透 析 会 誌35 (3): 171∼175, 2002
原
著
長 期 血 液透 析 患 者 の食 生 活 の 実 態
-日 本 腎臓 学会 「
血 液 透 析 患 者 の食 事療 法 に
関 す るガ イ ドライ ン」 との比
較-渡 辺 浩 志*1 岡 田 佳 子*2 森 雅 弘*1 前 田 貴 司*2 丹 治 英 裕*2 伊 吹 尚 久*2 辰 川 自 光*2 谷 口 良 彦*3 丸 林 誠 二*3,4 浅 原 利 正*3,4 辰 川 会 山 陽 腎 ク リニ ッ ク*1 同 山 陽 病 院*2 広 島 大 学 医 学 部 附 属 病 院 血 液 浄 化 療 法 部*3 広 島 大 学 医 学 部 第2外 科*4 key w0rds:血 液 透 析,長 期 透 析 患 者,栄 養 指 導,蛋 白 異 化 率 <要 旨> 血 液 透 析 歴15年 以 上 の22名 を 長 期 透 析 患 者 と し,こ れ と年 齢 性,原 疾 患 を 合 致 さ せ た 透 析 歴2年 以 上10年 未 満 で 無 尿 の 透 析 患 者50名 を 一 般 透 析 患 者 と し て,栄 養 状 態 お よ び 臨 床 指 標,透 析 条 件 を 比 較 した.ま た 長 期 透 析 患 者 の 実 際 の 食 事 内 容 を 日 本 腎 臓 学 会 の 「血 液 透 析 患 者 の 食 事 療 法 に 関 す る ガ イ ド ラ イ ン 」 と 比 較 検 討 し た.一 般 透 析 患 者 と の 比 較 で は,Kt/V for ureaは 一 般 透 析 患 者1039±025に 対 し 長 期 透 析 患 者1.63±0.22,ま たKt/V forβ2-microlulinは 一 般 透 析 患 者0.86±0.44に 対 し長 期 透 析 患 者 で1.21±0.41で,い ず れ も 長 期 透 析 患 者 で 大 き か っ た(p<0.001).蛋 白 異 化 率(nPCR)は 一 般 透 析 患 者0.99±0.17g/kg/日 に 対 し,長 期 透 析 患 者 で1m1±0.16g/ kg/日 と高 か っ た(p<0.05).ガ イ ドラ イ ン と の 比 較 で は9長 期 透 析 患 者 の 摂 取 エ ネ ル ギ ー 量 は34.4(95%信 頼 区 間32.0∼36.9)kcal/標 準 体 重kg/日 と 多 め な 印 象 で あ っ た が, body mass index (BMI)は 平 均20.0 (19.1∼20.9) と ガ イ ドラ イ ン で の 標 準22よ り少 な か っ た(p<0.001).実 際 の 栄 養 摂 取 の 内 訳 を ガ イ ドラ イ ン と 比 較 す る と,蛋 白 質 は1.32(1.24∼1.40)g/標 準 体 重kg/日 と 多 く(p<0.01),カ リ ウ ム は1.73(1.57∼1.90)g/日 と 多 く(p< 0.01),リ ン は925(840∼1010)mg/日 と多 く(p<0.001),カ ル シ ウ ム は449(373∼525)mg/日 と 少 な く(p<0.001) 摂 取 し て い た.す な わ ち,長 期 透 析 患 者 は 比 較 的 透 析 量 の 多 い 血 液 透 析 を 行 う 一 方 で,炭 酸 カ ル シ ウ ム を 服 用 し て
リ ン を 抑 え な が ら,ガ イ ドラ イ ン よ り少 な い カ ル シ ウ ム と よ り 多 くの 蛋 白 質 を 摂 取 し て い た.
Nutrition
and
hemodialysis
status
of
long-surviving
hemodialysis
patients
Hiroshi Watanabe*1,
Yoshiko Okada*2, Masahiro Mori*1,
Takashi*2, Hidehiro
Tanji*2,
Naohisa
Ibuki*2, Yorimitsu
Tatsukawa*2,
Yoshihiko
Taniauchi*3,
Seiji Marubayashi*3,4,
Toshimasa Asahara*3,4
Sanyo Jin Clinic*1; Sanyo Hospital*2; Department of Blood Purification, Hiroshima University School of Medicine*3; Department of Surgery ‡U, Hiroshima University School of Medicine*4
Nutrition and hernodialysis status of twenty-two patients who had been on hemodialysis for 15 years or longer was examined in single center. These long-term survivors were compared to a control group of 50 hemoialysis patients matched for age, gender and causes of renal failure, who had been on hemodialysis for 2 to 10 years. Normalized protein catabolic rate was higher in the long-ter survivors than in the control group,
1. 1+0.16 and 0.99•}0.17g/kg/day, respectively (p<0.). Kt/V for urea was higher in long-term survivors, 1.63•}0.22 vs. 1.39•}0.25 (p<0.1), and Kt/V for ƒÀ2-microgloulin was higher, 1.21•}0.41 vs. 0.86•}0.44 (p< 0.001).
渡 辺 浩 志 現 あ か ね 会 土 谷 総 合 病 院 人 工 臓 器 部 〒730-8655 広 島 市 中 区 中 島 町3-30 Hiroshi Watanabe Tel: 082-243-9191 Fax: 082-241-1865 E-mail: nabs3@hiroshima-cdas.or.jp
172 渡辺 ほか:長 期血 液透 析 患者 の食 生活
Body mass index of the long-term survivors was 20.0, 95% confidence interval (CI) was 19.1 to 20.9. Energy
intake was 37.9 kcal/kg/day, 95% CI 35.3 to 40.7. The actual dietary intake of protein, potassium and
phosphorus of the long-term survivors was higher than those recomende by the Guidelines of the Japan
Society of
phrology, 1.45g/kg/day
(95% CI 1.36 to 154, p<005),
1.73 /day (95% CI 1.57 to 1.90, p<
0.01), 925mg/day (95% CI 840 t 1010, p<0.001), respectively. The actual intake of calcium was lower, 449
mg/day (95% CI 373 to 525, p<0.001), while most patients used calcium carbonate as a phosphorus binder.
The characteristic dietary intake of the long-term survivors was higher in calories, higher in protein and lower
in calcium with adequate dialysis and calcium-based phosphorus binder.
緒
言
1956年 頃 よ り始 まっ た わ が 国 で の 血 液 透 析 は 末 期 腎 不 全 治 療 の 主 流 と して 定 着 した.1999年 末 の 透 析 患 者197,213人 の う ち95%以 上 が 血 液 透 析 を 行 っ て お り,透 析 歴15年 以 上 の透 析 患 者 の割 合 も1割 を超 え, 2万 人 に達 して い る1).長 期 の透 析 生 活 で栄 養 管 理 は重 要 で あ る が,ど の よ うな 栄 養 管 理 が 最 良 の生 命 予 後 や 生 活 の質 を生 み 出 す の か,比 較 対 照 試 験 は困 難 で あ る. 現 在 の と こ ろ,1997年 に 日本 腎臓 学 会 か ら発 表 さ れ た 「血 液 透 析 患 者 の 食 事 療 法 に関 す る ガ イ ドラ イ ン」(以 下 「ガ イ ドラ イ ン」)が,多 くの施 設 で 栄 養 指 導 の標 準 と な っ て い る2).今 回,長 期 血 液 透 析 を安 定 して 行 っ て い る患 者 の 栄 養 と透 析 の 指 標,栄 養 摂 取 状 況 の 実 態 を 調 査 し,ガ イ ドラ イ ン と比 較 検 討 した. Ⅰ. 対 象 お よび 方 法 1999年3月 末 に 山 陽 腎 ク リニ ッ ク に通 院 透 析 し て い る165名 の う ち,血 液 透 析 歴15年 以 上 の22名 を長 期 透 析 患 者 と した.透 析 歴2年 以 上10年 未 満 で 無 尿 の 通 院 維 持 透 析 患 者84名 の うち,長 期 透 析 患 者22名 と 年 齢,性,原 疾 患 を一 致 させ た50名 を一 般 透 析 患 者 と して,栄 養 状 態 お よ び臨 床 指 標,透 析 条 件 を比 較 した. 表1 対 象透析 患者 *p<0 .05, **p<0.01, ***p<0.001 栄 養 状 態 お よ び 臨 床 指 標 と し て は,ヘ マ ト ク リ ッ ト, ア ル ブ ミ ン,総 コ レ ス テ ロ ー ル,血 清 尿 素 窒 素(BUN), 血 清 ク レ ア チ ニ ン(Cr),カ リ ウ ム(K),カ ル シ ウ ム (Ca),リ ン(P)を 測 定 し た.ま たKに 影 響 す る カ リ ウ ム イ オ ン交 換 樹 脂 の 内 服 量 と, Ca, Pに 影 響 す る 炭 酸 カ ル シ ウ ム 内 服 量 も 調 査 し た. Body mass index(BMDを 算 出 し,透 析 後 体 重 減 少 率(除 水 率),透 析 前 後 のBUNか ら 算 出 し た 蛋 白 異 化 率(nPCR)を 検 討 し た.透 析 条 件 と し て は 体 重 あ た り透 析 血 流 量,透 析
渡 辺 ほか:長 期血 液透 析 患者 の食 生活 173
時 間, Kt/V for urea, Kt/V for β2-microglobulinを 比 較 検 討 し た. nPCR, Kt/Vの 算 出 は 全 国 統 計 調 査 の 方 法 で 行 っ た.数 値 は 平 均 値 ± 標 準 偏 差 で 表 し た.有 意 差 の 検 定 は, Mann-WhitneyのU検 定 で 行 っ た(表 1). 表2 「ガ イ ドライ ン」 と長期 透析 患 者 の実 際の食 事 との比 較 *標 準 体 重 ,**p<0.01, ***p<0.001 図 長 期 透 析 患 者22名 の 体 重 と栄 養 摂 取 状 況(平 均 値 ± 標 準 偏 差).た だ し体 重 はBMI=22,他 の 栄 養 成 分 は 日本 腎 臓 学 会 ガ イ ド ラ イ ン で の 中 央 値 を 100%と し,ガ イ ド ラ イ ン に 幅 の あ る成 分 は そ の 幅 を □ で 示 し た.(**p< 0.01, ***p<0.001) 長 期 透 析 患 者 に つ い て は そ れ ぞ れ3日 間 の実 際 の 食 事 内容 を記 入 して も ら い,こ れ ら を 聞 き取 りに よ っ て 補 正 し,四 訂 食 品成 分 表 か ら栄 養 摂 取 量 を算 出 して, 「ガ イ ドラ イ ン」 と比 較 検 討 した4).数 値 は平 均 値 とそ の95%信 頼 区 間 で 表 し,有 意 差 の検 定 に はt検 定(母 集 団 の 平 均 値 の推 計)を 用 い た(表2). Ⅱ. 結 果 1. 一 般透析 患者 と比較 した長期透 析患者 の栄養指標 と透析指標 対 象 透 析 患者 の背 景 は表1の 通 りで あ る. 血 液 検 査 値 で は有 意 な 差 を認 め た 項 目 は な か っ た. カ リウ ム イ オ ン交 換 樹 脂 の 定 期 処 方 は 一 般 透 析 患 者2 名(4%),長 期 透 析 患 者3名(14%)に 行 わ れ て い た. 炭 酸 カ ル シ ウ ム の 定 期 処 方 は 一 般 透 析 患 者40名 (80%)に 平 均 投 与 量2.12±1.52g/日,長 期 透 析 患 者 21名(95%)に 平 均 投 与 量2.73±1.13gで 行 わ れ て い た. 透 析 条 件 で は,一 回 透 析 時 間 が 一 般 透 析 患 者3.96± 0.28時 間 に対 し,長 期 透 析 患 者 で は4.34±0.42時 間 と長 く, Kt/V for ureaも 一 般 透 析 患 者1.39±0.25に 対 し 長 期 透 析 患 者1.63±0.22と 大 き か っ た. Kt/V for β2-microglobulinで も 一 般 透 析 患 者0.86±0.44 に 対 し 長 期 透 析 患 者 で1.21±0.41と 大 き な 差 を 認 め た. 2. 「ガ イ ド ラ イ ン 」と比 較 し た 長 期 透 析 患 者 の 栄 養 摂 取 状 況(表2,図)
「ガ イ ド ラ イ ン」 で はbody mass index (BMI)の 22を 標 準 体 重 と し,そ れ を 維 持 す る た め の エ ネ ル ギ ー 所 要 量 を 定 め て い る が,長 期 透 析 患 者 の 実 際 の 体 重 は BMIで2000(95%信 頼 区 間19.1∼20,9)と 少 な く(p< 0.001),摂 取 エ ネ ル ギ ー 量 は 逆 に34.4kcal/標 準 体 重 kg/日,と 多 か っ た. 食 品 群 別 で は,当 施 設 で 「ガ イ ド ラ イ ン 」 を 基 準 と し て 作 成 し て い る個 人 に あ っ た 食 品 構 成 よ り も 長 期 透 析 患 者 は 果 物 を 多 く摂 取 し,乳 製 品 の 摂 取 は 少 な か っ た.栄 養 要 素 別 で は 蛋 白 質,リ ン,カ リ ウ ム を 多 く摂 取 し,脂 質 お よ び カ ル シ ウ ム の 摂 取 が 少 な か っ た.蛋 白 質 は1.32(95%信 頼 区 間1.24∼1m40)g/標 準 体 重 kg/日 の 摂 取 量 で あ り,こ れ は 「ガ イ ド ラ イ ン に お け る 1.0∼1.2/標 準 体 重kg/日 と い う 範 囲 よ り有 意 に 大 き か っ た(p<0.01).カ ル シ ウ ム と リ ン に 関 し て は, 22名 の う ち21名 で リ ン 吸 着 薬 と し て 炭 酸 カ ル シ ウ ム を 一 日1∼6g(平 均2.7g)内 服 し て お り,実 際 に 体 内 に 吸 収 さ れ る リ ン の 量 は も う 少 し 少 な く,カ ル シ ウ ム の 量 は 多 く な っ て い る と推 測 さ れ る.
174 渡 辺 ほか:長 期 血液 透析 患者 の食 生 活 Ⅲ. 考 察 食 事 療 法 の効 果 を証 明 す るの は,多 くの研 究 が 行 わ れ て い る保 存 期 腎不 全 の食 事 療 法 に お い て で さ え難 し い5,6).血 液 透 析 患者 の 栄 養 状 態 の 解 析 や食 事 指 導 の 指 針 は 出 され て い る もの の,そ の 予 後 へ の影 響 に つ い て は透 析 の 量 や 心 血 管 障 害 危 険 因 子 も 関 わ っ て く る た め,は っ き り と した 証 明 は な され て い な い7∼9).健常 者 よ り多 くの 栄 養 摂 取 を積 極 的 に勧 め る考 えが 主 流 で は あ る が,過 剰 な摂 取 を戒 め る専 門 家 もい る10,11).今回, 実 際 に15年 以 上 の 長 期 血 液 透 析 を達 成 し て い る透 析 者 の栄 養 お よ び そ の 摂 取 の 実 態 を検 討 す る こ とは,一 つ の参 考 に な る と考 えた. 「ガ イ ドラ イ ン」で は摂 取 エ ネ ル ギ ー に つ い て,透 析 患 者 で も代 謝 率 は健 常 者 と変 わ ら な い こ とか ら健 常 者 な み の 量 を摂 取 す る べ き と し て い る2).一 方 で 透 析 患 者 が 一 般 にや せ て い る とい う現 象 は広 く認 め られ,「ガ イ ドラ イ ン」で の標 準 体 重 がBMIで22と され て い る の に対 し,全 国 統 計 調 査 で のBMIは20.6±3.4で あ り,今 回 の わ れ わ れ の 検 討 結 果,す な わ ち 長 期 透 析 患 者20.0±2.0,一 般 透 析 患 者20.8±2.7と い う 数 値 と 一 致 す る1).こ の 原 因 と して は,透 析 患 者 が 透 析 問 の体 重 増 を 心 配 し て 実 際 の 栄 養 摂 取 量 が 少 な くな って し ま っ て い る こ と,血 液 透 析 中 に栄 養 成 分 が 血 液 中 か ら 除 去 さ れ て い る こ と,腎 不 全 に伴 う微 小 栄 養 代 謝 障 害, な どが考 え られ て い る12,13).今回 の 長 期 透 析 患 者 で の 検 討 で摂 取 エ ネ ル ギ ー は多 か った に もか か わ らず,体 重 が 少 な か っ た の は後 二 者 が 原 因 と思 わ れ る、 ア ミ ノ 酸 補 液 の 試 みや 高 ブ ドウ糖 透 析 液,ビ タ ミン類 の投 与 で も あ る程 度 の 改 善 は 期 待 さ れ る が,食 事 の エ ネ ル ギ ー 量 を健 常 者 よ り多 め に す る こ とは必 要 で あ ろ う. 蛋 白質 につ い て は,透 析 で の ア ミノ酸 や 少 量 の 蛋 白 質 喪 失 を考 え る と多 め に摂 取 す べ き と考 え られ る が, 一 方 で 高 リ ン血 症 に よ るか ゆ み や 異 所 性 石 灰 化 の 促 進,生 命 予 後 の悪 化 が 心 配 さ れ る.適 正 な 蛋 白質 摂 取 量 の 決 定 の た め に は臨 床 で の 結 果 の 集 積 が 必 要 で あ る.全 国 統 計 調 査 で は蛋 白質 摂 取 量 の指 標 と して 蛋 白 異 化 率 が検 討 さ れ て お り, 0.9g/kg/日 未 満 の 低 い群 と 1.7g/kg/日 以 上 の 高 い群 で生 命 予 後 の 悪 化 が 認 め ら れ て い るが,体 重 減 少 率 の影 響 を減 殺 す る と高 い群 で の 悪 化 は統 計 学 的 に有 意 で な くな って い る1).こ の 調 査 か ら は蛋 白 異 化 率1.1g/kg/日 以 上 を 目標 にす るべ き と考 え られ るが,同 時 に血 液 透 析 患 者 の7割 で1.1 g/kg/日 未 満, 3割 で0.9g/kg/日 未 満 で あ る こ と も示 され て い る1). 今 回 の わ れ わ れ の施 設 で の 一 般 透 析 患 者 蛋 白異 化 率 0.99±0.17g/kg/日,長 期 透 析 患者 蛋 白異 化 率1m10± 0.16g/kg/日 と い う値 は全 国 統 計 調 査 と同 様 の 傾 向 で,蛋 白質 の 十 分 な 摂 取 は長 期 的 に も重 要 で あ る こ と が 示 唆 さ れ た.た だ 実 際 の食 事 内 容 か ら算 定 し た長 期 透 析 患 者 の 蛋 白 質 摂 取 量 は1.32±0.19g/標 準 体 重 kg/日 で あ り,蛋 白異 化 率 に比 べ て 意 外 に多 く摂 取 し て い た.一 回 の血 液 透 析 療 法 に よ り,ア ミノ 酸 が 約8 g,蛋 白質 は透 析 条 件 に も よ る が1gか そ れ 以 上 除 去 さ れ る とさ れ て い る12).わ れ わ れ の 施 設 で は積 極 的 に 高 性 能 膜 や オ ン ラ イ ンHDFを 導 入 し,長 期 透 析 患 者 で も22名 の うち13名 にオ ン ラ イ ンHDFが 行 わ れ て お り,こ の こ とが 透 析 中 の蛋 白 質 除 去 量 の増 大 に つ な が り,蛋 白 異 化 率 以 上 に蛋 白質 摂 取 量 が 多 く必 要 とな っ て い る原 因 と考 え て い る. 透 析 量 に関 し て は,長 期 透 析 患 者 で 一 回 透 析 時 間 は 長 く,血 液 流 量 は多 い 傾 向 に あ り, Kt/Vも 大 き か っ た.わ れ わ れ の施 設 で の検 討 で は一 般 に10年 以 上 前 に 比 べ て現 在 の 方 が 一 回 透 析 時 間 は短 縮 化 し,血 液 流 量 は増 加 し,透 析 時 間 と血 液 流 量 の 積 は あ ま り変 わ らな い が 透 析 量 は ダ イ ア ラ イ ザ ー の 性 能 向上 に よ り増 加 し て い る こ とが 示 さ れ て い る13).長 期 透 析 患 者 の 透 析 時 間 が 長 い こ とは透 析 時 間 が 長 か った 時 代 の 名 残 に過 ぎ な い とい う解 釈 も可 能 で あ る.し か し,長 期 透 析 患者 を さか の ぼ っ て検 討 し て も,昔 か ら同時 期 の 透 析 患 者 平 均 よ り も透 析 時 間 は長 く血 液 流 量 は多 い こ とが 示 さ れ て い る14).ま た長 期 透 析 患 者 に は か ゆ み や 痛 み な ど の 自覚 症 状 へ の対 策 と して,オ ン ラ イ ンHDFを 行 っ て い る者 が 多 い とい う背 景 か ら透 析 量 が 多 くな っ て い る面 もあ るが,オ ン ラ イ ンHDFに は長 期 透 析 合 併 症 の 自覚 症 状 に対 す る効 果 だ け で な くエ リス ロ ポ エ チ ン 節 約 効 果 も認 め て お り,生 命 予 後 の 観 点 は別 に して も 有 用 と考 えて い る15,16).生命 予 後 につ い て は全 国 統 計 調 査 で,Kt/V for ureaは 大 きい 方 が 良 い こ とが 示 さ れ て い る し,高 性 能 膜 の使 用 や オ ン ラ イ ンHDFで 大 き くな るKt/V fir β2mも 大 きい 方 が 良 さ そ うな傾 向 が 示 され て い る1).し た が って 透 析 量 が 多 い こ と は 生 命 予 後 改 善 に貢 献 す る と考 え られ る17). 現 在 の透 析 療 法 に は有 害 物 質 除 去 の観 点 で も原 理 的 な 限 界 が あ る18).本 来 の 腎臓 な ら糸 球 体 で の濾 過 と尿 細 管 で の再 吸 収 とい う組 み合 わ せ で 栄 養 物 質 の喪 失 を 起 こす こ とな くか な り大 きな 分 子 量 の有 害 物 質 も除 去 で き る の に対 し,再 吸 収 が行 え な い現 在 の 透 析 療 法 で は,よ り大 き な分 子 量 の有 害 物 質 を除 去 し よ う とす る な ら,同 程 度 の分 子 量 の栄 養物 質 も同 時 に除 去 され て し ま う.す なわ ち,よ り大 きな 分 子 量 の 有 害 物 質 を除
渡辺 ほか:長 期血 液透 析患 者 の食生 活 175 去 し よ う とす る な ら よ り多 くの 栄 養 補 給 が 必 要 で あ る. 今 回 の検 討 で,長 期 透 析 患 者 は よ り長 い一 回透 析 時 間 と血 液 流 量,オ ン ライ ンHDFな どに よ り透 析 を多 く しな が ら,一 方 で 食 事 も多 く とっ て窒 素 平 衡 を保 っ て い る実 態 が 明 らか に な っ た.す な わ ち 炭 酸 カ ル シ ウ ム を服 用 して リン を抑 え なが ら よ り多 くの 蛋 白質 を食 事 か ら摂 って い る が,カ ル シ ウ ム の 食 事 摂 取 量 は 少 な い こ と も明 らか に な っ た.原 理 的 に限 界 の あ る血 液 透 析 療 法 を よ り効 果 的 に行 っ て い くた め に は,近 年 の 高 性 能 膜 や オ ン ラ イ ンHDFな ど に よ る透 析 量 の 増 加 と と もに積 極 的 な栄 養 補 給 を図 る こ とが 必 要 で あ る.
結
論
透 析 歴15年 以 上 の 長 期 透 析 患 者22名 の 透 析 指 標, 栄 養 指 標 を一 般 透 析 患 者 の もの と比 較 す る と,透 析 量 が 多 く,蛋 白異 化 率 が 高 か っ た.長 期 透 析 患 者 の実 際 の食 事 内容 を調 査 して 日本 腎 臓 学 会 の 食 事 療 法 に 関 す るガ イ ドラ イ ン と比 較 した と ころ,や せ て い る に もか か わ らず エ ネ ル ギ ー 摂 取 量 は少 な くな く,蛋 白質,リ ン,カ リウ ム は よ り多 く,カ ル シ ウム は よ り少 な く摂 取 して い た.こ の 食 事 内容 は,高 性 能 膜 や オ ン ラ イ ン HDFな ど効 率 の 高 い 透 析 療 法 の 普 及 と炭 酸 カ ル シ ウ ム の 内 服 の現 状 か らす る と合 理 的 で,生 命 予 後 や 生 活 の質 の 改 善 の た め に も好 ま し い もの と考 え られ た. 文献 1) 日本 透 析 医 学 会:わ が 国 の 慢 性 透 析 療 法 の 現 況(1999 年12月31日 現 在).日 本 透 析 医 学 会 統 計 調 査 委 員 会, 2000 2) 日本 腎 臓 学 会 食 事 療 法 小 委 員 会:腎 疾 患 の 食 事 療 法 に 関 す る ガ イ ドラ イ ン.日 腎 誌39: 18-28, 19973) Shinzato T, Nakai S, Fujita Y, Takai I, Morita H, Nakane K, Maeda K: Determination of Kt/V and protein catabolic rate using pre and postdialysis blood urea nitrogen concentrations. Nephron 67: 280-290, 1994
4) 科 学 技 術 庁 資 源 調 査 会:日 本 食 品 成 分 表,四 訂 フ ォ ロ ー ア ップ,第5版 .医 歯 薬 出 版 株 式 会 社,東 京, 1997
5) Locatelli F, Alberti D, Graziani G, Buccianti G,
Redaelli B, Giangrande A, The Northern Italian Cooperative Study Group a Prospective, randomis ed, multicentre trial of effect of protein restriction
on progression of chronic renal insufficiency. Lan cet 337: 1299-1304, 1991
6) Klahr S, Levey AS, Beck GJ, Caggiula A, Hun sicker L, Kusek JW, Striker G, The Modification of Diet in Renal Disuse Study Group e The effects of dietary protein restriction and bloodpressure con trol on the progression of chronic renal disease. N Engl J Med 330: 877-884, 1994
7) Aparicio M, Cano N, Chauveau P, Azar R, Canaud
B, Flory A, Laville M, Leverve X, French Study Group for Nutrition in Dialysis o Nutritional status of hemodialysis patients. Nephrol Dial Transplant 14: 1679-1636, 1999
3) Kopple JD: National kidney foundation K/DOQI clinical practice guidelines for nutrition in chronic renal failure. Am J Kidney Dis 37 (Suppl 2): S 66
70, 2001
9) Fleischmann EH, Bower JD, Salahudeen AK: Risk factor paradox in hemodialysis a better nutrition as
a partial explanation. ASAIO J 47: 74-31, 2001 10) Ifudu O: Care of patients undergoing hemodialysis.
N Engl J Med 339: 1054-106, 1993. Comments and discussion in: N Engl J Med 340: 735-737, 1999 11) Uribarri J a The obsession with high dietary protein
intake in ESRD patients on dialysis: is it justified? Nephron 86: 105-108, 2000
12) Uribarri J: Protein catabolic rate may underesti
mate dietary protein intake in heir udialysis patients. Nephron 82: 97-99, 1999
13) Chazot C, Laurent G, Charra B, Blanc C, VOVan C, Jean G, Vanel T, Terrat JC, uffet M: Malnutri tion in long-term haemodialysis survivors. Nephrol Dial Transplant 16: 61-69, 2001 14) 渡 邊 浩 志,小 出 圭,星 野 修 司,箱 田知 美,島 田 典 明, 辰 川 自光:20年 間 の 透 析 者 デ ー タ の 変 化-長 期 透 析 者 の 特 徴(続 報)-.中 国 腎 不 全 研 究 会 誌7: 139-140, 1998 15) 篠 原 誠,福 元 輝 幸,水 津 貴 利,渡 辺 浩 志,辰 川 自光: On-line HDF-有 効 例 と無 効 例 の 比 較-.中 国 腎 不 全 研 究 会 誌6: 169-171, 1997 16) 水 津 貴 利,篠 原 誠,渡 邊 浩 志,辰 川 自光:オ ン ラ イ ンHDF-エ リ ス ロ ポ エ チ ン節 約 効 果 の 検 討-.中 国 腎 不 全 研 究 会 誌7: 197-198, 1998
17) Gotch FA, Sargent JA, Keen ML: Whither goest Kt/V? Kidney Int 58 (Suppl 76): S 3-S 18, 2000 18) Clark WR, Henderson LW: Renal versus continu
ous versus intermittent therapies for removal of uremic toxins. Kidney Int 59 (Suppl 78): S 298
-S 303, 2001
