日化1986,No.12小 沢 ・長 沼 ・井 上 ・田 村:リ ン酸 一 水 素 カ ル シ ウ ム 無 水 和 物 の 生 成 に お よぼ す ピ ロ リ ン酸 の 影 響1729 論 文(日 本 化 学 会 誌,1986,(12)・p・1729∼1735) ◎1986TheChemicalSocietyofJapan
リン酸-水
素 カル シ ウ ム 無 水 和 物 の 生 成 に
お よぼ す ピ ロ リン酸 の 影 響1)2)
(1986年2月26日 受 理)小 沢 利 之 ・長 沼
健 ・井 上
昭 ・田 村 和 利*
ピ ロ リ ン酸 が リ ン酸 カ ル シ ウ ム に対 して 媒 晶 剤 的 作 用 の あ る こ とに 着 目 し,リ
ン酸 一 水 素 カ ル シ ウ ム
無 水 和 物 の 生 成 に お よ ぼ す ピ ロ リ ン酸 の 影 響 を 検 討 した ◎ ピ ロ リ ン酸 の 存 在 は 生 成 す る リ ン酸 一 水 素 カ
ル シ ウ ム 無 水 和 物 の(111)の
成 長 抑 制 に 大 き く作 用 し,粒 子 径 お よび 形 状 に 影 響 を お よ ぼ し て,凝
集
塊 を 生 成 させ る こ とが わ か った。ピ
ロ リン酸 の添 加 量 が 多 くな る ほ ど,ま
た,添
加 時 期 が 遅 くな る ほ ど
一 次 粒 子 径 は 小 さ くな るが
,逆 に 二 次 粒 子 と して の 凝 集 塊 は 大 き くな っ た。結
晶 生 成 直 後 のSEM写
真
か ら,凝 集 塊 と して の 生 成 が 確 認 され た。ま
た,中
和 反 応 のpH変
化 か ら ピ ロ リ ン酸 量 の 増 加 と と も に
一 次 粒 子 が 小 さ くな る理 由 を 考 察 した
。ピ
ロ リ ン酸 の 存 在 下 で リ ン酸 濃 度 お よび 反 応 温 度 を 変 化 さ せ る
と,そ れ ぞ れ の 条 件 に よ っ て い ろ い ろ な 大 き さ の 一 次 粒 子 を も つ 凝 集 塊 が 生 成 し,そ
の さ い,一
次 粒 子
の 大 き さ と タ ッ プ 密 度 と の 間 に は 相 関 の あ る こ とが わ か った。以
上 か ら,さ
ま ざ ま な 大 き さ の 一 次 粒 子
か らな る 凝 集 塊 状 リ ン酸 一 水 素 カル シ ウ ム無 水 科 物 を 得 る こ とが 可 能 とな っ た。
壌 緒 言 リ ン酸 一 水 素 カル シ ウ ム に は二 水 和 物(CaHPO4・2H20)と 無 水 和 物(CaHPO4)が 存 在 し,お も に 歯 磨 用 研 磨 剤 と して 利 用 さ れ て い る。わ が 国 で は,歯 磨 用 の うち 二 水 和 物 が 約65%,無 水 和 物 が 約5%使 用 さ れ て い る3)。こ れ ら は 工 業 的 に は リ ン酸 と石 灰 乳 と の等 モ ル 中 和 反 応 に よ り製 造 さ れ,常 温 で は 二 水 和 物,60℃ 以 上 で は 無 水 和 物 が 得 られ る。こ の うち リン酸 一 水 素 カ ル シ ウ ム 無 水 和 物 は 歯 牙 の汚 れ に対 しす ぐれ た 清 掃 効 果 を 示 す こ とが 知 ら れ て い る%す ぐ れ た 清 掃 効 果 は有 効 な研 磨 作 用 か ら生 ず る が, 高 い 研 磨 力 は す ぐれ た 清 掃 効 果 を 示 す 反 面,歯 牙 摩 耗 とい う危 険 性 を 兼 ね 備 え て い る。リ ン酸 一 水 素 カ ル シ ウ ム 無 水 和 物 は 歯 磨 用 研 磨 剤 の 中 で は 高 い 研 磨 力 を もつ とい わ れ て お り5》,この た め 研 磨 性 の 低 い ほ か の 研 磨 剤 と組 み 合 わ せ る こ とに よ り,清 掃 効 果 を 高 め るた め の補 助 的 な 研 磨 剤 と して 使 用 され て い る。リ ン酸 一 水 素 カ ル シ ウ ム無 水 和 物 が す ぐれ た 清 掃 力 ・使 用 感 ・製 剤 安 定 性 を もつ に もか か わ らず,二 水 和 物 よ りも 使 用 量 が 少 な い の は 主 と し て 大 き な研 磨 力 が 原 因 と思 わ れ る。 以 上 の 観 点 か ら考 え る と,リ ン酸 一 水 素 カ ル シ ウ ム無 水 和 物 の 特 長 を た も っ た ま ま で 研 磨 力 を 低 くす る こ と が で き れ ば,す ぐれ ラ イ オ ン株 式 会 社 第 一 応 用 研 究 所,256小 田 原 市 田 島 1)こ の 報 文 を``歯 磨 用 研 磨 剤 に 関 す る 研 究(第2報)"と す る. 2)前 報(第1報),小 沢 利 之,氏 家 高 志 ,田 村 和 利,日 化, 1980,1352。 3)小 沢 利 之 ・GツPsumLime,Nα198 ,47(1985).4) S. Elerington,
S. Thomas,
U. S . P., 3, 334, 979(1967).
5)
Stauffer
Chemical
Company , G. B. P., 1, 381, 931
(1975).
た 機 能 を も っ た 有 用 な 歯 磨 用 研 磨 剤 の 確 保 が 期 待 され る。研 磨 力 を 低 下 させ る ひ とっ の 手 段 と して 粒 子 径 の 減 少 が 考 え られ る が, 商 品 と して の 品 質 を 考 慮 す る とそ れ だ け で は 問 題 解 決 に は な ら ず,逆 に 清 掃 力 の 低 下 を ひ き 起 こ して しま う。そ こ で 著 者 ら は 媒 晶 剤 と して の ピ ロ リ ン酸 に 着 目 し,リ ン酸 一水 素 カ ル シ ウ ム無 水 和 物 の粒 子 径 と形 状 を 制 御 す る こ とを 考 え た。 ピ ロ リ ン酸 は リ ン酸 一 水 素 カ ル シ ウ ム 二 水 和 物 の 結 晶 安 定 化 剤 (脱 水 防 止)と して 知 られ て い る61◎そ の 作 用 機 構 は 不 明 で あ る が,ピ ロ リ ン酸 が 二 水 和 物 の 結 晶 表 面 に 吸 着 ま た は 共 沈 して 結 晶 表 面 を 変 化 させ 安 定 化 さ せ て い る と い わ れ て い る マ}◎ま た,Bri-nerら8)は ピ ロ リン酸 が ヒ ドロ キ シ ア パ タ イ ト の 結 晶 成 長 を 阻 害 す る こ とを 報 告 し て い る。こ の よ うに ピ ロ リ ン酸 は リ ン酸 一 水 素 力 ル シ ウ ムニ 水 和 物 か ら ヒ ドロ キ シ ア パ タ イ トに い た る ま で ,リ ン酸 力 ル シ ウ ム全 般 に 対 して 媒 晶 剤 的 作 用 が あ る と予 測 さ れ る。 本 研 究 で は 低 研 磨 で 高 清 掃 な リン酸 一 水 素 カ ル シ ウ ム 無 水 和 物 を 開 発 す る た め の 第 一 段 階 と して,、 リン 酸 一 水 素 カ ル シ ウ ム 無 水 和 物 の生 成 に お よぼ す ピ ロ リ ン酸 の 影 響 に つ い て 検 討 した。本 報 で は リ ン酸 濃 度 反 応 温 度 ピ ロ リ ン酸 の 添 加 量 と添 加 時 期 を 変 え る こ とに よ っ て 得 られ た リ ン酸 一 水 素 力 ル シ ウ ム 無 水 和 物 の 形 状 お よ び 物 性 変 化 につ い て 報 告 す る。 2実 験 2.1試 料 調 製 試 料 を 工 業 的 製 法 と 同 じ原 理 に よ り,図1に 示 す 装 置 と和 光 純 薬 工 業 の 試 薬 を 用 い て 合 成 した。す な わ ち,酸 化 カ ル シ ウ ム(試6)
H. Moss,
M. Kramer , U. S. P., 2, 287, 699(1942).
7♪ 伊 豆 山 実,電 化,39,509(1971) .8)
W. W. Briner,
M. D. Francis , Calcif.
Tiss.
Res., 11,
10(1973).
薬1級)を 水 に分 散 さ せ た 石 灰 乳 を つ く り,こ れ を リ ン酸(試 薬 特 級)に 添 加 して 中 和 反 応 を 行 な っ た。製 造 条 件 を つ ぎ の よ うに 設 定 した。石 灰 乳 濃 度1209/1,か き ま ぜ 速 度400rpm,ピ ロ リ ン 酸 の添 加 は 反 応 開 始50分 後 と し,石 灰 乳 の 添 加 速 度 は 反 応 時 間 が6時 間,終 点 のpHが6.0と な る よ うに 調 節 した ◎合 成 した 試 料 はX線 回 折 に よ り,リ ン酸 一 水 素 カ ル シ ウ ム 無 水 和 物 の 単 一 相 で あ る こ とを 確 認 した ◎ 表1に 本 実 験 の標 準 条 件 と市 販 の 歯 磨 用 リン酸 一 水 素 カヅレシ ウ ム無 水 和 物 の製 造 条 件 を 示 す ◎ 2.2物 性 測 定 平 均 粒 子 径 の 測 定 に はLeeds&Northrup製MICROTRAC PARTICLESIZEANALYZARを 用 い た。本 報 告 で は こ の 値 を 二 次 粒 子 径 と定 義 す る。結 晶 子 径 はSherrerの 式(1)を 用 い て 算 出 した ◎ 1)hkl/;O.9R/(βxcosθ)(1) こ こ でDhklは 格 子 面(hkl)に 垂 直 方 向 の 結 晶 径(A),β は 回 折 線 の半 値 幅(rad),λ はCuK"線 の波 長(1.5418A),θ は 回 折 角(rad)で あ る。半 値 幅 の 測 定 に は 理 学 電 機 製2028型Xi線 回 折 装 置 を用 い た。平 均 結 晶 子 径 の 算 出 に は 回 折 線 が 強 くて 重 な りの 少 な い 回 折 角[2θ(hkl)=13.1e(010,110),28.5e(111), 30.2e(112,112),32.5(230),35、ge(231,022),53.Oo(342, 312刀 を 選 び,そ れ ぞ れ のDhkEの 平 均 値 を平 均 結 晶 子 径 と し た ◎ 結 晶 子 径 は 一 次 粒 子 の 大 き さ とは 必 ず しも 等 し くは な い が, 一・次 粒 子 の 大 き さ に 対 応 し た 尺 度 で あ る の で,本 報 で は こ の 平 均 結 晶 子 の値 を 一 次 粒 子 径 と定 義 す る◎ タ ッ プ密 度 の 測 定 に は セ イ シ ン企 業 製 タ ッ プ デ ン サ ーKYT-2000型 を用 い た ◎ ま た,圧 縮 密 度 は 内 径6.02mmφ の 金 型 に 粉 体 を 充 填 し,加 圧 下 に お け る体 積 変 化 か ら 求 め た。 試 料 の 形 態 観 察 は 日本 電 子 製 走 査 型 電 子 顕 微 鏡JSM-・U3を 用 い て 行 な い,細 孔 分 布 の 測 定 に はMICROMERITICS製 水 銀 ポ 'ロ シ メ ー ターAUTO--PORE9200型 を 用 い た ◎ 3結 果 と 考 察 3.1ピ ロ リ ン 酸 添 加 量 の影 響 リ ン酸 濃 度75%,反 応 温 度80℃ の 条 件 下 で,ピ ロ リ ン酸 添 加 量 を 変 え た 場 合(a:O%,b:2%,c:5%,d;10%)に,生 成 す る リ ン酸 一 水 素 カ ル シ ウ ム無 水 和 物 のSEM写 真 を 図2に 示 す。 本 報 で は リン酸 一 水 素 カ ル シ ウ ム 無 水 和 物 の 理 論 生 成 量(重 量) に 対 す る ピ ロ リン酸 量(重 量)の 割 合 を ピ ロ リ ン酸 添 加 量(wt%) と よぶ。ピ ロ リン酸 無 添 加 の 場 合(図2a)は,一 次 粒 子 は 直 径 約 1μmの 三 斜 晶 系 で あ る が,ピ ロ リン酸 を2%添 加 す る と(図2 b)平 板 状 の一 次 粒 子 が 密 に 固 着 した 凝 集 塊 と な る。ピ ロ リン酸 添 加 量 が 増 え る と と も に 平 板 状 の 一 次 粒 子 は 薄 く,か つ 小 さ く な り,逆 に 凝 集 塊 と して の 二 次 粒 子 径 は 増 大 す る。ピ ロ リン酸10% 添 加 で は(図2d)二 次 粒 子 は か な り丸 み を 帯 び た 球 状 粒 子 とな っ た◎ 図2と 同 じ条 件 で 合 成 した 試 料 の二 次 粒 子 径 の 測 定 結 果 を 図3に 示 す ◎ 図2のSEM写 真 の 結 果 と同 様,ピ ロ リン酸 添 加 量 の 増 加 と と も に二 次 粒 子 径 も増 加 し,ピ ロ リ ン酸 無 添 加 で は 約 8∼10μm,ピ ロ リン酸10%添 加 で は約25μmで あ った。こ の よ うに媒 晶 剤 と して ピ ロ リ ン酸 を 添 加す る と,粒 子 径 の み な らず 形 状 も大 き く変 化 す る こ とが わ か っ た◎ ピ ロ リン酸 の添 加 量 が 生 成 物 の 結 晶 子 の 大 き さ に お よぼ す 影 響 を い くつ か の 格 子 面 につ い て 測 定 した 結 果 を 図4に 示 す。結 晶 子 径 が ○.5μm以 上 で は 高 い測 定 精 度 は 期 待 で き な い が,く り返 し 測 定 に よ り比 較 的 よ い一 致 を 見 た 値 を 採 用 した ◎ ど の 格 子 面 に お い て も ピ ロ リン酸 の 添 加 量 の増 加 に した が い 結 晶 子 径 が 減 少 して い くこ とが わ か る。と く に(111)に お い て ピ ロ リ ン酸 の 影 響 が 大 き く,ピ ロ リ ン酸 添 加 量 が0∼3%の 間 で結 晶 了 径 の 変 化 が い ち じ る しか った ◎ ま た,c軸 に平 行 な(230)や(11○)で は あ ま り大 き な 変 化 は なか っ た ◎ ピ ロ リ ン酸 を10%添 加 した 場 合 に は 各 格 子 面 の結 晶 子 径 は0.08μm以 下 に 小 さ くな り,ほ と ん ど差 が な くな る。こ の こ と は 図2のSEM写 真 で 一 次 粒 子 が ピ ロ リソ酸 添 加 量 の 増 加 と と も に微 細 化 す る とい う現 象 に対 応 して い る◎ 市 販 歯 磨 用 リン酸 一 水 素 カ ル シ ウ ム 無 水 和 物(ピ ロ リ ン酸 無 添 加,図5中 の ×印)お よび そ の分 級 に よ って 平 均 粒 子 径 を 調 整 し た 試 料 の 圧 縮 密 度 の 測 定 結 果 を 図5(a)に 示 す ◎ 同 様 に 図5 (b)に ピ ロ リ ン酸 を2%添 加 した 場 合 の 結 果 を示 す ◎図5(b) 中 の × 印 は 図5(a)のx印 を 比 較 の た め に移 した も の で あ る◎ ピ ロ リン酸 無 添 加 の場 合(図5a)に は 試 料 の 単 結 晶 粒 子 か ら成 る粉 体 で あ るた め,粒 子 径 が 小 さ い も の ほ ど粗 に 充 填 され,圧 縮 密 度 は 粒 子 径 に対 応 して 減 少 した ◎ 一 方,ピ ロ リ ン酸 を2%添 加 した 場 合(図5b)に は 平 均 粒 子 径 に 関 係 な く直 線 が 集 中 した ◎ こ の値 を 図5(a)に あ て は め る と2μm以 下 に 相 当す る こ と が わ か る◎ こ れ は凝 集 塊 が 加 圧 に よ り崩 壊 し,一 ・次 粒 子 と して の 挙 動 を示 した も の と思 わ れ る◎ こ の2μm以 下 とい う値 は 図6に 示 した 同 じ試 料 の空 孔 径 分 布 測 定 結 果 と も一 致 す る。4∼6μm付 近 の 空 孔 容 積 の 上 昇 は 測 定 の た め に 容 器 に 充 填 さ れ た 粒 子 間 の 空 隙 と考 え る こ とが で き9),し た が って 平 均 粒 子 径 の 異 な る 試 料 間 (9∼25μm)で も ほ と ん ど差 は 見 られ な い。ピ ロ リ ン酸2%添 加 9)柚 須 潔,野 村 武 史,山 口 喬,旭 硝 子 工 業 技 術 奨 励 会 研 究 報 吉,39,51(1981).
で は0.5∼2μm付 近,ピ ロ リン酸10%添 加 で は0 .1∼0.5μm 付 近 の空 孔 容 積 の小 さ な上 昇 が 凝集 塊 を形 成 す る一 次粒 子 間 の 空 隙 に対 応 す る も の と推 定 され,図2のSEM写 真 か ら も測 定値 の 妥 当 性 が 裏 付 け られ る。 3.2リ ン酸 濃 度 お よび 反 応 温 度 の影 響 図7(a),(b)は リン酸 濃 度 お よび 反 応 温 度 が 平均 粒 子 径 に お よぼ す 影 響 を ピロ リ ン酸 添 加 法 を い ろ い ろ に 変 化 させ て 調 べ た 結 果 で あ る。た だ し,図7(a)で は反 応 温 度 が80℃ 一 定,図 7(b)で は リソ酸 濃 度 が75%一 定 とす る 。ピ ロ リン酸 無 添 加 の 場 合 は リ ン酸 濃 度 が 高 くな るほ ど,ま た,反 応 温 度 が 高 くな るほ ど平 均 粒 子 径は 減 少 した。一 方 ,ピ ロ リン酸が存在す る場合 はそ の 添 加 量 の増 加 ・ した が い・ リン酸 濃 度 と反 応 温 度 が お よ ぼ す 平 均 粒 子 径 へ の影 響 が 顕 著 で な くな り,5%添 加 で は ほ とん どそ れ らの 影 響 が な くな る ・ とがわ か ・た .図8(・),(b)に リ。酸
濃 度 お よび 反 応 温 度 が タ ッ プ 密 度 に お よぼ す 影 響 を ピ ロ リン酸 添 加 量 を い ろ い ろ 変 化 さ せ て調 べ た結 果 を 示 す。図8(a)は 図7 (a)に,図8(b)は 図7(b)に そ れ ぞれ 対 応 す る 試 料 で あ る。ピ ロ リン酸 無 添 加 の 場 合 は リン酸 濃 度 の 増 加 や 反 応 温 度 が 高 く な る に した が い タ ッ プ密 度 が 低 下 す るが,こ れ は リン酸 濃 度 や 反 応 温 度 の 増 加 と と もに 生 成 す る単 結 晶 粒 子 の 平 均 粒 子 径 が 小 さ く な り(図7参 照)粗 に 充 填 さ れ る た め で あ る。一 方 ピ ロ リ ン 酸 を 添 加 した 場 合 は た ん に平 均 粒 子 径 だ け で は 説 明 しえ な い 変 化 を 示 す よ うに な る。す な わ ち,タ ッ プ 密 度 は リン酸 濃 度 や 反 応 温 度 の変 化 と対 応 せ ず,リ ソ酸 濃 度 で は50%,反 応 温 度 で は70℃ で 屈 曲 点 を 生 ず る下 に 凸 の 曲 線 と な る。図9に ピ ロ リ ン酸 を2% 添 加 した とき に 一 次 粒 子 の 性 状 に お よ ぼ す 反 応 温 度 の 影 響 を SEM写 真 に よ っ て示 す。平 板 状 粒 子 の 厚 さ が そ れ ぞ れ の反 応 温 度 で異 な り,図8(b)の タ ップ 密 度 の大 き さ と対 応 して い る こ とが わ か る。ピ ロ リン酸 を 添 加 した と き の タ ップ 密 度 の 変 化 は 二 次 粒 子 と して の平 均 粒 子 径 よ り もむ しろ,凝 集 塊 を 形 成 す る一 次 粒 子 の 大 き さ と密 な 関 係 が あ る と思 わ れ る。こ の よ うに リ ン酸 濃 度 や 反 応 温 度 を 変 え る こ とに よ っ キ も,そ れ ぞ れ の条 件 で い ろ い ろ な 大 き さ の 一 次 粒 子 か ら な る凝 集 塊 を合 成 で き る こ と が わ か っ た。参 考 と して 表2に リン酸 濃 度75%,反 応 温 度80℃ の場 合 に ピ ロ リ ソ酸 添 加 量 が お よぼ す リン酸 一 水 素 カ ル シ ウ ム 無 水 和 物 の 平 均 粒 子 径,平 均 結 晶 子 径,タ ップ 密 度 へ の影 響 を 示 す。 3.3ピ ロ リ ン酸 の 添 加 時 期 の 影 響 リン酸 濃 度75%,反 応 温 度80℃ の場 合 に ピ ロ リン酸 の 添 加 時 期 が お よぼ す タ ッ プ 密 度 へ の 影 響 を 図10に 示 す。ピ ロ リソ酸 の 添 加 時 期 は 中 和 反 応 開 始 後 か らの 経 過 時 間 で 示 す も の とす る◎ ピ 隷 リン酸 の添 加 量 を 増 加 さ せ る と タ ッ プ密 度 は さ ら に低 下 し,そ の 傾 向 は 同 じで あ っ た。こ の変 化 は ピ ロ リ ン酸 の有 効 濃 度 とい う
考 え で説 明 され る。リ ン酸 濃 度75% ,反 応 温 度80℃ に お い て反 応 開 始 後 ピ ロ リン酸 が は や く添 加 され た場 合 ほ ど,ピ ロ リン酸 の 分 解 は 促進 され,結 晶生 成 時 に 媒 晶 剤 と して 作 用 す る有 効 濃 度 が 減 少す る。す なわ ち,一 定 量 の ピ ロ リン酸 を 添 加 して も,添 加時 期 を 変 え る と結 晶 生 成 にお よ ぼす 有 効 濃 度 も変 化 し,ピ ロ リ ン酸 の添 加 量 を 変 え た場 合 と同 じ結 果 を 与 え る。凝 集 塊 状 リン酸 一 水 素 カ ル シ ウ ム無 水 和 物 で は 一 次 粒 子 の 大 き さ と タッ プ密 度 と の 間 に対 応 の あ る こ とを前 に 述 べ た が,こ の場合 も同様の関 係が成立
す る。以 上 か ら,ピ ロ リン酸 の添 加 量 とそ の添 加 時 期 を調 節 す る こ とに よ り,さ ま ざ ま な大 き さ の一 次 粒 モか ら成、る凝 集鍍 状.リン 酸 一 水 素 カ ル シ ウ ム無 水和 物 を合 成 で き るこ とが わか つ た。 3.4生 成 直 後 の 結 晶 の 状 態 リ ン酸 濃 度75%,反 応 温 度80。Cに お け る中 和 反 応 のpH変 化 を 図11に 示 す。ピ ロ リン酸 は反 応 開 始50分 後 に添 加 した。結 晶 は ピ ロ リソ酸 無添 加 の 場 合 に は 反 応 開 始 後 約100分 で生 成 し, ピ ロ リン酸2%添 加 で は 約11○ 分 後,ピ ロ リ ソ酸5%添 加 で は 約125分 後 に生 成 した。ピ ロ リン酸 の 添 加 量 が 多 くな るほ ど結 晶 の生 成 が 遅 れ た。ま た,結 晶生 成 時 に は図11に 見 られ る よ うな 一 時 的 なpHの 低 下 に よる屈 曲点 が現 わ れ た。tの 屈 曲 点 は 結 晶 析 出 に よ る過 飽 和 度 の低 下 を 表 わ して い る。ピ ロ リン酸 の添 加 量 が 多 い ほ ど屈 曲 点 のpHは 高 い 側 へ 移 動す るが(ピ ロ リン酸2% 添 加 の 場 合 はO%と5%の 間 にpH変 化 が現 わ れ る)・ これ は ピ ロ リン酸 の 添 加 量 の増 加 と とも に過 飽 和 度 も高 くな って い る こ と を 意 味す る。こ の た め に結 晶 の生 成 時 間 に遅 れ が 生 ず る。し た が っ て,ピ ロ リン酸 の添 加 量 が多 いほ ど一 次 粒 子 が 微 細 化 す る とい う現 象 は,過 飽 和 度 が 高 い ほ ど結 晶 が急 激 に析 出 して微 細 化 す る こ とに よ る もの と考 え られ る。 ピ ロ リン酸 の添 加 に よ り最 初か ら凝 集 塊 が生 成 す るのか,ま た は個 々 の一 次 粒 子 が 生 成 して か ら徐 々 に 凝 集す る のか とい う疑 問 が残 る。図12に 結 晶生 成1分 後9}の リン酸 一 水 素 カ ル シ ウム 無 水 和 物 のSEM写 真 を 示 すQピ ロ リン酸 無添 加 の場 合 は 図2(a) のSEM写 真 と同様,個 々 の粒 子 と して生 成 す るが,ピ ロ リン酸 2%添 加 の場 合 は最 初 か ら凝 集 塊 と して 生 成す る可 能 性 が 高 い こ とが わか る。こ の凝 集 塊 を形 成 して い る花 弁 状 の 一 次 粒 子 が 反 応 時 間 の経 過 と とも に成 長 して い く。 4結 語 (1)リ ン酸 と石灰 乳 との中 和 反 応 にお い て,媒 晶剤 と して ピ ロ リン酸 を添 加す る と,凝 集 塊 状 リ ン酸 一 水 素 カ ル シ ウ ム無 水 和 物 が 生成 した1。)。ピ ロ リソ酸 の添 加 量 が 多 くな るは ど,ま た 添 加 時 期 が 遅 くな るは ど,一 次粒 子 は微 細 化 し,逆 に二 次 粒 子 と して 9)結 晶 生成 直 後 の もの は 粒 子 の捕 集 が し に く く,ま た鮮 明 な SEM写 真 が 撮 れ な か った の で,結 晶 生 成1分 後 の写 真 を 載 せ た. 10)媒 晶 剤 と し て ピ ロ リ ン 酸 ナ ト リ ウ ム を 用 い て も,基 本 的 に は 同 様 の 凝 集 塊 が 得 ら れ る.た だ し,有 効 濃 度 と し て め 純 度,不 純 物 と し て の ナ ト リ ウ ム の 影 響 に よ り,同 じ 製 造 条 件 で も 同 じ物 性 を 有 す る も の が 生 成 す る と は か ぎ ら な い.
の 凝 集 塊 は 大 き く な っ た。リ ン酸 濃 度 お よび 反 応 温 度 を 制 御 す る こ とに よ っ て も,い ろ い ろ な 大 き さ の 一 次 粒 子 か ら な る 凝 集 塊 を 得 る こ とが で き た。 (2)ピ ロ リ ン酸 を添 加 して 得 た 凝 集 塊 状 リン酸 一 水 素 カ ル シ ウ ノ、無 水 和 物 を,ピ ロ リン酸 無 添 加 の も の や 市 販 歯 磨 用 リン酸 一 水 素 カ ル シ ウ ム無 水 和 物 と物 性 を 比 較 す る こ とに よ っ て,凝 集 塊