ラグビーにおける2008年の試験的実施ルール導入による影響について
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(2) オーストラリア,南アフリカによる 3 ヶ国対 抗戦)3 試合と,シックスネーションズ(イ ングランド,アイルランド,スコットランド, ウェールズ,フランス,イタリアによる 6 ヶ 国対抗戦)の 1 位チーム対 2 位,3 位チーム との試合 2 試合,日本レベルの試合としてト ップリーグ(日本国内の社会人 14 チームに よる対抗戦)の上位 6 チーム同士の試合 5 試 合を分析対象とした。2008 年度については, 本研究を行った時期がトップリーグのシーズ ン中であったこともあり,多くの試合を分析 対象とすることができなかったが,世界レベ ルの試合としてテレビ放映された全テストマ ッチ 5 試合,日本レベルの試合としてトップ リーグの 5 試合(2007 年度シーズンの上位 6 チーム同士の試合)を対象とし,2007 年度と 2008 年度を比較した。表 1 にこれら 20 試合 の詳細を示した。 2.分析項目 ①「自陣 22 m 内に持ち込んだボールをキ ックし,ダイレクトでタッチを割った場合は, 蹴った地点でのタッチとなる」,②「オフサ 表1. イドラインはスクラム最後尾の足から 5 m 背 後となる」,③「プレーヤーは,モールを引 き倒して防御してもよい」,④「いずれのチ ーム側にもラインアウト構成人数に制限は無 い(最低各チーム 2 名で成立する)」の 4 項 目が ELV13 項目の中でもゲームに大きく影響 を及ぼすものと予想し,モール,そしてライ ンアウトとスクラムから始まるプレーに関し てどのような影響があるかを調査するため, 以下の 8 項目を分析することとした。 (1)1 次攻撃のプレー選択 スクラムとラインアウトからの 1 次攻撃を タッチキック,ロングキック,ハイパント, ショートキック,ドロップゴール,サイドア タック,バックスによるパスラン,モールド ライブ,ずらしモール,ラインアウトピール, クイックスローインの 11 パターンに分類し, その比率を求めた。 (2)攻撃チャンネル スクラム及びラインアウトから防御側チー ムのスタンドオフまでのスペースをチャンネ ル 1,スタンドオフから第 2 センターまでを 分析対象. −2−.
(3) チャンネル 2,その外をチャンネル 3,スク ラムから近いタッチラインまでをブラインド とし,スクラムとラインアウトからの 1 次攻 撃において,どのチャンネルに攻撃したか, その比率を求めた。 (3)ポイント発生位置 スクラムとラインアウトからの 1 次攻撃に おいて,ポイントが発生した位置をゲインラ イン(以下「GL」と略す)前方(=攻撃側チ ーム突破),GL 上,GL 後方に分類し,その 比率を求めた。 (4)ポイント参加人数 スクラムの 1 次防御において,防御側チー ムの選手が発生したポイントに参加した人数 を求めた。 (5)前進ゾーン数 スクラム,ラインアウトが行われた位置か ら次のセットプレーが行われる位置まで前進 したゾーンの数を求めた。具体的には,グラ ウンドの横のライン(ゴールライン,22 m ラ イン,10 m ライン,ハーフウェイライン)を 利用し,ポイント位置がラインを越え前進す ると 1 ゾーン前進としてカウントした。 (6)モール防御パターン モール防御を 1 人でタックルする,1 人で 引き倒す,押し返す,2 人以上で引き倒す, の 4 パターンに分類し,その比率を求めた。 (7)最終防御結果 防御が終了するパターンを被トライ,攻撃 側チームのキック,攻撃側チームボール投入 セットプレー,直接ターンオーバー,防御側. 図1. チームボール投入となる間接ターンオーバー に分類し,その比率を求めた。 (8)ラインアウト防御構成人数 防御側チームのラインアウトに並ぶ人数が ボール投入側チームに比べて多い,同数,少 ない,の 3 パターンに分類し,その比率を求 めた。 3.分析結果の処理方法 分析は試合の映像をパソコンに取り込み, ゲーム分析用ソフト『Sports Code』を用いて 行った。収集したデータは『フィッシャーの 正確確率法』を用いて比率の差を検定した。 分析項目(4)のポイント参加人数と(5)の前 進ゾーン数については,『マン・ホイットニ ーの U 検定』を用いて比較を行った。有意水 準は P <.05 としたが,.05 < P <.10 にある 場合も本研究では注目すべき結果と考え,有 意傾向として示した。 #.結果と考察 1.スクラムとラインアウトからの 1 次攻撃 について 図 1,2 は 1 次攻撃において選択されたプ レーの比率をスクラムとラインアウトに分け て示したものである。これによると,日本レ ベルにおけるスクラムとラインアウトとも に,1 次攻撃でのキックの選択率が 2007 年度 に比べ 2008 年度は有意に増加したことがわ かる。キックが増加した要因として,ELV 導. スクラムからの 1 次攻撃におけるプレー選択別比率. −3−.
(4) 図2. ラインアウトからの 1 次攻撃におけるプレー選択別比率. 入に伴い,自陣 22 m 内にボールを持ち込ん で直接タッチにボールを蹴りだすことができ なくなったためにプレー選択が変化し,地域 獲得を狙ったロングキックが増えたためであ ると推察された。ラインアウトからの攻撃に おいては,モール選択率が両レベルともに有 意に減少していた。また世界レベルにおいて は,バックスによるパスラン攻撃の選択率が 有意に増加していた。この要因として,防御 側チームのモールの引き倒しが許容されたた め,攻撃側チームがモールを仕掛けても最終 的に引き倒され,効果的な結果が得られない と判断し,モール以外のプレーを選択するよ うになったことが考えられる。 次に 1 次攻撃をさらに細かく分類し,その ポイント発生位置から各攻撃の有効性を検証. 図3. していく。図 3,4 はバックスによるパスラ ン攻撃後のポイント発生位置の比率をスクラ ムとラインアウトに分けて示したものであ る。これによると,統計的に有意な差は認め られなかったものの,スクラムからのパスラ ン攻撃による GL 前方でのポイント発生率が 日本レベルでは増加し,GL 後方での発生率 が世界レベルでは増加,日本レベルでは減少 していることがわかる。またラインアウトか らのパスラン攻撃による GL 前方でのポイン ト発生率が世界レベルにおいて増加し,日本 レベルにおいては有意に減少していた。これ らのことから,パスラン攻撃は世界レベルに おいてはラインアウトから,日本レベルでは スクラムからの攻撃で効果的に機能したと推 察される。. スクラムからのパスラン攻撃によるポイント発生位置比率. −4−.
(5) 図4. ラインアウトからのパスラン攻撃によるポイント発生位置比率. 図 5,6 はスクラムからのパスラン攻撃に おけるチャンネル別の選択率と GL 前方での ポイント発生率を示したものである。これら によると,両レベルともにチャンネル 1,2 への攻撃が減少し,チャンネル 3 への攻撃が 増加していることがわかる。しかし,両レベ ルともにチャンネル 1 における GL 前方での ポイント発生率が増加していた。このことか ら,チャンネル 1 への攻撃選択率は減少して いるものの,スクラムと 5 m 後方のオフサイ ドラインとのギャップを突くチャンネル 1 へ 攻撃の有効性が示唆された。 図 7,8 はラインアウトからのパスラン攻 撃におけるチャンネル別の選択率と GL 前方 でのポイント発生率を示したものである。こ れによるとスクラムからの攻撃と同様,両レ. ベルともにチャンネル 1 への攻撃が減少し, チャンネル 3 への攻撃が増加していることが わかる。またチャンネル 2 への攻撃は世界レ ベルでは増加し,日本レベルでは減少してい る。ポイント発生位置を見ると,両レベルと もチャンネル 2 における GL 前方での発生率 が減少しており,日本レベルにおいては統計 的に有意な差が認められた。図 9 はラインア ウトからのずらしモールとピール攻撃後のポ イント発生位置の比率を示したものである。 これによると,両レベルともに GL 前方にお けるポイント発生率が増加していることがわ かる。これらのことから,ラインアウトから はパスラン攻撃であればチャンネル 2 よりも その他のチャンネルへの攻撃が,またパスラ ン攻撃以外であればずらしモールやピール攻. 図 5 スクラムからのパスラン攻撃におけるチャンネル別比率. −5−.
(6) 図6. スクラムからのパスラン攻撃におけるチャンネル別の GL 前方でのポイント発生率. 図7. 図8. ラインアウトからのパスラン攻撃におけるチャンネル別比率. ラインアウトからのパスラン攻撃におけるチャンネル別の GL 前方でのポイント発生率. −6−.
(7) 図9. ずらしモールおよびピール攻撃によるポイント発生位置比率. 撃などが有効となり得る可能性が示唆され た。 2.スクラムからの防御戦術について 表 2 はスクラムの 1 次防御において発生し たポイントに参加した防御側選手の平均人数 をポイント発生位置別に分けて示したもので ある。これによると,2007 年度に比べ 2008 年度では日本レベルの GL 後方及び GL 上に おいて発生したポイントへの参加人数が有意 に減少していることがわかる。 表2. 表3. 表 3 はチャンネル別のポイントへの平均参 加人数を示したものである。これによると, 日本レベルにおいてチャンネル 1,サイドア タック,チャンネル 1 から 3 への攻撃におい て発生したポイントへの平均参加人数が有意 に減少していたことがわかる。世界レベルに おいては,統計的に有意な差は認められなか ったが,GL 前方,上,後方,全チャンネル において平均参加人数が減少していた。 これらのことから,1 次防御においてはポ イントに参加する人数を減らして直接ターン. 防御側の平均ポイント参加人数. 防御側のチャンネル別平均ポイント参加人数. −7−.
(8) オーバーは狙わず,2 次以降で数的優位な状 況を作り出そうとする戦術色が強まったこと が示唆された。 3.キックの使用について 表 4 はキックの使用率とキックを使用した 攻撃次数別の比率を示したものである。これ によると,日本レベルにおいて 2007 年度に 比べ 2008 年度ではキックを使用した比率が 有意に増加したという結果が得られた。また 2007 年度においては世界レベルに比べ日本レ ベルの方が有意に小さかったが,2008 年では 逆転しており,この結果に有意傾向が認めら れた。キックを使用した攻撃次数別の比率に おいては,1 次攻撃にキックを使用した比率 が両レベルとも増加しており,世界レベルの 増加には有意傾向が認められた。また 4 次以 降にキックを使用した比率は両レベルとも減 少しており,日本レベルにおいては統計的に 有意な差が認められた。 表 5 は自陣ゴールラインから自陣 22 m ラ インまでのゾーン,自陣 22 m ラインから自 陣 10 m ラインまでのゾーン,自陣 10 m ライ ンからハーフウェイラインまでの各ゾーンで の 1 次攻撃におけるキックの使用率を示した ものである。これによると,自陣ゴールライ 表4. ンから自陣 22 m ラインまでのゾーンでのキ ック使用率は,世界レベルにおいては減少し, 日本レベルにおいては増加していることがわ かる。自陣 22 m ラインから自陣 10 m ライン, 自陣 10 m からハーフウェイラインまでのエ リアでは,両レベルともキックの使用率は増 加していた。 これらのことから,両レベルにおいて,地 域獲得のために自陣 22 m ラインの外のゾー ンからはキックが多用されるようになったこ と,また少ない次数においてキックが使用さ れる傾向が強まったことが示唆された。しか し世界レベルにおいては,自陣 22 m 以内に おける 1 次攻撃でのキック使用率と,2 次以 降も含めた全攻撃におけるキック使用率が減 少していたことから,キックを使用せずに攻 撃し,防御を破ろうとする攻撃継続志向が強 まったとも推察された。 表 6 はロングキック及びタッチキックを使 用したときとキックを使用しなかった時,そ れぞれの平均前進ゾーン数を示したものであ る。これによると,世界レベルにおいてロン グキックを使用した時の前進ゾーン数が増加 し,攻撃を継続した場合の前進ゾーン数は減 少したという結果が得られ,統計的に有意な 差が認められた。. キック使用率と使用攻撃次数比率. 表 5 各ゾーンでの 1 次攻撃におけるキック使用率. −8−.
(9) 表6. キック別の平均前進ゾーン数. これらのことから,世界レベルのキックを 減らした攻撃が地域獲得に有効に作用したと は言い切れず,キック,特にロングキックを 有効活用し,地域獲得を行う技術と戦術も重 要になるであろうと考えられた。 4.モールの防御について 図 10 はモールの防御を 4 つに分類し,そ の比率を示したものである。これによると, 両レベルともに 2007 年度に比べ 2008 年度で は押し返して防御する比率が減少し,2 人以 上による引き倒しを使用する比率が増加した 結果となり,統計的に有意な差が認められた。 (2007 年度においては 2 人以上による引き倒 しは認められていなかったが,結果的に 2 人 以上での引き倒しとなり,反則を取られてい ないケースも発生していた。その傾向は世界 レベルの方が顕著であった。本研究では 2007 年度のこのようなプレーは 2 人以上の引き倒 しとして集計を行った。 ) 表 7 は 1 人と 2 人以上によって引き倒した モール防御における GL 前方でのポイント発. 図 10. 生率を示したものである。これによると,世 界レベルでは GL 前方での発生率が減少して おり,2 人以上による引き倒しを有効に活用 していたと考えられるが,2008 年度の日本レ ベルにおいては 74 %と世界レベルに比べ高 く,ELV に適応しきれていない状況がうかが える。また日本レベルにおける 1 人でタック ルした場合の GL 前方での発生率が若干増加 していた。この要因として,1 人では倒しき れず,倒したとしても時間がかかったことな どが考えられ,この防御がうまく機能しなか った場合に GL を突破される危険性が高まる のではないかと推察された。 表 8 はモール防御別の直接ターンオーバー と間接ターンオーバーを合わせた,ターンオ ーバー率を示したものである。これによると, 両レベルともに 1 人でタックルした場合のタ ーンオーバー率が減少し,2 人で引き倒した 場合のターンオーバー率が増加していた。 これらのことから,2 人以上での引き倒し がモールの有効な防御方法であると推察され た。. モール防御プレー別比率. −9−.
(10) 表7. モール防御別 GL 前方ポイント発生率. 表8. モール防御別 TO 率. 5.ラインアウトからの防御戦術について 図 11 はラインアウトの防御人数別の比率を 示したものである。これによると,防御人数 が同数であった比率が,両レベルとも 2007 年 度に比べ 2008 年度では有意に減少したという 結果が得られた。つまり,ラインアウト構成 人数の制限がなくなったことにより,防御側 チームが攻撃側チームよりも多くラインアウ トに並んだり,逆に少ない人数しか並ばなか ったりする状況が増加したことを意味する。 図 12 は防御側チームがラインアウトに並. 図 11. ぶ人数が攻撃側チームに比べ多い時の GL 前 方でのポイント発生率と,少なく並んだ時の GL 後方でのポイント発生率を示したもので ある。2007 年度は防御側チームの人数が攻撃 側チームより多くなることはルール上認めら れておらず,分析する中でそのような状況も 見当たらなかったため,両年度を比較するこ とはできないが,世界レベルに焦点を当てる と,防御側チームが多く並び,攻撃された場 合に 63 %という半分以上の確率で GL 前方に おいてポイントが発生しているのに対し,少. ラインアウト防御人数別比率. − 10 −.
(11) 図 12. ラインアウト防御人数別ポイント発生位置状況. なく並んだ場合の GL 後方でのポイント発生 率が 80 %と,非常に高い確率であることか ら,攻撃側チームより少なく並び,ラインア ウトではボールを獲得できなくても,数的優 位な状況において GL 後方で止めようという 防御戦術の有効性が示唆された。 $.結論 本研究によって得られた結果を総合し, ELV 導入の影響によって変化したゲーム様 相,また ELV 下おける効果的な戦術を以下の ように結論付けるものである。 1.少ない次数でのキックが多用されるよう になってきており,効果的なキック攻撃戦 術の考案とキックスキルの向上が重要にな ると推察された。 2.スクラムからの 1 次攻撃においては,チ ャンネル 1 への攻撃が有効であると考えら れる。防御においては 1 次で発生したポイ ントに人数をかけず,2 次以降で数的優位 な状況を作り出そうとする傾向が強まった ことが示唆された。 3.モールの防御においては 2 人以上での引 き倒しを用いることが有効であると考えら れ,攻撃側チームはモール以外の攻撃法を 向上させる必要があると思われる。 4.ラインアウトの防御においては攻撃側よ り少ない人数で並び,ボール獲得は狙わず, 展開してきたところを数的優位な状況で防. 御することが有効であると考えられる。 なお今後の課題として,分析対象を増やす ことが挙げられる。本研究では速報性を優先 したため,2008 年度の試合は十分な数を分析 できなかった。シーズン終了後に分析対象を 増やし,各地域での攻撃と防御のプレー選択 とその有効性について,また勝チームと負チ ームに分類しての分析など,さまざまな角度 からの分析や考察を行い,ELV に適した戦術 の考案やスキルの開発を進めていくべきであ ると考えられる。 付 記 本研究は 2008 年 11 月に行われた千葉県体 育学会にて発表した「ラグビーのルール改正 による影響について」に一部データを加え, 加筆・修正を加えたものである。 引用文献 1)Mcintosh, I.(2008),ラグビーマガジン, 37(11): 104-107 2)日本ラグビーフットボール協会(2008), IRB 理事会決定,試験的実施ルール (ELV)実施について,http://www.rugbyjapan.jp/news/2008/id4391.html. − 11 −. 2008 年 12 月 24 日 受付 2009 年 5 月 22 日 受諾.
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