【原著論文】
スポーツ観戦における感動場面尺度
押見大地
1)原田宗彦
2)Abstract
Japanese special expression “Kandoh” refers to a positive emotional state which is deeply impressed by certain things that move the heart. Kandoh is often well-used, specifically for explaining the impressive experience of watching sports. Harada (2008) pointed out the importance of Kandoh experiences in terms of the management of sports teams. Despite the increased importance, no empirical research on this topic has been conducted in the field of sport management. The purposes of this study are to (1) develop a scale for measuring specific of scenes that capture sports spectators’ emotional Kandoh experiences, (2) investigate gender differences with respect to Kandoh scenes, and examine what impact Kandoh scenes have on spectators’ intentions to attend future games. The results indicate that the construct of Kandoh experience consists of, an eight dimensions, gender differences exist, and some Kandoh scenes have significant effects on customer satisfaction and attendance intentions.
Key words: kandoh scenes, positive affect, gender difference, satisfaction, attendance intentions キーワード:感動場面、快感情、性差、満足、再観戦意図
Heart-Capturing (Kandoh) Scene in Sports
1)早稲田大学大学院スポーツ科学研究科 2)早稲田大学スポーツ科学学術院 連絡先: 押見大地 早稲田大学大学院スポーツ科学研究科 〒 202-0021 東京都西東京市東伏見 2-7-5 早稲田大学体育教室棟 304 号室
Address Corresponding to: Daichi Oshimi,
Graduate School of Sport Science, Waseda University, R2-7-5-304, Higashi-Fushimi, Nishitokyo-City, Tokyo, 202-0021, Japan
緒 言 近年、日本プロサッカーリーグ(以下「J リー グ」と略す)を発端として、日本プロバスケット ボールリーグ(以下「bj リーグ」と略す)や野 球独立リーグ、日本フットサルリーグ(以下「F リーグ」と略す)など本拠地においてフランチャ イズ興行を推進する地域密着型プロスポーツが台 頭してきている。原田(2009)は、「見るスポー ツ」にあたるクラブ経営の指針として、「チーム やクラブの事業化の本質はチケットを買ってくれ るスポーツ消費者としてのファンを作ることであ り,ファンこそが,クラブビジネスが存在する必 要性の担保なのである(p.221)」と述べている。 また松岡(2008)は、スポーツマーケティングに はスポーツ消費者が欠かせず、スポーツ消費者を 知り、様々な消費心理や消費行動の理解が求めら れると指摘している。それゆえ、チームやクラブ 事業の成功という視点に立った際に、スポーツ消 費者であるファンに着目し、その消費心理や消費 行動を解明、理解することはクラブ経営において 重要な課題である。 「見るスポーツ」であるスポーツ観戦の特徴につ いて考えてみると、青山(2000)や Brooks(1994) が、スポーツ観戦を感動や経験を伴うものと述べ ている。原田(2008)は、プロスポーツのクラブ ビジネスにおいて、商品やサービスとしてのゲー ムや試合だけをファンに提供するのではなく、フ ァンの心の中に情緒的内容に富んだ感動や陶酔と いった経験を提供しなくてはならないと指摘する ように、スポーツ観戦を一つの商品として捉えた 場合、スポーツ観戦は感動や興奮といった感情が 伴う経験商品と考えられる。しかしながら、現在 のスポーツマーケティング分野において、感情に 着目して行われている研究は少なく、特に「感動」 という感情の一要素に特化した研究はほとんど行 われていないのが現状である。 感情について行われた過去のスポーツ消費者行 動研究を見てみると、観戦前もしくは観戦後にお ける観戦者の気分(mood)に着目した Sloan(1989) と Wann et al.(1994)の研究、観戦中に経験した 観戦者の感情に着目した Madrigal(1995)の研究 などがある。Madrigal(1995)は、観戦中に生じ た感情が満足や再観戦意図にどのような影響を与 えるかを検討しており、スポーツマネジメント関 連の研究においては、感情をマーケティングに応 用した最初の試みである。近年になり、これを発 展させた研究として、隅野・原田(2005)は、プ ロサッカー観戦者が試合中に感じた感情が満足及 び再観戦意図に与える影響を検証している。そ の他にも、Kao et al.(2007)が、バスケットボー ル観戦者が観戦中に生じる感情や、試合に対する 関与度が満足や再観戦意図、口コミ意図に与える 影響を、そして Kuenzel and Yassim(2007)がク リケット観戦者において楽しみ(joy)という感 情が満足及び再観戦意図に与える影響を検証する 一方、齋藤ほか(2008)は、サッカー観戦者がサ ッカー観戦中に生じる感情をインタビュー調査を 通して分析を行っている。また、産業総合研究所 と日本ハムファイターズの共同研究において染谷 (2008)が、プロ野球観戦者を対象として、観戦 者が試合観戦中のどのような場面に興奮を覚え、 リピートファンになっていくのかを、インタビュ ーを通した質的調査、心拍数計測器を用いた生理 指標調査、ビデオカメラ及び視点カメラを用いた 観察調査の 3 つの指標から検討するなど、スポ ーツファンの感情に着目した研究は少しずつ数を 増やしている。 上記の先行研究において、楽しみや興奮といっ た感情が挙げられているが、マーケティング科学 において、これらは異なる役割を持つとされてい る(Bagozzi et al., 1999; Dawson et al., 1990; Oliver et al., 1997; Richins, 1997)。濱(2005)によると、 感情の分類や次元の違いに関しては、心理学にお いて研究者間で異なっているが、心理的な反応と して快/不快、覚醒/睡眠の2つの軸が多くの研 究者で同意が得られているとしており、Bagozzi et al.(1999)は、ポジティブ/ネガティブ、強い /弱いなど心理的反応を大きく 4 つに分けてい る。楽しみや興奮を Bagozzi et al.(1999)の分類 に当てはめてみると、楽しみはポジティブである
が、弱い感情反応とされている一方、興奮はポジ ティブで強い感情反応とされる。このように、ス ポーツ観戦で得られる感情においても、その種類 によって感情反応は異なり、これらの違いを認識 することは重要であるとされている。 このようにスポーツ観戦者を対象とした、感情 に関する研究は散見されるが、その蓄積は十分で はない。「感情についての研究を実際のマーケテ ィングに応用するためには,それぞれの感情の発 生状況や対象などについてのより具体的で詳細 な探求が必要である」(隅野・原田,2005,p.35) といった指摘があるように、どのような刺激や出 来事が、ファンに特定の感情を生じさせているの かといった具体的な場面の分析はほとんど行われ ていない。 そこで、本研究では、スポーツ観戦者を対象と して、スポーツ観戦における感動場面に着目し、 ①スポーツ観戦における感動場面尺度の開発、② 感動場面尺度の妥当性の検証及び性差の検証、そ して③感動場面が満足及び再観戦意図に及ぼす影 響の検証を行うことを目的とした。なお、本研究 は具体的な感動場面に着目するが、感動場面を全 般的に「感動を表現するものとして、相応しいあ る一情景」と定義する。 先行研究 1.感動の研究について 戸梶(2001)は、感動をその人にとって強い共 感を呼ぶ場面、または、画期的で稀な場面におい て生起し、心の奥底に響く非常に強烈な情動であ り、種々の感情価を持ち、内容に志向性を反映し た性差が存在する。特にその状況に至るまでの過 程に対する熟知度や経験の有無によって程度が異 なると指摘している。濱(2005)によると、情動 とは感情の一部である、としており、心理学の分 野では情動は感情の一部として分類されている。 つまり、感動は感情であり、かつ戸梶(2001)の 指摘によると、複数の感情を伴った感情価である、 とすることが出来る。感情価とは、ある対象とな るものが持つ感情的性格の質と量を表わすもので ある(Hevner, 1936)。 感動の特性は、多くの感情を伴うものであり、 欧米においては類似の表現はあるものの、名詞や 動詞としては存在しない日本特有の言葉(戸梶, 2001)とされており、心理学の分野においてもあ まり取り上げられてこなかった。その理由として、 欧米での同類の研究がなかったことに加え、喜び や愛などの肯定的感情が関与している心理学的 現象の解明は近年進みつつあるが未解明な点も多 く、感情を個別に測定する尺度は、その切迫性・ 緊急性から、否定的感情を測定するものが多いか らであるという指摘もある(今田,2002)。
しかし、Oliver et al.(1997)や Rust and Oliver (2000)は歓喜の感情(customer delight)を提唱 しており、感動に類似した感情として注目に値 する。歓喜(delight)とは、顧客満足(customer satisfaction)とは別の次元で顧客ロイヤルティに 影響を及ぼす概念とされており、消費者の期待を 遥かに上回る結果が得られたときに発生する驚き の感情を伴うポジティブで非常に強い心理的反応 と定義される(Rust and Oliver, 2000)。歓喜に至 る要因は、快楽的ニーズ(hedonic needs)を満た すか超えることとされており、快楽的ニーズは美 的、経験的かつ楽しみに関連したニーズとされて いる(Chitturi et al., 2008)。興奮や経験を伴うス ポーツ観戦は、快楽的ニーズを満たす可能性を秘 めている。 2.感動を扱った感情研究の問題点について 戸梶(2001)は、感動を感情研究における感情 の類型に当てはめてみると、いずれの類型にも 含まれる要素があり特殊なものであると指摘し ているが、これまで感動に関して行われてきた研 究をみると、感動を複数の感情と同一のカテゴリ ーに分類している研究が見られる。例えば、楽し い、嬉しい、といった感情の中に感動を含めて、 ポジティブな感情という1つのカテゴリーにまと めるケースである。しかし、個々の感情はそれ ぞれ異なった性質を持つため、それらは別々に扱 って研究を行う必要があるという Soderlund and Rosengren(2004)や戸梶(2001)の指摘に従えば、
感情研究において、個々の感情は別々に扱って研 究を行う必要があり、感情研究の一部として行わ れてきた感動に関する研究方法は、適切ではない 可能性がある。そこで本研究では、主に感動とい う感情に着目して研究を行った。 3.感動場面の分類について これまで、人がどのような場面で感動するのか ということに着目した研究では、深い情緒的交流 場面、過去の苦労が偲ばれる事柄、努力の結実、 劇的シーン、社会的または身体的弱者の一生縣命 で健気な姿、初めての経験、長年の願望の実現 等、の 7 つの主要場面が抽出されている(戸梶, 2001,p.361)。しかし、この研究は自由記述方式 からの集計で分類を行う定性的調査のみで行われ ており、定量的な調査は行われていない。また、 テレビや映画、実体験での感動体験をもとに研究 されているが、主としてテレビや映画を通じた分 析が行われており、スポーツ観戦場面に着目した 分析は行われていない。さらに、調査対象者が大 学生のみであり、限られたサンプルを対象とする など、感動に関する研究は、その方法論や内容な ど十分な研究の蓄積がない。そこで本研究におい ては、感動研究に関して、これまで行われてきた 定性的手法に加え、定量的方法を用いることとす る。 4.感動場面の性差の検証と感動場面が満足及び 再観戦行動に及ぼすに影響について 戸梶(1998)は、感動には性差が存在すると指 摘したが、もしこれが正しければ、感動場面に おいても性差が存在すると考えられる。実際、ス ポーツ観戦者を対象とした調査でも、性別に着 目した研究は過去に行われており、女子大学生の スポーツ観戦行動と観戦行動意図に影響を与える 要因に関する研究(原田ほか,1992;藤本ほか, 1992)や、J リーグの女性観戦者及び女子バスケ ットボールリーグの観戦者を対象とした研究(仲 澤ほか,2000;小野里,2003)がある。 感動が満足及び再観戦意図に及ぼす影響に関 しては、ポジティブな感情を経験したファンほ ど満足が高いことが報告されている(Madrigal, 1995;隅野・原田,2005;Soderlund and Rosensen, 2004)。また戸梶(1999)は、感動には大きく分 けて喜び、悲しみ、驚き、尊敬の感情が伴うもの が含まれるが、その中でも喜びを伴った感動が一 番多いとしており、感動場面が満足に影響を与 える可能性が示唆される。Westbrook(1987)は、 購買後や消費後の情動的反応は、再購買行動の説 明と予測に大きく貢献すると述べる一方、隅野・ 原田(2005)は、再観戦意図にプラスの影響を与 える感情の一つとして誇りという概念を挙げてい る。これらの先行研究から、以下の 2 つの仮説 を設定した。 H1:感動場面は顧客満足にポジティブな影響 を及ぼす。 H2:感動場面は再観戦意図にポジティブな影 響を及ぼす。 研究方法 1.本研究のフレームワーク 本研究では、研究 1 として質問項目の作成と 確認的因子分析を行い、研究 2 として確認的因 子分析と性差の検討、研究 3 として測定方程式 及び重回帰分析を使った予測的妥当性の検討を行 った。 2.研究 1:質問項目の作成と確認的因子分析 1)調査概要 ①感動場面の収集 本研究では、フィールド調査及び戸梶(2001) の先行研究を参考とした項目をもとに、測定尺 度項目の作成を行い、計 3 回の予備調査を通し て自由記述を収集して、2 人の評価者間で重要項 目を抽出した。1 回目の予備調査では、大学にお ける項目収集を行った。調査対象はスポーツマネ ジメント系の授業を受講している大学生で、合計 120 部の有効回答数のうち男性 75 名、女性 45 名で平均年齢は 21.5 歳で、回収率は 100%であ った。調査日は 2009 年 4 月 22 日(水)で、教 場でのアンケート調査を行った。授業の最後に調
査用紙を配布し、記入してもらった後にその場で 回収した。質問項目は、「あなたがスポーツ観戦 において感動したことを思い浮かべてみてくださ い」という教示文を提示した後、「あなたはこれ までどのような場面で感動しましたか?」とした。 回答者には、これまでのスポーツ観戦における感 動場面を自由記述方式にて記入してもらった。ま た、質問紙には大辞泉に記載されていた感動の定 義として、「ある物事に深い感銘または、強い共 感を受けて強く心を動かされること」を記載し、 回答者が感動という感情を正確に答えられるよう に配慮を行った。また、調査実施に当たっては、 記入のために 15 分程度の時間を与えた。以上の 手順で得られた 120 部の有効回答数から、125 場面の自由記述回答を得た。 続いて、2 回目の予備調査として bj リーグ試 合会場における項目収集を行った。対象は bj リ ーグプレイオフ観戦者とした。合計 299 部の有 効回答数のうち男性 163 名、女性 136 名で平均 年齢は 36.0 歳であった。調査日は 2009 年 5 月 17 日(日)で、調査員による訪問留め置き法に よる質問紙調査法で実施をした。アリーナの開門 から試合開始約 15 分前までの約 1 時間 30 分の 間に、会場に着席している観戦者に対し質問紙が 配布、回収した。調査員はそれぞれ担当するブロ ックで、観戦者の年齢層と男女比を確認し、ブロ ック全体を反映するようにサンプルを抽出した。 また、調査員には、観戦者の来場時間によってサ ンプルに偏りが生じないように、観戦者のアリー ナへの入りを見てサンプル抽出のペース配分を考 慮させた。質問項目等は、1 回目の予備調査と同 様である。以上の手順で得られた 299 部の有効 回答数から、321 場面の自由記述回答を得た。 3 回目の予備調査として、J リーグ試合会場に おける項目収集を行った。調査対象は、J リーグ 栃木 SC 観戦者とした。計 289 部を有効回答数と し、男性 190 名、女性 99 名で、平均年齢 37.1 歳であった。調査日は、2009 年 7 月 25 日(土) で調査員による訪問留め置き法による質問紙調査 法で実施した。調査方法は bj リーグ会場での調 査と同様であるが、今回の予備調査はこれまでの 調査と違い、スポーツ観戦における感動場面では なく、J リーグ観戦における感動場面を記載して もらった。以上の手順で得られた 289 部の有効 回答数から、296 の自由記述回答を得た。 ②項目精査:測定尺度項目の作成 これまで行った合計 3 回の予備調査で、合計 742 の感動場面を収集した。これらの項目を、 戸梶(1999)の先行研究及び早稲田大学スポーツ ビジネス・マネジメント研究室(2008)が報告し た、『J リーグファンの経験価値マネジメント報 告書』を参考にしながら、研究テーマが近いスポ ーツマネジメント専攻の博士課程在籍の大学院生 1 名と、重複する項目の削除、精査を行った。結 果、計 42 項目に削減され、42 項目の測定尺度 項目を作成した。また、各項目を戸梶(1999)の 先行研究を参考とし、戸梶の分類に合致するもの と合致しないものに分けた。合致しなかったも のに関しては新たなカテゴリーを設定し、結果 8 つのカテゴリーへの分類を行った。項目の削除及 び分類にあたっては、2 者間で同意が得られた上 で行った。分類後の各カテゴリーに関する内容的 妥当性をスポーツマネジメントの専門家 1 名に 専門家評価を依頼した。内容は、分類した各カテ ゴリーがスポーツ観戦における感動場面を正確に 反映しているかどうかの評価である。結果、各カ テゴリーの分類は問題ないと判断され、それらの 項目を村上(2008)の質問文作成の手順を参考に しながら、計 42 項目の質問文の形に校正を行っ た。質問文作成にあたっては、項目はわかりやす く明瞭に書く、項目は特殊な行動習慣を書き、一 般的な内容を避ける、あまり深く考えさせない項 目にする、といったことに留意して行った。 ③因子の命名 3 回の予備調査を経て、8 つのカテゴリーへの 分類を行ったそれぞれのカテゴリーに対して、命 名を行った。まず初めに、第 1 カテゴリーは計 8 項目であり、観客が熱狂的に応援しているのを見 た、自分が観客と一体となって応援しているとき、 等がキーワードとなっていることから、「共鳴・ 一体感場面」とした。第 2 カテゴリーは計 4 項 目で、好きな選手を生で観たとき、有名な選手を
生で観たとき、等がキーワードとなっており、ス タジアムで自分の思い入れのある選手やチームに 会う事を表していることから、「スタジアムライ ブ観戦場面」とした。第 3 カテゴリーは計 5 項 目で、終了間際の逆転シーン、劇的な逆転勝ち、 等がキーワードとなっていることから、「ドラマ 的展開場面」と名付けた。第 4 カテゴリーは 3 項目で、素晴らしいプレー、素晴らしいゴールシ ーン、がキーワードとなっていることから、「卓 越したプレー場面」とした。 第 5 カテゴリーは計 5 項目で、控え選手の活 躍、努力した人の活躍、がキーワードとなってい ることから、「劣勢からの活躍場面」とした。第 6 カテゴリーは計 3 項目で、最後まで必死に頑張 っている姿、がキーワードなため、「懸命な姿場面」 とした。第 7 カテゴリーは計 6 項目で、負けた 選手が気丈に振る舞う、勝った選手が泣いている などがキーワードとなっており、人間らしさとい ったことを感じ取ることができるため、「ヒュー マニティ場面」と名付けた。第 8 カテゴリーは 計 6 項目で、会場施設の美しさ、スタッフの素 晴らしい対応、がキーワードとなっており、「付 加的要素場面」と名付けた。それぞれの因子の定 義を表 1 に示す。 ④データ収集 3 回の調査を通して、8 カテゴリー 42 項目の 測定尺度項目を作成した。作成された測定尺度項 目の妥当性及び信頼性の検討を行うための調査を 実施した。調査対象は、J リーグ FC 東京観戦者 とし、調査対象試合は、J リーグディビジョン 1 のリーグ戦で、2009 年 10 月 17 日(土)の第 29 節 FC 東京 vs. 柏レイソルの試合であった。調 査場所は、味の素スタジアム、対象試合の観客数 は 28,235 人であった。調査方法は予備調査と同 様で、質問項目は、「あなたが J リーグ観戦にお いて感動したことを思い浮かべてみてください」 という教示文を提示した後、「あなたはこれまで どのような場面で感動しましたか?」とした。回 答者には、これまでの J リーグ観戦における感動 場面を「全く当てはまらない」から「大いに当て はまる」の 7 段階尺度で回答してもらった。結果、 371 部の有効回答数で、男性 242 名、女性 129 名、 平均年齢は、38.7 歳であった。この 371 部を分 析の対象として、測定尺度の妥当性及び信頼性の 検討を行った。 ⑤測定尺度の分析結果 各項目の弁別力のある項目の決定を行うため に、Item-Total(項目−全体)相関分析を行った。 相関分析においては、それぞれが属するカテゴリ ーの合成変数との相関よりも、他のカテゴリーの 合成変数との間に高い相関がみられた項目を削除 の対象とした(松岡・松永,2002)。結果、本分 析では削除の対象となる項目はなかったため、合 計 42 項目でその後の分析を進めた。続いて、測 定尺度カテゴリーの構成概念妥当性を検証する ために尺度の収束的妥当性及び弁別的妥当性を 検証した。収束的妥当性は、確認的因子分析及 び平均分散抽出(Average Variance Extracted:以 下「AVE」と略す)を算出することで検証し、弁 別的妥当性を検証するために、因子間相関の平方 表 1.各因子の定義 因子名 定義 共鳴・一体感場面 他の観客の熱狂的な応援を見たり、自分が一緒になって応援することで、 他の観客に共鳴したり一体感を感じること スタジアムライブ観戦場面観戦 自分が好きな選手や有名な選手を、スタジアムで生観戦すること ドラマ的展開場面 自分が応援しているチームが、劇的な展開により勝利すること 卓越したプレー場面 選手の個人技術やチーム連携がとても優れていること 劣勢からの活躍場面 選手が何らかの劣勢の立場から、それを乗り越えて活躍すること 懸命な姿場面 選手やチームが試合終了まで必死に頑張ること ヒューマニティ場面 選手が人間としての豊かな情緒を感じさせること 付加的要素場面 美しく壮大なスタジアムを見たり、優れたスタッフサービスを受けること
準値≧ .900)及び RMSEA(基準値≦ .080)は 基準値(Hair et al., 2005)を満たしており、許容 値を満たしたことから、確認的因子モデルの妥当 性が示唆された。 続いて、収束的妥当性を支持する AVE を算出 した。その結果、各因子の AVE が .51 から .67 の値を示し、基準値とされる .50 以上(Fornell and Larcher, 1981)の値だったことから、尺度の 収束的妥当性はより強く支持されることとなった (表 2)。次に尺度の弁別的妥当性の検証を行った (表 3)。弁別的妥当性とは、因子間の相関係数 の平方と AVE を比較検討することで検証される (Fornell and Larcker, 1981)。
結果、卓越したプレー場面と懸命な姿場面間、 劣勢からの活躍場面と懸命な姿間で弁別的妥当性 は見られなかったものの、その他 5 因子の AVE が他の因子との相関係数の平方よりも高い値を示 したことから、それらの弁別的妥当性を示すこと が出来た(表 3)。尺度の信頼性を検討するため、 カテゴリー毎に Cronbach の α 係数を算出し(表 2)、共鳴・一体感場面が .89、スタジアムライ ブ観戦場面が .85、ドラマ的展開場面が .82、卓 越したプレー場面が .75、劣勢からの活躍場面が 共鳴・一体感場面 卓越したプレー場面 ドラマ的展開場面 スタジアムライブ観戦場面 劣勢からの活躍場面 付加的要素場面 懸命な姿場面 共鳴① 共鳴② 共鳴③ 共鳴④ スタジ① スタジ③ スタジ② ドラマ① ドラマ② プレー① プレー② 懸命① 懸命② 懸命③ 付加② 劣性③ 劣性② .64 .74 .88 .53 .55 .82 .84 .78 .86 .67 .59 .77 .78 .80 .85 .79 .85 .73 .76 .87 .79 .74 共鳴⑤ ドラマ③ プレー③ ヒュー③ ヒュー④ 付加① 付加③ ヒューマニティ場面 .75 .70 .82 .79 .83 .86 .77 .73 .79 .90 .53 .64 .59 .69 .55 .64 .52 .62 .37 .51 .48 .47 .69 .39 .47 .72 .62 .45 .62 .62 .73 .31 .60 劣性① ヒュー① ヒュー② 付加④ .77 図1 感動場面尺度の確認的因子分析モデル 図1 感動場面尺度の確認的因子分析モデル と AVE を比較検討する事で検討した。分析には、 それぞれ SPSS 社の統計解析ソフト(SPSS 11.0 for Windows 及び Amos 5.0)を用いた。確認的因 子分析の結果、全てのパスが有意であることが確 認された(図 1)。 また、収束的妥当性を支持するために、Fornell and Larcker(1981)に従って、パス係数が .707 に満たない 14 項目を恣意的に削除し、モデルの 修正を行った。項目の削除に当たっては構成概 念との関係性を十分に考慮し、削除することで各 構成概念の意味を損なうことがないように配慮 した。よって、本研究で基準とした .707 に満た ずに削除した項目の影響で、各構成概念を定義通 りに測定出来なくなることは無いと判断した。一 方、残り 28 項目のうち、3 項目は基準値に満た ないパス係数を示したが、これら 3 項目は各構 成概念を測定する上で重要であると判断し、以降 の分析にも用い、最終的に 28 項目で分析を行っ た。確認的因子分析におけるモデルの適合度は、 χ2/df=2.579、GFI=.869、AGFI=.835、CFI=.923、
RMSEA=.065 であった。GFI 及び AGFI(基準値 ≧ .900)は基準値(Hair et al., 2005)に満たなか ったが、χ2/df(2.00 ≦基準値≦ 3.00)、CFI(基
表 2.測定項目 感動場面項目 平均値 標準偏差 α 係数 AVE 共鳴・一体感場面 .89 .61 観客が熱狂的に応援しているのを見たとき 5.44 1.26 観客が懸命に応援しているのを見たとき 5.94 1.23 自分が会場全体と一体になって応援するとき 5.28 1.26 得点の際に自分も一緒に大声援に加わったとき 5.58 1.27 自分が他の観客と一体になって応援しているとき 5.53 1.25 スタジアムライブ観戦場面 .85 .66 有名な選手を生で見たとき 5.10 1.48 有名なチームを生で見たとき 4.91 1.49 好きな選手を生で見たとき 5.66 1.21 ドラマ的展開場面 .82 .64 応援しているチームが劇的な逆転勝ちをしたとき 6.71 0.70 応援しているチームが終了間際に逆転したとき 6.80 0.64 応援しているチームが優勝したとき 6.46 0.79 卓越したプレー場面 .75 .51 卓越した個人プレーを見たとき 6.11 0.97 素晴らしい連携プレーを見たとき 6.31 0.84 素晴らしいゴールシーンを見たとき 6.39 0.83 劣勢からの活躍場面 .85 .66 控え選手が活躍しているとき 5.49 1.18 努力した人が活躍しているとき 5.92 1.03 苦難を乗り越えた選手が活躍しているとき 6.20 1.00 懸命な姿場面 .83 .63 最後まで必死に戦い抜く選手の姿を見たとき 6.26 1.05 応援しているチームが最後まで必死に頑張っているとき 6.11 1.11 応援している選手が最後まで必死に頑張っているとき 6.13 0.95 ヒューマニティ場面 .89 .67 選手の何らかの物語(ストーリー)を共有できたとき 4.42 1.57 インタビュー場面で選手が泣いているとき 4.88 1.43 負けた選手が気丈に振る舞っているとき 4.91 1.43 勝った選手が泣いているとき 4.55 1.42 付加的要素場面 .85 .60 会場施設がとても美しかったとき 5.32 1.21 芝生の美しさに驚いたとき 4.95 1.27 スタジアムの大きさに驚いたとき 4.54 1.38 スタッフの対応が素晴らしかったとき 5.31 1.13 表 3.因子間相関係数の平方と AVE 共鳴 スタジアム ドラマ プレー 劣勢 懸命 ヒュー 付加 共鳴・一体感場面 .61a スタジアムライブ観戦場面 .34 .66b ドラマ的展開場面 .22 .13 .64c 卓越したプレー 場面 .26 .41 .55 .51d 劣勢からの活躍場面 .48 .27 .31 .51 .66e 懸命な姿場面 .41 .23 .36 .53 .78 .63f ヒューマニティ場面 .39 .22 .09 .15 .39 .29 .67g 付加的要素場面 .41 .47 .20 .38 .39 .28 .30 .60h
a. 共鳴・一体感場面の AVE,b. スタジアムライブ観戦場面の AVE,c. ドラマ的展開場面の AVE,d. 卓越したプレー場面の AVE,e. 劣勢からの活 躍場面の AVE,f. 懸命な姿場面の AVE,g. ヒューマニティ場面の AVE,h. 付加的要素場面の AVE
.85、懸命な姿場面が .83、ヒューマニティ場面 が .89、付加的要素場面が .85 であった。これら の結果から、尺度の信頼性に関して基準値とされ る .70 以上(小塩,2004)を得たことから、質問 項目の一貫性が示唆された。以上の結果から、本 研究で作成された感動場面尺度は、次の分析に進 むための妥当性及び信頼性は許容値を満たすと判 断したが、弁別的妥当性に課題を残し今後更なる 尺度の精選をしていく必要があるものと考えられ る。 3.研究 2:確認的因子分析と性差の検討 1)調査概要 調査対象は、J リーグナビスコカップ決勝観戦 者とした。調査対象試合は、2009J リーグヤマ ザキナビスコカップの決勝戦で、2009 年 11 月 3 日(祝)の FC 東京 vs. 川崎フロンターレの試 合とした。調査場所は、国立競技場、対象試合の 観客数は 44,308 人であった。調査方法は研究 1 の調査と同様に、質問紙によるアンケート調査を 行い、感動場面尺度を「全く当てはまらない」か ら「大いに当てはまる」の 7 段階尺度で回答し てもらった。サンプルの属性は表 4 にまとめた。 結果、662 部の有効回答数を得ることが出来た。 研究 1 で作成した感動場面尺度の妥当性及び 信頼性を検証したところ、確認的因子分析にお けるモデルの適合度は、χ2/df=4.434、GFI=.867、 AGFI=.831、CFI=.901、RMSEA=.072 で あ っ た。 GFI 及び AGFI(基準値≧ .900)、χ2/df(2.00 ≦ 表 4.サンプルの属性 性別 年齢 観戦回数 男性 65.9 18 歳以下 8.0 東京ファン(ホーム) 女性 34.1 19-22 歳 7.4 0 24.6 100% (n = 662) 23-29 歳 16.0 1-5 23.8 30-39 歳 36.0 6-10 14.5 40-49 歳 21.8 11-15 37.0 50 歳以上 10.8 100% (n = 362) 100% (n = 662) 川崎ファン(ホーム) 0 34.5 1-5 27.7 6-10 12.8 11-15 25.0 100% (n = 300) 基準値≦ 3.00)は基準値に満たなかったものの、 CFI( 基 準 値 ≧ .900) 及 び RMSEA( 基 準 値 ≦ .080)は基準値を満たしており、測定尺度開発 の際の適合度とほぼ同水準の妥当性を得ることが 出来たと判断した。信頼性の検討は Cronbach の α 係数を算出し、.67 から .90 の値を示した。「ド ラマ的展開」のみ .67 と基準値(基準値≧ .70) を下回ったが、小塩(2004)が指摘した、再考を 必要とする基準値(基準値≧ .50)は上回ってい ることから、以降の分析に用いても問題ないと判 断し、その後の分析を行った。 感動場面の性差を検証するために、8 因子に対 し多変量分散分析(MANOVA)を行った。結果、 8 因子に関する MANOVA の全体的な帰無仮説は 棄却された(Wilks’s λ=.881、 F(8, 653)=11.050、p < .001)。続いて、測定尺度の構成概念スコアを 用いた t 検定を行った。構成概念スコアは、回答 者の実測値から各質問項目の平均を引いた値を 求め(平均偏差データ)、構成概念ごとに平均偏 差データに因子得点ウェイトを掛けて合計する。 これは、確認的因子分析で仮定した構成概念に ついて、各回答者が個別に持っている値を意味 し、因子分析における因子得点と同じ意味を持 つ(豊田,2007)。構成概念スコアは各構成概念 に対する重みづけが考慮されて算出された値で、 各回答者が持つ回答の強さを表す。よって、実 測値に比べより正確な値を表わしていると考え られるため、本研究では構成概念スコアの平均 値を用いて t 検定を行った。スタジアムライブ観
戦場面(t(660)=6.00、p<.001)、卓越したプレー 場面(t(660)=3.08、p<.05)、劣勢からの活躍場面 (t(660)=6.67、p<.001)、懸命な姿場面(t(660)=4.67、 p<.001)、 ヒ ュ ー マ ニ テ ィ 場 面(t(660)=6.50、 p<.001)において有意差がみられ、すべての因子 において女性の平均値が高い値となった(表 5)。 4.研究 3:予測的妥当性の検討 1)調査概要 調査は、質問紙郵送調査法で実施された。スタ ジアムの開門から試合開始約 15 分前までの約 2 時間 30 分の間に、会場に着席しているナビスコ カップ観戦者に対し 2,000 部の質問紙を配布し た。質問紙は、試合観戦後に自宅等のスタジアム 以外の場所で回答してもらうようにした。この手 順で行った研究 2 の質問紙は、これまで行って きた調査と異なり、今回観戦したゲームに限って の感動場面、満足及び再観戦意図を評価してもら った。質問紙の回収は、質問紙と共に配布された 返信用封筒を用いて、1 週間以内に投函するよう に依頼した。調査員はそれぞれ担当するブロック で、観戦者の年齢層と男女比を確認し、ブロック 全体を反映するようにサンプルを抽出した。また、 調査員には、観戦者の来場時間によってサンプル に偏りが生じないように、観戦者のスタジアムへ の入りを見てサンプル抽出のペース配分を考慮さ せた。 なお、調査対象となった試合の結果は、FC 東 京 vs. 川崎フロンターレが 2 対 0 で FC 東京が勝 利し、FC 東京の優勝となった。また、本試合を 対象とした理由は、感動という極めて強い情動を 対象とした調査をするにあたって、決勝戦という 人々の関心が高まりやすい試合を対象とすること で、感動場面が生まれやすいであろうと判断した ためである。 ①測定項目 感動場面の測定には、感動場面尺度を用いた。 質問項目は、「あなたが本日のヤマザキナビスコ カップ決勝の観戦において感動したことを思い 浮かべてみてください」という教示文を提示し た後、「あなたは本日の試合でどのような場面で 感動しましたか?」とした。当日の試合観戦を 選択したことに対する満足を測定するために、 Madrigal(1995)の用いた測定尺度を用いた。こ の Madrigal(1995)の測定尺度は Oliver(1980) の測定尺度から作成されたものであり、隅野 (2005)が試合中に生じる感情が満足などに与え る影響を検証した際にも使用した尺度である。 「1.今節の試合を観戦しようと決めたことに満 足している」、「2.今節の試合を観戦しようと決 めたことは、正しかった」「3.今節の試合を観 戦したが面白くなかった」の 3 項目に対して「1. まったくそう思わない」から「7.非常にそう思う」 までの 7 段階評定尺度で回答してもらった。本 尺度の信頼性係数は .71 で、AVE は .55 であった。 再観戦意図の測定には、Ajzen and Driver(1992) の用いた測定尺度を参考に作成したものを用い た。「今後もサッカーの試合を観戦したい」に対 して、「1.まったくそう思わない」から「7.非 常にそう思う」までの 7 段階評定尺度で回答し 表 5.t 検定による男女差 男性 女性 平均 SD 平均 SD t 値 共鳴・一体感場面 -0.04 0.86 0.09 0.79 1.90 スタジアムライブ観戦場面 -0.14 0.99 0.28 0.79 6.00*** ドラマ的展開場面 -0.03 0.36 0.05 0.31 2.87 卓越したプレー場面 -0.03 0.32 0.05 0.29 3.08* 劣勢からの活躍場面 -0.08 0.48 0.16 0.40 6.67*** 懸命な姿場面 -0.07 0.53 0.13 0.46 4.67*** ヒューマニティ場面 -0.16 0.89 0.30 0.80 6.50*** 付加的要素場面 -0.04 0.71 0.09 0.62 2.33 * p < .05 *** p < .001
表 6.2 チームにおける適合度指標
χ2/df GFI AGFI CFI RMSEA
FC 東京 2.115 .880 .836 .946 .073 川崎フロンターレ 2.535 .818 .751 .881 .099 てもらった。 前述した方法に沿って質問紙を配布した。468 部(回収率 23.4%)のうち 369 部(有効回答率 18.5%)の有効回答を得ることが出来た。369 部の有効回答のうち、211 部(57.2%)は FC 東 京サポーターの回答で、158 部(42.8%)が川 崎フロンターレサポーターの回答であった。これ らを対象として、その後の分析を行った。 ②尺度の修正及び母集団の検討 分析に先立ち感動場面尺度の修正を行った。感 動場面尺度を構成する因子のうち、ドラマ的展開 場面、劣勢からの活躍場面、ヒューマニティ場面 因子を、今回の分析からは削除した。なぜなら、 先述した通り、当日の試合は、FC 東京が川崎フ ロンターレを 2 対 0 で破る展開で、逆転シーン や終了間際の得点はなく、控え選手の活躍や感動 的なインタビュー場面及び選手が泣いている姿な どは見受けられなかった事や、これらの因子に関 する回答欄での未回答が多くみられたためであ る。本調査の分析ではこれら 3 つの因子は該当 しないと判断し、その後の分析を行った。また、 目的③検証するにあたって、尺度モデルにおける 母集団の検討を行った。なぜなら、観戦者の気分 の変化は応援しているチームや選手の勝敗に影響 を受ける、という Sloan(1989)の指摘や試合内 容の素晴らしさは、再観戦意図に影響を与える要 因の一つ(Matsuoka et al., 2003)との指摘にもあ るように、研究 2 は当日の観戦経験をもとに調 査用紙に回答しているため、その日の試合の結果 や内容、ファンの属性などが回答結果に大きく影 響を及ぼすと考えられるからである。よって、今 回は感動場面や満足、再観戦意図に大きく影響を 与えるであろう、応援チーム毎に分けて分析を試 みた。 ③分析結果 両チームにおける確認的因子分析の結果、FC 東京における仮説モデルの適合度を見てみると、 χ2/df=2.115,GFI=.880,AGFI=.836,CFI=.946,
RMSE=.073 であった(表 6)。GFI 及び AGFI(基 準値≧ .900)は基準値を満たさなかったもの の、χ2/df(2.00 ≦基準値≦ 3.00)、CFI(基準値 ≧ .900)、RMSEA( 基 準 値 ≦ .080) の 適 合 度 指標において基準値を満たした。川崎フロンタ ーレにおける適合度を見てみると、χ2/df=2.535, GFI=.818,AGFI=.751,CFI=.881,RMSEA=.099 であった(表 6)。χ2/df(2.00 ≦基準値≦ 3.00)
を除き、GFI 及び AGFI(基準値≧ .900)、CFI(基 準値≧ .900)、RMSEA(基準値≦ .080)全ての 適合度指標で基準値を満たしておらず、当てはま りは悪い結果となった。両チームにおける信頼性 の検討、各因子の測定結果(表 7)及び各因子間 の相関を示す(表 8、9)。 両チームにおける各感動場面が満足及び再観戦 意図に及ぼす予測的妥当性を検討するために、強 制投入法による重回帰分析を行った(表 10) 分析の結果、満足を従属変数とした場合、FC 東京において、共鳴・一体感場面(.197)及び 懸命な姿場面(.253)がポジティブな影響を与え、 川崎フロンターレにおいて、卓越したプレー場面 (.298)及び懸命な姿場面(.322)がポジティブ な影響を与えた。一方、FC 東京において、スタ ジアムライブ観戦場面(-.280)及び川崎フロン ターレにおいて、付加的要素場面(-.272)がネ ガティブな影響を与えた(表 10)。満足に対して、 FC 東京では満足の分散の 17.2%、川崎フロンタ ーレにおいて 17.8% を説明していることが明ら かとなった(表 10)。再観戦意図を従属変数とし た場合、FC 東京(.317)及び川崎フロンターレ (.257)において、懸命な姿場面がポジティブな 影響を与えたが、川崎フロンターレにおいて、付 加的要素場面(-.299)がネガティブな影響を与 えた。再観戦意図に対して、FC 東京において、
表 8.因子間相関係数の平方と AVE(FC 東京) 共鳴 スタジアム プレー 懸命 付加 共鳴・一体感場面 .69a スタジアムライブ観戦場面 .36 .72b 卓越したプレー場面 .26 .28 .53c 懸命な姿場面 .46 .18 .48 .55d 付加的要素場面 .40 .59 .29 .18 .60e
a. 共鳴・一体感場面の AVE,b. スタジアムライブ観戦場面の AVE,c. 卓越したプレー場面の AVE, d. 懸命な姿場面の AVE,e. 付加的要素場面の AVE 表 9.因子間相関係数の平方と AVE(川崎 F) 共鳴 スタジアム プレー 懸命 付加 共鳴・一体感場面 .48a スタジアムライブ観戦場面 .39 .73b 卓越したプレー場面 .26 .52 .48c 懸命な姿場面 .36 .27 .27 .74d 付加的要素場面 .38 .53 .50 .13 .52e
a. 共鳴・一体感場面の AVE,b. スタジアムライブ観戦場面の AVE,c. 卓越したプレー場面の AVE, d. 懸命な姿場面の AVE,e. 付加的要素場面の AVE 表 7.測定項目 感動場面項目 因子負荷量 α係数 AVE 東京 川崎 東京 川崎 東京 川崎 共鳴・一体感場面 .92 .85 .69 .48 観客が熱狂的に応援しているのを見たとき .78 .63 観客が懸命に応援しているのを見たとき .84 .72 自分が会場全体と一体になって応援するとき .87 .86 得点の際に自分も一緒に大声援に加わったとき .80 .25 自分が他の観客と一体になって応援しているとき .84 .83 スタジアムライブ観戦場面 .89 .89 .72 .73 有名な選手を生で見たとき .88 .85 有名なチームを生で見たとき .80 .82 好きな選手を生で見たとき .87 .89 卓越したプレー場面 .76 .71 .53 .48 卓越した個人プレーを見たとき .68 .67 素晴らしい連携プレーを見たとき .79 .83 素晴らしいゴールシーンを見たとき .71 .56 懸命な姿場面 .80 .89 .55 .74 最後まで必死に戦い抜く選手の姿を見たとき .67 .85 応援しているチームが最後まで必死に頑張っているとき .75 .91 応援している選手が最後まで必死に頑張っているとき .80 .81 付加的要素場面 .86 .81 .60 .52 会場施設がとても美しかったとき .80 .73 芝生の美しさに驚いたとき .77 .69 スタジアムの大きさに驚いたとき .67 .71 スタッフの対応が素晴らしかったとき .84 .75 再観戦意図の分散の 7.8% を説明しており、川崎 フロンターレにおいて 14.4% を説明しているこ とが明らかとなった(表 10)。 考 察 本研究では、研究 1 において 8 因子 28 項目の
感動場面尺度因子を作成し、その妥当性及び信頼 性を確認した。中でも共鳴・一体感場面、スタジ アムライブ観戦場面、卓越したプレー場面は、戸 梶(2001)が指摘しなかった場面として考えられ、 スポーツ観戦特有の感動場面である可能性が考え られる。研究 2 の結果から、感動場面の性差に 関して、t 検定により感動場面には男女差が見ら れる結果となった。具体的な場面を検証すると、 スタジアムライブ観戦場面、卓越したプレー場面、 劣勢からの活躍場面、懸命な姿場面、ヒューマニ ティ場面において有意に女性がプラスの値となっ た。劣勢からの活躍場面や懸命な姿場面、ヒュー マニティ場面においては、人々の情緒に訴える事 柄が含まれており、戸梶(1998)が述べる、女性 の方が情緒に訴える事柄からくる感動が多い、と いう指摘からもこのような結果になったものと思 われる。また、Robinson and Trail(2005)による Point of Attachment の研究によると、女性は男性 よりも選手に愛着を持つ傾向があり、また、統計 的に有意でなかったものの、女性の方が男性より も physical skill に対する愛着の平均値が高い傾向 にあったことから、スタジアムライブ観戦場面や 卓越したプレー場面において女性の値が有意に高 い、という結果になったものと思われる。 研究 3 において、両チームにおける感動場面 尺度の妥当性の検証を行い、満足及び再観戦意図 に与える影響を検証するために、満足及び再観戦 意図を従属変数とした強制投入法による重回帰分 析を行った。収束的妥当性及び弁別的妥当性の検 証の結果、川崎フロンターレにおいて一部の収束 的妥当性及び弁別的妥当性に課題を残した。これ は、敗北したチームのファンにとって、「得点の 際に自分も一緒に大声援に加わったとき」といっ た、該当しないであろう項目が感動場面尺度に含 まれていたことなどが影響していると考えられる (表 7)。 重回帰分析の結果、満足又は再観戦意図にポジ ティブな影響を与えるのは共鳴・一体感場面、卓 越したプレー場面、懸命な姿場面であった。共 鳴・一体感場面が満足にポジティブな影響を与え たことは、選手のプレーや試合結果といったチー ム関係者の操作が難しいポイントとは異なり、マ ネジメントの可能な場面であると考えられる。例 えば、共鳴・一体感場面因子を高める工夫として、 会場の一体感を高める仕掛けや演出を行ったり、 Kuenzel and Yassim(2007)の指摘にもあるよう に、友達や家族、他のサポーターと楽しい時間を 会場で過ごせるような仕掛けを作ることで観戦者 の心理的覚醒を高め、経験的かつ楽しみに関連し た快楽的ニーズ(Chitturi et al., 2008)を満たすこ とができるものと考えられる。卓越したプレー場 面が、満足にポジティブな影響を与えたことに関 しては、プロスポーツ特有の高い技術やチームプ レーが評価され、みるスポーツとしての価値が J リーグ観戦にはあることが考えられる。懸命な姿 場面が、両チームにおいて満足及び再観戦意図の 両方にプラスの影響を与えることに関しては、勝 敗に関わらず、全力でプレーすることはファンの 視点からも非常に重要である、ということが示唆 される。 表 10.重回帰分析結果 従属変数 満足 再観戦意図 β β β β FC 東京 川崎 F FC 東京 川崎 F 共鳴・一体感場面 .197 * .108 -.035 .152 スタジアムライブ観戦場面 -.280 ** -.167 .025 .077 卓越したプレー場面 .109 .298 ** -.080 .111 懸命な姿場面 .253 ** .322 *** .317 *** .257 ** 付加的要素場面 .068 -.272 * .023 -.299 ** R2 .172 *** .178 *** .078 ** .144 *** * p < .05 ** p < .01 *** p < .001
一方、スタジアムライブ観戦場面が満足に、付 加的要素場面が満足及び再観戦意図にネガティブ な影響を与えたことに関して、各因子における多 重共線性の検定を行い、それぞれの VIF(Variance Inflation Factors)を確認したところ、スタジアム ライブ観戦場面が FC 東京で 2.120、付加的要素 場面が FC 東京で 2.195、川崎フロンターレで 2.038 とそれぞれ、多重共線性が強く疑われると される 10.0 を下回った。しかし、川崎フロンタ ーレにおける感動場面尺度の弁別的妥当性におい て、付加的要素場面が卓越したプレー場面との弁 別的妥当性が得られなかったことや、他の因子と の相関の高さが確認されていることから(表 9)、 多重共線性が影響していた可能性は考慮にいれる 必要がある。また、本調査で対象となった試合は 優勝がかかった試合であったことから、選手を見 ることへの関心や付加的要素への関心は低く、試 合結果に影響を与えるプレーに対して心を動かさ れ、満足及び再観戦意図にネガティブな影響を与 えたことも考えられる。更には、当日の試合にお いて両チームのサポーターの入場開始時間に差が 生じ、川崎フロンターレサポーターから会場のス タッフに対するクレームが挙がっていたことは、 付加的要素場面への評価に影響していることが考 えられる。本研究結果は、感動場面が満足及び再 観戦意図にポジティブ・ネガティブ両面の影響を 与えることが明らかとなり、仮説 1、2 はそれぞ れ一部支持され、一部は支持されない結果となっ た。 スポーツは人々に感動を与える、とはスポーツ を表現する上でよく使われる言葉であるが、スポ ーツ観戦においてどのような場面で人々が実際に 感動するのか、という事を明らかにした研究はこ れまでほとんど行われてこなかった。さらに、そ ういった経験がスポーツ観戦行動のメカニズムの 中でどのような役割を果たすのかについての研究 はより少ない状況であった。本研究はこれらを定 量的に明らかにし、検証を行ったことに意義があ ったと考えられる。 本研究の結果は以下のようにまとめられる。① スポーツ観戦における感動場面尺度、8 因子 28 項目を開発し、信頼性及び妥当性を確認した。因 子名はそれぞれ、「共鳴・一体感場面」「スタジア ムライブ観戦場面」「ドラマ的展開場面」「卓越し たプレー場面」「劣勢からの活躍場面」「懸命な姿 場面」「ヒューマニティ場面」「付加的要素場面」 であった。②スポーツ観戦における感動場面には 男女差があることが明らかとなった。③感動場面 は満足及び再観戦意図に影響を及ぼすことが明ら かとなった。 インプリケーションと今後の課題 研究 3 において明らかにされた、感動は満足 及び再観戦意図に影響を与える、という結果から は、例として以下のことが提言できると思われる。 例えば、共鳴・一体感場面が満足にプラスの影響 を与えたことに関して、実際にこのような取り組 みが行われている例として、東京読売ジャイアン ツのファンがオレンジ色のタオルを得点の際に皆 で振ったり、北海道日本ハムファイターズの稲葉 選手が打席になったときに、一斉に皆がジャンプ をして応援する「稲葉ジャンプ」などは、会場の 一体感を高める工夫として挙げることが出来る。 このような仕掛けをチームやリーグ側から作るこ とで会場の一体感が高まり、快感情が引き起こさ れ、覚醒が強まり、感動を喚起しやすい状況にす ることは可能であると考えられる。 本研究の課題は、まず、今回研究 3 で用いた 試合後調査用の質問紙に改善の必要があったこと が挙げられる。それは、試合後の質問紙において、 当日の試合の経験を問うているにも関わらず、過 去の経験を踏まえて回答している回答が多数見ら れ、結果として 100 程度のサンプルを削減する 結果となり、更にはドラマ的展開場面、劣勢から の活躍場面、ヒューマニティ場面を分析の対象か ら外す結果となった。改善策として、今回用いた 7 段階尺度の回答欄に加えて、例えば、該当なし、 といった別の項目を設け、当日の試合経験を記入 させる工夫が必要だったと考えられる。第 2 に、 試合後調査の 23.4%という質問紙の回収率の低 さや、決勝戦という特殊な舞台での調査であった
ため、偏ったサンプルからの結果の可能性がある ことを考慮に入れる必要がある。第 3 に、研究 3 の中で感動場面が再観戦行動モデルに与える影響 を検証するにあたって、感動場面尺度の修正を行 ったが、削除した因子が満足や再観戦意図にどの 様な影響を与えるのかを検討する必要があると思 われる。第 4 に、感動場面尺度の収束的妥当性 及び弁別的妥当性に課題を残したことや、重回帰 分析による感動場面が満足及び再観戦意図に与え る影響の説明力が低かったことから、尺度の内容 的妥当性の再検討も含め、今後更なる尺度の洗練 やモデルの再考が必要であると考えられる。併せ て、予備調査の段階でスポーツ観戦者や、スポー ツマネジメントを専攻している大学生を対象とし て自由記述項目を収集した事による、回答傾向の 隔たりにも留意する必要がある。スポーツを専攻 としない学生等を対象とした調査も必要となるだ ろう。 最後に本研究の今後の展望として、本研究にお いては J リーグの観戦者を対象とした調査を行っ たが、今後は他チームや他競技での感動場面の検 討や、テレビ観戦における感動場面の検討、今回 の調査で削除された項目の再検討が必要であると 思われる。更には、本研究では予備調査の段階で、 スポーツ観戦全般における感動場面尺度の一般化 を目指し、尺度を作成したが各競技特有の感動場 面の検討も必要であろう。また性差に関して、本 研究では感動場面の比較のみ行ったが、今後は感 動場面が満足及び再観戦意図に与える影響に関す る性差の検討も必要だろう。今回の研究を踏まえ て、質的研究法や生理心理的手法を用いた研究方 法の検討や、感動に至る理由及び先行要因を検討 することで、スポーツマネジメント分野における 感情研究の新たな発展が見込まれると思われる。 付記:本研究は、2009 年度に文部科学省より採択され た早稲田大学スポーツ科学学術院の「グローバル COE: アクティブ・ライフを創出するスポーツ科学」の研究事 業として実施したものである。 【文献】
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2010 年7月 21 日受付 2010 年 10 月 31 日受理