結果および考察
5.1流れ場のベク トル図
流入境界 と流出境界の圧力差ApがlkPaの流れにつ いて,基本モデル(L/H=1.0)の流れ場全体の速度ベク トルを図6に示す.入 口管路内の平均流速は37.6m/S・で あ り,管路直径βで定義された レイノルズ数は2.00
×105である。
5つのモデルの上半分に対する速度ベク トルを示す。
図7(a)(b)(C)(d)(e)は ,圧 力差Ap‑lkPaつ いて , L/H‑0・75,Ilo,1・25,1・5,2・0の場合である。入 口管路内の平均流速は,それぞれ33.2m/S,37.6m/S, 35.6m/S,32.2m/S,31.8m/Sであ り,レイノルズ数は, それぞれ1.77×105,2.00×105,1.90×105,1.72×105, 1.70×105である。弁体後流部に形成されるはく離渦の 大きさは,いずれのモデルもほぼ同程度である。しか し,ふたに衝突 した後に排気出口に向かう流れでは, 再度のはく離領域が形成され はく離渦の大きさは排 気すきまが大きくなると共に,大きくなっている。
図6 基本モデルの空気弁内速度ベク トル図
図7 モデル上半分の速度ベ ク トル図 図8等 うず度線図
(a) 1ノH=0.75
A=50
B=100
D =200(m2/S2)
図 9 乱れエネルギーの等値線図
符号の強い渦度が存在 している。また,排気すきまが 大きくなると,出口近傍の渦度は弱められる。
図9に示す乱れのエネルギーの等値線の大きさは, k‑50,100,150,200m2/S2である。乱れエネルギー の強い場所は,弁体,弁箱やふたの壁面上に形成され る境界層近傍および弁体後流部のはく離領域や出 口 に向かうはく離渦領域である。排気すきまの大きさと 共に,出口近 くの再度のはく離領域内での乱れエネル ギーは減少している。
一方,図10には,L/H‑1・0の場合のエネルギー消 散率の等値線を示す。エネルギー消散率の値は,6‑2
×105,2×106m2/S3ある。エネルギー消散は,壁薗上 の境界層近傍のみで生 じている。L/H‑1.0以外の流 れに対 しても,エネルギー消散率の高い領域は壁面近 傍であることは変わ りないが,その値はより大きくな
り,従って,エネルギー消散が激しくなっている。
5.3 空気弁の排気性能
空気弁 の排気流量Qに及ぼす排気すきま高さL/H の影響を,図11に示す。エ/〟 ‑0・75か ら1.0までは, 排気すきまを高 くするにつれて排気量は増加する。し
図 10 エネルギー消散率の等値線
く離渦の強さが影響 している。
529CE>Llr‑̲(uftLEJEtH)O
● 実験結果
‑
0.5 1 1.5 2 2.5
L/H
図11 すきま高さによる排気流量の変化
6. まとめ
本研究では,有限要素法流体解析 ソフ トANSYS/ FLOTRANを用いて農業用空気弁内部の流れのシミュ
レーションを行った。空気弁の上部に取 り付けられた ふたの位置,即ち,排気すきまの高さの変化が空気弁 内部の流れの状態や排気流量に与える影響 を明 らか にした。結果の要約は,以下である。
(1)ふたの位置を変えることは,特 に出口付近の渦の 大きさと強さ,乱れエネルギーに影響を与える。
(2)空気弁か ら排気される空気流量は,排気すきまの 高さが14mmの場合が最 も大きくな り,.急速多量排 気の条件から最適 となるO‑
参考文献
1)中達雄 :合成樹脂製農業用空気弁 の性能試験,畑地 農業,530号,pp.ト15,2003.・
2)矢野敏雄,岩崎正博 :小型化急速空気弁の弁体に作 用する空気力と寸法決定法について,リクモ ト技 法,No.41,pp.18‑23,1999.
3)保原 ・大宮司編,数値流体力学,東大出版会,1992.