理学療法学 第
20
巻第2
号100〜 105
頁 （1993
年）報 告
松葉杖
を
用
い
た
階段昇 降時
の
エネ
ル
ギ
ー
消費
と
効 率
＊潮 見 泰 蔵
＊＊黒 澤 和
生
中 山 彰 博 丸 山 仁 司
安 藤
正 志
小 坂 健
二 要旨 本 研 究では，
健 常 成 人 男 性7名 を対 象に，
10m ／min，
15m ／min の各速 度に よる松 葉 杖 を 用いた階 段 （勾配30
°） 昇降 時の酸素 摂取量お よ び心拍数を測定し， 効 率 値 を算 出することに よ り， その生体負 組度と効率にっ い て検討した。 酸素摂取量・
心拍数は，
下 降時よ りも上昇 時の ほ うが高値を示し，
昇降 速度の増加によ る酸素 摂取量・
心拍数の増加の割合も上昇 時の ほ うが大き かっ た。 ま た，
昇 降動作全体 の酸 素 摂 取 量と心拍数の間には有意な正の相 関が み ら れ た。 上 昇に対する ド降の酸素 摂 取量の 比は松 葉 杖を使用し ない階段昇降の場合よ り大きくなっ た。 効率値は，
上昇時に は特に仕事に対するエ ネルギー
の損 失が大 き く，…
般 的な身 体 運 動と比 較して低かっ
た。 松 葉 杖を用いた階 段の昇 降は，
日常の種々 の 身 体 活 動と比 較して，
生 体 負 担度は著しく大きく，
効率は低い こと か ら，
臨床場面で は十分な配慮が必 要と考 え られた。 キー
ワー
ド 松葉 杖，
階 段昇降，
効 率 は じ め に 階 段 昇 降は，
種々 の 日常 生 活 動 作の中で比 較 的 高い生 理的強度を もっ ことは経 験 的にもよく知 られてい る。 障 害者や高 齢 者に とっ て，
階段は移 動の上で大 きな障 害の一
っ であり ， しばしば，
こ の動作の遂 行 が 困難 とな るこ と が多い。 松葉杖は，
主 に ド肢障害者に よっ て使用さ れ る歩 行補 助 具の一
つ で，
体重の免荷， バ ラ ン ス の保持が その主な 目的である。 松葉杖を用いた階段昇降で は，
体重の支持 な らびに身 体の上 昇・
下 降には上 肢が大きく関与 する た め，
通 常の下 肢を交互に踏み出す昇 降 動 作と比べ，
生体 負 担度な ら び に その効率も異な る と推測される。’
EnergyCost an〔重Efficiency during Clirnbing Up and
Down Stairs with Axillary Crutche6
＊
’
埼 玉医科大学短期大学理学療法学科
Taizo Shiomi
，
RPT，
Kazuo Kurosawa，
RPT，
MabashiAndQ
，
RPT，
Akihiro Nakayama，
RPT，
Hitoshi Maruy−
ama
，
RPT，
Kenji Kosaka，
MD ：Saitama Medical School］unior College
，
Department of Physical Therapy（受 付日 ：1992年6月15 日／受理 日 ：1992年12月11日） これ まで に階 段 昇 降 時の エネルギ
ー
消 費ならびに効 率 に関する研究は比較 的多く行わ れて い る1ゆ が， 松 葉 杖 を用いた階段 昇 降動 作 に 関 す る 研究は少な い。 Fisher ら5）は， 蹴上19cm
の階段の ヒ昇を毎分16
段と毎分24
段の速度で松葉杖を 用いた場合と用いない場合につ い て 各々の生理的反応を比較した。 その結果，
松葉杖を用い ない通 常の階 段の上 昇 時と比較して，
松 葉 杖を用い た ヒ 昇 動 作で は毎 分 16段で 58％，
毎 分24
段で 62％ のエ ネ ルギー
の増 加が み られた と報 告して い る。 しか し，
こ の 報 告で は具 体 的な昇 降方法に は言 及されて お らず，
また 階段の ド降にっ いて は検 討 されていない。 そ こ で，
本 研 究で は松 葉杖を用い て階 段の上昇 及び下 降 動 作を行い，
それぞ れの作 業に対する生体 負担度な ら びに効 率にっ い て検 討した。 対 象 被験 者は健常成人男 性7
名で，
平 均年齢は31．
3
± 5．
9 歳 （23〜
40 歳）， 平均身長は 171．
6土 5．
3cm （164〜
180cm ），
平均体重は62．
1
±2．
7
kg
（56 〜65
kg） で松葉 杖を用いた階段昇降時の エネルギ
ー
消費と効率 101 あっ た。 被 験 者は，
こ の実 験のため に特別 な トレー
ニ ン グ は行 っ ていない。 各被験者と も， 食後2
時間 以上経 過 後に実 験 を行うこ とと し，
実 験前に は 過激な運 動を避 け るように指 示 した。 また，
被験者全員に対して，
予め実 験の主旨を説 明し， 同意を得た。 方 法運動謀題は松葉杖を用いた階 段の昇 降である。 本実験 で は階段昇降動 作 をエ スカレ
ー
タ によ り模倣する方法を 用いた。 すなわち，
被 験 者はエ スカ レー
タ上にその移 動 方 向 と は逆 向 きに乗るこ とに よ り，
階段の．
．
ヒ昇また は下 降 動 作を反 復 する こと とし た。 昇 降 速度は 10m ／min （垂 直 移 動 距 離 が5m
／min で，
1 分間に 25段L
昇また は ト1
降 する） と15m
／min （垂直移 動 距 離が 7．
5 m ／min で，
1
分間に37
段 ヒ昇ま たは下 降 する）の 2 段階と し た。 昇 降 方 法は，
階 段の上 昇時で は， 足部の両 脇に杖をっ き両 手を押 し下 げるよ うに して両下肢を振り出し上段に 両 足 を乗せ，
杖を再び 足部の両脇に戻す までを，
また，
下 降 時で は杖を下 段に降ろ し，
上肢で杖を保持しなが ら 両 足 を降ろ す までを そ れ ぞ れ一
動 作と し た （図 1）。
各 被 験 者に対 し
，
あ らか じ めエ ス カ レー
タ．
1
：で松葉杖 に よ る ヒ昇動 作と下降動 作を ト分 練 習 させ た後，
測定を 開始し た。 被 験者は5
分 間の安 静 座 位 を とっ た後，．
ド降 動作にっ い て IO m ／min，
15m ／min の順に，
続い てエ スカレー
タの移 動 方 向 を逆 転させ， 被験者は進行方向を 逆に して，
上 昇 動 作につ いて 10m ／min， 15
mfmin の 順に4段階を連続して行っ た。 各段階で の運 動 時 間は 4 分間と し た。測定項 目は
，
酸 素摂取 量 （VO2
），
心 拍 数 （HR ）であ る。
▽02の測定に は，
マ ス ク を用いた呼 気 採気 法に よ り
，
呼気ガス分析シス テ ム OXYCON BETA （MIJNH−
ARDT
，
Holland ）を用いた。 HR の測 定は，CM5
誘 導 に よ りテ レメー
タ心 電計（ECU
−
10フ ク ダ 電 子）を使 用し た。 運動開始前に
，
被 験 者はマ ス クを装 着し，
胸 部 に電 極を貼 付し た後，
階 段 ヒで座位に て 5分 間の安 静 を とっ た。VO2
は，
安 静 時 を 含め運動 開始か ら最 終 段 階 の終 了まで連 続 的に測定し， 各段階の最 後の 1分 間の平 均 値を代 表 値 と した。
HR も同様に，
安 静 時を含め運 動 開 始 から最終 段階の終了まで連 続 的に測 定 した。 各 負荷 段 階の終了前30
秒 間を記 録し，
5拍の R−
R 間隔を測 定 し， その平均値を代表値と し た。使用 し たエ ス カレ
ー
タ は，
日立製 作所 1200EC−UN
で傾斜角30
° で蹴E
（riser ）20 cm ， 踏面 （tread） 35 cm で ある。 エ ス カ レー
タ は法定 速度で40
m ／min と定 め ら れて い る ため，
本 実 験で は電 源 周 波 数イ ン バー
タ （日立インバー
タHFC −VWG
）を用い て移 動 速度を変 化させ た。 ま た，
速度の較正 はエ スカ レー
タの手 すり部 分で 専用の タコ メー
タ を用いて，
速度を変え る ご とに 行っ
た。 また松 葉 杖の長 さは各被 験者の身 長に合わせて 調節した。 っ ぎに，
垂 直移 動に よ る仕事に対するエ ネル ギー
消 費 量の比を求める ことに より効 率，
す な わ ち筋の機 械 的効 率を算 出 した。 効 率は，
粗効率 （GE
lGross
e伍cien−
cy ）およ び真の効 率 （NE ：Net
emciency ）につ いて， Gaesser とBrooks6）の 報告し た式 を 用い て算 出し た。 エ ネル ギー
へ の 換算は各 段 階の 1分 間の呼吸商 （RQ
） の平均 値か ら021 ゑ に等 価の エ ネル ギー
を求め るこ と に より算 出 した7） 。 な お，RQ 需1
以上の場舎に は0216
を5．
05kcal
として計算し た。 図 1 実 験 風 景 （松 葉 杖に よ る階段の下 降時）GE ・
・
Wt
／Et
×100
NE＝
：
Wt
／ （ErEr
）× 100Wt
：機械 的仕事 E，：安静レベ ル を含む全 消 費エ ネル ギー
Er
：安静時の消費エ ネル ギー
結 果安 静時 の
VO2
，
HR は，
そ れ ぞ れ3，
7
±0．
72 ml ／kg
／min，
81．
3± 2．
70 beats／min で あっ た。表
1
に各 段 階のVO2
，
METs （運動 時のVO2
／安 静 時のVO2
），
HR，
△HR （運 動 時の HR一
安静 時の HR ） の平均 値， 標準偏 差を示 す。 上 昇 時・
下 降時の い ず れの102 理学療法学 第 20巻 第 2号 表 1 各段階にお け る酸素摂取量と心拍数の平均値と標準偏差 昇 降 速 度 10m ／min l5m ／min 有意水準
VO2
（ml ／min ／kg
） METs HR 〔beats
／min ） △HR （beats／min ） 降 昇 降 昇 降 昇 降 昇 下 上 ド 上 下 上 下 上12．
8
±1．87
20。
O±2．
30 3．
5：ヒO．
56 5．
5」：0．
87 117．
3
±7．
O
l33．3
±9，
4 36．
0± 14．
8 52．
0±13、
716，
0
±2．56
27．
6：ヒ2．
26 4．
4±O．
65 7，
6±1．
17 129．
9
±7，
1151．7
±11．5
48．
6±10．
1 70．
4±14．
9 pく0．001
0，
001 0．
OOI O．
0010，01
0．001
0．
01 0．
OOl 表2 各段階における運動の効率の平均値と標準 偏差 昇降速度 10m ／min l5n1／min 有意水準GE
（％） NE （％） 降 昇 降 昇 下 上 下 ヒ一
上9．1
±2．58
12．0
±1．
23〜
27．
1±4．
14 14．
8±1，
60一
23．
0
：辷3．67
12．
8
±1．15
−
30．
2±5．
24 14．
7± 1．
28 pく0，
01
0，
01
0．
05 nsGE
；粗効率，NE
；真の効率， ns ；not significant 17〔｝ 信 ミ 150 籌書
巍 130零
110 90 ■ o Y＝
1．
80X十98．
62 r≡
0．
71（pく0，
01） 812 16 20 24 28 32 酸 素 摂 取量 （ml ／min ／kg｝ 図 2松葉 杖に よ る階 段 昇降時の酸素 摂取量 と心 拍 数の 関係 場 合も速 度の増加に ともなっ て
，
†02な らびにHR
は 増加を示し た ［上昇 時；VO2
：t＝
10．
26
（pく0．
001
），
HR ；t＝
7．
68
（p＜0．
001
），
下 降 時 ；VO2 ：t＝
6．
09
（p ＜0・
001
），HR
：t；
4．
77
（pく 0，
01）］。 同 様に，
METs ，
△HR
の値 も増 加を示した ［上昇 時； METs ：t＝ 13．
61 （p＜0．
001
），
△HR ：t＝
8．
86 （p＜O．
OOI
）， 下 降時； METs ：t＝
＝
6．
47 （pく 0．
GO1），
△HR ：t≡4．
68
（pくO．
Ol
）〕。しか し
，
速 度の増 加にともなう下 降時のVO2
の増 加の割 合は，
上 昇 時のそ れに比べ小さ かっ た ［上昇 時 VO2 （15−
10） VS 下 降 時VO2
（15 − 10
） ；t＝ ＝5．
62
（p＜0．
01
），
上昇 時HR
（15− 10
）VS
下降時HR
（15 − 10
） ：t＝4．
12
（pく0．
Ol
）］。
図
2
に階 段 昇降時のVO2
とHR の関係 を 示 す。
VO2 とHR
との 聞に有意な相 関が認 めら れ た （n＝
28， r≡
0．
71，
P
＜O．
01
）o っ ぎに，
松葉杖を使用 した階段の上昇時に対 する ド降 時のVO2
の比 を求めた 結 果，
10 m ／min で は63．
7
± 4．
0％，
15m ／min で は 57．
5± 5，
5％ と な り，
両速度の 間に有意 な 差 が 認められ た （t− 3．
40，
p＜ 0．
05
）。表 2に各 段 階の粗 効 率と真の効 率の平均値
，
標準偏差 を示す。
効 率，
す な わ ち，GE
ならびにNE
の絶対 値は いずれ も上昇よ りも下降の ほうが高い値 を示 した。 ま たGE
お よ びNE
は，
上 昇・
下 降 と もに昇 降速 度の増 加に 伴っ
て， 効率は高くな る傾 向が み ら れ た。 GE は，
上昇 お よ び下 降 時の10m
／min と15m ／min との間に有 意な差が 認 め られた ［下 降 ；t＝5．
42 （p
＜ O．
Ol
），
上 昇； t・＝5．
43
（p＜o．
01）］。
しか し，
NE につ い て は，
下降時 に は両速度の間に有意な差が認め ら れ た が，
上 昇 時に は 有 意な 差は認め られ な か っ た ［下 降；t・
12．
64
（p＜0．
05
），
上 昇 ；t＝
0，
12］。松 葉 杖 を用いた階 段 昇 降 時の エ ネル ギ
ー
消 費と効 率 103考
察i
） 酸 素 摂 取 最お よ び 心拍数につ い て一
般 的な階 段の上 昇 速 度は 40m ／min，
下 降速度は 45m ／min 程 度で行 わ れてお り8），
松 葉 杖を用いた階段 昇 降動作は当然これよ りも遅い。
大 道 らは，
本 実 験 と同 様，
エ ス カ レー
タ を 用いて 階 段 昇 降をシ ミュ レー
ト し，
通常 行われている両下 肢を交 互に振り出す 昇 降様式にっ いて，
10，
20，
30，
40 m ／min の各 速 度で階 段の．
上昇 時とド降 時の生理的反応 を比較してい る1）。 本 霙験で は，
昇 降 速 度 を 実 験 的に 10m ／min， 15
m ／min の2
段 階 に設 定し た が，
実 際の松葉杖に よ る昇 降で は，
20m ／ min を越え る速 度での昇降は困 難であると考 え られる。 20m ／min 以 ドの速 度の範囲 につ いて，
大 道 らの結 果 と比較する と，
本実験で行っ た松葉杖を用いた昇降で は，
VO2
お よ びHR はいずれ も高い こ と が わ か る。 特に，15nl ／min で の 上 昇時の
VO2
が27．
6
mi ／min ／kg
（7．
6METs
）と高い 運 動 強度を示し た。 この ように， 1 分 間に 25〜
37段 （垂 直 移 動が毎 分5〜
7．
5m ）程度の 緩 徐 な．
ヒ昇 速 度であっ て も，
松 葉 杖 を用いた階 段の上昇 で はVO2
と同様， HR の著しい上昇が み られ， 心負荷 の大きい ことが明らか と なっ た。 これに対し，
階段の下 降で は，
物理 的 負荷 量は減 少 する にもか か わ らず， VO2 に比べ，
HR
は高値を示し た。 ま た，
ヒ昇と ド降で は，
昇 降 速度の増加によ るVO2
ならびにHR
の変化の 割 合は それ ぞ れ異なるが， L
昇・
下 降 動 作 全 体につ い て み ると，
VO2
およびHR
の聞に有 意な相 関 が み られ た。．
ヒ昇・
ド降 時ともに，
心 拍 数が高 値を示し た理 由と し て，
ヒ肢の関 与による影 響 が挙 げ られる。
同一
の運 動に 対するL
肢と下肢の関 係をみ ると，一
定のVO2
に対 す る心拍数は下 肢の筋作 業時よ りも上肢の 筋作業 時の方が 高い こと が知られて いる9）10）。 これ は，
muscle mass の 小さい筋 活 動の方が交 感 神 経 系の刺 激が増 すた め と考え られて い るII）12）。
し か し，
E
ド肢の筋や体 幹 筋な どの多 くの筋 群 が活 動に参 加 する場 合に は，
作 業 中の交 感 神 経 の緊 張は各 作 業 筋 群へ の負 荷 強 度の配 分 方 式に よっ て決 定される10）。 松葉杖を用いた階段の昇 降は，
四肢 を用い た動 作で あ るが，
身 体の挙 上・
降 下および体 重の支 持に 対 し上 肢の関与が大 きい。 すなわ ち，
上 肢により，
体 重 を支持する相 （肘の伸 展や肩の屈 曲によ る強い筋 収 縮 を 必 要とする）と杖を元の位 置に戻 す 相 （こ の時に はあ ま り強い筋 収 縮 を 必 要としない） を 繰り返 して行 う断 続し た動 作で ある。
こ の体 重を支 持 する相で はさらに下 肢を 前方に振 り出 すた めに両 股・
膝の屈 曲を保 持 する必 要が ある。 し た が っ て，
こ の動 作で は，
昇降速度の増 加に よ り，
機 械 的仕 事が増 加 し，
それに比 例 してエネル ギー
は 増大する。一
方， 昇 降速度が遅い場合には， 体重を支持 する相において， 上．
ド肢によ る姿勢保 持の際の筋 収縮が 等尺性収縮に近くなり， こ の筋緊張の維持のた めの エ ネ ルギー
が増加 す る と考え ら れ る。Karpovichi3
），
Benedicti4
〕 らは，
階 段のE
昇 時と下 降 時の エ ネルギー
消 費の比を 3 ：1，
すな わ ち ド降はL
昇の 1／3
の エ ネルギー
で済 むとして いる。
これに対 し て， 本実験で得ら れ た松葉杖を用いた階段の上昇に対す る下 降の酸素摂取量の 比は，10m
／min で は63．
7
％，
15m
／min で は57．
5
％ と各速度と も高値を示し，
し か も速 度が遅い場 合の方が高 くなっ た。 こ の こ と は，
本 実 験で設 定し た速 度が，一
般 的な階 段の昇 降 速 度に比べ て 遅い ことによるもの と考え られ る。 松葉杖 を用いた階段 の下 降で は，
速 度が遅 くな るに した が っ て，
重 力によ る 身体の降下に対して， 主 と して ヒ肢に よ るブレー
キ作用 が大 きく な り，
この間の消費エ ネル ギー
が大き く な る結 果，
上昇に対する ド降の酸素摂 取量の比は高値と な る と 考え られ る。 ii）効 率につ い て 階 段 昇 降 動 作は，一
ヒ昇は主 動 筋である大 腿四頭 筋の求 心 性 収 縮に よっ て な さ れ る正の仕事 （positive work ） であり，
下 降で は同筋の遠 心 性 収縮に よっ て な さ れ る負 の仕 事 （negative work ）であ り， 後 者は前者に比べ，
高い効率を示す15）。 日常 行わ れ る階段 昇降動作で は，
昇 降速 度の増加に伴い，
効率の 上 昇が認め られ る。 大 道 ら に よ れ ば，
昇 降速度が 10〜 40m
／min の範囲で は，
lt
昇 時のGE
が 15〜 23
％，
NE
が20 〜
25％，
また．
ド 降 時の GE が一
32〜−
75％，
NE が一
73〜−
114％ と報 告 されて い るD。
これに対 し，
本 実 験で行っ た松 葉杖を 用いた階段昇 降動作で は， 速度の 増加に よ り効率は上 昇 する傾 向が み られた が，
1
二昇 時のGE
が 12〜
13％，
NE
が15
％ で，
ド降のGE
が一19〜− 23
％，
NE
が一27
〜− 30
％ とGE ，
NE
はいずれ も低 値で あっ た。 し か し，
通 常の階 段 昇 降 動 作と同 様，
松 葉 杖を用いた階 段 昇 降の 場 合も， 下 降 時の効 率 （絶 対 値 ）はE
昇 時に比べて高 く，
し か も，
速度の増加によ る効 率の変化の割 合が ド降 時に 比べ，
上 昇 時で は小さくな る傾 向は…
致 して いた。一
般的な身体運動にお け る効率の値は，
20〜
30％ 程 度であり，
運動の種類 （運動様 式や身 体 部 位 ）により変 化す る16）。 ま た，
作業に参加する筋量や筋群の数が多 く104
理 学 療 法学 第20
巻第2
号 なると効 率は高 くなるゆ。
階段昇 降は，
通常，
交互に振 り出される両下肢の運動の みによっ て仕事が な さ れ るの に対 し，
松葉 杖 を用いた場 合には，
前 述のように，
上 肢 と下 肢に よ る運動の組合わ せで行わ れ る。 参 加 筋 群 およ び筋量 は 後者の ほ うが 当然 多 く な る が，
身 体の挙上 およ び降 下 とい う仕事に対して は，
主に上肢の運 動の 占め る 割合が大き く， 下 肢によ る運 動が仕事に変 換 さ れる割 合 が小さい もの と考え られ る。 ま た，一
段 毎，
上 昇 時には 杖を引き上げ，
下 降 時には杖を振 り出 す 上 肢の運 動は，
直接仕事には変換されずエ ネルギー
の損 失と な るた め，
効率は低 値を示 した もの と解 釈できる。
しか し，
臨床場 面で は，
松 葉 杖に よ る階 段昇降の よ うに日常馴染みの な い特 異な動 作で は，
特に動 作の反 復に よ り習熟が進むに っ れて，
スキルが向上 し，
運 動に要するエネル ギー
の減 少が起こ る こと （motQr fitnessの発 現 ）が知られてお り1T），
その結 果，
効 率は更に上 昇 するもの と推察さ れ る。 ま と め 本 研 究で は，
健 常 成 人男性7
名を対象に，
松葉杖によ る階 段 昇降 時の生体負担度と効率にっ い て検討し た。
エ ス カ レー
タ （傾斜3
げ）を用いて階段 昇 降 を 模 倣 し，
10 m ／min，
15 m ／min の各速度に よ る上昇・
卜降 時の 酸素消費量， 心拍数を測 定し た。 ま た，
仕 事 （身 体の挙 上お よ び降 ド）に対するエ ネル ギー
の比を求め ることに より，
効率を算出し た。 昇 降 速 度の増 加に と もな って，
E
昇 時お よ び下 降 時の酸 素 摂 取量，
心拍 数は増 加を示し，
上昇・
下降動作全体の酸 素摂 取 量と心 拍 数の問に は有 意 な相 関が み られ た。 ま た，
下 降 時に比べ， L
昇 時の方が，
速度の増加によ る酸 素 摂 取 量な らびに心 拍 数の増 加の割 合が大きくな る傾 向が認められた。
さらに，
L
昇に対す る ド降の酸素 摂 取 量の比は，
速 度の増 加によ り低値を示 した。 効 率で は，
絶 対 値で み ると，
上 昇 時よ りも ド降時 の ほ うが高い値を示し，
前 者の場 合，
仕事に対す るエ ネ ルギー
の損 失 が 大 き く，一
般的 な身体運動に比べ，
低値 であっ た。 松 葉 杖 を用いた階段昇 降で は，
昇降速度は遅 いが，
日常の種々 の身 体 活 勁と比 較して，
生体へ の負担 度は著しく大き く，
し かも効 率が低い動 作であることか ら，H
常生 活や訓 練 場 面で は十 分な配 慮が必 要で ある。
本 研 究の要 旨は，
第46
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il}ffN[veML･if:lveee#vaH"O=*)VV-?NWLblJ*
105
<Abstract>
Energy
Cost
and EMciencyduring
Climbing
Up
and
Down
Stairs
withAxillary
Crutches
Taizo
SHIOMI,
RPT,
Kazuo
KUROSAWA,
RPT,
Masashi
ANDO,
RPT,
Akihiro
NAKAYAMA,
RPT,
Hitoshi
MARUYAMA,
RPT,
KenjiKOSAKA,
MDSaitama
dedical
School
junior
College,
Department
oj'7thysical
TFierapy
The purpose of this study was to examine the physiological cost and ernciency
during
climbing upldown stairs with axillary crutches.
Seven
healthy
adult maLes were asked toascend/descend the escalator
(gradient:30")
using crutches of which speed was set10
and'
15
mlmin, and theiroxygen uptake(V02)
andheart
rate(HR)
were recorded.It
wasfound
thatboth V02 and HR
during
climbing up stairs were higherthan thoseduring
climbing downstairs. There was a significant positivecorrelation
between
VOz
andHR
throughout theexper-imental period. VOz ratio climbing
down
stairs to climbing up stairs with crutches becamelargercompared with that without crutches, The energy lossduring climbing upfdown stairs with crutches, particularlyduring climbing up stairs, was biggercompared with general
phys-icalmovernents, resulting in lower eMciency, Itwas concluded thatclimbing up/down stairs
causes
higher
physiologicalcost and lower eMcienc'y compared withdaily
physical activities,This suggests that careful consideration would be necessary forapplying thesemovements to clinical treatment.
