体 力 科 学(1997)46,161∼178
利 き 手 投 げ と 非 利 き 手 投 げ に お け る 投 動 作 パ タ ー ン
お よ び 投 距 離 の 比 較 と そ の 解 析
今
泉
和
彦
立屋敷
かおる
滝
澤
裕
治
村
上
晴
久
直
原
幹
ANALYSIS
OF COMPARISONS
BETWEEN
THE
DOMINANT
HAND
AND
THE
NON-DOMINANT
HAND
IN OVERARM
THROWING
MOTIONS
AND
BALL-THROWING
DISTANCE
KAZUHIKO IMAIZUMI, KAORU TACHIYASHIKI, YUJI TAKIZAWA, HARUHISA MURAKAMI and KAN JIKIHARA
Abstract
The difference between the dominant hand and the non-dominant hand in overarm throwing motions and ball-throwing distances were studied in student women. The subjects were divided into a trained group and an untrained group. A switch thrower, categorized in the training group, was also examined. The throwing time, moving distance and mean velocity of the ball in the overall throwing phase, back-swing phase and acceleration phase were determined by a high-speed video analysis system. Seven empirical parameters estimated from the overall throwing motion were also introduced. These physical quantities and parameters were compared between the dominant and non-dominant hands. The ball-throwing distances in the trained and untrained groups were 2.58 and 1.73 times higher for the dominant hand than for the non-dominant hand, respectively. The difference in these values for both the hands of the switch thrower, however, were very small. The throwing time, moving time, and mean ball velocity in the back-swing phase in the trained group were 1.16, 1.65 and 1.35 times higher for the dominant hand than for the non-dominant hand, respec tively. These phenomena were not observed in the untrained group and the switch thrower. The mean ball velocities in the acceleration phase for the trained and untrained groups were 2.0 and 1.5 times higher for the dominant hand than for the non-dominant hand, respectively. These values were more highly correlated with the ball-throwing distance in the trained group than in the untrained group. Significant correlations between seven parameters and ball-throwing distance were all observed for the dominant hand. However, only three of these parameters showed significant correla tions for the non-dominant hand. These results show that the relationship between ball-throwing distance and throwing motion is closer for the dominant hand than for the non-dominant hand. In the present paper, possible roles of the dominant and non-dominant hands in the relationship between throwing motion and ball-throwing distance are also discussed.
(Jpn. J. Phys. Fitness Sports Med. 1997, 46:161•`178) key words : overarm throwing motion, ball-throwing distance, dominant and non-dominant hands,
laterality and ball-throwing, lateral control of overarm throwing.
1.は じ め に ヒ トの 上 肢 の 運 動 に は,利 き 手 と 非 利 き 手 の 存 在 が 明 ら か に 認 め ら れ て い る1).そ の 例 は 砲 丸 投 げ,槍 投 げ,円 盤 投 げ,ハ ン マ ー 投 げ の よ う な 投 擲 種 目,お よ び 野 球,ソ フ トボ ー ル,バ レ ー ボ ー ル,バ ス ケ ッ トボ ー ル,ハ ン ド ボ ー ル,ラ グ ビ ー 等 の 球 技 種 目 に み ら れ る2,3).さ ら に,字 を 書 く と き,箸 を 使 う と き,鋏 を 操 作 す る と き 等 の 日常 動 作 に も み ら れ る4).こ れ ら 上 肢 の 運 動 や 動 作 に お け る 片 側 優 位 の 要 因 に つ い て は 遺 伝 ま た は 後 天 的 環 境 あ る い は そ の 双 方 が 指 摘 さ れ て い る が,そ
上 越 教 育 大 学 生 活 健 康 系Department of Living and Health Sciences, Joetsu University of Education,1 〒943上 越 市 山 屋 敷 町1番 地Yamayashiki, Joetsu, Niigata943,Japan
の実 体 は明 確 に され て い な い 点 が多 い5∼7).
一 方
,各 種 の ス ポ ー ツ等 に よっ て起 こ る骨 折,
捻 挫,怪 我 お よび筋 や腱 等 の 各 種 傷 害 な どに よ り,
利 き手 を使 う こ とが で きな い場 合 が しば しば生 ず
る.そ の 場 合 には,日 常 の動 作 や各 種 の 運 動 を非
利 き手 で 行 う こ とが 多 い.こ の よ うな こ とか ら,
非 利 き手 に よる 上肢 の作 業 能 や調 節 能,さ
ら に非
利 き手 に よる トレー ニ ング の効 果 と処 方 を明 確 に
す る こ とは,体 力 科 学 や運 動 生 理 学 の 立 場 か らみ
て きわ め て重 要 で あ る.し か し,投 動 作 に対 す る
利 き手投 げ と非 利 き手 投 げ との 差 異,利
き手投 げ
と非利 き手投 げ に よる投 距 離 と投 動 作 との 関係 お
よび非 利 き手 投 げ に よる投 の トレー ニ ン グ効 果 と
そ の処 方 につ い て は,ま だ系 統 的 に明 らか に され
て い な い.こ れ らの問 題 を解 明 す る こ とは投 動 作
の 運 動 とそ の 制 御 系 を理 解 す る 上 で 不 可 欠 で あ
り8'9),上 肢 の運 動 に お け る 片 側 優 位 の 本 態 を 明
確 にす る上 で も重 要 で あ る10).
そ こ で本 研 究 で は,利 き手 投 げ と非 利 き手 投 げ
に よる投 動 作 の パ ター ン と投 距 離 との差 を明 確 に
す る ため,ボ ー ル投 げ の熟 練 者 群 と未 熟 練 者 群 お
よ び ス イ ッチ ス ロー ワー(SW)に
分 け て投 距 離 と
投 動 作 を測 定 ・解析 した.そ れ らの デ ー タ を もと
に して,片 側 優 位 に及 ぼす 投 の トレー ニ ン グ効 果,
投 動 作 の 過 程 と投 の 習 熟度 との 関係 お よ び投 動 作
と投 距 離 との 関係 等 に つ い て検 討 した.
II
.実
験
方
法
A.被
験 者
本研 究 に賛 同 した健 康 な女 子 学 生 を被 験 者 と し
た.熟 練 者 群 は ソ フ トボ ー ル 競 技 の 選 手(ト レー
ニ ン グ期 間=4∼6年,n=9)と
し,未 熟練者 群
は ボ ー ル投 げ の 経 験 が ほ と ん ど な い者(n=6)と
した.熟 練 者 に属 す る ス イ ッチ ス ロ ー ワー(SW)
に つ い て も1名 しらべ た.
B.握
力,背 筋 力 お よび 手 掌 面積 の測 定
被 験 者 の 左 右 の 握 力 と背 筋 力 は2回
ず つ 測 定
し,平 均 値 を も とめ た.左 右 の手 掌 の面 積 は両 手
を 電 子 複 写 機(RICOH㈱
・FT6950型)で
コ ピー
し,秤 量 法(Shimadzu㈱
・LIBROR EB-330型 電 子
天 秤)に よっ て得 た.
C.投 距 離 の 測 定 実 験 に 先 立 ち,ス ト レ ッ チ 体 操 お よ び 徒 手 体 操 を 実 施 した 後,利 き手 投 げ と非 利 き 手 投 げ に よ る キ ャ ッ チ ボ ー ル を5分 間 行 っ た.そ の 後,右 手, 左 手 の 順 で 投 の 練 習 を2回 行 っ た. Fig.1に 示 す よ う に,各 被 験 者 は 半 径1mの サ ー ク ル 内 か ら投 を 行 っ た.投 は セ ッ トポ ジ シ ョ ン に統 一 し,そ の 状 態 か ら 直 ち に投 を 実 施 し た. ボ ー ル は3号 球 ソ フ トボ ー ル(重 量=190.2±1.7 g(n=6),mean±SD)を 用 い た.被 験 者 に は 投 球 方 向 と そ の 位 置 を 示 し,出 来 る 限 り遠 くへ 投 げ る よ う に 指 示 し た.実 験 は 戸 外(気 温=25∼30℃, 湿 度 二60∼80%,風 速 二 〇.5∼1.5m/sec)で 行 っ た.Fig. 1. Schematic drawing of the experimental set-up for measuring the ball-throwing distance and overarm throwing motion.
投 条 件 は ス テ ップ な しとあ りと した.ス テ ップ
な しで は被 験 者 の 両 足 の 間 隔 を最 も投 げ や す い位
置 と し,そ の 直 後 に投 を開 始 した.そ の動 作 中 は
両 方 の足 と も地 面 に接 地 させ,投 球 時 に う しろ の
軸 足 の先 端 が 地 面 か ら離 れ な い よ うに指 示 した.
投 の順 序 は利 き手投 げ の ス テ ップ な し,ス テ ップ
あ り,非利 き手 投 げ の ス テ ップ な し,お よび ス テ ッ
プあ りと した.い ず れ も各2回 測 定 し,そ の平 均
値 を投 距 離 と した.
D.投
動 作 の 測 定
投 距 離 の 測 定 と同 時 に投 動 作 を撮 影 した.被 験
利 き手投 げ と非 利 き手 投 げ の投 動 作 パ ター ン 163 者 に は タ ン ク ト ッ プ と半 ズ ボ ン を 着 用 さ せ た.投 動 作 を解 析 す る た め,被 験 者 の 頭 頂 点 に は 白 い ゴ ム で 十 字 の ラ イ ン を 施 し た 紺 色 の 水 泳 帽 を 着 用 さ せ,被 験:者 の 左 右 肩 峰 点,左 右 橈 骨 点 お よ び 左 右 茎 突 点 に 白 色 の テ ー ピ ン グ を 貼 付 し た11). 投 の 動 作 は,20m側 方 か ら 毎 秒200コ マ で 高 速 度 ビ デ オ カ メ ラ(NAC㈱ ・HVS-400型)に よ り撮 影 し た(Fig.1).カ メ ラ は 地 上 か らlmに 固 定 し た.距 離 の 補 正 を 行 う た め,自 作 し た 距 離 基 準 マ ー カ ー(長 さ=1m)を あ ら か じめ 撮 影 し た.ま た, 投 動 作 の 時 間 を測 定 す る た め,タ イ ム カ ウ ン タ ー (1刻 み=5msec)を フ ィ ル ム 上 に 記 録 し た. E.投 動 作 の 解 析 投 動 作 の 解 析 に は,高 速 度 ビ デ オ デ ー タ 解 析 シ ス テ ム(NAC㈱ ・SPORTIAS-200AEH型)お よ び XYコ ー デ ィ ネ ー タ ー(NAC㈱ ・V78J型)を 用 い た.こ の 解 析 装 置 に よ っ て 投 動 作 の 各 座 標 を 決 定 し,距 離,角 度 お よ び 時 間 を 算 出 し た. 利 き手 投 げ と非 利 き 手 投 げ の 投 動 作 を解 析 す る た め,Fig.2に 示 す よ う な ス テ ィ ッ ク 図(A)お よ び ト レ ー ス 図(B)を 作 成 し た12∼14).ス テ ィ ッ ク 図 は 高 速 度 ビ デ オ デ ー タ 解 析 シ ス テ ム を用 い て 作 成 し,ト レ ー ス 図 は 高 速 度 ビ デ オ デ ー タ解 析 シ ス テ ム の モ ニ タ ー 画 像 か ら 得 た 静 止 画 を ト レ ー ス 用 紙 に 写 し て 作 成 し た.Fig.2・Cに は,ス テ ィ ツ ク 図 を 重 ね た 投 動 作 全 体 の ボ ー ル の 軌 跡 を 示 す. 投 動 作 の 過 程 は,動 作 全 体(Overall throwing), 準 備 動 作(Back-swing phase)お よ び 主 動 作
(Acceleration phase)に 分 け て 解 析 し た(Fig.2・ 上 段)15).準 備 動 作 は,Fig.2・ 下 段 に 示 す よ う に, 1∼mの 過 程 と し た.主 動 作 はIv∼vの 過 程 と し た.ま た,ボ ー ル の 軌 跡 に お け る1∼Vの 位 置 を Fig.2・Dに 示 す. 投 動 作 全 体,準 備 動 作 お よ び 主 動 作 に お け る 投 の 所 要 時 間(Throwing time),ボ ー ル の 移 動 距 離 (Moving distance of ball)お よ び ボ ー ル の 平 均 移
Fig. 2.
Typical patterns of overall overarm throwing motion viewed from the side.
A : stick pictures, B: trace pictures, C : typical pattern of stick picture for overall overarm
ball-throwing motion (time interval = about 100 ms). D : typical locus of the overall
over-arm ball-throwing motion. I : start of throwing, II: backward point in the back-swing
phase, III : point at which trunk turns to the forward position, IV : initial point of ball
accerelation in a forward direction, and V : ball release point. Back-swing phase (I to III)
and accerelation phase (IV to v).
動 速 度(Meanball velocity)を 算 出 し,こ れ ら の 値 を利 き手 投 げ と非 利 き手 投 げ と の 間 で 比 較 ・解 析 し た. F.投 動 作 パ ラ メー タ の 解 析 利 き手 投 げ と非 利 き 手 投 げ に よ る 投 動 作 を定 量 的 に 解 析 す る た め,つ ぎ の7種 類 の 投 動 作 パ ラ メ ー タ を 用 い た(Fig.3)16∼18):a)準 備 動 作 中 の 体 幹 の 最 大 後 傾 角 度,b)準 備 動 作 中 の ボ ー ル を 持 た な い 反 対 側 の 上 腕 と体 幹 と の 角 度,c)リ リ ー ス 期 に お け る 前 脚 の 膝 の 屈 曲 角 度,d)リ リ ー ス 期 に お け る 後 脚 の 膝 の 屈 曲 角 度,e)リ リ ー ス 期 に お け る 頭 部 の 後 傾 角 度,f)リ リ ー ス 期 に お け る体 幹 の 前 傾 角 度,9)リ リ ー ス 期 に お け る ボ ー ル の 初 速 度. G.統 計 解 析 SWの デ ー タ を 除 き,結 果 はmean±SEで 表 示 し た.各 種 デ ー タ に 対 す る 平 均 値 の 差 の 検 定 に は,ANOVAtestま た はStudent's paired卜test
を 用 い た.
III.結 果
A.各 群 の 身 体 特 性,握 力 お よ び 背 筋 力 Table1に 示 す よ う に,熟 練 者 群 と 未 熟 練 者 群
Fig. 3. Schematic illustrations of parameters used for analyzing overall overarm throwing motion. a : maximal hinder-inclination angle of trunk, b : angle between trunk and ball-free upper arm, c : maximal knee-flexion angle of supporting leg, d : maximal knee-flexion angle of non-supporting leg, e : maximal hinder-inclination angle of head, f : maximal foreward-inclination angle of trunk, and g : initial velocity of ball at release point.
の 年齢,身 長 お よび体 重 は ほ ぼ 同 じで あ った.前
腕 と上腕 の各 周 囲長 は熟 練 者 群 が 未 熟 練 者 群 の そ
れ ぞ れ1.08倍,1.18倍
で あ っ た.手 掌 の 面 積 は 熟
練 者群 が未 熟 練 者 よ り約5%大
きか っ た.
握 力 は二 群 間 で有 意 差 が み られ なか った が,背
筋 力 は熟 練 者 群 が 未 熟 練 者 群 の1.35倍 で あ った.
Table 1. Profiles of the age, physiques, back strength, grip strength and playing careers in two groups and a switch thrower.
Values : means•}SE. Dom.: dominant hand side and Non-Dom.: non-dominant hand side. SW is a switch thrower (Y. I., categorized in the trained group). •š•š : p<0.01 (vs. untrained group). a) p <0.05 and c) : p < 0.001 (vs, dominant hand side of the trained group). t : p < 0.05 and ttt : p<0.001 (vs. non-dominant hand side of the trained group).
利 き手 投 げ と非 利 き手投 げ の投 動 作 パ ター ン 165 ス イ ッ チ ス ロ ー ワ ー(SW)の 背 筋 力 は 両 群 よ り 1.30∼1.76倍 大 き く,右 手 と左 手 の 握 力 に つ い て も 両 群 よ りそ れ ぞ れ 約5%,約20%大 きか っ た. SWの 場 合,右 手 の 手 掌 面 積 は 両 群 よ り1∼6% 大 き く,左 手 の 値 で は 両 群 に 比 べ て6∼13%大 き か っ た.SWの 左 右 の 前 腕 周 囲 長 は 熟 練 者 群 の 各 値 と 大 差 は な か っ た が,未 熟 練 者 群 の 値 よ り 約 6%大 きか っ た.ま た,SWの 左 右 の 上 腕 周 囲 長 は 熟 練 者 群 の 各 値 よ り約5%小 さ く,未 熟 練 者 群 の 値 よ り11∼14%高 か っ た.SWの 身 長 と 体 重 は 両 群 の0.95∼0.96倍 で あ っ た. B.投 距 離 の 利 き 手 投 げ と非 利 き 手 投 げ の 比 較 ス テ ッ プ な しの 条 件 で 得 ら れ た 熟 練 者 群,未 熟 練 者 群 お よ びSWに お け る 利 き 手 投 げ と 非 利 き 手 投 げ の 投 距 離 をFig.4に 示 す.Fig.4・Iに 示 す よ う に,熟 練 者 群(A)と 熟 練 者 群(B)の 投 距 離 は,利 き手 投 げ が 非 利 き手 投 げ の そ れ ぞ れ2.58倍, 1.73倍 で あ っ た.SWの 投 距 離 は 利 き 手 投 げ が 非 利 き 手 投 げ の1.12倍 で あ り,利 き手 投 げ と 非 利 き 手 投 げ の 比 が 両 群 よ り著 し く小 さ か っ た.非 利 き 手 投 げ に 対 す る 利 き手 投 げ の 比 は,熟 練 者 群 〉 未 熟 練 者 群>SWの 順 で あ っ た. 投 距 離 は ス テ ッ プ の 有 無 に 関 係 な く,い ず れ の 群 と も 利 き 手 投 げ>非 利 き手 投 げ の 関 係 が 成 立 し た.ま た,Fig.4・II・Aに 示 す よ う に,ス テ ッ プ な し の 条 件 で 得 ら れ た 利 き手 投 げ の 投 距 離 は, 熟 練 者 群 お よ びSWが 未 熟 練 者 群 の そ れ ぞ れ 1.97倍,2.12倍 で あ っ た.非 利 き 手 投 げ の 投 距 離 に つ い て は,熟 練 者 群 が 未 熟 練 者 群 の1.32倍 で あ り両 群 間 の 差 が 小 さ か っ た が,SWの 値 は 未 熟 練 者 の そ れ の3.28倍 で あ っ た(Fig.4・II・B). ス テ ッ プ あ り の 条 件 下 で 得 ら れ た 利 き 手 投 げ と 非 利 き 手 投 げ の 投 距 離 は,熟 練 者 群 で そ れ ぞ れ 31.6±1.6m,12.9±0.5m,未 熟 練 者 で そ れ ぞ れ
Throwing distance(m)
Fig. 4. Ball-throwing distances obtained under conditions without step.
I : comparison between ND (non-dominant hand side) and D (dominant hand side), A : trained group and B : untrained group. Values : means ± SE. * * : p < 0.01 and * * * : p < 0.001 (vs. non-dominant hand side). Data for non-dominant hand are shown in parenth-eses as a standard ratio. II: comparison among the untrained group, trained group and SW
(a switch thrower, Y. I.) . A : dominant hand side and B : non-dominant hand side. Values: means •} SE and means (for SW) . * * * : p < 0.001 (vs. untrained group). Data for untrained group are shown in parentheses as a standard ratio.
Table 2. The throwing time, moving distance and mean velocity of ball in the overall throwing phase, back-swing phase and acceleration phase estimated from overarm dominant hand throwing and non-dominant hand throwing.
Conditions : overarm throwing without step. Values: means f SE. SW: a switch thrower (Y.
I.). Dom.: dominant hand side and Non-Dom.: non-dominant hand side. * : p<0.05, ** :
p<0.01 and *** : p<0.001 (vs. non-dominant hand side). c) : p<0.001 (vs. dominant
hand side of the trained group). t : p<0.05, tt : p<0.01 and ttt ; p<0.001 (vs.
non-dominant hand side of the trained group).
17.6±0.9m,9.7±0.5m,SWで
そ れ ぞ れ44.4
m,31.5mで
あ っ た.
C.投
動 作 過程 の 利 き手 投 げ と非 利 き手 投 げの
比 較
ス テ ップな しの 条件 で得 られ た熟 練 者 群,未 熟
練 者 群 お よびSWに
お け る投 動 作 の 所 要 時 間,
ボ ー ル の 移 動 距 離 お よ び ボ ー ル の 平 均 速 度 を
Table2に
示 す.
1.投 動 作 の 所 要 時 間
投 動 作 全 体 の 所 要 時 間(Table2)は
利 き手 投 げ
の場 合 に は両 群 と もほ ぼ 同 じで あ っ たが,非 利 き
手投 げ で は熟 練 者 群 が未 熟 練 者 群 の0.89倍 で あ っ
た.SWの
投 動 作 全 体 の所 要 時 間 は 利 き手 投 げ で
両 群 の0.88∼0.89倍,非
利 き手 投 げ で 両 群 の0.77
∼0 .87倍 であった.準 備動作の所要時間は熟練 者
群 で利 き手 投 げが 非 利 き手 投 げの1r18倍 と有 意 に
大 きか っ たが,未 熟 練 者 群 で は利 き手投 げ と非 利
き手 投 げ との 間 に有 意 な差 が 認 め られ な か っ た.
熟 練 者 群 と未 熟 練 者 群 にお け る利 き手投 げ の 主
動 作 の所 要 時 間 は 非 利 き手 投 げ の 値 の そ れ ぞ れ
0.47倍,0.57倍
で あ り,準 備 動 作 の所 要 時 間 の そ
れ ぞ れ1/11,1/7で
あ っ た.熟 練 者 群 の 利 き手
投 げ にお け る 主動 作 の所 要時 間 は未 熟 練 者 群 の 値
の0.62倍 で あ っ た.SWの
利 き手投 げ と非利 き手
投 げ にお け る 主動 作 の所 要時 間 は,熟 練 者 群 の 利
き手投 げ と非 利 き手 投 げ の そ れ ぞ れ0.88倍,0.47
倍 で あ っ た.
2.ボ ー ル の移 動 距 離
熟練 者群 に お け る動 作 全 体 お よ び準 備 動作 の 移
動 距 離(Table2)は,利
き手 投 げ が 非 利 き手 投 げ
の値 の そ れ ぞ れ1.33倍,1.65倍
で あ っ た.し か し,
主動 作 の ボ ー ル の移 動 距 離 は利 き手投 げ と非利 き
手 投 げ の 間 で有 意 差 が み られ なか った.未 熟練 者
群 の ボ ー ル の移 動 距 離 お よ び準 備 動作 の 移動 距 離
は利 き手 投 げが 非 利 き手 投 げ の そ れ ぞ れ1.13倍,
1.44倍 で あ っ たが,有 意 差 は認 め られ な か っ た.
ま た,主 動 作 の ボ ー ル移 動 距 離 は利 き手投 げ が非
利 き手 投 げ の0.86倍 で あ った が,有 意差 は な か っ
た.
準 備 動 作 中の ボ ー ルの 移 動 距 離 は,利
き手 投 げ
利 き手 投 げ と非 利 き手投 げ の投 動 作 パ ター ン 167
の 場 合 でSW(1.70)>熟
練 者 群(1.36)〉 未 熟 練 者
群(1.0)の 順 で あ っ た(カ ッ コ内 の値=相
対 比).
非 利 き手投 げ の値 は 熟練 者 群 と未 熟 練 者 群 との 間
で 有 意 な差 が み ら れ な か っ たが,SWの
値 は 未 熟
練 者 群 の そ れ の約2.0倍 で あ った.
主 動 作 にお け る ボ ー ル の移 動 距 離 は三 群 と も に
利 き手投 げ で 大 きな差 は な か っ たが,非 利 き手投
げ で は未 熟 練 者 群(1.0)>熟
練 者 群(0.87)>SW
(0.63)の 順 で あ っ た.
3.ボ ー ル の平 均 速 度
動 作 全 体 の ボ ー ル の平 均 速 度 と準 備 動 作 の ボ ー
ル の平 均 速 度(Table2)は,両
群 と も利 き手 投 げ
が 非利 き手投 げ の そ れ ぞ れ1.24倍,1.35倍
で あ っ
た.
主 動 作 に お け る ボ ー ル の 平 均 移 動 速 度(Table
2)は,両
群 と もに利 き手 投 げが 非 利 き手投 げ よ り
明 らか に高 か っ た.そ の程 度 を非 利 き手投 げ に対
す る利 き手投 げ の比 か ら求 め る と,未 熟 練 者 群 で
約1.5倍,熟
練 者 群 で 約2.0倍,SWで
約1.4倍 で
あ った.ま た,こ の速 度 は利 き手投 げで は 熟練 者
群 ま た はSWが
未 熟 練 者 群 の1.54∼1.69倍
で
あ った.し か し,非 利 き手 投 げの 値 で は未 熟練 者
群 と熟 練 者 群 との 間 に大 き な差 は な か っ た が,
SWで
は未 熟 練 者 群 の 約1.8倍 で あ っ た.
D.投
動 作 に対 す る利 き手 投 げ と非 利 き手 投 げ
の比 較
利 き手投 げ と非 利 き手 投 げの 投 動 作 を群 間 で 比
較 す る た め,そ れ らの典 型 的 な トレ ース 図 を作 成
し た.そ
れ らの 類 型 パ ター ン をFig.5とFig.6
に示 す.
1.利
き手 投 げ の投 動 作 パ ター ン
Fig.5に
熟 練 者 群(1),未
熟 練 者 群(1[)お よ
びsw(m)の
利 き手 投 げ の トレー ス 図 を示 す.
Fig.5・Aに
は準 備 動 作 時 の うち ボ ー ルが 最 も後
方 に達 した と きの結 果 を示 す.
そ の投 動 作 パ ター ン は熟 練 者 群(1)とsw(m)
が ほ ぼ 同 じで あ っ た.そ の特 徴 は,1)投
球 側 の
手 が ほ ぼ 一 直線 上 に の び て い る こ と,2)そ
れ に
伴 な って 反対 側 の手 も投 球 方 向 に対 して前 斜 め 上
方 にの び て 重心 を後 方 に移 動 して い る こ と,3)
ボ ー ル を持 た な い 反対 側 は上 肢 と下 肢 とも に伸 展
Fig. 5.
Typical patterns of overarm dominant hand
throwing motions.
I : trained group (subj.: M. T.), II: untrained
group
(subj.: M. S.) and III : switch thrower (Y. I.). A : the
backward point in the back-swing phase, B : release
point of ball, C : throwing locus of ball, and D :
ball-throwing
distance. Arrow mark indicates ball
direction.
し て い る こ と,4)投 球 側 の 膝 が や や 屈 曲 して い る こ と,で あ っ た. 一 方,未 熟 練 者 群(II)の 投 動 作 パ タ ー ン は,熟 練 者(1)とSW(m)の そ れ ら と は 著 し く異 な っ て い た.そ れ ら の 特 徴 は,1)投 球 側 の 手 が 屈 曲 し た 状 態 を呈 し て い る こ と,2)反 対 側 の 手 が 斜 め 上 前 方 に の び な い こ と,3)重 心 が よ り後 方 に シ フ ト し て い な い こ と,4)両 足 が 屈 曲 して 凹 脚 と な っ て い る こ と,で あ っ た. Fig.5・Bに 示 す よ う に,熟 練 者 群(1)とsw (m)の ボ ー ル の リ リ ー ス 期 で は,1)頭 部 が 後 方 に 強 く傾 斜 し て い る こ と,2)ボ ー ル を 持 っ た 側 の 後 脚 の 膝 が 屈 曲 し て い る こ と,3)重 心 が 反 対 側 の 前 脚 部 に移 動 し て い る こ と,4)ボ ー ル を持 た な い 反 対 側 の 手 が 前 方 向 に あ る こ と,5)上 体 は 反 る 傾 向 に あ る こ と,等 に 特 徴 が み ら れ た.そ れ に対 し,未 熟 練 者 群(II)で は,1)頭 部 の 後 方へ の 傾 斜 が 緩 や か で あ る こ と,2)体 幹 が 後 方 に シ フ ト し て い る こ と,3)両 足 の 膝 が の び て い る こ と,4)重 心 が 高 く て 後 方 に あ る こ と,5)足 の ス タ ン ス が 比 較 的 短 か い こ と,等 の 特 徴 が み ら れ た. Fig.5・Cに 示 す よ う に,ボ ー ル の 移 動 軌 跡 は, 熟 練 者 群(1)とSW(m)が 類 似 し て い た.そ れ ら の 特 徴 は,1)準 備 動 作 の 軌 跡 が 大 き い こ と,2) 準 備 動 作 に お け る ボ ー ル の 移 動 方 向 が 下 方 を経 由 す る 点 で あ る.こ れ ら の 特 徴 は 未 熟 練 者 群(II)で は 全 く認 め ら な か っ た.す な わ ち,未 熟 練 者 で は, 1)準 備 動 作 中 の ボ ー ル の 移 動 軌 跡 が き わ め て 小 さ い こ と,2)準 備 動 作 に お け る ボ ー ル の 移 動 方 向 は う し ろ に や や 上 方 に 向 か っ て ほ ぼ 平 行 移 動 し て い る こ と,に 特 徴 が み ら れ た.主 動 作 の 軌 跡 パ タ ー ン に つ い て は 三 群 と も ほ ぼ 類 似 し て い た. 熟 練 者 群(I)とsw(III)の 投 距 離 は,Fig5・D に 示 す よ う に,未 熟 練 者 群 の そ れ の 約2.5∼2.6倍 で あ っ た. 2.非 利 き 手 投 げ に お け る 投 動 作 熟 練 者 群(I),未 熟 練 者 群(II)お よ びSW(m) の 非 利 き 手 投 げ の ト レ ー ス 図 をFig.6に 示 す. Fig.6・Aに は 投 球 方 向 に 対 し て ボ ー ル が 最 も 後 方 に 位 置 した 時 期 の ト レ ー ス 図 が 示 さ れ て い る. 熟 練 者 群(I)と 未 熟 練 者 群(II)で は,1)投 球 側 の 腕 が 屈 曲 した 状 態 を 呈 し て い る こ と,2)反 対 側 の 腕 が 前 方 に 延 び な い こ と,3)体 幹 が 後 方 に 十 分 シ フ ト しな い こ と,4)ボ ー ル を 持 た な い 反 対 側 の 下 肢 の 膝 が 延 び て い る こ と,に 特 徴 が み ら れ た.こ れ ら の 投 動 作 パ タ ー ン は,未 熟 練 者 群(II) の 利 き 手 投 げ の そ れ と 定 性 的 に 同 じ で あ っ た (Fig.5・A).SW(III)の 投 動 作 は 利 き手 投 げ と ほ ぼ 同 じで あ っ た. Fig.6・Bに は ボ ー ル の リ リ ー ス 期 を 示 す.熟 練 者 群(1)の 非 利 き手 投 げ は,1)頭 部 の 後 方 へ の 傾 斜 角 度 が 小 さ い こ と,2)体 幹 が 反 ら ず に 前 方 へ 出 て い る こ と,3)腰 部 が 頭 部 よ り 後 方 に 残 っ て い る こ と,4)ボ ー ル の 離 れ る 位 置 が 身 体 の 比 較 的 前 方 に あ る こ と,5)ボ ー ル を 持 っ た 手 と 反 対 側 の 膝 の 屈 曲 角 度 が 小 さ い こ と,6)ボ ー ル を持 っ た 手 と 同 じ側 の 膝 の 屈 曲 が ほ と ん ど み ら
Fig. 6.
Typical patterns of overarm non-dominant
hand throwing motions.
I : trained
group (subj.: M. T.), II: untrained group
(subj.: M. S.) and III: switch thrower (Y. I.). A to D
and arrow are as in Fig. 5.
れ な い こ と,7)投 球 動 作 が プ ッ シ ュ 型(砲 丸 投
げ)の 動 作 に 近 い こ と,等 に 特 徴 が み ら れ た.こ れ ら の 投 動 作 パ タ ー ン の 特 徴 は,未 熟 練 者 群(II) の 場 合 で も認 め ら れ た(Fig.6・B).そ れ に 対 し, sw(III)の リ リ ー ス 期 の 投 動 作 パ タ ー ン(Fig.6・
III・B)は 利 き 手 投 げ の そ れ(Fig .5・III・B)と ほ ぼ 同 じで あ っ た. Fig.6・Cに 示 す よ う に,熟 練 者 群(1)に お け る ボ ー ル の 軌 跡 パ タ ー ン は 利 き手 投 げ の そ れ と は 明 ら か に 異 な り,準 備 動 作 の 開 始 か ら 終 了 ま で ボ ー ル の 下 降 が 全 く み ら れ な か っ た.こ の 現 象 は 未 熟 練 者 群(II)の 場 合 で も定 性 的 に ほ ぼ 一 致 し て い た. E.投 動 作 パ ラ メ ー タ の 利 き 手 投 げ と 非 利 き 手 投 げ の 比 較 ス テ ッ プ な し の 条 件 で 得 ら れ た 熟 練 者 群,未 熟 練 者 群 お よ びSWに お け る 準 備 動 作 と リ リ ー ス 期 の 投 動 作 パ タ ー ン をTable3に 示 す.
利 き手 投 げ と非 利 き手 投 げの 投 動 作 パ ター ン 169
Table 3. Seven parameters estimated from overarm dominant hand throwing and non-dominant hand throwing.
Conditions : overarm throwing without step. Values : means ±SE. Dom.: dominant hand side and
Non-Dom.
; non-dominant hand side. * : p<0.05, ** ; p<0.01
and *** : p<0.001 (vs.
non-dominant hand side). b) : p<0.01 and c) : p<0.001 (vs. dominant hand side of the trained
group). tt : p<0.01 and ttt ; p<0.001 (vs. non-dominant hand side of the trained group).
Parameters, a to g are as in Fig. 3.
1.準 備 動 作 1)体 幹 の 最 大 後 傾 角 度 準 備 動 作 に お け る 体 幹 の 最 大 後 傾 角 度(Table 3・a)は,未 熟 練 者 群,熟 練 者 群 お よ びSWと も に 利 き 手 投 げ が 非 利 き手 投 げ の そ れ ぞ れ2.33倍, 1.61倍,1.28倍 で あ っ た.利 き手 投 げ で は,こ の 値 の 大 き さ がSW(1.62)〉 熟 練 者 群(1.26)〉 未 熟 練 者 群(1.0)の 順 で あ っ た.非 利 き 手 投 げ の 値 は 熟 練 者 群 と 未 熟 練 者 群 と の 間 に 有 意 な 差 が 認 め ら れ ず,SWの 値 は 他 の 群 の 約2倍 で あ っ た. 2)ボ ー ル を 持 た な い 反 対 側 の 上 腕 と 体 幹 と の 角 度 こ の 値(Table3・b)は,熟 練 者 群 と未 熟 練 者 群 と も に 利 き 手 投 げ が 非 利 き手 投 げ の そ れ ぞ れ3.80 倍,2.45倍 で あ っ た が,SWで は 投 げ る 手 に 関 係 せ ず ほ ぼ 同 じ で あ っ た.利 き手 投 げ の 場 合,こ の 値 は 熟 練 者 群 とSWが 未 熟 練 者 群 の そ れ ぞ れ 1.65倍,1.85倍 で あ っ た.非 利 き 手 投 げ の 場 合, こ の 値 に は 熟 練 者 群 と未 熟 練 者 群 と の 間 に 有 意 な 差 が み ら れ ず,SWの 値 は 未 熟 練 者 群 の 約4.6倍 と 著 し く大 き か っ た. 2.リ リ ー ス 期 1)前 脚 の 膝 の 屈 曲 角 度 前 脚 の 膝 の 屈 曲 角 度(Table3・c)は,熟 練 者 群 で は 利 き 手 投 げ が 非 利 き手 投 げ の0.86倍 で あ り, 屈 曲 度 が よ り大 き か っ た.未 熟 練 者 群 の 値 は 利 き 手 投 げ と 非 利 き手 投 げ と の 間 に 有 意 な 差 が み ら れ な か っ た.ま た,利 き手 投 げ の 場 合,前 脚 の 膝 の 屈 曲 角 度 は 熟 練 者 群 が 未 熟 練 者 群 の0.89倍 で あ り,熟 練 者 群 の 屈 曲 角 度 が 有 意 に 大 き か っ た.ま た,SWの 値 も未 熟 練 者 の そ れ の0.93倍 で あ り, 同 様 の 現 象 が 認 め ら れ た.非 利 き 手 投 げ の 場 合, こ の 値 は 熟 練 者 群 と未 熟 練 者 群 と の 間 で 大 き な 差 は み ら れ ず,SWが 両 群 よ り約15%小 さ く,屈 曲 角 度 が よ り大 き か っ た. 2)後 脚 の 膝 の 屈 曲 角 度 こ の 値(Table3・d)は,利 き手 投 げ の 場 合,熟 練 者 群 とSWが 未 熟 練 者 群 の そ れ ぞ れ0.86倍, 0.91倍 で あ り,屈 曲 角 度 が よ り大 き か っ た.ま た, 利 き 手 投 げ の 場 合,後 脚 の 膝 の 屈 曲 角 度 は,SW (1.13)〉 熟 練 者 群(1.11)>未 熟 練 者 群(1.0)の 順 で あ っ た.非 利 き 手 投 げ の 値 はSWと 熟 練 者 群 が 未 熟 練 者 群 の そ れ ぞ れ0.80倍,0.93倍 で あ り, SWと 熟 練 者 群 の 屈 曲 角 度 が 相 対 的 に 大 き か っ た. 3)頭 部 の 後 傾 角 度 こ の 値(Table3・e)は,熟 練 者 群,未 熟 練 者 群 お よ びSWに お い て 利 き手 投 げ が 非 利 き 手 投 げ の そ れ ぞ れ2.70倍,2.46倍,1.27倍 で あ っ た.利 き 手 投 げ の 場 合,頭 部 の 後 傾 角 度 は 熟 練 者 群 と SWが 熟 練 者 群 の そ れ ぞ れ1.21倍 と2.46倍 で あ つ
た.非 利 き手投 げ の場 合 に は,頭 部 の後 傾 角 度 は
熟 練 者 群 と未 熟練 者群 との 間 に有 意 な差 が 認 め ら
れ な か っ た.こ
れ ら の 値 はSWの
値 の0.21∼
0.23倍 で あ り,著 し く小 さか っ た.
4)体 幹 の 前 傾 角 度
利 き手 投 げ の場 合,体 幹 の 前傾 角 度(Table3・
f)は,熟 練 者 群,未
熟 練 者 群 お よ びSWで
利 き
手投 げ が 非利 き手 投 げ の そ れ ぞ れ0.52倍,0.83倍,
0.29倍 で あ っ た.し た が っ て,利
き手投 げ の 体 幹
の 前傾 角 度 は未 熟 練 者 群 が 他 の 群 よ り著 し く大 き
か った.非 利 き手 投 げ の場 合,こ の 値 は 熟練 者 群
と未 熟 練 者 群 との 間 に有 意 な差 が な か っ た が,
SWの
値 は両 群 の0.75∼0.84倍 で あ っ た.
5)ボ ー ル の 初 速度
ボ ー ル の 初 速 度(Table3・g)は,未
熟 練 者 群,
熟 練 者 群 と もに利 き手 投 げ が 非 利 き手投 げ の そ れ
ぞ れ1.79倍,1.59倍
で あ っ た が,SWで
は利 き手
投 げ と非 利 き手 投 げ との 差 が ほ とん ど認 め られ な
か っ た.ま た,利
き手 投 げ の値 は 熟練 者 群 また は
SWが
未 熟 練 者 群 の値 の そ れ ぞ れ1.49,1.45倍
で
あ っ た.非 利 き手 投 げの場 合,ボ ー ル の初 速 度 は
熟 練 者 群 が 未 熟 練 者 群 の1.32倍 で あ っ た が,SW
の値 は熟 練 者 群 の1.58倍,未
熟練 者 群 の2.09倍 と
著 し く大 き か っ た. F.投 距 離 と投 動 作 パ ラ メ ー タ ま た は 投 動 作 過 程 と の 関 係 1.投 距 離 と リ リ ー ス 期 に お け る ボ ー ル の 平 均 移 動 速 度 と の 関 係 利 き 手 投 げ で は,Fig.7・ 左 側 に 示 す よ う に, 投 距 離 と 主 動 作 に お け る ボ ー ル の 平 均 移 動 速 度 と の 間 に 高 い 正 の 相 関(r=0.86,p<0.001)が 認 め ら れ た.ま た,Fig.7・ 右 側 に 示 す よ う に,非 利 き手 投 げ で も高 く は な い が,正 の 相 関 関 係 が み ら れ た(r=0.56,p<0.001). 2.投 距 離 と準 備 動 作 中 の ボ ー ル の 移 動 距 離 と の 関 係 図 示 し な い が,利 き手 投 げ と 非 利 き手 投 げ の 投 距 離 と 準 備 動 作 中 の ボ ー ル の 移 動 距 離 と の 間 に は,正 の 相 関(そ れ ぞ れr=0.56,r=0.52,い ず れ もp<0.01)が あ っ た. 3.投 距 離 と ボ ー ル を持 た な い 反 対 側 の 上 腕 と体 幹 と の 角 度 ま た は 準 備 動 作 中 の 体 幹 の 最 大 後 傾 角 度 と の 関 係 Fig.8・ 左 側 に 示 す よ う に,利 き 手 投 げ の 投 距 離 は,準 備 動 作 に お け る ボ ー ル を 持 た な い 反 対 側 の 上 腕 と体 幹 と の 角 度(A)ま た は 体 幹 の 最 大 傾 斜Throwing distance(m)
Fig. 7. Relationship between ball-throwing distance and mean ball velocity in the accelera. tion phase. •›
: trained group (first throwing data), • : trained group (second throwing data), : un-trained group (first throwing data),•¡: untrained group (second throwing data). Each line was simulated by the first regression function.
利 き手投 げ と非 利 き手 投 げ の投 動 作 パ ター ン 171
Throwing
distance(m)
Fig. 8. Relationship between ball-throwing distance and angle between trunk and ball-free upper arm (A) or maximal hinder-inclination angle of trunk (B). •›
: trained group (first throwing data), • : trained group (second throwing data), •œ: un trained group (first throwing data), •¡ : untrained group (second throwing data). Regression lines are as in Fig. 7.
角 度(B)と の 間 に 正 の 相 関(そ れ ぞ れr=0.82, r=0.61,い ず れ も ρ〈0.001)が 認 め ら れ た.し か し,こ の よ う な 正 の 相 関 は 非 利 き 手 投 げ で は み ら れ な か っ た(Fig.8・ 右 側). 4.投 距 離 と リ リ ー ス 期 に お け る 前 脚 の 膝 の 屈 曲 角 度 ま た は 後 脚 の 膝 の 屈 曲 角 度 と の 関 係 利 き 手 投 げ の 投 距 離 は,Fig.9・ 左 側 に 示 す よ う に,リ リ ー ス 期 に お け る 前 脚 の 膝 の 屈 曲 角 度 (A)ま た は 後 脚 の 膝 の 屈 曲 角 度(B)と の 間 に 高 い 負 の 相 関(そ れ ぞ れr=-0.84,r=-0.71,い ず れ もp<0.001)が 認 め ら れ た.し か し,非 利 き手 投 げ の 投 距 離 は リ リ ー ス 期 に お け る 前 脚 の 膝 の 屈 曲 角 度(A)と の 間 に 相 関 が 認 め ら れ な か っ た が,
後 脚 の 膝 の 屈 曲角 度(B)と の 間 には 負 の 相 関(r=
-0
.64,p<0.001))が
み られ た(Fig.9・ 右 側).
IV
.考
察
本 研 究 の 目的 は,利
き手 投 げ と非 利 き手 投 げ に
お け る投 距 離 と投 動 作 特 性 との 関係 を明 確 にす る
こ とで あ る.そ の た め,熟 練 者 群,未 熟 練 者 群 お
よ び ス イ ッチ ス ロ ー ワー(SW)に
分 け て定 量 的 に
しらべ た.利 き手投 げ と非 利 き手 投 げ にお け る投
距 離 と各 種 の 投 動 作 特 性 との 関 係 に つ い て も比
較 ・検 討 した.
A.被
験 者 の選 定 基 準
本研 究 を遂行 す る た め に不 可 欠 な被 験 者 の 選 定
基 準 は,1)熟
練 者 群 お よび未 熟 練 者 群 と も に同
Throwingdistance(m)
Fig. 9 Relationship between ball-throwing distance and maximal knee-flexion angle of sup porting leg (A) or knee-flexion angle of non-supporting leg (B). •›
: trained group (first throwing data), • : trained group (second throwing data), : un-trained group (first throwing data),•¡: untrained group (second throwing data). Regression
lines are as in Fig. 7.
性 で あ る こ と,2)同
年齢,3)体
格 お よ び体 力
が 群 間 で ほ ぼ揃 って い る こ とで あ る.さ
らに,未
熟 練 者 群 の 場 合 には,1)球
技 以 外 のス ポ ー ツ種
目の 経 験 年 数 が 熟練 者 群 の球 技 の そ れ とほ ぼ等 し
い こ と,お よ び2)正
課 体 育 実 技 以 外 の 球 技(特
に野 球 ・ソ フ トボ ー ル等)経 験 をほ と ん ど有 さ な
い こ とで あ る.こ れ らの選 定 基 準 を満 た した被 験
者 は女 子 で6名 見 い 出 され たが,男 子 で は見 い 出
す こ とが で きな か った.そ の た め,本 研 究 で はす
べ て の 被験 者 を女子 と した.熟 練 者 群 と未 熟 練 者
群 と も全被 験 者 は利 き手 が 右 側 で あ っ た.ま た,
予 備 調 査 に よ り熟 練 者 に 属 す るSWを1名
見 い
だ す こ とが で きた.こ
の 被 験 者 は 約10年 前 か ら
SWで
あ り,小 学 校 以 来 利 き手 は右 側 で あ った.
B.投
動作 お よ び投 距 離 に対 す る利 き手 投 げ と
非 利 き手投 げ の差
本研 究 で 明確 とな っ た こ とは,1)熟
練 者 群 と
未 熟 練 者 群 の投 距 離 と もに利 き手 投 げが 非 利 き手
投 げ よ り明 らか に大 きい こ と,ま た,2)利
き手
投 げ に よる投 距 離 は熟 練 者 群 が 未 熟 練 者 群 よ り大
きい が,非 利 き手 投 げ の投 距 離 は熟 練 者 群 と未 熟
練 者 群 との 間 に大 きな差 が な い こ と,す なわ ち投
の トレー ニ ング に よる片 側 優 位 の 増 強 が 示 唆 され
る こ と,3)SWで
は利 き手 投 げ と非 利 き手 投 げ
に よ る投 距 離 の差 が きわ め て 小 さい こ とで あ る
(Fig.4).
本研 究 の特 徴 は,熟 練 者 群,未 熟 練 者 群 お よび
SWに
お け る 投 動 作 過 程 を投 動 作 の 所 要 時 間,
利 き手投 げ と非利 き手投 げの投動作パ ター ン
173 ボ ー ル の 移 動 距 離 お よ び ボ ー ル の 平 均 速 度 を 利 き 手 投 げ と非 利 き 手 投 げ で 定 量 的 に 比 較 し た 点 に あ る(Table2).ま た,各 群 の 投 動 作 パ ラ メ ー タ を 利 き手 投 げ と 非 利 き 手 投 げ で 相 互 に 比 較 し た 点 に も特 徴 が あ る(Fig.5,Fig.6). 本 研 究 に お い て は,投 距 離 と投 動 作 パ ラ メ ー タ との 間 の 相 関 関 係 が 利 き手 投 げ に お い て 高 く認 め ら れ,非 利 き 手 投 げ で は 低 い こ と を 示 し た(Table 3,Figs.7∼9).す な わ ち,投 距 離(≒Performance) と 神 経 ・筋 協 応 能 を 反 映 し て い る 投 動 作(≒Skill) と の 関 係 を利 き 手 投 げ と非 利 き手 投 げ と の 間 で 定 量 的 に 比 較 し た 結 果,利 き手 投 げ に よ っ て 得 ら れ た 投 距 離 は,用 い た7種 類 の す べ て の 投 動 作 パ ラ メ ー タ と の 間 に 有 意 な 相 関 関 係 が み ら れ た(Figs. 7∼9).し か し,非 利 き 手 投 げ の 投 距 離 で は,投 距 離 と の 間 に3種 類 の パ ラ メ ー タ と の 間 に 有 意 な 相 関 関 係 が あ る の み で あ っ た(Figs.7∼9).こ の こ と は,利 き手 投 げ で は 投 距 離 と投 動 作 と が よ り 密 接 な 因 果 関 係 を もつ こ と,非 利 き 手 投 げ で は こ の 関 係 が 必 ず し も 十 分 で は な く,Skillを 変 動 さ せ る 要 因 が あ る こ と を 示 唆 して い る.こ の 要 因 は, 後 述 す る よ う に,Skillを 制 御 し て い る 大 脳 に お け る 運 動 プ ロ グ ラ ミ ン グ 系 と そ の フ ィ ー ドバ ッ ク 系 の 過 程 で あ る 可 能 性 が 高 い19∼23). 従 来,ボ ー ル の 投 距 離 は リ リ ー ス 期 の ボ ー ル の 初 速 度 と ほ ぼ 比 例 す る こ と が 示 さ れ て い る3,6,12, 13,24,25).こ の 関 係 を 本 研 究 に お い て も詳 細 に 検 討 し た 結 果,両 者 の 間 に 良 好 な 対 応 関 係 が あ る こ と を 確 認 した.利 き 手 投 げ に よ る 投 距 離 は,主 動 作 に お け る ボ ー ル の 平 均 移 動 速 度 と の 間 に 高 い 正 の 相 関 関 係 が 認 め ら れ た(Fig.7). 本 研 究 で は,SWの 利 き 手 投 げ と 非 利 き 手 投 げ の 投 動 作 が ほ ぼ 類 似 し た パ タ ー ン を 示 す こ と を 明 確 に し た(Fig5,Fig.6).一 方,神 経 ・筋 協 応 能 を 直 接 反 映 し て い る 投 動 作 に は,SWの 利 き 手 投 げ と 非 利 き 手 投 げ と の 間 で 異 な る 点 も 認 め ら れ た.す な わ ち,ス テ ッ プ な しの 非 利 き手 投 げ に よ る投 動 作 の 特 徴 は,1)準 備 動 作 中 の バ ッ ク ス イ ン グ が 深 く て 狭 い 動 作 を 行 う こ と,2)身 体 の 重 心 を前 方 に 傾 け る よ う に し て 投 球 す る こ と が 明 ら か に 認 め ら れ た 点 で あ る(Fig.6).こ れ ら の 動 作は利 き手 投 げ の 場 合 に は 認 め ら れ な い(Fig.5).
そ の ため,こ の 動作 で は投 に比 較 的習 熟 した被 験
者 の 非 利 き手投 げ に よる投 動 作 の制 御 形 態 を反 映
して い るの か も しれ な い.し たが っ て,SWに
お
け る利 き手投 げ と非 利 き手 投 げ に よ る投 動 作 の 制
御 系 は,す べ て の動 作 が全 く同一 で ない もの と推
定 で きる.
C.投
動 作 に お け る準 備 動 作 の 役 割
一般 に
,投 動 作 に お け る準 備 動 作 の 役 割 は,主
動 作 の 過程 に お い て ボ ー ル を加 速 させ る こ とに あ
る24∼26).そ の た め には 投 げ手 側 の 肩 を後 方 に 引
き,体 幹 の捻 りを形 成 す る こ とが 不 可 欠 な 要 素 と
され て い る24,26,27).ま た,投 距 離 を よ り大 き く
す る た め に は,主 動 作 に入 る前 に大 きな準 備 動 作
を行 な うこ とに よ っ て よ り大 き な運動 エ ネ ル ギ ー
を獲 得 し,そ の 運 動 エ ネ ルギ ー を主動 作 時 に お い
て ボ ー ル の移 動 速 度 を高 め るた め に使 うこ とで あ
る と され て い る26).事 実,本
研 究 で も熟 練 者 群
の 利 き手 投 げ やSWの
利 き手 投 げ また は非 利 き
手 投 げ で は,準 備 動 作 中 の ボ ー ル の移 動 距 離 が 未
熟 練 者 群 や 熟 練 者 群 の 非利 き手 投 げ の値 よ り明 ら
か に 大 きか っ た(Table2).そ
れ に伴 な い,準 備
動 作 の 開 始 時 には 肩 を後 方 に 引 く と同時 に前 脚 と
後 脚 の 膝 の 屈 曲 度 を高 め る こ とに よっ て,身 体 の
重 心 を低 くす る動 作 も明 らか に認 め られ た(Table
2,Fig.8,Fig.9).そ
の ため,熟 練 者 群 の 利 き手
投 げやSWの
利 き手 投 げ ・非 利 き手 投 げ と もに,
準 備 動 作 の ボ ー ル の軌 跡 が ほ ぼ 円弧 状 を呈 して い
た(Fig.5,Fig.6).
そ れ に対 し,投 動 作 に習 熟 して い な い ケ ー ス(熟
練 者 群 の 非 利 き手 投 げ,未 熟 練 者 群 の 利 き手 投
げ ・非 利 き手 投 げ)で は,準 備 動 作 の ボ ー ル の 軌
跡 は 円弧 を描 かず ほ ぼ水 平 に移 動 して い るだ け で
あ っ た(Fig.5,Fig.6).こ
れ ら の ケ ー ス で は,
1)投 の 開 始 時 に膝 が 十 分 に屈 曲 して い な い こ
と,2)ボ
ー ル を下 か ら上 に振 り上 げ ない こ と,
3)体 幹 を後 方 に移 動 させ ない こ と等 の 明確 な特
徴 が認 め られ た(Fig.8,Fig.9).そ
の た め に,こ
れ らの場 合,身 体 の 重 心 が 十 分 後 方 に移動 せ ず,
重 心 が比 較 的高 い状 態 に保 た れ て い る もの と推 測
で きる.ま た,下 肢 か らの位 置 エ ネル ギ ー を全 身
エ ネ ル ギ ー と して腰 か ら上肢 へ と放 出 す る こ とが
不 十分 とな る ため,準 備 動 作 か ら主動 作 へ と移 行
す る エ ネ ル ギ ーが 相 対 的 に少 な くな り,そ の結 果
と して主 動 作 の ス ピ ー ドが よ り低 くな る もの と推
定 され る.こ の 推 定 は これ らの ケ ー ス で は 主動 作
の ボ ー ル の平 均 移 動 速 度 が 相 対 的 に低 値 を示 す こ
とか ら支 持 さ れ よ う(Table2,Fig.7).
一方
,投 動 作 を行 な うた め の 運 動 エ ネ ル ギ ー ま
た は位 置 エ ネ ル ギ ー は準 備 動 作 にお い て 下肢 に 蓄
え ら れ る こ とが 知 ら れ て い る26).し か し,未 熟
練 者 群 で は こ のエ ネ ル ギー を獲 得 す る程 度 が比 較
的 少 な い の で(Table2),主
動 作 に お け る ボ ー ル
の 移動 速 度 が 小 さ くな る可 能 性 が 高 い もの と判 断
で きる.ま た,投 動 作 は下 肢,腰,胴
体,上 肢(肩
→ 肘 → 手)の 順 に動 くと され て い る26).そ の ため,
主動 作 の ボ ー ル の移 動 速 度 が 未 熟 練 者 群 で小 さい
の は,下 肢 部 の神 経 系 の制 御 が 十 分 に作 動 しな い
た め と推 定 で き る.し た が っ て,未 熟 練 者 群 で は
こ の準 備 動 作 を改 善 す る こ とに よっ て主 動 作 にお
け る ボ ー ルの 平 均 移 動 速 度 を高 め る こ とが 投 距 離
を 向上 させ る上 で 重 要 な因子 と推 定 で きる.
D.投
動 作,ボ ー ル の 移動 軌 跡 お よ び投 距 離 の
類 型 化
本 研 究 の 結 果 よ り,投 距 離 と各 種 の投 動 作 パ
ター ンか ら類 型 化 を行 う と少 な く と も2つ の タイ
プ(1型
とII型)に 分 類 で き る.Fig.10に
示 す よ
うに.1型
は未 熟 練 者 群 の利 き手 投 げ と非 利 き手
投 げ お よ び熟 練 者 群 の 非 利 き手投 げ が該 当 し,II
型 は熟 練 者 群 の利 き手投 げ,SWの
利 き手投 げ と
非 利 き手 投 げが 該 当 す る.
1型 の特 徴(Fig.10・ 左 側)は つ ぎの よ うに要 約
で きる:1)ボ
ー ルが 最 も後 方 の位 置 に あ る場 面
(準備 動作 中)で は身 体 の 重 心 を後 方 に傾 け る こ と
が きわ め て少 ない こ と,し か もボ ー ル を持 た な い
Fig. 10
Typical patterns of overarm throwing of ball in type I and type II.
Type I. a : dominant hand throwing by an untrained subject (M. S.) ; b : non-dominant hand
throwing by an untrained subject (M. S.) ; c : non-dominant hand throwing by a trained subject
(M. T.) . Type II. a : dominant hand throwing by a trained subject (M. T.) ; b : dominant hand
throwing by a switch thrower (Y. I.) ; c : non-dominant hand throwing by a switch thrower (Y.
I.). A to D and arrow are as in Fig. 5.
利 き手投 げ と非 利 き手 投 げ の投 動作 パ ター ン 175 側 の 腕 も前 方 向 に あ が ら な い こ と(Fig.10・A), 2)準 備 動 作 に お い て ボ ー ル を 投 げ る 腕 が 屈 曲 す る こ と(Fig.10・A).そ の た め,準 備 動 作 中 の ボ ー ル の 移 動 距 離 が 相 対 的 に小 さ くな り,主 動 作 へ の ス ピ ー ドが 十 分 に 伝 わ ら な い 可 能 性 も あ る こ と, 3)リ リ ー ス 期 に 頭 を 後 方 に大 き く傾 け ら れ な い た め 体 幹 を 反 ら す こ と が で き ず(Fig.10・B),そ の 反 動 を 利 用 して 主 動 作 中 の ボ ー ル の 移 動 速 度 を 高 め る こ とが で き な い.こ れ は 頸 反 射 が 十 分 に 働 か な い こ と が 主 因 と推 定 さ れ る こ と19∼21),4) リ リ ー ス 期 の 体 幹 の 位 置 が か ら だ の 前 後 に 大 き く 変 動 し や す い こ と(Fig.10・B),5)リ リ ー ス 期 の ボ ー ル の 位 置 は い ず れ も か ら だ の 前 方 に あ り, 下 肢 が 十 分 に 使 わ れ て い な い(膝 の 屈 曲 度 が ほ と ん ど な い)た め に 腰 が 十 分 に 入 ら ず,そ の 動 作 が み か け の 上 で シ ョ ッ トプ ッ ト型(砲 丸 投 げ の 投 法 に 近 い 型)に 類 似 し て い る こ と(Fig.10・B),6) ボ ー ル の 移 動 軌 跡 は 投 球 開 始 の 位 置 よ り下 方 に ほ と ん ど 移 行 せ ず,後 方 に 並 行 し て 動 く こ と(Fig 10・C),7)投 距 離 が い ず れ も8∼12mで あ る こ と(Fig.10・D). 以 上 の 特 徴 は,Fig.10・ 右 側 に 示 す よ う に,II 型 に お い て は ほ と ん ど み ら れ な い.II型 の 特 徴 は つ ぎ の よ う に 要 約 で き る:1)ボ ー ル が 最 も 後 方 の 位 置 に あ る 場 面(準 備 動 作 中)で は,体 幹 を側 方 に 捻 りか つ 身 体 の 重 心 を 後 方 に お き,ボ ー ル 投 げ を 行 う腕 を延 ば し て 反 対 側 の 腕 が 前 方(投 球 方 向) に 延 び る こ と(Fig.10・A),2)リ リ ー ス 期 に は 膝 の 屈 曲 角 度 を 大 き く し て,頭 を 後 方 に大 き く傾 斜 す る.そ し て 体 幹 を 反 ら し(頸 反 射 の 典 型 的 な パ タ ー ン)19∼21,28),ボ ー ル が 離 れ る 位 置 は 体 幹 の ほ ぼ 上 に あ る こ と(Fig.10・B),3)リ リ ー ス 期 に は 身 体 の 重 心 が 前 脚 部 に 移 り,後 脚 は 比 較 的 リ ラ ッ ク ス し て い る こ と(Fig.10・B),4)ボ ー ル の 移 動 軌 跡 は 投 球 開 始 の 位 置 よ り下 方 を 経 由 し て 比 較 的 大 き な 弧 を 描 く こ と(Fig.10・C),5) 投 距 離 が27∼31mで あ る こ と(Fig.10・D). E.I型 とII型 に お け る投 動 作 の 特 徴 1型 の 投 動 作 は 日 常 的 に投 動 作 を行 っ て い な い 場 合,あ る い は 投 動 作 を 行 っ て い て も 日 頃 投 を 行 っ て い な い 側 の 手 で み ら れ る(Fig.10・ 左 側). し た が っ て,日 常 投 球 動 作 を経 験 し て い な い 場 合, 投 の 示 範 を 直 前 に 受 け て か ら 直 ち に投 を行 っ た と き の 動 作 パ タ ー ン はII型 の そ れ と は 著 し く異 な っ て い る こ と が 推 定 さ れ る(Fig.10・ 右 側).し た が っ て,1型 の 投 動 作 は 投 の モ デ ル 情 報 が 視 覚 系 を 介 して 運 動 プ ロ グ ラ ミ ン グ を 司 る 大 脳 に 伝 わ り,そ こ で 十 分 な 情 報 処 理 を 行 っ て 後,遠 心 系 に 情 報 を 出 す と い う一 連 の ル ー プ 系 が 十 分 に 作 動 し て い な い 可 能 性 が 高 い19∼21,25,28).す な わ ち,投 動 作 の コ ン ト ロ ー ル に は 動 作 の 繰 り 返 し に よ る フ ィ ー ド バ ッ ク 系 の 運 動 学 習 が 不 可 欠 で あ る7,25).し か し,利 き手 投 げ に よ る 投 動 作 が1型 で あ る 被 験 者 で も非 利 き 手 の 投 動 作 に は 転 移 作 用 が ほ と ん ど 認 め ら れ ず(Table2),利 き 手 と 非 利 き手 の 神 経 ・筋 協 応 能 は ほ ぼ 独 立 し て い る 可 能 性 が あ る.こ れ は,利 き 手 投 げ に よ る 投 の 経 験 が, 非 利 き手 側 と は 無 関 係 に利 き手 側 の み に 強 く反 映 す る こ と を 意 味 して い る.こ の 可 能 性 に つ い て は, II型 を 有 す る 被 験 者 の 場 合,投 に 関 与 し な い 側 の 手 は 投 の ス キ ル が 未 熟 練 者 群 の そ れ と定 性 的 に み て ほ ぼ 同 じで あ る こ と か ら も支 持 さ れ る か も しれ な い(Table2,Fig.5,Fig.6,Fig.10). つ ぎ に,a)1型 の 被 験 者 の 非 利 き手 投 げ の 投 距 離 や 投 動 作 パ タ ー ン が 投 の ト レ ー ニ ン グ に よ っ て 利 き手 投 げ の そ れ に接 近 で き る か 否 か,b)投 の ト レ ー ニ ン グ に よ っ て1型 に 属 す る 被 験 者 が 利 き手 投 げ で も 非 利 き手 投 げ で もII型 に 変 化 す る か 否 か,に つ い て そ の 可 能 性 を 考 察 す る. ま ず,a)の 可 能 性 に つ い て は,SWの 結 果 が 有 用 な 情 報 を提 供 す る か も し れ な い.II型 に 属 す るSWの 投 距 離 や 動 作 パ タ ー ン は,両 手 と も に程 度 の 差 は あ る が ほ ぼ 類 似 し て い た(Table2,Fig. 5,Fig.6,Fig.10).こ の 被 験 者 は 熟 練 者 群 の カ テ ゴ リ ー に 入 る が,本 来 利 き手 は 右 側 で あ っ て, こ れ ま で に左 側(非 利 き 手)に お い て も 投 球 練 習 を 約10年 間 行 っ て き た.し た が っ て,SWの 非 利 き 手 投 げ と 利 き手 投 げ に よ っ て 得 ら れ た 結 果 か ら, つ ぎ の よ う な 可 能 性 が 想 定 で き る.す な わ ち,熟 練 者 群 の 非 利 き手 投 げ に よ る 投 動 作 パ タ ー ン や 投 距 離 は 投 の ト レ ー ニ ン グ に よ っ て 利 き 手 投 げ 側 に よ り シ フ トす る こ と,す な わ ち1型 か らII型 へ 移
行 す る 可 能性 が 高 い.
ま た,b)の
可 能 性 に つ い て は,熟 練 者 群 と
SWの
結 果が 有 用 な示 唆 を与 え る で あ ろ う.既 述
の よ うに,熟 練 者 群 の非 利 き手投 げ が投 の トレー
ニ ング に よっ て利 き手 投 げ に よ りシ フ トす る 可 能
性 を推 定 した.熟 練 者 群 の 球 技 経 験 年 数 は 約5年
で あ っ た.約5年
間 の球 技 経 験 が 片 側優 位 に 影響
して い る か否 か を 第一 近 似 と して 推 定 す る た め,
投 距離 の非 利 き手 投 げ に対 す る利 き手投 げ の比 を
算 出 す る と,そ の値 は2.58で あ っ た(Fig.4).未
熟練 者 群 で は そ の比 が1.73と 算 出 され,熟 練 者 群
が 約1.5倍 大 きか っ た.し た が っ て,片 側 優 位 の
程 度 は球 技 経 験 に よ っ て よ り大 き くなる 可 能性 が
高 い こ と,ま た,非 利 き手投 げ は利 き手投 げ の球
技 経 験 に よっ て ほ とん ど影 響 され ない こ とが推 定
され る.同 様 の 傾 向 は,投 動 作 過 程 の 解 析 結 果
(Table2)や 投 動 作 パ ラ メ ー タ(Fig.5,Fig.6,
Fig.10)の 比 較 デ ー タか ら も推 定 で き る.
以 上 の 考 察 よ り,1型
は 投 の トレー ニ ン グ に
よっ てII型 に移 行 す る可 能 性 が 高 い が,こ の推 定
に対 す る実 証 は今 後 の研 究 に待 た なけ れ ば な らな
い.
今 後 の研 究 課 題 と して は,未 熟 練 者 の利 き手 投
げ と非 利 き手 投 げ,熟 練 者 の 非 利 き手投 げ の投 動
作 パ ター ンや投 距 離 が 投 の トレー ニ ン グに よっ て
どの よ う に 変 化 す る か を 明 らか に す る こ とで あ
る.そ の た め に は,本 研 究 で 得 られ た 二次 元 解 析
に よる知 見 と三 次 元 解 析 の そ れ と を比較 ・検 討 す
る 必 要 が あ る13,18,25).ま た,利
き手 投 げ と非 利
き手 投 げ に よ る投 動 作 の 協 応 能 の 差 を明確 にす る
た め,例 え ば筋 電 図 法 に よ って 詳細 に検 討 す る こ
と も重 要 で あ ろ う10・14,19,20,28).さ
ら に,投 動 作
や投 距 離 に対 す る利 き手投 げ優 位 に よる現 象 が年
齢 や性 等 に よ っ て いか に変 化 す るか を し らべ る必
要 もあ る.
投 以 外 の利 き手 優 位 の 現 象,例 え ば食 器 を持 つ
場 合,字
を書 く場 合 等 にみ られ る利 き手 お よび非
利 き手 に よ る運 動 の 技 術 特性 や神 経 ・筋 協 応 能 を
明 らか にす る こ と も今 後 の研 究 課題 と して残 され
て い る29).
V.総
括
オ ー バ ー ス ロ ー に よ る投 動 作 パ ター ン と投 距 離
に対 す る利 き手 投 げ と非 利 き手投 げ の差 を明 確 に
す る た め,成 人女 子 を被 験 者 と して 投 の 未 熟 練 者,
熟 練 者 お よ び ス イ ッチ ス ロ ー ワー(SW)の
投 距 離
と各 種 の投 動 作 特 性 を測 定 ・解析 した.さ
らに,
片 側 優 位 に及 ぼす 投 の トレー ニ ン グ効 果,投 動 作
の過 程 と習 熟 度 との 関 係 お よび投 動 作 と投 距 離 と
の 関係 等 を検 討 した.そ の結 果,以 下 の知 見 を得
た.
1.未 熟 練 者 群 と熟 練 者 群 の投 距 離 は,利
き手
投 げが 非 利 き手投 げ よ り有 意 に大 きか っ た.非 利
き手 投 げ に対 す る利 き手投 げ の投 距 離 の比 は熟 練
者 群 が 未 熟 練 者 群 よ り有 意 に 大 きか っ たが,SW
で は著 し く小 さか った.
2.投 動 作 の 全 体 お よび準 備 動 作 に お け る各 所
要 時 間 は各 群 間 で 大 差 が み られ な か っ たが,主 動
作 時 間 は熟 練 者 群,未 熟練 者 群 と もに利 き手 投 げ
が 非 利 き手 投 げ よ り明 らか に小 さか っ た.ボ ー ル
の移 動 距 離 は動 作 全 体,準 備 動 作 と もに利 き手 投
げが 非 利 き手投 げ よ り大 きか っ た が,主 動 作 にお
け る ボ ー ルの 移 動 距 離 は 各群 間 で差 が 認 め られ な
か っ た.ボ ール の 平 均 移動 速 度 の大 き さは三 群 と
も主 動 作 〉動 作 全 体 〉準 備動 作 の順 で あ り,利 き
手 投 げが 非 利 き手投 げ よ り明 らか に大 きか っ た.
3.熟 練 者 群 の 非 利 き手投 げ や未 熟 練 者 群 の 利
き手 投 げお よ び非利 き手投 げ の投 動 作 は,準 備 動
作 で ボ ー ルの 軌 跡 が小 さ く,ボ ー ルが 水 平 に後 方
へ と移 動 し,円 弧状 の 軌 跡 を示 さず,主 動 作 時 の
ボ ー ルの 平 均 移 動 速 度 が小 さか っ た.こ れ らの 条
件 で得 られ た投 動作 パ ター ンや投 距 離 もほ ぼ似 て
い た.こ れ らの投 動 作 を1型 と定 義 した.一 方,
熟 練 者 群 の 利 き手 投 げ お よ びSWに
お け る利 き
手 投 げ と非 利 き手投 げ の投 動 作 は よ く似 て い た.
そ れ らの 特 徴 は,準 備動 作 時 の ボ ー ル の軌 跡 が ほ
ぼ 円弧 状 を呈 しか つ 大 き く,主 動 作 に お け る ボ ー
ル の平 均 移 動 速 度 も大 き く,リ リー ス時 に は前 後
の下 肢 の 膝 の 屈 曲角 度 が小 さ く,頭 部 が 後 傾 し,
体 幹 が 十 分 に反 って い た こ とで あ る.こ の グ ル ー
プ をII型 と定 義 した.
利 き手投 げ と非 利 き手 投 げの 投 動 作 パ ター ン 177 4.利 き手 投 げ の 投 距 離 は投 動 作 の パ ラ メ ー タ と 有 意 に 関 係 し て い た が,非 利 き 手 投 げ で は 少 な か っ た.し た が っ て,非 利 き 手 投 げ に よ る 投 動 作 は 投 のSkillを 変 動 さ せ る 制 御 系 が 十 分 に 作 動 し て い な い も の と推 定 さ れ る. 5.以 上 よ り,1型 に 属 す る 被 験 者 の 非 利 き手 投 げ に よ る 投 距 離 や 投 動 作 パ タ ー ン が 投 の ト レ ー ニ ン グ に よ っ て 利 き手 投 げ の そ れ ら に 接 近 し 得 る 可 能 性 お よ び 投 の ト レ ー ニ ン グ に よ り1型 がII型 に シ フ ト し得 る 可 能 性 に つ い て 考 察 した. 謝 辞 本研 究 を推 進 す る に際 し,北 海 道 教 育 大 学 の城 後 豊 教 授 お よび上 越 教 育 大 学 の 三 浦 望 慶 教授 には 種 々御 高 配 をい た だ きま した.こ こ に厚 く御 礼 を 申 し上 げ ます. また,実 験 に快 く御 協 力 をい た だ い た 被 験 者 の皆 様 に は 深 く謝意 を表 します.森 章 子 氏,白 田 美香 氏,福 島 俊 一氏 お よび 羽鳥 晃 氏 に は種 々御 協 力 ・御助 力 を仰 ぎ ま した.本 研 究 の一 部 は上 越 教 育 大 学 教 育研 究経 費 の 補助 を受 け て遂 行 さ れ ま した. (受理 日 平 成8年12月18日) V.引 用 文 献 1) 岡 田 守 彦.霊 長 類 の 一 側 優 位 現 象―HandPrefer-enceを 中 心 と し て―.神 経 進 歩,(1980), 24, 529-540.
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