SCGEモデルによる
地域間アクセシビリティ変化の経済効果分析
Economic Impact Analysis of the Change in Accessibility with the SCGE model
宮城俊彦*, 岡松明良**
By Toshihiko Miyagi, and Akira OKAMATHU
1. はじめに
本研究は、宮城1)およびMiyagi and Sakurai2)に よって提案された輸送部門を独立した産業部門とみ な す 空 間 計 量 一 般 均 衡 (A Spatial Computable General Equilibrium; SCGE) 分析の特性を明らかに し、実際への適用を通してその妥当性を検証するこ とを目的としている。
SCGEモデルはCGEモデルを地域間交易を内生化 するように拡張したモデルであり、宮城・本部3)
およびBrocker4)によってほぼ同時期に提案された。
初期のSCGEモデルはCGEモデルとネットワーク均 衡分析を統合化することに焦点をおいた、いわゆる Network CGEであり、地域間交易フローは所与のも のとして扱っていた5)。一方、地域間交易係数を 所与とする一般均衡モデルについてはNCGEが提案 される以前にKanemoto and Mera6)によって提案さ れ て いた 。こ れ らの モデ ル はい づれ も 輸送 費を
iceberg (氷解)モデルによって一般均衡分析の枠
組みに組み入れており、運輸部門は明示的には扱わ れない7)。
宮城(2005)は輸送部門を独立した生産部門として 扱うと同時に、交通インフラ整備によるアクセシビ リティ改善の経済効果を分析するSCGEモデルを提 案している。このモデルを以降では M-SCGE と略 称する。
M-SCGE モデルは地域間交易の予測を内包した
CGE モデルであり、与えられる基準均衡データの 種類によって3タイプのキャリブレーションがある が、本研究で扱うのは、各都道府県の地域内産業連 関表は与えられていることを前提に、地域間産業連 関表を予測を含む SCGE で、いわゆる、タイプ II のモデルである。
M-SCGEモデルでは地域間産業連関表は与えられ
ないので、これを推計する必要があるが、この推計 作業は周辺分布として所与の各地域ごとの産業連関 表と整合的でなければならない。本研究では重力型 の地域間相互作用モデルを用いて地域間交易を推定 するが、この場合、地域間相互作用モデルはアクセ シビリティ指標にかかるパラメータで外生的に与え られるパラメータと需給バランス式を満足するよう に均衡フレームの中で内生的に決定されるパラメー タをもつ。
交通インフラ整備に伴う地域間アクセシビリティ 変化は通常、交通ネットワーク上で計測される地域 間所要時間である。このとき、重力型モデルを適用 するに当たって問題になるのが、1つはデータセッ トに関わる問題であり、他の1つがアクセシビリテ ィにかかるパラメータ推定問題である。
わが国では地域間産業連関表が整備されており、
価値ベースのデータセットであるので望ましいが、
全国を9ブロックに分割したものであり、アクセシ ビリティ変化を計測するにはあまりにも荒すぎる。
一方、物流センサスは 47 都道府県間のコモデティ フローのデータを扱えるので望ましいが、重量ベー
*正会員 工博 東北大学教授 大学院情報科学研究
科(〒980-8579 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6-6-
06)
**学生会員 工学修士 東北大学大学院情報科学研究 科博士前期課程(同上)
N
スのデータである。
一方、パラメータ推計に関しては次のような問題 が指摘できる。M-SCGEモデルを利用して交通イン フラの整備効果を算定する場合、地域あるいはゾー ンの自給率の推定精度は整備効果の推定に大きな影 響を及ぼす。地域の自給率は地域そして財の種別ご とに大きく変動するため、統計的な手法、たとえば、
OLS 等でパラメータ推定すると実際の値は回帰直 線から大きく乖離し、そのため、地域間交易量の過 大推定あるいは過小推定を招く恐れがある。この問 題を解決するため、本研究ではニューラルネットワ ークを利用した重力モデルのパラメータ推定につい ても検討する。
2.地域間交易モデル
(1)地域間交易係数の誘導
地域(ゾーン)集合を 、
企業あるいは生産セクターの集合を
{1, , , , , } R = " r s "
{1, , , I = " i , , }
j " n
とおく. コモデティi
の地域間価格を次式で与える。
∈ I
pirs( , r s ∈ R )
(1 )
rs r rs
i i i
p = p +
η
(1) ここに、 はコモデティ の地域 での生産価 格、 {r
pi
i r
rs}
η
i は地域間の輸送マージン率である。. 地 域 でのコモデティs i
の中間投入量zisを次のよう なCES生産関数で表す。1 1 1
( ) ( )
t
t t
t t
s sr rs
i i i
r R
z x
σ σσ
σ σ
ϕ
− −∈
⎡ ⎤
= ⎢ ⎥
⎣ ∑ ⎦
ここに、
ϕ
irsはシェアパラメータである。xirsは を生産するのに必要な地域. からの投入量である。企業は与えられた投入水準
i r
s
zi を与件としてコスト
を最小化すべく、地域間交易量を決定する。すなわ ち、
{ }
minrs i
rs rs
i i
x r R
x p
∑
∈ (2a)s.t.
1 1 1
( ) ( )
t
t t
t t
rs rs s
i i
r R
x z
iσ σσ
σ σ
ϕ
− −∈
⎡ ⎤ =
⎢ ⎥
⎣ ∑ ⎦
(2b)その結果、地域間交易量は次式で与えられる。
1 1
( ) ( )
t
t t t
rs rs
rs i i s
i i
rs rs
i i
r R
x p z
p
σ σ σ σ
ϕ ϕ
−
− −
∈
= ⋅
⎡ ⎤
⎢ ⎥
⎣
∑
⎦(3)
また、地域 の購入価格指数は次式で与えられる。
s
1 1 1
( )
t ts rs rs
i i i
r R
q p
σ σ
ϕ
− −∈
⎡ ⎤
= ⎢ ⎣ ∑ ⎥ ⎦
(4)すなわち、地域 では財
i
の価格に生産価格と平均 購入価格という、2つの価格が存在する点が通常の CGEモデルと異なる点である。単位産出量あたり の交易量s
rs
τ
i は(3)式より明らかであるが、これを(4) を用いて書き改めると1 1
( ) ( )
t
t
rs rs rs s
rs i i i
i
i
s rs rs rs
i i i
r R
i
x p q
z p
σ σ
τ ϕ
ϕ
−
−
∈
= = ⋅ p
∑
(5a)さらに、(1)を使って変形すると次式を得る。
1 1
( )
(1 )
( )
t
t
rs rs s
rs rs rs i i i
i i i rs rs r
i i i
r R
p q
T p p
σ σ
τ η ϕ
ϕ
−
−
∈
= + = ⋅
∑
(5b)ただし、
rs 1
i r R
ϕ
∈
∑
= (5c)式(5b)の左辺は、地域間交易量に輸送マージン率に 応じた地域間交易量を上乗せしているという意味で 氷解モデルの概念を含んでいる。
η
irs はKanemoto and Mera6)の輸送係数に相当する。式(5b)より直接 的に、あるいは1次同次関数に関するオイラーの補 題より次の条件が成立する。s r rs
i i
r R
q p T
∈
=
∑
i (6)ところで、Chenery-Moses型の地域間交易係数8)は 次式で定義できる。
( )
rs rs r rs rs r
rs i i i i i i rs
i s s s s s s i
i i i i i i
x d p x d p
T T
X D q X D q
⋅
+
⋅+
= = ⋅ =
+ +
ここにおいて、チルダーは価値ベースの量であり、
量表示の変数とは区別している。また、 は最終 需要の地域間交易量であり、
rs
di
s rs
i r
D =
∑
di である。同様に、 is rs
r i
X =
∑
x とおいている。すなわち、Chenery-Moses モデルでは中間投入と最終需要は同
T =
∑
じ交易係数で表わされる仮定している。式(5b)を上 式に代入することによって価値ベースの交易係数で は
r R∈
が成立することがわかる。一方、量 ベースの交易係数は基準化されず、
rs 1
i
rs 1
rTi ≠
∑
であることに注意が必要である。財の需給バランス式 より、
( ) (
r rs rs rs s
i ij i i ij
s S j C s S j C
r s
rs i i s s s s s
i s s ij j j
s S i j C j
s
)
i
i i
X x d T x D
p q
T a p X
q p
∈ ∈ ∈ ∈
∈ ∈
= + = +
⎧ ⎛ ⎞ ⎫
⎪ ⎪
= ⎨ ⎪ ⎩ ⎜ ⎜ ⎝ ⎟ ⎟ ⎠ + ⎬ ⎪ ⎭
∑ ∑ ∑ ∑
∑ ∑
q D
s)
i
,
が成立する。したがって、次の量表示の需給バラン ス式を得ることができる。
r rs( s s
i i ij j
s S j C
X T a X D
∈ ∈
=
∑ ∑
+R R
(7)
(2)空間相互作用モデルと地域間交易係数 M-SCGEモデルでは生産価格ベースの基準均 衡データを用い、運輸部門は独立した経済主体とし て扱うので輸送マージン率を想定する必要は無く、
で あ る 。 し た が っ て 、
。このとき、輸送コストは 以下の式の右辺第 2 項ような形で各セクターの価格 に加えられる。
0, , ,
rs
i i r s
η = ∀ ∈ ∀I ∈
, , ,
rs rs
i i
T =τ ∀ ∈ ∀i I r s∈
s kj k
s k s
Tj rs T r T
r i T
s ij rs i r i s
j p T a p T a wb
p
∑ ∑ ∑
∈
∈ ∉
+ +
=
K R
) (
ここに、 :地域 における運輸部門のサービス 生産価格、
r
pT r
s
wk:地域sでの本源的投入要素 の価 格、
k
s
bkj:地域sにおける セクターの付加価値係 数。
j
さて、シェア・パラメータ{
ϕ
irs}に着目する。シ ェア・パラメータ{ϕ
irs}は現在の均衡交易パターン を表現している。もし、財ごとの地域間交易パター ンのデータが得られるならば、{ϕ
irs}を決定できる が、我々はこうした交易データが得られていないこ とを前提にしている。{ϕ
irs}をキャリブレーション するために次のように空間次元の縮小を考える。す なわち、今、キャリブレーションのためにすべての 生産価格を単位価格に設定したときを考える。すな わち、 pir =1 for all i∈C and r∈R とおく。この とき、次の関係を得る。rs rs
i i
T =ϕ
したがって、
ϕ
irsは価格と独立に地域間交易の差別 化を表わす特性を含む必要がある。宮城(2005) はrs
ϕ
i が地理的要因あるいは交通インフラの整備水準 で定まる地域の相対的なポテンシャルを表わし、地 域の比較優位性を表わす尺度であると考えた。そし て、次のような発地制約型の重力モデルでϕ
irsを表わすことを提案している。
( ) ( )
( ) ( )
i i
i i
r r rs
rs i i
i r r rs
i i
r R
X c
X c
κ μ
κ μ
ϕ θ
θ
−
−
∈
=
∑
(8a)r 1 θi =
∑
r (8b)こ こ に 、 {crs}: 地 域 間 輸 送 時 間 ( コ ス ト ) 、 { }θir :新たに導入されたシェア・パラメータ、
{ } μ
i 統計的に決定される輸送時間の影響係数。(10)を(6) に代入して得られる交易係数は空間的に
1次元のシェア・パラメータ{ }θir なので、(7)を利 用したキャリブレーションが行える。また、このモ デルでは輸送部門を含む産業連関表を基準均衡デー タに利用するため、交通インフラ整備に伴う所要時 間短縮が地域経済に与え影響のみならず、輸送部門 に与える影響等も分析できる枠組みを与える。
(3)地域間交易係数変化の乗数効果
需給バランス式の行列表現は次式で与えられる。
or
-1
X = T[AX + D]
X = [I - TA] TD = BTD
変化前をX0、変化後をXtとおき、変分をΔXであ らわすと、
0 0
( )
([ ] )
(
)
{( ) ( ) ( )}
Δ = +
= +
= + + + +
− + −
= + + − +
-1
t 0 0 0 t t t t 0 0
0 0 0 t t t t 0 0
0 t t t t 0 t t t 0 t t t
0 0 t t t 0 0
0 t t t t 0 t 0 t t 0
X X - X = B B T (A X D ) - T D B I - T A T (A X D ) - T D
B T (A X D ) - T (A X D ) T (A X D ) T A (A X D ) T D
B T - T (A X D ) T A A X T D −D
0
t
0
すなわち、産出量の変化分は交易係数の変化、技術 係数の変化そして最終需要の変化に分解できる。今、
技術係数は変化しないものと仮定し、 とお くとき、上記の関係式より
A = At
-1
t 0 0 0 t
X = [I - BΔTA ] B T D
すなわち、乗数行列は で与えられ る。
-1
0 0
[I - B ΔTA ] B
3.地域間相互作用モデルのパラメータ推定
(1)統計的推定法
(8a)で与えられる制約条件付きの重力モデルのパ ラメータ推定のために,OLS 及び最尤法を用いた 詳細は紙面の都合上,割愛する.
(2)ニューラル・ネット・モデル
以下ではフィードフォワード型と呼ばれる、入力 層、中間層、出力層からなる階層型のニューラルネ ットワークを考える。入力層はJ個の節点、中間層 はH 個のニューロンそして出力層は1個のニュー ロンで構成される。コモデティ・フローの起終点ペ ア集合を 、 をODペア の交易係数、
そして、 を起終点ペアuの
U y
uu ∈ U
u
ah H 個のアクセシビリ ティ尺度のうちのh番目指標と定義する。交易係数 はこれらのアクセシビリティ尺度と定数項の線 形関数として次式で定義する。
y
u0
,
H
u u
h h h
y
θ
a u=
=
∑
∀ ∈UH
(11)
ここに、
θ
i, i = 0,1, " ,
は第i中間層ニューロンと出力層間の結合係数である。各々のアクセシビリ ティ尺度は、説明変数ベクトル によって説明さ れる。
x
u1 1 uh
u
h z
a
e−
= + , ただし、 0 (12) J
u u
h h
j
z
β
x=
=
∑
j jここで、 xuj, j=0,1, 2,"Jは OD ペア における アクセシビリティを説明する j番目変数である。た だし、 と定義している。また、{
u
0u 1
x ≡
β
hj}は第入力節点と第h中間層ニューロン間の結合係数であ
る。(11),(12)は次のように簡潔に表すことができる。
j
1
0 0
( , ) 1 exp( )
H J
u
h h
h j
Z θ β
jx
j−
= =
= ⎛ ⎜ + −
∑ ⎝ ∑
x w ⎞
⎟ ⎠
ここに、
x = ( x x
0,
1, " , x
J)
は(J+ ×1) U 次元の入力信号ベクトル、 は の要素
からなる結合係数ベクトルである。今、
を目標値と置くと、結合係数は次 の最小化問題の解として与えられる。
( , )
=
w θ β
((J+2)H+1)ˆ [ , ˆ
1y = y
ˆ ˆ
, y
w, , y
" "
U]
1 2 2 ˆ
minSSE E ( Z( , ))
∈ = ⎡⎣ − ⎤⎦
w W y x w
この問題の解法には、通常、誤差逆伝播法が使わ
れる。いま、教師データ が
与えられているものとする。このとき、誤差逆伝播 法は、ランダムな初期値 からスタートして次 のような更新式で解を改善していく。
( x y
u,
u), ( u = 1, " , ) U w (0)
( 1) ( )
( u, ( ))( u ( u, ( ))),
w
n n
Z n Z n u
α + =
+ ∇ −
w w
x w y x w ∈T
ここに、α は学習パラメータ(あるいはステッ プ幅)、∇Zは勾配ベクトルである。また、Tは教 師データのうち訓練用に使われるデータ番号の集合。
参考文献
1) 宮城俊彦(2005):「全国県間産業連関表をデー タベースとしたSCGEモデルの応用可能性 に関する研究」、平成15年度・16年度文 部科学省科学研究費補助金(基盤研究(C)(1))
研究成果報告書、平成17年5月.
2) Miyagi, T. and T. Sakurai (2005): Calibration and Validation of a SCGE Model, CD-ROM proceedings of the 19th Pacific Regional Science Conference, Tokyo.
3) 宮城俊彦、本部賢一(1996):一般応用均衡分析 を基礎にした地域間交易量モデルに関する研 究、土木学会論文集、No.530/IV-30, pp.31-40.
4) Bröcker, J.(1998): Operational spatial computable general equilibrium modeling, Ann. Reg. Sci. 32, pp.367-387.
5) Roson, R.(1993): Computable Spatial Economic Equilibria and Freight Network Modelling, IJTE XX No.1.
6) Kanemoto, Y., and K. Mera (1985), General equilibrium analysis of the benefits of large transportation improvements’, Regional Science and Urban Economics 15,343-363.
7) 宮城俊彦(2003) 氷解モデルを基礎とした地域間 交易モデルの基本構造:応用一般均衡モデルに よるアプローチ”、応用地域学研究、8(2), pp. 15- 31.
8) Hewings, G.J.D. and Jensen, R.C. (1986): Regional, interregional and multiregional input-output analysis, In Handbook of Regional and Urban Economics, Vol. I, P. Nijkamp edit., North-Holland, Amsterdam.