Carcinological Society of Japan Cancer 28: 71–75 (2019)
若手の会自由集会報告
テッポウエビ類の巣穴構造―巣穴形成と共生者による巣穴利用―
Burrow morphology of alpheid shrimps: Burrow construction and utilization by associates
邉見由美
Yumi Henmi
はじめに 海洋の堆積物底では生息場の確保と捕食回避のた めに,多くの甲殻類が巣穴を形成する.また,巣穴 は,夏の高温や冬の低温,豪雨時の低塩分など厳し い環境からの保護,脱皮や繁殖,摂餌の場となるな ど,多様な機能を持つ.今日まで,口脚目,等脚目, 端脚目,十脚目のコエビ下目,ザリガニ下目,ヤド カリ下目,アナエビ下目,アナジャコ下目,短尾下 目など,様々な分類群で巣穴構造の研究がされてい る(Atkinson & Eastman, 2015).構造物の乏しい堆積 物底において,甲殻類の巣穴は他の生物の住処とな ることも多い.このような住処をめぐる共生関係は 住み込み共生と呼ばれ,なかでも最も著名な事例と して,ハゼとテッポウエビの相利共生が挙げられる. テッポウエビ科は,これまでに45属,660種以上 が記載された多様性の高いグループである(De Grave et al., 2009; Anker, 2010).その生態は多様であり,巣 穴を形成する種や,石やサンゴ礫の下で暮らす種に 加え,他の無脊椎動物と共生する種も複数の属から 進化している(Bauer, 2004; Anker, 2010).これまで, テッポウエビ類の巣穴構造の研究は,共生ハゼの宿 主としてのテッポウエビ類の生態を把握するため, または,砂泥底における主要なベントスの生態解明 のために行われてきた(例えば,Karplus et al., 1974; Dworschak & Ott, 1993; Dworschak & Pervesler, 2002;Atkinson et al., 2003; Vonk et al., 2008).日本の干潟 域では,テッポウエビAlpheus brevicristatusの巣穴 構造について,歌代ほか(1976)によって,石膏を 用いた鋳型採取が行われたが,完全な鋳型の再現に は至っていない.本稿では,ポリエステル樹脂を用 いて本種の巣穴構造の再検討を行なったHenmi et al. (2017)をもとに,テッポウエビ類の巣穴構造に ついて解説する.詳細は原著を参照のこと.集会で は,住み込み共生からの視点についても紹介した が,その内容については原著論文を投稿中のため, 本稿ではごく簡単に述べる. 手 法 高知県土佐市浦ノ内湾にて,大潮の干潮時にテッ ポウエビの巣穴を選定した (図1).本調査地で, テッポウエビの巣穴にスジハゼ類が共生している様 子が何度か確認されているが,本調査時には確認さ れなかった.選定した巣穴に海中用樹脂透明化剤 (緑化学研究所製シールダー)とポリエステル樹脂 (緑化学研究所製デンネストに硬化剤パーメックN を2%加えたもの)を流し込み,翌日,巣穴の鋳型 を掘り起こした.鋳型は4, 5日以上乾燥させた後で 写真撮影を行い,セラミックブラシ等によって周り の付着物を取り除いた後計測した.鋳型の計測は, ノギスやメジャーを用いて巣穴の直径,巣穴全体の 長さ,巣穴の水平方向の広がり,巣穴の深さ,巣穴 の最小幅,分岐数を計測した. テッポウエビAlpheus brevicristatus の巣穴構造 その結果,9個のほぼ完全な巣穴鋳型の採集に成 京都大学フィールド科学教育研究センター舞鶴水産 実験所 〒625–0086 京都府舞鶴市長浜番外地
Maizuru Fisheries Research Station, Field Science Educa-tion and Research Center, Kyoto University, Nagahama, Maizuru-shi, Kyoto 625–0086, Japan
功した.典型的なテッポウエビの巣穴構造を図2に 示す.テッポウエビの巣穴が複数の漏斗状の巣穴入 り口をもち,水平方向に長いものの,浅い構造をも つことが明らかになった(Henmi et al., 2017).採集し た巣穴の深さは13.8±3.6 cm(平均±SE),全長は, 132±42.3 cm,水平方向の広がりは,最小41.0×26.5 cmから最大95.0×34.5 cm(60.0×30.9 cm)だった. また,巣穴の入り口数は3.4±0.9個だった. 歌代ほか(1976)が福島県松川浦干潟において採 取した石膏による巣穴鋳型は全長32 cm,深さ18 cm が最大であり,本研究で得られた樹脂の鋳型よりも, ずっと短い構造であった.それは,石膏が海水中で 固まりにくいため,歌代ほか(1976)の鋳型が不完 全であったためであると考えられる.しかし,巣穴 が浅いことは,歌代ほか(1976)による石膏の鋳型 も,樹脂による鋳型も共通しており,テッポウエビ の巣穴の特徴であることが確認された.また,本研 究では,テッポウエビの巣穴には複数の巣穴入り口 があることが確認された.水平方向に広がりがあ り,複数の巣穴入り口があることは,摂餌や廃棄物 除去のためにテッポウエビが堆積物表面へのアクセ スすることを容易にすると考えられる. 他のテッポウエビ類の巣穴構造 これまで樹脂採集されたテッポウエビ類の各巣穴 構造のパラメーター(深さ,全長,水平方向の広が り,トンネル直径,巣穴入り口の数,ペアの巣穴開 口部,網目構造,生息地,堆積物)を抽出してまと めた (図3, 4).とくに,共生ハゼの有無の記述に着 目し,ハゼが共生していたテッポウエビ類,ハゼと 共生していないテッポウエビ類とで区別した. 巣穴形態は,巣穴の深さや長さ,巣穴入り口の数 など,変異が大きいことが明らかになった.生息地 や堆積物の種類のほか,共生ハゼの有無も巣穴構造 に影響を与えると考えられた(Dworschak & Ott, 1993). テッポウエビ類には分類学的混乱があることから種 同定の疑問が残るものの,同種でも巣穴形態の変異 がみられる場合もあった.例えばA. floridanusやA. heterochaelisの巣穴形態は,研究例によって,網状構 造を持つとするものと(Shinn, 1968; Howard & Frey, 1975; Basan & Frey, 1977),持たないとするものが 図1. 高知県浦ノ内湾の干潟で観察されたテッポウエビAlpheus brevicristatusの巣穴開口部.
テッポウエビ類の巣穴構造
あった (Dworschak & Ott, 1993).
共生者が巣穴構造に与える影響
共生ハゼの有無によって巣穴形態が異なる例も
あった.例えば,ベリーズのAlpheus floridanusはテッ
ポウエビ単独の場合,深さ20 cmのU字型の巣穴で
あったが,ハゼと共生していたものは,深さ40 cm
でY字型をしていた(Dworschak & Ott, 1993).ただ し,この違いはハゼの有無だけによるのか,環境条 図2. テッポウエビAlpheus brevicristatusの巣穴鋳型.図の上は横から,図の下は上部から見た鋳型を示す.
三角は巣穴開口部を示し,白い三角はペアの開口部であることを示す.Henmi et al. (2017) Fig. 2より日 本動物学会の許可を得て転載.
図3. ハゼと共生していたテッポウエビ類の巣穴鋳型.(A) Alpheus bellulus.(B) A. crassimanus.(C) A. djiboutensis 1.
(D) A. djiboutensis 2.(E) A. floridanus.(F) A. floridanus.(G) A. macellarius.(H) Alpheus sp. A.(I) Alpheus sp. B.スケールバーは10 cm.(D) (H) (I)は立体図.テッポウエビ属は分類学上の問題があるため,引 用論文に記述されている種名をそのまま用いた(アンカー(2000)を参照).Henmi et al. (2017) Fig. 3よ り日本動物学会の許可を得て転載.
件や宿主のサイズによる違いなのか不明だった.そ こで,テッポウエビとツマグロスジハゼを対象とし て,住み込み共生が巣穴形態に与える影響を実験的 なアプローチから調査した.その結果,ハゼによる 巣穴の撹乱から巣穴形態が変化している可能性が示 唆された(投稿準備中).今後は巣穴構造が共生関 係の特性に与える影響について明らかにする必要が ある. 謝 辞 大土直哉先生(東京大学大気海洋研究所)ならび に太田悠造先生(山陰海岸ジオパーク海と大地の自 然館)には本稿発表の機会をいただいた.本稿のも ととなった論文において,高知大学海洋共生生物学 研究室のみなさまにご協力いただいた.また,高師 和茂氏(緑科学研究所)にはポリエステル樹脂に関 する有益な知識をご提供していただき,奈良正和先 生(高知大学理学部)には貴重な論文の入手にご協 力していただいた.皆さまに感謝申しあげます. 引用文献 アーサー・アンカー,2000. ハゼと共生するテッポウ エビ属の分類学上の問題.I. O. P. Diving News 11: 2–7.
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Henmi, Y., Fujiwara, C., Kirihara, S., Okada, Y., & Itani, G., 図4. ハゼと共生していなかったテッポウエビ類の巣穴鋳型.(A) Alpheus brevicristatus.(B) A. floridanus.
(C) A. glaber.(D) A. heterochaelis.(E) A. heterochaelis.(F) A. heterochaelis.(G) A. cf. macklay.(H) A. migrans.
スケールバーは10 cm.テッポウエビ属は分類学上の問題があるため,引用論文に記述されている種名を
テッポウエビ類の巣穴構造 2017. Burrow Morphology of Alpheid Shrimps: Case
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