Ryukoku University Ryukoku Umversrty
神 経
性 無
食
欲
症
(
摂 食障
害 )
に
つい
て
島
田
修
はじ
めに
主 と して思
春
期の 女性
に発症す
る神
経性食
思不振症 (
Anorexia
Nervosa
以 下An
と略す)
につ い ては , 今日まで 多 数の 研 究 報告が な されて きた 。 し か も, その 疾 患 患者の増
加に伴い 低 年 齢 層化や重 症化の症 例がふ えて い る。 それ らの諸問
題を解析
し て 本論
で検討す
る こ とは到底
不可能
であ
る。 そこで こ こ で は,筆
者が在籍
して い た総
合 病院に おけ るAn
の 患者の受
診状 況や 入院 治 療 上 の 諸 問題
を 整 理し, 中核
群を 中心 とし た 疾 患の 理 解を 図るこ と を 目的 とす る。尚
,神
経 性 大食
症(
Bulimia
Nervosa
)
につ い て は稿
を改
め て論 じたい 。I
An
の邦訳
名
と定 義
に つ い てAnorexia
Nervosa
の 邦 訳 名は 多数 あ り, そ れ だ けに 本疾 患の 本体の 複雑 さを あらわ して い る とい える。 厚 生 省特定
疾 患, 「中枢
性 摂 食 異常
調 査研究
(1)班
」(
班 長石川
中)
の昭
和56年度
研究
所報告書
に よ る と,昭
和56年度
の第
1
回 班 会議
で こ の 問題が と りあげられ, 主 な邦訳名12
(
表1
)
につ い て討 論さ れた結 果, 『研 究 班とし て は 「神経 性食 欲 不 振 症」 を用い る こ と とな っ た が ,食欲
とい うの が 本能
的な感 じがし,食
思の 方 が 中枢 性で態度
の意味
を含
ん でい る との 意 見があっ た の で , 「神
経 性食
思不振 症」 とい う訳名
を用い て もよい こ とに した 』 となっ て い る。 また診 断基準
に つ い て は,厂
視床
下部
下 垂体機
能障
害 研 究 班」(
班長鎮
目和
夫)
の 調 査に よる データを も とに 論議
され,表
2
の 診断基準
が用い られ るこ とに なっ た。本 症に つ い て
最
初に 記載 した の はMorton
(
1689
)
とい わ れて お り,彼
はnervous consumpton とよ び “
like
a skelecton only clad with skin ”
と記
して い る。 本症 を
An
と命名 し た の はGull
(1868
)
で あり, 彼に よれ ば患者表
1
Anorexia
nervosa の邦訳名1
.神 経性 食欲不振症 2 .神経 性食思不振症3
.神経性 食欲異常症 4 .神経性食 思異常症 5 .青春期やせ症6
.思春期 やせ症7
.神経性 無食欲症 8 .無食欲症 9 .神経性食欲不良症10
.神経性 食思不良症 は主 とし て16
歳か ら23
歳の 女性であるが, 時に 男性 もみ られる。 無 月 経, 便 秘,食
欲不 振, 徐 脈,緩
徐な呼 吸, るい 痩 な どを主 症状 とし,著
しく活動 的 で ,身体
的, 病理 的変
化はな く, 本症の 成 因は精
神状 態に よ る もの で , 中枢 性 である とし た 。Morton
やGull
の述べ る所
は, 現 在の本
症の 中核
群と呼 ば れ るもの に ほぼ一致 し て い る。Laseque
(
1873
)は本症の発生 機転を ヒ ス テ リ ー性で ある と して , anorexiehysterique
と記した が,後
に , ヒ ス テ リ ー以外
の 心理機 制で 発 症する症例が多 く報告され, こ の考 えは 批判された。しか し
筆
者の 経験を通 じて 本症 を み る時, 本症は甚だ しく複雑な 問題を抱え て お り, 今 日 ま で に記載されて い る命 名も診 断基 準も, 十 分に納 得できるもの で は ない と言 わ ざるを得
ない 。 本 症で 目立つ の は,食
行動
の 異 常とやせ で はあ るが, そ れだけが本 症の 本態で はな く, 複 雑な精
神 状 態が問題 と され な けれ ぽ な らない 。 した がっ て 本 症を 「食
欲不振
」 とか 「食
思不振
」 とか 呼ぶ こ とに は異
和感
を感ぜ ざる を得
ない 。 例 え ぽ本 症に おい て は, 拒食
と過食
を繰返 す場合
が ある し, ま た,食
事を規則 正 しく摂 り, るい 痩が治っ て も, 本 症が治癒した とい うこ とに はな ら ない の で ある。 本 症の 診 断基 準 も種々 論議
されて い るが,本症
の発症
は必 ず しも思春期
とは限
らず, 思春期
前に発
症 した例や中年
以後
に 発 症 し た例 も決して 珍し くない 。 また 女 性に 多 く 発症す る こ とは 間違い ない が , 男性
例も約10
%に認
め られて お り,女
性に 特 有の 疾患
で ある とは言え な い 。ll
診 断 基 準
と病 型 分 類
本 症の 診 断基準
と して は , 「中枢 性 摂食
異 常研
究 班」 の 採 用 した もの(
表2
)
が広 く用
い られて い るが, これに つ い て も決 して完
全なもの とは 言い難
い 龍谷大学 論集 一31
一Ryukoku University Ryukoku Umversrty 表
2
神経性食 欲不振症 ・狭義 (中核 群)の診断基準 (中枢性摂食異常調査 研究班, 1981 ) 標 準体重の一20
%以上のやせ ある時 期に始ま り,3
ヵ月以上持続 3 発症年齢 ;30歳以下4
女 性 5 無月経6
食行動の異 常 (不食 ・多食 ・か くれ食い)7
体 重に対する歪んだ考 え (やせ願望)8
活動性の亢進9
病識が乏しい 除外規実 (以 下の疾 患を除 く)A
.やせ を き たす器質性疾患B
.精神 分裂病, うつ 病, 単 なる 心因反応 〔○ 印を満たす ものを, 広義の本 症 とする。〕 こ とは上に述
べ た通 りで ある 。研
究 班 として もこ の こ とは十 分 承 知して お り, (2)DSM
III
やFeighner
の 分類 , そ の 他今
日 まで のAn
につ い て の 多くの 研 究, 症 例報告
につ い て検討
を加えて い る。 こ の診断基準
を提
唱し た末松
は, そ の 考 え方
を紹 介してい る。 末 松の 考 え方
は,An
に つ い て の今
日の 研 究段 階で は妥 当な もの と言え るが,将
来An
の 研 究が 進み, 病 因,病
型の 分 類 等 が も っ と明確に な れ ば ,さ らに補 充された 診 断基 準が提 唱される で あろ う。 筆者の予
測で は, 病 因 と病
型を とり入れた形の もの とな り,An
とい う病名
も, より 本疾
患の 本態
を あ らわすもの に とっ て かわ るの で は ない か と思わ れ る。病型 分 類に
関
して も未
だ 明確
な分類
は見
当らない 。末松
は, 例えば視床 下 部 下 垂 体機 能に し て も, 正常なもの か ら著
しい 異 常所 見を示 す 症 例があり, こ の変化
も “やせ ”あ
るい は “飢
餓” に よる二次
的変
化であ
るこ とが多
い 故に これ を持っ て病 因論 的に分類 する こ とは困難で ある とし て , 精 神 的な症状で分類 す るこ とを提唱 し表
2
の10
項 目の 診 断 基準
をすべ て満たす 症例 を中 核群(
または典型群)
と して 一次
的に は神経
症に 近い病態
の もの を周辺群
と して い る。 し か も中
核群 と周辺群との 間に, どち ら と も 区 別 しが たい症
例の あるこ とを認め,中
間群
と呼ん でい る。 さ らにFeighner
らが 診 断基 準の 一部に 加えて い る う ぶ毛の密 生や 徐脉な どの 身 体 症 状が, 周 辺群に比し中核
群に有
意に高
い 出現 率 を示 すこ とか ら,精 神症状
に よる分類
が,身体症状
とも合致す
るこ とに注
目 し てい るこ とは ,筆
者の 経験
に 照らして も大い に 共感
する 所で ある。 末松
はま た , 神経 症や精 神病に類 型を求め て さ らに細か く分 類する と, 統 合 失調 症 型, 一 32 一 神経性 無食欲症 (摂食障害)につ い て(島田)ヒ ス テ リー型, 強迫 神
経
症型, 恐怖 症 型, 心 気 症型 な どの 亜 型に分 類す るこ と もで き るで あろ う と述ぺ てい るが, こ れは 臨 床経 験か ら得 られた実感であ り, 本症
の病
因に か かわ る卓 見である。 皿病 因
に つ い て本症の 病 因に つ い て ,
Gull
は病 的な精
神 状 態に よる もの で, 成 因は中枢 性 で あるとし た 。Laseque
も本症
を精 神
的疾
患である と し, 発 生機
転を ヒ ス テ リ ー性で ある とし た 。 その後
Simmonds
が無
月経,早
老,悪
液質
を ぎた して 死 亡 し た婦 人の剖検結 果か ら下 垂 体の萎
縮を指摘
し,Simmonds
病 として報告
し て 以来, 本 症はSimmonds
病と混同 される よ うに な っ た 。 し か しRahmann
らに よる本症の精
神医学的研 究な どか ら, そ れ 以後
An
とSimmonds
病とは別
の疾患
と し て論
じ られて来
た。 近年
心身
医学
の発達
ととも
に, 本症
を代表
的 〔8)〜 な 心身
症 とする考え方が支 配的に なっ て い る。 しか し本症
の患者
に つ い て,動
因 となる心 因の 見 出される こ とは少 く, もっ と広 い 意 味で の心因, す なわ ち生育
歴や家庭
環 境, 両親との関
係, 性格等
を詳細に 調べ る と, そこ に種
々 の問 題 点の 見 出される症例 が多い 。 今 日 ま で取 り上げ られた広 義の 心因に関連 する問 題 点を列 挙 する と, 患者に対し, 過 保護
, 過 干渉, 支配 的 な母 親の存 在, そ れ に対し患者の 抱 く両 価 的感 情,成 熟 拒否.完 全主義, 禁 欲 主 義な どの性 格 特 徴 が肥 満に対
し嫌悪
を感
じ,強
迫的
に節食
する。 食欲
不振
で はな く節食
であ
る故 に, 耐えがた い飢
餓感
の ため, 盗み食い や過食
が見
られ, した が っ て逆に 肥満 を きたす 場 合 もある。 一方 肥満恐 怖か ら , 摂食 後,故 意に 嘔 吐し た り, 下 剤を 乱 用す る な どの 他, 未熟な父親の 存 在, 乳幼 児期の誤 っ た学 習に よる摂食障
害 で ある説, な ど様々 な見方
が な されて い るが 、 なお統 一 された見解
は ない 。 いず
れに して も家族 病理 的 な立 場か ら広 く検
討され ねぽな らない 。筆
者の 経験
で 述べ るな らぽ , 本症患 者の中に は , 心 理的に 了解
しが たい 症例 が珍 し くない こ と, 病 識に 欠 ける こ とな どか ら, 神 経症ない し, 心身
症圏
の もの とする よ り は, よ り精
神病圏
の 疾 患 として 考えね ばな らない 問題が多
い と考えて い る。特
に中核
群と呼 ばれる典
型 例につ い て は, その多
くは精
神病圏
に入 る と考えるべ きであろ う。N
年
齢
,性
別
,発
生
率
に つ い て本 症は 思
春期
に多発す
る と されて来
た。 厚 生 省特 定疾
患 「中枢性 摂食
異 常調 査研究班」 昭 和57
年 度 研 究報 告 書に よる と,31
歳 以上で発症 した 例 は,3
% と 龍谷大学論集 一33
一Ryukoku University Ryukoku Umversrty なっ て い る。
Thoma
,H
.のHeidelberg
大 学に おける 調査で は, 本 症の88
%が20
歳
まで に 発 症 してい る とい う。 またVinterpaulsen
は85
歳
と75
歳
の症
例 を報告
して い るが , これに つ い て は検 討の 余地があろ う。Dally
は35
歳
以 下と定 義し て お り,Bliss
&Branch
の 調 査で は300
例の 女 性例の 平均
と して21
,5
歳で あっ た と述ぺ て い る。 い ずれに し て も30
歳
以上 で 発症す
る例は少
い に 違 い ない が ,筆者の 言い た い 事は,30
歳
以上 で も発
症す る症例 があるこ とに 留意す
べ きであ
る とい うこ とであ
る。 一方
思春
期 前の発
症の 報告例 もか な りあ る。 向山 らは11
歳の 男 児と10
歳の 女 児の 例を報告 し てい る。 また赤木
らはAn
の 発 症 年 齢の 低 下 傾 向を 指 摘して お り, 事 実, 小児科 領 域か らAn
の 研 究, 〜 , 〜鈎 報 告 例が次 第に多 くな っ て い るの が 目立 っ て い る。渡
辺 らは小児科領
域に おけ るAn
は全体
の15
%程度
を占
め る とい い ,Goetz
ら もAn
は小児
科 領域
で決
して稀
な疾 患で は ない として い る。 こ こ で も筆 者は改め てAn
を 思 春期 特有 の 疾 患で は ない こ とに留
意し て, 本 症の 本 態を考
えて ゆ くこ とを強
調し た い 。次に性 別につ い て, 本 症が 圧
倒
的に女性に多
い事
は,古
くか ら指摘
されて い る通 りである。「中枢 性 摂 食 異 常調 査 研究 班」 の 調査で は 男性 例は
4
% 〜5
.6
%である。藤
本らの22
報
告の まとめ で は男
子例は約
9
% となっ てい る。Blissk
Branch
の 集 計で は473
例 中51
例(
11
%)
が男性で ある。Ladewig
(
1968)
は30
人の 研 究 者の 報告
例,1225
例 中124
例(
10
.1
%)
が男性で あっ た と報 告 した。 彼の 調べ た報 告 例で は男
子症 例 数の 実数は0
〜28
名ま で に分かれ
て お り, これ を %で 示 すと0
%か ら最高
69
% となっ て い る。 こ の報告
を含め て,20
%以上 と する報告 例が4
報,10
% 代の 報告が10
報とな っ て い る。 またThoma
は 男女 比 を1
:11
.5
と報 告 して い る。 い ずれに し て も,An
患 者の 約10
%は 男子 で ある とい うこ とは言え そ うで あり,女
性に 多い 疾 患で はあるが,女
性特 有の疾
患と (1) 考えて は なら ない 。 したが っ てAn
の 診 断基
準の中
に 「女 性」 とい う項 目を 入れる こ とに は疑 義があ り, 少く とも 「女性に 多い」 とい う表 現を とるぺ きで は なか ろ うか と考
えて い る。An
の発
生率
にっ い て の報告
は少
い 。 し か し近年
とみに増
加の傾
向に ある こ とにつ い て は間違い ない とこ ろ で ある。 大 阪大 学 精 神科で の過去22
年 間の 調査 鯰 で は, 受 診 者総 数,90
,899
人 中とEating
disorder
と 診 断できた の は216
例(
女201
名男
15
名)
で あっ た が,1974
年 頃か ら急激に 増えてい るの が 目立 ち, 的発
症年
齢は9
歳
か ら31
歳
で あっ た 。 末松の報 告に よ る実 態 調 査の 結 果の うち,同
一施
設で の1976 年
と1981 年
の 比較
で は , 一施設
平均患者数
は,外来
の 場 合,8
.1
人 :16
.0
人, 入院 患者
の場合
,2
.8
人 :4
.5
人と な っ てい る 。 住友病
院に心 一34
一 神経性無食欲症 (摂食障害)につ い て(島田)表
3
神経性食欲不振 症 受診数 (住友病院 心療内科) 神 経 性 食 欲 不 振症 患 者 総 数 比 率 外来8
676
1
.18
%1980
年 (昭 和55
) 入院4
55
7
.27
外来7
798
0
.88
1981
年 (昭和56 ) 入院1
78
L28
外来13
704
1
.8
1982 年 (昭和57 ) 入 院3
51
5
.8
外来9
159
5
.7
1983
年 (昭和58 >3
月末 入院3
7
42
.9
計2337
例中37
例1
.6
% 療 内科が開設 されたの は197
O
年5
月1
日で あっ た が ,筆
者らは開設 当初か ら毎 年 数 例のAn
患者の 診療
に 当 っ た の で あっ た。 心療 内科の 開設 時で は,An
患 者の 診療
に 当るこ とは稀で あっ た た め , 最 初は戸 惑い を感じ た が, 今に し て思 え ば, 当時 より,An
患 老 が増加 して いたの で あ っ た。 そ こ セこは, 下 坂, 渡辺 らの 述べ てい る社 会 的 因 子の 関与が考
え られ ,An
の病
因論
との関係
で , まこ とに 興味
深い もの がある。 住 友病 院 心 療 内科で 治療
し たAn
患 者数は 一般
的に は決
して多
い とは言 えない が, そ れは当科
の 診療能 力
の 限界
を 示 してい る。 若 し, もっ と多くの診療ス タ ッ フ と ベ ッ トがあれば,An
の 患 者数は もっ と増
え たで あろ う。 ともあ
れ参考
まで に1980 年
か ら1983
年3
月末まで 当科
で診療
したAn
の患 者 数を表
3
に て紹 介す る。 表 中の 患 者 総数は, い わ ゆる 新 患数で あ る。 住友 病 院心療 内科
の ベ ッ ト数
はわずか21
床
である か ら, 当 科の実 態は, 表 中の 数 字で お よそ推 察 可能と思 わ れ る。表 4
〜7
にAn
患 者の 性, 年齢
,体
重
, 主要症状
の 一部を紹
介する。 こ こで筆 者が注目し て い る点は, 先に 述べ た 病 因 論との 重 複を敢
えて犯 す こ とを お許し頂い て記 する と,表
8
, 図1
に示す如
く, 発症
時年齢
と, 受 診時年
齢 との 差で ある。 表お よび図か ら 明らかな如
く,発症時年
齢よ り受 診時年
齢が数年
遅れてい て , その傾
向は若年者
ほ ど著
し 鋤 い 。 下 坂,渡
辺の 説 く,社会環境
, 生 育歴の特徴
と, こ の 発 症時年齢
と受 診時 年齢
の 隔た りは 決し て 無関係
で は ない と考 え られる。彼
らの述
べ る社会環境
の 龍 谷大 学論集 一35
一Ryukoku University Ryukoku Unlverslty 特 徴 と, 生
育
歴, 特に 両親像 とAn
の発
症 との関
係は, 以前
か ら注 目さ2z
.rC い た もの で はあるが, 最 近の社 会 環 境の 変遷と, 両 親 像の特 徴 とは決して無 関 係で はない 。An
患 者の 発 症に は, 母親の 過 保護, 過干渉, さ らに未熟な父親 の家庭 内
で の 指導
性の 欠如
, 無 力性が重 視されて い る が , 現 在の 社 会環 境自
体 が, 過 保 護 過 干渉を促
進し, 正 当化 する傾 向にある こ とは否めない 事 実で あ り, 一方こ の よ うな社
会環境
, ひ い て は戦後
の教
育環境
か ら,未
成熟
人 格の 両親
が増
加 しつ つ あるこ と も否め ない 事実
で あ る。 こ の こ とが すべ てAn
患者
の増
加と, 直接
的に 関連が ある とは 言 えない に して も,An
を含め,家庭 内暴
力, 校 内暴 力, 登校 拒 否 等の 病理現 象と無 関 係とは思 え ない の で ある。An
に関
して は, 受 診の き F っ かけが, 母 親が わ が子の 異 常に気づい て 受 診する場合
よ りは, 患者の友
人の 母親や ,学校
の 教 師の勧
め で, は じめ て患 児の 母親が相 談 に訪
れるケ ース がか なり多
い こ とが, こ の間
の事情
を物語
っ て い る。 表 4 1980 (昭和55)年 度 患 者No
年 齢 (歳 ) 体 重 (kg ) 主 要 症 状 (+,一,?,で記 入 ) 外来 ま た は 入 院 氏 名 性 発 症時 診療 時 病 前 最 小 無 月 経 活動性亢進 食行動の異常 ユ 外Y
,A
. ♀ 16165342 十 十 十 2 外+入 T .S , ♀ 333351 .445 一 一 一3
外+入 M .Y . ♀ 14154428 十 一 十 4 外 MS . ♀ 14154333 十 ? 一 5 外+入Y
,M
. ♀16175827
.5
十 十 十 6 外A
,M
. ♀ L6175440 十 十 十 7 外+入 T ,王(. ♀ 23245029 ,5 十8
外 W ,0
. ♀ 13143325 未 発 来十 一 一 表 5 1981 (昭和 56)年度 患 者 No 性 年 齢 (歳 ) 体重 (kg ) 主要症状 (+,一,?,で記入) 外 来 ま た は 入 院 氏 名 発 症 時 診 療時 病 前 最 小 無 月 経 活動性亢 進 食行動の異常 9 外 M .M , ♀ ユ4 工44229 未 発 来十 十 一 10 外+入 Y .F , ♀ 202 ユ 4832 十 十 十 1ユ 外M
.K
. ♀20214834
十 十 十12
外A
.1
. ♀20224433
十 一 一13
外S
,0
. ♀18
ユ85243
一 一 十 14 外 K .K . ♀ 25254638 十 一 一 15 外 Y ,K . ♀ 22245343 十 一 十 一36
一 神経性無食欲症 (摂 食障害)につ い て (島田)表 6 1982 (昭和
57
)年度 外 来ま た は 入 院 氏 名 性 年 齢 (歳 ) 体重 (kg ) 主要症 状 (+,一,?,で記 入 ) 患 者No
発 症 時 診療 時 病 前 最 小 無 月 経 活動性亢進 食行動の異常 16 外+入 M .M , ♂ 2123604 ユ 十 /7 外A
.G
. ♀23275232
十 一 十 工8
外Y
.G
, ♀14236237
高2の時ユ 年間止まる 現在不 順 不 詳 十19
外K
.Y
. ♀ 16165635 十 十 十 20 外K
.T . ♀ 16 ユ85536 高1で 1回 有っ たき り 十 不 詳 十 122
2
外 Y .M . ♀ 22265934 十 不 詳 十 外+入H
.Y
. ♀ 15196432 十 十 十23
外J
.Y
. ♀ 17206040 十 十 十24
外+入 M .T . ♀ 25295040 十 十 十25
外+入S
.U , ♀ 1719 十 十 十26
外+入MH
. ♀ 263348492835 十 一 十27
外Y
,Y
. ♀ 21224230 十 十 十 28 外+入MM
. ♀ 16 ユ94235 十 『 十 表 71983 (昭和58
)年 (1
月一3
月まで) 年 齢 (歳 ) 体 重 (kg ) 主 要 症 状 (+,一,?,で記 入 ) 患者 No 外来 ま た は 入 院 氏 名 性 発 症時 診療時 病 前 最 小 無 月 経 活 動性亢進 食行動の異常 29 外 C .S . ♀ 17185038 十 十 30 外 E .S , ♀ 23246039 十 ? 十 十 31 外M
,F
. ♀ 12195830 十 十 32 外 S .B . ♀ 121345 .639 中1よ り 十 十 十 33 外R
,O
. ♀23265730
十 十 十 34 外M
.0
. ♀14
ユ54432
中3 の 4 月より 十 十 十 35 外 A ,E . ♀ 17225843 十 十36
外S
,A
. ♀42484637
十 十 冖 十37
外Y
.1く. ♀ 26324326 十 十 十 龍 谷大学論集 一37
一Ryukoku University Ryukoku Umversrty 表
8
発症時年 齢と受診時年齢 発 症時年齢 受診 時年齢 〜15
歳9
6
16
〜20
畿
14
ユ2
21
〜25
歳 ユ0
ユ1
26
〜30
歳2
4
31
歳
〜2
(
33
歳,42
歳)
4
計37
37
だ 00
ー ユ 発 症 時 数5
0
;
…・ ・ 、,iii
.1ぼ i耄::塁5
羣
霧
ぎ1撮 ..葺99翻
}
例1
1
16
21
26
31
年 〜 〜 〜 〜 〜 令1
15
20
25
30
15
図1
発症時年齢と受診年齢 一38
一 神経性無 食欲 症 (摂食障害)に つ い て(島田)16
菱
〜 〜20
25
1
誌
1
年 〜 〜 令30
V
精 神 症 状
今
日で は,An
の病
因 とし て心理 的 要因
が もっ とも重視
されて い る。 し たが っ て ,精 神症状
や関連
す る症
状に つ い て,多
くの 報告
がある。 次にそ の主な も (9) の を列 挙して お く。1
)食
行動
異常
本 症に おい て , 最も 目立つ 症状で ある。
節
食, 不食, 拒 食な どが認め られ, 食事
を とる よ うす すめ る と, か えっ て ひ ど くなる こ とが多い 。 摂食 し た ように みせ か けて隠し て捨
て る。食後
, 意 識 的に嘔吐 した り, 下剤
を乱用 する。 カ ロ リーの 高い もの を嫌
う。 人前
で食事
を し た が らない 。 時に 料理 に熱中
し,他
人 に食
べ させた がっ た り,家 族ごとに同胞 が何を食べ たか干 渉 す る。 隠れ食
い , つ まみ食
い , 盗み食
い , 残 飯あ
さ りなどが見
られるこ とがあ
る。 ま た拒食
と過
食を繰 り返 す 場 合 もあ る。2
)
心 理状 態An
の 心理状 態 と し て指 摘されてい るの は,成熱
に対
す る嫌
悪,拒
否(
女 性拒
否)
, 幼年期
へ の憧憬
,男
子羨 望, 肥満嫌悪
,痩身
に対
する偏愛
と希
求,禁
欲主義, 主知主義な どで ある。 し か し思春 期 以後
に発
症す る例のあ
るこ と,逆 に 思春期前
に発症
する例のあ
るこ と,特
にAn
発
症 時 期の 低 年齢
化が指摘
さ れてい る こ と, お よ び 男性 例が稀 とは い え ない こ とな どを十 分に考 慮 しなけれ ば な らない 。3
)
性 格 傾 向 一般 的に は , 表 面上は 内気, 内 向的で 素直に 見える。 したが っ て 親か ら見 て , 素直な よい 子で あ り, 手の か か らない ,育
て やすい 子 とい う 印 象を 与え る。 学 校で も, お とな しい , ま じめな生 徒 とし て 教 師に認め られ, い わ ゆる優 等 生タイプ と受 けとられて い るこ とが多い 。 し か しAn
患
者に 深 くか か わ っ て み ると表
面的
な傾 向と逆な性格
傾 向に気づ か される。 強 情で, 我 がつ よく, わ が ま まで, 反抗 的であ
る。 面 従腹背
とい う言葉
が ま さし くあては まる。 他か らの干渉を嫌
い , 干渉される と, しば しばよ り 一 層 反抗的に な る。 未経験
な治療者
が,身体
状態
の改
善をあせ り,摂
食を強
く迫っ た り, 輸液
や 鼻 腔栄 養を試 み て失 敗 する の は, こ の よ うな性 格 特 徴が関係 して い るか らで あ る。 また強
迫 傾 向, 心 気 傾 向, 完 全 癖自閉傾 向, 孤 立 傾 向な どが認め られる 一方, 両
価
性 が認め られる。 下 坂は, 孤 独 と強い 愛情
要 求, 内気
と尊大
, 献身
とわがま ま, 過度
の身体
羞恥 と露 出的傾 向, バ ン カ ラ としゃ れをあげて い る。 龍 谷大学論 集 一39
一Ryukoku University Ryukoku Umversrty
4
)
行 動 異 常An
患者で は,先
に あげ
た食行動
の異常
の他
, さ ま ざま な行動
の 異 常 が 見 ら れる。 活 動 性の 亢 進は ほ とん どの 症 例に 認め られ る。痩
せ て, 骨 と皮だけの身体
状 態に ありな が ら, そ れ とは全 く不 釣 合な活
動 性の亢進
がみ られる。 し か も 患 者は疲 労感を訴 えない 。 家 族が患 児の 異 常に気づ くの が遅れ る原因の 一つ に もなっ て い る。 患児が活 発に行 動 するの で, 「ま さ か 病 気 とは思い もよ らなか っ た」 と告げ
る母 親が ある。 先に あげ
た 盗み食い を含め, しぼしば 盗癖
が認め られる。 しか しこ の 盗みは, 一般
的な , もの欲
し さか らの 盗み で はない 。 た と え ば, 手 もとに食物
が十分
に あっ て も,他
人の 食物
を盗む し, 食物
以外
の 物を 盗ん で も, 自分の 物にするの で は な く, 盗んだ もの を トイ レや チ リ箱に捨て て い る。 他 人を困らせ よ うと して い るか の如
く思われる場合 もある。 し か も反対
に食
物を他人に与え た が り, また 物品 を与えた り もする。 次に 自分の 身辺の変
化を嫌 うの もよくみ られる現 象である。 病 室を変わ る こ とを嫌
う。 自分の 部屋 の 中は, い つ も 一定
の状
態に してい る 。 病室
内で た とえば置時計
の位置
な ど変
えて様
子 を み る と, い つ の 間に か元の 位 置に も どし てい る。 こ の よ うにあ らゆ る変化
を嫌
う。 ま た しば しぼ非常
に Ct けち” であ
る。 金 銭面
で も極
端に細かい の に驚
か される。5
)対
人関
係の 歪み 母親との 関係が重 視されてい るが, 母親は 一 般に過干渉, 支 配 的 態度で患 者 に接触
し て い る。 これに対
し,患老
は反抗的
であ
りなが ら 一方
で は依 存的
で も ある。 父親との 関 係で も同様の状 態が み られた り, 暴 君的, 自己中心的な父 親, あ るい は 家庭 内で無 力, 無 関心 な 父親が問題 と思わ れ る症例 もある。 同胞 間で は対 抗意
識が強 く, 同胞 間の 極めて 険 悪な症 例は稀で は ない 。6
)
身 体像の障害
と病 識 欠如
An
患 者自身
は,決
して 自分
が痩せ て い るとは思っ て い ない 。 む し ろそ れは 自ら求め るもの とし て肯 定 的で あ り,決
し て病 的で ある とか 異 常で あるとか は 認め ない 。 し た が っ て, 治療者
が患
者に 「よく食
べ る ように な っ た」 とか 「少
し肥 っ て きた」.とか告 げる と, 余 計に節
食, 不食が強ま っ て し ま う。 こ の 身 体像
の 歪み と病 識 欠 如は, 本 症の 重 要 な特
徴で あ る。 以上述ぺ た本症の 精 神症 状 全体を通じての 印 象を, 筆者は “ ほ どの よ さ” と い う事を了 解で きない と感じてい る。 患者の考え な り, 行動
は,常
に極端で あ り, 中庸とい う事が ない か らである。 一40
一 神経 性無食欲症 (摂食障害)に つ い て(島田)VI
予
後
に つ い てAn
の予後
につ い て は,多数
の報告
はあるが, その結
果は報 告 者に よっ て, か な り違
っ てい る。 一般 的に内
科 医の 報 告は予後
良好 とす るもの が多 く , 精 神科
医の 報告
は, 予後
不 良とする もの が多
い傾向
がある。 これ は内科
医 を受
診す
る症例には軽症例 が多 く,精
神 科 医が治療
する症 例は重症
例が多い ので あろ う とい う意見
が あるが, 一方An
の病態
病 因に つ い て の 考 え方
の 相違に よっ て 予後
の判定
に際
し ての考
え方,判定
基準も異 なっ て来る の であろ うと 思われ る。筆者
は内
科医の判 定に 妥 当性を欠い て い るとい わ ざる を得
ない 例 を経 験し てい る。 しか も 彼 らの判 定は 楽観 的に 過 ぎて は い ない か とい う感
を持っ て い る。 最 も単 純な判 定は,体 重が 元 に復 し, 正常 な食
生 活がな されてい れぽ治 癒 とする もの で あろ う。 し か しAn
は その ような単
純 な判定
基準に当て は ま ら ない 疾 患で あ るこ とは,今
日で は万 人の 認め る所で あろ う。 先に述べ た精
神 症状
のす
べ て が正常
化し て い る か どうかの 検討
が必要
な こ とは申
すま で もない。 し た が っ て 本症の 予 後 判定は , 長期 間の 観 察を要 する と と もに , 厳 密に な され ね ぽな らない精 神
症状
の検討
と ともに, 少な くとも月
経の 再開
, 正 常 な結婚
生 活, 出産
, 育 児な ど, 主婦として も, 母 親 とし て も正常な 日常 生 活が長期 間に わた っ て送れて い る か ど うか , 男性な ら社
会 人 として 家庭
の 主 人として , 正 常 に適
応し て い る か どうか などが 確認 されて, は じめ て 治癒の判定
が 可能で あ る。末松
らの 調 査は, 上記
の 問題を念頭
に おい て はい るが,3
〜4
年の 追 跡 調査で あり, 中聞的結 果 とみ な し得
る。 これ に よ る と143
例中
, 治癒47
例(
33
%)軽
快69
例(
48
%)
不変19
例(13
%)
死 亡8
例(
6
%)
で ある。 西 川 らは24
例中 ,治癒15
例(
63
%) 改
善7
例 , 不変2
例とし て い る。Kay
e
#38
例 中6
例(
16
%)
は死 亡 し た とし て い る。Nemiah
(
1958
)
は15
文 献282
例中, 治癒ない し回復129
例 (45
.7
%) 改善
は69
例(
24
.5
%)
慢 性 化した もの62
例(
21
.9
%)
死 亡は22
例(
7
.8
%)
と してい る。 またClauser
は30
文献
656
例につ い て,治
癒215
例, 死 亡39
例 (6
%)
全 く改善
を認め られ ない もの220
例 と して い る。 死 亡 の 原 因は , 身 体的 衰 弱 以外に 自殺 例 も少なか らず 報告 されて い る。 い ずれに して も, 予後
の 判定は困難で は あるが, 予 後 良好とは決し て い えない 難 病であ る。 そ し て予 後の 判 定に は15
年
以上 の 追跡 調 査が 必要と思わ れ る。V
皿
治
療
に つ い てAn
の 治療に は, 現 在ま で の とこ ろ, 決め手とな り得る有効 な方 法は見出 さ 龍谷大学論集 一 41 一Ryukoku University Ryukoku Umversrty れてい ない と言 え る。 これ まで多 くの 研 究者に よる 治療法 の報 告があるが, そ れ らを み て も, 統 一
的
見解
とい うもの はない 。 ま た種々 の 治療法
につ い て, あ る研究
者は肯
定的意 見を述べ 同 じ治療法に つ い て, 他の 研 究者が否定 的 見 解を 述べ て い る。 これは要
する にAn
とい う疾 患の本
態に つ い て , 統 一的見
解が な く, 諸 家の 見解に違い がある為である。 し か し今
日で は,An
は 心 理的原
因 で発
症する もの であ り, 治療
は, 心 理療法
,精神療
法 が主体で あり, 身 体 療 法 臼 鉤ee助 は補 助 的 手段で, 永 続 的 効 果は望めない とする考 え方
が支 配 的で ある。1 )
心 理療 法こ こ で は広い
意
味で の心 理療法を紹
介す る。An
で は, 両親 と患 者 との 関係を中心 とし た, 家 族 病理 が重視
されてい る。筆
者 らもこ の 見解に立 っ て , 家族療
法を重視
して い る。 不 良な家庭 環境
か らの 隔離
が家 族 療法の第
一歩
とも言えるもの で あり, し た がっ て 入院
治療
が原
則で ある。 入 院は , 身 体療法を行わ ね ぽ な らない 場 合に も適
し て い る し,病識
の な い 患 者に, 病 感を抱
か せ る意味
か らも望ま しい 。 両親
と患者
な完全
に隔離
さ れ, 面 会は勿論 禁止される。 こ の よ うにする こ とに よっ て, 家族, こ とに 両親 と患者は, そ れ ぞ れ 距離を もっ て, 改め て 親子関係や 養育環境
につ い て考
える こ とが 可能
に なる。 患 者に 好ましい親 子 関係を理解させ, 養 育の 問題 点を悟ら せ , 歪ん だ 心 理状 態を矯
正する 目的
で, 治療者
の 一人
は父親
的 立場で, 別の 一 人は母 親 的立場で 患者と接 触する。 一方
, 両親に 対して も, 度々面 接 し, 親 子関
係の 問題 点,養
育上 の 問 題 点,発
症に い た る まで の 経過, 発 症の 契 機, 今後
の 問題 点,治 療 方 針につ い て の 理解 と協 力を求め る な ど, 患 者 と家族を別々 に 治療し てゆ くの で ある。 こ の よ うな治療 法は, 勿 論 医 師の みで 行 うこ とは不可 能で あり, 臨 床心 理士, ケ ース ワーカ ー , 看護
師か らな る治療チ ーム に よ っ て な される の であ
る。 治療
チ ーム は治療
に つ い て詳
細な検討会
を行
い , 治療
の進
行の 工 合, 患 者や家族の 状 態や経 過に応じて, 検 討 会を何 度 も繰返 し て ゆ くの で ある。すべ ての 心理療 法につ い て い えるの は, 良好な 治療チ ーム ー患 者
(
家 族)
関 係の成立を は か る の が基
本とな る。 し た がっ て 治療
チ ーム は ,根
気よく努
力を 積み 重ねて ゆかね ぽ な らない 。 なお入院に際して は, 患 者は ほ とん どの 場合
, 拒 否 的で ある。 し か し治療
者が, それぞれの症
例に 応 じて適
切な説得
を行
え ば 成 功 する。 両親
や, 影響
力の ある人に 説得
させ る と よい とい う考え方 も ある が, 治 療者に よ る説得
が, その後
の治療
に とっ て も, もっ とも好ま しい 。 入院 中の 患 者は, しぼしば異常行動
を 示 す。 入 院頭 初は,表
面 的に は従順で,看護
一42
一神経 性無食欲症 (摂食障 害)につ いて(島田)
師や 医師, その 他 治
療
ス タ ッ フ に素直な態 度で 接 し て い る こ と が多
い 。 し か し 患 者は こ の 間, 治 療ス タ ッ フ や他 患の 様 子, 病棟
内の状 況 等を よ く観 察して お り,ある時 期か ら異 常行 動が出現しは じ め る。 病 棟 内, ある い は広 く院 内を徘 徊す
るが, 巧みに 目立たない ように してい る こ とが多い 。食
事 を全 く とらない が ,摂食
した よ うに見せ か けて捨て て し まっ た り, トイ レで 嘔吐 した りする。 ま た,他
患の食物
を 盗み,冷蔵庫
の中
な どが荒
らされて い る。 残飯あ
さ りも
珍し くない 。 こ の 他 些 細な物を盗む。 治療ス タ ッ フ との会 話に も, よ く計算さ れ た嘘 言が多
い 。 こ れ らに つ い ては , 治療ス タ ッ フは 気がつ い て も, 直接 的に 注 意する こ とは避けた方が よい 。 直 接 的に 患 者の 問題行動
を指摘
し,注意
す る と, か えっ て反
抗 的 とな り, 異常
行動
は エ ス カ レ ー トする 。食
事に関する会話 もしない 方が よい 。 特に説 得 し て食 事を とる よ うにす すめ る こ とは逆 効 果を も た らすだけで ある。 ま た 「よ く食
べ た」,「
少
し肥っ て きた」 な どはげましの つ もりで言っ た りする こ とも避 けるべ きである。 体 重につ い て も無 関心 を よそ お う方 がよい 。 患者
の中
に は,頻
り に体
重を は か る場合 があ
るが,治療者
は, 見て 見ぬ ふ りをして い る方 が よ い。 ま た無 断離 院 も珍 しくない 。 患 者は, 家族 こ とに母 親に 会い たい こ とを訴えるが, 治療
者は 「も う少し よ くな っ て か ら」 と, やわ らか くそ らし て お く。 そん な場 合に無 断離院が多い ようで ある。 し か し行先
は必 ず 自宅へ帰
っ て い るの で , 自宅 と連絡
を とっ て速やか に連 れ戻 す よ うにする。家族 療 法 以外に も, 多 くの心 理療 法が試み られてい る。
精
神分 析 的心 理療法 で は, 患 者の 無 意識の 葛藤
状 況を意識 化さ せ る よ う導 き, 食 行 動を は じめ とす る病 的な適 応か ら, 現 実 的 適応が 可能 なよ うに治 療する のが原 則で あるが,治
療 者との よき人 間 関係がで きる と治療
効果
が見 られるとい う。 鮒 行 動 療 法に よ り本症を治療 する こ とは, わ が 国に お い て も近年, 試み られる ように な り, その 成 績が報告
されて い る。行動療法
として は , 一つ は , 患者 が, 摂 食や体重 増 加に, 不安や恐 怖を抱い て い る 場合,系
統的脱 感作
療法を行 うの で ある。 患 者の抱
い て い る不 安や 恐怖
を先 ずす べ て 調べ て ゆ き , 程 度の軽
い もの か ら重い もの へ と段階 的に並べ て , 心身
の 弛緩した状態
に お い て, そ の イ メ ージに慣
れさせ て, 次 第に不安, 恐 怖を軽 減させて ゆ く方法
で ある。第
二 の方 法は オペ ラ ン ト条 件づけ療 法で ある 。 本症 患 者は活 動 的で ある点に 注 目し て ,予
め患者
の行動
を制限
した り, 患者の 要 求する品物
を制限
し て お く。患
者 が摂食
した り, 体 重増 加が認め られる とそ れに応 じて , 行 動 制 限を ゆる め, 行動 範
囲を段階 的に ひろげてゆ く。 あるい は 患者の欲す るTV
を許可 し た り, 龍谷大学論集 一43
一Ryukoku University Ryukoku Umversrty ラ ジオ , 読
書
,外
出等
許可 した りする。 こ の よ うに患 老が現実
的適
応に 慣れ る よ うに 操 作 するの である。 ま た , 患 者の 摂 取し た カ ロ リ ーに 比例してtoken
(
代用
貨 幣)
を与え, token に よっ て, 患 者は , 行 動,物
品 を購
入する こ とが 出来
る よ うにする方
法 もある。 い ず れに し て もこ の 方 法で は, 従来
の 考え方
の よ うに , 患 者の摂 食, 体重 増 加, 異 常 行動に 表 面 的には 無 関心に 接しな が ら心 理療法
を進
め てゆ くの とは逆
の や り方であ
り, か えっ て 失 敗に終
わ る こ とがあ る。 各 症 例ご とに心 理療 法は, 慎 重になされね ば ならない こ とは 当然で はあ る が, 患者
の治療
が入院 期 間中
だけで な く, 無事
退 院 出来た とし て も, その後数
年
間 とい う長期に わた っ て, 通 院 治 療 を続 け な けれぽな らない こ と, 退 院後
の 家庭 環 境が改善
されて い なけれぽ, 折 角の 入院 治療 も無駄になっ て し ま うこ と な どを考
える と家 族療法
に最
も重点
がお か か れるべ きであろ う。2
)
身体療法
先に
述
べ た ご とく,An
の 発症は心理的なもの で あり, 心 理療 法が治 療の 基 本である とい う考えが,今
日支
配 的で ある。 しか し ながら,患
者の 身体
状態
が, 極端に悪
い 場合
は, 生命
を先 ず救
うとい うこ と, また その よ うな最 悪の 身 体 状態
で は, 心 理療
法を行っ て も,患 者に は心 理療
法に 反応 す るだ けの精
神 的 予 備力
もない こ とか ら,直
ち に心 理療法
が効果
を期待
出来
ない の で ,あ
る程度
ま で, 身 体 状 態を 回復
させ るこ とが先決
と な る。 身体療法
も種々試み られて い るが,身体状態
を 回復
させ る為
の カロ リ ー補
給 として は ,経鼻
腔栄養
が用
い ら れる。 但 しこれ に対して は , non −verba1 な摂食
の 強 制 となるの で , 永 続 的効 果は望
めない の で や む を得
ない 場合
以外
は用
い ない 方が よい とい う意
見があ る。少
な くとも患 者に 苦痛
を与え,治療
者に 対し, 恐怖感
,嫌
悪 感を与え ない よ うに 留意す
る こ とが大
切で ある。 それに は, こ の 方 法が それ 程苦
痛で ない こ と, こ の 方 法が患
者の身 体状 態に とっ て必要で ある こ とな どを よく説 明し, 患老
を十分納得
させた 上で, 徐々 に 投 与量を増 やしてゆ くの が よい とされてい る。 い ずれ に して も本 症の 治療は, た だ 太 らせれぽよい とい うもの では事を十 分 理 解 し て いなけれ ば な らない。IVH
が有
効で ある との報 告も あ り。薬物療
法を含
め , 身体
療 法の 結果は, 良 好 な 結果
が 得 られた と報告
された り,効果
が なか っ た と され た りするが, これは 同 じ療 法を行 う場合で も, 治療 者一患者
間の 心 理的関係
, 信頼
関係
, 治療
に対し患
者が どの 程 度納 得し て い る か, 患者の 心 理状 態が治療
を受
け 入れる ように な っ て い るかな どの 心 理面
の 影響
が大 ぎい と考 え られる。 一44
一 神経性無食欲症 (摂食障害)につい て(島田)お わ り に
An
に つ い て,厚
生省特定疾
患 ・調査研究
班が1981
年
に組織
された。 その前
よ りAn
の 患 者の 問題を 考察
し て きたが筆
者の専
門外で ある消化 器 内科
, 内 分 泌内
科,産婦
人科関連
の業績
や研究報告
に つ い て は触
れ ない で い る。筆者
は14
歳の 女性(
体重14kg )
が小 児科 よ り紹
介され,精神
科 医と共 同観 察を し て きた こ とがある。An
の 中核群
に つ い て ,患
者の 生 育暦, 本人の 性 格, 両親
との関
係, 家庭環
境
に つ い て , つ ぶ さに情 報分析
をお こない , 患者 を と りま く対
象関
係を調 整 す る こ とに より症 状 改善を見て きた 。An
の本態につ い てなお明確でない現 在, 患者の 人 間関係を再 度 見 直す 必 要がある。これ らの 考 えを もとに 再
育
児療
法 と銘 打っ て,An
の 入院 治 療を実 施 し て い る心療 内科 医が 心身 医学会 誌にその 効 果を発表
して い る。患 者の みが 次
第
に増
加してい る現実
は, 社会
心 理学的
な 立場か らの検討
が必 要であ り, それに ともなっ た 予防 的, 治療
的ア プ ロ ーチ が試
み られ ね ぽ な らな い こ とを示 し て い る と考
えて い る。 註 (1)厚生省特定疾患 「中枢1
生摂食異常 調査 研究 班」昭和56年度研究 報告書 (1981
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