コロナ感染様式、臨床経過、重症化リスク ▶▶▶ はじめに 新型コロナウイルス感染症に関する本書の特集に 際し、ウイルスの感染様式、基本的臨床症状や所 見、重症化の要因などについて、呼吸器内科医の立 場から基本事項を解説する。日々新たな論文が発表 される状況にあるため、2020年12月までの資料を参 考に本稿を執筆した点をご容赦頂きたい。本稿で は、特に健診に関する事項についても触れたい。 ▶▶▶ 過去のコロナウイルス感染症 ヒトに感染するコロナウイルスには 4 種類があ り、従来から風邪の原因ウイルスとしてよく知られ ている。動物に感染するコロナウイルスも知られ、 2002年に中国の広東省に端を発した重症急性呼吸器 症候群(SARS)は、コウモリのコロナウイルスが ハクビシンを介しヒトに感染した。2012年にはアラ ビア半島で中東呼吸器症候群(MERS)が発生し、 コロナウイルスがラクダからヒトに感染することが 判明した。今回の COVID-19 は、2019年12月とされ るが、中国の湖北省(武漢市)で発生し世界的大流 行となったものである。その原因ウイルスが、重症 急性呼吸器症候群コロナウイルス 2 (SARS-CoV-2) である。コウモリが原因であろうと考えられるが、
抄 録
ヒトの肺には 3 億から 5 億の肺胞があり、肺胞の表面を肺胞上皮細胞が覆う。この中のⅡ型肺胞上皮細胞に、 SARS-CoV-2 がドッキングする受容体であるアンギオテンシン変換酵素 2 (ACE2)が発現する。ウイルスは ここから宿主細胞に侵入、感染が広がり肺炎を発症する。 発熱、全身倦怠感、咽頭痛、咳嗽、筋肉痛など風邪やインフルエンザのような症状が出現するが、下痢などの 消化器症状や味覚障害や嗅覚障害もみられる。WHO によれば潜伏期間は 1 ~14日間で、曝露から 5 日程度で発 症することが多い。ヒトへの感染可能期間は、発症前 2 日から発症後 7 ~14日間程度である。咳嗽やくしゃみ などを介する飛沫感染と接触感染が主体であり、一部エアロゾルも関与する。最近の報告では無症候者からの感 染も40%あるいはそれ以上あるのではないかと言われる。厚生労働省による「新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)診療の手引き」によれば、発症から 1 週間程度で軽症のまま経過し改善する症例が80%、肺炎が 悪化して入院を要する症例が残りの20%、そのうち ICU での加療を要する症例が 5 %、救命できない症例が 2 ~ 3 %と報告される。 重症化のリスク因子としては、65歳以上の高齢、基礎疾患としての悪性腫瘍、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、 慢性腎臓病、 2 型糖尿病、高血圧、高脂血症、固形臓器移植後の免疫不全の存在、そして肥満(BMI 30以上)、 喫煙習慣などが挙げられる。性別では、男性の方が女性よりも死亡率が高い。 回復した後も、倦怠感、息切れ、関節痛、胸痛、慢性咳嗽が遷延する場合があり、味覚障害、嗅覚障害、口腔 乾燥も認められる。ACE2受容体が全身臓器に分布することを考えれば、多様な症状が出現し、後遺症として残 ることも理解できよう。これまでの普通の風邪とは様子が異なることも印象的である。 (総合健診.2021;48:213-219.) キーワード 新型コロナウイルス感染症、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス 2 、肺炎、アンギオテンシ ン変換酵素 2 、呼吸不全 ウィズコロナ時代の総合健診肺の構造と感染様式、臨床経過および
重症化リスクについて
桑平 一郎
1) 〔論文受付日:2021年 1 月12日〕 1 )東海大学医学部付属東京病院呼吸器内科特 集
特 集
の、ヒト-ヒト感染に至った経路については詳細不 明であり、多くの議論が積み重ねられている。 ▶▶▶ 感染様式 ヒトの肺には 3 億から 5 億の肺胞があり、肺胞の 表面を肺胞上皮細胞が覆っている。図 1 はヒトの肺 胞を示す走査電子顕微鏡写真である1)。気道肺胞系 の分岐を模式的に表した Weibel モデルで有名な Ewald Weibel 先生から、私が以前に頂戴した画像 である。この肺胞表面を上皮細胞が覆うが、この中 のⅡ型肺胞上皮細胞にコロナウイルスのスパイク蛋 白がドッキングする受容体であるアンギオテンシン 変換酵素 2 (ACE2)が発現する。ウイルスはここ から宿主細胞に侵入し、感染が広がり肺炎を発症す 肺胞上皮細胞に感染した様子を図 2 に示す2)。これ は培養細胞を用いて捉えられた in vitro の画像であ る。ACE2 受容体は、肺胞上皮細胞のみならず血管 壁、心筋、唾液腺、膵臓、消化管、子宮、前立腺な ど全身の色々な臓器・組織に広く分布するため、肺 炎に加え様々な全身症状が出現することとなる。 ▶▶▶ 臨床経過 図 3 に、新型コロナウイルス感染症 COVID-19 診 肺胞が毛細血管の網目状の構造で構築され、表面を肺胞上皮細胞が覆う 様子を示す。ガス交換の場である。 (文献 1 より引用) 図 1 ヒトの肺胞を示す走査電子顕微鏡写真 矢印で示すものがウイルスである。これは現在流行している SARS-CoV-2 ではなく、SARS の原因となった SARS-CoV-1 に感染した細胞 を示す。層状構造の Lamellar 体の近傍にある vesicle 内にウイルスが認 められる。 (文献 2 より引用) 図 2 SARS-CoV-1 に感染したⅡ型肺胞上皮細胞 (文献 3 より引用) 図 3 一般的な臨床経過
コロナ感染様式、臨床経過、重症化リスク 療の手引き(第4.1版)より引用した一般的な臨床経 過を示す3)。感染は、咳嗽やくしゃみなどを介する 飛沫感染および接触感染が主体で、一部はエアロゾ ルにより生じる。発熱、全身倦怠感、咽頭痛、咳 嗽、筋肉痛など風邪やインフルエンザのような症状 が出現するが、下痢などの消化器症状もみられる。 また、コーヒーの味が全く分からない味覚障害や、 香水の香りが全くしない嗅覚障害が出現する点は、 インフルエンザとは大きく異なる。WHO によれば 潜伏期間は 1 ~14日間で、曝露から 5 日程度で発症 することが多いとされる。感染可能期間は、発症前 2 日から発症後 7 ~14日間程度である。最近の報告 では無症候者からの感染も40%あるいはそれ以上あ るのではないかと言われる。図 3 に示すように、発 症から 1 週間程度で軽症のまま経過し改善する症例 が80%、肺炎が悪化し入院を要する症例が残りの 20%、そのうち集中治療室(ICU)での加療を要す る症例が 5 %、救命できない症例が 2 ~ 3 %と報告 されている3)。参考のために、当院への来院時、室 内気吸入時の酸素飽和度(SpO2)が88%と低下し、 呼吸不全状態にあった重症例の胸部 CT を図 4 に示 す。両側びまん性にスリガラス陰影が認められ、画 像からも重症であることが推察される。しかし、今 回の新型コロナウイルス肺炎では、患者があまり呼 吸困難を訴えないという特徴的な症状があることに 注意する必要がある。いわゆる Silent Hypoxemia とか Happy Hypoxia と称される現象である4)。本症 例でも、患者は息切れを訴えておらず、むしろ「私 に酸素吸入が必要なのでしょうか?」と話されてい たことに驚いた次第である。SpO2 が低いが息苦し さを訴えていないので大丈夫であろう、パルスオキ シメータの測定誤差であろうなどと考えることは極 めて危険である。冬季などで指先が冷たいために測 定値が安定しないとか、マニキュアによって光が透 過せず測定できないなど、明らかな理由がないにも 拘らず SpO2 が低値の場合は、緊急を要すると判断 すべきである。SpO2≦93%は酸素吸入を必要とする 中等症Ⅱあるいはそれ以上の重症に分類される3)こ とを念頭に置く必要がある。酸素分圧(PaO2)と
SpO2 の関係は、X 軸にPaO2、Y 軸にSpO2 をプロッ
トした酸素解離曲線を見れば理解しやすいが、 SpO2=90%がおよそ PaO2=60Torr の目安となる。
ただし、酸素解離曲線は生体の状況により左右に移 動するため、ある程度の幅を考慮し SpO2≦93%で は酸素吸入を要するとの考え方は妥当である。一般 的に、PaO2 が 60Torr 以下となれば呼吸不全の状態 であり、酸素吸入によって全身臓器・組織への酸素 供給を維持しなければならない。 ▶▶▶ 重症化のリスク因子 重症化のリスク因子としては、65歳以上の高齢、 基礎疾患としての悪性腫瘍、慢性閉塞性肺疾患 (COPD)、慢性腎臓病、 2 型糖尿病、高血圧、高脂 血症、固形臓器移植後の免疫不全の存在、そして肥 満(BMI 30以上)、喫煙習慣などが挙げられる3)。 また、ステロイドや生物学的製剤の使用、HIV 感染 症、妊娠も要注意項目と考えられる3)。さらに、後 述するように、文献的には男性の方が女性よりも死 亡率が高い。 図 5 に年齢階級別の死亡者数(2020年12月16日ま でのデータ)、死亡者数の PCR 陽性患者数に対する 割合(%)を示す3)。この図からも60歳以上の高齢 者でリスクが明らかに増加することが理解される。 また、男性の方が女性よりも高い数値を示すことが 読み取れる。男性と女性とでは免疫応答に違いがあ り、IL-8, IL-18 などのサイトカインレベルに有意差 があるとする報告5)や、エストロゲンやアンドロゲ ンなどの性ホルモンが ACE2 受容体やセリンプロテ アーゼであるTMPRSS2(transmembrane protease serine 2)の発現に影響するとの報告がある6, 7)。 基礎疾患の中でも慢性呼吸器疾患、特に COPD と その原因である喫煙習慣はリスクとして極めて重要 である。図 6 に COPD および喫煙が末梢気道におけ る ACE2 受容体の発現に与える影響を示す8)。図
6a)は、非 COPD と COPD では ACE2 受容体発現
に明らかな差があることを示す。図 6b)は、同じ COPD でも予測 1 秒量に対する割合が低下すると、
すなわち閉塞性換気障害が悪化するに連れて、 ACE2 受容体発現が増加することを示す。このこと から過去の喫煙本数が多いほど ACE2 受容体発現が 増加する dose-dependency があることも示唆され る。一方、非喫煙者、過去喫煙者、現喫煙者で比較 すると、図 6c)のように現喫煙者のみ有意に ACE2 受容体発現が増加することが示され、禁煙がいかに 大切であるかが示唆される。本研究は、COPD にお いて SARS-CoV-2 に感染するとなぜ重症化するか、 1 つの大切な機序を示したものと言えよう。加え て、本論文は、過去喫煙者ではなく現喫煙者におい てのみ ACE-2 受容体発現が有意に増加することを 示した点でも重要である。 2 型糖尿病、高血圧、高脂血症、肥満がリスク因 子であることを前述したが、これらの因子は単独で 存在するよりも複合的に作用しあうことが多い。実 際肥満のある症例では、これらの生活習慣病をいく つも並存するケースが多く、並存すればするほど重 症化しやすいという場面を経験する。前述のように ACE2 受容体は様々な臓器に分布し、脂肪細胞にも 合(%) (文献 3 より引用) 図 6 COPD および喫煙が末梢気道における ACE2 発現に及ぼす影響
a)は非 COPD と COPD の比較、b)は予測 1 秒量との関係、c)は喫煙状況との関係を示す。b)では左に行くほど呼吸 機能の低下を表し、それだけ喫煙本数が多いことを示唆する。Dose-dependency がみられる。
コロナ感染様式、臨床経過、重症化リスク 発現するため、脂肪細胞自体が多いほど感染リスク が高まることは考えやすい。胸部 CT 画像を見る際 に、肺野のすりガラス陰影に加え、肥満の程度にま で気を配ることは大切であろう。特に、内臓脂肪が 過剰に蓄積した内臓脂肪型肥満では、脂肪組織内で 慢性炎症が持続しており、ウイルス感染が引き金と なって大量の炎症性サイトカインが放出される。そ の結果サイトカインストームが惹起され、ARDS/ ALI など重篤な呼吸不全状態に陥ると考えられる。 サイトカインストームの詳細な病態については、今 後のさらなるエビデンスの積み重ねが必要である。 肥満において、SARS-CoV-2 の感染を契機にどのよ うな病態が発生するか、その結果どのように呼吸不 全が惹起されるかを示したシェーマを図 7 に示すの で参考とされたい9)。関連事項として述べるが、小 児では、川崎病に類似した臨床的特徴を有する多系 統炎症性症候群が報告されている。本邦よりも欧米 での頻度が高いとされるが、詳細な病態が把握され ていないのが現状である。 ▶▶▶ 後遺症 図 8 はイタリアからの報告10)であるが、143名の 患者(平均年齢56歳、男性63%、女性37%)を対象 図 7 肥満が SARS-CoV-2 感染によって重症化する機序について (文献 9 より引用) 図 8 急性期と発症約 2 か月後の症状の比較 (文献10より引用)
成績である。厳密な意味では長期に渡る後遺症を検 討した成績ではないが、様々な症状が 2 か月後も認 められる点が興味深い。図に示すようにコロナから 回復した後も、長期にわたり症状が遷延することが 分かってきた。具体的な症状として多いものは、倦 怠感、息切れ、関節痛、胸痛、慢性咳嗽であり、味 覚障害、嗅覚障害、口腔乾燥も認められる。ACE2 受容体が全身臓器に分布することから、多様な症状 が出現し、後遺症として残ることも理解できよう。 普通の風邪やインフルエンザとは様子が異なること も印象的である。病態として前述のサイトカインス トームによる臓器障害や長期入院に伴うストレスな どが複合すると考えられるが、詳細な機序について は不明である。治療方法や対策についても、未だ確 立したものはないのが状況である。後遺症に関し、 膵臓に ACE2 受容体が分布することに関連すると思 われるが、SARS-CoV-2 の感染を契機に糖尿病が発 症する可能性が示唆されている11)。今後後遺症に関 する知見は積み重ねられると思われるが、健診受診 者において何か慢性的な遷延する症状や所見がある 場合には、COVID-19 の既往に注意することが重要 となろう。 ▶▶▶ おわりに 日本総合健診医学会第49回大会シンポジウムに際 し、SARS-CoV-2 に関する基調講演を呼吸器内科医 の立場から担当させて頂くことになった関係で本稿 を執筆した。2020年12月までの段階で得られている 情報を基に感染様式、臨床経過、重症化リスク、後 遺症などについてポイントをまとめた。明日からの 診療の参考にして頂ければ幸いである。 著者の COI(conflict of interest)開示:本論文発表内容 に関連して特に申告なし
1 ) Weibel ER: What makes a good lung?. Swiss Med Wkly 2009; 139: 375-86. 2 ) Qian Z, Travanty EA, Oko L, et al: Innate Immune Response of Human Alveolar Type II Cells Infected with Severe Acute Respiratory Syndrome–Coronavi-rus. Am J Respir Cell Mol Biol 2013; 48: 742-8. 3 ) 厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部:新 型コロナウイルス感染症 COVID-19 診療の手引き第4.1 版.(オンライン)入手先〈https://www.mhlw.go.jp/ content/000712473.pdf〉,(参照2020-12-27) 4 ) Tobin MJ, Laghi F, Jubran A: Why COVID-19 Silent Hypoxemia Is Baffling to Physicians. Am J Respir Crit Care Med 2020; 202: 356-60. 5 ) Takahashi T, Ellingson MK, Wong P, et al: Sex differ-ences in immune responses that underlie COVID-19 disease outcomes. Nature 2020; 588: 315-20. https:// doi.org/10.1038/s41586-020-2700-3 6 ) Stelzig KE, Canepa-Escaro F, Schiliro M, Berdnikovs S, Prakash YS, Chiarella SE: Estrogen regulates the expression of SARS-CoV-2 receptor ACE2 in differen-tiated airway epithelial cells. Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 2020; 318: L1280-L1281. 7 ) Montopoli M, Zumerle S, Vettor R, et al: Androgen-deprivation therapies for prostate cancer and risk of infection by SARS-CoV-2: a population-based study (N=4532). Ann Oncol 2020; 31: 1040-5.
8 ) Leung JM, Yang CX, Tam A, et al: ACE-2 expression in the small airway epithelia of smokers and COPD patients: implications for COVID-19. Eur Respir J 2020; 55: 2000688.
9 ) Popkin BM, Du S, Green WD, et al: Individuals with obesity and COVID-19: A global perspective on the epidemiology and biological relationships. Obesity Reviews 2020; 1-17.
10) Carfì A, Bernabei R, Landi F: Persistent Symptoms in Patients After Acute COVID-19. JAMA 2020; 324: 603-5.
11) Rubino F, Amiel SA, Zimmet P, et al: New-Onset Diabetes in Covid-19. N Engl J Med 2020; 383: 789-90.
コロナ感染様式、臨床経過、重症化リスク
Pulmonary Structure and the Way of Infection, the Clinical
Course and Risk Factors of Serious Condition in COVID-19
Ichiro Kuwahira
1)1) Department of Pulmonary Medicine, Tokai University Tokyo Hospital
SARS-CoV-2 invades a host cell through angiotensin-converting enzyme 2 (ACE2) receptor, and
infection is established. A symptom such as a cold develops, but a digestive organ symptom, taste
disorder and sense of smell disorder are seen. A latency period is 1-14 days (the most frequent is 5
days). Droplet infection and contact infection are the main infection course. 80% of patients are
mild, and 20% of remainder needs hospitalization. Case fatality rate is 2-3%. The risk factors of the
aggravation include advanced age (65 years or older), the malignant tumor, chronic obstructive
pulmonary disease (COPD), chronic kidney disease, type 2 diabetes, high blood pressure,
hyperlipidemia, obesity and a smoking custom. In the sex, a man is higher in the death rate than a
woman. After having recovered, a variety of symptoms are prolonged, and the subsequent
complications (aftereffects) are also problems.
(HEP. 2021;48:213–219.)