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全国社会科 教育学会 第62 回全国研究大会 2013・11・9(土)
シンポジウ ム(山口 大 学共通教育 棟1 番教室)
批判的教科書活用論に基づく社会科授業作りの方法
―教育内容開発研究に取り組む教師文化の醸成―
藤瀬泰司 (熊本大学)
Ⅰ.問題の 所在―教 育 内容開発研 究の不拡 大 問題―
本発表の 目的は, 批 判的教科書 活用論と い う教科書活 用法を提 起 することに よって,教
育内容開発 研究に取 り 組む教師文 化を醸成 す る手立てを 具体的に 示 すことであ る。
教養主義 に基づく 我 が国の社会 科では, 教 科書記述を 誰に対し て も中立で公 平な絶対的
真理として 学習させ る 授業が作ら れやすい 。 しかしなが ら,この よ うな授業作 りでは,民
主的な国家 ・社会の 形 成者を育成 すること は 難しい。な ぜなら, 一 著作物にす ぎない教科
書記述を中 立公平な 絶 対的真理と して教え る ことは,権 威や常識 に 盲従する国 家・社会の
順応者を育 成してし ま うからであ る。教養 主 義の授業作 りでは, 国 家・社会の 順応者は育
成できても 国家・社 会 の形成者は 育成でき な いわけであ る。
こうした 授業作り の 課題を克服 するため に ,我が国の 社会科教 育 研究は,教 育内容開発
研究という 授業作り の 方法を提起 してきた 。 教育内容開 発研究と は ,教養主義 に代わる理
論を構築し て授業の 目 標・内容・ 方法を再 構 成する授業 作りの方 法 である 1)
。 社会科 学科
や社会問題 科の授業 開 発研究が典 型的であ る 。社会科学 科は,学 問 的な理論や 解釈を教育
内容にする 授業理論 を 提起して, 科学的な 社 会認識形成 を保障す る 授業を開発 した 2)
。ま
た,社会問 題科は, 社 会問題を教 育内容に す る授業理論 を提起し て ,よりよい 国家や社会
のあり方を 議論させ る 授業を開発 した 3)
。我 が国の社会 科教育研 究 は,教育内 容開発研究
の方法を提 起するこ と によって, 権威や常 識 に盲従しな い国家・ 社 会の形成者 を育成する
社会科授業 の具体像 を 提示してき たわけで あ る。
しかしなが ら,この 授 業作りの方 法は,一 部 の研究熱心 な教師に し か支持され ていない
のではない だろうか 。 なぜなら, 教科書の 使 用義務があ る我が国 の 学校教育 4)
,とり わけ
教科書が無 償給与さ れ る小中学校 の教育現 場 では,ほと んどの教 師 は,教科書 を教育内容
にしない教 育内容開 発 研究よりも ,教科書 を 教育内容に して指導 方 法だけを改 善する教材
開発研究の 方法に基 づ いて授業を 作ってい る と考えられ るからで あ る。その結 果,教科書
記述を中立 公平な絶 対 的真理とし て学習さ せ る授業が一 向に少な く ならず,国 家・社会の
順応者を育 成してし ま うという課 題がいつ ま でも全国各 地で再生 産 されてしま う。したが
って,教科 書の使用 義 務があると いう状況 の 下で教育内 容開発研 究 の普及・拡 大を図ろう
とすれば, 教材開発 研 究に代わる 教科書活 用 法を提起す ることに よ って,教科 書を教育内
容にするだ けでは市 民 育成が難し いことを 教 師に自覚さ せる必要 が あるのでは ないか 5)
。
そうすれば ,教科書 と は異なる教 育内容を 開 発して市民 育成を図 る 教育内容開 発研究の必
要性を理解 できるた め ,それに取 り組む教 師 文化が次第 に醸成さ れ よう。教科 書の使用義
務があると いう状況 に 加えて,授 業経験の 乏 しい若手教 員が急増 し ている我が 国の現状で
2
は,教材開 発研究に 代 わる教科書 活用法を 提 起しない限 り,教育 内 容開発研究 に取り組む
教師文化を 醸成する こ とは極めて 難しいわ け である 6)
。
それでは ,どのよ う な教科書活 用法を提 起 すれば,教 師は,教 科 書を教育内 容にするだ
けでは市民 育成が難 し いことを自 覚できる の だろうか。 本発表で は ,この問い に答えるた
めに,批判 的教科書 活 用論という 教科書活 用 法を提唱し たい。批 判 的教科書活 用論とは,
教科書記述 が多様な 解 釈の一つに 過ぎない 相 対的真理で あること や 不公正な社 会の現実の
生産と変革 に関わる 政 治的実践で あること を 学習させる ことによ っ て,教科書 が中立公平
な絶対的真 理ではな い ことを子ど もに理解 さ せる授業作 りの方法 で ある。した がって,こ
の方法に基 づいて授 業 を開発すれ ば,教科 書 だけに依ら ない教育 内 容開発の必 要性を実感
できるため ,教科書 を 教育内容に するだけ で は,それを 中立公平 な 絶対的真理 として教え
ることしか できず, 国 家・社会の 順応者は 育 成できても 国家・社 会 の形成者は 育成できな
いことをよ りよく自 覚 できよう。
以上のよ うな問題 意 識のもと, 本発表で は ,批判的教 科書活用 論 という教科 書活用法を
提起するこ とによっ て ,教育内容 開発研究 に 取り組む教 師文化を 醸 成する手立 てを具体的
に示すこと を目的と す る。なお, 批判的教 科 書活用論に は,教科 書 の相対的真 理性と政治
的実践性を 学習させ る 授業作りの 2つの方 法 があるが, 本発表で は ,発表者の 担当科目で
解説してい る前者の 方 法について 報告した い 7)
。
Ⅱ.批判的 教科書活 用 論に基づく 社会科授 業 の実際―教 科書の相 対 的真理性の 学習―
1.「日中全 面戦争 」の 紙面構成と その選択 理 由
批判的教科 書活用論 に 基づく授業 作りの方 法 は,大学2 年次生を 対象 に開講して いる「中
等社会科教 育Ⅰ」と い う科目で解 説してい る 。この科目 は,中学 校 教員の免許 取得のため
に必ず履修 しなけれ ば ならないた め,毎年 , 教育学部と 文学部の 学 生 40~60 名が受講す
る。この科 目で使用 し ている中学 校歴史教 科 書の紙面構 成を示す と ,図1のよ うに表すこ
図1 中学 校歴史教 科 書の紙面構 成―「日 中 全面戦争」 の場合―
写 真 「 ラ ク ダ で 物 資 を 運 ぶ 日 本 兵 」
地 図 「 日 中 戦 争 の 広 が
り 」
写 真 「 南 京 陥
落 を 祝 う 人 た
ち 」
写 真 「 町 に 出
さ れ た 看 板 」
写 真 「 動 員 さ
れ た 朝 鮮 の 若
者 た ち 」
日 中 全 面 戦 争
日 中 戦 争 の 勃 発
P1…1937 年 7 月 7 日に盧溝橋事件が発生,
日 中 戦 争 の 開 始
P2…1937 年末に南京占 領,南京事件の発
生 , 中 国 政 府 の 拠 点 が 漢 口 や 重 慶 に 移 転
泥 沼 化 す る 戦 争
P1…国民党と共産党の内戦停止,1937 年 9
月 に 抗 日 民 族 統 一 戦 線 が 結 成
P2…中国における抗日意識の高まり,日本
の 短 期 決 戦 の 見 込 み が 破 綻
強 ま る 統 制 経 済
P1…1938 年 4 月に国家総
動 員 法 が 公 布 ,1940 年
に 大 政 翼 賛 会 が 結 成
P2… 生 活 必 需 品 の 切 符 制
や 米 の 配 給 制 ,農 村 の 人
手 不 足 , 思 想 の 弾 圧
P3…皇民化政策(創始改名
や 志 願 兵 制 度 ) の 推 進
3
とができる 8)
。
この紙面の タイトル は 「日中全面 戦争」で あ る。本文は,「日中 戦争 の勃発」「泥 沼化す
る戦争」「強 まる統 制経 済」という 3つの小 見 出しで構成 され,各 小 見出しは2 つ又は3つ
の段落で構 成されて い る。図1中の P が「段落」を意味している。資料は,写真「ラクダ
で物資を運 ぶ日本兵 」,地図「日中 戦争の広 が り」,写真「 南京陥落 を 祝う人たち」,写真「町
に出された 看板」,写真「動員され た朝鮮の 若 者たち」と いう4枚 の 写真と1枚 の地図で構
成されてい る。この よ うに,「日中 全面戦 争」という紙面 は,見開 き の本文が3 つ程度の小
見出し,資 料が5枚 程 度の写真や 地図等で 構 成される, 極めて一 般 的な中学校 の教科書紙
面となって いる。
それでは,なぜこの 教科 書紙面を選 び講義で 使 用するのか 。その理 由は 次の2点で ある。
1点目は, 批判的教 科 書活用論に 基づく社 会 科授業の実 際を具体 的 に示すこと ができるか
らである。2013 年 4 月の教育実習において,本学部の4年生が批判的教科書活用論に基
づいてこの 紙面を授 業 化し実践を 行った 9)
。 そのため, 講義では , この授業実 践のビデオ
記録を使っ て,批判 的 教科書活用 論に基づ く 社会科授業 の実際を 受 講者に視聴 させること
ができる。 2点目は , 批判的教科 書活用論 に 基づく授業 作りの有 効 性を実感さ せることが
できるから である。 発 表者と教育 実習生が 開 発した授業 は,写真 の 使い方や発 問の仕方・
順序に若干 の違いが 見 られるが, 学習課題 や それに対す る回答の 設 定等,授業 の骨格につ
いてはほぼ 同じもの と なっている 。そのた め ,発表者と 教育実習 生 が開発した 授業を比較
検討させれ ば,批判 的 教科書活用 論に基づ く 授業作りの 方法が授 業 経験のほと んどない学
生にとって も有効で あ ることを実 感させる こ とができる 。以上の よ うに,「日中 全面戦 争」
の紙面を使 うことに よ って,批判 的教科書 活 用論に基づ く社会科 授 業の実際を 具体的に提
示するとと もに,そ の 授業作りの 有効性を 学 生に実感さ せること が できるわけ である。次
節では,発 表者が批 判 的教科書活 用論に基 づ いて開発し たこの紙 面 の授業モデ ルの詳細を
紹介しよう 。
2.「日中全 面戦争 」の 紙面を使っ た授業の 実 際
批判的教科 書活用論 に 基づいて「 日中全面 戦 争」の紙面 を授業化 す ると,次頁 の資料1
のような授 業モデル を 開発できる 。授業は 大 きく3つの 段階で構 成 されている 。
第1段階 は,「教 科書 が考える学 習課題の 回 答を予想さ せる」段 階 である。ラ クダで軍需
物資を運ぶ 日本兵の 写 真や戦争が 時間的・ 空 間的に拡大 するプロ セ スを示す地 図,南京の
陥落に喜び 戦争の早 期 終結を期待 する人々 の 写真という 3つの資 料 を使って「 早く終わる
と思ってい た日中戦 争 が長期化し たのはな ぜ だろうか」という本 時の 学習課題を 導入する。
そして,こ の課題に 対 する答えを 教科書の 記 述に注目さ せて予想 さ せる。おそ らく子ども
たちは,「1937 年 9 月に提携が実現し,抗日民族統一戦線が結成されました」「中国民衆
の抗日意識 はいっそ う 高まり,日 本の短期 決 戦の見こみ ははずれ , …(中略) …」という
記述に注目 すると考 え られる。そ のため,「日 中戦争が長 期化した の は抗日民族 統一戦線が
結成された から」「 日中 戦争が長期 化したの は 中国民衆の 抗日意識 が 高まったか ら」という
予想を立て る子ども が 多いのでは ないだろ う か10)
。第1段 階では ,学習課題の 回答を教科
書記述に注 目して予 想 させること によって , 本時の学習 のめあて ( 日中戦争が 長期化した
理由の解明 )をしっ か りと意識さ せるわけ で ある。
4
資料1 批 判的教科 書 活用論に基 づく社会 科 授業の実際 ―「日中 戦 争」の場合 ―
(1)本時の目標
日 中 戦 争 が 長 期 化 し た 理 由 が ,国 外 的 に は 抗 日 民 族 統 一 戦 線 の 結 成 や 援 蒋 ル ー ト に よ る 中
国 支 援 ,国 内 的 に は 国 家 総 動 員 法 の 公 布 や 大 政 翼 賛 会 の 結 成 ,国 家 の 情 報 統 制 に あ る こ と を
説 明 で き る 。ま た ,長 期 戦 の 結 果 ,切 符 制 や 配 給 制 ,農 村 や 戦 地 の 人 手 不 足 な ど 人 々 に 多 大
な 影 響 を 与 え た こ と を 理 解 で き る 。
(2)本時の展開
段 階 教 師 の 指 示 や 発 問 教 授 学 習 活 動 資料 子 ど も に 習 得 さ せ た い 知 識
1
教 科
書 が
考 え
る 学
習 課
題 の
回 答
を 予
想 す
る 段
階
・ 写 真 の 動 物 は 何 だ ろ う
か 。
・ラ ク ダ で 運 ん で い る 物 資
は 何 だ ろ う か 。
・写 真 が 撮 影 さ れ た 山 西 省
の 場 所 を 確 認 し よ う 。
・ラ ク ダ は ど の よ う な 場 所
で 活 躍 す る 動 物 か 。
・山 西 省 は ,ど の よ う な 気
候 帯 だ ろ う か 。
・こ の 写 真 は ,な ん と い う
戦 争 の 一 場 面 だ ろ う か 。
・日 中 戦 争 は ,い つ 始 ま っ
て い つ 終 結 し た 戦 争 だ
ろ う か 。教 科 書 の 地 図 で
確 認 し よ う 。
・写 真 は 日 中 戦 争 が 始 ま っ
た 年 の 銀 座 。季 節 は い つ
だ ろ う か 。
・国 民 の 人 々 は 何 を 喜 ん で
い る の だ ろ う か 。
・南 京 は ど こ の 首 都 か 。場
所 も 確 認 し よ う 。
・国 民 は な ぜ 首 都 南 京 の 陥
落 を 盛 大 に 祝 っ た の だ
ろ う か 。
・国 民 は 南 京 事 件 の こ と を
知 っ て い た だ ろ う か 。
◎ す ぐ に 終 わ る と 思 っ て
い た 日 中 戦 争 が 長 期 化
し た の は な ぜ だ ろ う か 。
T 発問する
P 答える
T 発問する
P 答える
T 指示する
P 地図を見る
T 発問する
P 答える
T 発問する
P 答える
T 発問する
P 答える
T 指示する
P 地図を見る
T 補足する
T 発問する
P 答える
T 発問する
P 答える
T 発問する
P 答える
T 発問する
P 答える
T 発問する
P 答える
T 発問する
P 予想する
①
③
②
③
・ フ タ コ ブ ラ ク ダ 。
・食 料 や 弾 薬 ,武 器 や 被 服 な ど 。
・ 中 国 華 北 地 方 。 省 都 は 太 原 。
・ 砂 漠 。 乾 燥 し た 地 域 。 中 東 や
北 ア フ リ カ 。
・ 乾 燥 帯 に 属 し て お り , ス テ ッ
プ 気 候 で あ る 。
・ 日 中 戦 争 。
・1937 年 7 月 7 日北京郊外の盧
溝 橋 で 始 ま り ,1945 年 8 月 15
日 ま で 続 い た 戦 争 。8 年間。
・み ん な 長 袖 を 来 て い る の で 冬 。
撮 影 日 は1937 年 12 月 13 日。
・ 日 本 軍 が 南 京 を 占 領 し た と い
う 報 道 を 聞 い て 喜 ん で い る 。
・ 中 華 民 国 の 首 都 。
・ 首 都 の 南 京 が 陥 落 し て 戦 争 の
終 結 も 近 い と 思 い 喜 ん で い る
の で は な い か 。
・ 多 く の 南 京 市 民 が 殺 害 さ れ た
こ と は 当 時 報 道 さ れ な か っ
た 。
・ 中 国 の 国 民 党 と 共 産 党 が 協 力
し て 日 本 に 対 抗 し た か ら で は
な い だ ろ う か 。
5
教 科 書 で 予 想 し よ う 。
2
教 科
書 が
考 え
る 学
習 課
題 の
回 答
を 探
求 す
る 段
階
・抗 日 民 族 統 一 戦 線 は い つ
結 成 さ れ た だ ろ う か 。
・そ れ ま で 中 国 は ど の よ う
な 状 態 だ っ た か 。
・中 国 の 内 戦 は い つ か ら 始
ま っ た の だ ろ う か 。教 科
書 か ら 探 し て み よ う 。
・日 本 は な ぜ ,日 中 戦 争 が
短 期 決 戦 で 終 わ る と 考
え た の だ ろ う か 。
T 発問する
P 答える
T 発問する
P 答える
T 指示する
P 調べる
T 説明する
T 発問する
P 答える
②
②
②
・
1937 年 9 月。
・ 内 戦 。
・「 袁 世 凱 の 死 後 ,各 地 は 軍 閥 に
よ っ て 支 配 さ れ た 」の で 1916
年 か ら 1937 年までの約 20 年
間 中 国 は 内 戦 状 態 。
・中 国 で は20 年以上も内戦が続
い て い た の で , 中 国 政 府 は す
ぐ に 降 伏 す る と 考 え た か ら 。
・日 中 戦 争 が 長 期 化 し た 原
因 は ,内 戦 の 停 止 だ け だ
ろ う か 。日 本 国 内 に 原 因
は な い の だ ろ う か 。教 科
書 で 探 し て み よ う 。
・国 家 総 動 員 法 と は ,ど の
よ う な 法 律 だ ろ う か 。
・戦 争 に 必 要 な 物 資 に は ど
の よ う な も の が あ る だ
ろ う か 。
・な ぜ 議 会 で 話 し 合 う こ と
な く 物 資 を 動 員 で き る
よ う に し た の だ ろ う か 。
・国 家 総 動 員 法 が 成 立 す る
と ,な ぜ 日 中 戦 争 が 長 期
化 す る の だ ろ う か 。
・写 真 の 看 板 に は ,何 と 書
か れ て い る だ ろ う か 。
・こ の 写 真 の 撮 影 日 は い つ
頃 か 。「 春 吉 五 番 丁 常 会 」
と は 今 の ど こ だ ろ う か 。
・ 各 地 の 町 内 会 は ,1940
年 に 結 成 さ れ た 団 体 の
下 部 組 織 に な る 。何 と い
う 団 体 だ ろ う か 。
T 発問する
P 予想する
T 発問する
P 答える
T 発問する
P 答える
T 発問する
P 答える
T 発問する
P 答える
T 発問する
P 考える
T 説明する
T 発問する
P 考える
T 発問する
P 答える
④
・ 国 家 総 動 員 法 の 公 布 が 関 係 し
て い る の で は な い だ ろ う か 。
・ 大 政 翼 賛 会 の 結 成 が 関 係 し て
い る の で は な い だ ろ う か 。
・ 戦 争 に 必 要 な 物 資 を 議 会 で 話
し 合 う こ と な く 政 府 が 動 員 で
き る 法 律 。1938 年に公布。
・ 食 料 , 燃 料 , 鉄 や 銅 , 衣 服 や
靴 , な ど 兵 士 が 必 要 な も の は
す べ て 。
・ 議 会 で 話 し 合 う と 動 員 物 資 の
決 定 に 時 間 が か か っ た り , 否
決 さ れ た り す る か ら 。
・ 議 会 で 反 対 さ れ る こ と な く ,
戦 争 に 必 要 な 物 資 を 生 産 し 戦
地 に 送 る こ と が で き る か ら 。
・「 町 常 会 の 決 議 に よ り パ ー マ ネ
ン ト の お 方 は 当 町 通 行 を 御 遠
慮 下 さ い 春 吉 五 番 丁 常 会 」
・1939 年 6 月に撮影された看板。
春 吉 五 番 丁 と は 現 在 の 東 京 本
郷 付 近 で あ る 。
・ 大 政 翼 賛 会 。
6
・「 大 政 」 と 「 翼 賛 」 は そ
れ ぞ れ ど の よ う な 意 味
を も つ 漢 字 だ ろ う か 。辞
書 で 確 認 し よ う 。
・パ ー マ 女 性 の 通 行 を 禁 止
す る 看 板 を 作 る こ と が
な ぜ 国 の 政 治 を 助 け る
こ と に な る の だ ろ う か 。
・町 常 会 で は 他 に ど の よ う
な こ と が 話 し 合 わ れ た
だ ろ う か 。
・大 政 翼 賛 会 が 結 成 さ れ る
と ,な ぜ 日 中 戦 争 が 長 期
化 す る の だ ろ う か 。
T 指示する
P 辞書を引く
T 発問する
P 答える
T 発問する
P 考える
T 説明する
T 発問する
P 答える
・「 大 政 」は「 天 下 国 家 の 政 治 」,
「 翼 賛 」は「 力 添 え す る こ と 」
の 意 味 。政 府 の 支 援 会 で あ る 。
・ 機 材 が 必 要 な パ ー マ は 戦 争 に
非 協 力 的 な 女 性 が す る こ と 。
・ 贅 沢 を 我 慢 に し て 戦 地 に 物 資
を 届 け る こ と が 国 民 の 義 務 。
・ 毎 月 開 か れ た 会 合 。 政 府 の 方
針 が 伝 達 さ れ 資 源 回 収 ・ 勤 労
奉 仕 ・ 防 空 演 習 等 が 話 し 合 わ
れ た 。
・ 大 政 翼 賛 会 が 結 成 さ れ る こ と
に よ っ て , 政 府 の 方 針 や 命 令
が 国 民 一 人 ひ と り ま で 行 き 届
き 国 民 の 協 力 体 制 が で き た か
ら 。
3
教 科
書 が
考 え
る 学
習 課
題 の
回 答
を 吟
味 す
る 段
階
・ま と め よ う 。今 日 の 学 習
を 踏 ま え る と ,日 中 戦 争
が 長 期 化 し た 理 由 は 何
だ ろ う か 。
・日 中 戦 争 が 長 期 化 し た 理
由 を 他 に 考 え る こ と は
で き る か 。こ の 3 つ だ け
が 戦 争 を 長 期 化 さ せ た
の だ ろ う か 。
・ 最 後 に 写 真 を 見 て み よ
う 。な ぜ 朝 鮮 で 志 願 兵 を
募 集 し た の だ ろ う か 。
・ 日 中 戦 争 の 長 期 化 は ,
人 々 の 生 活 に ,他 に ど の
よ う な 影 響 を 及 ぼ し た
だ ろ う か 。教 科 書 か ら 探
し て み よ う 。
T 発問する
P 答える
T 発問する
P 予想する
T 補足する
T 発問する
P 答える
T 発問する
P 答える
⑤
◎ 日 中 戦 争 の 長 期 化 は , 国 外 的
に は 中 国 の 内 戦 停 止 , 国 内 的
に は 国 家 総 動 員 法 と 大 政 翼 賛
会 の 成 立 が 原 因 で あ る 。
・ 南 京 事 件 が 正 確 に 報 道 さ れ な
か っ た こ と を 考 え る と , 戦 争
に 関 す る 情 報 が 正 確 に 伝 達 さ
れ な か っ た こ と が 戦 争 を 長 引
か せ た の で は な い か 。
・ 欧 米 諸 国 が 援 蒋 ル ー ト を 使 っ
て 中 国 を 支 援 し た こ と が 戦 争
を 長 引 か せ た の で は な い か 。
・ 日 中 戦 争 が 長 期 化 し た こ と に
よ っ て , 兵 士 が 不 足 す る よ う
に な っ た た め 。
・ 軍 需 品 の 生 産 が 優 先 さ れ た た
め , 生 活 必 需 品 が 切 符 制 , 米
が 配 給 制 に な っ た 。
・ 農 村 で は 人 手 が 不 足 し た た め
食 糧 難 に な っ た 。
・「 皇 民 化 」の 名 の も と に ,創 氏
改 名 が 進 め ら れ た 。
7
第2段階 は,「教科 書 が考える学 習課題の 回 答を探求さ せる」段 階で ある。この 段階では,
日中戦争が 長期化し た 理由を国外 と国内に 分 けて探求さ せる。ま ず ,子どもた ちの予想を
起点にして 戦争が長 期 化した国外 要因を探 求 させる。「抗 日民族 統一 戦線が結成 されたのは
いつか」「中 国の内 戦は どのくらい 続いたの か」「日本の短 期決戦の 見 込みが外れ たのはな
ぜか」とい う問いに 対 する答えを 考えさせ る ことによっ て,子ど も たちが第1 段階で予想
した回答が 戦争長期 化 の理由であ ることを 確 認する。し かしなが ら ,教科書が 想定する戦
争長期化の 理由は国 外 ばかりでは ない。そ こ で,次に「 日中戦争 が 長期化した 理由は国外
ばかりにあ るだろう か 」という問 いを投げ か け,再び教 科書の記 述 に注目させ る。する と,
小見出し「 強まる経 済 統制」の記 述に注目 し て,国家総 動員法の 公 布や大政翼 賛会の結成
が戦争の長 期化と関 わ っているこ とを予想 し よう。こう した子ど もた ちの予想を 踏まえて,
「戦争に必 要な物資 に はどのよう なものが あ るか」「国家 総動員 法が 成立すると ,なぜ日中
戦争が長期 化するの か」「パーマ女 性の通行 を禁 止する看板 を作るこ と がなぜ国の 政治を手
助けするこ とになる の か」「大政翼 賛会が 結成 されると, なぜ日中 戦 争が長期化 するのか」
という問い を考えさ せ ることによ って,国 家 総動員法の 公布や大 政 翼賛会の結 成を通して
日本の総力 戦体制が 完 成した結果 ,日中戦 争が 長期化した ことを把 握 させる。こ のように,
第2段階で は,子ど も が予想した 学習課題 の 回答を確認 ・修正す る ことによっ て,教科書
が想定する 回答の全 体 像を把握さ せるわけ で ある。
第3段階 は,「教 科書 が考える学 習課題の 回 答を吟味さ せる」段 階 である。ま ず,この段
階では,第 2段階で 学 習したこと を整理す る 。そこで,「 早く終 わる と思ってい た日中戦争
が長期化し たのはな ぜ だろうか」 という本 時 の学習課題 を再提示 し ,抗日民族 統一戦線の
結成という 国外要因 と 国家総動員 法の公布 や 大政翼賛会 の結成と い う国内要因 が複合した
結果,日中 戦争が長 期 化したこと を振り返 ら せる。そし て,その 上 で「日中戦 争が長期化
した理由を 他に考え る ことはでき ないだろ う か」という 問いを投 げ かける。す ると,南京
事件の事実 が国民に 知 らされなか ったこと を 想起して,「 日中戦 争の 様子が正確 に報道され
なかったこ とが日中 戦 争を長期化 させたの で はないか」 という考 え を発表する 子どもがい
るかもしれ ない。ま た ,日本軍が 広州や海 南 島等の大陸 南岸部を 制 圧している ことに注目
させて,「援蒋ルートによる経済支援が日中戦争を長期化させたのではないか」という考え
を提示すれ ば,この 考 えに興味を もつ子ど も がいるかも しれない 。 第3段階で は,教科書
が想定して いない学 習 課題の回答 を考えさ せ たり示した りするこ と によって, 学習課題に
対する回答 の多様性 を 実感させる わけであ る 。
以上のよ うに,批 判 的教科書活 用論に基 づ く授業「日 中全面戦 争 」は,教科 書が考える
日中戦争長 期化の理 由 を予想・探 求・吟味 さ せることに よって, 教 科書記述が 多様な歴史
解釈の一つ に過ぎな い 相対的真理 であるこ と を子どもに 学習させ る ことをめざ している。
批判的教科 書活用論 に 基づいて日 々の授業 を 開発すれば ,教科書 を 教育内容に するだけで
は国家・社 会の順応 者 は育成でき ても,国 家 ・社会の形 成者は育 成 できないこ とをよりよ
く自覚でき よう。
Ⅲ.批判的 教科書活 用 論に基づく 社会科授 業 作りの方法 ―教科書 を 作品として 読み解く―
前章Ⅱでは ,批判的 教 科書活用論 は,教科 書 が考える学 習課題の 回 答を子ども に予想・
探求・吟味 させる授 業 を開発する ことによ っ て,教科書 記述を多 様 な解釈の一 つにすぎな
8
い相対的真 理として 子 どもに学習 させるこ と を明らかに した。そ れ では,一体 どのような
教科書研究 を行えば , そのような 授業を開 発 できるのだ ろうか。 結 論を先取り すると,教
科書を執筆 者の解釈 に 関係なく写 し取られ た 事実の集積 とみなす 事 実的教科書 観ではな く,
教科書を執 筆者の解 釈 に基づいて 選択され た 事実の集積 とみなす 作 品的教科書 観に基づい
て教科書の 紙面を読 み 解かなけれ ばならな い 。なぜなら ,このよ う な教科書観 に立つこと
によっては じめて, 教 科書だけに 依らない 教 育内容を開 発して授 業 を作ること ができるか
らである。 したがっ て ,教科書を 事実では な く作品とし て読み解 く ということ は,少なく
とも次のよ うな5つ の 段階を踏ま えて授業 を 作ることを 意味しよ う 。
第1段階 は,教科 書 の紙面にお ける小見 出 し間や段落 間の関係 を 分析する段 階である 11)
。
教科書記述 の背後に あ る執筆者の 解釈を読 み 解こうとす れば,表 1 のような分 析枠組みを
視点にする 必要があ ろ う。なぜな ら,教科 書 の本文は, 見出しや 段 落により秩 序立てて構
成されてい るため, そ の文章は, 執筆者が 想 定する社会 事象の因 果 関係に基づ いて記述さ
れていると 考えるこ と ができるか らである 。 そのため, 表1のよ う な枠組みを 視点にして
教科書記述 を分析す れ ば,執筆者 の解釈を より よく分析で きよう。例え ば,「日中全 面戦争」
という教科 書紙面の 場 合,歴史的 分野「③ 原 因―事件・ 出来事― 影 響」の枠組 みを使って
執筆者の解 釈を推測 で きる。小見 出し「日 中戦 争の勃発」では,戦 争が 始まった年 や場所,
その拡大過 程等,日 中 戦争という 出来事・ 事 件そのもの の概要が 記 述されてい る。小見出
し「泥沼化 する戦争 」 では,抗日 民族統一 戦 線の結成や 中国の抗 日 意識の高ま り等,日中
戦争が長期 化した国 外 要因が記述 されてい る 。小見出し 「強まる 統 制経済」で は,日中戦
争の原因と 影響が記 述 されている 。第1段 落 では,国家 総動員法 の 公布や大政 翼賛会の結
成という日 中戦争が 長 期化した国 内要因が 記 述されてい る。続く 第2 段落と第3 段落では,
切符制や配 給制の実 施 ,皇民化政 策の推進 等 ,長期化し た日中戦 争 が国内外に 与えた影響
が記述され ている。 第 1段階では ,小見出 し 間や段落間 の関係を 見 えやすくす る枠組みを
使うことに よって, 一 見すると網 羅的な教 科 書記述を分 析し,執 筆 者の解釈を 推測するわ
けである。
第2段階 は,教 科書の 本文や資料 に関する 問 いを作り ,その答 えを調 べる段階で ある 12)
。
「日中全面 戦争」と い う教科書紙 面の本文 と 資料に関し て問いを 作 りその答え を調べた結
果の一部を 示すと ,次 頁の表2の ように整 理 できる 13)
。こ の段階で は2種類の 問いを作 成
表1 見出 し間・段 落 間の分析枠 組み
分 野 分 析 枠 組 み 使 用 上 の 留 意 点
地 理 ① 理 由 ― 分 布 ・ 広 が り ― 影 響
② 原 因 ― (空 間 的 )課 題 ― 対 策
1 . 分 析 枠 組 み を 分 野 ご と に 設 け て い ま す が , あ く
ま で も 目 安 で す 。 場 合 に よ っ て は , 分 野 を 越 え て
① ~ ⑥ の 枠 組 み を あ て は め , 執 筆 者 の 解 釈 を 大 胆
に 予 想 し よ う 。
2 . ま た 見 開 き に よ っ て は , ① ~ ⑥ が 完 全 に あ て は
ま ら な い 場 合 が あ り ま す 。 ① ~ ⑥ を 組 み 合 わ せ た
り , 又 は 部 分 的 に 使 っ た り し て 執 筆 者 の 解 釈 を 繊
細 に 予 想 し よ う 。
歴 史 ③ 原 因 ― 事 件 ・ 出 来 事 ― 影 響
④ 課 題 ― 対 策 ( 政 策 ) ― 効 果
公 民 ⑤ 背 景 ― 制 度 ・ 仕 組 み ― 役 割
⑥ 原 因 ― (制 度 的 )課 題 ― 対 策
( 発 表 者 作 成 )
9
しその答え を調べる 必 要がある。1つ目は ,発問として の問いで あ る。例えば,「①満 州と
はどこか」 や「②華 北 とはどこか」,「⑫国 民 は南京事件 のことを 知 らなかった のか」等の
問いは典型 的な発問 と しての問い であろう 。 満州が中国 東北地方 を ,華北が中 国北部地方
を指すこと や南京の 虐 殺事件が当 時報道さ れ なかったこ とは,社 会 科教師であ れば誰でも
知っている ことであ る が,中学生 は必ずし も 答えを知ら ない問い で あるため, 教師はその
答えを調べ て語句の 意 味を正確に 把握して お く必要があ る。2つ 目 は,疑問と しての問い
である。例えば,「④ 写 真の場所は どこか 」や「⑤写真 の撮影 年はい つか」,「 ⑧なぜ ラクダ
を使うのか 」等の問 い は,教師も 答えを知 ら ない疑問と しての問 い の典型であ ろう。日本
兵がラクダ で物資を 運 ぶ写真は 1937 年に華北の山西省で撮影されたものであり,物資の
輸送にラク ダを使っ た のは山西省 が乾燥帯 に 属している からであ っ た。このよ うに,第2
段階では, 教科書の 本 文と資料に 関する2 種 類の問いを 作り,そ の 答えを調べ ることによ
って,第1 段階で推 測 した執筆者 の解釈の 妥 当性を検討 するわけ で ある。また ,このよう
にして問い を作り調 査 しておけば ,実際に 授 業展開を構 想する段 階 で,それら の問いのい
くつかを使 うことも で きよう。
第3段階 は,推測 し た執筆者の 解釈を踏 ま えて,授業 の学習課 題 を作りその 答えを準備
する段階で ある 。例え ば,「日 中全面戦 争」の 紙面は,執筆者 が考え る日中戦争 の原因(抗
日民族統一 戦線の結 成 ,国家総動 員法や大 政 翼賛会の成 立)と影 響 (切符制や 配給制の実
表2 「日 中全面戦 争 」の本文と 資料に関 す る調査(一 部抜粋)
見 出 し 本文・資料 問 い ( 発 問 や 疑 問 ) 答 え
日 中 戦
争 の 勃
発
本 文
① 満 州 と は ど こ か 。 ・ 中 国 東 北 地 方 の 旧 称 。 遼 寧 ・ 吉 林 ・
黒 竜 江 の 三 省 を 含 む 。
② 華 北 と は ど こ か 。 ・中 国 の 北 部 地 域 。河 北・山 西・山 東 ・
河 南 の 四 省 。
③ 蘆 溝 橋 と は ど の よ う な
橋 か 。
・ 永 定 河 に か か る 橋 。 全 長 約 270m。
霊 台 橋 の 約 3 倍弱。
写 真「 ラ ク
ダ で 物 資
を 運 ぶ 日
本 兵 」
④ 写 真 の 場 所 は ど こ か 。 ・ 中 国 華 北 の 山 西 省 。
⑤ 写 真 の 撮 影 年 は い つ か 。 ・1937 年。
⑥ ど の よ う な 物 資 を 運 ん
で い る の か 。 ・ 食 料 や 弾 薬 , 武 器 や 被 服 。
⑦ ラ ク ダ の 種 類 は 何 か 。 ・ フ タ コ ブ ラ ク ダ 。
⑧ な ぜ ラ ク ダ を 使 う の か 。 ・山西省は乾燥帯なので荷物の搬送に
は ラ ク ダ が 適 し て い る 。
写 真「 南 京
陥 落 を 祝
う 人 た ち 」
⑨ 写 真 の 場 所 は ど こ か 。 ・ 東 京 銀 座 。
⑩ 写 真 の 撮 影 日 は い つ か 。 ・1937 年 12 月 13 日。
⑪ な ぜ み ん な 喜 ん で い る
の か 。
・首 都 南 京 が 陥 落 し 戦 争 終 結 が 近 い と
思 っ た か ら 。
⑫ 国 民 は 南 京 事 件 の こ と
は 知 ら な か っ た の か 。
・ 南 京 の 虐 殺 事 件 は 報 道 さ れ な か っ
た 。
( 発 表 者 作 成 )
10
施,皇民化 政策の推 進 等)が記述 されてい た 。そのため ,この紙 面 を使って授 業を作る場
合,「なぜ日 中戦争 は長 期化したの だろうか 。その結果,人々にど の ような影響 があったの
だろうか」 という学 習 課題を設定 して,こ の 課題の答え として「 日 中戦争の長 期化の原因
は,国外的 には抗日 民 族統一戦線 の結成, 国 内的には国 家総動員 法 の公布と大 政翼賛会の
結成にある 。また, 日 中戦争が長 期化した 結 果,国内的 には切符 制 や配給制が 実施される
とともに国 外的には 朝 鮮などで皇 民化政策 が 推進された 」という 回 答を準備で きよう。こ
のように, 第3段階 で は,執筆者 の解釈に 基 づいて授業 の学習課 題 を作りその 答えを準備
することに よって, 授 業の目標を 仮設する わ けである。
第4段階 は,作成 し た学習課題 とその答 え の認知的論 理的な妥 当 性を検討す る段階であ
る。まず, 作成した 学 習課題とそ の答えの 認 知的な妥当 性を検討 す る必要があ る。授業を
作る場合, 子どもた ち が授業内容 に対して ど のような見 方・考え 方 を既にもっ ているのか
把握してお かなけれ ば ならない。 しかしな が ら,授業経 験が乏し い 教育実習生 や若手教員
が授業を作 る場合, こ の作業は極 めて難し い 。そこで, 誰にでも で きる子ども の既有知識
の予測方法 として小 学 校の教科書 記述を確 認 することが 考えられ よ う。日中戦 争に関する
小学校の教 科書記述 を 見ると,日 中戦争 が 1937 年に始まり戦火が中国全土に拡大したこ
とは記述さ れている が,戦争の原因 について は ほとんど触 れられて い ない 14)
。したが って,
日中戦争の 原因や影 響 を学習させ る授業を 作 っても,戦 争の原因 に ついて知っ ている子ど
もは少ない し,まし て や国内外の 要因が複 合 して戦争が 起きたこ と に気づいて いる子ども
はいないと 考えられ る ため,仮設 した授業 目 標は子ども の知的な 成 長を十分に 促すことが
できると判 断できる 。 2つ目は, 学習課題 と その答えの 論理的な 妥 当性を検討 することで
ある。教科 書の記述 に 基づくと, 日中戦争 の 原因は,抗 日民族統 一 戦線の結成 ,国家総動
員法や大政 翼賛会の 成 立である。 確かにこ れ ら国内外の 要因は, 日 中戦争が長 期化した理
由として不 可欠なフ ァ クターであ ろう。し か しながら, 日中戦争 が 長期化した 理由は他に
も,援蒋ル ートによ る 中国支援 15)
や国家 によ る情報統制 16)
等を 考え ることがで きるし,
こうした要 因も授業 に 組み込んだ 方が,子 ど もたちも日 中戦争が 長 期化した理 由をより納
得できるの ではない か。したがって ,日中戦 争の 原因と影響 を学習さ せ る授業を作 る場合,
仮設した授 業目標を 一 部修正し, 教科書で は 触れられて いない戦 争 長期化の要 因も取り上
げる必要が あろう。 こ のように, 第4段階 で は,学習課 題とその 答 えの認知的 論理的な妥
当性を検討 すること に よって,仮 設した授 業 目標の適否 を判断し , 必要な場合 には修正す
るわけであ る。
第5段階 は,授業 の 主な発問と 回答を批 判 的教科書活 用論の授 業 過程に即し て配列する
段階である 。具体的 に 「日中全面 戦争」の 場 合で考える と,次頁 の 表3のよう に整理でき
る。学習課 題の回答 を 予想させる 段階では ,「 なぜ日中戦 争が長期 化 したのか」という学習
課題を導入 し,その 答 えを予想さ せる。こ の 場合,子ど もたちは ほ とんど既有 知識をもっ
ていないの で教科書 記 述をもとに 学習課題 の 回答を予想 させる。 た だし,その ような手立
てを講じて も,抗日 民 族統一戦線 の結成に は 気づくこと ができて も ,国家総動 員法の公布
や大政翼賛 会の結成 に まで考えが 及ぶ子ど も はいないだ ろう。次 に 学習課題の 回答を探求
させる段階 では,ま ず 子どもたち が予想し た 回答を起点 にして中 国 国内の事情 によって戦
争が長期化 したこと を 確認する。 その上で , 再度,子ど もにたち に 戦争長期化 の理由を予
想させるこ とによっ て ,日本国内 の事情に 目 を向けさせ ,国内外 の 要因が複合 して日中戦
11
争が生起し たことに 気 づかせる。 学習課題 の 回答を吟味 させる段 階 では,教科 書以外の要
因は他にな いかとい う 問いを投げ かける。 そ うすれば, 南京事件 に ついて国民 が知らなか
ったことに 注目して 日 本の情報統 制が戦争 を 長期化させ たと考え る 子どももい よう。援蒋
ルートに関 しては教 科 書に掲載さ れている 日 本の進軍経 路に注目 さ せて教師が 紹介するこ
とになろう 。このよ う に,第5段 階では, 学 習課題の回 答を予想 ・ 探求・吟味 させるとい
う3つの段 階に即し て 授業の主な 発問とそ の 回答を配列 すること に よって,授 業のアウト
ラインを構 想するわ け である。
以上のよ うに,批 判 的教科書活 用論とい う 教科書活用 法は,教 科 書を一著作 物とみなす
作品的教科 書観に基 づ き教科書の 記述内容 の 妥当性を検 討するこ と によって, 教科書だけ
に依らない 教育内容 を 開発して授 業を構成 す る。それに 対して, 教 材開発研究 という教科
書活用法は ,教科書 を 客観的事実 とみなす 事 実的教科書 観に基づ き 教科書の掲 載資料の妥
当性しか検 討しない た め,教科書 だけを教 育 内容に設定 して授業 を 構成してし まう。その
結果,教科 書が中立 公 平な絶対的 真理では な いことを学 習させる 授 業を開発で きず,教科
書を教育内 容にする だ けでは国家 ・社会の 順 応者は育成 できても 国 家・社会の 形成者は育
成できない ことを自 覚 できない。 批判的教 科 書活用論に 基づけば , 教科書が中 立公平な絶
対的真理で はないこ と を学習させ る授業を 開 発できるた め,教科 書 を教育内容 にするだけ
では国家・ 社会の順 応 者は育成で きても国 家 ・社会の形 成者は育 成 できないこ とをよりよ
く自覚でき よう。
Ⅳ.研究の 意義と課 題 ―事実的教 科書観を も つ教師のた めの授業 作 りの方法―
本発表で は,教科 書 の使用義務 があると い う状況の下 で教育内 容 開発研究の 普及・拡大
を図るため にはどう す ればよいか ,という 問 いに答える ために批 判 的教科書活 用論という
新しい教科 書活用法 を 提起した。 具体的に は ,批判的教 科書活用 論 とは,教科 書を事実で
はなく作品 として読 み 解き,その 記述だけ に 依らない教 育内容を 開 発すること によって,
教科書を教 育内容に す るだけでは 市民育成 が 難しいこと を教師に 自 覚させる授 業作りの方
法であるこ とを明ら か にした。本 発表の考 察 結果に基づ くと,こ の 研究の意義 と課題は次
表3 「日 中全面戦 争 」の紙面を 使った授 業 のアウトラ イン
段階 教 師 の 主 な 発 問 や 指 示 子どもから引き出したい予想や答え
学 習 課 題
の 回 答 を
予 想 す る
・ 日 中 戦 争 が 長 期 化 し た の は な ぜ
だ ろ う か 。
・中 国 で 抗 日 民 族 統 一 戦 線 が 結 成 さ れ た か
ら で は な い か 。
学 習 課 題
の 回 答 を
探 求 す る
・ 日 中 戦 争 が 長 期 化 し た の は な ぜ
だ ろ う か 。
・国 民 党 と 共 産 党 が 手 を 結 び 抗 日 統 一 民 族
戦 線 が 結 成 さ れ た か ら 。
・ 日 中 戦 争 が 長 期 化 し た 国 内 の 原
因 は 何 だ ろ う か 。
・国 家 総 動 員 法 の 公 布 と 大 政 翼 賛 会 の 結 成
を 通 し て 総 力 戦 体 制 を 構 築 し た か ら 。
学 習 課 題
の 回 答 を
吟 味 す る
・ 日 中 戦 争 が 長 期 化 し た 原 因 は ,
他 に 考 え る こ と は で き な い だ ろ
う か 。
・戦 争 の 経 過 を 正 確 に 報 道 で き な か っ た こ
と や 援 蒋 ル ー ト に よ る 中 国 支 援 が 日 中
戦 争 を 長 期 化 さ せ た の で は な い か 。
( 発 表 者 作 成 )
12
の通りであ る。
本研究の 意義は, 批 判的教科書 活用論と い う事実的教 科書観を も つ教師のた めの授業作
りの方法を 提起した 点 である。我 が国の社 会 科教育研究 が洗練し て きた教育内 容開発研究
の方法は, 作品的教 科 書観をもつ 教師のた め の授業作り の方法で あ ったのでは ないだろう
か。なぜな ら,教科 書 とは異なる 教育内容 を 開発したり ,又はそ の 成果を自分 の授業実践
に活かした りできる た めには,教 科書を一 著 作物とみな す作品的 教 科書観をも っているこ
とが前提条 件となる か らである。 しかしな が ら,作品的 教科書観 を もつ教師は 決して多く
ない。むし ろ,教材 開 発研究の方 法に基づ い て授業を作 り,事実 的 教科書観を 日々強化し
ている教師 が少なく な い。そのた め,我が 国 の授業改革 を質的に も 量的にも進 展させよう
とすれば, 作品的教 科 書観をもつ 教師のた め に教育内容 開発研究 の 方法を洗練 しその成果
を蓄積する だけでな く ,事実的教 科書観を も つ教師の教 科書観を 転 換する方策 を示して教
育内容開発 研究の前 提 条件を整備 する必要 が ある。本研 究は,批 判 的教科書活 用論を提起
することに よって, 我 が国の社会 科教育研 究 が視野の外 に置いて き た事実的教 科書観をも
つ教師のた めの授業 作 りの方法を 提起した 点 に意義があ る。
本研究の 課題は2 つ ある。1つ 目は,教 科 書やその活 用に関す る 教師の意識 調査を実施
し,批判的 教科書活 用 論の有効性 をより実 証 的に明らか にするこ と である。本 発表で論じ
た批判的教 科書活用 論 に基づく社 会科授業 作 りの方法を 学生に解 説 した際,教 科書に対す
る簡単な意 識調査を 行 った 17)
。その 結果 ,多 くの学生が 批判的教 科 書活用論を 学んだこと
によって, 教科書を 単 なる客観的 事実の集 積 とみなすの ではなく 執 筆者の解釈 として考え
るようにな ったこと が わかった。 このよう な 意識の変化 が学生だ け でなく教員 についても
言えるのか 調査し,批判 的教科書活 用論の有 効 性を実証的 に明らか に していく必 要がある。
2つ目は, 今回示す こ とができな かったも う 一つの批判 的教科書 活 用論,教科 書の政治的
実践性を子 どもに学 習 させる授業 作りの方 法 を明らかに して授業 を 開発するこ とである。
教科書記述 の中立性 公 平性を検討 させるた め には,教科 書の政治 的 実践性を学 習させる授
業作りが必 要となる 。 教科書の相 対的真理 性 だけでなく 政治的実 践 性を学習さ せることが
できてはじ めて,教 科 書記述が中 立公平な 絶 対的真理で はないこ と を理解させ ることがで
きるわけで ある。今 後 は,これら 2つの課 題 に取り組む ことによ っ て,批判的 教科書活用
論の精度を より高め て いきたい。
【註】
1)原田智仁『世界史 教 育内容開発 研究―理 論 批判学習―』風間書房 ,2000 年,15-17 頁。
2)社会科 学科の代 表 的な教育内 容開発研 究 については ,次の文 献 を参照され たい。
①岡﨑誠 司『変動 す る社会の認 識形成を め ざす小学校 社会科授 業 開発研究― 仮説吟味学
習による社 会科教育 内 容の改革― 』風間書 房 ,2009 年。
②児玉康弘 『中等歴 史 教育内容開 発研究― 開 かれた解釈 学習―』 風 間書房,2006 年。
③原田智仁 『世界史 教 育内容開発 研究―理 論 批判学習― 』風間書 房 ,2000 年
3)社会問 題科の代 表 的な教育内 容開発研 究 については ,次の文 献 を参照され たい。
①池野範 男「市民社 会科歴史教 育の授業 構 成」全国社会科 教育学 会『社会科研究』第 64
号,2006 年,51-60 頁。
13
②佐長健司 「議論に よ る社会的問 題解決の 学 習」社会系 教科教育 学 会『社会系 教科教育
学研究』第 13 号,2001 年,1-8 頁。
③溝口和宏 「開かれ た 価値観形成 をはかる 社 会科教育: 社会の自 己 組織化に向 けて」社
会系教科教 育学会『 社 会系教科教 育学研究 』 第 13 号,2001 年,29-36 頁。
④吉村功太 郎「合意 形 成能力の育 成をめざ す 社会科授業 」全国社 会 科教育学会 『社会科
研究』第 45 号,1996 年,41-50 頁。
⑤拙著『中 学校社会 科の 教育内容の 開発と編 成 に関する研 究―開か れ た公共性の 形成―』
風間書房,2013 年。
4)学校教 育法第34 条を参照されたい。
5)本研究 では,従 来 の教科書活 用研究と は 異なり,教 科教育学 的 なアプロー チを採用す
る。これま でに提起 さ れた教科書 活用研究 を 示すと,以 下の①~ ⑦ の研究が最 も代表的
である。① ②③④の 研 究は,「教科 書を有 効に 活用してい ない社会 科 授業作りの 現状を改
革するため には,ど う すればよい か」とい う 教育臨床的 な問題を 設 定して,そ の問題解
決をめざす 教育臨床 学 的な研究で ある。ま た ,⑤⑥⑦の 研究は,「教 科書を教え る授業と
教科書で教 える授業 と は何がどう 異なるか 」 という一般 教授学的 な 問いを設定 して,そ
の答えを社 会科教育 の 文脈に即し て解明す る 応用教授学 的な研究 で ある。それ に対して,
本研究は,「 教育内 容開 発研究が普 及・拡大 し ないことに よって,国 家・社会の 順応者を
育成する授 業作りが 少 なくならな い社会科 教 育の現状を 改革する た めには,ど うすれば
よいか」と いう社会 科 に固有の問 題を設定 し て,その問 題解決を め ざす教科教 育学的な
研究である 。
①岩田一 彦編著『 地 理教科書を 活用した わ かる授業の 創造』明 治 図書,1984 年。
②星村平 和編著『 歴 史教科書を 活用した わ かる授業の 創造』明 治 図書,1984 年。
③伊東亮 三編著『 公 民教科書を 活用した わ かる授業の 創造』明 治 図書,1984 年。
④安藤豊「 教科書を 活 用した授業 設計手順 の 検討―教育 実習を意 識 した中学校 社会科授
業案作成指 導におけ る ―」『北 海道教育 大学教 育実践総合 センター 紀 要』第 5号 ,2004
年,1-4 頁。
⑤河南一「 社会科教 科 書の授業論 的考察―『 教科書で教 える授業 』の検討―」『 熊本大学
教育学部紀 要・人文 科 学』第 40 号,1991 年,19-35 頁。
⑥戸田善治 「中学校 社 会科におけ る教科書 記 述の論理と 授業の論 理 ―『教科書 で教える
授業』の場 合―」『 国立 教育研究所 研究収録 』 第 28 号,1994 年,47-63 頁。
⑦戸田善治「中学 校社 会科におけ る教科書 記 述の論理と 授業の論 理(2)―『教科書を教え
る授業』の 場合―」『千 葉大学教育 学部研究 紀 要』第 53 巻,2005 年,139-154 頁。
6)本研究 に限らず , 教育実習生 や新任教 師 が教科書の 内容を前 提 にした授業 を作りがち
であること を指摘し た 研究には, 河南一「 教 科書に基づ く授業構 成 法―産業学 習の進め
方―」伊東 亮三編『 社 会科教育学 』福村出 版 ,1990 年,60-62 頁,がある。
7)教科書 記述の政 治 的実践性を 学習させ る 授業作りの 方法につ い ては,とり あえず,拙
稿「批判的 リテラシ ー 論に基づく 社会科授 業 作りの方法 ―ビル・ ビ ゲローの授 業実践を
手がかりに して―」 日 本公民教育 学会発表 資 料,2013 年 6 月 28 日(於岡山大学),を参
照されたい 。
8)五味文 彦他『新 し い社会 歴史』東京書籍,2006 年,188-189 頁。
14
9)「日中全 面戦争 」の 紙面を使っ た教育実 習 生の授業は ,2013 年 4 月 22 日に,熊本大
学教育学部 附属中学 校 の第3学年 の生徒を 対 象に実施さ れた。
10)教育実習生の授業実践においても,「なぜ日中戦争は長期化したのだろうか」という
学習課題を 設定し, そ の答えを教 科書記述 に 即して予想 させたが , ほとんどの 子どもた
ちが「日中 戦争が長 期 化したのは 抗日民族 統 一戦線が結 成された か ら」「日中戦 争が長期
化したのは 中国民衆 の 抗日意識が 高まった か ら」という 予想を立 て た。ちなみ に日本国
内の事情に 目を向け 予 想を立てた 子どもは 一 人もいなか った。
11)小見出し間や段落間の分析を行って執筆者の解釈を推測するという方法は,草原和博
氏が鳴門教 育大学に 勤 務していた 時の講義 資 料に着想を 得た。
12)教科書の本文と資料に関すると問いを列挙しその答えを調査する方法は,前掲論文5)
④を参考に した。
13)表2中の写真「ラクダで物資を運ぶ日本兵」と写真「南京陥落を祝う人たち」の撮影
年 や 撮 影 場 所 を 調 べ る に あ た っ て は ,「 戦 場 の ラ ク ダ 隊 : 日 華 事 変 と 山 西 省 」URL:
shanxi.nekoyamada.com/archives/000112.html(最終閲覧日 2013 年 8 月 10 日),及び
永栄潔編『 朝日クロ ニ クル 20 世紀 第 4 巻』朝日新聞社,2000 年,1937-6 頁,を参考
にした。
14)日中戦争に関する小学校の教科書記述については,熊本県内で使用頻度が高い北俊夫
他『新しい 社会 6上』東京書籍,2011 年,128-129 頁,及び有田和正他『小学社会 6
上』教育出 版,118-119 頁,を参考にした。
15)例えば,江口圭一『大系日本の歴史 14 二つの戦争』小学館,1989 年,270-271 頁,
や伊藤隆『 十五年戦 争 』小学館,1976 年,253-255 頁,を参照されたい。
16)例えば,藤原彰『新版南京大虐殺』岩波ブックレット,1988 年,9-20 頁,を参照さ
れたい。
17)講義で行った意識調査は,講義の前後における教科書に対する意識変化を尋ねるアン
ケート調査 である。具 体的には,「 ア.社 会科 の教科書は ,ありの ま まの事実が 記述され
ている」「イ .どちら か といえば,社会科の 教 科書はあり のままの 事 実が記述さ れている」
「ウ.どち らかとい え ば,社会科 の教科書 は 執筆者の解 釈が記述 さ れている」「 エ.社会
科の教科書 は,執筆 者 の解釈が記 述されて い る」という 4つの選 択 肢を準備し ,講義前
と講義後に おける自 分 の意識に最 も近い選 択 肢を選ばせ るという ア ンケートを 作成した 。
意識調査は ,2013 年 7 月 19 日に実施し回答数は 39 名であった。調査の結果,講義前
と講義後で 同じ選択 肢 を選び意識 が変化し な かったと回 答した受 講 者は 10 名(25.6%)。
その内訳は「ウ →ウ 」6 名,「イ→イ」2 名,「エ→エ」2 名であった。講義前と講義後で
違う選択肢 を選び意 識 が変化した と回答し た 受講者は 29 名 (74.6%)。その内訳は「イ
→ウ」11 名,「ア→ウ」5 名,「ア→エ」4 名,「ア→イ」3 名,「イ→エ」3 名,「ウ→エ」
2 名,「エ→ウ」1 名であった。
このよ うに,学 生 の多くは, 講義の受 講 前と受講後 で教科書 記 述に対する 意識が大き
く変化して いる。