• 検索結果がありません。

日本看護技術学会誌9巻3号

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "日本看護技術学会誌9巻3号"

Copied!
8
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

原  著

ハンドロールが拘縮手の汚染防止 および防臭に与える効果

Effects of Hand Cones on Contamination Control and Deodorization of Contracted Hands

 中

Hiroko Nakada

田弘子    藤

Mitsue Fujita

田三恵    小

Hiromitsu Kobayashi

林宏光     川

Kazuyo Kawashima

島和代 

 本研究の目的は,長期臥床患者の拘縮手に対するハンドロールの汚染防止および防臭に与える効果 を客観的に明らかにすることである.対象者は,65 歳以上の拘縮手のある入院患者 20 名であった.

拘縮手に手浴ケアを実施した後,3 種類のハンドロールをそれぞれ 3 日間使用した.タオルをロー ル状にした通常のハンドロールの場合,指間部もカバーする指股付きハンドロールの場合,緑茶葉を 入れたハンドロールの場合,ハンドロールを用いない場合の 4 条件で比較した.ハンドロールの汚 染防止効果は ATP 拭き取り検査法,防臭効果はニオイセンサー法で評価した.通常および指股付き のハンドロールでは,使用開始から 3 日目の臭度に有意な低下がみられた.さらに指股付きハンド ロールでは,臭度に加えて汚染度にも有意な低下がみられた.緑茶葉入りハンドロールの衛生効果に ついては,本研究では効果がみられなかった.ニオイセンサー法では臭いの快・不快までは判別でき ないため,緑茶葉の効果が明確には得られなかったと考えられる.

キーワード:ハンドロール,緑茶葉,ATP 拭き取り検査法,ニオイセンサー法

 The purpose of this study was to clarify the effect of hand cones or “hand rolls” on the contamination control and deodorization of contracted hands of bedridden patients. Twenty inpatients with hand contracture aged 65 and over were examined. After their hands were carefully washed, their contamination and odor were measured regularly by an ATP- bioluminescence device and a metal oxide odor sensor, respectively. The test was done under four conditions, three using different types of hand cones and one with no use of hand cones. The three types of hand cones tested were those with and without finger separators, and those with green tea leaves inside. The results showed that, three days after the hand wash the hand cones with and without finger separators significantly improved the odor of the contracted hands, compared with when no hand cones were used. In addition to this odor improvement, those with finger separators significantly reduced the skin contamination of the hands. In contrast, those with green tea leaves showed no clear effects on contamination or odor. This can be due to a limitation of the metal oxide odor sensor, which cannot discriminate between pleasant and unpleasant odors.

Key words:hand cone, green tea leave, ATP-bioluminescence-test, metal oxide odor sensor

受付日:2010 年 6 月 2 日 受理日:2010 年 10 月 12 日

石川県立看護大学 Ishikawa Prefectural Nursing University

連絡先:中田弘子 石川県立看護大学基礎看護学講座 〒 929-1212 石川県かほく市中沼ツ 7-1 TEL:076-281-8364(直通) FAX:076-281-8355(共同) E-mail:[email protected]

(2)

Ⅰ.はじめに

 脳血管障害により長期臥床を余儀なくされる患者 は,廃用性筋萎縮が混在し重度な拘縮を生じやすい.

掌屈位では手指間および手指と手掌部が過度に密着す るため湿潤する.また,拘縮手は関節可動域の制限に より清拭や洗浄が困難なため清潔が保持されにくく,

白癬症の罹患や異臭の発生が問題となる.

 これまでの研究では,麻痺手は非麻痺手に比べ独 特の臭いが強い傾向があると報告されている(平松ら 1991).また著者らによる以前の研究でも同様の結果 が確認されている(中田ら 2009).拘縮手の衛生性を 維持するためには,手指の洗浄が必要であるが,通常 の入浴だけでは手指の汚染度はほとんど改善しないこ とが示されている(泉ら 1988;中田ら 2009).また,

手浴もしくは入浴時の入念な手指洗浄を実施すれば一 時的に汚染は改善するが,その持続的効果は 2 日間程 度でしかない(中田ら 2009).したがって,拘縮手の 衛生性を持続させるためには,入浴時の入念な手指洗 浄に手浴を加えた手指ケアを週 3 回かそれ以上実施す ることが必要であると思われる.

 現在,指定介護療養型医療施設での入浴回数は週 2 回以上とされているが(厚生労働省 2008),その実態 は明らかではない.また,臨床における手浴の実施頻 度は低く(宮下・矢野 2008),看護師が患者の手指の 清潔ケアが行えない最も多い理由として,時間や余裕 がないことが報告されている(浅野ら 1998).このよ うな臨床の現状を考えると,具体的な手の清潔ケア方 法を提案するにあたっては,入浴や手浴などの洗浄頻 度を増やすだけでなく予防的ケアといった視点も重要 であると思われる.

 従来,脳血管障害の急性期では麻痺手の不良肢位 を予防するためにハンドロールが用いられてきた(上 田 1981;林 1994;千野 2001;米本 2005).近年では 慢性期における拘縮手の清潔維持のためのケア方法 の一つとして用いられている(徳山ら 2006;三角ら 2008;保元ら 2009).これは拘縮した手指間や手指と 手掌間の過剰な密着による湿潤や圧迫を回避するため に,ロール状に丸めたタオルやガーゼを患者の拘縮 手に把持させるものである.このケア用具は,ハン ドロール(徳山ら 2006;三角ら 2008),ガーゼロール

(松原 2008),ハンドクッション(扇ら 2005),握り棒

(保元ら 2009)などと呼ばれているが,標準的な呼称

が確定していないと思われるため,本研究ではハン ドロールと呼ぶことにした.英語圏では hand cone,

hand splint などと呼ばれ(Hoeman 2001;Lannin &

Herbert 2003),cone grip,palm grip,grip roll な どの商品名で市販されている.

 これまでハンドロールの衛生的な効果については,

防臭効果(鈴木ら 1999;佐々木 2005;松浦ら 2008;

小林ら 2008)や防湿効果(保元ら 2009)に関する研究が 報告されている.また,ハンドロールに茶葉を用いた 研究(Fujii et al. 2004;西尾ら 2006;南崎ら 2008;

Fukuoka et al. 2009;猪俣ら 2009;関根ら 2009)もみ られる.これらの研究の多くはハンドロールの効果に 関して肯定的な結論を示しているが,サンプル数が少 ない,統計的有意差が得られていない,評価方法が客 観的でないなどの問題がある.

 したがって,ハンドロールの効果に関するエビデン スは,いまだ十分とは言えないと思われる.本研究の 目的は,長期臥床患者の拘縮手に対するハンドロール の汚染防止および防臭に与える効果を客観的に明らか にすることである.

Ⅱ.研究方法

1.研究の概要

 本研究は介入型調査研究とした.拘縮手の清潔ケア として,手浴後に 3 種類のハンドロール,すなわち通 常のハンドロール(以下,通常と記す),指股付きハン ドロール(以下,指股と記す),緑茶葉入りハンドロー ル(以下,緑茶と記す)を使用し,手指の汚染度と臭度 からそれぞれのハンドロールの衛生効果を比較した.

 調査期間は 2009 年 8 月 5 日~ 8 月 31 日であった.

調査期間中の平均室温は 25.0±0.9℃,平均湿度は 63.9±6.3%であった.

2.対象者

 本研究では,療養型病床群をもつ施設(病床数 500 床)に入院中で,手指拘縮(掌屈位)がみられる 65 歳以 上の患者 26 名を対象とした.拘縮は,中手指節関節

(以下,MP 関節と記す)を他動的に動かしたときの抵 抗感を Ashworth Scale (Ashworth 1964;Bohannon

& Smith 1987)で評価し,グレード 2 以上を拘縮あり とした.拘縮が両手にみられる場合は,より拘縮が重 度な手一方を選択した.Ashworth Scale は厳密には 拘縮の尺度ではないが,本研究の対象者の拘縮の原因

(3)

が伸張反射系の異常,筋緊張および廃用性の関節拘縮 が混在していたため,拘縮の尺度として使用した.こ のうち,調査期間中に急変,発熱等の身体的症状を 示した 2 名,途中辞退した 2 名,測定ミスがあった 2 名を除いた 20 名を分析対象とした.対象者の平均年 齢は 83±7.9 歳,性別は女性が 16 名,男性が 4 名で あった.平均入院期間は 3 年 4 カ月 ±2 年 8 カ月,要 介護度では介護度Ⅴが 19 名(95%),介護度Ⅳが 1 名

(5%),全員が長期臥症状態であり基礎疾患は脳血管 障害であった.また,拘縮手の拘縮のグレードは,グ レード 4 が 10 名(50%),グレード 3 が 8 名(40%),

グレード 2 が 2 名(10%)であり,平均は 3.4 であった.

3.ATP 拭き取り検査法

 本研究では手指の汚染度の評価として ATP 拭き取 り検査法(以下,ATP 法と記す)を用いた.細菌培養 法は皮膚上の細菌数を評価するが,ATP 法は細菌だ けでなく細菌の栄養源となる有機物に含まれるアデノ シン三リン酸(ATP:adenosine triphosphate)の量を 測定する.この方法は ATP を含む有機物にホタルの 発光物質であるルシフェリンおよびルシフェラーゼを 加えた際に起こる発光の相対発光量(RLU:relative light unit)を測定する(石橋 1989;厚生労働省 2004).

ATP 法により得られる RLU は,ATP 濃度および細 菌数に対して正の相関を示すことが報告されている

(浅野・杉山 2001;村上ら 2004).

 本研究の汚染度の測定には Kikkoman 社製のルミ テスターPD-10N を用い,拭き取りには専用スワブ

(ルシパックワイド)を用いた.皮膚の拭き取り部位 は,第 2,3,4 指の指腹と指間,手掌とした.拭き取 り方法は,著者らの先行研究(中田ら 2009)の測定方 法に準拠した.本研究ではルミテスターPD-10N で得 られた相対発光量を常用対数に変換し汚染度の指標と した.

4.ニオイセンサー法

 本研究では,手指の臭度の評価としてニオイセン サー法を用いた.ニオイセンサー法は,大気中のニオ イ物質を検知してニオイの濃さ・強さを測定するため のガスセンサーである.ニオイ物質(還元性ガス)が,

金属酸化物を含む半導体センサー表面に吸着される と,酸化反応が進行するときに生成する電子の流れに よって抵抗変化が起こる.この半導体の抵抗値の変化 量が検出され無単位の数値として表示される.ニオイ

センサー法は,麻痺手の清潔ケアに関する研究(平松 ら 1991;鈴木ら 1999;佐々木 2005)などに取り入れ られている.

 本研究での測定には,高感度ニオイモニターOD-85

(理研計器製)を用いた.測定時は室内環境の影響を避 けるために,無臭空気を 2/3(3 L)程度充填させた A3 サイズのビニール袋(30.0×45.0 cm)を対象者の手指 に素早く覆い被せた.無臭空気は空気ボンベから充填 した.ニオイ採取棒をビニール袋から挿入し,手掌部 皮膚面中央より 3 cm 程度離した位置でニオイを吸引 した.測定開始から 1 分後のニオイ指示値(以下,臭 度と記す)を記録した.

5.調査手順

 対象者には入浴後に手浴を実施した.汚染度は手浴 前後の連続 5 日間を測定し,臭度は手浴後 3 日目のみ 測定した.対象者の定期入浴は週 2 回であり入浴の間 隔は中 3 日間と中 2 日間の場合があるが,手浴は次の 入浴までの間隔が長い入浴日に実施した(表 1).この 手順を 3 種類のハンドロール使用とコントロールを加 えた 4 条件で実施した.各患者に対しこれら 4 条件す べてを各条件の実施順序が偏らないようにランダムな 順序で実施した.各条件の間隔は,中 2 日間を開けて 次の条件を開始した.汚染度およびニオイの測定時刻 は 13:30 ~ 16:30 であった.

 手浴は長期臥床患者の看護経験が豊富な看護師 3 名 が実施した.手浴は事前に打ち合わせ,練習により同 一の方法で実施できるようにした.手浴実施者は手浴 のみを行い,ハンドロールの交換や測定には関わって いない.手浴は対象者の手を湯に 2 分間程度浸漬し,

看護者の手指で汚れを除去した後,石鹸とガーゼで主 に手掌・指間等を洗浄し,湯を交換してすすいだ後に かけ湯を行った.その後ペーパータオルで水分を十分 拭き取り,指間部にペーパータオルを挟み込み乾燥さ せた.

 3 種類のハンドロールの素材は,綿のタオル地とし た.ハンドロールのサイズは,75 歳以上の男女の握 り内径(示指)の 95 パーセンタイル値 41.3 mm と,最

表1 各条件の汚染度・臭度の測定プロトコル 前日

入浴日

手浴 1 日目 2 日目 3 日目

汚染度

臭度

(4)

大手幅(手軸直交)106.1 mm を基本にした(生命工学 工業技術研究所 1994).拘縮手への着脱を考慮し,各 ハンドロールの直径は 35 mm(圧縮時 20 mm 程度),

横幅は 120 mm とした.3 種類のハンドロールの写真 を図 1に示す.通常はタオルをロール状にして掌部で 把持する形状とした(図 1-A).指股は,通常に第 2・

3・4 指間に挟み込む指股部分を付けた形状とした(図 1-B).緑茶は尺角ガーゼ(30×30 cm)2 枚で包んだ緑 茶葉を,タオルの中に入れ手掌部で把持する形状とし た(図 1-C).ハンドロールが保持できるよう掌部から 手背にかけて平ゴムを取りつけた.緑茶葉は国産の煎 茶を使用し,ハンドロール 1 個あたりの茶葉の量は 10 g とした.

6.分析方法

 測定値(汚染度および臭度)は平均値 ± 標準偏差で示 した.各条件での汚染度の時間経過による変化,手浴 後 3 日目の手指汚染度および臭度に対するハンドロー ル使用条件の効果について反復測定一元配置分散分析

(one-way repeated measure ANOVA)を用いて分析 した,下位検定は Scheffe 法による多重比較を行った.

危険率 5%以下を有意差ありとみなした.これらの統 計処理には SPSS Ver13.0J for Windows を使用した.

7.倫理的配慮

 本調査は,所属大学の倫理審査委員会の審査を受け

承認を得て実施した.入院中の調査対象者および病院 管理責任者に研究の趣旨,プライバシーの保護等につ いて書面および口頭にて説明し,同意書に署名が得ら れた者(意思表示が困難な場合は家族)のみを対象とし た.また,家族の同意が得られても,本人から不快な 反応がみられた場合はとりやめた.

Ⅲ.研究結果

1.ハンドロールの効果の持続性

 5 日間の手指汚染度の変化を図 2に示す.手浴直 後の平均手指汚染度はどの条件においても 3.2 ~ 3.3 logRLU であり,手浴前日の平均手指汚染度 4.8 ~ 4.9 logRLU に比べると大幅に低下している.また,手浴 直後の汚染度において条件間の差がきわめて小さいこ とは,本研究において手浴が一定の方法で行われてい たことを意味する.

 分散分析の結果,4 条件すべてにおいて手浴前から 手浴後 3 日目までの時間経過の要因が有意となった.

下位検定では手浴前の値との多重比較を行ったが,ハ ンドロールなし,通常,緑茶の 3 条件では手浴直後お よび 1 日目までしか統計的有意差は得られず,2 日目,

3 日目では手浴前と比較して有意な差はみられなかっ た.これに対し,指股では手浴後 3 日目まで手浴前と 比較して有意な低下が持続した(表 2).

A:通常ハンドロール

A B C

B:指股ハンドロール C:緑茶葉入りハンドロール 図1 ハンドロールの外観

(5)

2.ハンドロール別の手指汚染度の比較

 各条件別の手浴後 3 日目の平均手指汚染度の比較を 図 3に示す.3 日目の平均手指汚染度は,ハンドロー ルなしが 4.9±0.3 logRLU,通常が 4.8±0.3 logRLU,

指 股 が 4.1±0.3 logRLU, 緑 茶 が 4.8±0.3 logRLU で あった.指股は,ハンドロールなし,通常および緑茶 と比べて有意(p < 0.01)に汚染度が低かった.つまり,

指股付きハンドロールにのみ拘縮手に対する汚染防止 効果がみられたといえる.

3.ハンドロール別の臭度の比較

 各条件別の手浴後 3 日目の平均臭度を図 4に示す.

ハンドロールなしの平均臭度 314±119.5 に比べて,

通常のハンドロールを使用した場合の平均臭度 224±

35.5 および指股付ハンドロール 233±77.0 は有意(p < 0.05)な臭度の低下がみられた.つまり,通常,指股 のどちらのハンドロールも同程度の防臭効果があると いえる.緑茶葉入りハンドロールの 3 日目の平均臭度 は 269±92.9 であり,通常および指股の場合よりも臭 度は高く,ハンドロールなしと比較すれば若干の臭度 の低下がみられたものの有意な差ではなかった.

前日 手浴後 1日 2日 3日

ハンドロールなし

2 3 4 5 6

前日 手浴後 1日 2日 3日

通常のハンドロール

2 3 4 5 6

前日 手浴後 1日 2日 3日

指股付きハンドロール

2 3 4 5 6

前日 手浴後 1日 2日 3日

汚染度(logRLU 汚染度(logRLU汚染度(logRLU

汚染度(logRLU

緑茶葉入りハンドロール

2 3 4 5 6

前日 手浴後 1日 2日 3日

平均±SD,n=20

図3 手浴後 3 日目の手指汚染度の比較 表2 手浴前の手指汚染度との比較

(Scheffe 法による多重比較)

手浴後 1 日目 2 日目 3 日目

なし ** ** NS NS

通常 ** ** NS NS

指股 ** ** ** **

緑茶 ** ** NS NS

** p < 0.01 NS:non-significant

**

** **

汚染度(logRLU

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0

なし 通常 指股 緑茶

平均±SD,**p<0.01,n=20 図2 各ハンドロールの汚染防止効果の持続性

(6)

Ⅳ.考察

1.ハンドロールの汚染防止効果

 本研究の結果では,指股付きハンドロールにのみ 有意な汚染防止効果がみられ,それ以外の条件(通常 と緑茶)では,ほとんど効果がみられなかった.した がって,ハンドロールによる汚染防止には,内容物

(緑茶葉)の有無よりもハンドロールの形状が強く影響 し,手掌部だけでなく指間部をカバーすることが重要 であると考えられる.

 麻痺手の細菌の増加因子は湿度,発汗過多であり

(泉ら 1988),長期臥床患者の湿潤している手指には 細菌数が多いことが報告されている(天野ら 2006).

つまり細菌による手指の汚染を防止するには過度の湿 潤を避けることが肝要である.

 手指の解剖学的構造の特徴として,屈曲位では側 副靱帯と関節包が強く伸張し,MP 関節が固定され るという合目的な構造となっているため,指の内・

外 転 は 制 限 さ れ る( 上 田 1994). つ ま り,MP 関 節 の屈曲拘縮では,特に基節部の皮膚が過度な密着状 態となりやすい.このように皮膚が密着した状態で は,指間部は常に湿潤した状態におかれることにな り,bacterial biofilm を形成する場合も考えられる.

bacterial biofilm は,水分のある環境下で細菌が菌体 の周囲に産生する glycocalyx を形成する粘液層であ り,いったん bacterial biofilm が形成されるとこれを 除去することは容易ではない(小林 2005;Costerton et al. 1995).本研究においても,拘縮手の密着した指 間部にはぬめりと白色の粘稠な汚垢の付着が観察され た例があり,これは bacterial biofilm ではないかと推

測される.

 指股付きハンドロールでは指間部の密着を回避し汗 を吸収する.実際,指股付きハンドロールを使用した 場合では手浴後 3 日目であっても指間部に Biofilm 状 の汚垢が観察された例はなかった.これらの所見から も手指汚染の防止には指間部の吸湿が重要であり,こ のためには単なる円筒状のハンドロールよりも指股付 きハンドロールが有効であると考えられる.

2.ハンドロールの防臭効果

 これまで,ハンドロールの内容物に防臭材を用いた 研究はわずかにみられる.意識障害のある患者 9 名の 麻痺手に粉末備長炭入りハンドロールを用いた場合,

24 時間後に官能評価を行った結果,把持前と比べて 不快度に有意な低下がみられたと報告されている(鈴 木ら 1999).しかし,この報告では対象者のほとんど がハンドロール把持後に清拭やシャワー浴などの清潔 ケアを受けており,不快度の低下がハンドロール自体 による効果であるかは不明である.

 また,麻痺手に竹炭入りクッションを用いた場合,

7 日後の官能評価ではクッションがない場合と比較し て不快度に改善がみられたと報告されている(佐々木 2005).しかしこの研究では対象者は 3 名と少なく,

統計的有意差は得られていない.以上のことから,木 炭や竹炭など防臭材の使用の有無にかかわらず,ハン ドロールの防臭効果に関するエビデンスは明確ではな いと思われる.

 本研究のニオイセンサー法による結果では,特に内 容物を用いない掌部に把持するタイプのハンドロール

(通常),指間に挟み込むタイプのハンドロール(指股)

のどちらにも有意な防臭効果がみられた.つまり,吸 湿性が十分な綿のタオル素材のハンドロールであれ ば,防臭材を用いなくとも防臭効果が得られることが 示されたと考えられる.

 体臭や汗臭は,エクリン腺から分泌されたアミノ酸 と無機塩の水溶液が,皮膚常在菌や真菌の作用を受 けることにより発生する(澤野 2000).手掌部は,全 身の皮膚の中で最もエクリン汗腺が多く分布してお り,緊張などによる精神性発汗により常時発汗がみら れる(高屋・徳永 1998;中野 2000).歩行不能で麻痺 の程度の強い患者の手掌には Staphylococcus aureus,

Proteus,Candida など多くの細菌種が存在している と報告されている(笠井ら 2000).また,エクリン腺 から分泌された汗に Staphylococcus aureus を培養す

0 100 200 300 400 500 600

臭度

なし 通常 指股 緑茶

平均±SD,*p<0.05,n=20

図4 手浴後 3 日目の臭度の比較

(7)

ると酸臭,汗臭が観察されると報告されている(澤野 2000).したがってタオル素材のハンドロールの消臭 効果は,手掌部の汗を吸湿し細菌の増殖を抑えること によるものであると考えられる.

3.緑茶葉を用いたハンドロールの衛生的効果  緑茶葉に含まれる低分子ポリフェノールであるカテ キン類の抗菌作用は広く知られ,緑茶葉の消臭効果 は明らかにされている(Ikigai et al. 1993;Yasuda &

Arakawa 1995; 増 田 ら 2004; 齋 藤 ら 2007;Lodhia et al. 2008).寝たきり高齢者の拘縮手に緑茶パック 入りのハンドロールを用い,毎日,隔日,2 日おきに 交換した場合,間隔が短いほど臭いの低下がみられ たと報告されている(福岡ら 2008).また,拘縮手に 茶殻とビーズ入りのハンドロールを用い,14 ~ 15 時 間ごとに交換した場合,官能評価によって有意な臭 いの低下がみられたと報告されている(Fukuoka et al.

2009).官能評価法には専門的技術と再現性のあるプ ロトコルが必要であるが,これらの報告ではいずれも 臭いの評価方法が不明確であり,結果の信頼性・妥当 性は十分とはいえないと思われる.

 本研究のニオイセンサー法による測定では,緑茶葉 入りハンドロールを使用した場合は,ハンドロールを 使用しない場合と比較して臭度に有意な低下はみられ なかった.先に述べたように,本研究の結果ではタオ ル素材のみのハンドロールであっても有意な防臭効果 がみられており,緑茶葉を使用したほうが通常のハン ドロールの使用時に比べてかえって臭度の上昇がみら れた.このようにニオイセンサー法による客観的な臭 度測定では緑茶葉の防臭効果は示されなかった.

 ニオイセンサー法はガスクロマトグラフなどを用い た公定法に比べ,装置が小型なので臨床現場での迅速 な測定に適しているが,ニオイは複合臭として評価さ れ単一成分を分離して測定することはできない(にお い・かおり環境協会 2005;日本建築学会 2002).つま り,ニオイセンサー法ではニオイの強さを数値化する ことはできるが,ニオイの快・不快を評価するとはで きず,この点がこの方法のデメリットである.

 ニオイセンサー法で緑茶葉(煎茶)生資料そのものの ニオイを測定すると 240 程度の数値を示す.ニオイセ ンサー法による測定結果には拘縮手独特の酸臭だけで はなく,緑茶葉そのものの香りも含まれている可能性 がある.つまり,本研究において緑茶葉の使用でほと んど臭度が低下しなかったのは,拘縮手の異臭に緑茶

葉そのものの香りが付加されたからではないかと考え られる.したがって,本研究の結果から拘縮手への緑 茶葉の防臭効果を完全に否定することはできない.ニ オイセンサー法は再現性が高くニオイの強さを客観的 に数値化できるメリットがあるが,拘縮手の不快性の 評価に用いるには限界があり,官能評価法との併用が 必要であると思われる.

Ⅴ.まとめ

 本研究の結果からハンドロールの使用には一定の客 観的効果があることが示された.タオルを用いた通常 のハンドロールには異臭の発生を抑える効果がみられ た.指間部もカバーする指股付きハンドロールでは,

防臭効果に加え有機物による汚染を抑制する効果もみ られた.つまり,適切な形状のハンドロールであれ ば,防臭材等を用いないタオル素材のみのものであっ ても,有意な防臭・汚染防止効果が得られるといえ る.これに対し,緑茶葉入りのハンドロールの衛生効 果については,本研究では明確な結果は得られなかっ たが,これはニオイセンサー法による臭気評価の特性 が関係している可能性が考えられる.ハンドロールに 緑茶葉を用いることの有効性については更なる研究が 必要であると思われる.

 謝辞:本研究にご協力くださいました対象者ならびにご家 族,施設の皆様に心より感謝申し上げます.

文献

天野瑞枝,中田秀美,三好陽子,他(2006):麻痺のある患者の 手指の細菌調査―移動可能群と寝たきり群の比較―,医学と 生物学,150(12),426-432.

浅野雅美,新村千晶,小林幸子(1998):患者の手指の清潔ケア に対する看護婦の意識と行動,第 29 回日本看護学会論文集(看 護総合),29,150-152.

浅野梨沙,杉山章(2001):細菌の ATP 検査によるモニタリング システムの評価,名古屋女子大学紀要,47,95-100.

Ashworth, B. (1964):Preliminary trial of carisoprodol in multiple sclerosis, Practitioner, 192, 540-542.

Bohannon, R.W. & Smith, M.B. (1987):Interrater reliability of a modified Ashworth scale of muscle spasticity, Physical Therapy, 67, 206-207.

千野直一編(2001):脳卒中のリハビリテーション<リハビリ テーション MOOK No.2 >,62-63,金原出版,東京.

Costerton, J. W., Lewandowski, Z., Caldwell, D. E. et al. (1995):

Microbial biofilms, Annu. Rev. Microbiol., 49, 711-745.

Fujii M., Sato T., Sato T. et al. (2004):Green tea for tinea manuum in bedridden patients, Geriatr. Gerontol. Int., 4, 64- 65.

Fukuoka, Y., Kubo, H., Hatakeyama, A. et al. (2009):Four-

(8)

finger grip bag with tea to prevent smell of contracted hands and axilla in bedridden patients, Geriatr. Gerontol.

Int., 9, 97-99.

福岡裕美子,畠山愛子,畠山禮子,他(2008):寝たきり老人の 拘縮手における緑茶消臭効果,日本老年医学会雑誌,45臨時 増刊号,学術集会公演抄録集,93.

林泰史編(1994):介護福祉士のための介助テクニックシリーズ 5 介助に必要なリハビリテーションの知識,3-7,文光堂,東京.

平松知子,泉キヨ子,金川克子,他(1991):片麻痺患者の麻痺 手の汚れと清潔ケアに関する検討,金沢大学医療技術短期大 学部紀要,15,73-77.

Hoeman, S.P. (2001):Rehabilitation nursing, process, application & outcome, 232-234, Mosby, St. Louis.

Ikigai, H., Nakae, T., Hara T., et al. (1993):Bactericidal catechins damage the lipid bilayer, Biochimica Biophysica Acta, 1147(1), 132-136.

猪俣るり子,門久友子,小場佐美由紀,他(2009):手指関節に 拘縮をきたした高齢者への茶殻入り手枕の真菌症改善の効果,

第 40 回日本看護学会論文集(老年看護),72-74.

石橋貞彦(1989):ATP と代謝制御,34,東京大学出版会,東京.

泉キヨ子,金川克子,天津栄子,他(1988):片麻痺患者の麻痺 手と健手の皮膚細菌叢についての検討,金沢大学医療技術短 期大学部紀要,12,7-14.

笠井史人,小池知治,森義明(2000):脳血管障害患者におけ る手足真菌症について,リハビリテーション医学,37(11),

848-849.

小林和代,堀勝二,小玉亜希子,他(2008):手指拘縮のある患 者の手白癬に対する竹炭利用の効果,日本農村医学会雑誌,

57(4),667.

小林治(2005):細菌 Biofilm, Geriat. Med., 43(11), 1755-1760.

厚生労働省(2004):食品衛生検査指針,71-74,社団法人日本食 品衛生協会,東京.

厚 生 労 働 省 ホ ー ム ペ ー ジ(2008): 指 定 介 護 療 養 型 医 療 施 設 の 人 員, 設 備 及 び 運 営 に 関 す る 基 準, 最 終 改 正, 厚 生 労 働 省 令 第 一 三 七 号.http://hourei.hounavi.jp/hourei/H11/

H11F03601000041.php

Lannin, N.A. & Herbert, R. D. (2003): Is hand splinting effective for adults following stroke? A systematic review and methodological critique of published research, Clin.

Rehabil., 17(8),807-816.

Lodhia, P., Yaegaki, K., Khakbaznejiad, A. et al. (2008):Effect of green tea on volatile sulfur compounds in mouth air, J.

Nutr. Sci. Vitaminol., 54(1), 89-94.

増田淳二,森脇洋,福山丈二(2004):茶殻を用いた消臭の効果 について,生活衛生,48(2),92-96.

松原康美編著(2008):ナーシング・プロフェッショナルシリー ズ スキントラブルの予防とケア ハイリスクケスへのアプロー チ,76-86,医歯薬出版,東京.

松浦陽子,原めぐみ,熱田麻沙美,他(2008):拘縮手の不快臭 に対する新聞紙を詰めた軍手クッションの消臭効果,第 39 回 日本看護学会抄録集(老年看護),30.

南崎一美,鈴木めぐみ,岩井恵,他(2008):拘縮等に伴う悪臭 や発赤を抑制する茶葉の効果について―4 種類の茶葉を試みて

―,厚生院紀要,34,43-51.

三角梨沙,酒井祐美子,野村喬太(2008):手指拘縮のある患者

の手掌を清潔に保つ工夫―最適なハンドロールの素材を探し て―,埼玉看護研究学会集録,18,77-78.

宮下輝美,矢野理香(2008):臨床における手浴の実態調査,日 本看護技術学会誌,7(2),30-36.

村上成治,辰巳宏樹,梶山直樹,他(2004):ホタルルシフェラー ゼの応用開発,日本農芸化学会誌,78(7),630-635.

中田弘子,小林宏光,川島和代(2009):長期臥床患者の拘縮手 への効果的な清潔ケアの検討,日本看護技術学会誌,8(2),

12-19.

中野昭一編(2000):図解生理学,270-271,医学書院,東京.

日本建築学会編(2002):都市・建築空間の科学,103-114,技報 堂出版,東京.

におい・かおり環境協会(2005):ためして簡単―現場で使える 臭気簡易測定ガイドブック―,7-17,社団法人におい・かお り環境協会,東京.

西尾香,氏平景子,辻理絵(2006):茶パック使用による手掌の 不快臭の消臭効果,京都府看護学会集録,10,51-53.

扇礼子,谷内まり子,山野朋子,他(2005):手指拘縮患者の手 の湿潤・臭い解消への取り組み―ハンドクッションを作製し て―,国立病院総合医学会,59,385.

齋藤真規,五十嵐三彦 , 山口恭誉 , 他(2007):緑茶カテキンの Aggregatibacter(Actinobacillus) actinomycetemcomitans に対する抗菌および抗細胞障害作用,日大口腔科学,33(1),

35-41.

佐々木里奈(2005):麻痺手の不快臭に対する木酢液,竹炭の消 臭効果,第 36 回日本看護学会論文集(看護総合),133-135.

澤野清仁(2000):体臭,日本味と匂学会誌,7(1),30-10.

生命工学工業技術研究所編(1994):設計のための人体寸法デー タ集,197-199,人間生活工学研究センター,東京.

関根絹代,小松フサ子,古口有美子(2009):高齢で手指拘縮の ある患者の手掌保清効果―茶葉を利用し掌握状態の湿潤・皮 膚トラブルをなくす―,日本看護学会抄録集(老年看護),40 96.

鈴木陽子,高岡京子,及川恵泉,他(1999):麻痺手の不快臭に 対する木炭の脱臭効果,第 30 回日本看護学会論文集(成人看 護Ⅱ),107-109.

高屋通子,徳永恵子編(1998):スキンケア―基本的知識から失 禁・褥瘡・ストーマまで―,16-17,南江堂,東京.

徳山道子,金指香,粟原美枝子,他(2006):ハンドロールと手 掌マッサージを併用した手指拘縮の改善,第 37 回日本看護学 会論文集(看護総合),147-148.

上田敏(1981):目でみる脳卒中リハビリテーション,29-30,東 京大学出版会,東京.

上田敏(1994):目でみるリハビリテーション医学(第 2 版),29,

東京大学出版会,東京.

Yasuda, H. & Arakawa, T. (1995):Deodorizing mechanism of (-)-epigallocatechin gallate against methyl mercaptan, Biosci. Biotech. Biochem., 59(7), 1232-1236.

保元由香,高田絵里菜,曽我部舞,他(2009):手指関節拘縮に 伴うスキントラブル予防―シリカゲルを使用したオリジナル 握り棒の効果―,第 40 回日本看護学会論文集(老年学会),

69-71.

米本恭三監(2005):最新リハビリテーション医学(第 2 版),

78-79,医歯薬出版,東京.

参照

関連したドキュメント

The only thing left to observe that (−) ∨ is a functor from the ordinary category of cartesian (respectively, cocartesian) fibrations to the ordinary category of cocartesian

Keywords: Convex order ; Fréchet distribution ; Median ; Mittag-Leffler distribution ; Mittag- Leffler function ; Stable distribution ; Stochastic order.. AMS MSC 2010: Primary 60E05

In particular, we consider a reverse Lee decomposition for the deformation gra- dient and we choose an appropriate state space in which one of the variables, characterizing the

Inside this class, we identify a new subclass of Liouvillian integrable systems, under suitable conditions such Liouvillian integrable systems can have at most one limit cycle, and

We present sufficient conditions for the existence of solutions to Neu- mann and periodic boundary-value problems for some class of quasilinear ordinary differential equations.. We

Then it follows immediately from a suitable version of “Hensel’s Lemma” [cf., e.g., the argument of [4], Lemma 2.1] that S may be obtained, as the notation suggests, as the m A

Our method of proof can also be used to recover the rational homotopy of L K(2) S 0 as well as the chromatic splitting conjecture at primes p > 3 [16]; we only need to use the

The proof uses a set up of Seiberg Witten theory that replaces generic metrics by the construction of a localised Euler class of an infinite dimensional bundle with a Fredholm