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筆答専門試験科目(午前)
31 大修
融合理工学系
時間 9:30~11:00
注 意 事 項
1.設問は、
【問題1】から【問題2】まで2題ある。
2.2題すべてについて解答すること。
2 【問題1】次の文章を読み、問1から問4の解答を、答案用紙の所定の欄に記入せよ。 近年、学問分野、とりわけ理工学における総合化が求められている。例えば、日本学術会議で は、2005 年以来、工学分野の総合化のあり方について検討を進めており、2010 年には「日本の展 望-学術からの提言 2010 報告 総合工学分野の展望」と題する報告書をまとめている。このなか で、総合工学と呼ばれる分野は、旧来の工学には見られなかった工学における横断型分野であり、 あらゆる工学体系や知識を総動員して設計・製造される人工物に関する分野と定義されている。 このような分野は、機械工学、電気電子工学、土木建築工学などの領域型分野とは異なり、学際 的・複合的な分野である応用物理、計測制御、計算機科学、計算科学・技術、エネルギー・資源、 放射線、宇宙航空、海洋船舶、安心・安全・リスク学、環境学、巨大社会システムなど、極めて範 囲が広く、工学全体の横断的課題および科学・技術全体にまたがる課題を扱うとされている。 異なる分野の間の (A) によって総合化が新しい学問分野を生み出すことは、これまでにも 様々な形で指摘されてきた。例えば、学際的な取り組みは、既存の学問分野の狭間に位置する問 題を取り上げ、複数の分野の連携により対応しようとする形と考えられる。それぞれの領域が発 展することにより、各領域に収まらない隙間が生じ、こうした問題を扱う必要はある意味で自然 に生み出される可能性がある。また、知の統合と呼ばれる取り組みは、異分野の学問の間の (A) が新しい知を新たに生み出すと考えられており、これにより新しい価値を生み出す可能性を有し ている。個々の分野が細分化されていく方向はいわば学問の自然な方向であるため、知の統合を 実現するためには、その細分化の傾向に対抗する形で、人為的な努力が必要とされている。 日本学術会議が 2007 年に発表した「提言:知の統合 −社会のための科学に向けて−」では、知 の統合を、「異なる研究分野の間に共通する概念、手法、構造を抽出することによって、それぞれ の分野の間での知の互換性を確立し、それを通してより普遍的な知の体系を作り上げること」と 定義している。ただし、研究分野のレベルをどのように定めるかによって、知の統合の意味合い は変わってくる。例えば、物理学で扱われている力学、電磁気学、熱力学を異なる研究分野であ るとみなせば、これらに共通するエネルギー概念の確立は、これらの分野を結びつけ、より普遍 的な物理学の創出に導いた知の統合といえるかもしれない。しかし、物理学を一つの研究分野と 考えた場合、この概念の確立は物理学の中で起こったことであるから、知の統合とはいえないで あろう。 異分野の統合によって大きなインパクトをもたらした事例の一つとして、先に挙げた学術会議 の報告では、20 世紀の前半に活躍したノ―バート・ウィーナーによるサイバネティックス理論を 挙げている。ウィーナーは、脳の運動制御と人工物の制御が同じ原理に基づいていることを見出 し、生物学と通信・制御工学を結びつけることを通してサイバネティックスを提唱し、その結果 として生物模倣科学と医工学を創出した。最近では、機械工学と電気電子工学の両者から運動体 に関わる知を抽出し運動制御を核としたメカトロニクスの誕生が、知の統合の例としてみること ができるとしている。このような例では、(B)単なる既存の領域の寄せ集めではなく、異分野の総 合化によって、新たな領域が生まれたと考えることができる。 このような領域を担う人材は、どのような素養を持っていることが求められるであろうか。一 つの領域だけを深く掘り下げるタイプを「I 型人間」と呼ぶとすると、これに専門領域に加えて他 の領域の幅広い知識や教養を身につけた「T 型人間」が求められ、さらには二つの専門領域を修
3 め、複眼的な思考ができるような「Π型や H 型」と呼ばれるタイプも求められるとされてきてい る。別の視点からは、関心ある課題や問題をめぐる様々な分野の知識を徐々に高めながら、全体 的な素養をスパイラルアップしていくタイプも提案されている。 ただし、個々の専門家や技術者がカバーできる範囲には限度があるため、様々な専門性や総合 性を有する人間のネットワークを築き、全体として総合性を生み出すようなコーディネートの能 力も必要とされる。このような人材に求められるのは、個々のメンバーが有する素養や潜在的な 能力を理解しながら、様々な分野の共通点や相違を認識し、場合によっては分野が異なると理解 しにくい個々の主張をわかりやすく翻訳し、全体を統合することにより、新たな知を生み出そう とする姿勢であろう。 参考文献) 日本学術会議(2007)「対外報告 提言:知の統合 −社会のための科学に向けて−」、p.4-9 日本学術会議(2010)「日本の展望 −学術からの提言 2010 報告 総合工学分野の展望」、p.2-6 森野数博、久保司郎、椿原治(2010)「特集「学際・融合複合教育の展開」の趣旨」、工学教育、 58(1)、p.4 問1)空欄(A)に入る語句として最も適切なものを、以下の①~⑤から選べ。 ①摩擦 ②接触 ③対抗 ④競合 ⑤独立 問2)下線(B)で筆者が指摘している総合化が単なる寄せ集めではないとはどのような意味か。句 読点を含めて 80 字以上 120 字以内で記述せよ。 問3)問題文の要旨を、句読点を含めて 240 字以上 300 字以内で記述しなさい。 問4)あなたが関心ある研究分野のテーマを一つ挙げ、問題文で示した総合化の考え方がどのよ うに関わるかについて考えるところをまとめ、句読点を含めて 240 字以上 360 字以内で記 述しなさい。その際、扱うテーマと従来の学問分野との関係や、総合化を想定した場合の 可能性や課題を含めること。
4 【問題2】 次の文章を読み、問1から問2の解答を、答案用紙の所定の欄に記入せよ。 最近 SNS(ソーシャルネットワークサービス)における「炎上」のニュースを頻繁に見かける ようになった。「炎上」の定義は正式に定まってはいないようだが、ある情報発信者に対し、他 人から批判的な書き込みが集中し騒ぎになる状態、と考えてよいだろう。「炎上」には、大企業 幹部や政治家による不正や失⾔について⼀般人が声を上げている、という一面もある。一方で、 対象となるのは実は一般人が 27.6%とそれなりに多いことも統計上明らかになっており、「炎 上」は「普通の人たちが普通の人を」思い思いに叩き裁く構図でもある。 「炎上」した発信者のアカウントはたいてい機能停止を余儀なくされるが、批判した複数の関 与者が、名誉棄損などの違法性を理由に民事・刑事告訴されることは少ない。さらに「炎上」ニ ュースを取り上げる他のメディアも、叩かれた発信者の身から出たサビであるようなニュアンス で紹介することが多い。 この背景には、実際には私人である人が、SNS 上ではあたかも「公人」のようにみなされ得る、 ということがある。インターネット時代以前、「公人」扱いされるのは公職かそれに準じる立場 の人、たとえば要職にある公務員や影響力のある機関の代表者や芸能人などに限られ、一般人が ある日いきなり「公人」扱いされることはなかった。しかし SNS 上では、違法行為の告白や自ら のプライバシーの安易な流出などを通し、誰もが⼀瞬にして「公人性」を身につけてしまう。自 発的に注目を集めた以上、その人の情報は共有されて当然、批判も受忍されるべき…とされプラ イバシー保護はあまり期待できない。また批判する側については、動機の 60〜70%が社会的逸脱 行為に対する正義感や怒りであることが指摘されている。そのためか、インターネット実名制の ような政策的対策も大きな効果につながらなかった海外の事例も報告されている。みなし公人化 と過激な「炎上」が頻発する事態に、私たちはどう対処していけばよいのか。 参考文献) 板倉陽⼀郎(2006)「インターネット上における『意図せぬ公人化』を巡る問題」、情報処理学会 研究報告デジタルドキュメント(DD)128(2006-DD-058)、p.9-14 田中⾠雄・山口真⼀(2016)『ネット炎上の研究』、勁草書房 問1)本文をふまえて「炎上」の具体的事例をひとつ挙げ、自分がそれについて好ましいと考え る面と好ましくないと考える面を、150 字以上 200 字以内で説明せよ。事例は、実際にあっ たケースでも架空のものでもよい。 問2)下線部にあるように、批判する動機が正義感や怒りである可能性もふまえ、①SNS におけ る議論のあり方はどういうものが望ましいと考えるか、②それを促進するにはどのような 対策が考えられるか、自分の意見を 150 字以上 250 字以内で述べよ。