1 次元力学系と Cantor 集合

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(1)

森 真

Oct. 1997

(2)

目 次

1 1次元変換とP–F operator 3

1.1 単純な例. . . 3

1.2 記号の説明 . . . 5

1.3 Perron–Frobenius operator. . . 6

1.4 固有値1,不変確率測度の存在. . . 8

1.5 単位円上の固有値 . . . 10

1.6 単位円内の固有値 . . . 12

1.7 piecewise linear transformation . . . 16

1.7.1 generating function. . . 16

1.7.2 符号付き力学系 . . . 22

1.8 一般の場合への拡張 . . . 31

2 Cantor集合 32 2.1 piecewise linear変換から導かれるCantor集合. . . 32

2.1.1 発見的議論 . . . 32

2.1.2 理論的考察 . . . 41

2.2 連分数展開から導かれるCantor集合 . . . 43

3 関数解析の補足 49 3.1 有界変動関数 . . . 49

3.2 nuclear operators . . . 49

3.3 Banach空間上のspectral decomposition . . . 50

3.4 Mazurの定理,Kakutani–Yosidaの定理 . . . 52

4 エルゴード理論からの補足 53 4.1 Spectral Theory. . . 53

参考文献 55

1

(3)

始めに

このノートは1996年夏に津田塾大学で行われたシンポジウムにおける 講義をまとめたものです.1章の始めにPerron–Frobenius operatorのス ペクトルとエルゴード理論との関係について,容易に手にはいるsummary がないと思われたので概要をまとめてみました.その後で,1次元力学 系について,Perron–Frobenius operatorの固有値をgenerating function

とrenewal equationを用いて解く方法について述べました.2章ではそ

の理論を1次元のCantor集合上の力学系に適用してみました.また,3

章,4章には,このノートで用いた関数解析とエルゴード理論について若 干の補足をしておきました.参考文献は,この分野を学びたい人の参考 になるように,このノートの範囲よりも広くまとめてみましたが,著者 の浅学のため落ちているものも多いと思います.最後に,このノートの原 稿を丁寧に読んで適切なアドバイスをいただいた原祐子さんに感謝をこ の場を借りて表したいと思います.

2

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1

1 次元変換と P–F operator

1.1 単純な例

F(x) = 1+25x (mod 1)を考えよう.傾きは黄金数である.以下,記 号の簡略化のため,この節ではβ = 1+25と表すことにする.この場合,

区間[0,1]は二つの区間[0,1/β]と(1/β,1]に分かれ,各区間上でFは 単調増加である.A={0,1}をアルファベットと呼び,[0,1]の分割を,

h0i= [0,1/β],h1i= (1/β,1]とおく.このとき,任意のx∈[0,1]の点の Fによる軌道{x, F(x), F2(x),· · ·}を考えよう.ここで

Fn(x) =

x n= 0 Fn1(F(x)) otherwise

は,Fのn回反復であって,F(x)のn乗ではない.この軌道の通る区間 の記号を並べると,0と1の無限列ができる.こうして得られる点列全体 の閉包Σを考えれば,F(1) = 1/βに注意すれば,Σは{0,1}Nの閉集合で,

0の後には0と1両方が続き得るが,1の後には0のみしかこない点列全 体と一致することは容易にわかるであろう.さらに,このΣの元と[0,1]

の点とは,

x=a1

β + a2

β2 +· · ·

によって,可算個の点を除いて1対1に対応することも容易にわかるで あろう.Σ上に左へのshiftθa1a2· · · =a2a3· · ·を考えると,これは位相 的な力学系となる.このshiftが区間[0,1]上の変換

F(x) = a2

β + a3

β2 +· · · (x= a1

β +a2

β2 +· · ·)

に対応することを考慮にいれれば,shiftの性質を調べれば,[0,1]上にF を考えた力学系の性質が導けることは想像に難くない.これは,線形代

3

(5)

図1.1. F(x) =βx (mod 1)

数を用いると容易に定式化できる.まず,M = 1 1

1 0

とおく.ここで,

Mの成分は通常の行列の表現とは異なり,(0,0)成分,(0,1)成分,(1,0) 成分M0,0=M0,1 =M1,0 = 1で,(1,1)成分M1,1= 0を表しているこ とに注意しよう.このとき

Σ ={a1a2· · ·:ai∈ {0,1}, Mai,ai+1= 1}

と特徴付けられる.このMをstructure matrixと呼ぶ.今,Mはその成 分が非負で,さらにirreducibleかつaperiodicであることに注意しよう.

すなわち,あるkが存在してMkのすべての成分が正とできる(今の場合 はk = 2).ここで,線形代数のPerron–Frobeniusの定理を思い出せば,

Mの最大固有値は正の実数で,対応する固有ベクトルとして,すべての成 分が正のものを選ぶことができることがわかる.実際,上のMの最大固 有値は傾きβであって,その固有ベクトルとして第1成分に区間h0iの長 さ1/β,第2成分に区間h1iの長さ1/β2を用いて,u=

1/β 1/β2

と選ぶ ことができる.同様に左固有ベクトルも考えると,Mは対称行列なので,

v= (1/β,1/β2)である.Σ上にMarkov測度を,u= u0

u1

,v= (v0, v1)

(6)

1.2. 記号の説明 5 と表して

πi= uivi

P

jujvj 初期確率 pi,j= Mi,juj

βui 推移確率

とおくと,これはΣ上にshift不変な確率測度を導く.今の場合,具体的 には

π0= 1+ββ22 π1= 1+β12

p0,0=β1 p0,1= β12 p1,0= 1 p1,1= 0 を得る.これは,[0,1]上に

ρ(x) =

(4+25

5+

5 x∈ h0i

3+ 5 5+

5 x∈ h1i

を密度関数とするLebesgue測度に絶対連続な不変確率測度に対応する.

1.2 記号の説明

この節で,これから用いる記号などをまとめておこう.アルファベッ トAとは,有限集合で以下では{a, b,. . .}とか{0,1,. . .}などを目的に応 じて使い分ける.Σは記号の無限列全体ANの閉部分集合で,左shiftθに ついて不変 (θ1Σ⊃Σ)であるものを表す.記号の有限列w=a1· · ·an

(ai∈ A)をwordと呼び,|w|=nでwordの長さを表す.後で定義する wordに対応する区間の長さ(Lebesgue測度)とは異なることを注意して おく.α=a1a2· · ·とw=a1a2· · ·anについて

α[i] =w[i] =ai (i≥1)

α[i, j] =w[i, j] =ai· · ·aj (1≤i≤j) θα=a2a3· · ·

θw=a2· · ·an

と定める.いうまでもないがwordについては,1 ≤i, j ≤nとする.Σ 上に通常の筒集合から導かれるσ–algebraとshiftθを考えたものを(位相 的)記号力学系という.

区間[0,1]上の変換をFとする.このとき,アルファベットAと,それ に対応して[0,1]の区間による分割{hai}a∈Aが存在して,Fは各hai上で 単調なとき,Fをpiecewise monotoneであるという.更に,任意のa∈ A

(7)

について,端点を除いてF(hai)が∪ihbii (bi ∈ A)とhaiの像が分割の 元の和で表されるとき,FをMarkov,また各hai上でFが定数であると き,piecewise linearであるという.各hai上で,Fのhaiへの制限がその 閉包にまで,Cr関数として拡張できるとき,piecewiseCrという.

x∈[0,1]について,xの展開ax1ax2· · ·を,Fn(x)∈ haxn+1i(n≥0)で 定義する.Σをx∈[0,1]の展開全体の閉包ととることで,[0,1]上の変換 Fに伴う力学系とΣ上の記号力学系とを結び付けることができる.実際,

xの展開がα=ax1ax2· · ·なら,F(x)の展開はθα=ax2ax3· · ·である.ここ で,[0,1]上には区間から生成される通常のσ–algebraBを考える.両側無 限列AZの元· · ·a1a0a1· · ·で任意のiについて,aiai+1· · · ∈Σ をみた すもの全体をΣのnatural extensionと呼ぶ.

wordw=a1· · ·anに対して,wに対応する区間を hwi=

n

\

i=1

Fi+1haii

で定義する.hwi 6=∅のときに,wはadmissibleであると呼び,admissible なword全体をWで表す.empty wordǫは,hǫi= [0,1]とおいて,ǫ∈ W とみなす.admissibleなwordwの符号sgnwは,F|w|がhwi上で単調増加 なら+,減少なら−と定める.また点x∈[0,1]について,wxでy∈ ha1i, F(y)∈ ha2i,· · ·,Fn1(y)∈ haniかつFn(y) =xとなる点y(もしあれ ば)を表すことにする.更に,Fがpiecewise linearならば,F|hai=Fa はR上の1 to 1, ontoな変換とみなせるので,Fw =Fan· · ·Fa1 (w= a1· · ·an)も同様に考えることができて,逆写像を定義できる.このとき には,wx= (Fw)1xとして,必ず定義できる.このwxがhwiに属す るとき,wxが『存在する』と呼ぶことにする.

ついでに,|| · ||でL1ノルム,|| · ||でL ノルム,v(·)で全変動

を表す(全変動については3.1節を参照).

1.3 Perron–Frobenius operator

piecewise linear Markovな変換については,A × Astructure matrix によって,AN内の記号力学系として表せることは明らかであろう.ま た1.1節の議論はstructure matrixがirreducible aperiodicなpiecewise linear Markovな変換Fの場合にも適用できて,structure matrixの最大 固有値に対応する左右の固有ベクトルから不変確率測度を構成できる.こ れからの議論はその一般化とみなすこともできる.

単位区間[0,1]上の変換Fを考える.Fはattractive orbitをもってい

(8)

1.3. Perron–Frobenius operator 7 ないとする.このときLebesgue測度に絶対連続な不変確率測度を具体 的に求め,そのエルゴード的性質を調べるには,次のPerron–Frobenius operatorP:L1→L1は強力な武器となる.f ∈L1について

Z

P f(x)g(x)dx= Z

f(x)g(F(x))dx (g∈L) と定義する.これは積分の変数変換を行えば,

P f(x) = X

y:F(y)=x

f(y)|F(y)|1

を意味する.Perron–Frobenius operator P:L1 → L1の基本的な性質と して次のものがある.

(1) contracting, ||P f|| ≤ ||f||. (2) positive, f ≥0 ⇒P f ≥0 (3) 保測, R

P f(x)dx=R

f(x)dx (4) P ρ=ρ,ρ≥0,R

ρ dx= 1ならばρは不変測度の密度関数になる.

(5) PnをFnに対応するPerron–Frobenius operatorとすればPn=Pn をみたす.

証明.(1)は

||P f|| = Z

|P f(x)|dx

Z X

y:F(y)=x

|f(y)||F(y)|1dx

= Z

|f(y)|dy=||f||

で得られる.(2)は明らか.(3)は積分変数の変換であって,

Z

P f(x)dx=

Z X

y:F(y)=x

f(y)|F(y)|1dx

より,ここでyを新たにxと置き直せば|F(y)|1がJacobianになってい る.(4)はg∈Lについて,

Z

g(x)ρ(x)dx= Z

g(x)P ρ(x)dx= Z

g(F(x))ρ(x)dx

(9)

より明らか.(5)は

Pnf(x) = X

y:Fn(y)=x

f(y)|(Fn)(y)|1 を示せばよいが,これも明らか.

以下では,とくに断らない限りPerron–Frobenius operatorPはその定義 域を有界変動関数全体BVに制限することにする.有界変動関数全体BV 上のノルムなどについては,3.1節を参照されたい.制限をする理由は1.6 節で述べることにする.

定義 1.1 ξ >0をみたすとき,Fをexpandingと呼ぶ.ここで ξ= lim inf

n→∞ ess inf

xI

1

nlog|Fn′(x)| である.ξをlower Lyapunov exponentと呼ぶ.ここで

ess inf

xI f(x) = inf{a:集合{x:f(x)< a}のLebesgue測度が正} である.expandingの定義には幾つかあるが,この定義はそのなかでも 条件の厳しいものの1つである.例えばess infとlim infの順序を取り替 えて

ess inf

xI lim inf

n→∞

1

nlog|Fn′(x)|>0

の場合にexpandingと定義すれば,カオスで有名([28])なquadratic map F(x) =ax(1−x)でもLebesgue測度に絶対連続な不変測度をもつ場合でも expandingになりえるが,我々の定義ではquadratic mapはF(1/2) = 0 なので,ξ= 0になってしまい,すべての場合にexpandingではない.以 下の議論ではこの制限を緩めることは困難であり,開きなおれば,このこ

とがquadratic mapの研究がいかに困難であるかを示しているように思

われる([15]).

1.4 固有値 1 ,不変確率測度の存在

以下,不変測度とはLebesgue測度に絶対連続なもののみを考える.

定理 1.1 (Lasota–Yorke[24]) FがpiecewiseC2かつexpandingならば 不変確率測度µが存在し,それは有界変動関数である.

(10)

1.4. 固有値1,不変確率測度の存在 9

図1.2. Thalerの例

そのほかに,Z. Kowalski[21],S. Wong[55],M. Rychlik[45],G. Keller[18]

などによって,expandingかつpiecewiseC1+ε(ε >0)もしくは類似の条 件のもとで不変確率測度が存在することが示されている.

反対にM. Thaler([51],[52])によって,|F|= 1をみたす点がたった1つ 存在するときに不変確率測度の存在しない例が与えられている.具体的 には

F(x) = ( x

1−x 0≤x < 12 2x−1 12 ≤x≤1

である.この例ではF(0) = 1かつすべてのx > 0についてF(x)>1 をみたす.この例では,その全体の測度が無限大になってしまうσ–finite 不変測度は存在する.

これのpiecewise linear版については,Y. Takahashi[48],[49],[50],

M. Mori[35]などでも研究されている.

もう1つの例はP. Gora and B. Schmitt[8]にexpandingでpiecewise C1 だが,不変測度が存在しない例が与えられている.この例はCantor 集合の構成と似ていて興味深いものである.

前にも述べたように,expandingの定義は緩めることができるかもし れないが,expandingかつpiecewiseC1+ε(ε >0)もしくはC1プラス何 らかの条件が必要であることは本質的であると思われる.

(11)

Lasota–Yorkeの定理は,証明のoutlineだけ示すことにする.基本的 にはρを不変確率測度µの密度関数とするとき,n1Pn1

k=0Pkf →ρ∈BV を示すことである.このときf ∈BVについてv(f)≤α||f||+βv(f)を みたすようなα >0,0< β <1が存在することを示す.ここでv(f)はf の全変動である.これは,Ionescu Tulcea and Marinescuの定理3.1 の

(iii)([11])の条件と似ていることに注意する.このとき,

lim sup

n→∞

v(Pnf)≤α(1−β)1||f||

が成立するので,{Pnf}はL1でrelatively compact,したがってMazur の定理3.2より{1n

Pn1

k=0Pkf}もrelatively compactになる.BVはL1 でdenseであることにも注意して,これでKakutani–Yosidaの定理3.3を {n1

Pn1

k=0Pkf}に用いれば極限の存在とBVに属することが示せるとい うわけである.なお,ここで用いた定理については3章に述べてある.

1.5 単位円上の固有値

まず始めにfがPの固有値eの固有関数とすると,|f|はPの固有値 1の固有関数であることに注意する.なぜなら

|f|=|ef|=|P f| ≤P|f| Z

|f|dx= Z

P|f|dx

このことを見ると単位円上では,U f(x) =f(F(x))で定義されるunitary operatorと関係があることがわかるであろう(4.1節を参照せよ).unitary operatorは不変確率測度µをもった力学系(I,B, µ, F)の上で考えるので,

それに合わせてPerron–Frobenius operatorもµをもとに考えてみる.こ こまで,σ–algebraBは明示して来なかったが,問題はなかったであろう.

この節以外では,意識する必要はないので用いない.

µの密度関数をρとおく.Pµを Z

Pµf(x)g(x)dµ= Z

f(x)g(F(x))dµ

で定義する.明らかにρ(x)Pµf(x) =P(ρf)(x)が成り立つ.unitary op- eratorU f(x) =f(F(x)) (f ∈L1)との関係を調べよう.

(1) P(U g·f) =g·P f a.e.

Z

P(U g·f)(x)h(x)dx= Z

U g(x)f(x)h(F(x))dx

= Z

f(x)g·h(F(x))dx= Z

P f(x)g·h(x)dx

(12)

1.5. 単位円上の固有値 11 (2) PµU f =f a.e.µ

Z

PµU f(x)g(x)dµ= Z

U f(x)g(F(x))dµ

= Z

f·g(F(x))dµ= Z

f(x)g(x)dµ

(3) UnPµnf =Eµ[f|Bn], (Bn=FnB).ここで,Eµ[f|Bn]は条件付き 平均である.

A∈ Bnについて Z

A

UnPµnf(x)dµ= Z

A

Pµnf(Fn(x))dµ

= Z

f(Fn(x))1A(Fn(x))dµ= Z

f(x)1A(x)dµ

= Z

A

Eµ[f|Bn]dµ が成り立つ.一方

{x:UnPµnf(x)> a}={x:Pµnf(Fn(x))> a}

={x: X

y:Fn(y)=Fn(x)

f(y)|Fn(y)|1> a}

=Fn{x: X

y:Fn(y)=x

f(y)|Fn′(y)|1> a} ∈ Bn ゆえにUnPµnfはBn可測.L2µで考えると,UnPµnはFnL2µへのpro- jectionである.

(4) 次の3条件は同値である.

(a) U f =ef (b) Pµf =ef (c) P(f ρ) =ef ρ

証明. (b),(c)の同値は定義から従う.(a)が成り立つならばf =

PµU f =ePµfより(b)が従う.逆に(b)ならば,Doobの定理に よって

einφUnf =UnPµnf =E[f|Bn]→ ∃f˜

より,Uf˜=ef(両辺にもう˜ 1つUをかける)が成立する.さらに Z

|f˜−f|dµ= Z

|f˜−einφUnf|dµ→0 よりf˜=fが成り立つ.

(13)

(5) µがmaximal(すべての不変確率測度はµに絶対連続)ならば,単位 円上Pµの固有値とPの固有値は一致する.

fがPµの固有値eの固有関数ならば,f ρがPの固有関数になる.

一方fがPの固有値eの固有関数なら,|f|はPの固有値1の固 有関数なので,|f(x)|dxは不変測度,µはmaximalであることを仮 定したから,{|f| = 0} ⊃ {ρ= 0}である.ゆえにf ρ1は定義で きる.

[4]と[5]を見ると,単位円上に固有値が1のみで,固有値1がsimpleなら ば,定理4.3により,Fはweakly mixingであることがわかる.したがって 定理 1.2 (Bowen[4]) Fを[0,1]上のexpanding,piecewise C2 変換と する.µをLebesgue測度に絶対連続な不変測度とし,力学系([0,1], µ, F) がweakly mixingならば,そのnatural extensionはBernoulliである.

によって,そのnatural extensionは,Bernoulliであることがわかる.

定理 1.3 単位円上のPの固有値は2π×有理数かつ固有関数は有界変動で ある.

より詳しく述べると,あるNとL1,. . ., LNが存在して (1) F(Li) =Li+1 (LN+1=L1)

(2) (Li, FN, µi)はmixing,ただしµi=µ|Li×N となる([54],[41]).

E(φ)をL1での固有値eの固有空間とする.固有値全体は単位円上 で群になる.このことを用いれば,あるpが存在して,

{0≤φ <2π:E(φ)6=∅}={2nπ/p: 0≤n≤p−1}

であることがわかる.さらに,BVがL1でdenseなこと,およびある部 分列{ni}が存在して,eiφni →1より,固有値1のときと同様にPnifは relatively compactかつlim supv(Pnif)≤ 1αβ||f||がでて,固有関数が 有界変動であることが従う.

1.6 単位円内の固有値

この節ではPをL1上のoperatorまたはBV上のoperatorとみて,そ の性質を調べる.まずPerron–Frobenius operatorPをL1で考えてみる.

(14)

1.6. 単位円内の固有値 13 定理 1.4 (Keller[20]) PをL1上のoperatorとみると,任意のλ(|λ|<1) はPの無限重の固有値である.

証明.Qλ=P

k=0λkUk(I−U Pµ)とおく.Qλ:L1(µ)→L1(µ) PµQλ =

X

k=0

λkPµUk(I−U Pµ)

= λX

k=1

λk1Uk1(I−U Pµ) +Pµ(I−U Pµ)

= λQλ (PµU =I) ゆえに

Q2λ = X

k=0

λkUk(I−U Pµ)Qλ

= X

k=0

λkUkQλ− X

k=0

λkUk+1λQλ

= Qλ

Qλf =fならば,Pµf =PµQλf =λQλf =λfである.したがって,Qλ

は固有値λへのL1でのprojectionである.Qλ6≡0を示せばよい.

Q(n)λ =

n1

X

k=0

λkUk(I−U Pµ) とおく.

補題 1.1 (fの構成) ∃f ∈BV s.t. Q(n)λ f 6=Q(n+1)λ f, ||Q(n)λ f||<∞. さらに∃δ >0 ρ(x)< δならば,f(x) = 0である.

証明.∩n=0UnL2µ⊂BVは有限次元(Uの不変関数全体)(U PµはU L2µへの projection)である.この部分はエルゴード性を意味する.ゆえにU L2µ6= L2µかつBVはL2µでdenseより,あるg ∈BVが存在して,U Pµg 6=gを みたす.

ある {Jk} が存在して,各Jkはρ|Jk1kをみたす区間の有限和で µ(Jk) → 1 をみたす.ここで fk = g1F1Jkとおくと,fk ∈ BV, 十 分大きな kについて,ρ(x) < 1kならば U Pµfk 6= fk, fk(x) = 0をみ たす.fとして十分大きなkの fkを選ぶと,Q(n)λ f = Q(n+1)λ f ならば,

λnUn(I−U Pµ)f = 0すなわち(I−U Pµ)f ∈Ker(Un)となり,仮定よ りU Pµf 6=fであり,Uはontoであるから矛盾である.さらに

||Q(n)λ f||=||

X

k=0

Uk(I−U Pµ)f||<∞

(15)

は明らかであるので証明が終わる.

補題 1.2 |λ|<1とする.あるf ∈Lが存在してfは固有値λの固有関 数である.

証明.nを|λn|<12となるように選ぶ.fは上の補題のものとする.

Qλf =

X

k=0

λkUk(I−U Pµ)f

= X

j=0 n1

X

k=0

λnj+kUnj+k(I−U Pµ)

= X

j=0

λnjUnjQ(n)λ f

ここで上のj ≥1の部分は

||

X

j=1

λnjUnjQ(n)λ f||

X

j=1

(|λ|n)j||Q(n)λ f||

< ||Q(n)λ f||

をみたす.ゆえに

||Qλf|| < 2||Q(n)λ ||<∞

||Qλf|| ≥ ||Q(n)λ ||− ||

X

j=1

λnjUnjQ(n)λ f||

> 0

これでQλ 6≡0が示せた.PµQλf =λQλfよりQλfがPµの固有関数で ある.

これで,PをBVに制限する理由は明らかになったと思うが,PをBVに制 限しても期待する程やさしいものではないことがつぎの補題よりわかる.

補題 1.3 |λ|< eh(F)ならば,Qλf ∈BVである.ここでh(F)はFの topological entropy

h(F) = lim

n→∞

1

nlog(長さnのwordの個数) である.

(16)

1.6. 単位円内の固有値 15 証明.Pµ:BV →BVであるから,v(f −U Pµf)<∞.ゆえにラフに言 えば

v(Qλf) ≤

X

k=0

|λ|kv(Uk(f−U Pµf))

X

k=0

|λ|kv(f −U Pµf)×長さkのwordの個数

この補題によってPをBVに制限(これを,特に断らない限りPと書くこ とにした)しても,内部がべったりと固有値であるような円が存在するこ とがわかったので,compactでないことが証明された.しかし,つぎの 定理がある.

定理 1.5 (Rychlik[44]) PをBVに制限すると,そのessential spectrum radiusはeξに等しい.

すなわち,任意のr > eξについて,|λ|> rをみたすspectrumは有限個 しか無く,すべて有限次元の固有空間をもつ固有値である.詳しくは3.3 節を参照されたい.

以上により残念ながら,Perron–Frobenius operator は compactで ないので,もちろんnuclear(3.2節参照)でない.したがって,Fredholm determinantを定義することはできないがRuelle–Artin–Mazur のzeta 関数

ζ(z) = exp

X

n=1

zn n

X

p:Fn(p)=p

|Fn(p)|1

を考えると,この1/ζ(z)は本質的にFredholm determinantとみなせるこ とを後で証明する.つまり,zeta関数の特異点(1/ζ(z)の0点)がPの固有 値の逆数になることを示す.しかし,expandingな写像についても上の右 辺は収束半径が1なので,Perron–Frobenius operatorPの固有値を求め るには,これが半径1の円の外側にまでmeromorphicに拡張できることを 示さねばならない.ところで,定理1.4により,PをL1上で考えると,単位 円内はすべて固有値である.逆数を考えると,zeta関数がこのFredholm determinantの逆数だとすると,meromorphicに拡張できるはずがない.

実はzeta関数はBVに制限したPのFredholm determinatの逆数になる ことがわかる.この場合には,補題1.3を考えると,meromorophicな拡 張はtopological entropyの逆数の半径をもつ円にまでしか意味を持たな いことが想像できるであろう.

(17)

図1.3.

1.7 piecewise linear transformation

この節では,前節の最後に述べた一般的な結果のイメージを作るため にpiecewise linear transformationのあるクラスを考えてみよう([32],[33]

参照).

1.7.1 generating function

やさしい例から始めよう.

F(x) =

x/ηa 0≤x < ηa

(x−ηa)/ηb ηa≤x≤1

かつ1−ηaaηbとする.つまりlimx1F(x) =ηaをみたす.アルファ ベットをA={a, b},対応する区間をhai= [0, ηa),hbi= [ηa,1]とおく.

βが黄金数のときのβ–変換F(x) = βx (mod 1)は,このもっとも単純

な例である.

ともあれ,g∈Lについて,generating function shgai(z) =

X

n=0

zn Z

1a(x)g(Fn(x))dx

shgbi(z) =

X

n=0

zn Z

1b(x)g(Fn(x))dx

(18)

1.7. piecewise linear transformation 17 sg(z) =

shgai(z) shgbi(z)

を定義する.ここで1aなどはhaiの定義関数を表す.さらに行列 Φ(z) =

aa

b 0

とおく.Perron–Frobenius operatorを用いると,例えば shgai(z) =

X

n=0

zn Z

Pn1a(x)g(x)dx は形式的に表せば,

shgai(z) = Z

(I−zP)11a

(x)g(x)dx

である.したがって,Pの固有値はshgai(z)などの特異点の逆数になって いることが想像される.このことをきちんと調べてみよう.

P1a(x) = X

y:F(y)=x

1a(y)|F(y)|1

= ηa

P1b(x) =

ηb ifx∈ hai 0 otherwise に注意すると,P

n=0をn= 0のところとP

n=1にわけてF(hai) = [0,1]

を用いると shgai(z) =

Z

1a(x)g(x)dx+

X

n=1

zn Z

1a(x)g(Fn(x))dx

= Z

1a(x)g(x)dx+

X

n=1

zn Z

P1a(x)g(Fn1(x))dx

= Z

hai

g(x)dx+ηa

X

n=1

zn Z

g(Fn1(x))dx

= Z

hai

g(x)dx+zηa

X

n=0

zn Z

g(Fn(x))dx

= Z

hai

g(x)dx+zηa

shgai(z) +shgbi(z) 同様に,F(hbi) =haiを用いると

shgbi(z) = Z

1b(x)g(x)dx+

X

n=1

zn Z

1b(x)g(Fn(x))dx

(19)

= Z

hbi

g(x)dx+

X

n=1

zn Z

P1b(x)g(Fn1(x))dx

= Z

hbi

g(x)dx+ηb

X

n=1

znηb

Z

hai

g(Fn1(x))dx

= Z

hbi

g(x)dx+zηbshgai(z) となることから

sg(z) = R

haig(x)dx R

hbig(x)dx

+ Φ(z)sg(z) を得る.つまり

sg(z) = (I−Φ(z))1 R

haig(x)dx R

hbig(x)dx

が成り立つ.この構成はrenew(再生)できないn= 0を切り離し,残り をrenewした形であるので,これをMarkov過程の言葉を借りてrenewal equationと呼ぶ.(I−Φ(z))1を求め,1−ηa−ηaηb= 0を用いて,こ れを解けば

sg(z) = 1

(1−z)(1−(ηa−1)z)

1 zηa

z1ηaηa 1−zηa

R

haig(x)dx R

hbig(x)dx

を得る.さらに

ρ(x) = ( 1

(2ηaa x∈ hai

1

2ηa x∈ hbi と定義すると,

shgai(z) = R

haig dx+zηaR

hbig dx (1−z)(1−(ηa−1)z)

= ηaR

g(x)ρ(x)dx

1−z +(1−ηa)R

haig dx−ηaR

hbig dx (1−(ηa−1)z)(2−ηa) および

shgbi(z) = (1−ηa)R

g(x)ρ(x)dx

1−z +−1ηaηa

R

haig dx+ (2−ηa)R

hbig dx (1−(ηa−1)z)(2−ηa) を得る.このことから,z= 1とηa−1がPの固有値らしいということが想 像できる.固有値1は1位の特異点だから,きっとPの固有値1もsimple で,その他に単位円上には固有値はなさそうだから,weakly mixingな力 学系が構成できるであろう.

(20)

1.7. piecewise linear transformation 19 Rρ(x)dx = 1に注意して,µで密度関数ρの確率測度を表す.このと き,明らかにµは不変確率測度になる.

さらに,sg(z)の定義に戻って,znの係数を比較すれば Z

1a(x)g(Fn(x))dx=ηa

Z

g dµ+Caa−1)n Z

1b(x)g(Fn(x))dx= (1−ηa) Z

g dµ+Cba−1)n を得る.ここで

Ca = (1−ηa)R

haig dx−ηaR

hbig dx 2−ηa

Cb = −1ηaηa

R

haig dx+ (2−ηa)R

hbig dx 2−ηa

である.例えばR

1a(x)g(Fn(x))dxはn→ ∞でηaRg dµに収束し,その 速度は(ηa−1)nの指数的であることがわかる.さらに,(ηa−1)は負だから,

振動しながら極限に近づくことがわかる.ここで,haiのLebesgue測度は ηa,hbiのLebesgue測度は1−ηaに注意しよう.一般にwordw=a1· · ·am

については

X

n=0

zn Z

1w(x)g(Fn(x))dx

=

m1

X

n=0

zn Z

1w(x)g(Fn(x))dx+

X

n=m

zn Z

1w(x)g(Fn(x))dx

=

m1

X

n=0

zn Z

1w(x)g(Fn(x))dx

+ (

zmηa1· · ·ηam(shgai(z) +shgbi(z)) ifam=a zmηa1· · ·ηamshgai(z) ifam=b を得る.

χwg(z) =

m1

X

n=0

zn Z

1w(x)g(Fn(x))dx Φw(z) =

(zmηa1· · ·ηam, zmηa1· · ·ηam) ifam=a (zmηa1· · ·ηam,0) ifam=b とおいて,一般にf =P

wCw1wと表すと,形式的に

X

n=0

zn Z

f(x)g(Fn(x))dx = X

w

Cw

X

n=0

zn Z

1w(x)g(Fn(x))dx

= X

w

Cwχwg(z) +X

w

CwΦw(z)sg(z)

(21)

を得る.ここでf ∈BVならば,任意の0< r <1について X

n=1

rn X

|w|=n

|Cw|<∞

をみたす分解を作ることができることに注意しよう.このことから,任意 のε >0について

Lebeshwi ≤ Ceε)n ηwa1· · ·ηan ≤ Ceε)n

が成り立つ.ここでLebesJで集合JのLebesgue測度を表した.以上より,

|X

w

Cwχwg(z)| =

X

n=1

X

|w|=n

|Cwwg(z)

≤ X

n=1

X

|w|=n n1

X

m=0

|z|m||g||Ceε)n

|X

w

Φw(z)の各要素| ≤ X

n=1

X

|w|=n

|Cw||z|nCeε)n

である.したがって|z| < eξでP

wCwχwg(z)およびP

wΦw(z)の各要素 は解析的であることがわかる.一方sg(z)は z = 1と z = 1/(ηa−1) に特異点をもつ.したがってP

n=0znR

f(x)g(Fn(x))dx は|z| ≥ 1 に meromorphicに拡張できて,|z| < eξでこの 2 つの特異点のみ (もし,

1−ηa> eξならば)を持つことがわかった.

前と同様にznの係数を比較することで Z

f(x)g(Fn(x))dx → P

wCwηa1· · ·ηam

Rg dµ am=a P

wCwηa1· · ·ηamηaR

g dµ am=b

= Z

f dx Z

g dµ

を得て,収束のオーダーは(ηa−1)またはeξの絶対値の大きい方である ことがわかった.そこでµについて可積分なfを考えると,f·ρ∈L1より

Z

f(x)g(Fn(x))dµ = Z

f·ρ(x)g(Fn(x))dx

→ Z

f·ρ dx Z

g dµ= Z

f dµ Z

g dµ が出て,力学系がmixingであることが示せた.収束のオーダーも考慮に 入れると,f ∈BVならば,次の図のように収束していくことがわかる.

(22)

1.7. piecewise linear transformation 21

図 1.4. decay

この収束のオーダー,この場合には(ηa−1)は,decay rate of correlation と呼ばれる.

Φ(z)は,この力学系のstructure matrixM = 1 1

1 0

に重みをつけ たものであることに注意しよう.トレースtrM = 1だが,これは(a, a)成 分に,つまり,不動点0に対応している.M2=

2 1 1 1

なので,トレー スは3である.これはずっとaにいる不動点とaからbにいって戻る2周 期点a→b→aがM2の(a, a)成分に,b→a→bとなる2周期点が(b, b) 成分に現れたわけである.このように,structure matrixのトレースは,

周期軌道の数を表していることがわかる.同様に,Φn(z)のトレースは周 期nの周期軌道に対応するので,これを用いると,Ruelle–Artin–Mazur のzeta関数について

ζ(z) = exp

X

n=1

zn n

X

Fn(p)=p

|Fn′(p)1|

= exp

" X

n=1

1

ntr Φn(z)

#

= exp[−tr log(I−Φ(z))]

= (det(I−Φ(z))1

を導けた.このことはzeta関数の特異点の逆数がPerron–Frobenius op-

erator Pの固有値であることを示していて,zeta関数の逆数がnuclear

作用素におけるFredholm determinantの役割を果たすことを示してい る.このことからΦ(z)をFredholm matrix,det(I−Φ(z))をFredholm determinantと呼ぶことにする.

(23)

図1.5. β–transformation

1.7.2 符号付き力学系

前の節の方法はFが一般のMarkovの場合にも拡張可能である.これ をもっと一般化しよう.再び,つぎの例で考えることにする.

例 1.1 (generalized)β–expansion. (1< ηab≤2) A = {a, b},

hai = [0, ηa), hbi= [ηa,1], F(x) =

ηax x∈ hai ηb(x−ηa) x∈ hbi

shgai(z)は前と同じだが,図1.5のような場合にはF(hbi) ⊂ haiなので,

J1=F(hbi)とおき,さらにF(J1)⊃ haiなので,J2=F(J1)∩ hbiとお くと

shgbi(z) = Z

1hbi(x)g(x)dx+ηbzsJg1(z)

= Z

1hbi(x)g(x)dx+ηbz Z

1J1(x)g(x)dx+ηa(shgai(z) +sJg2(z) を得る.以下同様に,

Jn=

F(Jn1) ifF(Jn1)⊂ hai F(Jn1)∩ hbi ifF(Jn1)⊃ hai

(24)

1.7. piecewise linear transformation 23 とおき,

φ(n) =

(0 ifF(Jn1)⊂ hai Qn

k=1ηa1

k ifF(Jn1)⊃ hai とおけば,

shgbi(z) =χbg(z) +

X

n=1

znφ(n)shgai(z)

を得る.ここでa11a12· · ·は1の展開,すなわち,limx1Fn(x)∈ ha1n+1iを みたすAの列とする.このとき

χbg(z) =

X

n=0

zn

n

Y

k=1

ηa1k

Z

Jn

g dx

である.ただしJ0=hbiである.χbg(z)とΦ(z)b,aは|z|< eξで解析的で あることに注意しよう.前と同様に

Φ(z) =

aa

P

n=1znφ(n) 0

とおけば

sg(z) = (I−Φ(z))1χg(z) というrenewal equationが得られる.ここでχg(z) =

R

ag dx χbg(z)

である.

これを用いれば力学系がmixingなこと,さらに limz1(1−z)(I−Φ(z))1

R

haig dx χbg(1)

=

ηaR g dµ (1−ηa)R

g dµ

であることを見ればLebesgue測度に絶対連続な不変確率測度の密度関 数を計算することが可能である.当然だが,あるnについて,Fn(1)が 0,ηa,1 のどれかに等しくなるようなMarkov型のときには,上のよ うに無限回renewalを繰り返さずに途中で打ちきって,Φ(z)の各成分が 多項式になるようにとれる.この場合には,不変確率測度の密度関数は,

ηa, F(1),. . ., Fn1(1)で不連続な階段関数になることは明らかであろう.

さらに

ζ(z) = 1

det(I−Φ(z))

をみたすことも同様に証明できるが,これにはあまり本質的ではない少 し込み入った議論が必要であるので省略する.

β変換やunimodal linear変換のように1つの端点を除いてはMarkov型 である場合には上のように,renewal equationが構成できる.もちろん,

(25)

図 1.6. general piecewise linear transformation

unimodal linear変換のように傾きが負の場合には注意が必要ではある.

しかし,一般の場合には図1.6のように,区間haiのrenewal equationを 作ろうと思うと2つの区間J1とJ2が現れ,それをrenewalするとそれぞ れに2つ,合計4つの区間が出現して,となってどんどん区間が増えて いってしまい,これでは上のように意味のある(係数の収束半径が1を 越えるような)renewal equationを作ることは不可能であることが想像 に難くない.そこでhaiの両端点をそれぞれaとa+で表すことにしよ う.図ではa+とbは,同じ点だが,haiに属すると見るか,hbiに属する と見るかによって異なる点と見なすことにする.aとa+を記号の無限列 a1a2 · · ·anda+1a+2 · · ·と同一視する.ここで

xlimaFn(x)∈ hani,

xlima+Fn(x)∈ ha+ni

つまり,各a+またはaにhai内の点から収束するときの,展開の極限で ある.shgai(z)のrenewal equationがうまく構成できなかったのは,aと a+の2つの端点を同時に追おうとしたからなので,

shgai(z) =sag+(z) +sag(z)

(26)

1.7. piecewise linear transformation 25 とsagσ(z)がaσ(σ= +,−)のみによるように分解できればよい.これには

δ[L] =

1 ifLis true 0 otherwise とおいてx0, x1 (x0 < x1)について

{δ[x > x0]−1/2}+{δ[x < x1]−1/2}= 1(x0,x1)(x) (1.1) という当たり前の式が決め手になる.こうして前と同様に

sg(z) = sagσ(z)

a∈A∈{+,−}

とおいて,通常の記号力学系を用いた場合に比べて次元が倍になるが,

renewal equationを

sg(z) = (I−Φ(z))1χg(z)

のように作ろうというわけである. これさえできれば,不変確率測度の密 度関数や,力学系がmixingであることや,decay rate of correlationや,

zeta関数などがΦ(z)の性質からまったく前と同様に導けるはずである.

一般に点x∈[0,1]の展開α=a1a2· · ·にも符号を付けて考えよう.α+ は,xに左から近づくyの展開の極限というわけである.それぞれを記 号の符号付きの無限列と見たり,[0,1]上の点と見たり適当に使い分ける ことにするが,混乱はないであろう.このようにして得られる符号つき の無限列の力学系を符号つき記号力学系と呼ぶ([33]参照).ε(α+) = +,

ε(α) =−とおいて,符号付き無限列˜αについて sαg˜(z) =

Z

dx g(x) X

wW

z|w||Fw(wx)|1

×{δ[wx <ε( ˜α)α]˜ −1/2}δ[w[1] = ˜α[1],(θw)xexists]

χg(˜α) = Z

dx g(x){δ[x <ε( ˜α)α]˜ −1/2},

χαg˜(z) =





χg(˜α) {θα˜} ∈A˜,

X

n=0

znFn′(˜α)1χgnα) otherwise˜

φ(˜α,v) =˜ ε(˜α){δ[˜v≤θα]˜ −1/2} Φ(z)u,˜˜v=





z φ(˜u,˜v) {θu˜} ∈A˜

X

n=0

zn+1Fn(˜u)1φ(θnu,˜ ˜v) otherwise

(27)

とおくと,renewal equationが作れる.ここで x <σy=

x < y ifσ= + x > y ifσ=−

を表す.まず,2点(または,記号の無限列) 0≤α < β ≤1で,その展 開の1番目が一致している,つまり同じ記号に対応する区間に属してい るとして,

sαg(z) +sβg+(z) = s(α,β)g (z)

=

X

n=0

zn Z

1(α,β)(x)g(Fn(x))dx (1.2) をみたすことを示そう.式(1.1)に注意して

sαg(z) +sβg+(z) = Z

dx g(x) X

wW

z|w||Fw′(wx)|1

×1(α,β)(wx)δ[w[1] = ˜α[1],(θw)xexists] (1.3) を得る.wx ∈ (α, β)でなければ,被積分関数は0だが,その場合には w[1] =α[1] =β[1]かつ(θw)xは存在しなければならないので,上の式 (1.3)は,

sαg(z) +sβg+(z) = Z

dx g(x) X

wW

z|w||F|w|′(wx)|11(α,β)(wx) となる.ここでwxを新たにxととって,積分の変数変換を行えば,Ja- cobianは|F|w|′(wx)|1になるので,式(1.2)を得る.

例でrenewal equationの作り方を説明しよう.

例 1.2 β–expansion.

F(x) =x/η (mod 1)

を考えよう.図1.2のように左側を区間h0i,右側を区間h1iと表そう.簡 単のため,傾き1/η は一定とする.とくに1> η≥1/2について考える が,一般のη <1/2の場合や,傾きが区間毎に変わる場合への拡張はす ぐにできる.renewal equationを作るために追いかける必要のある点は 0,0+,1,1+の4つだが1+を除いては,その像が端点になるので単純 である.例として0,つまり点0を考えよう.wordに関する和をempty wordとそれ以外に分け,empty word以外はθwをwと置き換える.

s0g(z) = Z

dx g(x) X

wW

z|w||Fw′(wx)|1

Figure

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References

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