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ヒトへの感染形式 潜伏期間など RS ウイルスは接触感染あるいは飛沫感染によってヒト~ヒト間を伝播する 病原体曝露後の潜伏期間は 3 ~ 日間程度であり 鼻粘膜に到達し増殖したウイルスにより通常は上気道炎症状が先行して出現し さらに進展すると下気道感染症を発症する 罹病期間は通常 1

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はじめに

 RS ウイルス(respiratory syncytial virus)は小児 科領域では細気管支炎、肺炎の代表的な原因病原体 のひとつであるが 、従来は免疫不全等を伴わない 成人例における病原性は低くせいぜい上気道炎を起 こす程度の病原体と考えられてきた。しかし近年で は成人の RS ウイルス感染症は実は決して稀ではな いこと、また高齢者や心肺疾患患者にとってはイン フルエンザワクチン普及地域におけるインフルエン ザと同程度の疫学的重要性を有する気道病原性ウイ ルスであることが明らかになってきている1)  成人の RS ウイルス感染症はインフルエンザのよ うな初期からの高熱や強い全身症状は示さないこと から、成人例を臨床像のみから早期診断することは 必ずしも容易ではない。しかし今日では地域のウイ ルス検査施設や衛生研究所等からのウイルス分離状 況が週報レベルで容易に確認可能となっており、さ らに電子カルテであれば自施設における小児科領域 での診断状況などもほぼリアルタイムで把握が可能 なため、流行時期を適切に察知することは以前より もかなり容易になっている。また流行期において積 極的な検査診断を試みていくと、国内においても高 齢者ではかなり多くの肺炎症例に RS ウイルスが関 与していることが少しずつ明らかになってきている。

Ⅰ. 総論的事項

1. 病原体  RS ウイルスは 1956 年にまずチンパンジーから分

成人の RS ウイルス感染症

Respiratory Syncytial Virus Infection in Adults

話題の感染症

たか

 橋

はし

   洋

ひろし Hiroshi TAKAHASHI 坂総合病院 副院長 呼吸器科

Department of Respiratory Medicine, Saka General Hospital (16-5 Nishiki-cho, Shiogama-shi, Miyagi)

離され、その翌年に初めてヒトから分離された気道 病原性ウイルスであり、その名称は培養細胞系にお いて特徴のある合胞体を形成することに由来してい る。本病原体はパラミクソウイルス科に属する一本 鎖(-)RNA ウイルスである。パラミクソウイルス 科にはムンプス、麻疹のほかにパラインフルエンザ ウイルス(PIV)、RS ウイルス、ヒトメタニューモ ウイルス(HMPV)などの代表的な気道病原性ウイ ルスが含まれているが、本病原体はパラミクソウイ ルス亜科に区分される麻疹、ムンプス、パラインフ ルエンザウイルスとは異なるニューモウイルス亜科 に位置しており、分類学上はヒトメタニューモウイ ルスにかなり近い病原体とされている(表 1)。また ウイルスの表層には G 蛋白と F 蛋白が発現してお り、主に G 蛋白の抗原性の違いにより大きく A 群 と B 群に区分されている。A 群と B 群に感染した 場合の臨床像には顕著な相違はなく、両者は独立し た流行を繰り返すが、流行時に多数派を占める株は 数年毎に交代することも報告されている2) 表 1 RS ウイルスの分類学的な位置づけ パラミクソウイルス亜科(Subfamily Paramixoviridae)   レスピロウイルス属(Respirovirus)

    Human parainfluenza virus type 1     Human parainfluenza virus type 3     Sendai virus

  ルブラウイルス属(Rubulavirus)     Human parainfluenza virus type 2     Human parainfluenza virus type 4a & 4b     Mumps virus

  モルビリウイルス属(Morbillivirus)     Measles virus

ニューモウイルス亜科(Subfamily Pneumovirinae)   ニューモウイルス属(Pneumovirus)

    Respiratory syncytial virus

  メタニューモウイルス属(Metapneumovirus)     Human metapneumovirus

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2. ヒトへの感染形式、潜伏期間など  RS ウイルスは接触感染あるいは飛沫感染によっ てヒト~ヒト間を伝播する。病原体曝露後の潜伏期 間は 3 ~ 5 日間程度であり、鼻粘膜に到達し増殖し たウイルスにより通常は上気道炎症状が先行して出 現し、さらに進展すると下気道感染症を発症する。 罹病期間は通常 1 ~ 2 週間、症状は 3 ~ 4 日目をピー クに改善してくるが周囲環境へのウイルスの排出自 体は症状改善後まで持続する。病原体は環境中では 失活しやすいために周囲への感染力は限定されてい るが、家庭内あるいは施設内などにおける小集団感 染はしばしば報告されている。また不顕性感染はほ とんどなく、曝露症例のうち 90%以上が顕性感染 を起こすことが知られている。感染により終生免疫 が獲得されることはなく生涯にわたって再感染を繰 り返す。本病原体は世界中に普遍的に分布している が、その発症頻度やパターンには国ごとにある程度 の相違がある3)。日本を含む温帯地域においてはか つては大部分の RS ウイルス感染症例は冬期に集中 的に発症するものと考えられてきた。しかし実際に は国内では RS ウイルス感染症の流行状況は 9 ~ 10 月ごろにピークを迎える年もあれば 3 ~ 5 月ごろに 多く発症する年度もあるなど、秋~春にかけて分布 してはいるが年度ごとに異なったパターンを示すこ とが明らかになっている。一方では熱帯地域におい ては雨期に流行をみることが多い。

Ⅱ. 乳幼児の RS ウイルス感染症

1. 病像  RS ウイルスは小児科領域における冬季の呼吸器 感染症の主要な病原体のひとつであり、生後 1 歳ま でに過半数が、2 歳までにはほぼ全例が初感染をう けることが知られている。これらの症例のうちで 30%が下気道感染症を併発し、1 ~ 3%が入院を要 するものと考えられている4, 5)。国内における年間 の入院症例は推定 2 ~ 3 万人程度、一般的には初感 染時あるいは若年での感染ほど重症化しやすく、再 感染時や学童期以降の感染時には比較的軽症に留ま る傾向がある。基礎疾患を保有する小児は重症化し やすい。ほとんどが呼吸器感染症として発症し、病 型は上気道炎から肺炎まで様々であるが、乳児期に は急性細気管支炎を起こして重症化する場合があ る。本病原体は細気管支領域に対する親和性が高く、 乳幼児期において未成熟な気管支~細気管支領域の 上皮細胞に感染が成立すると容易に気道粘膜の浮 腫、分泌亢進、繊毛機能の低下から気道の狭窄や虚 脱が生じて喘鳴を伴う細気管支炎の病態が成立する ものと考えられている。気道外病変としては中耳炎 の併発頻度が高いことが知られている。一般的な臨 床像としては発熱は 38℃程度で喘鳴や湿性咳嗽な どの呼吸器症状は一般に比較的高度である。 2. 診断と治療  鼻咽頭サンプルを用いた抗原迅速診断キットが小 児科領域での RS ウイルス感染症診断上の主役と なっている。保険適応上は適応が入院例に限定され ているが、簡便かつ迅速診断が可能なことから小児 科の現場では広く普及している。最近のキットはど れも 15 分程度で診断が可能であり、小児例におい ては感度 70 ~ 80%以上、特異性も少なくとも 90% 以上と良好な成績が得られている。ペア血清での抗 体価の測定は診断的価値自体は非常に高いが、一方 では重症化しやすい乳児期の初感染時などでは抗体 価の上昇が不良な場合が多く抗体価の測定のみでは 診断を見逃す可能性があることも報告されている。  治療は輸液、分泌物のドレナージ、酸素投与、細 菌感染の併発例では適宜抗菌薬の投与、といった一 般的な対応が基本となる。ステロイド併用の意義に 関しては有効性を示唆した報告はあるものの確実な 効果は証明されていない。抗ウイルス剤としては米 国では重症例や基礎疾患保有例においてはリバビリ ン吸入療法が認可されており、酸素飽和度の上昇や 入院期間の短縮など一定の有効性は示されている が、効果が限定的であることや副作用の問題もあり 普及はしていない。また国内では吸入剤の適応は認 められていない。予防に関しては抗 RS ウイルスヒ ト化モノクローナル抗体であるパリビズマブ(シナ ジス)が 2002 年に国内でも認可されている。適応 は①在胎 28 週以下の早産児(12 ヵ月齢まで)、② 在胎 29 ~ 35 週の早産児(6 ヵ月齢まで)、③気管 異形成症、④先天性肺疾患、⑤免疫不全、⑥ダウン 症(③~⑥は 24 ヵ月齢まで)となっている。本薬剤 はウイルスの流行期に月 1 回筋注を行う必要はある

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が、施行によって明らかな入院率の減少や酸素投与 日数の短縮が期待できることが報告されている。

Ⅲ. 成人の RS ウイルス感染症

1. 問題点  小児科領域と比較すると、成人領域における RS ウイルス感染症の疫学や臨床像に関しては未だ不明 の点が多く残されている。この理由としては、①小 児例と違って成人例では迅速診断キット等の陽性率 が低く診断自体が難しいこと、②小児例とは違って 成人 RS ウイルス感染症例は高度な喘鳴や細気管支 炎などの特徴的臨床像を呈さず他の感染症との鑑別 が困難であること、③有効な治療薬がまだ発売され ておらず、診断をがんばっても治療に結びつかない こと、④そもそも成人 RS ウイルス感染症の重要性 が広く認識されるようになってきたのが比較的最近 であること、などをあげることができる。 2. 一般的事項  近年では各種の報告により成人、とくに高齢者の 下気道感染症の原因菌としての RS ウイルスの重要 性が徐々に明らかになってきている6~ 12)。成人市中 肺炎中における RS ウイルス関連肺炎の頻度は文献 的には 1%未満から 10%以上まで報告による幅が大 きい。これは検査方法や診断基準などが報告ごとに 異なること、ウイルス感染症ではそもそも細菌感染 症とは違って年度ごとの発症率や流行状況にはかな りのばらつきがあること、などに起因するものと考 えられる。肺炎以外では、例えば慢性閉塞性肺疾患 症例の急性増悪のうち 6 ~ 8%程度が RS ウイルス 感染に起因するものと推定されている13, 14)。また高 齢者施設など限定された空間に多数の高齢者や心肺 疾患保有者が密集するような環境においては稀なら ず冬季に集団発症例が報告されており、いくつかの prospectiveな検討によると年間では平均して施設 入居者の 5 ~ 10%が RS ウイルスに感染し、発症例 のうち 10 ~ 20%が肺炎を併発、そして肺炎発症例 のうち 2 ~ 5%が死亡する、といった成績も提示さ れている7)  Falsey らは冬季 4 年間にわたって 65 歳以上の健 常高齢者約 600 例、慢性心肺疾患保有患者 500 例、 入院例 1400 例に関して RS ウイルスによる気道感 染症の発症頻度を prospective に検討している1) これによると 1 シーズンに健常高齢者の 3 ~ 7%、 慢性心肺疾患保有患者の 4 ~ 10%、呼吸器症状を 伴って入院した患者の 8 ~ 13%が RS ウイルス感染 症に罹患すること、健常高齢者では入院例はなかっ たが慢性心肺疾患保有者では RS ウイルス感染例の うち 16%が入院を必要としたこと、積極的に検索 した場合の RS ウイルス感染症例の入院率や人工呼 吸器装着率、死亡率は予防接種が普及している地域 におけるインフルエンザと同程度であったこと、発 症者数の年次変動はインフルエンザよりは少なく比 較的コンスタントに症例が発生していることなどが 示されている。 3. 臨床像  成人 RS ウイルス感染症例は非特異的な臨床像を 呈することから他の呼吸器ウイルス感染症との臨床 的判別は困難とされている。ただし同時期に流行す るインフルエンザと臨床像を比較した成績では、 RSウイルス感染症例においては熱や頭痛、筋肉痛 などの全身症状は穏やかだが湿性咳嗽などの気道症 状はより高度であること、また症状が持続、遷延す る傾向が強いことなどが報告されている9)。若年健 常人が罹患した場合には上気道炎程度の症状でおさ まる場合が多いが、肺炎球菌等との重感染を起こせ ば肺炎をきたす場合もある。高齢者、あるいは基礎 疾患保有者においては単独感染でも重症化の危険性 がある。また移植後など高度免疫機能低下時には RSウイルス感染はしばしば重症化することが知ら れており、感染時の肺炎併発率が 80%、肺炎併発 時の死亡率が 70 ~ 80%に及んだ、といった成績も 報告されている。 4. 診断  RS ウイルス感染症の急性期に上気道に出現する ウイルス量は成人では乳幼児の 1/1000 以下であり、 またウイルスが陽性となる期間も数日間のみと短期 間であることが知られている。また成人の各種ウイ ルス感染症急性期患者における気道検体中のウイル ス量を比較してみると、RS ウイルスの出現量はイ ンフルエンザや HMPV の 1/100 ~ 1/1000 程度と際 立って低いことが報告されている15)。すなわち小児

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例では有用性の高い抗原迅速診断キットを成人例の 診断に用いた場合は検出感度が大きく低下すること を覚悟する必要がある。RT-PCR は迅速診断キット やウイルス培養よりも明らかに高感度であるが、臨 床の現場における設備投資や費用面の問題を解決す ることは現実的には難しい。  抗体価の測定は迅速性には欠けるが精度の高いウ イルス感染症の診断法である。RS ウイルス抗体価 の測定は保険診療の外注検査として施行が可能であ り、私たちは主として CF 抗体価を用いた検討を 行っている。経時的に 4 倍以上の抗体価変動が確認 できれば確定診断であり、1 週間程度で抗体価上昇 が確認できる場合もあるが原則的には急性期と回復 期のペアで 2 週間程度の間隔をあけて採取すること が望ましい。回復期の単独血清の場合の診断基準と しては確定したものはないが、CF 抗体価は高値が 長期間持続しにくい検査法であるため、回復期抗体 価で 128 倍以上など極端な髙値を示していて臨床経 過が合致する症例は急性 RS ウイルス感染症であっ た可能性が高いものと推測することはできる。

Ⅳ. 当科で経験した成人肺炎症例の臨床像

1. 診断状況など  当科では以前から成人ウイルス感染症に注目して おり、市中肺炎や冬期の下気道感染症などでウイル ス感染が疑われた症例に対しては積極的な検索を試 みてきている。以下に 2002 年以降 2017 年 2 月末ま でに当科で診断した成人 RS ウイルス感染症例 230 例弱のうちで市中肺炎(CAP)あるいは医療・介護 関連肺炎(NHCAP)に該当する 186 例の臨床像を提 示する。診断根拠は大部分が CF 抗体価のペア血清 での有意変動を確認したケースであるが、一部は前 向きに迅速診断キットや RT-PCR での検索を行った 際の陽性例も含めての解析となっている。 2. 発症状況  発症時期はやはり冬季の 12 月、1 月にピークが あるが、実際にシーズンオフにも散発的な発症例は 見出されておりほぼ通年で陽性例が確認されている (図 1)。ただし年度ごとにみると流行の大きさや ピークにはかなりのばらつきがあり、冬季よりもむ しろ初秋にピークがくるような年度も観察される (図 2)。また小児の流行と成人発症例の増加にはあ る程度の相関があることから、効率的な症例の拾い 上げのためには自施設での小児科での陽性症例の検 出状況に注意を払う必要がある(図 2)。なお当院に おける成人肺炎全体のなかで RS ウイルス関連肺炎 が占める頻度は通年では 3 ~ 6%程度、流行期間に 限れば 10 ~ 15%程度となっている。 3. 病型、合併感染など  成人で見いだされた肺炎症例の平均年齢は 77.6 歳、その年齢構成をみると大部分が 60 歳以上に分 布しており、70 ~ 80 歳台にピークがある(図 3)。 これは高齢者が罹患しやすいというよりは、若年者 では罹患しても肺炎まで至ることは少ないと解釈す べきものと思われる。また急性期死亡率は 3.8%と 高くはないが、高齢で罹患した場合には入院期間が 遷延したうえで死亡退院となる症例、あるいは救命 はできたものの病前と比較して明らかに活動性が 1 ランク以上低下した状態での退院となるケースが少 なくない。病型としては CAP が 2/3、NHCAP が 図 1 RSV 関連肺炎症例の診断状況:季節変動 0 10 5 15 20 25 30 35 40 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 (人) 図 2 小児陽性例と成人肺炎例の診断状況年次推移 成人肺炎 小児全例 30 0 5 2012 2013 2014 2015 2016 2017 10 15 20 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 7 9 11 1 3 5 25 (人)

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1/3 を占めており、そのうち入院治療を要したのは 82%、外来治療で対応できたのは 18%となってい る(表 2)。他の病原体との合併感染例は 50%で確 認されており、菌種としてはやはり肺炎球菌やイン フルエンザ菌等との合併感染例が多く見いだされて いる。シーズンによっては当院において診断された 冬季発症の肺炎球菌肺炎のうち 20%以上が実は RS ウイルスとの合併感染だったと判断された年度も あった。 4. 臨床像、推定感染経路  平均でみると急性期の最高体温は 37.9℃、炎症反 応のピークは WBC 10300、CRP 11.9 となっていた (表 3)。72%の症例が急性期に酸素投与を要し、喀 痰、咳嗽などの呼吸器症状は高度だったが、食思不 振、倦怠感、頭痛や関節痛、筋痛などの全身症状を 呈する症例は比較的少なかった。同時期に流行する インフルエンザと比較すると呼吸器症状や低酸素血 症は目立つが高熱はきたしにくく、全身症状は軽度、 というパターンはこれまでの成人例に関する報告と 大きな相違はない。感染経路に関しては詳しく聞き 取りをしても不明の症例が多く、RS ウイルスは流 行期間においてはごく軽症の上気道炎程度の症状で 市中を広く循環しているものと推測される。また施 設管理中の発症例が全体の 20%以上を占めていた ことが特徴的だった。胸部画像所見に関しては、通 常の浸潤影を呈するケースが多かったがスリガラス 影や淡い浸潤影が中心の症例も 25%程度で認めら れている。細気管支炎所見が主体となった症例は 3.8%となっており、その他には胸膜炎、心外膜炎 が主体の症例が 3 例見いだされている。 5. 基礎疾患、治療介入など  基礎疾患に関しては健常人の発症例は 5%、高血 圧など軽症基礎疾患保有者を合わせても 10%程度 であり、大部分の症例は心肺疾患など明らかな基礎 疾患を有してした(表 4)。内訳としては COPD な ど慢性呼吸器疾患が最も高率で半数を占めており、 脳血管障害後遺症、慢性心疾患、糖尿病が続いてい た。投与抗菌薬としては、多くのケースがβラクタ ム剤のみを投与されておりそれなりに改善していた 0 20 10 30 40 50 60 70 20歳~ 30歳~ 40歳~ 50歳~ 60歳~ 70歳~ 80歳~ 90歳~ (人) 図 3 RSV 関連肺炎症例の年齢構成と予後 通常退院 PS高度低下 死亡退院 表 2 成人 RS ウイルス関連肺炎 186例の病像① 平均年齢 急性期死亡率 総死亡退院率 罹患後のPS高度低下 人工呼吸器装着 非侵襲的陽圧換気 「誤嚥性肺炎」の初期診断 CAP NHCAP 複数菌感染率 入院治療 外来治療 77.6歳 3.8% 6.5% 8.1% 1.1% 3.8% 16.7% 123例 63例 50% 152例 34例 表 3 成人 RS ウイルス関連肺炎 186例の病像② 最高体温 WBC CRP 低酸素血症あり 咳嗽 喀痰 明らかな喘鳴 食思不振、倦怠感 頭痛・関節痛 感染経路不明 周囲での気道感染流行あり 家族内でRSウイルス感染あり 施設入所中の発症 37.9℃ 10300 11.9 72.0% 89.2% 90.6% 34.9% 21.5% 5.4% 124例 25例 5例 39例 表 4 成人 RS ウイルス関連肺炎 186例の病像③ 基礎疾患  健常人~軽度基礎疾患  慢性呼吸器疾患  在宅酸素療法  脳血管障害後遺症など  慢性心疾患  糖尿病  悪性腫瘍  慢性腎疾患 治療内容  βラクタム薬のみ投与  他の抗菌薬を経過中に使用  抗菌薬未使用で改善  ステロイド投与あり 10.8% 52.2% 7.0% 24.2% 20.4% 18.9% 3.8% 3.2% 79.0% 16.1% 4.9% 25.8%

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が、一部の症例では初期投与薬剤への反応が不良で 他系統の抗菌薬に切り替えあるいは併用となってい た。当初からウイルス肺炎を疑って抗菌薬未使用で 慎重に経過をみて改善が確認された症例は実際には 少数にとどまった。また 4 分の 1 の症例では経過中 にステロイドが投与されていたが、COPD など背 景病態の増悪への使用、びまん性肺疾患を疑われて の純緊急的投与、喘鳴が目立つことから高齢初発の 喘息を疑われての使用など投与理由は症例により 様々だった。 6. CAP と NHCAP の病像比較  全体を CAP 群 123 例と NHCAP 群 63 例に区分し て病像を比較してみると(表 5)、NHCAP 症例の 40%近くが「誤嚥性肺炎」と初期診断されていた。 急性期死亡率、死亡退院率とも CAP 群よりも高率 だったが、その他にも救命はできても病前よりも PSが明らかに低下してしまい、強制栄養の導入を 余儀なくされたり自宅退院が困難となるケースがイ ンフルエンザ肺炎などよりもかなり目立っていた。 7. 他のウイルス関連肺炎との病像比較  当院で診断された他のウイルス関連肺炎症例との 病像を比較してみると(表 6)、RS ウイルス関連肺 炎が最も多く見いだされており、発症年齢も明らか に最も高齢だった。混合感染率は概ね 50%前後で ウイルス間での大きな差は認めず、死亡退院率はイ ンフルエンザのほうが高率だった。続いてウイルス 単独陽性例と混合感染例とに層別してみたが(表 7)、 やはり平均年齢は RS ウイルスが最も高齢となって いた。また死亡退院率は全般に混合感染例よりも単 独感染例のほうが高率となっていた。

おわりに

 成人の RS ウイルス関連肺炎は主に高齢者に発症 し、その頻度は通年で全体の 5%前後、流行期には 10%以上、と決して稀なものではない。高齢者の「誤 嚥性肺炎」と判断されている症例のなかには本病原 体により肺炎例や本病原体罹患をトリガーとして普 段は起こさない誤嚥を発症した症例などが少なから ず含まれている可能性が高い。また高齢者の感染例 のなかには死亡例のほかに感染を契機とした PS 低 下例も稀ならず認めらており医療経済的な観点から も注意が必要である。近年では有効性の高い抗ウイ ルス薬の開発も進められてきており、成人領域にお ける今後の導入や有効性の高い迅速診断法の開発と 普及も併せて期待したいところである。 表 5 CAP と NHCAP 症例の病像比較 平均年齢 初期の臨床診断   「誤嚥性肺炎」 合併感染あり 急性期死亡率 死亡退院率 入院期間 罹患後PS高度低下   経口→胃瘻   通院→施設往診   歩行→車椅子   通院→在宅酸素   気管切開 CAP(123) 75.3歳 5.6% 54.5% 0.8% 1.6% 19.8日 4.1% 3 2 NHCAP(63) 82.0歳 38.1% 41.3% 7.9% 14.3% 28.9日 15.9% 5 5 1 1 表 6 各種ウイルス関連肺炎の病像比較 (2002 年以降、16 歳以上の当院診断例:2017 年 2 月 28 日まで) 起炎菌 FLU RSV PIV3型 HMPV アデノ 通算件数 143例 186例 50例 30例 11例 平均年齢 72.0歳 77.6歳 72.3歳 70.1歳 50.3歳 混合感染率 51.0% 50.0% 44.0% 45.4% 35.7% 死亡退院率 9.1% 6.5% 4.0% 0.0% 0.0% 表 7 単独感染/混合感染例の病像比較 (2002 年以降、16 歳以上の当院診断例:2017 年 2 月 28 日まで) 単独感染 混合感染 起炎菌 FLU RSV PIV3 HMPV アデノ 人数 70 93 28 17 06 平均年齢 74.7 77.2 73.1 69.8 52.7 死亡退院率 12.7 7.5 7.1 0.0 0.0 人数 73 93 22 13 05 平均年齢 69.4 77.9 71.7 72.0 47.4 死亡退院率 5.5 5.4 0.0 0.0 0.0

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文  献

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参照

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地域の感染状況等に応じて、知事の判断により、 「入場をする者の 整理等」 「入場をする者に対するマスクの着用の周知」