• 検索結果がありません。

マルチモーメント移流法を用いた磁気リコネクションのブラソフシミュレーションVlasov Simulation of Magnetic Reconnection with the Multi-Moment Advection Scheme

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "マルチモーメント移流法を用いた磁気リコネクションのブラソフシミュレーションVlasov Simulation of Magnetic Reconnection with the Multi-Moment Advection Scheme"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

hp150105 「京」若手人材育成利用 K Junior Researcher Promotion

マルチモーメント移流法を用いた磁気リコネクションのブラソフシミュレーション

Vlasov Simulation of Magnetic Reconnection with the Multi-Moment Advection Scheme

簑島 敬 Takashi Minoshima 海洋研究開発機構

Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology 要旨 太陽フレアや磁気圏サブストームなど、宇宙プラズマ爆発現象の駆動源である磁気リコネクションの 非線形発展を追跡するために、第一原理シミュレーション手法の一つであるブラソフシミュレーショ ンを実施した。数十イオン慣性長程度まで引き伸ばされた薄い電流シートが形成される一方で、電子 の運動論効果で磁気拡散領域は局在化して、速いリコネクションが維持される。分布関数から磁気流 体変数を見積もることで、リコネクション領域近傍では実効的な電気抵抗に加えて、実効的な粘性も 発生していることを見出した。これは、著者が提案している散逸性磁気流体力学による磁気リコネク ションモデルと整合的である。 キーワード:宇宙プラズマ、運動論プラズマ、磁気リコネクション、ブラソフシミュレーション、 マルチモーメント Abstract

Magnetic reconnection is one of the most fundamental processes in space plasma physics, in which stored magnetic energy is rapidly released and converted into kinetic and internal energies through the change of magnetic field topology. It is widely believed to play a major role in explosive phenomena such as solar flares and magnetospheric substorms. We conduct first-principle Vlasov simulations of magnetic reconnection in order to understand its nature. We observe a localized magnetic diffusion region due to electron dynamics, while a current sheet is elongated toward the downstream over tens of the ion inertia length. This localization would sustain fast reconnection in spite of the formation of the elongated current sheet. We measure magnetohydrodynamic quantities from the velocity-space distribution function, and observe the effective viscosity as well as the resistivity around the reconnection region. This would be in agreement with our proposed model of magnetic reconnection based on the dissipative magnetohydrodynamics.

Keywords: Space plasma, Kinetic plasma, Magnetic reconnection, Vlasov simulation, Multi-Moment © 2019 Research Organization for Information Science and Technology All rights reserved.

Received: 13 September 2018 Accepted: 6 June 2019 Available online: 10 June 2019

(2)

1. 研究の背景と目的 磁気リコネクションとは、プラズマ中で磁力線がつなぎ変わることで、プラズマ中に蓄えられ た磁気エネルギーをプラズマのエネルギーに効率的に変換する、太陽フレアや磁気圏サブストー ムなどのプラズマ爆発現象の駆動源として提唱されている重要な機構である。磁気リコネクショ ンは、粒子スケールで発生する散逸過程が鍵となって、最終的に流体スケールの構造変化を伴う プラズマ階層現象である。散逸過程にはプラズマ運動論効果が複雑に関わるため、そのモデル化 は容易ではない。よって、散逸過程の解明と流体スケールへの影響を調べるためには、大規模な 第一原理シミュレーションが有力である。本研究では、次世代のプラズマ第一原理シミュレーシ ョン手法である超並列ブラソフシミュレーションを京コンピュータで実施して、無衝突プラズマ における磁気リコネクションをミクロからマクロスケールまで多階層にわたって自己無撞着に 解明することを目指す。 2. 計算モデル 本研究で採用したブラソフシミュレーションは、位相空間分布関数の時間発展を追跡するため に、位相空間上に直接計算グリッドを配置して、最大6 次元の移流方程式であるブラソフ方程式 をオイラー的に解く。広く用いられている Particle-In-Cell 法に比べて多くの計算機資源を必要と するが、分布関数を精度良く解像することが出来るため、次世代のプラズマ第一原理シミュレー ション手法として研究開発が続けられている。我々はこれまで、磁化プラズマのブラソフシミュ レーションに適した手法であるマルチモーメント移流法を開発してきた。本手法は分布関数の 2 次までのモーメントの時間発展も同時に追跡することで、分布関数の情報エントロピー保存を改 善して、これまで課題であった磁場まわりの旋回運動に伴う数値拡散を軽減することができる [1,2,3]。本研究ではこの手法を用いて電子及びイオンについての 5 次元(実空間 2 次元、速度空 間3 次元)ブラソフ方程式を解き、電磁場のマクスウェル方程式と連立することで、系の時間発 展を追跡する。 3. 並列計算の方法と効果(性能) 本計算では、実空間のみをMPI で領域分割し、OpenMP によるスレッド並列を併用するハイブ リッド並列を用いた。プログラムの主部分は、(1)各実空間グリッド上で分布関数の速度空間方向 への更新、(2)電流計算、(3)各速度空間グリッド上で分布関数の実空間方向への更新、(4)電磁場 更新、から成る。数値計算コードは手元のワークステーション(Intel 社製 CPU 搭載)で開発、 チューニングした後に「京」に移植したが、その時点の実行効率は10%に届かなかった。マルチ モーメント移流法を用いているステップ(1)が全体の計算時間の 8 割近くを占めるため、ここでの 「京」向けのチューニングを集中的に行った。具体的には、指示行の挿入によるSIMD 化の促進、 複数の配列をまとめることでデータの局所化の改善、一時変数の再利用、短い関数の手動インラ

(3)

イン展開、多重ループの手動アンローリングなどである。ステップ(1)では、速度空間の更新とス テップ(3)で必要になる実空間の通信を同時に行うことで、通信を隠蔽する。ステップ(2)では、電 荷保存法を用いることでポアソン方程式を解くことを回避しており、集団通信は発生しない。ス テップ(3)及び(4)では、通信及び計算時間が短い(4)を単スレッドで、残りのスレッドで(3)を同時 に解き進めることで、通信を隠蔽する。結果、「京」1 ノードあたり約 10GB を用いる計算では、 1536 ノード 12288 並列計算で実行効率を 20.6%まで改善できた。実問題の計算では 1 ノードあた り約3GB を用いており、その場合の実行効率は 17.0%である。 図1:無衝突磁気リコネクションの (a)電子 X 方向速度、(b)イオン X 方向速度、(c)電流、 (d)紙面垂直方向磁場分布(等高線は磁力線、破線は磁気セパラトリクスを表す) 4. 研究成果 図1 はイオンと電子の質量比が 25、電子プラズマ振動数とジャイロ振動数の比が 10 の場合の 計算結果である。初期に原点に与えた擾乱が正方向に伝播した後、原点でリコネクションが進行 して、磁力線がつなぎ変わる。リコネクション領域近傍では、電子とイオンの質量差に起因する 運動論効果が観測される。電子X 方向速度(a)では、磁気セパラトリクス(破線で示した、開いた 磁力線とリコネクションで閉じた磁力線の境界)に沿って原点に向かう流れと、原点から正方向 に吹き出す非常に細いジェット構造が現れる。一方でイオン X 方向速度(b)では、このような小 スケール構造は見られず、下流域(セパラトリクスの内側)で広いジェット構造が見られる。こ の運動の違いに起因して、面内に電流が流れる。電流分布(c)には、|X/di|<40, |Y/di|<1(diはイオン 慣性長)の範囲で面に垂直方向に流れる電流シートと、セパラトリクスに沿った面内電流が現れ る。面内電流は垂直方向のホール磁場(d)を生成する。セパラトリクスに沿って生成されるホール

(4)

磁場の強度は、上流域(セパラトリクスの外側)の半分程度の値となっている。リコネクション 領域で単位時間当たりにつなぎ変わる磁束の量を規格化した値であるリコネクション率は準定 常状態で0.1 程度であり、先行研究と同程度の値を示している。電子プラズマ振動数とジャイロ 振動数の比が 25 の場合の計算も実行したが、場の構造やリコネクション率には大きな違いが見 られなかった。マルチモーメント移流法を用いたブラソフシミュレーションは非常に多くの計算 機資源を要求するため、これだけ大規模なシミュレーションは京コンピュータを用いることで初 めて実施できた。 図2:リコネクション領域近傍における一般化されたオームの法則の評価 無衝突磁気リコネクションの散逸過程を調べるために、二流体方程式から導かれる一般化され たオームの法則 を計算結果から評価する。図2 はそれぞれ一般化されたオームの法則の (a)理想磁気流体(MHD) 項(式1 左辺)、(b)運動論項(式 1 右辺)、(c),(d)運動論項のうちの圧力項(式 1 右辺第 1 項)と 慣性項(式1 右辺第 2 項)のスナップショットを表している。分布(a)と(b)が非常に良く一致して いることから、結果は二流体モデルで良く近似できると言える。|X/di|<5, |Y/di|<1 の範囲の赤色領 域が磁気拡散領域に相当する。この時点で電流シートはX/di=40 まで引き伸ばされているため、 実効的な電気抵抗が局在化して発生していると考えられる。これを担う運動論項は圧力項(c)と慣 性項(d)に分離できるが、ここでは圧力項が主である。これは原点付近で電流を担っていた非磁化 電子がX 方向へと輸送されて、つなぎ変わった磁場に捕捉されたことによるものである。このよ うな電気抵抗の局在化が速いリコネクションに寄与していると考えられている。

P

j

j

v

v

v

v

j

      

(1)

P

j

B

v

E





e e i i i e

ne

t

ne

m

M

Mm

m

M

ne

m

M

c

2

1

(5)

3:リコネクション領域近傍における運動方程式の X 成分の評価 一般化されたオームの法則に続いて、流体近似された運動方程式を計算結果から評価する。図 3 は運動方程式の X 成分の主要な項である(a)ローレンツ力、(b)慣性力+等方圧力勾配、(c)ホール 項、(d)非等方圧力勾配のスナップショットである。X/di=0 付近のジェットはローレンツ力によっ て加速される。これと主に釣り合うのは、MHD 項である慣性力+等方圧力勾配ではなく、運動論 項である非等方圧力勾配であることがわかる。MHD 項と違って、非等方圧力勾配は単にジェッ トを減速するのではなく、その運動量を進行方向垂直方向に輸送している(セパラトリクスの近 傍で赤色の分布を示している)。これは、電流シートをY 方向にメアンダリング運動するイオン が担っていると考えられ、電気抵抗とは異なり、リコネクション下流広域で発生している。この 効果は、実効的な粘性による運動量輸送とみなすことが出来る。 粘性係数と電気抵抗の比は磁気プラントル数と呼ばれ、衝突性プラズマでは10-5 T4/n となり(T: 温度、n: 数密度、いずれも CGS 単位系)、高温希薄な宇宙プラズマに適用すると 1 よりずっと大 きくなる。一方で無衝突プラズマの場合、実効的な電気抵抗と粘性の起源により、様々な値を取 ると考えられる(理想 MHD 近似が成り立つ場合は、いずれも非常に小さな値となる)。図 2(c) 及び図3(d)を磁場勾配分布や速度勾配分布と比較することで、実効的な電気抵抗係数と粘性係数 の推定が可能であり、その結果を図4 に示す。電気抵抗係数は原点付近でピーク値 0.2 を取り、 一方で粘性係数は下流域 |X/di|<10 で 0.1 程度と見積もられた(係数はアルフベン速度とイオン慣 性長で規格化)。よって、今回のパラメータ計算では、リコネクション領域近傍の実効的な磁気 プラントル数は0.5 以上と推定された。

(6)

4:実効的な電気抵抗係数(実線)と粘性係数(破線)の X 方向分布 5. まとめと今後の課題 宇宙プラズマにおける重要な素過程である磁気リコネクションについて、次世代のプラズマ第 一原理シミュレーション手法である超並列ブラソフシミュレーションを京コンピュータで実施 して、その散逸過程を調べた。リコネクション領域近傍ではプラズマ運動論効果が散逸を担う。 計算結果から、リコネクション領域に局在化する実効的な電気抵抗による磁場の拡散に加えて、 下流広域で実効的な粘性による運動量輸送も発生していることを見出した。無衝突リコネクショ ンにおける実効的な粘性は、従来の粒子シミュレーション研究では言及されてこなかった。ブラ ソフシミュレーションは粒子シミュレーションに対して数値ノイズが著しく低いので、輸送係数 などのマクロな物理量の計測により適している。 我々はこれまで、ブラソフシミュレーションと並行して、MHD シミュレーションによる磁気 リコネクション研究も行ってきた[4]。それによると、一様な電気抵抗のみを考慮した抵抗性 MHD シミュレーションでは、細長い磁気拡散領域が形成され、リコネクションは遅く進行するのに対 し、粘性及び熱伝導も考慮した散逸性MHD シミュレーションでは、磁気拡散領域が局在化して、 速いリコネクションが発生した。この原因の一つに、粘性がリコネクションジェットの運動量を 進行方向垂直方向に輸送して、ジェット開口部を開き、リコネクションを促進することが挙げら れる。この描像はブラソフシミュレーション結果と整合的である。これらの結果は、磁気リコネ クションのダイナミクスにおいて電気抵抗のみならず粘性も決定的な役割を果たしていること を示唆している。 本研究計画申請時は、リコネクションにおけるスローモード衝撃波やテアリングモードの非線 形発展の追跡を計画していたが、当年度の計算ではこれらの同定に至らなかった。この原因とし て、イオンが緩和されるのに十分な時間を追跡できなかったことが考えられる。これら磁気流体

(7)

スケールの現象に第一原理から迫るためには、シミュレーションコードを高速化して、より規模 の大きな計算を行う必要があると考えている。 今後は無衝突磁気リコネクションの実効的な輸送係数を定量的に評価・モデル化するために、 パラメータ調査に取り組む。さらに、無衝突リコネクションの熱力学特性を理解するために、熱 輸送の評価も行う。そのためには、速度分布関数から3 次モーメントを計算する必要があるので、 速度空間の高解像度化が必要であり、計算スキームの改良、より多くの計算機資源の利用、いず れも必要になる。 参考文献

[1] T. Minoshima, Y. Matsumoto, and T. Amano, J. Comput. Phys. 230, 6800 (2011) [2] T. Minoshima, Y. Matsumoto, and T. Amano, J. Comput. Phys. 236, 81 (2013)

[3] T. Minoshima, Y. Matsumoto, and T. Amano, Comput. Phys. Commun. 187, 137 (2015) [4] T. Minoshima, T. Miyoshi, and S. Imada, Phys. Plasmas 23, 072122 (2016)

図 3 :リコネクション領域近傍における運動方程式の X 成分の評価   一般化されたオームの法則に続いて、流体近似された運動方程式を計算結果から評価する。図 3 は運動方程式の X 成分の主要な項である (a) ローレンツ力、 (b) 慣性力 + 等方圧力勾配、 (c) ホール 項、 (d) 非等方圧力勾配のスナップショットである。 X/d i =0 付近のジェットはローレンツ力によっ て加速される。これと主に釣り合うのは、 MHD 項である慣性力 + 等方圧力勾配ではなく、運動論 項である非等方圧力勾配
図 4 :実効的な電気抵抗係数(実線)と粘性係数(破線)の X 方向分布 5.   まとめと今後の課題   宇宙プラズマにおける重要な素過程である磁気リコネクションについて、次世代のプラズマ第 一原理シミュレーション手法である超並列ブラソフシミュレーションを京コンピュータで実施 して、その散逸過程を調べた。リコネクション領域近傍ではプラズマ運動論効果が散逸を担う。 計算結果から、リコネクション領域に局在化する実効的な電気抵抗による磁場の拡散に加えて、 下流広域で実効的な粘性による運動量輸送も発生していること

参照

関連したドキュメント

In this study, the fully developed, steady, laminar flow of blood is studied in a long pipe with square and circular cross-sections subjected to a magnetic field generated by

This year, the world mathematical community recalls the memory of Abraham Robinson (1918–1984), an outstanding scientist whose contributions to delta-wing theory and model theory

We prove the coincidence of the two definitions of the integrated density of states (IDS) for Schr¨ odinger operators with strongly singular magnetic fields and scalar potentials:

On the other hand, from physical arguments, it is expected that asymptotically in time the concentration approach certain values of the minimizers of the function f appearing in

Since we are interested in bounds that incorporate only the phase individual properties and their volume fractions, there are mainly four different approaches: the variational method

Then it follows immediately from a suitable version of “Hensel’s Lemma” [cf., e.g., the argument of [4], Lemma 2.1] that S may be obtained, as the notation suggests, as the m A

The response of bodies to external stimuli is characterized by the many ways in which bodies store energy, how they release this energy that is stored, the various ways in which

Applying the conditions to the general differential solutions for the flow fields, we perform many tedious and long calculations in order to evaluate the unknown constant coefficients