急性曝露ガイドライン濃度 (AEGL)
Hydrogen cyanide (74-90-8) シアン化水素
Table AEGL 設定値
Hydrogen cyanide 74-90-8 (Final) ppm
10 min 30 min 60 min 4 hr 8 hr
AEGL 1 2.5 2.5 2 1.3 1 AEGL 2 17 10 7.1 3.5 2.5 AEGL 3 27 21 15 8.6 6.6 設定根拠(要約): シアン化水素(HCN)は、速効性で、毒性が非常に高く、ビターアーモンド臭のある、無 色の気体または液体である。ほとんどは、製造の中間体として使用されており、主な用途 は、ナイロン、プラスチック、燻蒸剤の製造である。HCNへの曝露は、製造現場以外でも、 たばこの煙、燃焼生成物、食品中の天然由来のシアン化合物によっても起こる可能性があ る。ヒトで降圧薬として使用されているニトロプルシドナトリウム(Na2[Fe(CN)5 NO]・2H2O)
は、分解して非電離型のHCNになる。 HCNは全身性毒物である。毒性は、チトクロームオキシダーゼ阻害によるもので、この作 用により細胞の酸素利用が阻害される。脳細胞における電子伝達の最終段階が阻害されて、 意識消失や呼吸停止が起こり、最終的に死に至る。頸動脈小体および大動脈小体の化学受 容器が刺激されて、短時間の過呼吸が起こり、不整脈も起こることがある。シアン化物の 生化学的作用機序は、すべての哺乳動物で共通する。HCNは、チオ硫酸塩からシアン化物 へのイオウの転移を触媒する酵素であるロダネーゼによって代謝されて、比較的毒性の低 いチオシアン酸塩になる。 ヒトにおける曝露濃度のデータを伴う報告は、職業曝露に関するものに限られている。曝 露された作業員の症状は、健康への有害な影響が認められない、軽度の不快感から、明ら かな中枢神経系への影響を示すものまで、様々である。反復曝露や慢性曝露の例では、甲 状腺機能低下症が報告されている。サル、イヌ、ラット、およびマウスを用いた吸入試験 では、機能喪失や、呼吸および心臓のパラメータの変化など、亜致死性の影響が認められ ている。ラット、マウス、およびウサギを用いた試験で、致死性の影響も認められている。
2 いて、それぞれの曝露の時間-濃度関係の回帰分析を行い、機能喪失についてはC2 × t = k、 致死性についてはラットのデータに基づいてC2.6 × t = kという関係式が得られた。 AEGL-1値は、ヒトにおけるモニタリング調査のデータに基づいた。このモニタリング調査 では、知見の重要性に基づいて考察された圧倒的多数のデータによって、1 ppmのHCNに8 時間曝露した場合、一般集団の健康に有害な影響がないことが示されている。この調査デ ータは、長期曝露(多くは、1日8時間で長期間の勤務)におけるものであり、特定の曝露 濃度に関する様々な局面や曝露に関連する症状についての十分な記録を欠いているが、著 しい不快感の閾値であるAEGL-1を導出する上で、ヒトにおける最も妥当なデータである。 3つの電気メッキ工場における慢性曝露(5~15年間、平均曝露濃度はそれぞれ、6、8、10 ppm) では、頭痛、脱力、味覚と嗅覚の好ましくない変化など、曝露に関連した症状が現れてい るが(El Ghawabi et al. 1975)、この調査では、症状と空気中濃度との関係が明らかにされ ていない。シアン化物に慢性曝露した場合に特徴的にみとめられ、多くの徴候の原因と考 えられる甲状腺腫大が、半数以上の作業員において認められている。米国学術研究会議 (NRC)の小委員会は、El Ghawabiら(1975)の調査について検討し、8 ppmの1時間曝露で は、健康な成人に軽度の頭痛以外の症状は起こらないと結論している(NRC 2000)。軽度 の頭痛は、AEGL-1の定義に適合する。シアン化物の製造に従事する健康な成人63名が、1 年のうちのある期間、HCNに、幾何平均濃度6、8、10 ppm(標準偏差:0.01~3.3 ppm、個 人サンプラーを用いて測定)で慢性曝露され、6 ppm(区域試料を用いて測定)で曝露され た可能性のある例では、曝露による健康への有害な影響はみられていない(Leeser et al. 1990)。また、健康への影響は具体的に示されていないが、5つの杏仁加工工場の作業員が、 1 ppm未満~17 ppmの空気中濃度のHCNに曝露された例についての報告がある(Grabois 1954)。最大許容濃度が10 ppmとされていた時代に技術的な管理が「必要に応じて」推奨 されていたという事実から、低濃度では有害な影響が生じていなかったことが示唆される。 米国の国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は、Grabois(1954)のデータから、職場環境の 無影響濃度は5 ppmであると結論している(NIOSH 1976)。別のモニタリング調査では、4 ~6 ppmの濃度のHCNに日常的に曝露されている作業員の例について報告されている (Hardy et al. 1950; Maehly and Swensson 1970)。HCNの作用に対する感受性は、ヒトによっ て異なる可能性があるが、得られた文献(職場のモニタリング調査や慢性高血圧治療のた めのニトロプルシド溶液の臨床使用例)からは、個人差に関するデータが得られなかった。 新生児も含めて、ヒトには、解毒酵素であるロダネーゼが大量に存在する。慢性曝露にお いても、慢性高血圧治療のためのニトロプルシド溶液の使用においても、HCNの作用に対 する感受性が特に高い集団が報告されていないことから、感受性に対する個人差は3倍以下 であると予想される。 引用したすべてのモニタリング調査から得られた用量-反応データを考慮して、8時間
AEGL-1値を導出し、その後、この値を8時間より短いAEGL曝露期間に時間スケーリングし た。いずれのモニタリング調査も慢性曝露に関するものであるが、ヒトに関して入手し得 る有力なデータを提示するものである。また、所定の濃度で8時間という標準的な勤務時間 での複数回曝露の例で観察・報告された症状は、最も起こり得る反応であるはずである。 したがって、上述のモニタリング調査のデータを使用することは、AEGL値を導出するため の無難な方法である。報告されている曝露期間は、いずれもAEGLの曝露期間より長いため、 AEGLの最も長い曝露期間である8時間を、AEGL値を導出するための基準とした。Grabois (1954)、Hardyら(1950)、MaehlyおよびSwensson(1970)の各試験から得た8時間濃度 の5 ppmを種内不確実係数3で割るか、またはEl Ghawabiら(1975)の試験から得た1時間濃 度の8 ppmを種内不確実係数3で割ると、非常によく似たAEGL-1値が得られた。得られた8 時間値(1.7 ppm)は、Leeserら(1990)の試験で不確実係数を適用せずに導出された8時間 の幾何平均値(1 ppm)にも近似している。この幾何平均値は最も低い無毒性量(NOAEL) であったため、不確実係数は、Leeserら(1990)の試験に適用するべきではない。より短い 期間に時間スケーリングするための基準として、8時間値の1 ppmを使用し、C3 × t = kという 慎重な関係式を用いて、より短い曝露期間の値を導出した。AEGL-1の10分間値を30分間値 と等しく設定して、適切に実施されたLeeserら(1990)の試験における個人曝露濃度の最大 値3.3 ppmを超えないようにした。 AEGL-2値は、カニクイザルを60 ppmのHCNに30分間曝露した試験に基づいた。この試験で は曝露終盤に、毎分呼吸量のわずかな増加と、脳波の変化によって示された中枢神経系へ の軽微な抑制作用がみられているが、生理学的反応はみられていない(Purser 1984)。HCN の作用メカニズムはすべての哺乳動物で共通するが、毒性作用の迅速性と強度は、薬物動 態学的事由だけでなく相対的な呼吸数に関連している。相対的な呼吸数に基づくと、HCN の取り込みは、サルの方がヒトより速い。げっ歯類に比較して、サルとヒトは、呼吸器系 の肉眼解剖学的構造、気道上皮の量と分布状態、および気流パターンが似ているため、サ ルは、ヒトに外挿するためのモデルとして適切である。サルはヒトのモデルとして適切で あるが、相対的な呼吸数に基づくと、シアン化物の作用に対する感受性はヒトより高い可 能性があるため、種間不確実係数2を適用した。ヒトによってHCNに対する感受性が異なる 可能性があるが、個人差に関するデータは、得られた文献には含まれていなかった。新生 児も含めて、ヒトには、解毒酵素であるロダネーゼが存在する。したがって、種内不確実 係数3を適用した。Purser(1984)の試験で得られた30分間濃度の60 ppmを、種間不確実係 数と種内不確実係数を合計した6で割り、C2 × t = kの関係式を用いて時間スケーリングを行 い、AEGLに設定されている各曝露期間での値を導出した。30分間値(10 ppm)および1時 間値(7.1 ppm)の安全性は、El Ghawabiら(1975)のモニタリング調査のデータによって 支持されている。この調査では、平均濃度8~10 ppmでの慢性曝露により、作業員の中で主 として中枢神経系へ可逆性の影響(頭痛など)が引き起こされた可能性があることが報告 されている。
4 様々な曝露期間の LC01値を計算するためのデータセットは、ラットでのみ得られている(E.I.
du Pont de Nemours and Company 1981)。LC01値を致死閾値とみなし、AEGL-3 値を導出す
るための基準として用いた。マウス、ラット、ウサギは、同じ曝露時間における LC50値が 近似しており(例えば、マウス、ラット、ウサギの 30 分 LC50値は、それぞれ、166、177、 189 ppm)、HCN による致死的影響に対する感受性が同等であると判断した。古い試験では、 数種類の動物における死亡までの時間によって、マウスとラットは、HCN に対する感受性 が、サルよりわずかに高く、また、おそらくはヒトより高いことが示されている。この感 受性の違いは、少なくとも一部は、げっ歯類の呼吸数が体重に比較して多いことによると 考えられた。数種類の動物における LC50値は互いの 1.5 倍以内にあり、げっ歯類の呼吸数 はヒトより多く、HCN の取り込み速度が速くなるため、種間不確実係数 2 を適用した。ヒ トによって HCN に対する感受性が異なる可能性があるが、個人差に関するデータは、得ら れた文献には含まれていなかった。新生児も含めて、ヒトには、解毒酵素であるロダネー ゼが存在する。したがって、感受性の高い人の保護のために、種内不確実係数 3 を適用し た。総不確実係数 6 を適用して、15 分間、30 分間、1 時間の各 LC01値として、それぞれ、 138、127、88 ppm を導出した。15 分間 LC01値を 10 分に時間スケーリングして、10 分間 AEGL-3 値を導出した。30 分間 LC01値を 30 分間 AEGL-3 値とし、1 時間 LC01値を使用して、 1 時間、4 時間、8 時間の各 AEGL-3 値を計算した。AEGL-3 値については、時間スケーリ ングに、実験に基づいたデータ(すなわち、重要な試験から得られたラットの致死濃度-曝 露期間の関係式である、C2.6 × t = k)を使用した。4 時間 AEGL-3 値(8.6 ppm)および 8 時 間 AEGL-3 値(6.6 ppm)の安全性は、同様の濃度で慢性曝露された健康な作業員に重度で 有害な影響が認められなかったモニタリング調査(Grabois 1954; El Ghawabi et al. 1975)に よって支持されている。Table に、導出した AEGL 値を示す。
国際化学物質安全性カード
シアン化水素、液化
ICSC番号:0492
シアン化水素、液化
HYDROGEN CYANIDE, LIQUEFIED
Hydrocyanic acid
Prussic acid
Formonitrile
(液化)
HCN
分子量:27.03
CAS登録番号:74-90-8
RTECS番号:MW6825000
ICSC番号:0492
国連番号:1051
EC番号:006-006-00-X
災害/
暴露のタイプ
一次災害/
急性症状
予防
応急処置/
消火薬剤
火災
引火性がきわめて高い。火災 時に刺激性もしくは有毒なフュ ームやガスを放出する。 裸火禁止、火花禁止、禁煙。 供給源を遮断する;それが不 可能でかつ周辺に危険が及ば なければ、燃え尽きるにまかせ る;その他の場合は粉末消火 薬剤、水噴霧、泡消火薬剤、二 酸化炭素を用いて消火する。爆発
気体/空気の混合気体は爆発性である。 密閉系、換気、防爆型電気お よび照明設備。 火災時:圧力容器に水を噴霧し て冷却する。安全な場所から 消火作業を行う。身体への暴露
あらゆる接触を避ける! いずれの場合も医師に相談! 吸入 錯乱、嗜眠、頭痛、吐き気、痙 攣、息切れ、意識喪失、死。 換気、局所排気、または呼吸 用保護具。 新鮮な空気、安静。半座位。マ ウス対マウスの人工呼吸禁 止。訓練を受けた者が酸素吸 入を行う。医療機関に連絡す る。「注」参照。 皮膚 吸収される可能性あり! 「吸入」参照。 保護手袋、保護衣。 多量の水かシャワーで皮膚を 洗い流す。医療機関に連絡す る。応急処置を行うときは保護 手袋を着用する。 眼 蒸気が吸収される! 発赤。 「吸入」参照。 安全ゴーグル、または呼吸用 保護具と眼用保護具の併用。 数分間多量の水で洗い流し(で きればコンタクトレンズをはずし て)、医師に連れて行く。 経口摂取 灼熱感。他の症状については 「吸入」参照。 作業中は飲食、喫煙をしない。 食事前に手を洗う。 口をすすぐ。吐かせない。 マ ウス対マウスの人工呼吸禁 止。訓練を受けた者が酸素吸 入を行う。医療機関に連絡す る。「注」参照。漏洩物処理
貯蔵
包装・表示
・直ちに危険区域から立ち退く! ・専門家に相談する! ・換気。 ・耐火設備(条件)。 ・食品や飼料から離しておく。 ・涼しい場所。 ・海洋汚染物質。 ・EU分類 記号 : F+, T+, Nい。 ・この物質を環境中に放出してはなら ない。 ・自給式呼吸器付気密化学保護衣。 Class):6.1 ・国連の副次的危険性による分類 (UN Subsidiary Risks):3
・国連包装等級(UN Packing Group):I
重要データは次ページ参照
ICSC番号:0492
Prepared in the context of cooperation between the International Programme on Chemical Safety & the Commission of the European Communities © IPCS CEC 1993国際化学物質安全性カード
シアン化水素、液化
ICSC番号:0492
重 要 デ | タ 物理的状態; 外観: 特徴的な臭気のある、無色の気体あるいは液 体* 物理的危険性: この気体は空気とよく混合し、爆発性混合物を 生成しやすい。 化学的危険性: 加熱、塩基、2%を超える水の影響下、あるい は化学的に安定化されていないと重合するこ とがあり、火災や爆発の危険を伴う。燃焼する と、窒素酸化物などの有毒で腐食性の気体を 生成する。水溶液は弱酸である。アルコール 混合物中で酸化剤、塩化水素と激しく反応し、 火災や爆発の危険をもたらす。 許容濃度: TLV:4.7 ppm(天井値); (皮膚) (ACGIH 2003) 暴露の経路: 体内への吸収経路:吸入、経皮、経口摂取 吸入の危険性: 20℃で気化したとき、空気は汚染されてきわめ て急速に有害濃度に達する。 短期暴露の影響: 眼、気道を刺激する。細胞呼吸に影響を与え、 痙攣を生じ、意識を喪失することがある。死に 至ることがある。医学的な経過観察が必要で ある。「注」参照。 長期または反復暴露の影響: 甲状腺に影響を与えることがある。 物理的性質 ・沸点:26℃ ・融点:-13℃ ・比重(水=1):0.69(液体) ・水への溶解性:混和する ・蒸気圧:82.6 kPa(20℃) ・相対蒸気密度(空気=1):0.94 ・引火点:-18℃(C.C.) ・発火温度:538℃ ・爆発限界:5.6~40.0 vol%(空気中) ・log Pow (オクタノール/水分配係数):-0.25 環境に関する データ ・水生生物に対して毒性が非常に強い。 注 ・作業時のどの時点でも、許容濃度(天井値)を超えてはならない。 ・この物質により中毒を起こした場合は、特別の処置が必要である;指示のもとに適切な手段をとれるようにしてお く。 ・暴露の程度によっては、定期検診が必要である。 ・許容濃度を超えても、臭気として十分に感じないので注意すること。国立医薬品食品衛生研究所
・シアン化水素暴露の可能性がある区域内において、単独で作業してはならない。 ・このカードに記載された勧告事項は、安定剤入りでさせたシアン化水素にも適用される。
・他の国連番号:1613、シアン化水素、水溶液、シアン化水素20%を超えない; 1614、シアン化水素、安定剤入り、 多孔性の不活性物質に吸収; 3294、シアン化水素アルコール溶液、シアン化水素45%を超えない
Transport Emergency Card(輸送時応急処理カード):TEC(R)-61S1051 NFPA(米国防火協会)コード:H(健康危険性)4;F(燃焼危険性)4;R(反応危険性)2; 付加情報