Corporate Climate
日本企業の企業風土・企業体質の過去と未来
これまでの日本における企業風土の変遷を
24年間のデータに基づき検証。
日本企業の企業風土・企業体質は
過去どのように形成され
今後どう変わっていくのか。
04 | 2009
企業風土とは、端的に言えば「社員の間に共有される固有な雰囲気、価値観」。
この企業風土はビジネスゴールの実現に大きな影響を与える。20年余に渡りヘイ
グループが日本で実施してきた「企業風土調査」のデータをビジネス環境や時代
背景に照らして顧みながら、日本における企業風土の変遷について考える。明ら
かなターニングポイントを迎えた激動の2009年、この先に求められる企業風土を
考えるための海図を提供したい。
Introduction
「企業風土」という言葉は、何らかの問題や不祥事などの場面でクローズアップされ ることが多いように感じる。そして「今回の問題は、当社の企業風土、企業体質にその 原因があり、今後は風土改革を最重要テーマとして取り組む」などと結ばれる。逆にポ ジティブな場面、例えば好決算時に「自由闊達で社員が自立的に仕事に取り組む企業風 土が、今回の好業績をもたらした」と語られることは殆どない。「マーケットニーズを 的確に捉えた新製品の開発が新たな需要を喚起し、今期業績へ大きく貢献した」など具 体的な成果に即して語られることが多い。 誰しもポジティブな場面では、具体的な成果について饒舌に語りたくなる。望ましい 成果がなぜ得られたのか、その背景についてはあまり意識がいかない。しかし、一旦ネ ガティブな場面になると、問題や不祥事がなぜ自社から出てきたのか、その原因に目を 向けない訳にはいかなくなる。そこではじめて、日本人のハイコンテクストな社会の中 で、暗黙のうちに共有されてきた不文律、価値観などが素顔を現すのだ。企業風土の良 し悪しは、企業がゴールを実現する上で、促進要因にも阻害要因にもなりうる。ここを 直視せずして、継続的に成果をあげる組織をつくることはできない。しかし、目に見え にくいがために、観念的な抽象論から脱しきれず、正面から策を打ちにくいのも企業風 土である。 この20年余りの間に、日本のビジネス環境は大きく変わり、世相や社員の就労観も大 きく変わってきた。それに合わせるように、企業における経営やマネジメントのやり 方、人事処遇の仕組みも変わってきている。かつて効果をあげてきた企業内の仕組みや プロセスが、新しい環境の中では機能しなくなったものもある。企業風土はこうした経 営のあり方、仕組みやプロセスを如実に反映する。外的環境と内的メカニズムの不適合 が生じれば、それは企業風土上の問題として表面化することが多い。 本稿では、日本企業の風土がこれまでの時代時代のビジネス環境の下でどのような変 遷を辿って来たかを振り返りながら、そこから今後の「企業風土」の在り方、あるべき 姿を考えることを目的としている。過去は過去。しかしその中には、これからの将来へ 向けた大きな知見が宿る。100年に1度と言われる現在の不況下、揺るぎない持続的成長 の基盤として、次世代の企業風土を確立し直すことが今後に繋がる。不況後を見据えた 新しい「企業風土」づくりは、今、日本企業にとって経営戦略上、人事戦略上で最重視 されるべきものと考える。Contents
Introduction Contents 2 4 6 企業風土は長期的に成果を生み出す土壌 企業風土を可視化するためのアプローチ 日本のビジネス環境の変遷 8 4つの期間に見る企業風土 13 Conclusion 0 1企業風土は長期的に成果を生み出す土壌
どの企業にも、固有の雰囲気、伝統、不文律、価値観といった企業独自の風土が存在する。こ の風土は企業活動の推進力になったり、逆に制約要因にもなる。例えば新たな経営戦略を導入 する際に、その戦略が企業の中でどのように受け入れられ、機能するかは、それを実行する社 員のものの見方や考え方、すなわち企業風土に大きく依存する。多くの場合、戦略を各部署に 落して実行していく際、ハードな組織体制や目標、アクションプランなどには意識がいくが、 目に見えにくい企業風土に意識が向かうことは少ない。しかし、戦略が実行に移されない最大 の理由が、このソフトな部分にあることは珍しくない。「何故だ」「こんな筈では」とならな いために、社員の行動に影響を及ぼしている企業風土を見直してみることが重要である。 企業ゴールと風土の密接な関係 企業の継続的な成長発展は、企業の存在理 由を支える究極のゴールと言える。このゴー ル達成に影響を与える要因には、企業でコン トロールが難しい「外的要因」と企業の改革 や自助努力によりコントロール可能な「内的 要因」とがある。内的要因には、経営戦略、 組織構造、マネジメントプロセス、人的資源 などがあり、これらが企業風土の形成に密接 に関わる。換言するならば、企業風土とは企 業の内的要因の総体とも言える。 企業風土は、企業にとっての「土壌」と言 える。事業は「土壌」に植える「樹木」であ り、売上などの成果は「果実」となる。短期 的に果実の収穫のみに腐心し土壌を顧みなけ れば、焼畑農法に過ぎず、長期かつ安定的な 収穫は望めない。この土壌(企業風土)の現 状を客観的かつ正確に捉え、必要な対応を適 切に行えば、「樹木」は期待を裏切ることな く強い根を張りめぐらせ継続的に大きな「果 実」を実らせる。 企業風土は、外的要因を所与の前提として 企業活動を構成する経営戦略、組織構造、マ ネジメントプロセス、人的資源を有機的に結 び付け、企業ゴールへ導く媒介変数、触媒と して機能する。どの企業にも未だ十分に力の 発揮されないSleeping Beautyは存在する。良 好な企業風土は、このSleeping Beautyを覚醒 させる可能性を秘めている。 企業風土とは、その企業に所 属する社員の中に認知・共有 されている雰囲気、伝統、不文 律、価値観など。 ˖‒ಅ ‒ם ኺ‒փ ‒ဦ ኵ‒ጢ ನ‒ᡯ ʴ‒ႎ ‒เ ∄⇳⇞∇∙⇮ ⇽∓⇡⇟ ˖ ಅ ⇚ ⒲ ∑ ∝ ಅ ጚ ኺ փ Ⴘ ˖ ಅ ྸ ࣞ ∝ ⇹ ⇞ ⒮ ∙ ᅈ ˟ ∝ ኺ ฎ ∝ ૨ ҄ ↙ ↘ ↝ ٳ ႎ ᙲ ׆“
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経営戦略、組織構造、マネジメントプロセス、人的資源な
どの有機的な結合が、長期的に成果を生み出す優れた土壌
をつくる。
【コラム①】 風土に関する研究の起源 風土(Climate)は、行動心理学上の動機理論の流れの中で、個人の動機と組織的要因の関係性を明らか にする、60年代後半に始まる研究に端を発しています。この研究に取り組んだのは、米国のG.Litwinと R.Stringerの二人で、コンピテンシーや動機理論の生みの親として知られるD.C.McClleland教授に師事して いました。それまでも組織の状況や環境が、個人の動機を喚起したり逆に阻害するトリガーとなりうる 点は指摘されてきましたが、関係性そのものに踏み込む考え方はありませんでした。G.LitwinとR.Stringer は、こうした要因間の関係性と位置付けを整理し、「組織的な要因と所属する個人の動機の方向性の関係 を説明する変数」として風土を概念化しました。ヘイグループの風土に対する考え方は、このG.Litwinと R.Stringerを起源とし、その後、後進の研究者、学者、コンサルタントとともに改訂を重ねながら今日に至 っています。 企業風土と社員満足度 企業風土は、よく社員満足度と似た意味合 いで使わるが、両者の位置関係は必ずしも同 じではない。その違いを理解しておくこと は、特に改革のための施策を打つ場面で重要 になってくる。企業風土とは、社員に認知さ れた企業特有の思考・行動パターンのことを いう。暗黙のうちに共有されてきたルールや 価値観で、比較的持続性があり、社員個々人 のものの見方や考え方に強い影響を及ぼす。 例えば、重要な意思決定にどこまで広く社 員を巻き込むか、部門横断的連携が得意かど うか、業績に対するこだわりの強さなどは、 企業それぞれの習性のようなものであり、経 営やマネジメントのスタイルという形で、企 業の行動パターンに刷り込まれている。ま た、部下や後輩の育成にどこまでエネルギー を注ぐか、短期の量的成果と中長期の質的な 貢献をどのように評価するかなどは、人材マ ネジメントの仕組みや慣行として企業風土の 一部を構成する。 これに対して、社員満足度とは、上司のマ ネジメントや働きやすさ、処遇やキャリアア ップの機会などに対する社員の期待に対する 充足度のことをいう。社員は企業にとって重 要なステークホルダーであり、社員の期待と いう視点から企業のマネジメントスタイルや 人事管理の仕組みを評価してみることは重要 である。しかし一方で、経営の舵取りや意思 決定などは、社員だけではなく株主や顧客、 社会一般など、全てのステークホルダーの利 益を勘案して実行される。特に、不況時や経 営危機などの局面では、ステークホルダーの 要望に耳を傾けるだけではなく、経営陣の方 から積極的にステークホルダーの考え方を変 えていくことが求められる場合もある。 このため企業風土を評価する場合、人材マ ネジメントなどの、社員に近い側面において は、社員の期待という視点からの評価(社員 満足度)に重きを置くことが必要であろう。 一方、経営の方向性や意思決定のあり方など を評価する場合は、社員の期待を聞くことは ひとつの重要な見方を提供するものの、それ だけで十分とはいえない。様々な視点からの 解釈が必要になってくる。
企業風土を可視化するためのアプローチ
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Clarity
Capability
Commitment
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Soft
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Opportunity
Threats
Strength
Weakness
⦟ᅢߥડᬺ㘑 ⽶ߌ›⁁ᘒ (*)縮小均衡状態とは、企業風土のバランスは悪くないも のの、外的環境の悪化などにより組織運営面で困難が 生じているケース。従来通りの経営を続けていって良 いのかどうかが問われることが多い。日本のビジネス環境の変遷
企業風土調査の提供を始めた 1985年は、日本がバブル経済 へ向け走り始めた年で、今日に 至る激動の時代の幕開け。 80年代後半から今日に至るまでの20年余は、日本のビジネス環境、景気変動において非常に変 化の幅の大きかった時代と言える。これ以外にも大きな変化の時代はあるものの、景気の「山 の高さ」と「谷の深さ」、そして変化のスピードなどにおいて類を見ないと思われる。次章 で、本稿の主題であるビジネス環境と企業風土との関係を見ていくが、その前提としての既に 周知の事ながら、この20年余における日本のビジネス環境を4つの期間に区切って整理してお く。 6年ごとに見られる変動の節目 経済学者、エコノミストをはじめとする多 くの方々から批判を受けそうだが、この20年 余の日本のビジネス環境、景気動向を振り返 ると、体感的には6年程度の周期でエポック メイキング的な出来事が起きて来たように感 じる。具体的には、以下の出来事だが、時期 の特定が難しかったり、タイムラグが存在し たりと、下記の当該年から前後する可能性は 否定しない。 1985年 プラザ合意 1991年 バブル経済崩壊 1997年 日本の金融危機 2003年 いざなみ景気の始まり 2009年 米国発世界的経済危機 こうした節目となる出来事の年を境目と し、1985年から本年までを6年ごとに4つの 期間に括り、それぞれの当該期間において印 象的な事柄をまとめたのが次ページの表であ る。これ以外にもさまざまな事が起きている が、それは業種、職種、立地条件などで変わ ってくるかもしれない。 蛇足ながら1985年の12年前、6年前にあたる 1973年と1979年には第一次と第二次のオイル ショックが起きている。1985年 ニューヨーク
プラザホテルでの会合から
日本経済は大航海時代へ。
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Period 1 1985年∼1991年 バブル経済の助走期から崩壊まで 景気動向 1985年 プラザ合意 1987年 ルーブル合意 ブラックマンデー 1988年 ジャパンバッシング スーパー301条 1989年 消費税導入 1990年 日銀の金融引締め策 総量規制 不動産融資抑制通達 湾岸戦争 日本では80年代初めから輸出産業を中心とする好況の中、米国は双子の赤字に苦し む。米国の貿易赤字是正に向け、G5(先進5ヶ国中央銀行総裁会議)においてドル高 是正に向けた協調介入が同意される。円高容認の決議。これに伴い日本は一時的な 円高不況となり、その対応としての低金利政策、量的緩和措置を相次いで実施。結果 的に日本の貿易収支は黒字基調を取り戻し、米国でのジャパンバッシングが強まる。 同時に過剰流動性が高まり、それが過剰な信用創造を生むスパイラルが走り出しバ ブル経済へ突入。この時期、日本型経営システムの優位性が認められ「ジャパン・ア ズ・No.1」も刊行される。日本国内では、過剰流動性の進展により、不動産担保融資を 元に、その資金が各種投資へ向かうという循環螺旋的な資金膨張を伴いバブル絶頂 期を迎える。90年の日銀の金融引き締め策、大蔵省の金融機関に対する不動産融資 抑制通達といった総量規制により、資金循環、資金の回転が止まり、日本のバブル経 済は終焉を迎える。 Period 2 1991年∼1997年 バブル経済の崩壊から日本の金融危機まで 1992年 路線価ピークアウト 1995年 阪神大震災、 サリン事件 住専破綻 金融機関再編の動き 1997年 日本の金融危機 バブル経済の崩壊により金融機関は多額の不良債権を抱え、事業会社はバブル期に おける過剰な設備投資、事業拡大、過剰人員を抱え続ける。世相として大きな問題と の認識は伴いながらも、金融機関、事業会社、政治ともに具体的な対応は散発的に試 みられる範囲にとどまる。大鉈としての策は打たれることなく、さまざまな問題は先送りさ れバブル経済の「負の遺産」として継承される。政治においても混乱期であり、安定政 局とはいえなかったことが、具体的な施策につながらなかった一因とも言える。この先送 りの結果が、後の表現ながら「失われた10年」を生むことになる。そして、97年11月の北 海道拓殖銀行、山一證券の破綻、翌年の長期信用銀行、日本債権信用銀行などの 破綻へと続き、事態の深刻さが白日の下に晒され、もはや待ったなしの状況へと突入 する。非常に不安定な時期で、誰もが不安を抱える中、阪神大震災やサリン事件もこ の時期に起きた。 Period 3 1997年∼2003年 失われた10年の終焉へ向けて 平成不況、就職氷河期 日本版金融ビッグバン 1998年 ジャパンプレミアム アジア通貨危機 ロシア財政危機 公的資金注入 1999年 ITバブル、Y2K問題 2001年 9.11同時多発テロ 2003年 イラク戦争 97年末から金融機関の不良債権処理に政府が本格的に腰を上げ、処理スキーム、公 的資金の導入などが決定する。事業会社においても大規模なリストラが敢行され、「痛 み」を伴う大きな改革が手探りながら進む。日本型雇用環境の中で聖域とされていた 人事面においても、「栞(作者不詳リストラバイブル)」のリバイバル、非正規社員の拡 大、就職氷河期、人件費カット、年功主義的な日本型人事への訣別、雇用調整的動 向が強まる。加えて世紀末という世相もあり混沌とした様相を呈する。ITバブルで日本 経済は、一時的な回復を見せたものの短命がゆえに依然として混乱は続く。2000年以 降、不良債権の本格的処理に伴い海外資本による企業再生ファンド(含むハゲタカフ ァンド)が台頭、M&A件数の増加なども見られた。混乱の中で厳しい施策を経ながら も、徐々にバブル経済の「負の遺産」を解消すべく取り組みが進められた。 Period 4 2003年∼2009年 いざなみ景気から米国発世界的経済危機 日銀による大幅な為替介入 2004年 派遣社員法改正 構造改革路線 郵政民営化 サブプライムローン問題 原油をはじめとする資源危機 2008年 リーマンショック この時期、北米の好調な需要、中国の経済台頭と旺盛な需要により輸出産業中心に 景気が牽引され、輸出の経済成長寄与度は60%超。経済成長率は2%前後と低めな がらも、その成長が長期に渡り継続。安価な人件費を求めて、製造会社の生産拠点の 海外シフトなども増加。経済のグローバル化、ボーダレス化がさらに進む。ただ、事業会 社間の収益格差、労働者賃金の伸び悩み、労働者間の収入格差などにより、世相的 には生活実感に乏しい好景気となった。経済・事業活動のグローバル化が進んだこと は、同時に米国のサブプライム問題に端を発する世界的な金融危機がストレートに日 本経済にも反映されるに至り、現在の100年に1度という混乱期を迎える。当初、対岸の 火事との楽観的な見方もあったが、景気が輸出型牽引だった日本の景気・経済は、世 界の中でも大きな深手を負うことになる。
4つの期間に見る企業風土
時代ごとの企業風土には、特徴 的な違いが見られる。そして企 業風土の変化は、時代ごとの 環境変化を反映しているように 見える。 企業風土は、時代ごとのビジネス環境を反映する。企業活動自体がビジネスの環境変化を前提 に展開する以上、当然といえば当然である。ただ、ここまで如実に連動する尺度もなかなか見 当たらない。時代ごとの環境変化の中で、必然性を持って企業活動そして企業風土は変化して きた。何故変わったのか、何故変わらざるを得なかったのか。その点に注目することは、現在 から次世代へ向けた企業活動、企業風土のあり方について有用な情報をもたらす。 企業風土の変遷と時代背景 次ページのグラフは、前述の4つの期間において実施された企業風土調査の中から期間ごと に20社程度をサンプリングし、その単純平均を指数化したものである。1つの期間が6年とい う長期間ゆえにやや実施時期が偏ったり、業種や企業規模まで標準化されているとは言い難い が、概ねそれぞれの期間における日本企業の姿を示していると考える。 Period 1 1985年から1991年 この期間、まず目に付くのが全体的な結果 水準の低さである。時はバブル経済。社員の マインドも会社業績も総じて好調な中にあり ながら、何故か社員の企業風土に対する評価 は低い。また、企業風土のパターンを見る と、「業績志向性」「コーポレートアイデン ティティ」の2つがピークを形成している が、「方向の明確性」は低く、比較的良好な がらもW字を形成できていない。 当時は、世界の中で日本の一人勝ち状態。 「もはやアメリカから学ぶことはない」とま で言われた時代であった。毎年のように給与 やボーナスは上昇を続け、多くの人が順調な キャリアアップを信じていた。株価や地価は 右肩上がりで上昇し、財テクに熱中したり、 多額の借金をして住宅購入を急いだ社員も少 なくなかった。 さまざまなギャップも 一方で、バブルの崩壊後の苦悩を見れば明 らかなように、無理な多角化経営や海外投資 が行われたのもこの時代であった。この時期 に投資した多くの事業、不動産が、その後不 良資産になった。財テクで利益をあげること が賢いことと考えられ、「本業は会社に迷惑 をかけない程度にやってくれればいい」とい う経営者まで現れる状態だった。不動産や金 融業が活況に沸く中、メーカーでは苦々しい 思いで世相を見ていた人も少なくなかったの かもしれない。 楽観的なムードに浸りながらも、自社の企 業風土の質について問われれば、社員は案外 と冷静に自社の実力を評価していたようにも 感じる。他の時代と比べると、特に「方向の 明確性」「意思決定」「組織の統合度」とい う、経営力に関する側面が低く評価されてい ることがわかる。まだ業界再編が進む前でも あり、「都市銀行13行」「製薬大手20社」と いった言葉が示すように、比較対象となる競 合企業の数も多かった。就職環境も良く、求 職者は数多くの企業を比較しながら就職先を 決めていた。このため、自社の経営を他社と 比較しながら「うちの会社はビジョンがな い」「他社は色々と打ち手を出してきてい る」などと嘆く人も少なくなかったであろ う。 管理職のマネジメントスキルにもばらつき が見られ、「バカヤロー」と怒鳴り散らしな がら部下を引っ張る上司も少なくなかった。 「新人類」という言葉が流行ったように、こ うした古いスタイルのマネジメントと、新し い家庭教育を受けた若手社員の間のギャップ が表面化し始めたのもこの時期であった。 Period 2 1991年から1997年 この期間の企業風土には、次のような特徴 が見られる。 ・全体的なスコア水準(絶対値)が前の期 間からやや上伸するも依然低い水準 ・前の期間から、「組織統合度」「マネジ メントスタイル」が大きく上伸 ・パターン的に、F1からF3の経営サイド 3ファクターが低く位置し、かつ平坦な 状態 ・「方向の明確性」「組織のバイタリテ ィ」が、前の期間から絶対水準を少し切 り下げた80 100 120
Period 4
Period 3
Period 2
Period 1
F9 䉮䊷䊘䊧䊷䊃 䉝䉟䊂䊮䊁䉞䊁䉞 F8 ੱ᧚㐿⊒ F7 ಣ㩷ㆄ F6 ⚵❱䈱 䊋䉟䉺䊥䊁䉞 F5 ᬺ❣ ᔒะᕈ F4 䊙䊈䉳䊜䊮䊃 䉴䉺䉟䊦 F3 ⚵❱䈱 ⛔วᐲ F2 ᗧᕁቯ F1 ᣇะ䈱 ⏕ᕈ 㧔㨪ᐕ㧕 㧔㨪ᐕ㧕 㧔㨪ᐕ㧕 㧔㨪ᐕ㧕 F1 方向の 明確性 F2 意思 決定 F3 組織の 統合度 F4 マネジメ ントスタ イル F5 業績 志向性 F6 組織の バイタリ ティ F7 処遇 F8 人材 開発 F9 コーポ レート アイデンテ ィティ 全 体 レンジ 14.5 15.1 15.7 11.0 8.1 8.6 5.9 9.2 9.1 10.6 最 大 106.9 106.7 103.7 104.9 108.1 103.5 91.5 97.2 109.7 103.5 最 小 92.4 91.6 88.0 94.0 100.1 94.9 85.6 88.0 100.7 92.9 バブル経済の崩壊は、89年末頃から懸念さ れていた。そして、少なくとも91年には、そ の終焉が一般的な認識となったと考える。し かしその一方で、経営も社員も懸念を抱きつ つも、良い方向へ切り返すのではという淡い 期待を持っていたり、実体経済への影響まで タイムラグがあったりで、変調を感じつつも 深刻な水準までとの認識に至らず、結果、大 きな打ち手を取ることなく、時間の経過に 身を任せたと考える。いわゆる「失われた10 年」の前半は、このようなバブル経済崩壊に 対する認知不足、実感の欠如などから、漠然 とした先行きに対する不安を危惧しながらも 具体的な行動につなぐことなく、余韻を引き ずった時期と言えるだろう。 こうした状況下で、社員は企業をどのよう に見ていたのか、如実に企業風土に現れてい る。まず「方向の明確性」だが、9つのファ クター中で下から3番目と本来の意義に鑑み て非常に低い水準に位置した。漠然とした不4つの期間に見る企業風土 (Cont'd)
安の中で具体的な会社としての方策、方向が 提示されない結果であり、トップマネジメン トの迷いがそのまま社員へ伝播したと言える であろう。 マネジメント面における変化の兆し その一方で、「組織の統合度」「マネジメ ントスタイル」が大きく上伸している。この 2つは現場に近いマネジャーの努力で改善す ることができる。バブルの崩壊に伴い、社員 のモチベーションが下がりがちになるのを、 現場のリーダーが苦心して一体感を高めて いた姿が窺える。マネジャーの世代交代が あり、オイルショック時代に苦労して就職し た世代が現場のリーダーシップを取り始めた 時代でもある。経営の方向性が示されない中 で、比較的若いマネジャーが社員に近い目線 で、現場の士気を高める役割を果たしていた 時代といえる。こうしたミドルマネジメント の踏ん張りもあって、次の時代になると、企 業の構造改革に向けて、経営陣が強いリーダ ーシップを発揮し始める。 Period 3 1997年から2003年 それまでバブル崩壊に伴う負の遺産を引き ずりながらも、神風的な景気回復を期待しな がら、多くの企業は本質的な問題解決を先送 りしてきていた。しかし、97年頃から国内の 金融危機が本格化し、それが企業にバブル期 の多角化経営の清算を迫ることになった。純 粋持株会社制の解禁など、制度的な後押しも あり、日本企業の構造改革が一気に進むこと になる。 企業はリストラによる事業再編を断行し集 中と選択を進めていった。人材マネジメント の面では、多くの企業が従来の年功的処遇を 見直し、成果主義の導入に踏み切った。50 歳以上の社員を対象とした早期退職優遇制度 などを導入した企業も少なくない。過去には タブーと言われた領域に経営主導でメスを入 れていったのである。 こうした背景から、企業風土にはマイナス の影響が及んだのではないかと予見される が、この時期の企業風土は平均的に見ると大 きく改善している。特に、「方向の明確性」 「意思決定」などが大きく向上しており、経 営主導で改革を進めていったことが、前向き に受け止められていたことがわかる。「業績 志向性」や「処遇」に対する社員の捉え方も 改善している。その背景には成果主義の導入 などにより、業績を追求する意識、実力主義 に基づく処遇面の納得感が醸成されていった ことが窺える。また、「組織のバイタリテ ィ」が大きく改善しているが、経営主導の改 革の実行により、それまでの暗鬱たる状況 から抜け出すための動きや変化を社員が見出 し、将来に向けた活力を感じるようになって いったものと思われる。 改革とそれに伴う痛み ただ、一方で「コーポレートアイデンティ ティ」を見ると、水準は横ばいに留まってい る。他のどの期間でも、「コーポレートアイ デンティティ」は9ファクターの中で最上位 にあるが、この期間だけは2、3番手となっ ている。経営主導で企業の改革は進んでいっ たが、それが社員に将来の幸せを約束するも のであるかどうかは、まだ不明なままであっ たのかもしれない。あるいは、改革には社員 の痛みが伴っていたともいえよう。Period 4 2003年から2009年 「 実 感 な き 成 長 」 と 揶 揄 さ れ な が ら も、2003年から日本の戦後最長の景気上昇 期、いざなみ景気が始まる。この期間の企業 風土の特徴は、全体の結果水準が4つの期間 を通じて最上位に位置したこと、「方向の明 確性」「意思決定」「組織の統合度」の経営 3ファクターがさらに大きく上伸したこと、 「コーポレートアイデンティティ」が9ファ クター中で再び最上位となったことなどがあ げられる。 この時期は、前の期間に着手された経営改 革が実を結び、景況感が大きく改善していっ た。これに伴い、企業の将来に対する社員の 信頼感も高まり、それが1985年以降の全期間 を通じて、初めて「コーポレートアイデンテ ィティ」の大幅な上昇につながったといえ る。「コーポレートアイデンティティ」は社 員の帰属意識であり、会社に対する信頼感や 期待感を反映している。このため、これが上 昇したという事実は、経営改革の成果の表れ と言って良いだろう。 また、「方向の明確性」「意思決定」「組 織の統合度」が大幅に上昇しているのも、日 本企業の経営のあり方が、バブル期と比べて 大きく変わったことを意味している。グロー バル競争やイノベーションなどにより、経営 環境はめまぐるしく変わるようになったが、 その中でこうしたファクターが高まっている ことは、前向きに評価されて良いだろう。 高業績下での閉塞感 一方で、「処遇」や「人材開発」は若干改 善は見せているものの、依然として低い水準 にあることがわかる。会社が高業績を続ける 中で、社員の疲弊感や閉塞感が問題になった のもこの時期の特徴である。処遇やキャリア 開発などに対する期待感を持てずにいる社員 の姿が窺える。 今後予想される企業風土の変化 リーマンショック以降の急速な景気の悪化により、現在多くの日本企業が厳しい状況の中に 置かれている。これまでのビジネスのやり方や、経営課題の優先順位を見直すことが求められ ている企業も少なくない。前回金融危機が起こったのが、Period3(97-03年)の期間だが、この 時の企業風土を見ると、「方向の明確性」「意思決定」「組織の統合度」の経営レベルの3フ ァクターと、「コーポレートアイデンティティ」が直近と比べて低い。これをひとつの参考に すると、急激な環境の変化により、経営の方向性を明示したり、的確な意思決定を行うこと、 組織横断的な連携を確保することが難しくなっていくことが想定される。また、そうした状況 が長く続くことにより、社員の帰属意識が弱くなっていく可能性も指摘できる。 このため、いま経営者に求められるのは、不透明な環境の中でも、社員がどうベクトルを合 わせ、環境に対峙していけば良いのかを示すことである。こうした方向性を発信しないと、無 用な憶測、噂が、企業風土を蝕んでいくことになる。これまで時間をかけて耕してきた「成果 を生み出す土壌」を劣化させないための工夫が求められているといえよう。
時代の波に揉まれながら、
多くの企業はマネジメントの改革を断行し、
より望ましい企業風土をつくり上げてきた。
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Period 1 Period 2 Period 3 Period 4 1 F7処遇 F8人材開発 F8人材開発 F1方向の明確性 2 F2意思決定 F3組織の統合度 F1方向の明確性 F2意思決定 3 F8人材開発 F2意思決定 F3組織の統合度 F8人材開発 4 F4マネジメントスタイル F4マネジメントスタイル F7処遇 F3組織の統合度 5 F3組織の統合度 F1方向の明確性 F2意思決定 F4マネジメントスタイル 6 F1方向の明確性 F6組織のバイタリティ F4マネジメントスタイル F6組織のバイタリティ 7 F6組織のバイタリティ F5業績志向性 F6組織のバイタリティ F5業績志向性 8 F5業績志向性 F7処遇 F5業績志向性 F7処遇 企業風土の総合評価的意味 合いを持つコーポレートアイデン ティティ。このコーポレートアイデ ンティティがどのような要因から 影響を受けるのか。相関の高い ファクターに注目。 企業風土調査における「コーポレートアイ デンティティ」は、社員の会社に対する総合 評価であり、また社員の会社へのロイヤリテ ィ、モチベーションの表れともいえる。各期 間ごとに、この「コーポレートアイデンティ ティ」と相関の高いファクターを見ると非常 に興味深い結果が示される。 下の表は、期間ごとに「コーポレートアイ デンティティ」と相関の高い順に他の8ファ クターを並べたものである。ここから次のよ うなポイントが見られる。 ① どの期間においても、「人材開発」と の相関が強い ②「処遇」はPeriod1において、相関が 一番強いが、他の期間では総じて相関 が弱い ③ 時代が進むにつれ、「方向の明確性」 との相関が強まる これ以外のことも見て取れるが、社員にと って「コーポレートアイデンティティ」の源 泉となるファクターと時代背景を良く表して いる。こうした過去の結果は、今後の企業風 土を考える上で、いくつかの大きな示唆を与 えてくれる。 Period1のバブル期は、「処遇」「人材開 発」のように、社員自身が会社から何を得ら れるかが、アイデンティティの源泉になって いたと想定される。また「意思決定」や「マ ネジメントスタイル」が高いのは、自分の仕 事のやりやすさと深く関係しているように思 われる。 次に、バブル崩壊後のPeriod2の期間は、 「処遇」がいきなり最下位に下がり、「人材 開発」が最上位に来ている。ただ、この期間 は総じてどのファクターもアイデンティティ との絶対的な相関は低く、ここから深い意味 合いは見出しにくい。 金融危機からITバブルの崩壊までをカバー するPeriod3になると、「人材開発」や「処 遇」に加えて、「方向の明確性」「組織の統 合度」が上位に上がってくる。これは、経営 環境の変化が激しい中で、経営としての方向 性を示すことが求められたこと、また、組織 横断的な連携による、環境変化への対応が重 要であったことを窺わせる。つまり、報酬や キャリア開発の機会だけでなく、経営レベル の舵取りの巧拙が、社員の帰属意識に大きな 影響を与えるようになったのである。 最後に景気拡大局面のPeriod4では、「方 向の明確性」「意思決定」「組織の統合度」 という経営レベルの全ファクターが、「人材 開発」とともに上位に位置づけられている。
高 ← 相 関
コーポレートアイデンティティと相関の高いファクター社員の帰属意識に影響を与えるファクターは、時代とと
もに変わり行く。それを先取りした企業風土づくりが求
められる。
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【本件に関するお問い合わせ先】 TL(調査診断)ユニット マネジャー 中村 公一 TL コンサルタント 秋草 美奈子 TL コンサルタント 原 美穂 Tel : 03-3406-9061 / Fax : 03-3406-9062 E-mail : [email protected] 金融危機を引き金とした現在の世界同時不況の中で、多くの企業が減った売上に 対応するため、コスト構造の見直しに着手している。未曾有の市況悪化の中で、企 業がキャッシュを確保し、生き残っていくためには、不可欠のアクションといえる だろう。しかし一方で、コストカットのみを目的として人や組織の切り貼りをする と、企業としてどこで価値を生み出していくのか、そのために、役職員はどのよう な価値観を共有すべきか、組織横断的な連携はどうあるべきかといった重要な問い が忘れられてしまい、社員から見て経営の方向性が見えなくなってしまうことも少 なくない。これは、長期間に渡って高めてきた社員の経営に対する信頼感を大きく 悪化させることにもつながりかねない。 企業が長期的に成長を続けていくためには、成果を生み出す土壌である企業風土 を強化していくことが不可欠である。過去24年間に渡って、日本企業の風土は全体 として改善してきた。今、はじめてそれが損なわれるかもしれないチャレンジに直 面しているといえよう。企業風土は、失われるときは1年もあれば十分だが、それ を元に戻すには何年もの月日が必要となる。このため、これから企業の打つ一手一 手の中に、どれだけ企業風土づくりへの配慮を込めることができるかが問われるこ とになる。そして、それが景気回復過程に移った時の加速度を左右することになる だろう。 そのために考えられるアクションは、次の2つにまとめられる。 ①「方向の明確化」「意思決定の質とタイミング」「組織横断的な連携」などの 面における経営の質を維持すること。 これら経営レベルの3ファクターは、今回の経済危機により最も影響を受け 易く、これらを高いレベルで維持できるかどうかで企業間の差が開く。 ② 短期的な視野の中で軽視されがちな「人材開発」に注力すること。 9ページで見たように「人材開発」に対する社員の評価は総じて低いが、一 方で12ページで述べたように「コーポレートアイデンティティ」との相関は 最も高い。「社員から選ばれる企業」となるための鍵はここにある。
Conclusion
日本企業に求められるアクション
企業風土 ・ 企業体質 の 過 去 と 未来 | v ersion 1 | April 2009 | TL Japan 〒107-0062 東京都港区南青山5丁目10番2号第2九曜ビル Tel:03-3406-9061 Fax:03-3406-9061 E-mail [email protected]
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