1.はじめに 科学や金融は,現代経済に大きな影響を与えて いる.この専門性の高い事柄の研究成果を一般の 読者が手にとって読める媒体や文体で展開するこ とは,学術的のみならず社会的な意義がある.こ のような公共社会科学的方針に則り,イギリスの 社会学者である D. マッケンジーは,金融商品の 価値評価に使われる知識やこうした知識が実装さ れる装置の役割に着目した分析を先駆的に行って きた.本稿では,金融についての経験的研究でマッ
■ 研 究 論 文 ®
Abstract : The aim of this article is to shed new light on the performativity approach by looking at Donald MacKenzie’s empirical studies on finance. From the early 2000s, MacKenzie has shifted his analytical focus from science and technology to finance and has engaged in a wide variety of the socio-historical analysis and the field studies addressing the role of economic knowledge and material device in the financial phenomena. This article analyses the use of MacKenzie’s concepts, namely Barnesian performativity, counterperformativity, agencement, finitism and interaction order, in his empirical studies. With this work done, the readers will be better placed to realize what MacKenzie’s analysis precisely focuses on and its relevance with the context of Valuation Studies, a new developing interdisciplinary research field.
Keywords : performativity, Donald MacKenzie, valuation studies, social studies of finance, materiality
東京大学 金 信行
*The University of Tokyo Shinhaeng(Nobuyuki)KIM
Valuation Studies and the performativity approach:
A consideration of Donald MacKenzie's empirical studies on finance
* 東京大学大学院 学際情報学府社会情報学コー ス 博士課程
遂行性アプローチと価値評価研究:
ドナルド・マッケンジーの 5 概念の展開可能性
ケンジーが用いた 5 つの概念が価値評価研究にも 援用できる可能性を示すことを目的としている. マッケンジーは,科学技術社会学において自ら の分析視座を確立した後,この視座を金融領域の 研究へと応用することで数多くの研究業績を残し ている論者である.科学技術社会学では,マッケ ンジーは科学的知識の社会学(Sociology of Scien-tific Knowledge: SSK)の一員に属し,統計学や 核ミサイルの成立過程を社会構成主義的に分析し た重厚な科学技術史研究を展開した(MacKenzie, 1981, 1990).その後マッケンジーは,科学技術社 会学においては SSK とは鋭く対立関係にあった アクターネットワーク理論(Actor-Network The-ory: ANT)の考え方を受容しつつ(MacKenzie, 2009=2013, pp. 22-25, 67)1,2),2000 年代より金融理論や金融技術の社会史/フィールド研究へと関 心をシフトして精力的な研究活動を行っている. マッケンジーが金融を対象に行ってきた研究の 動向はしばしば遂行性アプローチとも呼ばれ,経 済社会学を構成する重要なアプローチとみなされ て い る(Zelizer, 2007, pp. 1066-1067; Aspers et al., 2015, p. 20).遂行性アプローチとは,経済現 象の分析において経済学的知識や計算装置といっ た非人間アクターが経済現象を構成する作用に着 目する立場である.この動向の代表的論者には, マッケンジーに加えて,B. ラトゥールと共に ANT の指導的な立場にあった M. カロン,そし てラトゥールやカロンが在籍したパリ国立高等鉱 業学校で ANT の薫陶を受けた F. ムニエーサな ど が い る(e.g. Callon, 1999; Callon et al., 2007; Muniesa, 2014).カロンやマッケンジーの研究を 受けて,経済社会学では実験装置や科学的知識な ど非人間の役割にいち早く注目した科学技術社会 学の知見の摂取が積極的に行なわれており(Pinch and Swedberg, 2008),また金融市場の事例を社 会学的あるいは文化人類学的に分析する金融社会 論が活発な動きをみせている3)(Knorr-Cetina and Preda, 2005, 2012; Preda, 2007, 2017). さて,ここまでマッケンジーを中心として簡単 に紹介してきた金融現象の遂行性アプローチによ る研究は,近年興隆が著しい価値評価研究(Valu-ation Studies)と重要な接点をもっている.価値 評価研究とは,経済価値だけでなく社会的価値も 含めた価値の複数性に着目した上で,経済現象に おける価値評価実践を学際的なアプローチで分析 する研究動向である(Lamont, 2012; Kjellberg et al., 2013).この価値評価研究の基礎概念の 1 つに 量的な評価を行うツールをとりあげる評価装置に 関わる動向がある(松嶋・上西,2018,p. 7).と りわけこの基礎概念に関係する研究動向では,ア メリカのロー・スクールの大学ランキングの研究 で著名な W. エスペラントを中心に評価装置自体 の構成過程を問題化した研究が行われてきた(cf. Orlikowski and Scott, 2014, pp. 869-870).マッケ ンジーの研究は,金融という題材の分析において 金融理論や計算装置といった評価装置を重点的に 記述の対象としてとりあげながら,評価装置の構 成過程ではなく評価装置が実践を通じて現象を構 成していく過程に注目している点に大きな特徴が ある.マッケンジーが採用する遂行性アプローチ に関しては,従来の社会科学が例えばホモ・エコ ノミクスのような現実を過度に抽象化した経済学 的諸概念の虚構性を暴露してきたにもかかわらず, 遂行性アプローチはその遂行的性質を指摘するこ とで経済学的諸概念の実在性を追認しているとい う批判がなされてきた(Hartwick, 2000, p. 1182; Miller, 2002, p. 219; Fine, 2005, p. 103; Mriowski and Nik-Khah, 2007, pp. 199-200).こうした批判 の重要性は踏まえた上で,本論文は価値評価研究 の発展に向けた概念装置の充実化に向けて,マッ ケンジーが経験的研究において活用した概念と事 例分析の内容を検討する. 以上の内容を踏まえて,本論文では「マッケン ジーが金融を検討する際に用いた諸概念は,経済 活動における評価装置一般についてどのような記 述を可能にするのか」を問いとして設定する.そ して本論文は,金融現象に関するマッケンジーの 経験的研究を参照することでマッケンジーが提起 した概念と事例分析の焦点を議論する.具体的に は,バーンズ的遂行性,反遂行性,配置,有限主 義,相互行為秩序という 5 つの概念を活用した マッケンジーの経験的研究の内容を各節で検討す る.そして最後にこの検討結果を整理し,マッケ ンジーの分析視座がもつ可能性について議論す る. 2.バーンズ的遂行性 まず本節で検討するのはバーンズ的遂行性概念 (Barnesian performativity)である4).この概念は, 経済現象の成立において計算装置や経済学理論の 役割に着目する経済学の遂行性の 4 類型の 1 つで ある5).マッケンジーによれば,バーンズ的遂行 性概念は「経済学的知識の活用によって経済プロ セスが経済学的記述に近づくこと」(MacKenzie, 2007, p. 55)として定義される.つまり,伝統的
科学では,対象についての表象(理論)の活用は 対象に影響を与えないが(例えば天体運行の観測 行為が天体運行の過程に影響を与えないように), 経済では表象(理論)の活用によって対象(経済 プロセス)が変化することがある.この知識の新 たなあり様をマッケンジーは遂行性で捉えようと していると考えられる.この概念を用いてマッケ ンジーは,ある金融理論が活用されることで現実 の金融市場(対象)が金融理論という理論(表象) に近づくという事態を描き出した. マッケンジーがバーンズ的遂行性を論ずる題材 として選択したのは,金融市場におけるオプショ ン取引の爆発的な普及に大きく貢献した,ブラッ ク・ショールズ・マートンモデル(BSM モデル) である.オプション取引は,約束の日時に任意の 商品を約束価格で売買する権利を取引する(相 田・茂田,2007,p. 186).原理的にはあらゆる 商品が対象となるが,金融市場であれば株式や債 券といった金融商品が権利取引の対象商品とな る.このオプション取引は古代ギリシャ時代より 存在していたが,オプション価格の算出が直感に 頼るものであったため,あまり普及しなかった. このオプション価格の算出方法に理論的そして数 学的基礎を与えたのが,F. ブラック,M. ショー ルズ,R. マートンの 3 人のアメリカの経済学者 によって構築された BSM モデルであった6). BSM モデルは,経済学における一物一価と効 率的市場仮説を前提とした方程式である(城田, 2017,p. 36).一物一価とは,市場全体の需給に 基づく価格決定によって同質の商品には同一の価 格のみが成立するという前提である.そして効率 的市場仮説とは,市場参加者は利用可能なすべて の情報にアクセスでき,取引商品の価格には常に すべての情報が反映されているという前提であ る.このように必ずしも現実を反映しない理論的 前提に立脚した BSM モデルであったが,世界初 のオプション取引所であるシカゴ・オプション取 引所の誕生と発表の時期が重なったことやブラッ クが BSM モデルを用いて算出したオプション価 格の予測値を記したシートがトレーダーに配信さ れたことから,BSM モデルはオプション取引関 係者に大変な注目を浴びていた. BSM モデルの使用が現実のオプション市場に 大きな影響を与えることができた要因に関する マッケンジーの指摘のなかでとりわけ重要なもの は,BSM モデルの理論値を踏まえたオプション 取引の競争状態の成立である(MacKenzie, 2007, pp. 71-72).BSM モデルは予測の精度が高い理論 であったが,実際のオプション価格と比べてやや 低めのオプション価格を算出する傾向にあった. このズレに直面したトレーダーのなかで,BSM モデルの理論値こそがオプションがもつ本来の経 済的価値を反映していると信じた者は,本来の価 値より過大評価されているオプションを売却して オプションの現物を購入する裁定取引を行う.こ のオプションの売却が一定程度行われると,実際 のオプション価格の値下がりが起こる.たとえ BSM モデルの信頼性に疑問を抱いていた者でも, オプションの値下げ競争が一度始まった状況で は,自らがもつ当該オプションの価格を値下げせ ざるをえなくなる.このようにして,BSM モデ ルに賛同しないトレーダーや興味をもたないト レーダーでもその遂行性の実現に手を貸さざるを えなくなったのである. ここで簡潔に紹介した内容を踏まえると,バー ンズ的遂行性概念を用いたマッケンジーの事例分 析は理論の活用によって現実が変化する際の, 人々の実践に着目したものであることがわかる. BSM モデルの事例分析で言えば,まず BSM モ デルを用いたオプション価格の理論値の計算とい うモデルの使用があり,BSM モデルのオプショ ン価格を載せたシートの配信などを通じた使用結 果の認知を受けて,BSM モデルを信じる/信じ ないにかかわらず関係するトレーダーは自身の利 益を最大化する取引を行った.その結果,実際の オプション価格が BSM モデルの理論値に近づく という帰結が生じたのである. 3.反遂行性
続いて本節で検討するのは反遂行性概念(coun-terperformativity)である.この概念はバーンズ 的遂行性概念と同様に経済学の遂行性の 4 類型の 1 つであり,バーンズ的遂行性と反遂行性はマッ ケンジーが経済学の遂行性のうちでとりわけ重視 するものである.マッケンジーは反遂行性を「経 済学的知識の活用によって経済プロセスが経済学 的記述から遠のくこと」(MacKenzie, 2008, p. 17) と定義している.マッケンジーはこの概念を用い て,ある金融理論が活用されることで現実の金融 市場(対象)が金融理論(理論)の想定からむし ろ遠ざかっていくという,バーンズ的遂行性とは 対照的な現象を記述した. マッケンジーが反遂行性概念で記述した題材 は,BSM モデルを応用する形で考案された金融 取引の手法であるポートフォリオ・インシュアラ ンス(PI)である.PI とは,株式を保有してい る際に資産が一定額以下に下がらないようにする ための取引手法である(野口,2009,pp. 79-81). 前節でのオプション取引の内容を踏まえて説明す ると,前提として以下の 3 つの方法がある.株式 の取引で大きな損失を発生させない方法としてそ の株式を希望の期日に一定額で売却する権利であ るプットオプションを買うというやり方がある. そして,このプットオプションを再現する手段と して,株式を保有する金融機関から借り受けて売 却する空売りで得た資金で行う安全資産の購入が ある.さらに,この空売りと安全資産の購入は, 株式の先物売りひいては株式指数の先物売りに よって代替することができる.これらを踏まえて PI では,株価が上昇基調にある際には株式指数 の先物売りを少なく行い,株価が下降基調にある 場合は株式指数の先物売りを多く行う取引手法 が,コンピュータ・プログラムとして自動化され た. PI は,1976 年にアメリカの経済学者であるヘ イン・E・リーランドとマーク・ルービンスタイ ンによって考案され7),その後 1980 年代に金融 業界で普及した.リーランドは PI を金儲けの手 段として思いつき,様々な金融機関で自分のアイ ディアを披露した.これが金融業界で活躍してい たジョン・オブライエンの目を引き,リーランド は 1982 年にルービンスタインとオブライエンと共 にリーランド・オブライエン・ルービンスタイン 株式会社(LOR)を設立する.LOR は 1980 年代 初頭に PI を支えるプットオプションの複製手段 として個々の株式の先物売りを顧客に指導してい たが,これは個々の先物売りの手数料や個々の銘 柄の売買への指導自体の煩雑さから顧客に不評で あった.しかし,1982 年にシカゴ・マーカンタイ ル取引所でニューヨーク証券取引所や NASDAQ に上場する銘柄のうち代表的な 500 銘柄の株価を 基調とした株式指数である S&P 500 の先物取引 が解禁されると,LOR は手数料と指導の問題を 解決するプットオプションの複製手段として株式 指数の先物売りを採用することで顧客を大きく拡 大した. この手法に関するマッケンジーの分析は,1987 年 10 月 19 日の世界的な株価大暴落であるブラッ クマンデーは PI の反遂行性を通じて生じたとい う も の で あ る(MacKenzie, 2008, pp. 195-196). 1987 年のアメリカでは,貿易赤字の拡大や政府 債務の失敗によるレーガノミクスへの不信から株 価 の 下 降 基 調 が 定 常 化 し て い た(MacKenzie, 2008, p. 185).1987 年 10 月 19 日の朝から株価の 急落が始まると,これを受けて PI に則り株式指 数の先物売りが大量に行われる.これは一定の損 失を回避するために PI が行う機械的な取引であ るが,当時の投資家はこれを非常事態として捉え た.つまり,金融市場のトレーダーや投資家はこ の株式指数の大量の先物売りをまだ公開されてい ないマイナス材料の情報を手にした投資家による リスク回避行動として捉えたのである.これに よって,株式指標先物の現物である株式がまた売 られて株価が下がり,これによって再び株式指数 の先物売りが機械的に行われる.以上のループが 繰り返されることで,株式取引の損失を一定額以 下に抑えて株式の安定した売買を保つはずの PI の取引を通じてかえって金融市場に破滅的な事態 が生じてしまったのである. ここまで簡単にとりあげてきた分析内容を踏ま
えると,反遂行性概念を用いたマッケンジーの事 例分析はバーンズ的遂行性の場合と同じく経済現 象における理論の使用とこれを受けた人々の実践 に着目したものだと理解できる.PI の事例では, まず PI の構想に基づいて株価の変動に合わせて 株式指数の先物の売買を調整するプログラムをコ ンピュータへ実装して取引させる理論の使用が行 われた.投資家はこの取引を株式指数の先物価格 の大幅な下落の形で認知し,株式に関するさらな るマイナス材料の存在を仮定して損切りを行っ た.これによって,実際の金融市場が PI の想定 する安定した株式売買とは真逆のカオスに突入す る事態が起こるに至ったのである. 4.配置 そ し て 次 に 本 節 で 検 討 す る の は 配 置 概 念 (agencement)である.マッケンジーによれば配 置とは「社会技術的な組み合わせ」(MacKenzie, 2009=2013, p. 23)であり,ネットワークの構成 要素である人間アクターと非人間アクターとが同 じ重みであることを焦点化する概念である.マッ ケンジーはこの概念を使って,経済活動を行うア クターの意思決定がトレーダーだけでなく業界慣 行や知識や情報といった異種混淆のアクターのつ ながり(linkage)として存立している様を記述 した. マッケンジーが調査対象としたのは,ロンドン に 拠 点 を 置 く 小 規 模 ヘ ッ ジ フ ァ ン ド で あ る (MacKenzie, 2009=2013, pp. 45-48).ヘッジファ ンドのメンバーは 5 名で,トレーダーが 2 名,エ コノミストが 1 名,バックオフィス業務のエンジ ニアが 1 名,インターンが 1 名である.マッケン ジーはこのヘッジファンドのオフィスでフィール ドワークを行い,各メンバーの行動と言動のメモ や会話の録音を行った.マッケンジーはトレー ダー 1 名の真後ろで観察し,このトレーダーの行 動に関して適宜説明を求めることができた.こう したフィールドワークに加えて,マッケンジーは ヘッジファンドの各メンバーやスノーボール・サ ンプリングを用いたヘッジファンド関係者 51 名 へのインタビューを行った. ヘッジファンドの売買の実行は照会業務が大き く関わる配置として成立していた(MacKenzie, 2009=2013, pp. 49-51).トレーダーが投資銀行の セールス部門へブラジル国債 14 年 500 万ドル分 の買い注文を行ったとしよう.すると,トレーダー はエンジニアと自分の間にあるデスクのフォル ダーのなかにある取引記録簿にこの契約内容を書 き込む.エンジニアはシステム利用者が利用する 可能性をもつ証券の特徴をデータベース化した証 券マスターを参照しながら,取引内容の詳細を電 子取引簿に入力する.そして,この電子取引簿の 内容はダブリンにメインオフィスを構える別の照 会業者に送られ,ファンドと取引相手の取引内容 が一致しているかを確認する照合業務が行われ る.最後に,ファンドが売買に合意すると,投資 銀行は取引に必要な金額や購入証券に付随する権 利を載せた電子記録をファンドへ送信する.ヘッ ジファンドが売買を完遂する配置には,証券取引 の照合業務を担うアクターが重要な役割を果たし ているのである. また,ヘッジファンドにおける売買の意思決定 の配置では市場慣行や計算法といった知識が極め て重要な役割を果たすこともある(MacKenzie, 2009=2013, pp. 52-53).ある時,トレーダーがト ルコ国債の気配値を計算するようインターンに指 示した.すると,インターンは複利計算でトルコ 国債の気配値を算出した.これに対してトレー ダーは,トルコ国債市場では単利計算が慣行であ ることを述べたのであった.ここでは,プログラ ミングの知識,市場慣行に関する知識,トルコ国 債利息の特殊な事実に基づく知識から成るトルコ 国債の利回り計算法がヘッジファンドにおける売 買を構成する配置の一角を占めていることがわか る. ここまでみてきた内容を踏まえると,配置概念 を用いたマッケンジーの事例分析は経済活動を行 うアクターの成立に実は大きな貢献をしている非 人間アクターの役割を見出すものだと考えること ができる.ヘッジファンドの事例では,ヘッジファ
と転化したのである.この仕分けの操作の繰り返 しによって,2002 年には 39 億ドルにも及ぶ巨額 の会計不正が公表され,ワールドコムは経営破綻 へ至ることになる. マッケンジーの分析では,この会計不正の公表 までの顛末が未使用分リース料をどの会計項目へ 分類するのかという会計項目の有限主義的観点か ら記述されている(MacKenzie, 2009=2013, pp. 141-144).まず,会計不正に手を染めたサリヴァ ンは,未使用分のリース料を資産として分類する ことに会計上の正当性があるという認識をもって いた.アメリカ会計基準では,資産は過去の取引 や事象の結果将来発生する可能性の高いある特定 の実体の経済的便益として定義されている.サリ ヴァンはこの定義を参照して,他社のネットワー ク回線をリースするコストは資産として分類でき る会計的正当性があると主張した.つまり,大規 模な通信容量のリースは顧客を獲得する手段であ るのだから,このリースのコストは資産として扱 われる会計上の正当性を備えているということで ある. このサリヴァンの主張は,会計専門家との間で 重大な論点となった.サリヴァンが行った仕分け 操作の問題を社内で提起したのは,内部監査部長 のシンシア・クーパーであった.クーパーと彼女 の部下による調査の結果,仕分けに関する不正疑 惑が提起され,監査委員会の会議で議論がなされ た.この議論では,会計を専門としないワールド コムの取締役員はサリヴァンの主張を支持した一 方で,監査法人などの会計関係者はサリヴァンの 仕分けを不正だとみなした.会計に関して素人の ワールドコムの執行役員はサリヴァンの解釈が通 信ビジネス上まったく違和感のないものだと考え たのに対して,エンロン事件で証拠隠滅を図った アーサー・アンダーセンから監査業務を引き継い だ KPMG の会計士やワールドコムの監査役は会 計原則上サリヴァンの分類行為は不適切だと判断 した.また,監査委員会の会議の直前にアーサー・ アンダーセンが証拠破棄の罪を問われ倒産する見 通しが濃厚であり,不正会計の隠蔽が刑事訴追と ンドの売買を様々なアクターのつながりとして成 り立つ配置と捉えることで,この売買の成立に極 めて大きな役割を果たす証券取引のデータベー ス,管理業者,トルコ国際市場の計算慣行といっ たアクターが明らかになった.こうした要素の ネットワークによって,ヘッジファンドの存続が 可能となっているのである. 5.有限主義 次に本節で検討するのは有限主義概念(finit-ism)である.マッケンジーはバーンズ的遂行性 の場合と同様にバーンズの議論を参照し(cf. Barnes, 1982),この概念を外延的意味論という 考 え 方 と の 対 比 で 説 明 し て い る(MacKenzie, 2009=2013, pp. 29-34).外延的意味論とは,ある 用語の意味内容は実例への適用以前に既に与えら れているために閉じたものだとする考え方であ る.ここでは用語の意味内容を規定するのはしば しば社会的慣行だとされている.これと対照的に, 有限主義とは用語の意味内容は開かれており,行 為者の判断に依存しているとする立場である.つ まりこの概念では,用語の実例への適用において その柔軟性が焦点化されていることがわかる. マッケンジーは有限主義概念のこの特徴を会計項 目の分類に関わる事例の分析に応用することで, ある企業の粉飾決算が会計項目の分類をめぐる争 いを通じて発覚した顛末を記述した. マッケンジーが記述の対象としたのは,2002 年に経営破綻したアメリカ大手通信会社ワールド コムの不正会計事件である8).設立からわずか 15 年ほどで業界大手にまで成長したワールドコムで あったが,大型 M&A の失敗と IT バブルの崩壊 が重なり,2000 年から業績不振とこれに伴う株価 の下落に悩まされることとなった.この事態を受 けて,当時ワールドコムの CFO を務めていたス コット・サリヴァンが他社に対して支払うネット ワーク回線容量のリース料のうち未使用分を「そ の他長期固定資産」と「建設仮勘定」の勘定項目 に仕分けした(MacKenzie, 2009=2013, p. 121). つまり,通常はコストとみなされるものを資産へ
経営破綻を即刻もたらす状況が生じていたため, こうしたリスクを重く見た会議の参加者はサリ ヴァンの主張を支持しなかった.こうしてサリ ヴァンらは解雇され,ワールドコムは粉飾決算を 公表するに至ったのである. ここで紹介した記述を踏まえると,有限主義概 念を用いたマッケンジーの事例分析は会計項目の 仕分けに関する柔軟な判断とこの判断に関わる多 様な要素の役割をとりあげるものであったと理解 できる.ワールドコムの事例では,まずサリヴァ ンによる未使用分リース料の資産への仕分けと会 計専門家によるこのリース料のコストへの仕分け という,会計項目の仕分けに関する柔軟な判断が 行われた.そしてこの判断には,サリヴァンを含 む会計の素人であるワールドコムの執行役員の場 合はワールドコムの業績をできるだけ良く見せよ うという目標と分類をめぐる状況,会計専門家の 場合は会計分野の教育や慣習といった要素が判断 を形成していた.こうした要素の結びつきで生じ た会計項目の分類判断の結果,ワールドコムの不 正会計の公表と経営破綻が起きたのである. 6.相互行為秩序 最後に本節で検討するのが相互行為秩序(inter-action order)概念である.この概念自体はマッ ケンジーではなく,アメリカの社会学者アーヴィ ング・ゴフマンが提唱したものである.この概念 に関してゴフマンは明確な定義を行ってはいない が,ここでは相互行為を規定する場の空気あるい は規範として相互行為秩序を捉える(cf. 速水, 2015,pp. 9-11).マッケンジーが引用したゴフマ ンの講演録において,ゴフマンは相互行為の基本 的事例として順番対応されるというルールを共有 した人々の行列を挙げている(Goffman, 1983= 1992, pp. 120-121).そしてゴフマンは,こうした 相互行為的な活動が当の相互作用の外部にある事 柄に依拠していることも述べている(Goffman, 1983=1993, p. 131).マッケンジーは,こうした 特徴をもつ相互行為秩序概念を参考に,コン ピュータ・プログラムによる超高速の金融取引を ある種の相互行為とみなす分析を行った. マッケンジーが研究題材としてとりあげたの は,近年金融界で大きな話題を呼んだ高頻度取引 (HFT)である.HFT とは,注文の発注や執行 に際して超高速のコンピュータ・プログラムを使 用し,ネットワークの最小化のために取引所の直 結データ・サービスなどを利用し,極めて短時間 で 大量の注文を発注すると共に短時間でそれを キャンセルし,1 日の終わりにはリスクを分散で きないような状況を翌日に持ち越さない取引手法 である(大墳,2014,p. 186).HFT の基本的な ビジネス・モデルは薄利多売であり,金融取引で 多くの取引機会を獲得するために最良の未決済約 定を得る(大墳,2014,pp. 197-198).つまり, HRT はその取引において価格面では指値のうち 最良気配値を選択し,時間面では最良気配値にお ける注文の並びであるキューの一番先頭を目指 す.買い注文の発注を例にすれば,指値価格を高 くするのは割高購入のリスクが生じ,指値価格を 安くするのは反対に取引機会自体を逃がすことに なるため,最良気配値での取引が望ましい.そし て,最良気配値での注文のキューが後ろになれば なるほど取引機会を逃すため,キューの先頭に位 置するほうが良いのである. マッケンジーは,こうした特徴をもつ HFT が 金融取引の指値注文において競合して利益を確保 する過程を相互行為秩序の観点から記述している (MacKenzie, 2019, pp. 48-51).先に紹介した通常 の利益の確保の仕方の他に,HFT を用いること で金融界ではタブーとされる見せ玉(みせぎょく) 注文も可能となる.見せ玉注文とは,約定の意図 がないにもかかわらず大量の注文を行うことであ り,このことで,あたかも取引が活発であるかの ように見せかけることができる.例えば売り注文 の発注があるとして,大量の売り注文を最良気配 値から少し高めの指値で出すことで価格の下落を 匂わせて他の売り注文を誘い出したところで,取 引の約定前に売り注文をキャンセルするというも のである.この後金融商品の価格が実際に下がっ たところで買い注文を実行し,価格が回復したと
ころで売り注文を行って利益を確保することが目 的となる.HFT を用いると約定前の注文キャン セルが極めて容易となり,とりわけ優先的に対応 される最良気配値での注文キャンセルが市場の動 向を大きく左右することから,HFT を含めた投 資家層全体で指値注文が通常の注文か見せ玉注文 かの判断が極めて重要になる.こうした指値注文 での相互行為から浮かび上がるのが,指値注文の 並びにおけるファーストイン・ファーストアウト という投資家層の規範である.これは,時間的に 最初に任意の価格で受け付けられた注文が一番初 めに約定されるべきだとするものである.指し値 注文という相互行為において,特定の投資行動を 見せ玉注文という不正であると判断する根拠とな る相互行為秩序として機能しているのがファース トイン・ファーストアウトという規範である.こ のような相互行為秩序によって個別の注文の位置 付けが特定されることで,相互行為が可能になる のである. また,マッケンジーは HFT の事例を題材に相 互行為と社会構造の関係についても論じている (MacKenzie, 2019, pp. 51-2).ゴフマンの議論に 立ち返ると,相互行為はある程度の独立性をもつ ものの社会構造とは緩やかにカップリングしてい る(Goffman, 1983=1993, p. 130).マッケンジー によれば,2014 年まで見せ玉注文は市場におい てしばしばみられる投資行動であり,見せ玉注文 の成功者は投資家の間で非公式的な賞賛の対象と なった.しかし,金融危機を誘発するような利己 的で強欲な投資行動を非難する世論が厳しさを増 し,2014 年には金融規制法案であるドット=フ ランク法の適用で見せ玉注文の初の逮捕者が出 た.こうした社会構造の変化を受け,見せ玉注文 は大きく減少していったのである. ここでの議論を踏まえると,相互行為秩序概念 を用いたマッケンジーの事例分析は,超高速で取 引を行うコンピュータや「ファーストイン・ ファーストアウト」といった非人間アクターを, トレーダーなどの人間アクターと同じく重要な要 素として作動する相互行為と,社会構造との,関 係を扱うものであったことがわかる.HFT の事 例では,見せ玉注文を警戒しながら買い注文と売 り注文を指値の列の形で出していく相互行為が形 成されていた.そしてこうした相互行為に影響す る要素として,ファーストイン・ファーストアウ トという相互行為秩序の存在や金融規制を求める 世論を背景としたドット=フランク法の成立と適 用という社会構造の変化があったのである.これ によって,HFT を活用した見せ玉注文は次第に 鳴りを潜めていく結果となった. 7.おわりに 本論文は,「マッケンジーが金融を検討する際 に用いた諸概念は,経済活動における評価装置一 般についてどのような記述を可能にするのか」と いう問いのもと,マッケンジーが経験的研究で用 いた諸概念について議論を進めてきた.具体的に は,各節でマッケンジーの経験的研究をとりあげ, バーンズ的遂行性,反遂行性,配置,有限主義, 相互行為秩序といった概念とこれらの概念を用い た事例分析の内容を検討した.これまでの説明を まとめたものが表 1 である. この内容をまとめよう.本論文でとりあげた マッケンジーの研究を概観すると,評価装置と意 思決定との関係が一貫して記述の対象となってい たことがわかる.まず,各概念に関連して紹介さ れた事例で主題的に扱われていた評価装置はそれ ぞれ以下である.バーンズ的遂行性に関しては BSM モデルが,反遂行性に関しては PI が,配置 に関しては証券取引のデータベースやトルコ国債 利回り計算法が,有限主義に関してはアメリカ会 計基準が,相互行為秩序に関しては HFT が,扱 われていた.そして,評価装置を踏まえた意思決 定の過 程が各概念についてそれぞれ以下のよう に記述されていた . すなわち,バーンズ的遂行性 に関してはオプション市場で広く普及した BSM モデルへの信頼に基づいたトレーダーによるオプ ションの売却行為が,反遂行性に関しては PI に 基づく株株式指数の先物売買の意図を誤認したト レーダーによる株式の売却行為が,配置に関して
はヘッジファンドのトレーダーによる証券取引の データベースやトルコ国債利回り計算法の参照 が,有限主義に関してはネットワーク回線の未使 用分リース料の資産会計項目とコスト会計項目と への分類に際しての会計知識の参照が,相互行為 秩序に関しては HFT の見せ玉注文を金融規制の 対象とした規制監督者による金融業界の規範の参 照が,記述されていた. 以上を踏まえて,本研究の問いへ回答していこ う.「マッケンジーが金融を検討する際に用いた 諸概念は,経済活動における評価装置一般につい てどのような記述を可能にするのか」という問い に対しては,「マッケンジーの概念は評価装置に 関してそれが実際の実践における意思決定に結び つくまでの過程を記述することができる」と応答 することができる.価値評価研究において評価装 置をとりあげる従来の研究動向では,エスペラン トを中心に評価装置がいかにして構築されるのか が問われてきた.そしてとりわけエスペラントら は,そうした評価装置の構成を問題化する概念と して,質的に異なる要素を 1 つの評価軸で価値づ け 直 す こ と を 示 す 均 質 化(commensuration) (Espeland and Stevens, 1998; Levin and Espeland,
2002)や数量化(quantification)(Espeland and Stevens, 2008)の概念を提示してきた.しかし, 価値評価に関わる現象が評価装置の生成からその 社会での活用までを含む一連の過程であることを 踏まえると,エスペラントらの概念はあくまで評 価装置の生成過程のみを問題化するだけで,実際 の実践における価値評価の活用の過程を概念の射 程に含めていないことを指摘することができる. マッケンジーの概念はこの点に関してまさに実際 の実践における評価装置と意思決定の関係を記述 できるものであり,価値評価を研究するうえで重 要な存在であるという示唆が得られるのである. マッケンジーの概念はこうした利点を備えるも 表 1 本論文の分析のまとめ 概念の内容 分析の対象 評価装置と関連した着眼点 バーンズ的遂行性 経済学的知識の活用によって, 経済プロセスが経済学的理論の 想定に近づくこと ブラック・ショールズ・マートン モデル(BSM モデル)の理論値 に基づくオプション取引によって 金融市場が変化したこと BSM モデル(評価装置)の利 用によって,経済プロセスが変 化したこと 反遂行性 経済学的知識の活用によって, 経済プロセスが経済学的理論の 想定から遠のくこと 安定売買の手法であるポートフォ リオ・インシュアランス(PI)の 実行によって金融市場に混乱が生 じたこと PI(評価装置)の実行によって, PI の前提が覆される形で経済 プロセスが変化したこと 配置 社会技術的な組み合わせ ヘッジファンドの売買決定がト レーダーのみならず照合業務や計 算法や業界慣行やなどの要素のつ ながりとして生じたこと トレーダーが業界の単利監修や 規範(評価装置)を参照したこ と 有限主義 用語の意味内容が開かれてお り,行為者の判断に依存してい ること ワールドコムの粉飾決算におい て,未使用分リース料の資産会計 項目への仕分け可能性をめぐっ て,会計専門家と執行役員の間で 意見の相違が存在したこと 仕分けの際にアメリカ会計基準 (評価装置)をもとに解釈がな され,その解釈が会計専門家と 異なったこと 相互行為秩序 相互行為の場においてどの役割 や演技を採用するかの判断根拠 となる場の空気 超高速で金融取引を行う高頻度取 引(HFT)の見せ玉注文が,金 融業界の規範に基づいて次第に排 除されたこと HFT(評価装置)の注文行為 に関して規制関係者が金融業界 の規範を参照したこと
のであるが,課題も残されている.まず,上述の ように価値評価の現象が評価装置の生成からその 社会での活用までを含む一連の過程であることに 鑑みると,マッケンジーの概念は評価装置の生成 過程を概念化の射程に含められていないという問 題がある.また,より理論的な問題として,社会 学のミクロ/マクロ問題を念頭にマクロ/メゾ/ ミクロといった分析のレベルの弁別を保留するこ とを提案した ANT を受容しようとしつつも,相 互行為秩序においてメゾの分析レベルを想定して いるという問題が指摘できる.価値評価研究の今 後の理論的展開においては,影響関係にある理論 との接合性に注視しつつ価値評価の現象の過程を 統一的な形で概念化することが求められていくで あろう. 注 1)1990 年代の科学技術社会学において,利害関心や社会 集団といった社会的要因を科学技術現象を規定する因 果的要因として扱う SSK と,社会的要因を科学技術現 象の規定要因とみなすことなく人間と非人間の作用を 等しく重要なものとして扱う ANT の対立は苛烈を極 めるものであった(Zammito, 2004; Golinski, 2005;松 本,2009).科学技術の社会的研究(Social Studies of Science and Technology)の最新の動向では,SSK と ANT を共にグランドセオリーと総括した上で,概念 の限定性を備えた中範囲の理論への志向に基づいて科 学技術を駆動する人々の期待のダイナミクスの解明を 目指す期待の社会学が活発な動きをみせている(福島, 2017;山口・福島,2019). 2)自然/社会(文化)という近代の二分法の虚構性の暴 露に基づく非人間の役割への注目を促した ANT に関 しては,遂行性アプローチに限らず人文学や社会科学 の様々な分野において幅広く受容が試みられてきた (e.g. 上野,1999;上野・土橋,2006;春日,2011). 3)本邦においてはこうした動向のレビューや応用研究が 積極的に行われている(岡本,2013;矢寺,2013;國 部・澤邉・松嶋,2017;中野,2017;山本,2019). 4)このバーンズ的という表現についてマッケンジーは, SSK の論客である B. バーンズの議論に則っていること を述べている(MacKenzie, 2007, pp. 66-67; cf. Barnes, 1983, 1988). 5)経済学の 4 類型とは,一般的遂行性,効果的遂行性,バー ンズ的遂行性,反遂行性の 4 つである.一般的遂行性 は行為者による経済学的知識の活用,効果的遂行性は 行為者による経済学的知識の活用が経済現象に影響を 及ぼすことをそれぞれ指している(MacKenzie, 2007, p. 55).これら 2 つの概念については,知識の活用が 現象にいかなる効果を与えているのかを限定しておら ず,幅広い遂行性を腑分けするために設定した極めて 一般的概念であること(cf. MacKenzie, 2007, p. 60), そしてマッケンジーがこれらの概念を用いた経験的研 究を行っていないことから,本稿ではこれらの 2 つの 概念を扱わない. 6)この功績により,ショールズとマートンは 1997 年に ノーベル経済学賞を受賞する(ブラックは癌を患い 1995 年に急逝していた).このマートンはアメリカ社 会学を代表する R. K. マートンの息子に当たる.余談 であるが,自身の研究業績が高い評価を受けたことに 自信をもったショールズとマートンは,かつてのソロ モン・ブラザーズの敏腕トレーダーであったジョン・ メリウェザーが立ち上げたロングターム・キャピタ ル・マネジメント(LTCM)の資産運用に参画したが, LTCM が 1997 年のアジア通貨危機と 1998 年のロシア 危機での運用の失敗から巨額の損失を出して破綻した ことはショールズとマートンの名声に陰を落とす結果 と な っ た(Dunber, 2000=2001; Lowenstein, 2000= 2005;相田・藤波,2007; cf. MacKenzie, 2003). 7)同時期に,カナダの経済学者である M. ブレナンと E. シュワーツが彼らとは独立に PI を考案したようだが, この手法の普及に大きく貢献したのはリーランドと ルービンスタインであった. 8)ワールドコムは,1983 年の設立以降レーガノミクスに よる通信事業の規制緩和のなかで急成長を遂げ,競合 する通信会社との大規模な M&A を繰り返すことで AT&T に次ぐアメリカ長距離通信業界大手にまで躍進 した大手通信会社である(藤田,2003,pp. 221-222). 参考文献 相田洋・茂田喜郎 (2007) 『NHK スペシャル マネー革 命:第 2 巻 金融工学の旗手たち』日本放送出版協会. 相田洋・藤波重成 (2007) 『NHK スペシャル マネー革 命:第 3 巻 リスクが地球を駆けめぐる』日本放送出 版協会. 上野直樹 (1999) 『仕事の中での学習』東京大学出版会. 上野直樹・土橋臣吾 (編) (2006) 『科学技術実践のフィー ルドワーク:ハイブリッドのデザイン』せりか書房. 大墳剛士 (2014) 「米国市場の複雑性と HFT を巡る議論: JPX ワーキングペーパー 特別レポート」. 岡本紀明 (2013) 「金融社会論の台頭と会計研究への示唆」
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