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音楽学習における動機づけと持続性に関する一研究 ―自己調整学習の成果を踏まえて―

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音楽学習における動機づけと持続性に関する一研究

自己調整学習の研究成果を踏まえて

吉 田 秀 文

音楽教育講座 (2010年 9 月 24日受理)

A Study of motivation and durability in music learning

the basis of a research in Self-Regulated Learning

Hidefumi YOSHIDA

Department of Music Education (Accepted on September 24th, 2010)

1.はじめに

豊かな音楽学習が展開されるための諸条件の一つ として、子どもたちの動機づけ、すなわち意欲に関 する事項があげられる。例えば、保育者がおもしろ そうに手遊びしながら歌っている様子を見て真似る 幼児の姿は、自 もやってみたい、先生や友達と一 緒に楽しみたい、という純粋で原初的な感情が大き く働いていて、成立のための前提条件になっている と えられる。本来、芸術活動はこれを行う本人の 意思抜きに語られるものではなく、また他者から少 なからず強制されて行われるものでもない。また、 学 教育における歌唱学習では、児童や生徒の歌い たい気持ちを大切に育みながら進めることが常とさ れている一方で、反面いかに音楽学習に対する苦手 意識を軽減し、音楽嫌いを払拭するかも大きな課題 となっている。このことについては新しい学習指導 要領の中で、音楽学習における興味・関心・意欲を 高めるために、課題解決型の学習などをはじめとし た適切な指導法のみならず、教材の精選、学習形態、 評価方法など、教師の指導計画上の工夫が明示され ていることからも伺える 。多くの中学 では秋の 大きな学 行事として合唱コンクールが行われてい るようであるが、これに臨んでいる生徒を個々に実 際に観察してみると、何となくその場に参加してい るだけで積極的に歌唱表現できない者がわずかなが らも存在することも否定できない。このように、音 楽科教育における意欲、換言すれば動機づけに係わ る諸問題はいつの時代でも検討すべきテーマとして 位置づけられ、その解決へのプロセスが現在でも問 われているところである。 ところで、音楽教育研究においても子どもたちの 意欲ある音楽学習に向けて様々な研究がこれまで行 われてきた。音楽学習における動機づけ研究として は、音楽教師の行動 析に関する研究(吉富ら、1999) があげられる。一方で筆者は、教師のリーダーシッ プと生徒の原因帰属に関する実験的研究において、 心理学の研究手法に基づき検証を行った(吉田、 2000)。これらは音楽学習の量的側面に着目した研究 と言えるが、そこで行われた実験期間は必ずしも中 長期的なものとは言えず、学期や学年、または学習 段階の進展による学習意欲の変容まで捉えられてい るとは言い難い。生涯学習社会における準備段階と しての基礎・基本の確実な定着が注目される中、継 続した学習を可能にしていくために学 教育段階で どのような学習がなされるべきか、音楽科教育で身

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につけるべき音楽的能力とはなにか、について実践 的立場からも踏まえて 察することが喫緊の課題と なっている。とりわけ学習意欲を学 卒業後も継続 して育成すること、すなわち生涯学習における動機 づけの時間的経緯に関する事項は、今日検討すべき 重要な課題と言える。 こうしたなかで最近の教育心理学における自己調 整学習に関する研究は、動機づけ研究の様々な見識 が随所に捉えられていて興味深い。研究方法におい ても、知識・技能に重きを置いた認知的側面だけで なく、学習者の情意面に着目して実験が行われてお り、こうした見地は感情との関わりが比較的大きい 音楽科教育の諸課題を 察する上で理論的基礎にな り得ると推察される。またそこでは学習の持続性に ついても取り上げて 察が行われており、生涯学習 としての音楽学習を志向する際にも有効と言える。 以上より本稿では、音楽学習における学習者の意 欲向上とその持続性について 察することにした い。まず、自己調整学習研究においては伊藤の研究 成果(伊藤、2009)を中心に検討し、その音楽学習 への適用可能性について 察する。伊藤はこれまで 行った様々な自己調整学習に関する研究成果を 括 してまとめ、発表している。そこでは自己調整学習 の認知的、情意的側面を測定する尺度の開発から学 習意欲の発達、学習の持続性、児童生徒の学習意欲 向上に向けての支援方法などが取り上げられてお り、音楽学習への貢献が大いに期待される。次に、 そこでの 察によって導き出された自己調整学習の 研究成果に依拠した音楽学習の理論的指針に基づ き、意欲を培う音楽学習に向けて実際的側面から内 容や課題等を検討する。加えてここでは同時に生涯 学習としての音楽学習をより推進させていくために 必要な事項やこれを阻んでいる諸側面についても 察する。本研究によって、音楽学習の継続化がより 現実的なものになるとともに、苦手意識を感じてい る者が一人でも多くそこから脱却できることを期待 し、その解決に貢献できれば幸いである。

2.自己調整学習の研究成果と音楽学習への

適用可能性

伊藤は、その著「自己調整学習の成立過程」(伊藤、 2009)において、Zimmerman の「自己調整」概念、 「学習者が、メタ認知、動機づけ、行動において、 自 自身の学習過程に能動的に関与していること」 に依拠し、学習方略と動機づけが相補的で不可欠な 役割を担っていることに着目した。また、Pintrichの 期待−価値モデルから、自己調整学習における主要 な動機づけ要因として、自己効力感、内発的価値、 テスト不安を取り上げ、これら 3変数を基に検証し ている。音楽学習においても、個々のイメージや表 現したい気持ちがあってもこれを実現させるための 方法が理解できなければ、満足できる学習成果には 至らないだろうし、また、表現活動を実際に行う際、 無意識的に生じる不安感情も常にまとわりつく厄介 なものである。さらに、この不安感情は音楽学習に おける苦手意識と関わる側面も えられるところか ら、これらの項目設定は音楽学習にとっても有効に 作用すると えられる。 伊藤はこれらの項目を基に様々な実験を試みて以 下のような結果を導いた。図 1はその研究成果を示 したものである。 図1 伊藤によって明らかにされた結果

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①認知的側面に重点をおいた自己調整学習方略の下 位尺度として、「一般的認知(理解・想起)方略」 「復習・まとめ方略」「リハーサル方略」「注意集 中方略」「関係づけ方略」が導かれ、自己効力感、 内発的価値との間に関連がみられたこと ②自己動機づけ方略尺度の下位尺度として、「整理方 略」「想像方略」「ながら方略」「負担軽減方略」「め りはり方略」「内容方略」「社会的方略」「報酬方略」 が導かれ、そのうち「整理方略」「想像方略」「め りはり方略」「内容方略」「社会的方略」は内発的 動機づけと、「負担軽減方略」「報酬方略」は外発 的動機づけと関わりがあること、また「ながら方 略」はいずれとも関連が見られなかったこと ③自己効力感および学習時の不安感と用いた動機づ けとの関連について、自己効力感が高い者ほど認 知的側面の自己調整学習方略、内発的調整方略を よく用い、外発的調整方略はあまり用いていない こと、学習時における不安感の高い者は認知的側 面の自己調整学習方略、内発的および外発的調整 方略すべてを用いていたこと ④内発的調整方略をよく用いた者ほど学習の持続性 が認められたこと、認知的側面の自己調整学習方 略の 用との間では学習の持続性に影響はみられ なかったこと ⑤小学 4年生で一定程度の自己調整学習方略が獲 得されていること、メタ認知的知識のある者ほど 自己調整学習方略に関する知識が高く、 用程度 も高く、学業成績も高かったこと ⑥学 段階が進むに従って自己調整的な学習方略を 自ら獲得し且つ 用していること、その獲得にお いては様々なリソース(教師、親、友人、塾の先 生、など)を通して培われていたこと、とりわけ 学 の教師は一貫して重要なリソースとなってい ること ⑦自己調整学習方略の獲得に向けては動機づけ的側 面に働きかけていくことが重要であること、学習 方略が自律性を帯び始める児童期後期頃からの働 きかけが大切であること ⑧学習の振り返りワークシートの 用、特に情意側 面の自己評価を行うことで動機づけ的側面の自己 調整学習方略の獲得が促され、動機づけを育成す る学習支援として有効であること 音楽学習への適用可能性を えるに先立ち、留意 しなければならないことは、これらの調査や実験が 主に主要教科(国語、算数)で行われたという点で ある。学習内容や学習方法において少なからず相違 点も えられるが、情意側面が学習の土台となって いる点では重複する部 もあると言える。①につい て、音楽学習における「認知的側面」に含まれる内 容としては、音楽に関する様々な知識や技能の理解 や獲得に関すること、それはおよその意味で学習指 導要領における「音楽活動の基礎的な能力」を指す と言える。具体的には、楽譜を読むことや楽典の内 容、音楽 や諸民族の音楽についての理解、また音 楽を形づくっている諸要素について知覚し、曲想と の関係について認識することも重要な学習内容とな ろう。さらに、音楽技能についての習得なども含ま れよう。②については、すべての音楽活動の前提と なる事項であり、学習指導要領における「音楽を愛 好する心情」に呼応するものと言える。学 教育の 教科の中でも特に感情的側面と直接的に触れ合うこ との多い音楽科においては、これら興味・関心・意 欲に寄るところが大きく、生涯にわたって大切に育 むことが求められている。なお、音楽学習において は①の認知的側面と②の動機づけ的側面の自己調整 学習をそれぞれ十 機能させるとともに、状況に応 じて両者がバランスよく配置されることが望ましい と える。③については、学習に対して個々が所有 するイメージに基づき、学習方略を適宜 慮して臨 むことが求められよう。④については、音楽学習に おいても内発的調整方略を用いることで学習の持続 性が高まることが推測される。⑤⑥⑦からは、自己 調整学習方略の 用は小学 高学年頃より少しずつ 働きかけるように計画することが示唆される。その 際、⑧のとおり動機づけ的側面からの学習の振り返 り、及び自己評価していくことは有効と えられる。 音楽科における技能習得学習では、継続的に繰り返 し、集中して練習することが大切であるが、結果だ けでなく情意面からのアプローチが大切と える。

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最後に⑥から、個々の自己調整学習方略は様々なリ ソースや方法で培われていることが示されている。 音楽学習においても個々のスタイルややり方を尊重 して臨むことが大切である。 以上の 察から、自己調整学習の研究成果に依拠 した音楽学習の理論的指針としてまとめると、以下 の 4点が えられる。 ①音楽学習における自己調整学習方略の 用にあ たっては、認知的側面と動機づけ的側面をそれぞ れ十 に機能させるとともに、両者がバランスよ く配置されるよう計画されるべきである。 ②音楽学習においては内発的調整方略を基に内発的 動機づけの育成を図り、学習の持続性に向けて留 意することが大切である。 ③自己調整学習方略の獲得が可能となる小学 高学 年頃より、音楽学習の学習方略など個々の状況に 応じた自律的サポート体制を踏まえ、その定着に 向けたアプローチを指向すること。 ④個々の音楽学習を振り返る際には情意面に重きを 置いた自己評価を通して学習の動機づけを持続し て育成するように配慮すること。 以上の事項を踏まえ、次に音楽学習の現状と課題 を吟味しながら、今後の音楽教育における方向性や 課題解決に向けての方策等について検討することに したい。

3.意欲を培う音楽学習の実際∼現状と課題

2010年 9 月 4日の朝日新聞において、男性が退職 後に楽しみたい習い事として楽器演奏が第 3位に選 ばれた 。このことについての詳細な解説は特にさ れていなかったが、「一人で知識や技術を磨くだけで なく、同じ趣味を持つ人との 流を求めている人が 多いのかもしれない」(朝日新聞、2010)との記事か ら、楽しみを共有することが学習の前提条件になっ ていることが推測される。 さて、このように学 卒業後に選択肢として音楽 学習が取り上げられるためには、どのような条件や 理由があるのだろうか。また、生涯学習の基礎を学 ぶ学 教育段階における学習内容や課題にはどのよ うなものがあげられるだろうか。ここでは前節で提 示した 4つの理論的指針に基づき 察してみたい。 まず、学 卒業後に音楽学習が展開されるために 必要な事項として えられることは、「自 でもやっ てみたい」「自 にもできそうだ」と思うこと、これ は自己調整学習における自己効力感や内発的調整方 略に関係すると言える。「自 でもやってみたい」と 思うことは、学習に対する憧憬、興味や関心に相当 するものであり、「もう一度やってみたい」「やり直 してみたい」のような学習の再開なども含まれよう。 こうした感情の萌芽を期待するためには、対象とな る学習内容がその人にとって魅力的なものであるこ とが必要である。そのためには、こうした学習活動 が発表される機会や学習内容を享受できる場の設定 を通して、広く情報を 流することが大切である。 また、学習内容が十 に魅力的でも「自 にもでき そうだ」と感じないと学習への移行は難しいだろう。 そのためには、学習に対する一定の自信に相当する レディネスが必要と言える。さらに、これらの動機 づけや学習レディネスは、生涯にわたって継続して 持ち続けることが大切と える。そのためにも学 教育段階から学習内容に対する意欲が内発的なもの であることが不可欠であり、それが学習の持続性に 大いに影響を与えると言えよう。冒頭で触れたが、 合唱コンクールのような行事においては競争的な側 面ではなく、仲間とつくるハーモニーの美しさや新 しい作品との出会いを知る喜びなど、知的好奇心に 訴えていくことが大切である。受賞の如何はどちら の場合においても学習の継続化を促すことにはなり にくく、学習の持続性の観点からもこのことへの固 執は相応しいとは言えないだろう。音楽科教育にお いても子どもたちが充実した楽しさや満足感を味わ い、内発的調整方略によって持続した学習が実現す るような指導法の工夫が不可欠となろう。 次に、「自 にもできそうだ」とする自信、一定の 学習レディネスを保持し続けることは、学習への移 行を円滑にすると える。特に音楽学習の認知的側 面における学習レディネスをどのように育成し、保

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持していくかが重要な課題と言える。これまでも楽 譜の読み書きに関する能力、楽器を演奏したり歌唱 する際に必要な技能について、様々な場面で議論が なされてきた。今日では世界のあらゆる音楽ジャン ルが学習の対象とされているところから、学習の奥 深い追究の観点からすべてを 等に取り扱うことは 時間的、物理的な都合上、容易でない側面も否定で きないが、子どもたちの興味や関心を呼ぶ学習内容 において質的にも充実した幅広い実践の展開が望ま れる。音楽科教育ではよく「味わう」の語がよく用 いられるが、「味わう」とは、2番目の項目の「物事 のおもしろみや含意を えて、感じとる。玩味する。 『詩を味わって読む』」の意味のほかに、3番目の項 目として、「身にしみて経験する。体験する。『人生 の悲哀を味わう』」の意味が示されている(大辞泉)。 少々飛躍した観点かもしれないが、3番目の項目は 思 活動にとどまらず実際に身体を動かして体験す ることと捉えられる。音楽学習においても身体全体 で感じ、表現する実践活動を通して、認識や理解は 深まると えられることから、必要に応じて音楽学 習の認知的側面を教授・学習することが不可欠と言 える。 その一方で、これらの事項を実現していくために は、小学 高学年頃から内発的調整方略の獲得に向 けて適宜取り組むことが求められよう。生涯学習を 実現していくためのキーワードとして自己教育力の 育成が挙げられ、学 教育段階においては「学び方 を学ぶこと」がその重要課題として位置づけられて いるが、この「学び方を学ぶこと」とは、子どもた ち一人一人が自 なりの方法で自己調整学習方略の 用を可能にしていくことを意味すると える。と りわけ、内発的調整方略に働きかけていくことは、 学習の持続性と連関する側面が大きいことから大切 に取り扱うべき事項と言える。そのために、授業を 振り返る学習ワークシートの活用を通して各自が自 己評価を行い、学習に対する内発的価値や自己効力 感を高めていくことが大切である。ここでは授業の 学習成果だけでなく、学習に対する動機づけに関す る事項についても省察するように心がけるべきであ る。反対に学習に対する意欲が減退してしまったり、 集中力が途切れてしまう場合は、その原因や理由を 振り返り、改善に向けての方策を検討することが必 要であり、このような消極的な学習を回避していく ことが、苦手意識の克服を図っていくことになると 言える。また、音楽教師はどの学習段階にいる子ど もにおいても一貫して重要なリソースであるという 自覚を認識し、子どもたち個々のやり方を尊重して 興味・関心・意欲を中・長期にわたって育成してい くように努めなければならない。 最後に、伊藤が各実験研究で 用した調査項目を 音楽学習用にアレンジして提示する。回答形式は 「まったくあてはまらない」(1点)から「とてもよ くあてはまる」(6点)の 6件法で評定する。 ●自己効力感 「私は、これから先、音楽が得意であると思う」 「クラスの他のみんなと比べれば、私は、音楽が得 意な方だと思う」 「私は、音楽で与えられる問題と課題をしっかりと できると思う」 「私は、音楽で、いい成績をとれるだろうと思う」 「自 の勉強技術は、クラスの他のみんなと比べれ ば、すぐれている方だ」 「私は、クラスの他のみんなと比べれば、音楽につ いて、多くのことを知っている方だと思う」 ●内発的価値 「音楽で学ぶことは、私にとって大切である」 「私は、音楽で学んでいることが、好きである」 「私は、音楽で学ぶことは、他の教科でも役に立つ だろうと思う」 「私は、音楽で学んでいることは、おもしろいと思 う」 「音楽を理解することは、私にとって大切である」 ●持続性の欠如 「勉強をしていると、すぐにあきてしまう」 「むずかしい課題をやっていると、すぐにつかれて、 やめることが多い」 「課題をしているとき、ほかにおもしろいことがあ

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ると、課題をやめてしまう」 「あきっぽいほうだと思う」 「勉強の時間がきても、すきなテレビ番組をみてい ると、なかなか勉強が始められない」 ●動機づけの自己認識 「自 が、どのようなときに、やる気がなくなるか、 よくわかる」 「自 が、どのようなときに、やる気が出るか、よ くわかる」 「やる気のないときの感じがわかる」 「やる気のあるときの感じがわかる」 「やる気のないとき、それがどうしてなのか、よく わかる」 「やる気のあるとき、それがどうしてなのか、よく わかる」

4.まとめ

本稿は、音楽学習における動機づけと持続性につ いて、自己調整学習の研究成果を基に今後の展望に ついて 察を行った。自己調整学習研究では、主に 伊藤の研究に依拠し、音楽学習との適用可能性を吟 味しながらその援用を試みた。その結果、音楽学習 の理論的指針として、以下の 4点が導かれた。 ①音楽学習における自己調整学習方略の 用にあ たっては、認知的側面と動機づけ的側面をそれぞ れ十 に機能させるとともに、両者がバランスよ く配置されるよう計画されるべきである。 ②音楽学習においては内発的調整方略を基に内発的 動機づけの育成を図り、学習の持続性に向けて留 意することが大切である。 ③自己調整学習方略の獲得が可能となる小学 高学 年頃より、音楽学習の学習方略など個々の状況に 応じた自律的サポート体制を踏まえ、その定着に 向けたアプローチを指向すること。 ④個々の音楽学習を振り返る際には情意面に重きを 置いた自己評価を通して学習の動機づけを持続し て育成するように配慮すること。 また、本稿で提示した理論的指針も決してこれで 十 であるとは到底言い難く、さらなる理論的な裏 付けが必要であることは当然と言える。しかし、子 どもたちの意欲ある音楽授業を展開するための方向 性は些少ながら示せたのではないかと思う。 今後の課題としては、音楽学習の動機づけと持続 性に関する理論的側面の 察を継続して推進すると ともに、伊藤が行った実験研究を音楽学習の場に移 して実施し、調査結果の綿密な 析を行って検証す ることである。音楽教育研究における質的研究は研 究手法もだいぶ整えられ、水準も上昇してきている ように感じられる。量的研究との り合わせによっ て、理論的側面がさらに充実することを期待したい。 また、併せて教育現場からの状況も踏まえ、実践的 側面からも 察を深めて参りたい。 注 1) 平成 20年 8月小学 学習指導要領解説音楽編によれば、 「表現の仕方を工夫し、音楽のよさや面白さ、美しさを感 じ取りやすい魅力のある教材を取り上げ、児童が音楽のよ さや面白さ、美しさを積極的に感じ取れるように学習活動 を展開し、音楽活動への意欲を高めていくようにすること が大切である」(35頁)とあるところから、教師の指導上の 工夫が求められている。 2)各項目の内容は以下の通りである。 「一般的認知(理解・想起)方略」:たとえわからなくて も先生の言っていることをいつも理解しようとする、私は テストのための勉強をするとき、できるだけ多くのことを 思い出そうとしている、私は勉強をするとき大事な難しい 言葉を自 の言葉におきかえる。 「復習・まとめ方略」:テストのための勉強をするとき、 何度も何度も大切なことがらを思い浮かべて復習する、私 は理解できるようにそれぞれ習ったことの要点をまとめ る。 「リハーサル方略」:勉強内容を読むとき、おぼえられる ように繰り返し心の中で える。 「注意集中方略」:教科書を読むとき、その中でもっとも 大切なことは何であるかを読みとることは私には難しい、 先生がしゃべっているとき、他のことを えて実際に言っ ていることを聞いていないことがある。 「関係づけ方略」:新しい課題をするのに以前に学んだこ とを生かす。 3) 各項目の内容は以下の通りである。 「整理方略」:色のついたペンを ってノートをとったり

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教科書に書きこみをする、ノートをきれいにわかりやすく とる。 「想像方略」:将来に自 自身のためになると える、前 にテストでうまくいったことを思い出す。 「ながら方略」:ラジオを聴きながら勉強する、勉強の合 間に趣味や楽しいこと(音楽、読書、スポーツ、テレビ、 ゲームなど)をする。 「負担軽減方略」:得意なところや好きなところを多く勉 強する、あきたら別の教科を勉強する、やる気がでるまで 待って気 が乗ったときに勉強する。 「めりはり方略」:勉強するときは思いっきり勉強して、 遊ぶときは思いっきり遊ぶ、短時間に集中して勉強する。 「内容方略」:自 のよく知っていることや興味のあるこ とと関係づけて勉強する、身近なことに関係づけて勉強す る。 「社会的方略」:友だちと教え合ったり、問題を出し合っ たりする、勉強のなやみを人に相談する。 「報酬方略」:勉強が終わったり問題ができたら、お菓子 を食べる、勉強やテストがよくできたら親からごほうびを もらう。 4) 2010年 9 月 4日朝日新聞 b2面。第 3位に順位づけられ た楽器の習い事では、サクソフォン、ドラム、アコース ティックギターの順に人気があるとされている。カラオケ、 歌唱は 20位。 引用文献 朝日新聞 b2面 2010年 9 月 4日 文部科学省 平成 20年 8月小学 学習指導要領解説音楽編 ウェブ版国語辞書「大辞泉」 「味わう」の項 小学館 伊藤崇達 「自己調整学習の成立過程 学習方略と動機づけ の役割」北大路書房 2009 年 吉田秀文 「中学 音楽科における教師のリーダーシップ行 動と生徒の原因帰属に関する実験的研究」音楽教育研究 ジャーナル第 14号、東京芸術大学音楽教育研究室編 46 ∼60頁 吉富功修、石井信生、他 「音楽教師のための行動 析 教 師が変われば子どもが変わる」北大路書房 1999 年

参照

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