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— 佐藤 - テイト 予想の証明に向けて —

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(1)

カラビ - ヤウ 多様体のある族と潜在的保型性

— 佐藤 - テイト 予想の証明に向けて —

原 隆 (Takashi Hara)

2008 年 10 月 17 日

概要

[HSBT]に従って,GSpn-ガロワ表現に対する潜在的モジュラー性定理及び、その佐藤-テイト予想への応

用について概説する。

この文章は,2008年3月に行われた『R=Tの最近の発展についての勉強会』での安田正大氏の講演“Proof of Sato-Tate conjecture after Taylor et al.” に基づき,マイケル・ハリス(Michael Harris),ニック・シェパー ド-バロン(Nick Shepherd-Barron)及び リチャード・テイラー(Richard Taylor)による共著のプレ・プリント

“A family of Calabi-Yau varieties and potential automorphy” ([HSBT]) の解説を試みたものである。

1994年のワイルズ(Andrew Wiles)による フェルマー(Fermat) 予想の解決が世界に衝撃を与え,数論の新 時代の到来を告げたことは未だ記憶に新しいが,その興奮も醒めやらぬ中,佐藤-テイト(Sato-Tate)予想とい うこれまた大予想が解決されたというアナウンスが テイラー 達の研究チームによってもたらされたのは,つい

一昨年(2006年)のことであった.フェルマー 予想の解決に用いられた「R=T」なる手法が,ほんの十数年

後に 佐藤-テイト 予想や セール(Serre) 予想と言った大予想達を次々にばっさばっさと薙ぎ倒してゆく様を遠 目で眺めているだけでも,この「R=T」という手法が数論の世界にある種の革命をもたらしたことが改めて実 感されるというものである.

上記の[HSBT] 及び テイラー のプレ・プリント[Tay4]は,その 佐藤-テイト予想を(弱い仮定の下で)証明 した記念碑的な論文である.*1 そんな歴史的にも数学的にも非常に重要な論文の解説記事を,漸く修士論文を書 き上げたばかりでしかも「R=T」については全くの門外漢であるといって良い様な若造に任せようという事自 体あまりにも無謀極まりない“冒険”に違いないとは思うのだが,一方でそんな門外漢が苦労して論文を読んで 自分なりの理解をした上で著した解説記事の方が親しみやすいと思われる方々も少しはいらっしゃるかもしれ ない,と考え直し,本報告集の執筆に臨むこととした.

本論に入る前に一般的な注意をしておこう.[HSBT]の最終目標は佐藤-テイト 予想の“証明”であることに 間違いはないが(系4.3),その証明の全てをカバーしているわけではない.特に,今回の勉強会のテーマでもあ る「R=T」の手法及びその副産物として得られる モジュラー性持ち上げ定理(Modularity Lifting Theorem, MLT) は,当然のことながら 佐藤-テイト 予想に於いてもその威力を如何なく発揮しているが,この「R=T の議論の部分は ローラン・クローゼル(Laurent Clozel),ハリス 及び テイラー等に依り別のプレ・プリントで 展開されている([CHT],[Tay4]).したがって,本稿は 佐藤-テイト 予想の証明の全ての部分について網羅して いるわけではないので,そのような解説記事をご所望の方々の期待には残念ながら添えられない.本稿では解説

東京大学大学院数理科学研究科 thara@ms.u-tokyo.ac.jp

*1まだプレ・プリントの段階ではあるが.

(2)

  ケアレ- ワンテンベルジェの  セール予想解決 [田口],[萩原],[山内]

   GL2-表現の 潜在的モジュラー性定理

[津嶋],[Tay2],[Tay3]

技術的

拡張

//

²²²O²O²O 77

カラビ-ヤウ族を用いた 潜在的モジュラー性定理

   本稿,[HSBT]

  適用

'''g'g'g'g'g'g

2次L-関数の 有理型解析接続   関数等式

佐藤 - テイト   予想

  テイラー-ワイルズ系   「R=T」定理

モジュラー性持ち上げ定理 拡張

//

OOO²O²O²

   ユニタリ群での   「R=T」定理 モジュラー性持ち上げ定理 [安田・千田],[CHT],[Tay4]

  適用

777w7w7w7w7w7w

図1 佐藤-テイト 予想の証明に至るまでの「R=T」関連の研究の位置づけ

できない「R=T」の部分([CHT], [Tay4])に関しては本報告集で安田正大氏と千田雅隆氏が優れた解説記事を 書いて下さっていると思うので([安田・千田]),佐藤-テイト 予想の証明を余すところなくじっくり味わいたい 方は是非合わせてご覧頂きたい.

本稿では,佐藤-テイト 予想の証明のもう一つの柱となる潜在的モジュラー性定理 (Potential Modularity

Theorem)の議論を扱う.潜在的モジュラー性とは,非常に大雑把な言い方をすれば,

モジュラー性が既知である非常に限られた 法 l-表現から,モジュラー性持ち上げ定理に依って得られる l-進ガロワ表現のモジュラー性を次々と他のガロワ表現に感染させてゆくことで,最終的に考えてい るl-進表現の(潜在的)モジュラー性を示そう

という類の議論であり,ワイルズ が フェルマー 予想の証明(谷山-志村予想の部分的解決)の際に用いた(3,5)- トリック(山下剛氏の稿[山下1]参照)の変奏である.

テイラー は先ず [Tay2], [Tay3]でこの潜在的モジュラー性の議論を GL2-表現の場合に展開し,次数 2 の L-関数の有理型解析接続性などに応用した.佐藤-テイト 予想の証明に於いても,L-関数に対する解析接続性 や零点の分布を調べる必要があるため,潜在的モジュラー性定理に伴う L-関数の解析接続性の議論は非常に有 用に見える.しかしながら 佐藤-テイト 予想で登場するL-関数はより高次のものであるため,[Tay2],[Tay3]

で扱われた潜在的モジュラー性の議論を改変する必要に迫られる.それを実際に行ったのが [HSBT]である.

[Tay2], [Tay3]で扱われたGL2-表現の場合の潜在的モジュラー性定理については,津嶋貴弘氏が本報告集に於

いて解説して下さっているので([津嶋]),適宜参照していただきたい.尚,本稿でもGL2-表現の場合との違い については簡単に触れるつもりである.

本題に入る前に,この[HSBT]というプレ・プリントの位置づけを明確にするために,図1に最近の「R=T 関連の発展の流れを図示した.この図からもお分かりいただけると思うが,本稿は技術的な側面((l, l)-トリッ クの改良の歴史)から見れば,津嶋氏の稿 [津嶋] の直接的な続編として考えていただいて差し支えないだろう し,佐藤-テイト 予想の解決と言う側面を重視すれば,本稿は安田氏・千田氏の稿[安田・千田]と互いに補完し

(3)

合った内容を扱っているとも言えよう.

それでは以下,本稿の内容について簡単に説明しておこう.

§0 では,イントロダクションとして,佐藤-テイト 予想のステイトメント及び テイト,セール (Serre)によ るオブザベーションについて纏めた.

§ 1 から§ 4 が[HSBT]の解説にあたる部分であり,各節のタイトル及び定理番号等はなるべく原論文と揃

えるように努めた.原論文は テイラー 教授のホームページから入手できるので,原論文と照らし合わせながら 読んでいただくと感じが掴みやすいのではないかと期待している.詳しい内容は本文に譲るが,各節の内容は概 ね以下の通りである.

§ 1 では カラビ-ヤウ(Calabi-Yau)多様体のある特別な族に関する代数幾何学を展開する.特に,特異点で のモノドロミーの様子を詳しく観察する.§ 2 では,所謂“(l, l)-トリック”を実行するために用いられる モレ- ベイイー(Moret-Bailly)の定理を拡張したものを導入し,如何にして(l, l)-トリックに応用するかを概観する.

§ 3が[HSBT]のハイライトであり,§ 1 で考察した カラビ-ヤウ 多様体の族のレベル構造に関する“モジュラ

イ空間”に§ 2の モレ-ベイイー の定理の変形版を適用することによって,(l, l)-トリックを実行し,潜在的モ ジュラー性定理を証明する.§ 4では,潜在的モジュラー性定理を楕円曲線の対称積 L-関数に適用することに よって,その解析的接続性及び零点の様子を考察する.この結果と テイト-セール のオブザベーションを組み 合わせることで,佐藤-テイト 予想は自然に導かれる.

付録として,カラビ-ヤウ 超曲面Ytに付随するL-関数の解析接続性と関数等式に関する結果を纏めた.

潜在的モジュラー性の議論(及び(l, l)-トリック)自体は,大雑把なイメージだけなら非常に掴みやすく,面 白い議論である(と個人的には思うのだが).一方で,精密に議論しようとすると,複雑な条件達や技術的な困 難が幾層にも折り重なって恐ろしく難解になる.この解説記事に於いては,そういった技術的な面についてもあ る程度コメントすることが求められてはいるのだろうが,そうは言っても細々とした技術的注意を全てカバーし ようとするとこの報告集が単なる原論文の和訳(或いはそれ以下のもの)と成り下がってしまう危険性が非常に 高いと思われる.そこで,本稿では,各節の前半でその節で議論されていることをあまり数学的厳密性に拘らず に“直観的”かつ“大雑把”に纏め,後半で定理の正確なステイトメント及び技術的注意点,証明の概略につい てコメントすることにした.議論の概観だけに興味のある方は,各節の最初の小節だけを拾い読みしていただく だけでも,おおよその雰囲気くらいは感じ取っていただけるのではないかと思う.

また,潜在的モジュラー性及び(l, l)-トリックには直接関係ないが興味深いと思われる (或いは筆者が個人的 に面白いと思った)関連した話題や背景についても,「雑談」として纏めた部分がある.潜在的モジュラー性の 議論にのみ興味がある方は「雑談」の部分は読み飛ばしていただいて全く差し支えない.

幸いにして,2007年の年始に東京工業大学に於いて開催された『佐藤-テイト予想研究集会』の講演内容 を纏めたものとして,雑誌「数学のたのしみ」シリーズから『佐藤-テイト予想の解決と展望』が出版された ([たのしみ]).*2 その中で潜在的モジュラー性に関しても,吉田輝義氏が非常に卓越した解説を執筆されている.

本稿では,[たのしみ]のように直観的イメージを大事にしつつ,[たのしみ]よりも細かい部分(証明の細部など) に関してもなるべく丁寧に記述するように試みた.初学者は細かい点に気を取られることなく数論幾何学の研 究の最先端の雰囲気を存分に味わえ,一方でこの分野に関心のある方は証明の際の技術的なテクニックなど細か い点までじっくり堪能できるような,言うなれば「痒いところに手が届く」ような解説記事をなるべく心掛けて 書いたつもりである.そうは言っても筆者の理解もまだまだ未熟故,本稿がその目論見をどの程度実現できてい るか甚だ心許ないが,その点についてはこの記事を読んだ皆様の反応を待つこととしたい.

*2良質な数学的話題を長年に渡って提供し続けて下さった「数学のたのしみ」シリーズが本号を持ってその歴史に一旦幕を下ろされた ことは,一読者として非常に残念である.今までありがとうございました.

(4)

目次

0 イントロダクション——佐藤-テイト予想について 4

0.1 佐藤-テイト 予想の定式化 . . . 5

0.2 対称積 L-関数と テイト-セール のオブザベーション . . . 6

0.3 証明の方針 . . . 9

1 超曲面のある族—A family of hypersurfaces 10 1.1 カラビ-ヤウ 族π:Y P1 (l, l)-トリック . . . 10

1.2 カラビ-ヤウ 族π:Y P1 のモノドロミー解析 . . . 12

1.3 ガロワ表現Vl,t の諸性質 . . . 17

2 代数的整数論を少々—Some algebraic number theory 18 2.1 モレ-ベイイー の定理と潜在的モジュラー性 . . . 19

2.2 モレ-ベイイー の定理の変形版とモジュライ空間の幾何学的連結性 . . . 21

3 潜在的モジュラー性—Potential modularity 22 3.1 RAESDC-表現と付随する ガロワ 整合系. . . 22

3.2 議論の概略 . . . 25

3.3 潜在的モジュラー性定理 . . . 26

3.4 対称積表現の潜在的 モジュラー 性 . . . 31

4 種々の応用—Applications 35 4.1 総実体上のアーベル多様体の対称積L-関数. . . 35

4.2 佐藤-テイト 予想の証明 . . . 36

結びにかえて 40

参考文献 41

付録A VtL-関数の関数等式について 42

0 イントロダクション —— 佐藤 - テイト予想について

佐藤-テイト 予想は,非常に大雑把な言い方をすれば,L-関数の零点の虚部に関する分布について述べた非常 に神秘的な予想である.この予想は,テイト 及び セール の オブザベーションに依り,無限個の高次 L-関数 の解析接続性及び零点の配置の問題に帰着される.本節では,[HSBT] の難解な(それでいて魅力的な)世界に 突入する前のウォーミング・アップとして,この辺りの“佐藤-テイト 予想の誕生と変遷”の物語を概観してい こう.

佐藤-テイト 予想を巡る物語はいくら掘り下げても飽くことがないが,本稿の目標はあくまでも「佐藤-テイト 予想の証明」であるので,断腸の思いではあるがこの節は簡潔に纏めざるを得ない.佐藤-テイト 予想の歴史的 背景などより深いことを知りたい方は,例えば[たのしみ]の黒川信重先生の記事などをご覧になって下さい.

(5)

0.1 佐藤 - テイト 予想の定式化

それでは,楕円曲線の 佐藤-テイト 予想を定式化しよう.細かい条件設定の仕方は色々なヴァリエーションが あり得るが,ここでは本勉強会に於ける安田正大氏の講演でなされた定式化に従うこととする.

F を代数体とし,E/FF 上定義された楕円曲線とする.F の有限素点v に対して,その剰余体κ(v)の 位数をqv とする.さらに,良い還元を持つ有限素点vに対し,楕円曲線Evでの還元を Ev と書く.

さて,ハッセ(Hasse)の定理により,良い還元を持つ有限素点vに対して,Evκ(v)-有理点の集合Ev(κ(v)) の位数と1 +qvとの“誤差項”av= 1 +qv−♯(Ev(κ(v)))との間に|av|<2√qvなる不等式が成立する.した がって,ある実数θv によって,誤差項av

av = 2

qvcosθv

と書き表され,この時EL-関数L(s, E)の良い素点での局所因子は Lv(s, E) = (1−avqvs+qv12s)1

={(1−evqv1/2s)(1−evq1/2v s)}1 と分解される.*3

佐藤-テイト予想とは,この v} が如何に分布するかについての予想であり,つまり“誤差項”が如何に分布 しているかを予言するものであると言える.

予想 0.1 (楕円曲線の 佐藤-テイト 予想). E/F を代数体 F 上の虚数乗法を持たない楕円曲線とする.また,

a, bを0< b−a <2πなる実数とする.また,F の良い還元を持つ有限素点v に対し,上記のようにして実数 θv を構成しておく.

この時,以下が成立する:

nlim→∞

♯{v:良い有限素点|qv≤n, θv[a, b]}+♯{v:良い有限素点|qv≤n,−θv [a, b]}

♯{v:良い有限素点|qv≤n} = Z b

a

2

πsin2θdθ (0.1) (但し,θv はR/2πZで考える.)♦

注意I. E が虚数乗法を持つ場合は,θv の分布はこのようにはならない.♦*4 [HSBT]では,

(仮定-1) F は総実代数体である.

(仮定-2) Ej-不変量が整数でない.

という仮定の下で 佐藤-テイト 予想が示されている.このうち,(仮定-2) は完全に技術的な仮定であり,近い 将来のうちに除かれるのではないかと期待されている(後に詳しく述べよう).したがって,テイラー達の不断 の努力の結果,現時点で既にかなり一般的な状況の下で楕円曲線の 佐藤-テイト予想は解決された,と言って差 し支えなかろう.

*3θvの範囲を[0, π]の間などに指定してθvの不定性をなくしてしまうこともよく行われるが,以下の 佐藤-テイト 予想の定式化に

於いてはθv±の不定性は考慮する必要がないことに注意.

*4この場合は虚数乗法論により分布が決定されている.

(6)

0.2 対称積 L- 関数と テイト - セール のオブザベーション

佐藤幹夫は膨大な量のデータを計算することによって,θv の分布が 2

πsin2θ に従うのではないかと言うこと を数値的に予想した.この予想に対する理論的な根拠を考え出したのが ジョン・テイト(John Tate)であった (厳密な証明を与えたのが セール).以下,彼等が行ったオブザベーションを振り返ってみよう.

かの有名な素数定理 (prime number theorem)

xlim→∞♯{p:素数|p < x} ∼ x logx は,リーマン(Riemann)のゼータ関数の解析的性質,即ち

ζ(s)はRe(s)1に於いて,唯一の一位の極s= 1 を除いて正則に解析接続され,この範囲で零点を

持たない.

から導かれる.

証明の概略. リーマン ゼータ関数ζ(s)の対数微分 (logarithmic differential) d

dslogζ(s) =ζ(s)

ζ(s) = X

p:素数

pslogp 1−ps

= X

p:素数

pslogp X k=0

(ps)k

µ 1

1−x= 1 +x+x2+. . .+xn+. . . ,|x|<1

= X

p,k1

logp pks

の主要部(k= 1 の部分)に現れるディリクレ 級数 (Dirichlet series) G(s) =X

p

logp ps を考える.初等的な解析に依り,残りの部分P

p,k2

logp

pks Re(s)> 1

2 で絶対収束し,特にRe(s)1で正 則関数φ(s)を定める.つまり,

ζ(s)

ζ(s) =−G(s)−φ(s). (0.2)

しかも,ζ(s)の解析的性質より,その対数微分も Re(s)1でs= 1 を除いて正則かつ零点を持たないこと が分かる.s= 1では一位の極を持ち,その留数は1 (s= 1でのζ(s) の位数)である.従って,(0.2)に依 り,G(s)s= 1で一位の極を持ち,その時の留数は1 である.

ここで,所謂タウバー型定理(Tauberian theorem)と呼ばれる定理を用いるのが証明のポイントである.タ ウバー型定理とは,大雑把に言えば ディリクレ 級数 P

n=1

an

ns s= 1 での解析的性質から,その分子の和 Pinf ty

n=1 an の漸近的な値を評価するものである.

ここでは,ノーバート・ウィーナー(Norbert Wiener),池原 止戈夫 らに依って拡張された以下の定理を用 いる.

定理 0.2 (ウィーナー-池原 の タウバー型定理). F(s) = P

n=1

an

ns を複素係数の ディリクレ 級数とする.

F(s)はRe(s)1 の範囲でs= 1以外で正則に解析接続され,s= 1で高々一位の極を持つとする.

以下のような正の実数を係数とする ディリクレ 級数F+(s) =P

n=1

a+n

ns が存在するとする:

i) |an| ≤ |a+n|

(7)

ii) F+(s)はRe(s)>1で(絶対)収束.

iii) F+(s)はRe(s)1の範囲で s= 1以外で正則に解析接続され,s= 1 で丁度一位の極を持つとする.さ らに,s= 1 での留数が正であるとする.

このとき, X

mn

am= (Ress=1F(s))n+o(n) (n→ ∞)

が成り立つ.♦

これをF =F+=Gに対して用いれば良い.すると,Ress=1G(s) = 1より,

X

pn

logp=n+o(n) (n→ ∞)

であるから,アーベル の サメイション・トリック に依り,

X

pn

1 =♯{p:素数|p≤n}= n logn+o

µ n logn

(n→ ∞)

となる.

この素数定理の証明を踏まえて テイト が観察した事実は,標語的に言えば

無限個の L-関数についての解析的な性質が分かれば,佐藤-テイト 予想は証明される

と言うものであった.この テイト のオブザベーションは後に セール によって厳密に証明されたので,現在で はセール の条件(Serre’s condition)などと呼ばれることもある.

テイト の言う「無限個のL-関数」とは,楕円曲線の対称積L-関数L(s, E,Symmm1) (m2) と呼ばれる m-次のL-関数達のことで,良い還元を持つ有限素点に於ける局所因子は

Lv(s, E,Symmm1) =

mY1 k=0

(1−eikθvei(m1k)θvqvm−12 s)1

で与えられる.これらのL-関数は,Re(s)> m+ 1

2 で絶対収束し,その範囲で正則となる.これら全ての対称 積L-関数が,素数定理のときの リーマン ゼータ関数と同様の「良い解析的性質」を満たすならば,佐藤-テイ ト予想が導かれるだろう,と テイト は考えたのであった.セール に従って,このことを厳密に述べてみよう:

命題0.3 (セール の条件). E/F を代数体F 上の虚数乗法を持たない楕円曲線とする.もし,条件()m

()m Em 次対称積L-関数L(s, E,Symmm1)がRe(s) m+ 1

2 に正則に解析接続され,この 範囲で零点を持たない.

が全てのm≥2 に対して成立するならば,Eに対して 佐藤-テイト 予想(予想0.1)は正しい.♦ 計算の都合上,以下のL-関数

Lm1(s, E) = Y

v:良い有限素点 mY1

j=0

1

1−e1(m12j)θvqvs

を 導 入 し よ う .こ の 時 ,(悪 い 還 元 を 持 つ 素 点 及 び 無 限 素 点 で の 局 所 因 子 の 項 を 除 け ば) L(s +

m1

2 , E,Symmm1) = Lm1(s, E) となることが容易に分かるので,条件 ()m が全ての m 2 で成 立すれば,

(8)

()m L関数Lm1(s, E)がRe(s)1に正則に解析接続され,この範囲で零点を持たない.

が全てのm≥2 に対して成立する.

証明. [a, b]<R/2πZの特性関数χ[a,b] を用いることに依って,(0.1)の左辺に現れる分数の分子は X

qvn

[a,b]v) +χ[a,b](−θv))

に他ならない.*5ここで,χ[a,b](x)を周期2πの周期関数と見做して,そのフーリエ級数展開(Fourier expansion) を

χ[a,b](x) =X

m∈Z

cme1mx

とおこう.この時,フーリエ 級数cmは良く知られているように,{e1mx}m∈Z の正規直交性を用いて

cm= 1 2π

Z

R/2πZ

e1mxχ[a,b](x)dx=



 b−a

2π ifm= 0,

e1mb−e1ma

1m otherwise, と計算される.

さて,初等的な計算に依り,

χ[a,b](x) +χ[a,b](−x) = 2c0+ X m=1

(cm+cm)(e1mx+e1mx)

= 2c0+ X m=1

(cm+cm)(Sm(x)−Sm2(x)) となる.但しSm(x)は

Sm(x) =





0 ifm=1 

1 ifm= 0

e1mx+e1(m2)x+. . .+e1(m2)x+e1mx ifm≥1 で定める.ここで,高校数学などで良く扱われる 「P

-記号の足し算の順序をずらす」議論に依って,

X

qvn

[a,b]v) +χ[a,b]v)) = 2c0+ (c2+c2) +X

m1

(cm+cm−cm+2−cm2)X

qvn

Smv)

が従う.

さて,ここで 対称積L-関数Lm(s, E)の対数微分 d

dslogLm(s, E) = Lm(s, E)

Lm(s, E) =X

qv

Xm j=0

e1(m2j)θvqvslogqv

1−e1(m2j)θvqvs

=X

qv

Xm j=0

e1(m2j)θvqvslogqv

X k=0

e1k(m2j)θv qksv

= X

qv,k1

Sm(k)v) logqv

qvks

*5記号を乱用して,添字のqvnは「vが良い還元を持つ素点であってなおかつqvn」を表すものとする.

(9)

(但しS(k)m (x) =e1kmx+e1k(m2)x+. . .+e1k(m2)x+e1kmx)の主要部 (k= 1の部分) に 現れる ディリクレ 級数

Hm(s) =X

qv

Smv) logqv

qsv (m1)

に ウィーナー-池原 の タウバー 型定理(定理0.2)を用いて,素数定理と全く同様にして X

qvn

Smv) =o µ n

logn

が示される.ここで,条件()mより,各m≥2に対して Lm1(s, E)が正則かつ零点を持たないので,特に s= 1 でも正則で,Res=1Lm(s, E) = 0となる ことを用いた.

かくして,

nlim→∞

X

qvn

χ[a,b]v) +χ[a,b](−θv)

qv = 2c0(c2+c2) + X m=1

(cm+cm−cm+2−cm2) lim

n→∞

o(n/logn) n/log(n)

= 2c0(c2+c2)

= 2b−a 2π + 1

2π Ã

−e21b−e21a 2

1 +e21b−e21a 2

1

!

= 2 π

µb−12sin 2b

2 −a−12sin 2a 2

= Z b

a

2

πsin2θdθ

証明を見ても明らかなように,セール の条件(命題0.3)からの佐藤-テイト 予想の導出の仕方は,素数定理 の証明方針を忠実に再現したものと言える.しかし,佐藤-テイト予想では無限個のL-関数について解析的性 質を調べなければならないので,素数定理よりもずっと困難でありかつ数学的に深い議論が必要とされることが 容易に想像できよう.

2

πsin2θdθという分布の形や,対称積L関数Lm(s, E)が登場する背景も,実はSU(2)の ハール 測度(Haar

measure)や既約表現という観点から極めて自然に理解できるのであるが,これ以上野暮な説明を付け加えるは

止めることにしよう.セール は測度に関する一様分布性(equidistribution)とL-関数の解析的性質との関係に ついて感動的なまでに簡潔かつ明快な説明を与えているので,興味のある方には [Serre1] の記述に直接触れ,

その筆致を存分に味わっていただく方が遥かに有意義であると信ずるからである.

0.3 証明の方針

何はともあれ,以上の議論から佐藤-テイト 予想の証明は,条件 ()m(m 2) という無限個の L-関 数 L(s, E,Symmm1) の 解 析 的 な 性 質 に 帰 着 さ れ る が ,こ れ を 直 接 調 べ る の は 非 常 に 難 し い .そ こ で , L(s, E,Symmm1) を解析的性質を詳しく調べることが出来る別の L-関数にすり替える ことで,この困 難を解消できないかと考えてみよう.そのようなL-関数の候補として保型L-関数が考えられる.

保型形式及び保型表現の理論から,GL2(AF)のm-次のカスピダル保型表現 Πに対する保型L-関数は,m- 次の オイラー 積を持ち,Re(s)1 に正則に解析接続され,この範囲で零点を持たないことが知られている.

したがって,

L(s+m−1

2 , E,Symmm1) =L(s,Πm)

(10)

なるカスピダル保型表現 Πm(m 1) さえ構成できれば,佐藤-テイト 予想は証明されたこととなる.と ころが,このような保型表現 Πm を構成することは,本質的に大域 ラングランズ 対応 (Global Langlands Correspondence, GLC) に於ける {ガロワ表現} → {保型表現} の方向の関手を構成していることに他なら ず,大域 ラングランズ 対応が確立していない現在では一般には非常に困難極まりないものである.

クローゼル,ハリス,シェパード-バロン,テイラー 等による証明も,Gal(F /F)のガロワ表現Symmm1TlE に対応する保型表現を直接構成する(すなわち,Symmm1TlE のモジュラー性を直接示す)ことによってなさ れたわけではなく,F の適当な有限次拡大 F に対し,Symmm1TlE をGal(F/F) に制限したものに対し てモジュラー性を示すことによってなされている.*6したがって,佐藤-テイト 予想が解決した現在でも,上記 のような大域 ラングランズ 対応的な保型表現の構成に依る直接的な証明が可能であるかどうかは非常に重要な 課題である.

1 超曲面のある族 —A family of hypersurfaces

それでは,いよいよ[HSBT]に従って 佐藤-テイト 予想を証明していこう.

この節では,Z[n+11 ]上 の 空間Pn×P1 に於いて方程式

Y:X0n+1+X1n+1+· · ·+Xnn+1= (n+ 1)tX0X1· · · · ·Xn (1.1) で定義される超曲面族π:Y P1 の代数幾何学を展開する.ここで,t∈P1*7

この曲線族は,n= 2の場合は所謂 ヘッセ (Hesse)型の標準形で表された楕円曲線族,n= 3の場合は K3- 曲面の族であり,いずれも古来より非常によく研究されている対象である.π:Y P1 はこの古典的な対象を 自然に一般化したものであると言えよう.

また,数理物理学においても,この超曲面は セントラル-チャージ が3(n1)のN = 2 ギンツブルク-ラン ダウ 理論(Ginzburg-Landau theory)と密接に関係する重要な曲面群である([LSW]参照).

この曲面族のファイバーの中間次元 l-進エタールコホモロジーをとることで,n-次元l-進表現達が構成でき る.従って,(l, l)-トリックが展開できるようになるのである.

本節は,言わば(l, l)-トリック を展開するための「舞台作り」のための節である.

最初に,曲面族π:Y P1 に関する若干の定義を行った後,どのようにしてY 上で(l, l)-トリックを展開 するかを概観する.π:Y P1の詳しい解析(特にモノドロミーの解析)はその後で行うことにする.

なお,本節では主に 複素幾何 や 代数解析 の手法による カラビ-ヤウ 多様体の幾何学が展開される.この部 分だけでも独立した興味を惹く内容だと思うが,かなり長い議論であるので,あまりそういった カラビ-ヤウ 多 様体の代数幾何学 に興味がない方,或いは当面のところ 潜在的モジュラー性定理 や 佐藤-テイト予想 の証明 にのみ興味を抱いている方は,取りあえず「モノドロミーが“大きい”」こと(系1.11) 及びl-進表現Vl,t の基 本性質(§ 1.3)のみを確認しておいて,次節に進んでいただくことも十分可能であろう.

1.1 カラビ - ヤウ 族 π : Y P

1

と (l, l

)- トリック

さて,Y をZ[n+11 ]上定義方程式(1.1)で定まるPn×P1 内の超曲面とする.また,π:Y P1 を第二成分 への射影とする.すると,π: Y P1カラビ-ヤウ 多様体(Calabi-Yau variety)と呼ばれる多様体の族とな る.t∈P1 上のY のファイバーをYtで表す.

*6適当に体を拡大することでモジュラー性が生まれることから,潜在的モジュラー性(Potential Modularity)の名称が付けられてい る.

*7t=の時は,Y0: (n+ 1)X0X1. . . Xn= 0と考えることとする.

(11)

以下,π:Y P1 の幾何学的性質を列挙してみよう.

µn+1 を1の(n+ 1)-乗根のなす群スキームとした時,射影πT0=P1\n+1∪ {∞})/Z[n+11 ]上で 滑らか.

Y \Y は正則スキーム.

ζ を1の(n+ 1)-乗根 とするとき,Yζ は孤立特異点

{0:α1: . . .:αn]n+1i = 1 (0≤i≤n), α0· · · · ·αn=ζ1} を持つ.これらは全て通常二次特異点.

これらの性質は定義方程式より直ちに従う.

さて,ζn+1 を1 の原始(n+ 1)-乗根とするとき,Z[n+11 , ζn+1]上で群スキームH =µn+1n+1/∆(µn+1) (∆は 対角埋め込み)が

0, ζ1, . . . , ζn)[X0:X1: . . .: Xn] = [ζ0X0:ζ1X1: . . .:ζnXn]

によって自然に作用する.特に,H0ζ0ζ1· · ·ζn= 1を満たすH の元(ζ0, . . . , ζn)のなす部分群とするとき,

H0 は各ファイバーYtに作用する.*8また,各特異ファイバーYζ においては,H の作用によってその二次孤立 特異点が推移的に移り合うことも分かる.

この群作用を用いて,n+ 1と素な整数 N に対して、層Vn[N] =V[N] = (Rn1πZ/NZ)H0 を定義する と,これは 階数nの局所自由層となり,しかもT0×SpecZ[N(n+1)1 ]上滑らかとなる.特にN =lm, l-n+ 1 の時を考えて,Vn.l=Vl=

à lim←−

m→∞

V[lm]

!

ZlQl とおく.*9 ここで,t∈T0(F) (F は代数体)での ヘンゼリ アン・ストーク を考えると,V[l]t=H´etn1(Yt×SpecF ,Z/lZ)H0, Vl,t=H´etn1(Yt×SpecF ,Ql)H0 となり,

ファイバーYtのエタール・コホモロジーに依る 絶対ガロワ群Gal(F /F)のn-次元 法l-表現 及び l-進表現を 与えていることに注意しよう.

同様にして,V = (Rn1πZ)H0 も定義しておく.

さて,ここで一旦π:Y P1 の幾何学から離れて,この舞台上で繰り広げられる(l, l)-トリックとはどのよ うなものであるか,その大雑把な青写真を描いてみよう.

ワイルズの用いた(3,5)-トリックとは,Q上でE[3]が既約でないような半安定楕円曲線E に対し,E[5]の モジュラー性を示す際に用いられたものであった([山下1]参照).その トリック の要となるのは

E[3]が既約 *10で,E[5]がE[5]と同型となるような楕円曲線E を構成すること

であった.そうすれば,図式2 のように,モジュラー性持ち上げ定理(MLT) 及び還元を続けて用いることに よって(「法l での モジュラー 性を“持ち上げて” 法l に“落とす”」),E[3]のモジュラー性が E[5]感 染する(! )

これから本稿を通じて行う長い議論では,本質的には

V[l]t=H´etn1(Yt×SpecF ,Z/lZ)H0 がモジュラーであることが分かっており(なおかつモジュラー性 持ち上げ定理の条件を満たしており),V[l]t=H´etn1(Yt×SpecF ,Z/lZ)H0 が考えている法l-表現ρ¯と 同型であるようなYtを構成すること

*8定義方程式を見れば,t= 0の場合はH 全体がY0に作用することも分かる.

*9本節では次元nを固定して考えるため,次元を表す下付き添字nを省略して表記するが,潜在的モジュラー性の議論(§ 3)に於い ては色々な次元の表現を扱うため,添字で次元を表すことが重要となってくることに注意.

*10E[3]の既約性(及び楕円曲線の半安定性)は,ワイルズ の用いたモジュラー性持ち上げ定理で必要な仮定であることに注意.なお,

E[3]は ラングランズ・タンネル(Langlands-Tunnel)の定理によりモジュラーとなる.詳しくは[山下1]参照.

(12)

T3E:モジュラー

ww

E:モジュラー

''

T5E:モジュラー

mod 5

***j*j*j*j*j*j*j*j*j*j

E[3] :モジュラー

MLT

555u5u5u5u5u5u5u5u5u

E[5]=E[5] :モジュラー 図2 ワイルズ の(3,5)-トリックの模式図

Vl,t:モジュラー

ww

{Vl,t}l:整合系

''

Vl,t:モジュラー

modl

'''g'g'g'g'g'g'g ρ:モジュラー V[l]t:モジュラー

MLT

666v6v6v6v6v6v6v6v6v

V[l]t= ¯ρ モジュラー

MLT

888x8x8x8x8x8x

図3 カラビ-ヤウ 族Y を用いた(l, l)-トリックの“大雑把な”模式図

を行っている.(3,5)-トリック で適当な楕円曲線 E の構成がキーポイント であったことと比較されたい.こ のようなYtが構成できれば,図式3 のように,(3,5)-トリックと全く同様に 「法l での モジュラー 性を“持 ち上げて” 法lに“落とす”」ことで,V[l]tのモジュラー性がρ¯のモジュラー性に感染する(! )

図式2, 3を見比べていただければ,カラビ-ヤウ 族π:Y P1 を用いた潜在的モジュラー性の議論がワイル ズの(3,5)-トリック の変奏であることは一目瞭然であろう.勿論,実際には(l, l)-トリック はこんなに簡単に は実行されない.以降の節でもっと丁寧に議論するが,先ずは図3 を頭に入れておくとこの先の議論も見通し が良くなる(かもしれない).

注意II.  繰り返しとなるが,(l, l)-トリックを実行するにあたっては,

l-リアライゼーションが モジュラー かつ モジュラー 性持ち上げ定理を満たし,法 l-リアライゼー ションが所望の法l-表現と同型となるようなモチーフM を構成すること

が肝要であった.[HSBT]で扱う GSpn-表現の場合に カラビ-ヤウ 多様体族が(半ば唐突に)登場してきた背景 は,数理物理学や代数解析学,トポロジーなどでよく調べられていたπ:Y P1 という カラビ-ヤウ 超曲面族 がたまたま“巧い”モチーフとして機能しそうだったので“借用してきた”印象が強く,あまり必然性があった ようには感じられない.[HSBT]のタイトルでは「カラビ-ヤウ多様体の族」と高らかに謳っているが,あくま

で目的は(l, l)-トリック であって,そのためのモチーフが カラビ-ヤウ 多様体であったというのは,寧ろ思わ

ぬ副産物であった,と考えた方が良いのかもしれない.♦

1.2 カラビ - ヤウ 族 π : Y P

1

のモノドロミー解析

いよいよ曲面族π:Y P1 の解析を詳しく行っていこう.ここでは,特にπ:Y P1 の モノドロミー 解 析を詳しく見ていくことにする.その理由は,以下で(l, l)-トリックを実行する際に欠かすことのできないモ レ-ベイイー の定理 を適用するための条件として,π:Y P1 のモノドロミーが大きいことが極めて重要 となって来るからである.

(13)

ζ∈µn+1 の周りのモノドロミーについては,Y{ζ} 上の特異点が全て通常二次特異点であるため,ピカール- レフシェッツの公式 (Picard-Lefschetz formula)より比較的簡単にわかる([SGA7]参照).

補題 1.4. V Qζ∈µn+1 の周りでのモノドロミー作用素の,固有値 1に関する固有空間の次元は少なく ともn−1である.♦

証明. t∈T0(C)とおく.特異ファイバーYζ(C)上の二次孤立特異点の集合を∆とおく.すると,各y∈∆に 対応して消滅サイクル (vanishing cycle) δy ∈Hn1(Yt(C),Z) が存在して,α∈Hn1(Yt(C),Z)に対する ζ の周りのモノドロミーの作用は

α7→α±X

y

(y, δyy

で表わされる (ピカール-レフシェッツ の公式).ただし(·,·)はカップ積.ここで,各 Yζ(C) 上の孤立特異点 はH0 の作用で推移的に移り合うから,H0-不変部分をとると,あるd(α)∈Zに対し,モノドロミーの作用は α7→α±d(α)P

yδy で表わされる.dは明らかに準同型写像となる.

dの核が固有値1 に関する固有空間に他ならないが,線形代数の次元定理より(Qをテンソルした後の)dの 核の次元は少なくともn−1 次元となる.

したがって,あとは無限遠点 の周りでのモノドロミーの様子を調べれば良い.[HSBT] では,フィリッ プ・オーガスタス・グリフィス(Phillip Augustus Griffiths)による有理形式に関する周期積分の理論([Griff]) を用いて,ピカール-フックス型 (Picard-Fuchs type)微分方程式の解のモノドロミーという代数解析的な問題 に帰着させている.以下それを概観しよう.

Ytの定義方程式(1.1)を書き換えて Qt= 1

n+ 1(X0n+1+· · ·Xnn+1)−tX0· · · · ·Xn

と書き,Yt(C)に沿ってi-位 の極を持つPn(C)上の有理n-形式 ωi= (i1)!(X0X1· · · · ·Xn)i1

Qit , 1≤i≤n+ 1 を考える.但し,Ω =Pn

j=0(1)jXjdX0∧. . .∧dXj1∧dXj+1∧. . .∧dXn.簡単な計算に依り,

i

dt =ωi+1 (1.2)

となることが分かる.

さて,グリフィスの記法に習って Aql(Yt(C)) を Yt(C) に沿って高々 l-位 の極を持つ Pn(C) 上の有理 q- 形式のなす C-ベクトル空間とし,Hk(Yt(C)) =Ank(Yt(C))/dAnk11(Yt(C)) とおこう.この時,t Pn(C)\n+1(C)∪ {∞})に対して

ωi∈ Hi(Yt(C))\ Hi1(Yt(C)) (1.3) を背理法に依って示すことが出来る.

こ こ で ,Yt(C) に 沿 っ て 極 を 持 つ Pn(C) 上 の 有 理 n-形 式 ϕ に 対 し て ,留 数 写 像 (residue map) R(ϕ) :Hn1(Yt(C),Z)C

〈R(ϕ), γ〉= Z

τ(γ)

ϕ, γ∈Hn1(Yt(C),Z)

で定める.但し,τ:Hn1(Yt(C),Z)→Hn(Pn(C)\Yt(C),Z)はγ の適当な管状近傍の境界をとる写像(詳し くは[Griff]§ 3 を参照).従ってR(ϕ)Hn1(Yt(C),C) = HomC(Hn1(Yt(C),Z),C)の元を定める.

参照

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