湖 し ー 一 一 - - - - ・ 一 − − ・ − − ・ ・ - - - -一 - - ← 説 − 一 一 − − − ・ ・ − 一 一 − 一 一
銀行規制における監督当局の責任
前
原 信
−。はじめに 一問題の所在と本稿の対象− ニ。,預金保険制度における預金保護の制限 三,。イギIリスにおける監督当局の價任と法的対応 四。ミスフィーザンス(misf6asance)に基づく監督当局の責任 五。,むすびに代えて夫
一.はじめに 一問題の所在と本稿の対象− 銀行規制における政府の公的介入を正.当化しうる根拠として,一・般に挙 (1) げられているのは,信用秩序の維持と預金者保護である.すなわち,前者 は,銀行の提供するサービスがあらゆる産業のインフラとなっているた め,複雑な信用題織で結ばれている銀行業務において,ある銀行の破綻の 影響が流動性不足というかたちで他の銀行に波及することにより金融シス テム全体が機能不全に陥れば,経済活動や国民生活に与える影響が大きい という点に,後者は,情報の収集力や判断力の面で銀行に劣る個々の預金 者にとって,その情報の非対称性ゆえに,銀行経営の健全性に疑義が生じ(1)岩田規久男=堀内昭義「わが国銀行業における公的規制JDiscussion Papel・S 歹s No。
611頁以下(1982年・)。柚田和男「転換期の金融行政」堀内昭義編『講座 公的規 制と産業⑤金融』129頁以下(NTT出版,1994年)。鹿野嘉昭『日本の金融制度』90 頁(東洋経済新報社,,2001年㈲池尾和人『現代の金融入門』204貝,(筑摩書房,2003 年)。日野正晴『ベーシック金融法 規制と会計』185頁(中央経済社,2005年・)。 - 89 − 28−2−276(香法2008) 六 八
六 七 銀行規制における監督当局の價任(前原) た場合には,自己防衛のために直ちに預金を引き出すことが合理的な選択 (2) C3) 肢になるという点に,公的介人の根拠を求めることができる。そのため, 株式会社という点では一般の事・業会社と同じ私企業でありながら(銀行法 5条1項),公益事業に準ずるものとレて高い公共性を有する銀行につい ては,信用秩序の維持および預金者保護を図るぺく銀行経営の健全性確保 (4) が要請されており,免許制度に基づく参入規制(銀行法4条),取締役等 の適格性(銀行法7条の2),業務範囲規制(銀行法10条,11条,12条), 大口信用供与規制(銀行法13粂),自己資本比率規制(銀行法14条の2) 等,一般の事業会社にはみられない銀行特有の規制と,監督当局による銀 行経営に対する日常的な監督が行われることになる。さらに近年において は,バブル経済崩壊後に柑次いで生,じた金融機関の破綻により,破綻金融 (2)預金者が不利益を被らないように保護されていると信じられる状態が保たれる限 り,正賃な銀行経営が担保されるという意昧において,預金者保護は侶用秩序を維持 するための前提条件としての意義も有することになる。池尾和人「信用秩序と銀行規 制」堀内昭義編『I公的規制と産業⑤金融』49頁(Nm出版,1994年・)。 (3)銀行規制における公的介入の根拠は時代とともに変化しており,例えば,信用秩序 の維持および預金者保護と並び,重点産業の育成や経済成長といった産業政策的な目 的も従来銀行規制における公的介入の根拠とされていたが,わが国の経済の実情から その根拠としての意義を失いつつある。池尾・・前掲注(2)44頁。他方,2001年9月に アメリカで発生した同時多発テロを背景に,マネーロンダリングやテロ資全対策から 現金の振込み等について全融機関の頴客管理,体制の整價を回るべく,2002年4月22 日に成立した「金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律」(平成14年法律 第32号)(「金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律の一部を改正/する法 律」(平成16年法律第164号)により,法律名を「金融機関等による顧客等の本人確 認及び預金口座等の不正な利用の防止,に関する法律」に改正)により,銀行を介して 行われる貴金流通の透明性の確保が公的介人の新たな根拠として挙げられる。渡井・理 佳子「銀行の健全性確保と規制監督行政の手法」法学研究80巻2号100頁以下(2007 年)。 (4)銀行法1条では,銀行の公共性の観点,から実現すべき理念ないし目的として,侶用 (秩序)の維持,預金者保護,金融の円滑の3つが規定されており,昭和56年の現行 銀行法の制定により当該目的規定が新設される以前からこの立場に立つ見解として, 佐竹浩=橋口収『銀行法 銀行実務講座第2巻』4頁(有I斐閣,1956年)。しかし, 前田重行「わが国における銀行監督法とその立,法的課題一序説的考察−」落合誠一編 『現代企業立,法の軌跡と展望』487頁(商事法務研究会,1995年)は,金融の円滑と いういわゆる銀行の資金配分機能を広い意昧において侶用秩序の維持に含めて考える ことも可能であると指摘する。 28−2−275(香法20㈲ 9 0
機関の経営者の責任を追及する訴訟が数多く提起されているなかで,金融 機関の取締役の負うぺき注意義務の内容や程度を金融機関以外の会社の取 (5) 締役の注意義務とは異なるものと解して,銀行の取締役がその責任を厳し く問われる可能性があることや,子会社である銀行の経営が悪化した場合 には,総議決権の50%超保有の株主に何らかの支援を求める法制(銀行 法52条の14,52条の33)により,銀行経営に支配的な影響力を行使し うる銀行持株会社や主要株主に対し銀行款済のための金融支援を要請する 等,会社法上の「株主有限責任の原則」(会社法104条)を修正レて銀行 持株会社または主要・株主の負うべき責任の範囲を拡犬する法的措置の必要 ㈲ 性や法的責任の内容の明確化が指摘されている。しかし他方,銀行経営に おいて責任ある行動を取ることが求められる銀行の取締役や株主らとは異 なり,規制・監督権限の行使を通じで銀行経営の意思決定に重犬な影響力 (7) を及ぼしうる監督当局の責任については従来より認識されつつも,正,面か (8) ら論じられることはあまりなかったように思われる。 先述のように,いかに高い公共性を有しているとはいえ,一般の事・業会 社と同じ私企業として経営されている以上。銀行の破綻も例外ではない。 そのため,銀行等の金融機関が支払不能に陥ったと認定される際に預金保 険で保護される預金等の額を一・定の範囲内に定める国々では,規制・監督 権限の不行使により預金者に生恚た損害に対する監督当局の法的責任がす でに大きな問題となっている。例え。ば,外国為替先物取引の失敗により 1974年のヘルシュタット銀行(PI・ivatbankhous l。D。Hel・stattKGaA)の破綻 を経験したドイツでは,監督上の義務違反を理由に,規制・監督権限を十分 (5)岩原紳作「全融機関取締役の注意義務」小塚壮一郎=高橋美加『落合誠一先生・・還 暦記念 商事法への提君』211頁(商事法務,2004年)。 ㈲ この問題に関する最近の研究として,今井克掬「子銀行の経営悪化に対する銀行持 株会社の頁任トヤづ二,卜・(三ヤ・(四完)」名古屋大学法政論集198号1頁以下(2003 年),204号35頁以下(2004年・),207号95頁以下(2005年),208号305頁以下(2005 年),岩原紳作「金融持株会社による子会社管理に関する銀行法と会社法の交錯」金 融法務研究会『金融法務研究会報告書(13)金融持株会社グループにおけるコ・-・ポレ ート・・ガバナンス』66頁以下(2006年)。 一 91− 28−2−274(香法2008) l ノ ` ゝ _ . 1 . 、 ノ ヘ
六 五
銀行規制における監督当局の責任膳屋)
に行使しなかった連邦銀行監督局(Bundesaufsichtamtel fUI・das KI・editwesen :
BAKI・ed)の責任を追及する国家賠償請求訴訟が同行の預金者によって提 (9) 起されており,国際テロ組織や麻薬密売組織によるマネーロンダリング, 武器売買貢金の取引等の違法行為への関与。1980年・代半ばの石油価格の 暴落や金融取引の失敗等による損失を隠蔽すぺく粉飾決具lに従事していた (7)「金融機関の倒産等,金融機関に対する監督・・規制の欠陥が取引先に対して損害を 及ぽすような事実が生じることは皆無とはいえないまでも,少なくとも最近において はきわめて稀である」(竹内昭夫=道田信一郎=荊田庸=龍田節=手為孝『現代の経 済構造と法』399頁(筑摩書房,1975年)),「私は大蔵省が監,督権をもっている以上, は,批判されても仕力がないと思いますけれども,第一次的には経営者が責任を負,う べきことであり,経営者が批判を受けるべきでしょう(竹内発徊)」(鈴木禄弥=竹内 昭夫『金融取引法大系 第1巻』353頁(翁斐閣,1983年))とあるように,監督当 局の責任を肯定的に捉える見解はこれまであまりみられなかった。しかしながら,最 近では,「銀行は規制されているとすれば,要するに経営者と預金者,あるいはお金 を偕りている人以外に規制当局というのがあるわけです。そうすると,いろいろな問 題に関して規制当局がどういう判断をしたかということが当然あり,ある種の経営の 意思決定にかなり影響力を持っているわけです。銀行経営で失敗が発生したときに, 規制当局の判断が甘かったとか,逆に厳しすぎたとか,いろいろなケースがありま す。だから,常諭で考え。ると,責任は必ずしも銀行経営者のみにあるわけでもなく, かなり規削されているほど,規制当局がどうしたかということが,かなり重要なポイ ントになっている。それで責任を追及するときに,規制当局はどうしていたかという ことは,実を言うと,相当重要・なポイントで(貝塚発言)」あるとして,監督当局の 責任可能性を含んだ指摘がみられ,岩原紳作敦授(東京大学)もまた,「被告らの主, 張は,大蔵省の判断及び指示に依存レて銀行経営を行い,自らの頁任において判断を 行わないことが許されることを意昧するが,もとより,そのような主張を採用するこ とはできない」として免責を求める被告の取締役の主,張を退けた大和銀行株主,代表訴 訟の大阪地裁判決(大阪地判平12 ・・ 9 ・・20 判時1721号3頁。判タ1047号86貢,金 判1101号3頁)を挙げて,当時のわが国の監督当局(大蔵省)による指示の実態か ら必ずしも当該判決のような考え力に問題がないとは言えず,行政や国も責任を問わ れる司能性ガあると指摘する。金融調査研究会・・金融法務研究会『わが国金融機関の コ・-ポレート ガバナンスー金融調査研究会・・金融法務研究会合同コンファレンス報 告・−』50貢(金融調査研究会・・金融法務研究会事務局,2002年,)。 (8)銀行破綻における監督当局の責任問題を論じるものとして,後藤紀−「銀行倒産と 行政庁‥監査役の責任[上,]一西独ヘルシュタクト・銀行倒産事件をめぐってー」旬刊 商事法務876号17頁(1980年),森下哲朗「海外金融法の勤向(イングランド)」金 融法研究第20号119頁(2004年,),弥永真生「銀行監督上,の失敗と国家賠慣責任(1)」 筑波ロ・-‥・ジャーナル1-077筑波大学創刊号77頁(2007年・)。 (9)BGH,Ufteil vom 12 7,1979,WM 1979, 934ffl,なお,本件事案の評釈として,後 藤・・前掲注(8)19頁以下。 28−2−273(香法20㈲ 一 92
国際信用商業銀行(Bank of Credit and Commel・ce lntemational,以下, 「BCCI」という)の破綻により,同行の実質的な活動拠点であったイギリ スにおいても,その当時監督当局であったイングランド銀行(Bank Ofl England : BOE)の監督責任が問題となっている。そのため,こうした国々 では,銀行法その他の法律に免責規定を設けることで監督当局の責任を免 除・軽減するための法的措置が講じられているほか,各国における金融安 定の強化のためのメカニブムを提供すべく1997年に公表されたバーゼル 銀行監督委員会「実効的な銀行監督のためのコアとなる諸原則」(Basle
Committee on Banking Supellvision,COI・ePrinciPlesfor Eff6ctive Banking ㈲ Supervision(1997),以下,「バーゼル・・コア・プリンシプル」という)に おいても,「原則11実効的な銀行監督システムでは,銀行監,督に関与し ている当局のそれぞれに明確な責任及び目的が与えられているであろう。 該当する各当局は,機能上,の独立盤や適切な資源を有するべきである。ま た,銀行設立頌認可及び継続的な監磨,法律及び健全性基準(saf街and soundness concems)の道守状況に対処する権限,監督当局への法的保護と ㈲ いった規定を含め,銀行監督に関する適切な法的枠組みが必要である。」 として,「監,督当局への法的保護」が銀行監督に必要不可欠な法的枠組み の一つに挙げられており,監督上の職務を遂行レていくうえで誠実に行わ れた監,督行為の個人的および組織的な責任から監督当局を保護すべきであ 叫るとしている。 叫 バーゼル銀行監督委員会は,1974年のドイツのヘルシュタット仮行およぴ米国の フランクリン・・ナショナル銀行の破綻を契機として,1975年にG10諸国の中央銀行 総裁会議により創設された銀行監督当局の委員会である。同委員会は,ベルギー,カ ナダ,フランス,ドイツ,イタリア,日本,ルクセンブルク,オランダ,スウェ・-・デ ン,スイス,イギリスおよび米国の銀行監督当局ならびに中央銀行の上席代表により 構成されるが,「実効的な銀行監督のためのコアとなる諸原則」(バ・-・ゼル・・コア・・プ リンシプル)の起草作業には,同委員会のほか,チリ,中国,チエ。1,香港,メキシ コ,ロシア,タイ,アルゼンチン,ブラジル,ハンガリー,インド,インドネシア, 韓国,マレーシア,ポーランドおよびシンガポールも関与している。
叫Basle Committee ・n Banking Supelvision,COle Plinciplesf6r Effictive Banking Supervision,at4(1997),
93 − 28−2−272(香法2008)
六 四
l . ノ X 一 一 一 I 銀行規制における監督当局の責任(前原) 銀行破綻に至る原因は,不良債権の増大や有価証券投貢の失敗,経営者・ 従業員による不正,行為等,銀行経営それ自体の問題によるところが大き く 叫 銀行規制における預金者と監督当局との間には法律上いかなる契約関 係も存在しない。しかしながら,薬害・食品公害事件を中心に,第三者の 行為によって国民一・般に損害が生恚る事・案において所轄の行政当局の規 制・監僣責任が問題となりうるように,ペイオフの凍結解除(解禁)によっ ㈲ て預金等の全額保護の特例措置が終了したわが国において,銀行破綻に際 して預金者に損害が生じるような場合には,国家賠價請求訴訟をして監督 ぐ15) 当局に対する責任追及の可能性は否定できないのである。 そこで,本稿は,銀行破綻に際して監督当局の責任を追及する訴訟が提 叫 起されている国々のなかでも,BCCIの破綻を背景に監督当局の責任をめ II ld,at14 銀行等の金融機関の破綻原因に関する詳細な分析については,預金保険機構[編] f平成金融危機への対応一預,金保険はいかに機能したか』5頁以下(社団法人金融財 政事情研究会,2007年)。 ㈲ 預,金等の全額保護の特例措置(いわゆるペイオフ凍結)は,平成7年6月8日の大 蔵省「金融システムの機能回復について」および同年・12月22日の金融制度調査会答 申「金融システム安定化のための諸施策」を受けて平成8年6月21日に成立した「預 金保険法の一部を改正/する法律」(平成8年法律第96号)により,平成8年度から平 成12年崖(平・成13年3月31日)までの時限的措置として法制化されたものである。 その後,「預,金保険法等の一部を改正する法律」(平成12年法律第93号)による当該 特例措置,の1年澗の期限延長(平成14年3月31日まで。ただし,特定預金(当座預 全・・普通預金・・別段預金等の流動性頷金)については,平成15年,3月31日まで全額 保護(預,金保険法附則6条の2)),「預,金保険法及び金融機関等の更生手続の特例等 に関する法律の一部を改正,する法律」(平・成14年・法律第175号)による哲久的措置と しての決済用預金(無利息,要求払いおよび決済サ・-ビスの提供の要件・を満たす預 全)‥特定決済債務の全額保護の導入(預,金保険法54条の2,69条の2)と平成15 年4月1日から平成17年3月31日までの2年間の過渡的桔置としての特定預金の全 額保護の継続(預,金保険法附則6条の2の3)を経て,平成17年・4月からペイオフ の凍結解除(解禁)が実施され預金保護に削限が設けられている。 ㈲ この点に関しては,2004年8月26日の神戸大学商事・法研究会(於 久留米大学) において,筆者がアメリカ法判例研究(「金融機関の破綻と規制当局の監督頁任」; United Statesv。Gaubelt,499 U S,315(1991))について報告を行った際に,岸田雅雄 教授(早稲田大学)から貴重な示唆を頂いた。なお,同様の指摘については,弥永・ 荊掲注(8)77貝。 28−2−271(香法2008) 一 94
ぐって最近まで裁判で争われていたイギリスにおける法的対応とそれをめ ぐる議論から,銀行規制における監督当局の法的責任についてその対応な り方向性なりが未だ示されていないわが国法制のあり方を探ろうとするも のである。 一 - I
預金保険制度における預金保護の制限
預金保険制度は,銀行等が破綻して預金の払戻しに応じることができな くなった場合に,当該銀行等に代わって預金者に預金の支払いを行うこと ㈲ によって預金者を保護しようとする制度である。銀行破綻に際して銀行の 債権者に支払いを行うべく1829年に米国のニ,ュノー・ヨーク州によって創設 叫 された銀行債務保険制度が原点であり,わが国では,銀行預金等の大衆化 の進展(例えば,預金保険制度創設当時のわが国における個人金融資産残 高のおよそ70%が預貯金であったこと),給与の金融機関への振込制度 や,電話,ガス,水道等の公共科金の自動振替制度等による銀行預金等の 叫 支払手段とレての地位の増大等から,預金者保護のさらなる要頷に応える ぺく,昭和45年・7月の金融制度調査会「一般民間金融機関のあり方等に ついての答申」を受けて,昭和46年3月に成立恚た預金保険法(昭和46(16D BGH,Urteil vom 15,2,1979,WM 1979, 482ff),BGH,Ulteil vom 12,7,1979,WM
1979,934 ff(ドイツ);Coopei v。Hobalt,2001 SCC 79 (カナダ);Tampion v Anderson
[1973]VR 715 (オ・一ストラリア);Yuen Kun-yeu and othel・s vAttomey Genelal ofl
Hong Kong [198712 AII ER 705 (香港)。
(17)わが国では,破綻金融機関に代わって預金者に対し一・定限度額まで預金の支払いを 行う保険金の直接支払方式(預金保険法53条)以外にも,破綻金融機関の再建や破 綻金融機関と救済金融機関との合併等について,金銭の贈与。資金の貸付け,資蛮の 買取り等の援助を救済金融機関に行う資金援助方式(預金保険法59条)があるが, これは,直接支払であれば支払手続に大きな手・間がかかるう支。に預金保険機構の基金 の流出額が大きくなる可能性ガあることを理由として,「預金保険法及ぴ準偏預金制 度に関する法律のー・部を改正。する法律」(昭和61年法律第72号)により導入された ものである。佐々木宗啓『逐条解説 預金保険法の運用j 198頁(社団法人金融財政 事情研究会,2003年)。 叫 本間勝『世界の預金保険と銀行破綻処理』57頁以下(東洋経済新報社,2002年)。 叫 田中史「預金保険制度の創殷」時の法令第748号30頁(1971年)。 一 95 28−2−270(香法2008) . i 、 / X 一 k - ← k
六一 銀行規制における監督当局の頁任(前原) 年法律第34号)に基づいて設立,された預金保険機構によって預金保険制 度が運用されており,現在ではおよそ80ケ国で同様の制度が採用されて 帥 いる。預金保険の存在により,預金者に対し預金の払戻しを保証する方法 が提供されることで,直接に預金者の保護が図れるほか,銀行が経営危機 に直面レでも預`金を引き出す必要がIないという信頼が預金者に与えられる 限り,預金保険はまた信用秩序の維持に資するものであるということがで 如きる。 預金の安全性に対する預金者の信頼確保を通じて信用秩序の維持を図ろ うとする預金保険の存在については広くコンセンサスが得られる一方,そ れによる副作用とレてのモラル・ハザード(moral hazard)の発生が問題 となる。すなわち,銀行経営の健全性に疑義が生じても,預金保険によっ て預金が保護されるという確信が預金者にある限り,銀行の経営状態をモ ニ。タリングしようとする預金者のインセンティブは低下し,銀行の提供す る利率が唯一預金者による銀行選択の基準となりうる。そのため,破綻し てもその損失は預金保険が肩代わりするであろう認識から,銀行もそうし た預金者の要求に応えようと高い収益を見込んで過度の資金運用リスクを 図 指向する可能性が指摘されるのである。預金保険制度におけるモラル・ハ ザードの発生,を抑制する数ある力法の一つとして挙げられるのが付保預金 匈 本間・前掲注(瑞9頁。
叫 Petel Cartwright, Consul71ezPloteetion in Rnaneial Serviees,at 130 (1999y,鹿野・・前
掲注(1)110頁。なお,わが国の預金保険法においても,預金者等の保堡および信用秩 序の維持が同法の目的規定として定められている(預,金保険法1条)。
叫 EPEningel,E Lomnicka &R,I,A。Hooley, Model・n Banking Law, at 49 (4th ed
2006);Petel・ Caltwlight &Andl・ew Campbe11, Deposit lnsulance : Consumel PI・otection,
Bank Safity and MOlaI Hazaj・d,European Business L.aw Review, vo110,96,at 98-99
(1999)。もっとも,Clanstonによれば,経験のない預金者は慎重な立蕩にないこと, 銀行経営に関する情報が提供されたところで,それを解釈する専門的知識を必要とす るのが一・般的であり,さらに,銀行が支払不能に陥る理由は不誠実なもので,本質的 にそのことは随蔽される傾向にあるとして,モラル・・ハザードに関するこの種の議論
は現実の世界からかけ離れたものであるという。Ross Cranston, PI・inciplesof Banking
L・aw,at79(2nd ed 2002)。
限度額の制限であり,付保預金限度額以上の預金を有する預金者の保護に 制限を設けることで,銀行の経営状態をモニ,タリングしようとする預金者 糾 のインセンティブを高めようとするものである。もっとも,こうした措置 はすでに多くの国々で講じられており,例えば,わが国の場合,銀行等が 業務として預金を受け入れるという事奥により,慎金の払戻しについては 一定の金額の範囲内で預金保険機構と銀行等および預金者との間で成立す る保険契約を前提に(預竟保険法49条1項),保険事裁の発生,により預金 保険機構から預金者に対し支払われる保険金の額を元本1,000万円とこれ に対応する利息との合計額に制限レており(預,金保険法54条1項,預金 鴎 保険法施行令6粂の3),米国においても,預金者一人当たりの上限を 100,000ドルに定めている(12 U。S C, §1821(a)(1)(f))。他方,一定限度 額まで預金が全額保護されるわが国や米国における預金保険制度とは異な
叫Caltwlight&Campbe11,suplla note 22, at 99 ; Emngel, Lomnicka&Hooley,supla note 22,at 49,モラル・・ハザードの発生,を抑制するその他の力法としての可変保険 利の設定,ナローバンク論等の実効性に関する詳細な研究として,水島治「預金保険 制度におけるモラルハザー・ドー制度的解決策とその課題−」一橋論叢第126巻第1号 73頁以下(2001年㈲ 叫 Caltw贈ht&Campbe11,supl・a note 22, at 99 なお,わが国においても,「預,金保険 の役割i・機能については,保険制度に伴うモラル・・ハザ・-ドや負担の増加を勘案する と,できるだけ限定的に考えるべきではないか」(平成11年7月6日金融審議会第ニ 部会「預金保険制度に関する論点‥意見の中問的な整理」),「預,金保険制度の本来の 目的は,少額預金者を保護し,もって信用秩序の維持を図ることであり,特例措置終 丁後においては,保険判負担やモラル・ハザードを減少させるためにも,基本的に 「小さな預金保護制度」を・目指すべきであると考える」(平成11年12月21日金融審 議会答申「特例措置終丁後の預金保険制度及び金融機関の破綻処理のあり方につい て」)として,預金保険制度におけるモラル・・ハザ・-・ドの発生,とそれに対する処力便 としての付保預金の制限の司能性が指摘されている。 叫「少額貯蓄非課税制度,郵便貯金の預入限度等を参考とし,また,総預金中に占め る比率等から判断すると,当面各金融機関ごとに預全者一人当たり100万円程度が適 当と認められる」とした金融制度調査会答申を受けて,預金者に対し支払われる保険 金の額は当初100万円と定められていたが,その後,昭和49年6月に少額貯蓄非課 税限度額の300万円の引上げに巡動して100万円から300万円に,さらに昭和61年 7月には,個人預全のおよそ9割が預,金保険により保護されること等を考慮して, 「預金保険法及び準備預金制度に関する法律のー・部を改正フする法律」(昭和61年法律 第72号)により300万円から1,000万円に引き上げられている。 一 97 − 28−2−268(香法2008) 六〇
五九 銀行規制における監督当局の頁任(前原) り,銀行破綻のコストを預金保険制度のみならず預金者にも一部負拒させ 叫 るいわゆる「共同保険(co-insurance)」の制度が,EU(欧州連合)レベルで 如 広く採用されている。例えば,預金保証についてEU加盟国の最低基準を 定めた預金保証指令において,加盟国は20,000ユーロに達するまで預金の
90%以上を補償すべき旨が定められているほか(Directive 94 / 19 /EC oflthe
European Palliament and of the Council ofl 30 May 1994 on deposit gumntee schemes,AI扨,7①,(2)),ドイツでは,預金者一人当たり20,000ユーロ
を上限として,預金の90%が強制加盟の預金保護制度によって袖償され
ることになっており(Einlagesichelungs- und Anlegelentschdigungsgesetz :
叫
EAG§§3(1),4(2)),2000年・金融サービス市場法(Rnancia1 Services
Malket Act 2000Jぶ,下,「FSMA」という)により,預金,保険,役資等の
各業態・業務に設けられていた従来の預金保護機構(Deposit Protection
Scheme),保険契約者保護機構(POlicyholdels Plotection Scheme),投資者
袖償機構(lnvestors Compensation Scheme)をはじめとする8つの保護機
構・袖償機構を統合して金融サ・−ビス袖償機構(Rnancia1 Selvices
叫 カザフスタン,オ・-・ストリア,ブルガリア,チェコ,エストニア,ドイツ,ジブラ ルタル,アイルランドI,イタリア,リトアニア,ルクセンプルク,マケドニア,ポ・-・ ランド,ポルトガル,イギリス,パ・−レーン,オマ・-ン,チリ,コロンビア,ドミニ
カ共和国の世界20カ国において,共同保険の制度が採用されている。Ginian G E,
Gal・cia,Deposit lnsuiance Actual and Good PI・aetices,at 76-78 (2000),ただし,イギIリ
スでは,信用力の低い個人向け住宅融誉(サブプライムロ・-・ン)問題の発生を背景に,
同国の中堅銀行であるノーザンロック(Nolthem Rock)が経営危機に陥る等,近年
の金融システムの混乱に対応すべく付保預金限度額の見直し等の制度改革が進められ
ている。HMTreasuiy, FSA, Bank ofI England, Banking re蝕m-protecting depositol・s: a
discussion papel (2007)
匈 Caltwlight,supla note 21, at 133 ; Dalvindel・ Singh, Banking Regulation ofIUK and US
Rnancia1 Majkets, at 193 (2007)。
叫 ドイツにおける預金保護制度は,基本的には強制加盟の預金保護刎度によって預 金保険が提供されるが,それを超える部分については,ドイツ銀行達邦達合会
(Bundesvelband deutschel Banken e,V)が運営する任意加盟の預金保護制度により,
債櫓者−・人当たり銀行の責任白己資本(haftenden Eigenkapital)の30%まで補僕され
る(Statute des Einlagesicherungsfbnds§6(1))。すなわち,資本金500万ユー・ロの小規
模な銀行の場合でも,債権者−・人当たり150万ユーロまで補償されることになる。
28−2−267(香法20㈲ 98 −
1
ComPensation Scheme : FSCS)を創設したイギリスにおいても,規制対象 外の金融機関,海外の金融サービス機関,集団役資スキーム,年・金基金, 中央政府・地方公共団体,破綻金融機関の関係者(取締役等の経営陣およ びそれらの親族,同−グループ内の企業,当該破綻金融機関または関連会 社の発行済株式総数の5%以上の保有者),金融機関の破綻に責任がある かもしくはその原因があると認定された預金者,共済組合およびパートナ ーシップ等を除く預金者を対象に,35,000ポンドを上限として,2,000ポ ンドまでは全額袖償し,それを超える部分については90%(預,金者−・人 当たり最大31,700ポンド)まで補價することとしている(FSA Handbook。 叫 Compensation Sourcebook, ss.4.2,10.2)。 付保預金の限度額に制限を設けることで,預金保険制度におけるモラ ル・ハザードの発生,に対する処方使としての可能性は期待されるが,その 反面,付保預金限度額以上の預金を有する預金者は,銀行破綻によってす 叫 ぺての預金の払戻しを受けることができず損害を被るおそれがある。とり わけ,銀行破綻に際して預金者の多くがコスト負担を余儀なくされる共同 叫保険を採用する国々において,このことは,銀行破綻の原因を監督当局の 規制・監督行為に求める限り,監督当局に対する責任追及の可能性を生,じ 図させるものと考えられている。
叫 2000年金融サービス市場法(Rnaneia1 Selvices Market Act: FSMA)ではもっぱら
金融サー・ビス袖價機構(RnancialSel・vices Compensation Scheme : FSCS)の設立の法
的枠題みに関する規定が定められるにすぎず(FSMA,ss 212-224),同機構による袖 倶の範囲,巡営および財源等に関する詳細な規則は,FSA Handbook の一部である Compensation Sourcebook において定められている。 叫 付保預金限度額を超える元本と利息については,預金者等の請求に基づき,預金保 険機構が破産手続により弁済が見込まれる額を考慮して決定した率を基に算出した概 算払率により預金者から預金等の債権を買い取るかたちで,破綻金融機関の清算手続 における配当等に応じて支払われることになる(預金保険法70条以下)。 閣 イギリスとは異なり,ドイツでは,共同保険である強制加盟の預金保護制度によっ て預金者が損害を被っても,大部分の預金者が任意加盟の預金保護制度によって袖價 されるため,実質的に共同保険は存在しないことになる。本間・・前掲注㈲28貝。 99 − 28−2−266(香法20㈲ 五, 八
五七 銀行規制における監督当局の貴任(珀原) 三。イギリスにおける監督当局の責任と法的対応 (1)制定法における免責 不動産価格の大幅な下落により,不動産関連融資に多額の資金を投じて いた中小金融機関の経営危機が表面化したいわゆるセカンダリー・バンク 叫
危機(secondaly bank crisis)を契機として,1977年・の欧州経済共同体(EEC)
の第一次銀行調整指令(Filst Contl・ol Directive of December 12。1977,0n
the cooldination of laws, regulations,and administl・ativeplocedures relating to the eStabliShment and COndUCt Of the bUSineSS OfI Credit inStitUtiOnS,77/780/ EEC)に従い,1979年・に監督当局による銀行規制に法的根拠を与,える初
めての銀行法(The Banking Act 1979)が制定されたイギ刀スでは,当初,
監督当局の貴任について定めた特別なルールというものは存在しなかっ た。しかしながら,監督当局に対する責任追及が容易に行われるような場 合には,監督上の職務の遂行において監督当局に大きな心理的負担を与え るおそれがあることや,監督上の資源が訴訟への対応に当てられたり,規 制監督システムの運営コストに重大な影響を及ぼす可能性があったことか 叫
ら,1987年・銀行法(The Banking Act 1987)の制定により,「銀行・(イン
グランド銀行)又はその理事会(its Coult ofIDirectol・s)の構成員若しくは
銀行の役職貝であるか若しくはそのように行勣する者は,そのような作為 又は不作為が悪意(badhith卜であることが証明される場合を除き,本法 の下での同行の職務の遂行においてなされ,又はなされなかったいかなる 行為の損,害についても責任を負うものではない。」とする規定が同法の1
叫 Singh,supl・a note 27, at 188, 217 ; Michel Tison, Chaneng the pludential supe
「sor- liabilityvel・sus (1・egulatoly)immunity : Lessons fiom the EU expelience fbl Central and
Eastem E:uropean countries,Molten Bamng, FI・ank Lielman &Andy Mumneux, Rnancial
Markets in Centlal and Eastem Europe : stabmty and efficiency pellspective,at 137 (2004)。
叫Michael Gluson&Ralph Reisner, Regulation ofIFoleign Banks vol.3,at 952 (3rd ed
2000),
叫Chlistos H哨iemmanuil,Banking Regulationand the Bankof England, at339(1996),
条(4)項として新たに設けられた。これにより,監督当局は,権限の範 囲外または悪意で行動する場合を除き,監督上の職務を遂行するうえでな 叫 されるすべての作為または不作為の責任から保護されることになり,
FSMAの制定に伴い金融サービス機構(Financial Selvices Autholity: FSA) による金融サービス業全体の一元的な規制・監督体制への移行後も,同様 ㈲
の免責規定がFSMA Schedule 1,paraglaPh 19 に引き継がれている。
(2)判例
冒頭でも述べたように,規制・監督権限の不行使により,銀行破綻に際 して預金者に生,じた損害に対する監督当局の責任が大きな問題となった 国々において,その貢任を免除・軽減するための法的措置が講じられてい
匈るが,とりわけイギリスでは,先述の免責規定とは別に,Yuen Kun-yeu and
叫
others v。 Attomey Genellal of Hong Kong 判決,Davis and anothel v,Radcliffe 叫
and othels判決およびMinolies Finance v。Arthur Young (a film)(Bank ofl
England,thild pallty);,JohnsonMatthey Plcv。Arthul・ Young (a film)(Bank 帥 ofIEngland, thilldPalty)判決において,ネグリジェンス(negligence)とい う不法行為類型に属する行為の成立,要件としての注意義務との関係で監督 当局の貴任を否定する判断が早くから示されており,監督当局に対する責 帥) 任追及の重大な障害となっている。
(a)Yuen Kun-yeu and others v。Attomey General of Hong Kong判決 本判決は,当時イギリス領であった香港からの上訴審について下された 枢密院判決である。そのため,正式にはイギリス国内における先例として I㈲ lbid, 「機構(金敗サービス機構)又はその構成員若しくは役職員であるか若しくはその ように行勣する者は,そのような作為又は不作為が悪意づbad faith)であることが証 明される場合を除き,機構の職務の遂行においてなされ,又はなされなかったいかな
る行為の損害についても責任を負うものではない。」(Finaneial Selvices Malket Act
2000: FSMA, Schedule 1,pallaglaph19(1),(3))。
−101 − 28−2−264(香法20㈲
五五 銀行規制における監督当局の責任(前原) の拘束力を持たないが,行政当局の規制・監督責任が問題となる国家賠償 請求訴訟において,ネグリジェンスの要魯としての注意義務の存在を判断 ㈲ するにあたり,事・実上置大な影響力を有するものと解されている。 吻 ドイツでは,Wettelstein事件(BGH,Ulteil vom 15。2,1979,WM 1979, 482ff)および Helstatt事件(BGH,Urteil vom 12 7 1979,WM 1979, 934ff)において,連邦通常裁判 所がこれまでの立,場を変更して,監督上の義務違反として個別預丿金者に対する国の賠
償責任を認める判断を示したことから,1984年の信用制度法(Gesetz Ubel das Krlditwesen:
KWG)改正により,「連邦銀行監督局(Bundesaufsichtimter fUr das KI・editwesen :
BAKljed)は本法またはその他の法律により委任される職務を公共の利益においての み遂行する」とする規定が同法の6条(3)項において新たに設けられた。Kal・1-Heinz
Boos / Reinfiid Fischel ノHelmann Schulte-Matter,KI・editwesengesetz : KommentaJ・ zu
KWG ud AusfUhlungsvolsehliften, 2000,S.251 f 現在では,BAKled,違邦保険監督
局(Bundesauflsicht且mter ftjldas versichetungswesen : BAV)およぴ達邦証券取引監督
局(Bundesauflsichtlmtel・ fUr das Weltpapielhandel : BAWe)の統合と連邦金融サーピス
監督庁(Bundesanstalt fUr Finanzdienstleistungsaufiieht: BaFin)の創設に伴い,2002年
4月に成立,した「統合された金融サ・−ビスの監督に関する法律(Gesetz ubel die
integliezte Rnanzdiestleistungsaufiicht : Finanzdienstleistungsaufsichtgesetz: RnDAG)」の 4条(4)項に引き継がれている。他方,米国においては,追邦不法行為請求権法(Fedelal
Tolt Claims Act: FTCA)2680条(a)項(28 U S C§2680(a))により,「法律若しく
は規則が有効であるか否かにかかわらず,連邦機関又は政府の職員が担当する裁量的 な権限若しくは義務を執行若しくは遂行したこと又は執行若しくは遂行しなかったこ とに基づくあらゆる瀧求」について,合衆国に対する損害賠償請求権を定めた同法
1346条(b)項(28 U S C§1346(b))の適用を排除している。
叫 Yuen Kun-yeu and othel・sv,Attorney Genelal of Hong Kong [198712 An ER 705。な
お,本件事案を紹介するものとして,岩井・伸晃「イギリス不法行為法上の国家賠償請 求事件・における行政機関の注意義務及ぴ行政裁量の範囲の判断基準に関する最近の判 例の動向について」法曹時報42巻4号49頁(1990年),弥永真生「銀行監督上の過 失と国家賠償責任(2)−イギリスー」32頁(2008年)。
叫 Davis and anothel・ v Radcliflfleand others[199012 AU ER 536。弥永・・前掲注叫35頁
もまた参照。
帥 Minolies Finance v。Althur Young (a fh・m)(Bank of England, thild palty);,lohnson
Matthey plcvAlthul・ Young(a firm)(Bank of England, thild palty)[198912 An ER
105,弥永・・前掲注叫32頁以下もまた参照。
闘 ChlistOS H哨iemmanuil, Civn liability OfliegulatOly authOlities aftel the Thllee Rivells
case, Public Law, 32,at 33(1997);Mads Andenas,Liabmty f6r supel・visol・s and
depositors light : the BCCl and the Bank ofIEngland in the House ofIL.ords,The Company
Lawyer,vo1 22 No 8, 226,at228(2001y,
叫 田中英夫『英米法辞典』482頁(,ludieialCommitee oflthePlivy Couneil を参照)(財
団法人東京大学出版会,1991年)。
叫 Tison,supla note 32, at 142 ; H頑iemmanun, supllanote 34, at 355. 岩井・・前掲注叫
49頁。
預金の受入れを規制し,預金者の保護および金融政策のための預金受入 業務の規制に関する規定を設けるぺく1976年に制定された預金受入会社
条例(DePosit-taking Companies Oldinance 1976)の下で,香港預金受入会
社長官(Commissionel・ of Deposit-taking Companies in Hong Kong, 以下,「長 官」という)は預金受入会社への営業免許の付与および登録手・続に関して
広範な裁量権を有レていたところ,預金受人会社であるAmelican and
Panama Finance (以下,「APF」という)の破綻によって預金の払戻しを受
けられず損害を被った香港在住の預金者らが,長官はAPFで行われてい た詐欺的かつ投機的な業務執行により預金者に損害が生じるのを認識して いたかもしくは認識すべきであったこと,預金者を保護すべく当初から APFを預金受入会社として登録せずまたはその登録を取り消す等の何ら 具体的な楷置を講じなかったとして,訴訟手続上長官を代表するところの
香港法務総裁(Attomey Genelal ofIHong Kong)に対し損害賠償を求めて
訴えを提起したのが本件事案である。
本鉄判所は,長官がその権限行使において,第三者の不法行為による預 金者の損害に配慮すべき相当の注意を払う義務を負うか否かを決定するに ㈲
あたり,Anns v。Melton London Borough判決においてWilbelfbrce判事が
示した審査基準に従うところから分析を開始するレすなわち,この審査基 準によれば,まず初めに,被告の不注意が原告に損害を及ぼすであろうと いうことを被告が合理的に予見しうるほどの(近接性づproximity)」また は「近隣性(n晦hboulhood)」の関係が原告と被告との間に存在するか否 かを判断し,次に,これが認められる場合には,注意義務を否定するまた はその範囲を縮小するかもしくは制限する別の考慮が存在するか否かを検 ㈲ 討することになる。したがって,本件においてもまず,APFの破綻によっ て預金者らに生じた損害について,預金者らに対する長官の注意義務が肯 定されるほど密接かつ直接的な関係が両者の間に存在七うるかどうかが問 ㈲ ㈲
Anns v。Mel・ton London BOI・ough [197712 A11 ER 492。
lbid。at 498。
一 103 − 28−2−262(香法2008)
五三 銀行規制における監督当局の頁任(前原) われるところ,本裁判所は,預金受入会社条例の下で長官は預金受入会社の 業務内容に関する日常的な監督権限を与えられていなかったこと,長官に は早期に会社の登録を取り消すぺきか,または経営陣による会社の業務内 容および財務状態の改善を期待レて事業の継統を認めるぺきかという極め て微妙な判断を要求されることから,長官が特定の預金者に対し注意義務 を負うことが肯定されるほど両者の間に何ら特別な関係は存在しなかった として,原告の請求を棄却した。
(b)Davis and another v. Radcliffe and others判決
本判決は,マン島からの上訴審について下された枢密院判決である。 1975年バマン島銀行法(lsle of Man Banking Aet 1975)の下で,財務省 (Treasurer)は,マン島金融委員会(lsle ofIMan Finance Boald)の指示に
従い,銀行営業免許の付与または取消し,業務停止。立y入検査による会計 帳簿その他書類の検査または閲覧等を行う権限を有していたところ,1982 年に4,000万ポンドを超える負債を抱えて支払不能に陥ったSavings and lnvestment Bank (以下,「SIB」という)の預金者らが,財務省は営業免許
の付与・および監督について預金者の資金が安全かつ適切に運用されるよう な力法で制定法上の職務を遂行すぺき義務を負っていたにもかかわらず, その義務に違反して預金者らに損害を生じさせたことノマン島金融委員会 もまた同様の義務を負うとともに,財務省による職務の遂行を確保すべき さらなる義務を負っていたとしで,マン島金融委員会および財務省を被告 とする損害賠價請求訴訟を提起したのが本件事案である。 本裁判所は,安全な場所であると信じて多額の資金を銀行に預けた預金 者に深い同情を感じるとしながらも,銀行破綻に際して監督当局が預音者 に対七注意義務を負うか否かについてこれを否定する判断を示した。その 理由として,マン島金融委員会および財務省の職務が公衆の利益のために 遂行されるべき現代の政府の職務であることごすなわち,営業免許の付与 または取消し等の決定はノマン島における銀行全体の将来に影響を及ぼす 28−2−261(香法2008) 一 104 −
微妙な性質の判断に属するものであり,何らかの結果として生,じる銀行の 業務停止,は当該銀行の顧客や債権者のみならずマン島における金融サービ スの将来にも影響を及ぼす可能性があるため,このような状況の下では, 競合している考慮事頂は公衆の利益のために慎重に比較検討され,バラン スを図らなければならないこと,経営不振の銀行を直ちに閉鎖するよりも 経営改善に取り組むほうが公衆の利益に貪する場合には,そのような決定 を行うことが現代の政府に特有の職務であり,その職務の性質は公衆のう ち,ある特定の者の利益のために注意義務を課すことに不利に作用すると ころのものであるという。また,注意義務を課すことは第三者の支払不能 によって生じた損害を監督当局に負わせることになること,責任を負わせ るほどの広範な影響力を監督当局は銀行の経営者に対し有しなかったこ と,金融機関の免許付与についで注意義務の存在を判断するにあたり Yuen Kun-yeu判決における預金受入会社と本件事案における銀行との間 に実質的な差異はみられないことから,本裁判所は,預金者に生じた損害 についてマン島金融委員会および財務省にネグリジェンスに基づく責任を 負わせることが衡平・かつ合理的であるような関係は両者の問に存在しな かったとして,原告の請求を棄却した。
(c)Minories Finan(je v.Arthur Youn9 (a firm)(Bank of En9land, third party)りohnson Matthey plc v.Arthur Youn9 (a firm) (Bank of England, third party)判決
Johnson Matthey Bankers Ltd (以下,「JMB」という)は,特定の顧客に ㈲ 対する過剰融資により不良債権を増大させ支払不能に陥った。しかしなが ら,IMBが金市場を運営する企業グループ「ゴールド・リング(gold ring)」のメンバーであったことから,ぞの当時監麿当局であったイング ランド銀行は,ゴールド・リングを構成する他のメンバーに悪影響が及ぶ ㈲ H頑iemmanui1,supla note 34, at 42, - 105 − 28−2−260(香法2008) 五コ
五 、 四 皿 1 銀行規制における監督当局の責任(前原) おそれがあること,金融市場がますます脆弱になるおそれがあること。 IMBの経営危機の影響がイギリス全体の銀行の評判に飛び火することで JMBに相当の金(gold)を預けていた海外の政府機関および中央銀行に損 ㈲ 害を与・えかねないとして,同行の款済を決定した。その後,IMBを承継し
たMinolies Finance Ltd とJMBの親会社で預,金者でもある,Johnson Matthey
Plc(以下,「PLC」という)が,会計監査人は会計監査の過程において,JMB の貸出金融資産(1oan po ・olio)の状況を発見し報告すぺきであったこと, そのような措置を講じでいればJMBの支払不能によって生じた損害の多 くを避けることができたであろうということを主張して,ネグリジェンス による注意義務違反を理由にAlthur Young に対し損害賠償を求めて訴え, を提起した。これに対して,Althur Young が,イングランド銀行はイギリ スにおける銀行監僣当局として,JMBおよびPLCに対し相当の注意と能力 をもって監督上の職務を遂行すべき義務を負っていたにもかかわらず,そ れを塀怠していたこと,仮にJMBおよびPLCの主張どおりなら,イング ランド銀行がその義務を果たしていればIMBの支払不能によって生じた 損害を避けることができたかもしくは少なくとも最小限に抑えることがで
きたことから,1978年民事價任(求償)法(Civi1 Liability (Contlibutions) ㈲
Act 1978)1条の下でイングランド銀行からの袖償または求償の権利を与
えられるということを主張してイングランド銀行にその旨を通知(third
palty notice)したところ,イングランド銀行は,Althul・ Young が主張する
ところのいかなる義務も存在しなかったとして,この通知を退けるよう申
し立てたのが本件事案である。
イングランド銀行は預金者のために,また銀行経営の安全│生を確保する
ために監督上,の職務を遂行すること,イングランド銀行は自身の監督上の
鯖 lbid.at 43 ; Gruson &Reisnel・,supla note 33, at 953.
㈲「他人の被った損害について責任を負うべきいかなる者も,同−の損害について責
任を負うべき別の者から求償を得ることがIできる。」(Civil Liabmty (Contl・ibutions)Act
1978,sl)。
職務の遂行に対し寄せられた銀行からの信頼を認識レていること,イング ランド銀行の助言を,JMBが信頼しそれに従っていること,イングランド 銀行の代表者がJMBに赴いて同行の銀行業務について会合を行っている こと,イングランド銀行の代表者が,JMBから銀行経営に関する情報を入 手七ていることから,イングランド銀行と,JMBとの間には密接な関係が 存在し,それにより,イングランド銀行が相当の注意と能力をもって監督 上の職務を遂行しなかったことでJMBに生じるであろう損害の予見可能 性が満たされるとともに,注意義務の要件としての「近接性」または「近 隣性」が満たされるであろうというAlthul Youngの主張に対し,本裁判 所は,不法行為を行ったとされる者と損害を被った者との間に,前者によ る自己の不注意が後者に損害を及ぼすおそれがあると合理的に予見しうる ほどの「近接性」または「近隣性」の関係が存在することを立且するだけ
で十分でないことはGovelnorsofl the Peabody Donation Fund v。Sir Lindsay
㈲
Palkinson&CO Ltd判決およびlnvestols in lndustly Commelcia1 Propelties
Ltd v.3outh Bedfbrdshire DC (Emson&Paltners(a film),thildPalties)判 蜘
決から明らかであるとし,可能性ある公共政策上の考慮とは別に,その状況 において撰害を被った者に対し注意義務を負うことが公正かつ合理的であ
ることを確信できなければならず,その要件・とは,Donoghue v,Stevenson
紬 聯
判決においてAtkin判事が,Home Office v。DOlset Yacht CO Ltd判決では
Mollis判事が示したところの「道理と分別(ordinary reason and common
sense)」の原則であるとした。
そして,本件ではまず,監督の過程で誤ったまたは誤解を与えるような 助言または指示を行うことにつきイングランド銀行に過失があったのでは
㈲ Govelnorsof the Peabody Donation Fund v, Sil・Lindsay Palkinson &CO Ltd [198413
AU ER 529
絢 lnvestors in lndustry Commercial Propelties Ltd v South Bedfk)rdshire DC (Emson&
Paltnels(a film),thild palties)[198611 A11 E.R 787,
糾 Donoghue v Stevenson [1932]An Rep l, at 20.
叫 Home Office v。Dol・set Yacht CO Ltd [197012 A11 ER 294, at 307-308。
107 − 28−2−258(香法2008)
四九 銀行規制における監督当局の責任(前原) なく。IMBが慎重さを欠きまたは不注意で商業上の貸出金融貴産を運用 していたことをイングランド銀行が過失により発見せず,指摘せず,また は適切な措置を講じなかったということが主,張されるところ,本裁判所 は,民間銀行が利益を上げ,損害を回避するよう慎重かつ注意深く商業上 の取引を行うべき商業上の責任(commercia1 responsibilities)をイングラ ンド銀行に引き受けさせまたは一部負担させることについて,公正,,衡平 あるいは合理性は認められないとレてその主張を否認した。すなわち,営 利企貫である銀行がイングランド銀行は当該銀行の問題を発見し適切な楷 置を講じるぺきであったとして自身の不注意な行勣から生じる損害の賠償 をイングランド銀行に請求しうることは「道理と分別」の原則に反するこ と,看康師と精神病患者との間の関係とは異なり,民間銀行がイングラン ド銀行によって保護されるべき関係は両者の間に存在しないからであると いう。また,イングランド銀行が銀行監督において相当の注意と能力を行 使すべき義務をJMBの預金者であるPLCに対し負っているかどうかとい う問題についても,本裁判所は,そもそも親会社が子会社または子会社が 糾 親会社に対して有する預金は1979年・銀行法1条(5)頂(d)号・の規定におけ る「預金」の定義にはあたらないため,PLCは議会が同法を通じて保護 しようとするところの預金者でなかったこと,一般の預金者とは異なり, 親会社は自社lの子会社の活動を調査,監視および管理する手段を有するこ。 とから,イングランド銀行がPLCに対し注意義務を負うとするのは,公 正。衡平・あるいは合理的でないとして,イングランド銀行の申立てを認め る判決を下した。 (,3)監督当局の保護を必要とする根拠 国家の財政負担により損害の発生から国民を保護し,個人において生じ る不公正な結果を阻止することが可能であるように,損害原因の直接問接
叫 同様の規定は,Rnancial Selvices Malket Act2000くRegulated Activities)Oldel2001,
s6(1)に引き継がれている。
を問わず,行政当局が不適切な職務の遂行について補倶を行うのは適切で あること,責任追及の可能性によって相当の注意を払い法令を道守する必 要性が行政当局において正。しく認識され,敦育的ならびに規律的な効果が 期待できることを理由として,国家および行政当局一般について厳格な責 糾 任を求める声は以前より聞かれるところであった。しかし,こうした声に 異議を唱える立,場も有力であり,とりわけ銀行監督当局に関していえば, 監督当局と預金者との間の近接性または近隣性の関係の欠如,および預金 者保護の見地から監督当局による規制・監督権限の行使が要請されうる場 合でも特定の個人の権利利益ではなく公衆全体の利益のためにその権限を 行使すべき公共政策上の考慮を理由にネグリジェンスの要・件としての注意 義務の存在を否定した判例の立。場と同じく,いくつかの点で責任追及の矛 抑 先を監督当局に向けることに否定的な見解が強く主張されている。 第一に,その情報の非対称性ゆえに,銀行経営の健全性に関する監督当 局の判断に依拠せざるをえないことに,監督当局に対する責任追及の根拠 を求めることが可能であるとしても,預金者は,監督当局のいかなるネグ リジェンスも立証することなく,預金保険によって預金の払戻しを受けら 紬れることである。第ニ,に,監僣当局の責任を安易に認めてしまうと,経済 の白由において絶対的であるはずの自己責任の原則が歪められ,預金者に 紬よる役資行動のリスクが監督当局の貴任に転嫁されるおそれがある。第三 に,監督当局による金融機関の規制・監督は,預,金者から何ら見返りのな い監視業務の提供に相当するものである。そのため,銀行破綻に際レて預 金者に生ごた損害について監督当局の責任を認めるような場合,監督当局 が監督上の職務を遂行していれば債務の負担を免れたであろう利益の喪失 を理由に預金者が損害賠償請求を行うことになり,結果としてこのことは 糾I紳鯛
Hadjiemm血uil,supla note 34, at384,
1bid, Ibid。at 375-376。 lbid。at 384-385。
一 109 − 28−2−256(香法2008)
四七 銀行規制における監,督当局の頁任(前原) 叫 不当な利益を正,当な権利に変えてしまうことになる。第四に,責任追及の 脅威に洒されることで監,督当局はその職務の遂行において消極的にならざ るをえなくなるこ。とや,監督当局による裁量的判断への司法の⊃次的介入 を許レてしまうことになる等,特定の個人の利益が過度に強調されるよう な場合には,規制・監督行為における監督当局の意思決定に重大な歪みが 生,じるとともに,損害賠償のための公的資金の支出というツケが最終的に 紬は納税者全体の負担に回されるおそれがある。第五。に,公務員個人の職務 上の不法行為について行政当局が代位して責任を負うということに鑑みれ 紬ば,監督当局の貴任により職務遂行の適正。を拒保するほどの規律的な効果 を監督当局の職員個人に及ぽしうるかどうかは必ずしも明らかでないとし 糾 ている。
四.ミスフィーザンス(misfeasance)に基づく
監督当局の責任
(1)ミスフィ・-ザンスという公務員の職務上の不法行為 先述のように,イギリスでは,免責規定を通じて監督当局の貴任を免 除・軽減するための法的措置が講じられているが,監督当局が権限の範囲 糾 外,または悪意で行動する場合にかかる規定の適用の余地はなく,監督上の 職務の遂行において悪意により行われる作為または不作為が主張立亘され 糾 る場合に限り,監僣当局に対する貴任追及が可能となる。そのため,BCCI の破綻に際してその当時監督当局であったイングランド銀行の責任の有無 紬II 糾糾糾 lbidat 385 1bid 公務員の職務上の不法行為に関する行政当局の資任の根拠を一般私法上の代位資任 の法理(vicalious nabmty)に求めるイギリス法において,公務員個人を被告として 損害賠償の訴えを提起することも理論上,可能であるとされているが,実際に公務員個 人を被告とする事案は稀である。岩井・・前掲注叫32頁以下。 lbid at 386。 lbidat 339Duncan Fajllglieve,State Liahmty in Tort : A Compallative L.aw Study, at 93 (2003)。
糾
が争われたThlee Rivers Distlict and others v。Bank of England 判決では,ネ
グリジェンスではなく,公務員の故意による不誠実な権限の濫用(deliberate 紬
and diShOneSt abUSe OflpOWer by a pUbliC OffiCer)を対象とするいわゆる‘ミ
スフィーザンス’という公務員の職務上の不法行為(t01t OflmiS恒aSanCe in
public office)に基づいて,規制・監督権限を十分に行使しなかったイン グランド銀行の責任を追及する訴えがBCCIの預金者らによって提起され 糾
ているのである。
(2)Three Rivers DistrictCouncil and others v. Bank of England (a)事実の概要
BCCISA(以下,「SA」という)は,アブダビ政府とBank ofIAmelica の出資を受けて,1972年・にルクセンブルク法に基づき設立,された法人で ある。 1974年・にBC.CI Holdings SA (以下,「Holdings」という)がルクセ
ンブルクにおいて設立されて以来,同社は,1975年にケイマン諸島で設 立,されたBCCIOverseas(以下,「Ovelseas」という)とともに,Holdings 鯛 の子会社であった。 1979年・銀行法3条(5)項により,主たる事・業所がイギ リス以外の国または領域にある機関については,当該国等の所轄の行政当 局がイングランド銀行に対し問題ない旨を通知し,他方イングランド銀行 が当該行政当局による監督の性質および範囲に問題がないとした場合に
糾lhree Rivels Distliet Council and othels vBank ofI England [199613 A11 ER 558
(QBD);[200012 wL.R 15 (cA);[200013AnERI(HL);[200112 An ER 513
(HL),森下・・前掲注(8)119頁,以下,弥永・前掲注叫38頁以下もまた参照。
叫Chelie Booth &Dan Squiles,The Negligence Liabmty of Public Authol・ities,at 754
(2006);RPCraig,Administrative Law,at 875-880 (4th ed 1999);Sue Arrowsmith,
Civil Liability andPublic Autholities,at 226 (1992),
細Singh,supl・a note 27, at 200 紹 BCCIは,わが国やイギリス,ドイツ,イタリア,米国等の13ケ国47拠点で営業 展開していたBCCISA,韓国,中国,フィリピン,フランス,インド,オマ・−ン, ケニア等の28ヶ国63拠点に展開していたBCCI Ovel・seas,およぴBCCIHKをはじ め28ケ国255の拠点に展團していた28の銀行から成るグループであ・った。長谷川俊 明「BCCI国際倒産事件(上)」国際金融1084号57頁(2002年)。 - 111 − 28−2−254(香法2008) 四 六
四五 銀行規制における監僣当局の責任(前原) は,イングランド銀行は事業の経営者および当該事業の健全性に関する同 法のSchedule 2 における基準が満たされているものとみなすことができる とされていたことから,1980年6月,イングランド銀行はSAによる銀行 業の免許申請に対し,当該規定に基づき,ルクセンブルク銀行委員会 (Luxemboul・g Banking Commission, 以下,「LBC」という)による監督に依
拠するかたちで預金受入機関とレての営業免許を同社に付与した。 1980年6月から1986年,12月にかけてBCCIグループの活動が急速に 拡大したことに伴い,LBCによるHoldingsの監督に依拠するだけでは十 分でないとレて,イングランド銀行がグループ全体を監督することやイン グランド銀行による監督の実効性を確保すべくイギリス国内に持株会社を 設立すること等の解決策が検討された。イングランド銀行の関係者間で交 わされた内部メモバmemol・anda)においてもSAの実質的な活動拠点はロ ンドンであり,イングランド銀行が事実上SAの主たる監督当局であるこ とが指摘されていた。 1986年5月,イングランド銀行はロンドンにある BCCIの中央資金部がディーリングで2億8,500万ドルに上る巨額の損,失 を被っていたことを知り,1989年・11月にイングランド銀行が銀行監督審 議会(Boald ofIBanking Supervision)宛てに作成した文書において,BCCI グル・−プの構造と現行の監督制度における重大な欠陥が明らかにされ,さ らに,1990年,1月にはフロリダ州のタンパでBCCIの役員にマネー・ロン ダリングおよび共謀の罪で有罪判決が下されたにもかかわらず,イングラ ンド銀行はSAの免許を取り消さなかった。 1990年・4月,BCCIの監査法人であるPrice Waterhouse は,アブダビ政 府からの支援表明を粂件として同社の決算書を承認した。ところが,同年 6月に,LBC,から規制・監督権限を引き継,いだルクセンブルク通貨庁 (L’lnstituteMonetaire Luxembourgeois : IML)およびケイマン諸島の監督
当局が,Holdings,SAおよびOverseasに対しそれぞれの国からの撤退を 通告し,同年,12月には,Price Watelhouse の調査により,BCCIの財政上 の問題は経営陣による詐欺的行為によるものであることが明らかになっ
た。 1991年・3月,イングランド銀行は,1987年・銀行法41条に基づき BCCI内部の不正,行為に関する調査および報告をPlice Watel・houseに命じ た。同年・7月,イングランド銀行は,BCCIに関するPtice Watelhouse の 報告を受け,SAを閉鎖すぺく同社の暫定清訴l人の任命を高等法院に申し 立てた。 SAの破綻によって損害を被ったイギリス国内における6,018名の預金 者らは,第一・に,1980年・の免許何与当時にはすでに同社の主たる事業所 はイギリス国内であったことから,イングランド銀行は法律違反を認識し ながら故意に免許を付与したこと,イングランド銀行は法律に従って行勁 することにつき無謀にも(recklessly)無頓着であったこと,イングランド 銀行は悪意によりならびに預金者に損害が及ぶであろう蓋然的な結果を認 識しながら,またはその結果の危険性を故意に無視して,またはその結果 につき無謀にも無頓着で法律に従って行勣していない可能性があることを 無視したこと,第ニ。に,同社への免許付与農も,イングランド銀行がルク センブルク当局による監督に依拠し続けたことは違法であり,預金者らに 対する損害発生の可能性を認識しながら,悪意によりSAの免許を取り消 さなかったこと,第三。に,1986年ヽ5月にBCCIが被った巨額の損,失, 1989年j1月にBC,CIグループの構造と監督制度の問題点を明らかにした 文古の存在,1990年・1月にBCCIの役員に対し下された有罪判決にもか かわらず,イングランド銀行はSAの免許を取り消さなかったこと,第四 に,1990年4月以降,アブダビ政府による款済がなければBCCIは破綻 するであろう深刻かつ差し迫った危機を認識しながらも,イングランド銀 行は悪意により預金者の利益を保護するための楷置を講じなかったとし 糾て,イングランド銀行に対し損害賠償を求めて訴えを提起したのが本件事 細 イングランド銀行による一・連の対応の不味さは米国においても認,識され。ており,
lohn Ke111yおよぴHank BI。wnの両上院議員は,イングランド銀行による監督はまっ
たく不十分であり,各国の規制当局による対応を遅らせることにな・ったと指摘する。
The B C C,I Affil・: A Repolt to the Senate Committee on FOleign Regulations, 102 nd
COnglleSS,2nd SeSSiOn (September 30, 1992,2 V01S)。
- 113 28−2一252(香法2008)